孰れ染まれど今はまだ白く
がさがさ、がさがさと草が擦れ合う音がする。
「こっちだ。早く来いよオルステッド」
「まってよストレイボウ。おいてかないでよ」
「おいてくわけないだろ。まったく」
わあわあ、わあわあとはしゃぐ声がする。
幼き少年達は騒がしく喋り合いながら、村外れの藪をかき分け、歩いていた。
「ほんとにこんなところにあるの?」
「ああ。こないだ散歩してるとき、葉っぱのかたちで気がついたんだ。ほら、あれだ」
ストレイボウは藪の中に生える低木を指差し、駆け寄る。そこにはまだ白く小さな実がぽつぽつとなり始めていた。

「ほら、桑の木だ。小さいけど実もなってる」
「ほんとだ!いっぱいなってる!」
「な?俺の言った通りだったろ?」
「うん!」
「お前、まだちっちゃいから、大きい木だと上の方になってる実はとれないもんな。これくらいの高さなら全部とれるだろ?」
「うん!とどくよ。ほら」
ストレイボウに証明するようにオルステッドは枝を掴んで引き寄せてみせる。
「よかったな。ここの実は全部お前が一人じめで食べれるぞ」
「ひとりじめ…?ううん。そんなことしないよ?ストレイボウもいっしょにたべるんだよ?」
「え?いや、俺はいいよ」
「だーめ!いっしょにたべるのっ!」
「えぇー…」
ほっぺたを膨らませ、地団駄を踏んで抗議するオルステッドにストレイボウは困惑した。
(人がせっかく一人で見つけたのをゆずってやろうって言ってるのに…)
田舎暮らしの彼らにとっては甘い木の実は最高のおやつだ。誰にも気付かない場所にひっそり生えていたのならば一人占めしたいのが子供心というものだろう。
それをあえて我慢し、年下のオルステッドに譲る事で年上の威厳を保ちたいストレイボウとしては、オルステッドの反応は思ってもみないものであった。
「何でだよ?お前だっていっぱい食べれた方がいいだろ?」
「うう〜…そうだけど…そうじゃないの!ストレイボウとたべたいの!いっしょじゃなきゃおいしくないの!」
「は…?」
「いっしょじゃなきゃ、ひとりじゃたべててもつまんない!いっしょにたべて、おいしいねっていいあいっこしたいの!」
「そんな理由で自分が食うぶんが少なくなってもいいってのか?」
「そんなりゆーでじゃーなぁーあーいーー!!」
「あーあー分かった分かった。いっしょに食べよう。な?」
とうとう泣き出しそうになったオルステッドにストレイボウはとうとう折れ、なだめるように言い聞かせる。
「…ほんと?」
「本当だって…えーと、そうだな。一人でこんなに食べたらきっと腹も痛くなるしな。二人で分け合って食べるくらいなのがちょうどいいかもしれないな…うん。きっとそれがいい」
「うん!おなかいたくなるとこまるから、きっとそれがいいよ!えへへ…」
「はは……はぁ…」
言われた言葉をまるで自らの意見のように喋るオルステッドにストレイボウは苦笑いを返した。
「それじゃ戻るか。また時々熟れてるかどうか見に来ような」
「うん!いっしょにみにこようね!たのしみだね!」
「ああ、そうだな」
「おいしくそだつといいね!」
「ああ」
そうしてまた、二人は藪をかき分け、仲良く村へと帰って行った。
お互いの行く末が、桑の実のようにいずれ赤く、黒く染まりゆく事など、まだ白く無垢な彼らは、知る由もない。
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