夏だ! Wkumoみんみん祭・会場
硝子が割れた。
勝手に割れるなんて怖いと普段の俺なら思うところだが、今は虚無が来ているから仕方ない。
最近虚無が波のように押し寄せて来ていて、その余波で硝子が割れたり地面にひびがいったりして迷惑を被っている。困ったものだ。
まあ虚無が来ようが何が来ようが俺は部屋から出ませんけどね。外怖いし。地割れに落ちかねない。なんか自分の部屋って城塞的なそんな感じしない? 気のせい? いや俺はそう思うからそれでいいんだけど。
割れた硝子を片付けていると、
「やあ」
声がした。
面倒臭いので硝子を片付けながら返事をする。
「はい」
「君、暇?」
「暇じゃないです、今硝子を片付けているところ」
「硝子割れたの? なんで?」
「虚無のせいですよ。虚無は何でも割っちゃうんだから」
「それはごめん」
「は?」
俺は思わず顔を上げる。
割れた窓の外に、人が、いた。
「え?」
ここ二階だぞ。
「どうも」
人がぺこりと頭を下げる。いや礼儀正しくされても俺、困惑するだけなんだけど。
「ここ二階」
「そうだね」
「なんで?」
「僕が虚無だからかな」
「虚無? あなたが?」
「そう、虚無」
「虚無って生きてたのか」
「生きてるさ、虚無だもの」
「謎のコメントをどうも」
「虚無くんは暇でねぇ。どこに行っても怯えられちゃうし遊べない」
「それはあなたが窓を割ったり地面を割ったりするからでしょう」
「いや割れちゃうんだよぉ仕方なくない? 力ある者はつらいわー力ある者は」
「うざいですね……」
「ひどいなぁ。僕は虚無だよ?」
「虚無だから俺が対応を甘くすると思ったら大間違いですよ」
「えー」
「えーじゃない」
「上がっていい?」
「人の家に上がるときはちゃんと玄関から上がりましょう」
「それ上がっていいってことだよね、やったー!」
間があって、玄関の開く音、階段を上がる音がして、虚無が部屋にやってくる。
「いい部屋だねぇ、涼しい」
「そりゃあエアコンつけてますからね」
「今どきの人間は贅沢だねえ」
「虚無くんは長生きなんですか?」
「そこまででもないかな」
「曖昧ですねぇ」
「虚無だからね」
「理由になってないなぁ」
「ねーなんかして遊ぼうよ」
「俺は部屋から出るつもりはないですよ」
「じゃあ部屋でできることしようよぉ」
「部屋でできることって……」
虚無がゲームを見る。
「え、これですか?」
「ゲームしたいゲーム」
「一人用のやつしか持ってないんですけど」
「僕、見てるから、やってよ」
「えー……」
「お願ーい」
「しょうがないなあ」
俺はゲーム機のスイッチを入れて、起動するの何年ぶりだろう。もう何世代も前の型になってしまったゲーム機、コンセントに繋ぎっぱなしのゲーム機が無事動いたことに俺は驚いていた。
起動音、馴染みのあるロゴ、タイトル画面。
「おーすごいねぇ」
「いやまだ起動しただけですけど?」
「人間の技術はすごいねぇ」
「今のやつはもっとすごいですよ。これ古い機種なんで」
「それでもすごいよぉ」
「はあ……」
起動して、セーブデータは……消えてた。まあそうだよな、何年も放置したらそうなるわな。
「最初から始めます」
「最初から? 物事は何でも最初からじゃないの?」
「ゲームって自分が進めたところまで保存しておけるんですよ」
「へぇ……」
「保存して閉じたら、次に遊ぶときは中断したところから再開できるんです」
「すごいね!」
虚無は光のない目を輝かせる。
いや光のない目を輝かせるってどんなだよと思うが、そう見えたんだから仕方がない。
「まあそういうわけでやっていきます」
RPG、そう呼ばれる部類のゲームだった。最初の村から勇者が旅立って王城に行き、使命をもらって旅をする……的な、テンプレ。
無言で進める俺に虚無は、おお、とか、すごいね、とかいちいち感想をくれて、それがなんだかこそばゆくて、ついつい長時間プレイしてしまって、
