躑躅の蜂蜜とパンケーキ
「……あー…なんでこのタイミングで思い出しちゃうかなぁ。走馬灯ってやつ?」
百田の肩を借りながらプレス機の方まで歩く王馬は、ため息混じりに呟く。
「何ぶつくさ言ってんだよ王馬。大丈夫かお前」
「にししし…もうそろそろ駄目かもね~」
「おい!?頼むからまだくたばるなよ!ハルマキがクロになったら困るんだからよ!」
「嘘だよ。心配しなくてもまだまだ耐えられるって」
どう見ても問題無いとは言い難い、いつも以上に血の気の無い顔色で、それでも王馬は百田に向かって強がりの笑い顔を見せる。
「百田ちゃんさー、前にゴン太が毒の花のハチミツ発見して大騒ぎしたの覚えてる?」
「ん?おぉ…あったなそんな事」
「オレあの後、ゴン太にパンケーキ作ってやったんだよ」
「あ?パンケーキ?」
「うん。それでオレがパンケーキに掛けたハチミツが毒のやつって嘘ついたんだけど、あいつそれ聞かされても躊躇うどころか勢いよく食いついたもんだからオレの方がむしろ驚いちゃってさ」
「何やってんだよお前ら!?」
「いやー、あいつがオレの作ったもの食うか食わないかでオロオロする姿が見たくてついやっちゃってさー…でも、オレが人殺しなんてしないって信じたかったから食ったんだって。あいつ」
「……」
「ほんっと馬鹿だよねー…挙げ句オレに良いように使われて、その結果皆を殺そうとした訳だし」
「お前、ゴン太の事後悔してるのか?」
百田の問いに、王馬は怪訝そうな表情を浮かべる。
「…はぁ?百田ちゃん何言ってんの?そっちこそ大丈夫?血吐きすぎて貧血で頭おかしくなった?この先の事ちゃんとこなせる?今更オレ不安になってきちゃったよ」
「けどお前、ゴン太がおしおきされる時に泣いてただろ?」
「嘘泣きって言ったじゃん」
「お前が黒幕のフリしてこれ以上のコロシアイを起こさせないようにしてたって知った今の俺には、あれが嘘の涙とは思えねーぜ」
「うっわー…いつものお得意の信じたい奴を信じるってやつ?そのせいでゴン太の裁判の時に痛い目見たのもう忘れちゃったの?」
「お前こそ目が笑ってねーぞ。本当に嘘だってのならいつもみたくもっとスカした笑いで皮肉ってみせろよ」
百田の言葉に、王馬は口を閉ざす。
「ゴン太の性格じゃお前みたいな捻くれきったやり方で皆を生かすだなんて出来ねーしよ…お前は本当はゴン太を殺したくなくて、それでも少しでも皆を生かせる可能性を考えた結果があれしか無かったんじゃないのかよ」
「………」
「なあ、お前はせめてあいつの遺志を継いで俺達の事を守ろうとしたんじゃねーのか?」
「…百田ちゃんてば想像力豊かだね」
ふはっ。と、吐き捨てるように王馬は笑った。
「オレは入間ちゃんの凶行を逃れるためにゴン太を巻き込んで身代わりにした。それ以外の事実なんて今更必要ないでしょ?語ったところでゴン太も入間ちゃんも生き返る訳じゃないんだから」
「けどよ…」
「死んだ奴らの事より、まずは生きてるみんなの心配するべきなんじゃないの?こんな話してるうちにオレ死んじゃうかもよ?」
「っ…」
今度は百田が黙り込む。
「じゃ、あとは頼んだから。うっかりボロ出さないでよ」
「……おう」
百田の肩から手を離すと、王馬はふらつきながらプレス機に横たわる。
「はぁ~あ…春川ちゃんももう少し苦しまないような毒打ってくれたら良かったのになぁ…ま、仕方ないか。黒幕のフリしたのはオレだしね」
体を蝕む拷問致死薬により、体中に走る痛みに意識が遠退きかけては痛みでまた意識が無理矢理引き戻される。まさに拷問のようなその繰り返しの中、顔面は蒼白になり冷や汗を流しつつも口調だけはそれを感じさせぬいつも通りの軽い様子で王馬はぼやく。
(モノクマの用意したロボット蜂に幾重にも刺され続けていたあいつも同じような感じだったんだろうか…だとしたらまさにオレが今こんな状態に陥ってるのは因果応報ってやつだね)
たとえ憎まれ役としてでもこのろくでもないコロシアイを止められればと思っていた。それが獄原や他の皆の死を無駄にしないために自身に出来るせめてもの行いだと。
(けど結局無駄だったな…お前に嘘つきのオレの役目は果たせないように、オレにもバカ正直なお前の役目は引き継げなかった)
「…それでも、本当の黒幕の好きになんてさせてたまるかよ」
(せめて、この最期の悪あがきだけでも必ず果たしてみせる。オレ達の死は決して無駄じゃなかったと、悪趣味な傍観者共を地獄で嘲笑えるように)
「それじゃあ。あばよ王馬」
「うん。それじゃあバイバイ。百田ちゃん」
百田との最期の言葉を交わすと共に、プレス機が差し迫ってくる。
『いつになるかは分からないけど、お礼に今度はゴン太が王馬君に作るよ』
目の前が暗くなったその刹那、思い出したのは獄原のその一言。
(こんな事思うのなんて身勝手にも程があるって分かってるけどさ…本当はお前がオレのために作るパンケーキ、一度くらいは食って見たかったよ)
もう二度と果たされない、果たされる機会を自ら投げ捨てた約束に想いを馳せて目を閉じた王馬を、冷たい鋼鉄は無慈悲に圧し潰した。
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