語る烏に騙る烏(八咫烏パロ王獄)

ある日。ゴン太は母屋の馬小屋から連れてきた一羽の馬と戯れていた。
鳥形時のみ現れる、山神に与えられた神性の証たる三本目の足を特殊な紐で縛られ人形じんけいの取れないその大烏うまは、さほど暴れる事もなくゴン太にじゃれついている。

「今日はここら辺でおしまいにしよ?」
『もう?もっと俺遊びたいよ』
「ごめんね。もう少し一緒にお散歩出来たら良いんだけど、ゴン太だけじゃなく君までお父様に叱られちゃうからね」
『そっか…ゴンタ、宮烏だもんね。俺達と遊ぶの本当はいけないんだもんね』

ゴン太には彼の言葉が聞こえていたが、他の人形のものにはカァカァという鳴き声にしか聞こえない。
普通なら人形状態では鳥形の者の言葉は分からないが、人として御内言葉みうちことばで話すよりも烏として生活していた期間の長いゴン太はその鳴き声の意味を理解していた。

「今度また遊ぼうね。今はまだゴン太が人前で鳥形になる事許して貰えないけど…いつか一緒に飛ぼうよ」
『本当!?約束だよ』
「うん!」
「ゴン太、何そいつ?」
「わああああっ!!?」

唐突に後ろから聞こえた声にゴン太は飛び上がる。

「あっはははは!すっげー飛んだなあ。十尺は行ったんじゃない?人形のままそんな飛ぶってありえなくない?一瞬転身した?」
「お…王馬君いつ来てたの?」
「さっきだけど…そいつずいぶん仲良さそうじゃん。友達なの?」
「あ、うん。お屋敷で一番年少の子で、よくゴン太の話し相手になって貰ってるんだ」
『ゴンタ、誰こいつ』
「あ、この人は王馬君だよ。谷間で暮らしてるんだって」
『谷間!?何でそんなところの奴がゴンタに近付いてるんだ!離れろ!』
「えっ!?だ、大丈夫だよ!王馬君は悪い人じゃないよ!」
『谷間の奴らは危険だってゴンタの父ちゃん言ってたぞ!』
「駄目だって!騒いだらゴン太が君を連れ出した事バレちゃうよ!?」
『でも…』
「ねーゴン太。そいつ騒いでるけど何言ってんの?」
「ええと…谷間の人は危ないって……」
「はぁー?貴族に自分の身を売って馬になるような奴にだけは言われたく無いんだけど?」
『好きでこうなったんじゃない!』
「だから騒ぐと駄目だって!と、とりあえず小屋に戻ろ?ね?居なくなってるのバレたらまた叱られちゃうから。王馬君もゴン太の部屋でちょっと待ってて!」

ゴン太はあわてふためき、何とかして大烏をなだめて母屋にある馬小屋に引っ張っていく。

「…バーカ」

王馬はそんなゴン太の背を、面白く無さそうに見つめてぽつりと呟いた。



ゴン太が大烏を馬小屋に帰し離れの自室に戻って来ると、ぶすくれた表情の王馬が虫の学術書に目を通していた。

「お待たせ王馬君!さっきはごめん!」

ゴン太が勢いよく頭を下げると王馬はちらりとそちらに目を向け、本を畳に投げ捨てると大袈裟にため息を吐いてみせる。

「全くもー。失礼しちゃうよね。谷間暮らしってだけでああ言われちゃたまったもんじゃないよ!まあ確かにオレはお尋ね者だけどさ」
「ごめんね王馬君。あの子まだ子供のうちにお家の都合で売られて来た子で、いまだにゴン太にしか心を開いてくれないんだ。多分何度か会えば王馬君が悪い人じゃないって分かってくれると思うんだけど…」
「あっそ。どうでもいいよ」

おろおろと弁解するゴン太に王馬は無感情に言葉を返す。

(あ…ゴン太また王馬君に失礼な事言っちゃったかな…)

「あの…」
「そんな事よりさー!なんか面白い話とか無い?例えばどこぞの宮烏がボカやらかして身分剥奪されたとか!」
「えっ?うーん…そういうのはよく分からないけど…あっ!そうだ!蛍さんが羽化し始めたんだよ!」
「蛍?」
「うん。この離れの裏手に小さい川があるんだけど、そこの蛍さん達が明日辺りに皆一斉に飛び回ると思うんだ!すごく綺麗だから…出来たら王馬君と見れたらなぁって思ったんだけど、やっぱり無理だよね…?」

