イタズラしちゃうよ!
それは今から数十分前の出来事───
「ブルー!とりっくおあとりいと!!」
「ん?」
背後からいきなり聞こえた聞き覚えのある声にブルーが振り向くと。そこには何とも珍妙な格好をしたクーンの姿があった。
カボチャをくりぬいたような形の帽子をかぶり、まるでおとぎ話に出てくる王子様のような派手なコートとカボチャパンツを着、更にはオレンジと紫という奇抜な組み合わせのボーダー靴下と、爪先がとんがり上を向いた魔女のような靴を履いていた。
例え妖魔でも普通はここまで妙ちきりんな格好はしないだろう。
「……おい。何だその奇妙奇天烈な格好は?さっきのトリックなんちゃらとかいう言葉の意味は何だ?術と何か関係でもあるのか?」
ブルーはクーンをいぶかしげな目で見る。
「んーとね。今日は"はろうぃん"だから、こうしてお菓子を集めるの」
「はろうぃん?」
「どっかのリージョンの行事なんだって。人間の子供がね、モンスターとか妖魔みたいな格好をしてお家を巡るんだって」
「…お前は元々モンスターだろう。いつもの姿で良いんじゃないのか?」
「メイレンが『せっかくだからおめかししましょう』って言って無理矢理着せたんだもん…これ動きにくいからボクも着たくなかったんだけど」
「ふん、あの女らしいな」
嫌がるクーンを押さえ付け、衣装を着せようとするメイレンの姿が、ブルーにも容易に想像出来た。
「それでね?大人の人に向かってさっきの言葉を言うんだ。それでお菓子をくれた人には何もしないけど、くれなかったらいたずらしちゃうんだよ?」
そう言ってクーンは飴やチョコやガムなどのたっぷり入ったカゴを、ブルーの前に差し出した。
「ふーん…迷惑な行事もあったものだな」
「で、ブルーもくれるよね?」
「は?何をだ」
「も~!ボクの説明聞いてたの?お菓子だよお菓子!くれないとイタズラしちゃうよ?」
「悪いが菓子なんぞ持ち合わせていない。他の奴らを当たれ」
「ええー!?やだやだ!!ブルーもお菓子ちょうだいよ~」
「ええいひっつくな!離せ!!」
ブルーは足にしがみついて菓子をねだるクーンを、わずらわしげにひっぺがした。
「あいたっ!!」
その勢いでクーンは床に尻餅をつく。
「じゃあな」
「むぅ~~!ブルーのバカ!オニ!!悪魔~!!」
転んだクーンを心配する素振りすら見せず、そのままスタスタとその場を去ろうとするブルーに、クーンは怒りをあらわにした。
「馬鹿で鬼で悪魔で結構」
「う~~~……いいもん。分かったもん…じゃあイタズラするからねっ」
クーンは小さな声でそう呟き、ブルーの背後にそっと忍び寄ると、人差し指を突き出した状態で両手を合わせ──
「リュート直伝…千年殺しぃぃっ!!!!」
「ぐはあああぁぁぁっ!!!??」
勢いよく、カンチョーを放った。
***
「……という訳だ…」
「なるほど。先程ヒューズも尻を押さえながら私の所に来たが、そういう事だったのだな」
ベッドにうつ伏せになり、尻の痛みに耐えるブルーに、ヌサカーンはしれっと言い放つ。
「痛っ…くそっ!リュートめ…よくもあの犬ガキに余計な技を仕込んでくれたな……後でクーン共々超風を食らわせてやる」
「だがブルー、お前も悪いと思うぞ?お前はヒューズと違ってリージョン移動が出来るのだから、すぐにどこぞの菓子屋にでも飛んで菓子くらい買ってきてやれば良かったものを…」
「俺は早く術の資質を集めなければならないんだ!!そんな下らない事に時間を割いている暇は無…はぁぐっ!!?」
大声を上げた拍子に、またしてもブルーの尻に激痛が走る。
「暫く安静にしていなければ確実に悪化するぞ」
「ぐっ…」
「たかが菓子一つ買う時間をけちったせいで、余計に時間を食う事になったな」
「うぐぐ…」
「これはお前自身が招いた災難だ。治るまでに、己の浅はかな行動をしっかり反省しておく事だな」
「……う、ううう…」
ヌサカーンの容赦ない言葉に言い返す事も出来ず、ブルーは枕に顔を埋めて悔しがった。
