汚泥まみれの二人の話
魔王山には、二人の魔王がいる。
勇者と呼ばれるはずだった剣士、オルステッドと、その友であり魔法を極める者、ストレイボウ。彼らは共謀し、アリシア姫を拐い、国王を殺し、ルクレチア王家を滅ぼさんとした──
と言うのが、現在ルクレチア国民達に広められている、二人についての見聞らしい。
「ストレイボウ。これは食べれるだろうか?」
魔物の残骸を掲げ、オルステッドはストレイボウに問う。
「いや、それ確か毒があるやつだぞ…」
「あ、そう…じゃあこっちは?」
「そっちは大丈夫だったと思う。味に関しては保証出来ないが」
「じゃあこれが今日の夕食って事で」
魔王と呼ばれる二人の若者は、魔王山内部を住居代わりとして、存外平穏に暮らしていた。
数ヶ月の事。オルステッドはアリシア姫を助けに魔王山へと二度目の登頂をし、そこで憎しみの感情に飲まれたストレイボウと対決して負け、そのまま死ぬはずだった。
だが何を思ったかストレイボウはオルステッドを組み敷き、アリシアの眼前で無体を働いたのだ。
目の前の信じられぬような光景に耐えられず気絶したアリシアを前に、ストレイボウはオルステッドに選択を迫った。
「お前がここに俺と共にずっと居続けると言うのなら、アリシアはルクレチアに無傷で返してやろう。だが拒むのならば俺は今ここでお前もアリシアも殺す」
拒否権などなかった。そもそもアリシアの事が無くとも、元よりオルステッドには帰る場所などもはや存在しないのだ。
ルクレチア王を殺し、魔王と呼ばれるようになった今のオルステッドに居場所を作れるのは、彼を陥れた張本人であるストレイボウだけなのだから。
「分かった…彼女だってきっと、父親を殺した私の傍にいるよりもその方が幸せだろう」
そうして、ストレイボウは魔物を使役して気を失ったアリシアを城へと送り届け、オルステッドは代わりに魔王山へと軟禁される事となった。
魔王と呼ばれるようになった以上、この山から出ることは滅多にかなわなくなった事と、四六時中常にストレイボウの傍にいなければならない事以外は特には不自由はしておらず、気付けばウラヌスやハッシュが同行する以前の二人きりで旅していた頃とあまり変わらない関係になっていた。
まるで、お互い死闘のぶつかり合いを繰り広げた事実など無かったかのように。
だがそれは、あくまでもお互い以外の人間に出会わない時のみだ。
「流石にたまには魔物の肉じゃなく普通のものが食べたくなるな…」
「まあ…ね。久しぶりに森に行ってみるかい?治り草で香草焼きにしたらまた少し変わるかもしれないし」
「……山の外に出るのは気乗りしないが、背に腹は変えられないか」
ストレイボウは愛用の杖を持ち、オルステッドにもう片方の手を差し出す。オルステッドもその手を握り返すと二人で山を下った。
逃げられるかもしれないという恐れの気持ちがあるのか、それとも幼い頃に年上ぶって手を引いていた事を思い出してか、ここに住むようになって以来、ストレイボウはよくこうしてオルステッドと手を繋いで歩く。オルステッドもストレイボウを安心させるために大人しくそれに付き合っている。
そうして、二人は森に着くと治り草やヨシュアの実などを採取し、皮袋にそれらを詰め込む。
「ストレイボウ。私はあちらの群生地の方に行ってみるけど、君はどうする?」
「ん。もう少しここで実が採れそうだからな。あらかた見つけたら俺もそっちに行く」
「分かった。なるべく早く来てくれよ」
「ああ」
こうして逃げる意志が無い事さえあらかじめはっきりさせておけば、ストレイボウも若干は傍を離れる事を許してくれる。
オルステッドが治り草の群生地へと赴き、一人でぶちぶちと治り草をむしっていると、がさがさと複数の足音が聞こえた。
(…まずい)