太陽の化身である八咫烏は日が落ちると転身する事が出来なくなる。再び日が昇るまでの間、人形なら人形のまま、鳥形なら鳥形のまま夜を過ごすしかないのだ。

「そうだねー。オレがここを行き来するには一度鳥形になって飛ばないといけないから、蛍を見るとなると朝までここに隠れてなきゃならなくなるし。実行は出来そうにないかな」
「だよね…ごめんね。無理言って」
「って言うのは嘘だけどね。つまらなくはなさそうじゃん。そういう事するの」
「へ?」
「だってさー、離れとはいえ、貴族のお屋敷で夜を明かすなんてそうそう出来る体験じゃないじゃんか!考えただけでわくわくしてくると思わない!?」
「えっと…?つまり、王馬君はゴン太と一緒に蛍さんを見て、そのままゴン太のところでお泊まりするって事で良いのかな?」
「そういう事になるね」
「わぁ…!本当に?本当に良いの!?ありがとう!」

思ってもみなかった返答に、ゴン太は満面の笑みを浮かべる。

「さっきの奴と遊ぶのと、オレと蛍見るのどっちが嬉しい?」
「え?うーん…王馬君と朝まで一緒に居られるなんて滅多に無い事だし、王馬君と蛍さんを見れる事の方が嬉しいかな?」
「そっかー!ゴン太はそんなにオレと居られるのが嬉しいのか~」
「?…うん!嬉しいよ!」

王馬の発言の意図がゴン太にはよく分からなかったが、王馬の機嫌が直った安心感と一緒に蛍を見れる事への喜びであまり深くは考えなかった。

それから二人は明日の晩に再び会う約束をし、暫く他愛もないお互いの近況を話し合った後いつものように別れた。

(楽しみだなぁ…王馬君と蛍さんを見たり一晩中お喋りしたり出来るって思うとどきどきして寝付けそうにないや)

布団に潜り込みながらゴン太は胸を高鳴らせる。

(虫さん達も明日は晴れるって言ってたし、星と蛍さんの光できっとすごく綺麗な光景になるんだろうなぁ。あっ!お泊まりって事は一緒の部屋で寝るんだよね?ゴン太大きいから同じ布団だと王馬君が潰れちゃうかも…確かお屋敷に住み込みで働いてる人用のお布団があったはずだし明日の朝にでも持ってこなきゃ)

あれこれ頭の中で計画を立て、考えた込んでいるうちにゴン太は徐々にうとうとし始め。いつの間にか眠っていた。
夢の中には蛍と戯れながら笑顔ではしゃぐ王馬の姿があり、月明かりと蛍の光に照らされる彼の姿にゴン太は見とれる。

「ほら、ゴン太。お前もこっちに来いよ」
「うん!」

王馬に差し出された手を取ろうとした瞬間――誰かの呼び声で唐突にその夢は終わりを告げた。
ゴン太が目を覚ますと、ゴン太の世話役として働く下男が枕元に正座していた。

「坊っちゃん。母屋にて旦那様が呼んでおられます」

その一言で、夢の余韻は一気に霧散した。



母屋に行くと、険しい顔をした父が待っており、ゴン太はおずおずとその正面に正座する。

「また許可無く勝手に馬小屋に入ったのか」
「ごめんなさい…」

静かながら怒気のこもった父の言葉にゴン太は大きな体を縮こまらせる。

「でも、あの子がずっと外にも連れ出して貰えないのが可哀想で…」
「躾のなっていない家畜に情けをかける必要など無い。優しくすれば付け上がるだけといい加減分からないのか」
「っ…」

取り付くしまもない返答に何も言い返す事が出来ないのが悲しくて、ゴン太はぎゅっと拳を握り込んだ。
宮烏なら馬となった者を人として扱わないのが普通だとしても、やはりどちらも同じ八咫烏にんげんという認識をゴン太は変えたく無かった。

(王馬君だってゴン太に言ってくれたんだ。ゴン太みたいな宮烏がいても別に良いって…いくらこの考え方が宮烏らしくないって言われても、これだけは変えたくないよ)