「さて、それではなるべく早く回復できるように私が治療してやるとするか…ブルー、尻を出したまえ」
「…は?」
ヌサカーンのセリフが理解出来ず、ブルーは思わず聞き返す。
「薬を塗ってやるから尻を出せと言ったんだ」
「なっ…!?い、いいっ!!自分で塗るから薬だけ寄越せ!!」
ブルーはとたんに妖魔のように青ざめた顔色になり、ベッドから降りようとする。
「落ち着け。大丈夫だ。悪いようにはしない」
が、ヌサカーンに肩をがっちり掴まれ、それは叶わなかった。
「見栄すいた嘘をつくな!思いきり顔がニヤけているぞ!!」
「ふははは。なーに遠慮はいらんぞははははははは」
「ギャー!!?やめろ!!服をめくるなぁぁぁぁ―――!!!!!」
***
「メイレーン!リュート~!見てみて!!お菓子いっぱい貰えたよ~」
「あら、良かったわねぇ」
「おー!やったなクーン」
「えへへ…いっぱい貰ったから二人にもちょっとあげるね」
「まぁ、ありがとうねクーン」
「ありがとな~。みんな快くお菓子くれたか?」
「うん!でもブルーとヒューズのおじちゃんはお菓子くれなかったんだ…ブルーはボクの事投げたしヒューズのおじちゃんはボクの事撃とうとしたんだよ」
「そりゃひでーな。ちゃんと俺の教えたイタズラかましてやったか?」
「うん!すごくスッキリした!!だから二人がお菓子くれなかった事、ボク許してあげるんだ」
「ははっ!!そっかー」
「ねぇ、イタズラってどんなのやらかしたの?」
「ん?えへへ、メイレンにはひみつ~。ねー、リュート」
「おう。女の子にはにはちょっと言いづらいイタズラだしな~」
「え~…何よう…すごく気になるんだけど」
「二人だけのひみつだもんね~」
「な~」
数日後、痛みは引いたものの一向に怒りの収まらなかったブルー、そしてヒューズに酷い目に遭わされるとも知らずに、クーンとリュートはお菓子を頬被りながら呑気に笑っていたという。
「ブルー!とりっくおあとりいと!!」
「ん?」
背後からいきなり聞こえた聞き覚えのある声にブルーが振り向くと。そこには何とも珍妙な格好をしたクーンの姿があった。
カボチャをくりぬいたような形の帽子をかぶり、まるでおとぎ話に出てくる王子様のような派手なコートとカボチャパンツを着、更にはオレンジと紫という奇抜な組み合わせのボーダー靴下と、爪先がとんがり上を向いた魔女のような靴を履いていた。
例え妖魔でも普通はここまで妙ちきりんな格好はしないだろう。
「……おい。何だその奇妙奇天烈な格好は?さっきのトリックなんちゃらとかいう言葉の意味は何だ?術と何か関係でもあるのか?」
ブルーはクーンをいぶかしげな目で見る。
「んーとね。今日は"はろうぃん"だから、こうしてお菓子を集めるの」
「はろうぃん?」
「どっかのリージョンの行事なんだって。人間の子供がね、モンスターとか妖魔みたいな格好をしてお家を巡るんだって」
「…お前は元々モンスターだろう。いつもの姿で良いんじゃないのか?」
「メイレンが『せっかくだからおめかししましょう』って言って無理矢理着せたんだもん…これ動きにくいからボクも着たくなかったんだけど」
「ふん、あの女らしいな」
嫌がるクーンを押さえ付け、衣装を着せようとするメイレンの姿が、ブルーにも容易に想像出来た。
「それでね?大人の人に向かってさっきの言葉を言うんだ。それでお菓子をくれた人には何もしないけど、くれなかったらいたずらしちゃうんだよ?」
そう言ってクーンは飴やチョコやガムなどのたっぷり入ったカゴを、ブルーの前に差し出した。
「ふーん…迷惑な行事もあったものだな」
「で、ブルーもくれるよね?」
「は?何をだ」
「も~!ボクの説明聞いてたの?お菓子だよお菓子!くれないとイタズラしちゃうよ?」
「悪いが菓子なんぞ持ち合わせていない。他の奴らを当たれ」
「ええー!?やだやだ!!ブルーもお菓子ちょうだいよ~」
「ええいひっつくな!離せ!!」