「あ」
「どうしたの?」
「朝じゃん」
「ほんとだねー、夜が明けたねー」
「っていうかいつの間に夜が過ぎてたんだ……日が落ちるとこ見てないぞ」
「集中すると時を忘れるってほんとだねー」
「え、ああ、うん……虚無くんは時間いいんですか?」
「虚無くんはオールウェイズ暇、時間は腐るほどあるのです! まあ周囲も腐らせちゃうけどね」
「冗談になってないんですが」
「そお?」
「っていうかそれだと俺も腐っちゃうでしょ! やめてくださいよ」
「それは大丈夫」
「何で?」
「ある程度は制御できるから」
「制御できるんなら普段からしてくださいよぉ、今虚無災害ってめっちゃニュースになってるじゃないですか」
「なってるねー」
「手加減してくれないと、世界滅んじゃいますよ」
「でも他の虚無がねー」
「他にも虚無がいるんですか」
「他の虚無は僕みたいにフレンドリーじゃないからねー、自我もなかったりするし」
「虚無イズ謎生態……」
「謎だよ虚無は。僕もよくわかってないし。っていうか人間たちの方がよくわかってるんじゃない?」
「マジで?」
「うんうん」
「ニュースとかには出てきてないですけどね……」
まあ俺も最近ニュース毎日は見てないけど……
「人間のやることはわからないねー。まあ虚無のやることもわからないけど……まあだから、人間も虚無も同じようなものなんだよ」
「いやそれはないでしょ」
「同じだよぉ」
「違いますって」
「そうかなぁ」
「……」
「じゃ、僕帰るから」
「えっどこに」
「次元の挟間」
「すごいとこに帰りますね……」
「虚無の故郷はそこだからね。じゃあ、また」
空間に黒々とした穴が空いたと思ったら次の瞬間、虚無は消えていた。
「……また、って」
あいつ、また来る気なのか?
◆
「ぴんぽーんぴんぽーん」
「部屋に入ってきてるのに口でインターホン鳴らすのやめてくれます?」
「えー」
「えーじゃない、玄関から入ってって言ったのに」
「玄関からは入ったよ?」
「ちゃんとインターホン押してください」
「押したよ?」
「え」
「ちょっと言いにくいんだけどさぁ……」
あっなんか予想つく気がする。
「僕が触ったらインターホン壊れちゃった」
「やっぱりねー! 困りますよー!」
「ちゃんと直しとくから!」
「えっ直せるの?」
「いやちょっとエントロピーのあれを逆にしてごにょごにょ」
「人んちの備品にイミフな力を行使しようとしている……」
「まあこういうのは誠意が大事なんだよ、誠意が」
「自分で言わないでくださーい。まあいいや、ゲームの続きしましょうか」
「わーいわーい」
そして俺はゲームをして、虚無はそれを見ていて、
「あ、朝」
「また!?」
「朝日が眩しいねぇ」
「虚無に眩しいとかあるんですか?」
「あるのかな?」
「なんで疑問形なんですか」
「僕もよくわかってないからさ」
「はあ」
なんかこの虚無研究機関に突き出したらいいデータとれそうだな……しないけど。
「不穏なこと考えたでしょ」
「そりゃ考えもしますよ、災害の原因と平気で遊べる人間なんていないでしょ」
「へえ~。本当に?」
「本当ですよ、俺こう見えてビビってますから」
「ふーん?」
「人類の味方ですから」
「なんか君……面倒臭いねぇ」
「面倒臭くないと引きこもりなんてやってませんよ」
「あは」
虚無はおかしそうに笑うと、
「じゃあ僕、帰るね」
と言った。
空間に穴が空く。またね、と一言。消える虚無。
また来る気なのか……。
◆
「ぴんぽーんぴんぽーん!」
玄関から大声が聞こえる。
「はいはい……」
扉を開けると、案の定虚無が満面の笑みで立っていて。
「来たよー」
「どうもね」
「ゲームしよゲーム!」
「はいはい」
一緒に二階に上がって、テレビの前に座って、電源を点けて。
