正直股間がヒュッってなった話
「………はぁ~…」
「やっほー。どしたのゴン太?ため息ばかりつくと幸せがどんどん減ってって最後にはポックリ死んじゃうよ?」
中庭で空を眺めながら大きなため息をつく獄原を見つけた王馬は、楽しいおもちゃを見つけたかのごとくその場に駆け寄り挨拶代わりの嘘を吐く。
「ええっ!?ゴン太まだ死にたくないよ!!」
「嘘だよ。で、なんでため息なんてついてるの?」
「それが…ゴン太、虫さんに昨日悪い事しちゃったんだ…」
「へー」
(全っ然興味無いけど一応聞いてやるか)
「何しちゃったの?指でうっかりプチっと潰しちゃったとか?」
「ゴン太はそんな事しないよ!」
「じゃあ何なのさ?」
「…昨日の夕方ね、夜行性の虫さん達のお世話をしようと思って研究教室に行ったらね、その……」
「?」
目を泳がせて妙に口ごもる獄原の頬が心なしか染まっている気がして、王馬は首を傾げる。
(何で照れてんだこいつ……あっ)
「もしかして交尾中の虫がいたとか?」
「えっ!?何で分かったの王馬君!!?」
「そりゃそんな態度してればね~。そっかー。オトモダチの大事な時間を邪魔しちゃったら流石のゴン太でも気まずくなっちゃうよね~」
「う、ん……それでね。そのアルゼンチンモリゴキブリさん達ね…」
「……は?おいゴン太。今なんて言った?」
聞き捨てならない単語が聞こえ、それまで笑っていた王馬は一瞬にして真顔になる。
「え?アルゼンチンモリゴキブリさんだよ。南米の森に棲むおっとりした動きのゴキブリさんなんだ」
「………」
「あれっ?ど、どこ行くの王馬君!?」
王馬はそそくさと立ち去ろうとするも、慌てた獄原に袖を掴まれそれは叶わなかった。
「いや、ちょっと用を思い出し…」
「もしかして王馬君もゴキブリさんの事嫌いなの!!?ゴキブリさんはゴン太の本当の家族も嫌がるけど、実際はゴキブリさんはすごく綺麗好きな虫さんなんだよ!特にモリゴキブリさんは森の掃除屋さんて呼ばれてて」
「やだなー!嫌いなんて一言も言ってないじゃん!単にゴン太の話が退屈過ぎたから聞く気が失せただけだよ!いくらオレが嘘つきでもそんな簡単に疑わないでくれる!?」
「ごっ…ごめん!!ゴン太早とちりしちゃった…」
息巻こうとした獄原を王馬は逆に強い口調で責め立て、獄原は叱られた大型犬のようにしょぼくれる。
「分かれば良いんだよ分かれば。あと早く手離せよ」
「あっ…ごめんね……その、退屈かもしれないけどさっきのゴキブリさん達の話続けてもいい?」
「…全く仕方ないな。じゃあ聞いてやるからありがたく思ってよ!」
「うん!ありがとう王馬君!!」
(あーあ、絡むんじゃなかった…こうなったらもう諦めて話に付き合うしかないか)
「それでね。ゴン太が現れたせいでゴキブリさん達びっくりしちゃったみたいで、女の子の方が隠れようとしたんだけど、まだ繋がったままだったから…」
「繋がっ…えっ?チンコ入ったままってこと?」
「うん、ゴキブリさんてこう…背を向け合ってお尻とお尻をくっ付ける感じで交尾するんだけど、虫さんて後ろ向きには走れないから、繋がったままだと体の小さい方が無理矢理ズルズル引っ張られちゃうんだよね…そのまま隠れて見えなくなっちゃったんだけど、もしも隠れる途中でポッキリ折れたりしちゃってたらどうしようって、昨日からずっと考えてて…」
「………」
「ゴン太が邪魔さえしなければゴキブリさん達もあんな目に遭わないで済んだのに…」
「………………」
後悔の念にさいなまれる獄原を見つめながら、王馬は思った。
いくらゴキブリといえどオスはオス。
人間に例えれば男のロマン砲を掴まれて無理矢理地面を引きずり回されるような状況であろうか。
そんな男の大事なシンボルがちぎられそうな状況、想像するだけで流石の王馬も顔を青ざめさせざるをえなかった。
「…本当酷いな」
男にとってのショッキング事案な話に思った事がつい口に出る。
「ううっ…!!やっぱり王馬君もそう思うよね…ゴン太は本当にバカだ…!」
「え?あっ、嘘だよ嘘!きっとそいつも無事だって!」
王馬がうっかり呟いた一言を自身に言われたのだと勘違いした獄原が頭を抱えてうずくまるのを見て、王馬は暫くの間必死のフォローを入れる羽目になったという。
「チンコもげそうになるとかヤベェな…」
「うん…虫の話とは分かっていても、僕も正直聞いてるだけで痛くなったよ…」
そしてたまたまその近くを通りかかったせいでうっかり話を聞いてしまった百田と最原も、青い顔をして思わず下半身を押さえるのだった。
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