ただ、それだけでいいから。



(こいつはいつだって自分自身に無頓着だ)

その肌に触れる度に、その体温の低さに自分自身の心までもがひやりとする事がある。

「どうしていつもお前はこんなに体が凍えるまで気付かないんだ!!風邪を引いてからでは遅いんだぞ!」
「そう言われてもなあ……気付いたら冷えてるんだよな」

いつも、その冷えきった頬を両手で包みこんでやり、術で暖めながらそう説教を垂れてはみるものの、返ってくるのはいつも通りの、知ったことかと言わんばかりの間延びした返事で、それが余計に神経を逆撫でる。

(そう、こいつはいつだって自分自身にひどく無頓着だ。だからこそ怖いんだ)

いつかそのまま、もうどれだけ暖めてやったとしても二度とその温もりが戻らなくなってしまう時が来るのではないかと。

(アニマが微塵も無いというのは、逆に言えば命が尽きるその瞬間を感じ取る事すら出来ないという事だ。その上こいつは自分自身の命を酷くぞんざいに扱う。いつ向こう見ずに突っ走って死んだっておかしくない)

「……頼むからあまり心配かけさせるな。私の預かり知らないところでお前に死なれたら困る…」
「何か言ったか?」
「あまり無茶をするなと言ったんだ!少しは自分の立場を考えろ!!」
「あー…はいはい」

そう面倒臭そうに返事しながらも、あいつは私の手を握り返してくる

「へへ…いつも思うけどさ、お前の手ってあったかいよな~」

こちらの心配などまるっきり分かっていないかのようにふにゃっとゆるんだ笑顔を見せてくるあいつに、少しばかりどきりとする。

「…お前は何でそんな上機嫌なんだ」
「ん?あー……何でだろう?お前に触れられてると、生きてるって感じがするからかな」
「どういう意味だそれは」
「さあな」

(こいつはいつだって、自分の気持ちをまるで他人事のように話す。まるで掴み所がないその言葉に、行動に、私はあとどのくらい振り回され続けるのだろう)

いつかふいに、そのまま跡形もなく消えてしまう気がして。だから放っておけない。

(どうか、私の目の届かぬところでその温もりを途絶えさせないでくれ)


そう願わずにはいられなかった。
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