「ねーこの主人公ってどこまで旅するのー?」
「俺も途中までしかやったことないので、知らないんですよね。物語の目的は魔王の城だし、魔王倒して終わりなんじゃないですか?」
「ふーん」
相槌を打つ虚無はどこかつまらなそうな顔をしていた。
「魔王倒したって世界が平和になるわけじゃないのにねえ」
「まあありますけどね、人間同士の争いになる話とか」
画面の中の勇者はひたすら雑魚を狩ってレベルを上げている。
「利権だか何だかで祭り上げられたり逆に追放されたり色々な話がありますけどそんなのよく考えるなーって思いますよね。テンプレでは魔王を倒したら物語は終わりなんですよ。その先のことなんて考えたって仕方ないのに」
「……」
「だからこのゲームもたぶん、魔王倒したら終わりなんじゃないですか? 昔のゲームですし、その先はないですよ」
「……君はさぁ」
「……」
「本当にこのままでいいと思ってる?」
「……」
「虚無くんはさぁ」
虚無は己の髪をす、とかき上げる。
「虚無くんはこの世界が好きだから、なくなってほしくないわけ。人間も好きだし、ゲームも好き。……いくら仲間でもさぁ、やっていいことと悪いことがあるでしょ。でも他の虚無たちさ、全く話を訊いてくれないんだよねー! まあそれはそう、あいつら自我ないからさぁ」
「……何が言いたいんです」
「わかってるでしょ? 『勇者』」
「……今さらのこのこやってきて何のつもりだ、『魔王』」
「魔王を倒したら世界は虚無に呑まれて終わり、そう決めたのは誰かって、『世界』なんだよねー! 魔王は悪、悪は滅びない、諦めない。『勇者』、君が守ろうとしたこの世界はさ……」
「わかってるよ……」
「じゃあさ、じゃあさ、もう一度言うよ? 『僕の配下になるつもりはないか、勇者』」
「……いいよもう、わかったよ。お前が面白い奴だってことは充分わかった。旅するつもりはさらさらないが、少しの間、世界を散歩してやってもいい、お前と一緒に……」
「返事は?」
「……『はい』」
セーブ。
『つづきから』
ゲームオーバー。
そうして旅は始まる。
勝手に割れるなんて怖いと普段の俺なら思うところだが、今は虚無が来ているから仕方ない。
最近虚無が波のように押し寄せて来ていて、その余波で硝子が割れたり地面にひびがいったりして迷惑を被っている。困ったものだ。
まあ虚無が来ようが何が来ようが俺は部屋から出ませんけどね。外怖いし。地割れに落ちかねない。なんか自分の部屋って城塞的なそんな感じしない? 気のせい? いや俺はそう思うからそれでいいんだけど。
割れた硝子を片付けていると、
「やあ」
声がした。
面倒臭いので硝子を片付けながら返事をする。
「はい」
「君、暇?」
「暇じゃないです、今硝子を片付けているところ」
「硝子割れたの? なんで?」
「虚無のせいですよ。虚無は何でも割っちゃうんだから」
「それはごめん」
「は?」
俺は思わず顔を上げる。
割れた窓の外に、人が、いた。
「え?」
ここ二階だぞ。
「どうも」
人がぺこりと頭を下げる。いや礼儀正しくされても俺、困惑するだけなんだけど。
「ここ二階」
「そうだね」
「なんで?」
「僕が虚無だからかな」
「虚無? あなたが?」
「そう、虚無」
「虚無って生きてたのか」
「生きてるさ、虚無だもの」
「謎のコメントをどうも」
「虚無くんは暇でねぇ。どこに行っても怯えられちゃうし遊べない」
「それはあなたが窓を割ったり地面を割ったりするからでしょう」
「いや割れちゃうんだよぉ仕方なくない? 力ある者はつらいわー力ある者は」
「うざいですね……」
「ひどいなぁ。僕は虚無だよ?」
「虚無だから俺が対応を甘くすると思ったら大間違いですよ」
「えー」
「えーじゃない」
「上がっていい?」
「人の家に上がるときはちゃんと玄関から上がりましょう」
「それ上がっていいってことだよね、やったー!」