採取に夢中になって気付くのが遅れたせいで、ばれずに逃げるのも隠れるのももう間に合いそうにない。
現れた旅人らしき服装の男達と、ばっちり目が合う。
「誰だ…?」
「おい、こいつの髪と目の色…」
「き、貴様…まさか魔王の片割れか!?」
「おい!魔王が出たぞ!!」
(ああ、面倒臭い事になったな。ストレイボウが来る前に何とか片さなければ)
皮袋を地面に置き、鞘からしゅらりと剣を引き抜く。
「お、お前らを倒したらアリシア女王陛下に褒美を頂けるんだ」
「俺達みたいな国外の人間にも求婚権を与えて下さるそうだ」
「恨むなら国家転覆なんぞを狙ったお前ら自身の浅はかさを恨むんだな」
「……そうか。ならばそちらも悪く思わないでくれ。生憎と私が死ぬと困る奴がいるものでな」
オルステッドは一気に間合いを詰め、一人の喉元目掛けて剣を突き刺し、わずかに捻りを加えてから刃を引き抜いた。
生暖かい鮮血が飛び散る。
「ひいっ!?」
次に、その光景に怯んだ男の頭を叩き割った。
出来る限り苦しませぬよう、すぐに死ねるよう、オルステッドは無心で的確に急所を狙った。オルステッドの身体が、地面が、周りの木々や草花が、赤く赤く染まってゆく。
「さて…あと一人」
「く、くそぉっ!!」
最後に残った男はメイスを振り回し、半狂乱になってオルステッドに襲い掛かった。国を出た頃に身に付けていた革鎧は既に壊れ、今羽織っている防具はサーコートの下の鎖帷子のみだ。打撃武器は少々、分が悪い。
反撃の機会を狙うオルステッドに男はメイスを振り下ろす。
しかし、オルステッドを殴ろうとした男の手は、届く事は無かった。
ぱきりと、一瞬にして男の右腕が巨大な氷塊に閉ざされたのだ。
「なんっ…!?」
「てめえ、なに人のものに手出してんだよ」
男の腕を氷に閉ざした張本人、ストレイボウが怒りに満ちた表情を浮かべて現れる。
そこに先程までの穏やかさは無い。
「こいつはてめえらが殺して良い存在じゃねぇ。俺の、俺だけが好きにして良い存在なんだ」
ストレイボウが詠唱すると、今度は左腕が、足が、脇腹が、内側から爆ぜ、傷口から赤い花弁が咲く。男が悲痛な断末魔を上げた。
憎しみに飲まれたストレイボウはなるべく相手が長く苦しむように、あえて即死させずに内部から血液を凍らせていく。急激に凍る血液に血管が耐えられず皮膚が引き裂かれ、血染めの氷として現れているのだ。
「こいつは俺のだ。俺の、俺のものなのに、何で、なんでてめえらごときが」
「そこまでにしておけよ。ストレイボウ」
オルステッドは男の首に剣を突き立て、そのまま横に薙ぎ払って斬り落とした。
「おい、オルステッド」
邪魔しやがって。そう言うかのごとく殺意のこもった目で睨むストレイボウの前で、オルステッドは両手を広げる
「私は平気だよ。ストレイボウ。ほら、どこも怪我なんかしてない。返り血だけだ」
「…本当か?」
「ああ。だからもうこんなものに構わなくていい。帰ろう。私達の居るべき場所へ」
「………そうだな。分かった」
オルステッドが手を差し出すと、ストレイボウはややあってからその手を取った。
(まるで、財宝を守る竜のようだな)
まだ文字も上手く読めなかった頃、ストレイボウに読み聴かせて貰った異国の地に住む竜の物語を、オルステッドはふと思い出す。
洞窟に住むその竜は外に出てくる事は滅多に無かったが、洞窟の奥底に隠した財宝を狙う者達を決して許さず、例え相手が洞窟にさ迷い込んだだけの女子供であろうが容赦する事なく手にかけたという。
(彼が竜ならばさしずめ私はその財宝か。はたまた私が竜で彼が私にとっての財宝か…どちらにしろおこがましい考えか)
「オルステッド」
「何だい?」
「お前を傷付けていいのは俺だけだ。お前が俺以外の手に掛かって死ぬなんて、そんなの許さないからな」