「ゴン太はどんな処分でも受けます。だからあの子に酷いことしないで下さい。ゴン太が勝手にやっただけであの子は無理矢理付き合わされただけなんです。お願いします」

ゴン太が深々と頭を下げると、父親はため息を吐く。

「……今後また許可を得ずに馬小屋へ行ったら見せしめとして馬を一羽斬足とする。それが嫌ならば次からは許可を取って私の目の届く範囲で接しろ。分かったな」
「はい…」
「分かったならば戻れ。ここにお前を置いておくとまた五月蝿い者もいるのでな」
「はい。分かりました」

ゴン太が顔を上げ、立ち上がろうとした時だった。

「ああ、そういえば離れの近くに大穴が開いていたようだな。危険だから今日にでも埋め立てるとしよう」

その言葉に、一度は戻りかけたゴン太の血の気がさぁっと失せる。
王馬との唯一の繋がりであるあの場所を塞がれてしまえば今日の夜のみならず永久に王馬と会えなくなってしまう。

やめて。と、ただ一言だけ言うのは簡単だ。だが根っからの正直者であるゴン太にはその理由を嘘で上手く誤魔化す事など出来ない。
あの大穴を埋めてはならない理由を正直に話してしまえば王馬が危険な目に遭うかもしれない。それだけは絶対に避けなければとゴン太はぐるぐると思考を巡らせる。

「あの、その…ゴン太のお友達の虫さんが、あそこに入り込んでいるかもしれなくて…ゴン太が虫さんに危ないから外に出てきてって言うから!だから今日一日だけ待って!お願いします!!」
「こちらはお前と違って忙しい。たかが虫の一匹や二匹のために予定をずらすつもりは無い」
「でも!」
「あの大穴から危険なものが入り込んで来てからでは遅いのだ!!」
「ひっ!?」

父の怒号にゴン太は体をびくりと震わせる。

「……良いか?よく聞け。先日、北領の外れの集落が山内の外から来たらしき大猿によって壊滅したらしい。ただの大猿では無い。我ら八咫烏の一族同様に人形に転身出来、我らを食らう化物だそうだ」
「転身出来る…大猿?」
「ああ。そして問題なのはどこから侵入したかや、どこにどの程度同じような外部からの経路があるかを全く把握出来ていない事だ。うっかり隙を晒して猿を呼び込み、この家まで危険にさらす訳にはいかん。分かるだろう?」
「それ…は…」
「家族が行方知れずになる気持ちなど、もう二度と味わいたくない。理解してくれ」
「……」

宮烏としてではなく、一人の父親としての本音を聞かされたゴン太には、首を縦に振る以外の選択肢は無かった。


それから数刻後、大穴の方へと人や大烏が集まってくる。
紐をくくりつけた丸太を大烏に運ばせ、それを大穴の上に乗せてはまた次のを運ぶ。並べられた丸太で穴の底が見えなくなった後は下にいる人々がその上から土を被せ、大穴は完全に塞がれた。

ゴン太は、それを黙って眺めている事しか出来なかった。

(もう…王馬君に会えないのかな…折角ゴン太と約束してくれたのに……もう二度と…)

「坊っちゃん、大丈夫ですよ。猿が現れたのは北領です。南領にまで来る訳ありません」
「……うん…」
「例え来たとしても、ここまですれば猿とて入り込む事は出来ませんよ」
「…………うん……」

大猿の襲撃に怯えているのだと勘違いしている下男に励ましの言葉を掛けられたが、ゴン太はそれに上の空で答える。

その後の記憶は曖昧で、気付けばゴン太は自室で呆けたように座り込んでいた。
明かりを付けていない部屋の中は暗く、ふらふらと重い足取りで外に出てみれば星が煌々こうこうと輝いている。

(きっと王馬君困っただろうな…きっとすごく怒っただろうな…ゴン太から、言い出した事なのに…)

「……う…うう…」

ゴン太は今すぐ鳥形になってしまいたかった。羽毛に覆われた大烏の姿なら、泣き顔を晒さずに済んだから。空を駆け回り、悲しみを紛らわせられたから。誰にも声が届かない程の高さまで舞い上がり、思うがままに慟哭出来たから。
けれど既に日は落ち、夜明けになるまで人の姿に縛られたままだ。泣き顔を隠す事も、何処かに行く事も、大声でく事も許されない。
人形で過ごす事がここまで辛いと思ったのは、これが初めてだった。