間があって、玄関の開く音、階段を上がる音がして、虚無が部屋にやってくる。
「いい部屋だねぇ、涼しい」
「そりゃあエアコンつけてますからね」
「今どきの人間は贅沢だねえ」
「虚無くんは長生きなんですか?」
「そこまででもないかな」
「曖昧ですねぇ」
「虚無だからね」
「理由になってないなぁ」
「ねーなんかして遊ぼうよ」
「俺は部屋から出るつもりはないですよ」
「じゃあ部屋でできることしようよぉ」
「部屋でできることって……」
虚無がゲームを見る。
「え、これですか?」
「ゲームしたいゲーム」
「一人用のやつしか持ってないんですけど」
「僕、見てるから、やってよ」
「えー……」
「お願ーい」
「しょうがないなあ」
俺はゲーム機のスイッチを入れて、起動するの何年ぶりだろう。もう何世代も前の型になってしまったゲーム機、コンセントに繋ぎっぱなしのゲーム機が無事動いたことに俺は驚いていた。
起動音、馴染みのあるロゴ、タイトル画面。
「おーすごいねぇ」
「いやまだ起動しただけですけど?」
「人間の技術はすごいねぇ」
「今のやつはもっとすごいですよ。これ古い機種なんで」
「それでもすごいよぉ」
「はあ……」
起動して、セーブデータは……消えてた。まあそうだよな、何年も放置したらそうなるわな。
「最初から始めます」
「最初から? 物事は何でも最初からじゃないの?」
「ゲームって自分が進めたところまで保存しておけるんですよ」
「へぇ……」
「保存して閉じたら、次に遊ぶときは中断したところから再開できるんです」
「すごいね!」
虚無は光のない目を輝かせる。
いや光のない目を輝かせるってどんなだよと思うが、そう見えたんだから仕方がない。
「まあそういうわけでやっていきます」
RPG、そう呼ばれる部類のゲームだった。最初の村から勇者が旅立って王城に行き、使命をもらって旅をする……的な、テンプレ。
無言で進める俺に虚無は、おお、とか、すごいね、とかいちいち感想をくれて、それがなんだかこそばゆくて、ついつい長時間プレイしてしまって、
「あ」
「どうしたの?」
「朝じゃん」
「ほんとだねー、夜が明けたねー」
「っていうかいつの間に夜が過ぎてたんだ……日が落ちるとこ見てないぞ」
「集中すると時を忘れるってほんとだねー」
「え、ああ、うん……虚無くんは時間いいんですか?」
「虚無くんはオールウェイズ暇、時間は腐るほどあるのです! まあ周囲も腐らせちゃうけどね」
「冗談になってないんですが」
「そお?」
「っていうかそれだと俺も腐っちゃうでしょ! やめてくださいよ」
「それは大丈夫」
「何で?」
「ある程度は制御できるから」
「制御できるんなら普段からしてくださいよぉ、今虚無災害ってめっちゃニュースになってるじゃないですか」
「なってるねー」
「手加減してくれないと、世界滅んじゃいますよ」
「でも他の虚無がねー」
「他にも虚無がいるんですか」
「他の虚無は僕みたいにフレンドリーじゃないからねー、自我もなかったりするし」
「虚無イズ謎生態……」
「謎だよ虚無は。僕もよくわかってないし。っていうか人間たちの方がよくわかってるんじゃない?」
「マジで?」
「うんうん」
「ニュースとかには出てきてないですけどね……」
まあ俺も最近ニュース毎日は見てないけど……
「人間のやることはわからないねー。まあ虚無のやることもわからないけど……まあだから、人間も虚無も同じようなものなんだよ」
「いやそれはないでしょ」
「同じだよぉ」
「違いますって」
「そうかなぁ」
「……」
「じゃ、僕帰るから」
「えっどこに」
「次元の挟間」
「すごいとこに帰りますね……」
「虚無の故郷はそこだからね。じゃあ、また」
空間に黒々とした穴が空いたと思ったら次の瞬間、虚無は消えていた。
「……また、って」
あいつ、また来る気なのか?
