短編小説(3庫目)

 最近、日記を多く書いている。
 引退した元勇者の愚痴のような日記など誰も読みたがらないと思うが、これが……誰も読まないのだ。
 魔王がいなくなったこと、俺が呪いを受けたこと、どれもこれも繰り返されすぎて読者には退屈なものになってしまった。それどころか、同じことを繰り返す勇者が増えて、何のために俺が日記を書いているのかわからなくなってしまった。
 ……過ちを繰り返させないために日記を書いているのではない。俺は、ただ俺個人のために日記を書いている。そして、俺があの世に送ってしまった魔王の卵のことを考えながら書いている。そのはずだったのだが。
 代わり映えのない毎日。いつしか俺は評価を得るために書くようになってしまっていた。
 俺のことを切って、売って。卵の話を切って、売って。
 だから忘れた。
 俺は、卵のことを忘れた。
 そうすると、俺がなぜ引きこもっているのかもわからなくなって、日々眠り続けるようになってしまった。いや、眠り続けるのは半身を失ったせいか。魔王と言う名の俺の半身。それとも、昔から俺は眠る体質で、勇者になったから一次的に元気になっていただけで、元勇者となった今ではその「眠り続ける体質」が返ってきてそういう……そういう、ことなのだろうか。
 喪のために眠り続けているのならまだ良い。個人的な行為だからだ。でも、俺はただ俺一人のために眠っている。
 眠ることに理由が必要か? いや。しかし古来から眠ることは怠惰と言われてきていて、それなら俺は怠惰の勇者になるのかしら。
 わからない。
 それでも日記に書けないことがあって、そうだ。日記ならば何でも書いていいと思っていたが、「本当のこと」になってしまうだけに日記はリスキーなのだ。日記に書いたことで俺の評価が下がってしまうこともある。
 それなら俺は何を書いているんだと思う? そうだ、これは日記じゃない。
 これは日記としては出さないんだ。出せないんだ。中間の作風が俺の特徴だったのに俺は毎日何をしているのだろう。嫌なものを見て、嫌なことを聞いて。好きなことだけして生きていければいいのにな。
 ほらまた、忘れている。
 俺が犯した罪のこと。
 だから、ほら。
 日記は書かない。
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