「うううっ…王馬くんっ…ごめん…ごめんなさい…ごめんなさいっ…」

膝から崩れ落ち、自責の念からくる涙で顔をくしゃくしゃにする。

「ごめんなさい…ごめんなさい…約束破って…嫌われても仕方ない事してごめんなさい…」

謝ったところでそれが地下深くに居る筈の本人に届く訳が無いと分かってても、謝り続ける事しか出来なかった。


いつまでそうしていたことだろう。
不意に屋根の上からかたりと物音がした。

『なーに泣いてんだよお前』

「……え…?」

聞こえてきたのは御内言葉ではなく烏の鳴き声だったが、ゴン太には理解出来るその言葉の軽さに覚えがあった。
顔を上げれば、月明かりに照らされて淡く桔梗ききょう色に輝く一羽の大烏がいた。

『ははっ!不細工な顔…文句の一つでも言ってやろうと思ってたのに思わずそんな気失せちゃったじゃん』
「王馬君…?どうして…どうやって……」

ゴン太は顔を拭うと、信じられないとばかりに目を見開く。

『ああ、この姿でもお前にはちゃんと言葉通じるって本当だったんだね。折角来てやったのに朝まで何も話せなかったらどうしようかと思ってたよ』
「どうやって来たの!?あの大穴はお父様にばれて塞がれちゃったのに…」
『穴が塞がってるのに気付いた後、急いで中央の方から出てきて、後は転身してここまで飛んできたんだよ。実は前にもあの大穴通らずにそうやって来た事あったしね』
「なっ…!?」
『あっ!何で言ってくれなかったのとか思っただろ?仕方ないだろ。オレは外じゃお尋ね者なの!いざって時の経路とかは色々と隠しておかなきゃならないんだよ』
「そっ、そっか…ごめん」
『とりあえずさ、あの大穴が塞がれた経緯だけでも教えてくれない?あんな林の中、年中虫追っ掛けてるお前でもなけりゃそうそう気付かないだろうし、奉公人の連中だって穴が離れの側にあってお前の字で書いた看板が立てられてるなら普通は親父さんよりまず先にお前に相談するはずだろ』
「うん…実は……」

ゴン太は一つ一つ順を追って話す。
北の地に出た人食いの大猿の事。大猿が転身出来る事。侵入経路が把握しきれていない事。屋敷を守るため何処に繋がっているか分からない大穴を放置する訳にはいかなかった事──

「ゴン太がもっと上手くやれてたら王馬君に余計な苦労かけずに済んだのに…本当にごめんなさい」
『……いや。谷間に繋がってるってうっかり口滑らせなかっただけお前にしちゃ良くやった方だよ。それに実際、オレの住みかが猿の居る領域に繋がってないとも限らないしな』
「えっ!?」
『猿は隧道ずいどうの先にある外界との境界から来た可能性もあるって谷間の親分衆が話してたんだよ。ついでにどっかの馬鹿の手引きのおかげで住人が死んでも発覚しにくい北の田舎まで連中が行けたんだろうって事も』
「ちょ…ちょっと待って?ゴン太そこまで知らないよ!」
『そりゃあある程度地方への情報も規制されてるだろうしね。考えてもみろ。蜂を食い荒らす寄生虫がよりによって女王蜂の巣穴の近くに潜んでます。なんて言ったら働き蜂はどうすると思う?女王蜂に指示を仰ぎに行く事すら出来なくなって、統率を失った巣の中は滅茶苦茶だ』
「…混乱を招かないように、あえて今は内部じゃなく外部から来てると思わせておくって事?」
『相変わらずお前は虫の話が絡んだ時だけ察しが良くなるねー。そういうとこ嫌いじゃないよ』
「それじゃあ王馬君危ないんじゃないの?谷間の人達も…」
『お前に心配される程オレ達は落ちぶれちゃいないよ。むしろ自分達が山烏達と同じような被害に遭う訳無いだなんて思いながら平和ボケかましてる宮烏連中の方がよっぽど危なっかしいと思うね』

王馬は翼を広げ、屋根から飛び降りる。
ぶわりと巻き起こった風が一纏めにされたゴン太の癖の強い長髪を揺らした。

『ひとまず大穴を塞いだ理由は分かったし。当初の目的でも果たすとしよっか』
「目的?」
『やだなぁ。忘れたの?蛍を見るんでしょ?』
「あ…うん!こっちだよ!」

ゴン太は急いで離れの裏手へ走り、王馬もそれを追いかける。
小川は蛍の光で溢れかえっており、さながら星空を見下ろしているかのようであった。

『空から見た時も光が凄かったけど、実際近寄ってみるとどれだけ数が多いかよく分かるねー』
「うん。今年は水かさが減ってて数も少ない方なんだけど、それでもこれだけの蛍さん達が集まってくれたんだ」

