風邪っぴきの誕生日
時は遡る事二十年近く前の事。
この日、フィガロでは双子の王子達の誕生日のお祝いで盛大な祭りが開催されるはずだったが、兄エドガーよりも幾分か体の弱いマッシュが風邪をこじらせ寝込んでしまったため、城の中はいつも以上にしんと静まりかえっていた。
「レネー、入るよ」
「ん…ロニ?」
コンコンと軽いノックの後に自分を幼名で呼ぶ声がして、マッシュはもぞもぞと布団から顔を出して答えた。
「レネー、水枕変えるからちょっと頭上げて?」
「うん…けほっ!けほっ!ごめんね。ロニ…」
「謝らなくても別にいいよ?レネーは何も悪くないんだから」
水枕を取り替えながら、エドガーはマッシュを落ち着けるようにそう言った。
「むしろ僕としては好都合だよ。いくら王子だからとはいえ、毎年毎年皆の前でにこにこして手を振るのはいい加減疲れるしさ」
「あはは…確かに。でも、何も僕の看病までしなくてもいいのに。後は侍女達に任せてもいいんだよ?」
「大丈夫。僕がやりたくてやってるんだし」
「でも、ロニの手、すっかり荒れちゃってるじゃないか」
「これくらいへーきへーき」
エドガーはマッシュの額に乗せていたタオルを取って冷たい氷水の中に入れ、固く絞ってまた乗せてやる。
そんな作業をずっと繰り返していたために、エドガーの手はすっかり荒れてしまったのだ。
「レネー、僕はね?ひとりで遊んでるよりも、こうしてずっとレネーの傍にいられる方が嬉しいんだよ」
「そうなの?」
「うん。ああでも、レネーが僕が傍にいるより一人でゆっくり寝てる方が落ち着くならもちろん止めるけど」
「ううん!僕、ロニが傍にいてくれる方が元気が出るもん」
「そっか。良かった」
安堵したようにふわりと笑って、エドガーはそう呟く。
「早く風邪治して、また一緒に遊ぼうね?」
「うん、約束だよロニ」
***
そして時は現在。ケフカを倒して二人が城に戻って一年ほど経った頃。
「兄貴、リンゴ剥いたよ?」
「っくしゅん!!…ああ、すまないなマッシュ。面倒かけて…」
「いいっていいって。兄貴は今まで頑張り過ぎたんだよ。大臣やばあやも心配してたし、この際ゆっくり休めって」
世界各地の復興の手伝いや城の整備などに奔走していたエドガーは、今までの疲れが一気に出たのか風邪を引き、寝込んでしまっていた。
「でもなぁ…纏めなければいけない書類もまだあるし」
「兄貴」
優しい、けれど少し拗ねたような声で、マッシュはエドガーをいさめる。
「昔さ、俺が病気がちだった頃いつも兄貴が看病してくれてただろ?少しくらいは恩返しさせてくれよ」
「…分かったよ。お前に任せる」
「なら良し。はい、あーん」
「ん」
マッシュはにこにこしながら、皮を剥いて食べやすい大きさに切ったリンゴを楊子に刺し、エドガーの口元へと運ぶ。
エドガーはそれをぱくりと口に含むと、しゃくしゃくと小気味良い音を立てて食べた。
「というかマッシュ…なんかお前、楽しんでないか?」
「ん?ああ、うん。だって夢だったし。兄貴の看病するの」
「ゆ、夢?」
エドガーは目をぱちくりさせる。
「だってさ、兄貴ってあんまり病気しなかったし、第一なったとしても"レネーに伝染ると困る"とか言って絶対俺を近付けようとしなかったし」
そう呟くマッシュの目は、どことなく寂しそうだった。
「俺はいつだって兄貴に世話になりっぱなしなのに、どうして俺は兄貴が苦しんでいる時に力になってやれないんだろうって…神様を恨んだりもしたよ」
「マッシュ…」
「だから城を出た後体を鍛えて、兄貴が困った時にはいつだって駆け付けて支えてあげられるようになろうって決意したんだけどな」
そう言ってマッシュは照れ臭そうに笑ってみせた。
「…ありがとうな。マッシュ」
エドガーもそれに答えるように微笑む。
「へへっ…そういや覚えてるか?二十年くらい前の今日、俺が風邪引いて生誕祭が中止になった時さ、兄貴ずっと俺の看病してくれてたの」
「ああ…そういえばそんな事もあったな」
「あの時、兄貴が一人で好きな事してるより、俺の傍にずっといれる方がいいって言ってくれて、すごく嬉しかったんだ」
そう言って微笑むマッシュの顔は本当に幸せそうで
「やっと、あの日の恩返しが出来た。俺にとってはこれが最高の誕生日プレゼントだよ」
エドガーは、まるで昔の自分自身を見ているような気分になった。
「…はは、本当に、あの時と正反対だな」
城を出るまでは自分よりも小さくて弱かった弟は、今では自分よりも大きく強く成長した。
二年前にコルツ山で再会した時、もう自分が隣で支えてやらなくても、マッシュは一人で生きていけると実感したけれど──
(それでも、お前は俺を傍で支えると言ってくれた。あの日の俺のように)
「マッシュ、もう少し近くに寄ってくれ」
「ん?ああ…うわっ!?」
それが堪らなく愛しくて、エドガーはマッシュを思いきり抱き締める。
「あ、兄貴っ…苦しいよ…」
「あははっ!悪い悪い。いや何、嬉しくてさ」
困惑するマッシュに、エドガーはいたずらっぽく囁く。
「俺も、お前がこうして傍にいてくれる事が何よりの誕生日プレゼントだ。ありがとう、マッシュ」
「…へへ、どういたしまして」
そんなこんなで、今年の二人の誕生日は、お互い大層幸せなものであったという。
