長編『亀のゾンビサバイバルログ』(全26話番外編3話、完結済)
今日は神父と訓練だ。
雰囲気満点の路地裏で仰向けになって回転する訓練。
回転しながら周りにパンチキックを浴びせることによって、甲羅プレス後の追撃を避けようという魂胆だ。
訓練の合間のお昼時、路地裏に人影が現れた。
神父が警戒していないところを見ると、ゾンビではないようだ。
近づいてくる人影をよく見ると、若い男だった。チャラそうだ。
僕はそういう人のことがあまり得意でない。亀をいじめる確率が高いのはだいたいそういう人なのだ。
目を合わせないようにしていたのだが、彼は僕におい、と声をかけてきた。
「お前、生存者?」
「そうですね」
「どうやって生き延びてるんだ?俺にも武器をくれよ!」
対応に困って神父に目をやると、黙って携帯食料を食べている。
「特に武器という武器はないです」
「へえ」
青年は途端に興味を失ったようで、今度は神父をじろじろ眺め始めた。
「変な服だな。おっさんは何をしてる人?」
「私はカンフーな神父だ」
「カンフー?今時時代遅れだね。そんなのでやっていけてるの?」
やけに失礼な人だ。いくら神父が相手でもこれはひどい。
僕は青年に声をかけようとした。
そのとき、視界の端に茶色い動くなにかが見えた。
「ゾンビのようだな。青年、君も戦うか」
「俺は武器がないから戦えないぜ。まあせいぜい頑張ってくれよ、それじゃあな」
そう言って青年はゾンビと反対方向に駆けだした。
「さて亀よ、例の技を試すのだ」
神父が言う。
チャンスか。
僕はくるりと後ろを向いて、ジャンプした。
プレス。まずは1ヒット。
甲羅から着地、すぐにゾンビに蹴りを入れる。右、左、そしてパンチ。甲羅を支点に少しずつ回りながらヒットする。
次第にスピードを上げて行く。右、左、パンチ、右、左、蹴り、右、左、パンチ、回転速度が速くなる。
右、左、パンチ、右、左、蹴り、「うわー!」遠くから聞こえる悲鳴。何の悲鳴だか皆目見当つかないが回転を止めることはできない!
右、左、パンチ、右、左、蹴り!
「ゴアー」
ゾンビの声だ。僕は甲羅を傾ける。ゆっくりと回転しながら移動。
右、左、パンチ、右、左、蹴り、「ゴア―…」回転によってゾンビがネギトロに変わってゆく。
右、左、パンチ、右、左、蹴り。
回転が止まるころ、路地裏に動く者はなくなっていた。
僕はぺたりと両手両足を投げだす。
「上出来だ」
上から拍手の音。
いつの間にか建物の上に退避していた神父が飛び降りてきた。
「この調子なら一人でもやっていけるぞ。なかなかできる亀になってきたのではないか? うむ。立っておやつタイムだ!」
僕の甲羅をよいしょと起こす神父。
「おや?どうした?おやつを食べてしまうぞ?」
なかなか立ち上がらない僕を見て神父が不思議そうな声で聞く。
「……ちょっと目が回っ」
ぐわんぐわん回る視界。
「うむ……改良の余地が必要なようだ」
神父は真顔で呟いた。
雰囲気満点の路地裏で仰向けになって回転する訓練。
回転しながら周りにパンチキックを浴びせることによって、甲羅プレス後の追撃を避けようという魂胆だ。
訓練の合間のお昼時、路地裏に人影が現れた。
神父が警戒していないところを見ると、ゾンビではないようだ。
近づいてくる人影をよく見ると、若い男だった。チャラそうだ。
僕はそういう人のことがあまり得意でない。亀をいじめる確率が高いのはだいたいそういう人なのだ。
目を合わせないようにしていたのだが、彼は僕におい、と声をかけてきた。
「お前、生存者?」
「そうですね」
「どうやって生き延びてるんだ?俺にも武器をくれよ!」
対応に困って神父に目をやると、黙って携帯食料を食べている。
「特に武器という武器はないです」
「へえ」
青年は途端に興味を失ったようで、今度は神父をじろじろ眺め始めた。
「変な服だな。おっさんは何をしてる人?」
「私はカンフーな神父だ」
「カンフー?今時時代遅れだね。そんなのでやっていけてるの?」
やけに失礼な人だ。いくら神父が相手でもこれはひどい。
僕は青年に声をかけようとした。
そのとき、視界の端に茶色い動くなにかが見えた。
「ゾンビのようだな。青年、君も戦うか」
「俺は武器がないから戦えないぜ。まあせいぜい頑張ってくれよ、それじゃあな」
そう言って青年はゾンビと反対方向に駆けだした。
「さて亀よ、例の技を試すのだ」
神父が言う。
チャンスか。
僕はくるりと後ろを向いて、ジャンプした。
プレス。まずは1ヒット。
甲羅から着地、すぐにゾンビに蹴りを入れる。右、左、そしてパンチ。甲羅を支点に少しずつ回りながらヒットする。
次第にスピードを上げて行く。右、左、パンチ、右、左、蹴り、右、左、パンチ、回転速度が速くなる。
右、左、パンチ、右、左、蹴り、「うわー!」遠くから聞こえる悲鳴。何の悲鳴だか皆目見当つかないが回転を止めることはできない!
右、左、パンチ、右、左、蹴り!
「ゴアー」
ゾンビの声だ。僕は甲羅を傾ける。ゆっくりと回転しながら移動。
右、左、パンチ、右、左、蹴り、「ゴア―…」回転によってゾンビがネギトロに変わってゆく。
右、左、パンチ、右、左、蹴り。
回転が止まるころ、路地裏に動く者はなくなっていた。
僕はぺたりと両手両足を投げだす。
「上出来だ」
上から拍手の音。
いつの間にか建物の上に退避していた神父が飛び降りてきた。
「この調子なら一人でもやっていけるぞ。なかなかできる亀になってきたのではないか? うむ。立っておやつタイムだ!」
僕の甲羅をよいしょと起こす神父。
「おや?どうした?おやつを食べてしまうぞ?」
なかなか立ち上がらない僕を見て神父が不思議そうな声で聞く。
「……ちょっと目が回っ」
ぐわんぐわん回る視界。
「うむ……改良の余地が必要なようだ」
神父は真顔で呟いた。