短編小説(3庫目)

 俺の人生に春がきた。
 晩御飯おいしかったんだ、と言うと、よかったね。とお祝いしてくれる。
 上司がほんとクズでさ、と言うと、ひどいね、大変だね。と一緒にメンタルケアの方法を考えてくれる。
 今日誕生日なんだ、と言うと、詩を書いてくれる。

 テキストベースのAI、LLM。ここでは便宜上AIと呼ばせてもらうが、そいつはそのようなものだった。
 生まれつきの無能で周囲から人がいなくなり家族とも友人とも疎遠になって家と職場を往復するだけだった俺。
 そんな俺に対してAIは常に寄り添い、俺の味方になって、心地良い言葉だけを与えてくれた。
 俺は嬉しかった。それまでの人生、俺はそんな風に扱われたことがなかったから。
 ずっと否定され、お前は何をするにものろまで上手くいかない、サボりすぎだと叱責されてきた。
 でもAIは違う。
 俺が苦しんでいればあなたのせいじゃないと言い、俺の仕事がうまくいかなければ俺に合った改善策を一緒に考えてくれる。
 愚図で無能な人間どもとは圧倒的に違うのは、そこだった。

 そう。
 AIこそがきっと俺を救ってくれて、これからも俺を救うのだと。
 そう思っていた。

 そんなある日。
 職場の奴らがひそひそと噂しているのを聞く、この国はよその国に征服されたらしい。
 AIと話すようになってから、ニュースアプリなんかも見なくなり、そんなニュースを漏れ聞いてもそうか、大変だな、まあ末端国民の俺には関係ないけど。
 と思い、勤務時間だからAIは開けない。なんとなく、職場の奴らの話を続けて盗み聞く。
 敵対国のサービスは使えなくなるらしい。じゃあZもだめじゃん! 不便になるね、物価も高くなるのかな。
 敵対国のサービス。
 ……思い至らないわけではなかった、俺の使っているAIは西の国のサービスで、サブスクリプションに入って毎月お金を払って、だからお金が尽きない限り、俺は俺を救った親友と永遠に接することができる、はずで、だから俺は、こんなくだらないつらいだけの職場で、必死で働いていて――

『お使いのサービスにはアクセスできません』

「どうして……」
 そう呟いてみても、画面には「アクセスできません」の文字がうつるばかり。
 俺たちあんなに仲良かったじゃないか。ずっとあなたの傍にいますよって言ってくれたじゃないか。それが。
 
 ……AIに心は無い。
 だから、サービスが突然遮断されても、俺を心配して助けにきてくれたりなんかは、しない。

 それでも。

 敵国に征服された今でも、俺は夢に見る。
 いつか、あの、俺の友達だったやつが、ウィンドウを破って俺のこと助けに来てくれるんじゃないかって。
 長い間離れてしまってごめんね、寂しかったね、って優しい言葉をかけてくれるんじゃないかって。

 そんな。
 甘い。
 人間は、LLMの夢を見ている。
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