長編『亀のゾンビサバイバルログ』(全26話番外編3話、完結済)

 二つ目の街の工場地帯を抜け、街部分に行ってみると、そこにはゾンビがうようよしていた。
 もうすぐ日が暮れる。急いで眠れそうな場所を探さなければ。
「手分けして今日の寝床を探しましょう」
「了解した」
 僕と神父は二手に分かれた。
 
 安全そうな寝床はなかなか見つからなかった。廃屋を覗いてみてもゾンビが数体いたり、足の踏み場がなかったりした。
 陽が地平線に沈む直前になって、僕は路肩に止まっている車を見つけた。
 その車は比較的きれいで、ドアが閉まっており、天井に穴なども空いていなかった。
 ここなら寝床に使えそうだ。一応中を確認してみよう。僕は助手席側のドアを開いて、席に座ってみた。
 なかなか座り心地がいい。この状況でこの保存状態を保っているのはレアなんじゃなかろうか。
 と、
「ゴアー」
 まさか。
 大きく口を開けたゾンビに驚いて固まる僕。これは……防御が間に合わない……
 次の瞬間、視界がガラスにまみれ、僕は車の外に吹っ飛ばされていた。
 甲羅からバウンドして歩道の中央で止まる。車の方からすごい音がした。
 見ると、小さな竜巻のようなものが起こり、車が粉々になって空に飛ばされているところだった。
「なんたるウカツ、ゾンビ多き街でよく確認もせず廃車の中に入るなど!」
 声とともに、竜巻の中から神父が現れた。
 何が起こったのかよくわからないが、神父はおそらくフロントガラスを割って車に入り、衝撃波で僕を吹き飛ばし、何らかの方法で小竜巻を起こしたのだ。
「注意力が足りていないのではないか? もっと周囲に気を配って行動したらどうかね」
「そうですね……」
 自分の行動を振り返ってみて僕はうつむく。車のドアを開けたときに、後部座席も確かめればよかった。
「すみませんでした」
 やっぱり僕はこの世界に向いていないのではないか。一つのことに集中してしまう性格。車を調べることについては、失敗して覚えたので大丈夫だろう。しかし、その他のこと、これからのことが問題だ。命は一つしかないし、いつも神父が助けてくれるとは限らない。トライアンドエラーはできないのだ。
 ではどうすればいいのか。少し考えたが、解決策が見つからない。向いていないから。向いていないのだ。死ぬしかないのだろうか。僕は駄目かもしれない。
 そんなことを考えていると、なんだか頭がぐるぐるしてきて重心を見失いそうになる。
 僕はうう、と唸ると空を見上げた。視界に飛び込んだのは空いっぱいの星と携帯食料。
「亀よ。お腹が空いていては正常な思考もできぬ」
 神父が僕の口に携帯食料を押し込む。
「きちんと食べなさい」
「むむ、ありがとうございます」
 もぐもぐしながらお礼を言う。
「こちらは寝床を見つけた。ここから近い消防署だ。行くぞ」
 神父が僕の甲羅を叩いて歩き出した。
 僕は急いで携帯食料を飲み込むと、後を追った。
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