「…ああ。分かってるよ」
繋がれた手に、ぎゅっと力がこもった。
そうして、魔王山に戻った後、ストレイボウはオルステッドを押し倒した。
あの日以降、他の人間と出会った後はいつもこうしてストレイボウはオルステッドを抱こうとするのだ。お前は俺の所有物だと、誰にも渡さないと主張するように。
最初こそ抵抗はあったものの、今ではオルステッドは拒む事なくそれを受け入れる。
「オルステッド。好きだ」
「ああ」
「愛している」
「知ってるよ」
「だがお前は俺の事など好きではないんだろう?」
「…私は、友人として君の事を好いているよ?」
「……」
その答えにストレイボウは舌打ちし、乱暴にオルステッドの服を脱がせにかかる。
「てめえのそういうところが大嫌いだ」
「ごめん」
「俺のこの行為にも、同情心で付き合ってるだけなんだろ」
「……違うよ。ただ」
オルステッドは苦笑いした。
「ただ、私にとって君はこの世にたった一人の親友だし、それ以外の感情を君に向ける事は出来ないと思う。本心でも無い言葉を囁かれたところで君だって納得しないのだろう?」
「……黙れ」
「なあ、ストレイボウ。私はきっと、どれだけ身体を重ねる事になったとしても、君に恋をする事は無いと思う。今までも、これからも。けれど…」
「黙れっつってんだよ」
もう何も聞きたくないとでも言うように、ストレイボウはオルステッドの顎を強引に掴み、噛み付くような口付けをした。
(ストレイボウ…向ける愛の形は違えど、私だって幼い頃からずっと君を慕い続けてきたんだ。君が全てを投げ捨ててでも私と共に居たいと望むのならば、魔王として世界全てを敵に回してでも私以外何もいらないというのならば…私はそれを受け入れるよ)
──きっと口に出したところで君に信じては貰えないのだろうけれど。
そう思いながら、オルステッドは静かに、ただただ切なげに瞳を閉じた。
勇者と呼ばれるはずだった剣士、オルステッドと、その友であり魔法を極める者、ストレイボウ。彼らは共謀し、アリシア姫を拐い、国王を殺し、ルクレチア王家を滅ぼさんとした──
と言うのが、現在ルクレチア国民達に広められている、二人についての見聞らしい。
「ストレイボウ。これは食べれるだろうか?」
魔物の残骸を掲げ、オルステッドはストレイボウに問う。
「いや、それ確か毒があるやつだぞ…」
「あ、そう…じゃあこっちは?」
「そっちは大丈夫だったと思う。味に関しては保証出来ないが」
「じゃあこれが今日の夕食って事で」
魔王と呼ばれる二人の若者は、魔王山内部を住居代わりとして、存外平穏に暮らしていた。
数ヶ月の事。オルステッドはアリシア姫を助けに魔王山へと二度目の登頂をし、そこで憎しみの感情に飲まれたストレイボウと対決して負け、そのまま死ぬはずだった。
だが何を思ったかストレイボウはオルステッドを組み敷き、アリシアの眼前で無体を働いたのだ。
目の前の信じられぬような光景に耐えられず気絶したアリシアを前に、ストレイボウはオルステッドに選択を迫った。
「お前がここに俺と共にずっと居続けると言うのなら、アリシアはルクレチアに無傷で返してやろう。だが拒むのならば俺は今ここでお前もアリシアも殺す」
拒否権などなかった。そもそもアリシアの事が無くとも、元よりオルステッドには帰る場所などもはや存在しないのだ。
ルクレチア王を殺し、魔王と呼ばれるようになった今のオルステッドに居場所を作れるのは、彼を陥れた張本人であるストレイボウだけなのだから。
「分かった…彼女だってきっと、父親を殺した私の傍にいるよりもその方が幸せだろう」
そうして、ストレイボウは魔物を使役して気を失ったアリシアを城へと送り届け、オルステッドは代わりに魔王山へと軟禁される事となった。
