旅は道連れあの世は情け


「ねぇ?ゴン太は殺されたら葬式はどんなのが良い?葬られ方くらい聞いといてあげるよ」

研究教室にて昆虫達の世話をする獄原に対して王馬がいつも通りのふざけた笑顔で聞いてみれば、獄原は驚いたように目を見開いた後で悲しげにくしゃりと顔を歪めた。

「何でそんな事聞くの…?」
「だってさぁ、言ってたじゃんお前。皆を守れるなら死んだって構わないって。もし本当にそうなったらちゃんと弔いしてやらなきゃなーって思っただけだよ」

オレって優しいからねと王馬が言ってみせれば、うつむいた獄原からそっかと返ってきて。それから暫くお互い無言になった後で獄原が口を開く。

「……もしも出来ることなら。虫さん達のごはんとして、食べられて終わりたいかな」
「うへぇ。思ったよりグロい事言うなお前!」
「ごめん…ただ、どうせ死ぬなら、ゴン太の体も誰かの命を繋ぐために使って欲しいなと思ったんだ」
「第一、人肉なんて食うやついるのかよ?」
「うん。例えば蝶々さんて花の蜜を吸っているイメージが強いと思うんだけど、腐肉や腐った果物なんかの汁の方が好きって種類も実は意外といるんだよ。モルフォチョウさんとかが属するタテハチョウ科の成虫さんとか。ほら、あそこに飾ってあるのがモルフォチョウさんだよ」

獄原が指差す方を見れば、時々ネット等で見かける青い光沢の羽根を持つ蝶の標本が飾ってある。
あんなにも美しい見た目で死体に群がるのかと思うと、王馬は薄ら背筋が寒くなった。

「なんかさー、毒々しいよね」
「うん。モルフォチョウさんには毒があるよ。幼虫さんの頃に餌として食べてる有毒植物の毒が羽化してからも体内に残ってるんだ」
「そういう意味で言ったんじゃないんだけど…本当に毒があるのかよ」

もしも獄原がコロシアイを躊躇わないような性格だったら、嘘がつける性格だったら、恐らくはこの教室にいる昆虫の一部は殺人の凶器と化していた事だろうなと王馬は思う。
ごく一般の人間が知る毒持ちの虫などほんの些細な数だけであり、昆虫に詳しい獄原のみしか知らないような物珍しい毒虫をけしかければいくらでも誤魔化しようがあるのだから、例え嘘が見抜けたとしても真実の立証はかなり困難なものとなっていた事だろう。

「他にもシデムシさんとか…シデムシさんは幼虫の時点でも既に腐肉食なんだ。それから雑種性だとコオロギさん達とか……あ、ごめん!また一人で勝手にべらべら喋っちゃって…」

水を得た魚のごとく昆虫について語っていた獄原は王馬が黙り込んでいるのに気が付くと、またやってしまったとばかりに慌て出し、頭を下げる。

「いやー。人が食われるシーンとか想像するだけで吐きそうになるんだけど。どうしてくれるのさお前。そんな事オレに頼む普通?いくらオレが悪の総裁でもそういう方面のは流石に勘弁被りたいんだけど」
「ごめん……でもどうせなら。ちゃんと弔って貰えるのなら。そうして貰いたいってのはゴン太の本音なんだ……ほんの一部でも良いんだ。誰かのごはんになって、それで誰かが生き長らえてくれるのなら。ゴン太も少しは誰かの役に立てるって事だから」

だってゴン太には、それくらいしか出来ないから。

肩から掛けた虫かごの紐を握りしめ、泣きたいのを堪えるように獄原は必死で笑顔を作ってそう呟いた。

「……仕方ないな。もしも出来そうならやってあげても良いよ。流石に全身は無理そうだけど、無事そうな部位があったら突っ込んどいてやる」
「…うん。ありがとう王馬君」
「なんて嘘だよ。そんな事する訳ないじゃん。気持ち悪い」
「………そう…だよね。ごめんね?変な事言っちゃって……今ゴン太が言った事は忘れて良いよ」

吐き捨てる王馬に酷いと抗議すらせず、獄原はただただ苦笑するばかりだった。









(嗚呼、あんな事、言ってたのになぁ…)

目の前で炎に包まれ、燃えていく獄原を見つめながら、王馬はかつて獄原としたそんな会話を思い起こしていた。

(あんなに黒焦げになったらさぁ、もう虫に食ってなんて貰えないよな…これを見ている悪趣味な奴らはあの時のオレ達の会話も聞いていた上でこんな処刑方法を思い付いたんだろうか)

結局のところ誰も守る事の出来なかったばかりか、王馬にそそのかされ、絶望して仲間を手にかけてしまった獄原の末路を王馬はただただ見つめる事しか出来なかった。







獄原のおしおきが終わってから暫くした後、王馬は灰の入ったバケツを抱え、獄原の研究教室へと入った。
その灰はかつて獄原だったものを集めたものだ。

無数に並べられた飼育ケースの前に立つと、おもむろにその蓋を開けて鷲掴みにした灰を入れていく。
灰まみれとなる虫達は最初はばたばたと羽根を動かしたりうねうねと這ったりしていたが、やがて灰の山に埋もれて見えなくなった。
バケツの中の灰の量が少なくなると水を加え、泥状になったそれを虫に向かってべちゃりと落とす。

何度も、何度も。執拗に、無感情に。一匹残らず殺していく。
傍目から見ればそれは、心優しい青年を死に追いやった者が、彼の愛した者達の命まで踏みにじっているようにしか見えないだろう。

「どうせこいつらゴン太が居なければいずれ死ぬんだしさぁ、どうせならさっさと殺して楽にしてやった方が幸せだよね。ゴン太だって皆の事死なせてあげようとしてたんだし、殺そうとした相手は違うけど形だけならこれで望みが叶ったね!いやー、手伝ってやるオレって本当に優しいね!」

全ての虫に手をかけ終えた後、唐突に作り笑顔を浮かべて放った言い訳じみたその一言は果たして誰に向けられたものなのか、それは王馬にしか分からない。


(……一人ぼっちで寂しく逝くなんてお前には似合わないよ)

沢山の虫達に囲まれ、幸せそうに笑っていた生前の獄原の顔を王馬は必死に思い浮かべようとする。
誰よりも優しくて、疑う事を知らなくて、故に残酷な現実に耐えきれなくて、それでも最後は身に覚えすら無い罪から逃げる事もせず最期の瞬間まで耐え続けた哀れな彼が、この地獄の学園の中で見せた安らぎの表情を。

(後はオレが何とかするから…だからお前はこの虫達と共にせめてあの世で見届けてくれ。この残酷なショーを台無しにしてやるその瞬間を!!)
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