ブルーは足にしがみついて菓子をねだるクーンを、わずらわしげにひっぺがした。
「あいたっ!!」
その勢いでクーンは床に尻餅をつく。
「じゃあな」
「むぅ~~!ブルーのバカ!オニ!!悪魔~!!」
転んだクーンを心配する素振りすら見せず、そのままスタスタとその場を去ろうとするブルーに、クーンは怒りをあらわにした。
「馬鹿で鬼で悪魔で結構」
「う~~~……いいもん。分かったもん…じゃあイタズラするからねっ」
クーンは小さな声でそう呟き、ブルーの背後にそっと忍び寄ると、人差し指を突き出した状態で両手を合わせ──
「リュート直伝…千年殺しぃぃっ!!!!」
「ぐはあああぁぁぁっ!!!??」
勢いよく、カンチョーを放った。
***
「……という訳だ…」
「なるほど。先程ヒューズも尻を押さえながら私の所に来たが、そういう事だったのだな」
ベッドにうつ伏せになり、尻の痛みに耐えるブルーに、ヌサカーンはしれっと言い放つ。
「痛っ…くそっ!リュートめ…よくもあの犬ガキに余計な技を仕込んでくれたな……後でクーン共々超風を食らわせてやる」
「だがブルー、お前も悪いと思うぞ?お前はヒューズと違ってリージョン移動が出来るのだから、すぐにどこぞの菓子屋にでも飛んで菓子くらい買ってきてやれば良かったものを…」
「俺は早く術の資質を集めなければならないんだ!!そんな下らない事に時間を割いている暇は無…はぁぐっ!!?」
大声を上げた拍子に、またしてもブルーの尻に激痛が走る。
「暫く安静にしていなければ確実に悪化するぞ」
「ぐっ…」
「たかが菓子一つ買う時間をけちったせいで、余計に時間を食う事になったな」
「うぐぐ…」
「これはお前自身が招いた災難だ。治るまでに、己の浅はかな行動をしっかり反省しておく事だな」
「……う、ううう…」
ヌサカーンの容赦ない言葉に言い返す事も出来ず、ブルーは枕に顔を埋めて悔しがった。
「さて、それではなるべく早く回復できるように私が治療してやるとするか…ブルー、尻を出したまえ」
「…は?」
ヌサカーンのセリフが理解出来ず、ブルーは思わず聞き返す。
「薬を塗ってやるから尻を出せと言ったんだ」
「なっ…!?い、いいっ!!自分で塗るから薬だけ寄越せ!!」
ブルーはとたんに妖魔のように青ざめた顔色になり、ベッドから降りようとする。
「落ち着け。大丈夫だ。悪いようにはしない」
が、ヌサカーンに肩をがっちり掴まれ、それは叶わなかった。
「見栄すいた嘘をつくな!思いきり顔がニヤけているぞ!!」
「ふははは。なーに遠慮はいらんぞははははははは」
「ギャー!!?やめろ!!服をめくるなぁぁぁぁ―――!!!!!」
***
「メイレーン!リュート~!見てみて!!お菓子いっぱい貰えたよ~」
「あら、良かったわねぇ」
「おー!やったなクーン」
「えへへ…いっぱい貰ったから二人にもちょっとあげるね」
「まぁ、ありがとうねクーン」
「ありがとな~。みんな快くお菓子くれたか?」
「うん!でもブルーとヒューズのおじちゃんはお菓子くれなかったんだ…ブルーはボクの事投げたしヒューズのおじちゃんはボクの事撃とうとしたんだよ」
「そりゃひでーな。ちゃんと俺の教えたイタズラかましてやったか?」
「うん!すごくスッキリした!!だから二人がお菓子くれなかった事、ボク許してあげるんだ」
「ははっ!!そっかー」
「ねぇ、イタズラってどんなのやらかしたの?」
「ん?えへへ、メイレンにはひみつ~。ねー、リュート」
「おう。女の子にはにはちょっと言いづらいイタズラだしな~」
「え~…何よう…すごく気になるんだけど」
「二人だけのひみつだもんね~」
「な~」
数日後、痛みは引いたものの一向に怒りの収まらなかったブルー、そしてヒューズに酷い目に遭わされるとも知らずに、クーンとリュートはお菓子を頬被りながら呑気に笑っていたという。
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