ただ、それだけでいいから。
こいつと共に寝るとき、聞こえてくる呼吸音に時々耳を澄ましてみる事がある。
(俺にはアニマが無いから、もしもお前がこのまま逝ってしまっても、きっと気付かないんだろう)
だからこうして胸に顔をうずめて心臓の音を聞き、静かな呼吸の音を聞く。
とくりとくりと、すうすうと、静かに聞こえるその音が、俺を安心させてくれる。
「……ギュスターヴ…?」
「あ、悪い。起こしたか」
ぼんやりと目を開けたあいつに、ああ、ちゃんと今も変わらずこいつのアニマはここに在るのだと、穏やかな気持ちになる。
「どうかしたのか?」
「いや、ちょっとした生存確認?」
「…ふざけるな。いい加減にしろ」
「いひゃいいひゃい」
頬をつねられてたまらずシーツをばんばんと叩き、ギブアップの意図を示すとようやくあいつは俺の頬から手を離し、ため息をつきながら再び眠りに落ちる。
(お前は、誰よりも誠実で、馬鹿みたいに生真面目で、こんな俺なんかの我が儘に付き合ってくれてる)
(お前みたいなのは俺なんかに関わらないで、もっと幸せに生きるべきなのに)
自らの運命に巻き込むべきじゃないと分かってるのに、この温もりを失いたくないと叫ぶ自らの矛盾した想いが、つきりと胸に刺さる。
「……どうか、俺より先に死なないでくれよ」
その呟きは夜闇に紛れて、眠るあいつの耳に届く事は無かった。
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