この日、フィガロでは双子の王子達の誕生日のお祝いで盛大な祭りが開催されるはずだったが、兄エドガーよりも幾分か体の弱いマッシュが風邪をこじらせ寝込んでしまったため、城の中はいつも以上にしんと静まりかえっていた。
「レネー、入るよ」
「ん…ロニ?」
コンコンと軽いノックの後に自分を幼名で呼ぶ声がして、マッシュはもぞもぞと布団から顔を出して答えた。
「レネー、水枕変えるからちょっと頭上げて?」
「うん…けほっ!けほっ!ごめんね。ロニ…」
「謝らなくても別にいいよ?レネーは何も悪くないんだから」
水枕を取り替えながら、エドガーはマッシュを落ち着けるようにそう言った。
「むしろ僕としては好都合だよ。いくら王子だからとはいえ、毎年毎年皆の前でにこにこして手を振るのはいい加減疲れるしさ」
「あはは…確かに。でも、何も僕の看病までしなくてもいいのに。後は侍女達に任せてもいいんだよ?」
「大丈夫。僕がやりたくてやってるんだし」
「でも、ロニの手、すっかり荒れちゃってるじゃないか」
「これくらいへーきへーき」
エドガーはマッシュの額に乗せていたタオルを取って冷たい氷水の中に入れ、固く絞ってまた乗せてやる。
そんな作業をずっと繰り返していたために、エドガーの手はすっかり荒れてしまったのだ。
「レネー、僕はね?ひとりで遊んでるよりも、こうしてずっとレネーの傍にいられる方が嬉しいんだよ」
「そうなの?」
「うん。ああでも、レネーが僕が傍にいるより一人でゆっくり寝てる方が落ち着くならもちろん止めるけど」
「ううん!僕、ロニが傍にいてくれる方が元気が出るもん」
「そっか。良かった」
安堵したようにふわりと笑って、エドガーはそう呟く。
「早く風邪治して、また一緒に遊ぼうね?」
「うん、約束だよロニ」
***
そして時は現在。ケフカを倒して二人が城に戻って一年ほど経った頃。
「兄貴、リンゴ剥いたよ?」
「っくしゅん!!…ああ、すまないなマッシュ。面倒かけて…」
「いいっていいって。兄貴は今まで頑張り過ぎたんだよ。大臣やばあやも心配してたし、この際ゆっくり休めって」
世界各地の復興の手伝いや城の整備などに奔走していたエドガーは、今までの疲れが一気に出たのか風邪を引き、寝込んでしまっていた。
「でもなぁ…纏めなければいけない書類もまだあるし」
「兄貴」
優しい、けれど少し拗ねたような声で、マッシュはエドガーをいさめる。
「昔さ、俺が病気がちだった頃いつも兄貴が看病してくれてただろ?少しくらいは恩返しさせてくれよ」
「…分かったよ。お前に任せる」
「なら良し。はい、あーん」
「ん」
マッシュはにこにこしながら、皮を剥いて食べやすい大きさに切ったリンゴを楊子に刺し、エドガーの口元へと運ぶ。
エドガーはそれをぱくりと口に含むと、しゃくしゃくと小気味良い音を立てて食べた。
「というかマッシュ…なんかお前、楽しんでないか?」
「ん?ああ、うん。だって夢だったし。兄貴の看病するの」
「ゆ、夢?」
エドガーは目をぱちくりさせる。
「だってさ、兄貴ってあんまり病気しなかったし、第一なったとしても"レネーに伝染ると困る"とか言って絶対俺を近付けようとしなかったし」
そう呟くマッシュの目は、どことなく寂しそうだった。
「俺はいつだって兄貴に世話になりっぱなしなのに、どうして俺は兄貴が苦しんでいる時に力になってやれないんだろうって…神様を恨んだりもしたよ」
「マッシュ…」
「だから城を出た後体を鍛えて、兄貴が困った時にはいつだって駆け付けて支えてあげられるようになろうって決意したんだけどな」
そう言ってマッシュは照れ臭そうに笑ってみせた。
「…ありがとうな。マッシュ」
エドガーもそれに答えるように微笑む。
「へへっ…そういや覚えてるか?二十年くらい前の今日、俺が風邪引いて生誕祭が中止になった時さ、兄貴ずっと俺の看病してくれてたの」
「ああ…そういえばそんな事もあったな」
「あの時、兄貴が一人で好きな事してるより、俺の傍にずっといれる方がいいって言ってくれて、すごく嬉しかったんだ」
そう言って微笑むマッシュの顔は本当に幸せそうで
「やっと、あの日の恩返しが出来た。俺にとってはこれが最高の誕生日プレゼントだよ」
エドガーは、まるで昔の自分自身を見ているような気分になった。
「…はは、本当に、あの時と正反対だな」
城を出るまでは自分よりも小さくて弱かった弟は、今では自分よりも大きく強く成長した。
二年前にコルツ山で再会した時、もう自分が隣で支えてやらなくても、マッシュは一人で生きていけると実感したけれど──
(それでも、お前は俺を傍で支えると言ってくれた。あの日の俺のように)
「マッシュ、もう少し近くに寄ってくれ」
「ん?ああ…うわっ!?」
それが堪らなく愛しくて、エドガーはマッシュを思いきり抱き締める。
「あ、兄貴っ…苦しいよ…」
「あははっ!悪い悪い。いや何、嬉しくてさ」
困惑するマッシュに、エドガーはいたずらっぽく囁く。
「俺も、お前がこうして傍にいてくれる事が何よりの誕生日プレゼントだ。ありがとう、マッシュ」
「…へへ、どういたしまして」
そんなこんなで、今年の二人の誕生日は、お互い大層幸せなものであったという。
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