魔王と呼ばれるようになった以上、この山から出ることは滅多にかなわなくなった事と、四六時中常にストレイボウの傍にいなければならない事以外は特には不自由はしておらず、気付けばウラヌスやハッシュが同行する以前の二人きりで旅していた頃とあまり変わらない関係になっていた。
まるで、お互い死闘のぶつかり合いを繰り広げた事実など無かったかのように。
だがそれは、あくまでもお互い以外の人間に出会わない時のみだ。
「流石にたまには魔物の肉じゃなく普通のものが食べたくなるな…」
「まあ…ね。久しぶりに森に行ってみるかい?治り草で香草焼きにしたらまた少し変わるかもしれないし」
「……山の外に出るのは気乗りしないが、背に腹は変えられないか」
ストレイボウは愛用の杖を持ち、オルステッドにもう片方の手を差し出す。オルステッドもその手を握り返すと二人で山を下った。
逃げられるかもしれないという恐れの気持ちがあるのか、それとも幼い頃に年上ぶって手を引いていた事を思い出してか、ここに住むようになって以来、ストレイボウはよくこうしてオルステッドと手を繋いで歩く。オルステッドもストレイボウを安心させるために大人しくそれに付き合っている。
そうして、二人は森に着くと治り草やヨシュアの実などを採取し、皮袋にそれらを詰め込む。
「ストレイボウ。私はあちらの群生地の方に行ってみるけど、君はどうする?」
「ん。もう少しここで実が採れそうだからな。あらかた見つけたら俺もそっちに行く」
「分かった。なるべく早く来てくれよ」
「ああ」
こうして逃げる意志が無い事さえあらかじめはっきりさせておけば、ストレイボウも若干は傍を離れる事を許してくれる。
オルステッドが治り草の群生地へと赴き、一人でぶちぶちと治り草をむしっていると、がさがさと複数の足音が聞こえた。
(…まずい)
採取に夢中になって気付くのが遅れたせいで、ばれずに逃げるのも隠れるのももう間に合いそうにない。
現れた旅人らしき服装の男達と、ばっちり目が合う。
「誰だ…?」
「おい、こいつの髪と目の色…」
「き、貴様…まさか魔王の片割れか!?」
「おい!魔王が出たぞ!!」
(ああ、面倒臭い事になったな。ストレイボウが来る前に何とか片さなければ)
皮袋を地面に置き、鞘からしゅらりと剣を引き抜く。
「お、お前らを倒したらアリシア女王陛下に褒美を頂けるんだ」
「俺達みたいな国外の人間にも求婚権を与えて下さるそうだ」
「恨むなら国家転覆なんぞを狙ったお前ら自身の浅はかさを恨むんだな」
「……そうか。ならばそちらも悪く思わないでくれ。生憎と私が死ぬと困る奴がいるものでな」
オルステッドは一気に間合いを詰め、一人の喉元目掛けて剣を突き刺し、わずかに捻りを加えてから刃を引き抜いた。
生暖かい鮮血が飛び散る。
「ひいっ!?」
次に、その光景に怯んだ男の頭を叩き割った。
出来る限り苦しませぬよう、すぐに死ねるよう、オルステッドは無心で的確に急所を狙った。オルステッドの身体が、地面が、周りの木々や草花が、赤く赤く染まってゆく。
「さて…あと一人」
「く、くそぉっ!!」
最後に残った男はメイスを振り回し、半狂乱になってオルステッドに襲い掛かった。国を出た頃に身に付けていた革鎧は既に壊れ、今羽織っている防具はサーコートの下の鎖帷子のみだ。打撃武器は少々、分が悪い。
反撃の機会を狙うオルステッドに男はメイスを振り下ろす。
しかし、オルステッドを殴ろうとした男の手は、届く事は無かった。
ぱきりと、一瞬にして男の右腕が巨大な氷塊に閉ざされたのだ。
「なんっ…!?」
「てめえ、なに人のものに手出してんだよ」
男の腕を氷に閉ざした張本人、ストレイボウが怒りに満ちた表情を浮かべて現れる。
そこに先程までの穏やかさは無い。
