長編『亀のゾンビサバイバルログ』(全26話番外編3話、完結済)
昨日は親切な老夫婦が家に泊めてくれた。それだけではなく、出発するときに食料まで分けてくれた。
夢の中にもこんな優しい人たちがいるんだな。僕は昼食を食べながら考えた。
「夢の中」?
夢か現実かはどうでもいいんだ、楽に生きられるなら夢でも現実でも……と思ったはずなんだけどなあ。
しかし「覚めることのない夢」か。思わせぶりな言葉だ。
ひょっとして、神父は世界がこうなってしまった原因について何か知っているのだろうか。
知っているならなぜ教えてくれないんだろう。僕に隠しておきたいことでもあるのだろうか。
「亀よ」
当の神父が声をかけてきたので、僕は内心冷や汗をかいた。
「は、はい」
「食事の手が遅いようだが、悩み事でもあるのかね」
「いえ……何でもないです」
「そうかね? まあ、無理には訊かんが」
神父は携帯食料を自分の口に放り込んだ。
僕もつられてかじる。
さく、という音がする。
食料が本当に減ってきている。老夫婦が分けてくれたからなんとか命が繋げているようなものだ。街を探索してみても、なかなか見つからない。避難所の人たちはどこで食料を調達しているんだろう。訊いておけばよかった。
口の中の食料を飲み込んで、立ち上がる。
「そろそろこの街の探索も終わりですね。何の情報も得られなかっ……」
僕は言葉を止めた。
道の先に、子供が倒れていた。
「大変だ」
「待て、亀」
「何を待つっていうんですか、助けないと」
僕は子供に駆け寄った。
「大丈夫ですか」
「……」
子供はゆっくりと身を起こす。
「喋れますか?」
「……ゴアー」
「え」
子供の……ゾンビ。
「何をしている! 甲羅を使え!」
神父の声で我に返った僕は、ゾンビが噛みついてくるのを慌てて甲羅でガードした。
「ごめんなさいっ」
そのまま倒れ込み、ゾンビを甲羅で押しつぶす。
嫌な感触がした。子供のゾンビはしばらく暴れていたが、やがておとなしくなった。
そうっと起き上がると、ゾンビはもう消えていた。
「……子供もゾンビになるんですか。嫌な時代だ」
時代というか、世界というか。
「すみません神父、止めてくれたのに僕は」
「これから気を付ければよい」
神父はさらりと言った。
「倒れている者を見たらすぐに近付かず、いったん様子を見ることだ」
携帯食料を差し出す神父。
「ありがとうございます、そうします」
神父が僕に何か隠しているとしても、今はこんなに親切だし、何よりここまでずっと一緒に来てくれた。それなら、気にしない方がいいんだろう。
携帯食料を甲羅にしまいながらそう思った。
イチョウが紅葉していた。
夢の中にもこんな優しい人たちがいるんだな。僕は昼食を食べながら考えた。
「夢の中」?
夢か現実かはどうでもいいんだ、楽に生きられるなら夢でも現実でも……と思ったはずなんだけどなあ。
しかし「覚めることのない夢」か。思わせぶりな言葉だ。
ひょっとして、神父は世界がこうなってしまった原因について何か知っているのだろうか。
知っているならなぜ教えてくれないんだろう。僕に隠しておきたいことでもあるのだろうか。
「亀よ」
当の神父が声をかけてきたので、僕は内心冷や汗をかいた。
「は、はい」
「食事の手が遅いようだが、悩み事でもあるのかね」
「いえ……何でもないです」
「そうかね? まあ、無理には訊かんが」
神父は携帯食料を自分の口に放り込んだ。
僕もつられてかじる。
さく、という音がする。
食料が本当に減ってきている。老夫婦が分けてくれたからなんとか命が繋げているようなものだ。街を探索してみても、なかなか見つからない。避難所の人たちはどこで食料を調達しているんだろう。訊いておけばよかった。
口の中の食料を飲み込んで、立ち上がる。
「そろそろこの街の探索も終わりですね。何の情報も得られなかっ……」
僕は言葉を止めた。
道の先に、子供が倒れていた。
「大変だ」
「待て、亀」
「何を待つっていうんですか、助けないと」
僕は子供に駆け寄った。
「大丈夫ですか」
「……」
子供はゆっくりと身を起こす。
「喋れますか?」
「……ゴアー」
「え」
子供の……ゾンビ。
「何をしている! 甲羅を使え!」
神父の声で我に返った僕は、ゾンビが噛みついてくるのを慌てて甲羅でガードした。
「ごめんなさいっ」
そのまま倒れ込み、ゾンビを甲羅で押しつぶす。
嫌な感触がした。子供のゾンビはしばらく暴れていたが、やがておとなしくなった。
そうっと起き上がると、ゾンビはもう消えていた。
「……子供もゾンビになるんですか。嫌な時代だ」
時代というか、世界というか。
「すみません神父、止めてくれたのに僕は」
「これから気を付ければよい」
神父はさらりと言った。
「倒れている者を見たらすぐに近付かず、いったん様子を見ることだ」
携帯食料を差し出す神父。
「ありがとうございます、そうします」
神父が僕に何か隠しているとしても、今はこんなに親切だし、何よりここまでずっと一緒に来てくれた。それなら、気にしない方がいいんだろう。
携帯食料を甲羅にしまいながらそう思った。
イチョウが紅葉していた。