◆
「ぴんぽーんぴんぽーん」
「部屋に入ってきてるのに口でインターホン鳴らすのやめてくれます?」
「えー」
「えーじゃない、玄関から入ってって言ったのに」
「玄関からは入ったよ?」
「ちゃんとインターホン押してください」
「押したよ?」
「え」
「ちょっと言いにくいんだけどさぁ……」
あっなんか予想つく気がする。
「僕が触ったらインターホン壊れちゃった」
「やっぱりねー! 困りますよー!」
「ちゃんと直しとくから!」
「えっ直せるの?」
「いやちょっとエントロピーのあれを逆にしてごにょごにょ」
「人んちの備品にイミフな力を行使しようとしている……」
「まあこういうのは誠意が大事なんだよ、誠意が」
「自分で言わないでくださーい。まあいいや、ゲームの続きしましょうか」
「わーいわーい」
そして俺はゲームをして、虚無はそれを見ていて、
「あ、朝」
「また!?」
「朝日が眩しいねぇ」
「虚無に眩しいとかあるんですか?」
「あるのかな?」
「なんで疑問形なんですか」
「僕もよくわかってないからさ」
「はあ」
なんかこの虚無研究機関に突き出したらいいデータとれそうだな……しないけど。
「不穏なこと考えたでしょ」
「そりゃ考えもしますよ、災害の原因と平気で遊べる人間なんていないでしょ」
「へえ~。本当に?」
「本当ですよ、俺こう見えてビビってますから」
「ふーん?」
「人類の味方ですから」
「なんか君……面倒臭いねぇ」
「面倒臭くないと引きこもりなんてやってませんよ」
「あは」
虚無はおかしそうに笑うと、
「じゃあ僕、帰るね」
と言った。
空間に穴が空く。またね、と一言。消える虚無。
また来る気なのか……。
◆
「ぴんぽーんぴんぽーん!」
玄関から大声が聞こえる。
「はいはい……」
扉を開けると、案の定虚無が満面の笑みで立っていて。
「来たよー」
「どうもね」
「ゲームしよゲーム!」
「はいはい」
一緒に二階に上がって、テレビの前に座って、電源を点けて。
「ねーこの主人公ってどこまで旅するのー?」
「俺も途中までしかやったことないので、知らないんですよね。物語の目的は魔王の城だし、魔王倒して終わりなんじゃないですか?」
「ふーん」
相槌を打つ虚無はどこかつまらなそうな顔をしていた。
「魔王倒したって世界が平和になるわけじゃないのにねえ」
「まあありますけどね、人間同士の争いになる話とか」
画面の中の勇者はひたすら雑魚を狩ってレベルを上げている。
「利権だか何だかで祭り上げられたり逆に追放されたり色々な話がありますけどそんなのよく考えるなーって思いますよね。テンプレでは魔王を倒したら物語は終わりなんですよ。その先のことなんて考えたって仕方ないのに」
「……」
「だからこのゲームもたぶん、魔王倒したら終わりなんじゃないですか? 昔のゲームですし、その先はないですよ」
「……君はさぁ」
「……」
「本当にこのままでいいと思ってる?」
「……」
「虚無くんはさぁ」
虚無は己の髪をす、とかき上げる。
「虚無くんはこの世界が好きだから、なくなってほしくないわけ。人間も好きだし、ゲームも好き。……いくら仲間でもさぁ、やっていいことと悪いことがあるでしょ。でも他の虚無たちさ、全く話を訊いてくれないんだよねー! まあそれはそう、あいつら自我ないからさぁ」
「……何が言いたいんです」
「わかってるでしょ? 『勇者』」
「……今さらのこのこやってきて何のつもりだ、『魔王』」
「魔王を倒したら世界は虚無に呑まれて終わり、そう決めたのは誰かって、『世界』なんだよねー! 魔王は悪、悪は滅びない、諦めない。『勇者』、君が守ろうとしたこの世界はさ……」
「わかってるよ……」
「じゃあさ、じゃあさ、もう一度言うよ? 『僕の配下になるつもりはないか、勇者』」
「……いいよもう、わかったよ。お前が面白い奴だってことは充分わかった。旅するつもりはさらさらないが、少しの間、世界を散歩してやってもいい、お前と一緒に……」
「返事は?」
「……『はい』」
セーブ。
『つづきから』
ゲームオーバー。
そうして旅は始まる。
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