「こいつはてめえらが殺して良い存在じゃねぇ。俺の、俺だけが好きにして良い存在なんだ」
ストレイボウが詠唱すると、今度は左腕が、足が、脇腹が、内側から爆ぜ、傷口から赤い花弁が咲く。男が悲痛な断末魔を上げた。
憎しみに飲まれたストレイボウはなるべく相手が長く苦しむように、あえて即死させずに内部から血液を凍らせていく。急激に凍る血液に血管が耐えられず皮膚が引き裂かれ、血染めの氷として現れているのだ。
「こいつは俺のだ。俺の、俺のものなのに、何で、なんでてめえらごときが」
「そこまでにしておけよ。ストレイボウ」
オルステッドは男の首に剣を突き立て、そのまま横に薙ぎ払って斬り落とした。
「おい、オルステッド」
邪魔しやがって。そう言うかのごとく殺意のこもった目で睨むストレイボウの前で、オルステッドは両手を広げる
「私は平気だよ。ストレイボウ。ほら、どこも怪我なんかしてない。返り血だけだ」
「…本当か?」
「ああ。だからもうこんなものに構わなくていい。帰ろう。私達の居るべき場所へ」
「………そうだな。分かった」
オルステッドが手を差し出すと、ストレイボウはややあってからその手を取った。
(まるで、財宝を守る竜のようだな)
まだ文字も上手く読めなかった頃、ストレイボウに読み聴かせて貰った異国の地に住む竜の物語を、オルステッドはふと思い出す。
洞窟に住むその竜は外に出てくる事は滅多に無かったが、洞窟の奥底に隠した財宝を狙う者達を決して許さず、例え相手が洞窟にさ迷い込んだだけの女子供であろうが容赦する事なく手にかけたという。
(彼が竜ならばさしずめ私はその財宝か。はたまた私が竜で彼が私にとっての財宝か…どちらにしろおこがましい考えか)
「オルステッド」
「何だい?」
「お前を傷付けていいのは俺だけだ。お前が俺以外の手に掛かって死ぬなんて、そんなの許さないからな」
「…ああ。分かってるよ」
繋がれた手に、ぎゅっと力がこもった。
そうして、魔王山に戻った後、ストレイボウはオルステッドを押し倒した。
あの日以降、他の人間と出会った後はいつもこうしてストレイボウはオルステッドを抱こうとするのだ。お前は俺の所有物だと、誰にも渡さないと主張するように。
最初こそ抵抗はあったものの、今ではオルステッドは拒む事なくそれを受け入れる。
「オルステッド。好きだ」
「ああ」
「愛している」
「知ってるよ」
「だがお前は俺の事など好きではないんだろう?」
「…私は、友人として君の事を好いているよ?」
「……」
その答えにストレイボウは舌打ちし、乱暴にオルステッドの服を脱がせにかかる。
「てめえのそういうところが大嫌いだ」
「ごめん」
「俺のこの行為にも、同情心で付き合ってるだけなんだろ」
「……違うよ。ただ」
オルステッドは苦笑いした。
「ただ、私にとって君はこの世にたった一人の親友だし、それ以外の感情を君に向ける事は出来ないと思う。本心でも無い言葉を囁かれたところで君だって納得しないのだろう?」
「……黙れ」
「なあ、ストレイボウ。私はきっと、どれだけ身体を重ねる事になったとしても、君に恋をする事は無いと思う。今までも、これからも。けれど…」
「黙れっつってんだよ」
もう何も聞きたくないとでも言うように、ストレイボウはオルステッドの顎を強引に掴み、噛み付くような口付けをした。
(ストレイボウ…向ける愛の形は違えど、私だって幼い頃からずっと君を慕い続けてきたんだ。君が全てを投げ捨ててでも私と共に居たいと望むのならば、魔王として世界全てを敵に回してでも私以外何もいらないというのならば…私はそれを受け入れるよ)
──きっと口に出したところで君に信じては貰えないのだろうけれど。
そう思いながら、オルステッドは静かに、ただただ切なげに瞳を閉じた。