王馬に寄り添い、満足げにゴン太は語る。
夢で見た光景とは違ったものになってしまったが、ふわふわと柔らかな王馬の羽が心地よくてこれはこれで良いと思えた。

(ああ、誘って良かったなぁ…)

『ねぇ、ゴン太』
「なぁに?」
『お互い人形だとお前の方がでっかいけどさぁ、オレだけ鳥形ならオレの方が大柄になるね』
「…うん。何だか不思議な感じだね」
『このままゴン太をひっ掴んでさらってっちゃおうかな~』
「ええっ!?それは困るよ!ゴン太が勝手に居なくなったらまた家族に心配掛けちゃう!」
『嘘だよ。いくらなんでもお前みたいなでっかいの重たくて運べる訳無いじゃん』

鳥形であるが故に表情は分かりにくかったが、ゴン太をからかう王馬の口調はいつもより少し優しいように思えた。

『なんてのも。半分は嘘なんだけどね』
「?」
『ゴン太さ、オレと一緒に谷間に来る気無い?』
「え…?」

思いもよらない言葉に、ゴン太は王馬の目を見つめたまま固まる。

『お前、ここだと窮屈だろ?元は鳥形で暮らしてたのに、気分転換に飛ぶのも許して貰えずにずっと堅っ苦しい服着たまま人形でいるのなんて疲れない?』
「……確かに、ちょっとだけ嫌になる事はあるよ。気が済むまで飛んだり、虫さん達と空で競争したり追いかけっこしたりするどころか、誰にも見られない場所で隠れてしか鳥形になる事も出来ないし…でも…」

ゴン太は今日父に呼び出された時の事を思い出す。
家族が行方知れずになる気持ちをもう味わいたくないという父の言葉に、偽りは無いと思えた。

「それでも、やっぱりゴン太は家族の元に居たいよ。皆から馬呼ばわりされても、半端者扱いしかされなくても、それでもゴン太はこの家の八咫烏にんげんだし、こんな風になっちゃった後でも見捨てないでくれる家族にゴン太は何か少しでも報いたいんだ。だからごめんね。ゴン太は王馬くんとは一緒に行けない」

ゴン太は困ったように笑いながらも、真っ直ぐに王馬を見つめる。

『……ふーん』

石榴ざくろ色の瞳の奥に宿る覚悟を察したのか、王馬はそれを否定する事はしなかった。

「あ…でも」
『んー?』
「出来たら…これからも王馬君とはこうやって時々会いたいんだ。我が儘なのは分かってるけど…」
『別に良いよ』
「良いの!?」
『そのかわり、お前がお貴族様の暮らしに嫌気が差して耐えきれなくなったと思ったら、その時は無理矢理にでもかっさらってオレの部下にするつもりだからちゃんと覚悟しててよ。オレは狙った獲物は逃がさない主義だからね』
「…うん。ありがとう……」

王馬の返答に、ゴン太は思わず頬が紅潮するのを感じた。

(やっぱり、こういう時に人形でいるのって少し不便だなぁ…蛍さんの光で気付かれないと良いんだけど…)

いつの間にか、二人を取り囲むように蛍が舞っていた。
淡い光に照らされる王馬の羽の色は日が沈みきったばかりの宵闇の空のようで、ゴン太は思わず見とれる。

(綺麗だなぁ…)

『どうしたんだよ。こっちばかり見て』
「あ、ごめん…王馬君の羽に見とれちゃって…」
『へー。ゴン太はさー。人の姿のオレと大烏の姿のオレ。どっちが良い?』
「え?うーん…分かんないや。だってどっちも王馬君な事に変わりはないでしょ?ゴン太はどっちの姿の王馬君も好きだよ」
『…はぁー……お前って本当…』
「あれっ?ゴン太また何か変な事言っちゃった?」
『お前が変なやつなのはいつもの事だよ』
「ええっ!?」




『そういうところが好きなんだけどね』



変と言われて凹むゴン太の耳に王馬のその呟きは届いていなかったが、それでも王馬は満足そうだった。
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