三つの街改革



「…という訳で大掛かりな都市の改修をする事にした」

詰め所に着いた偽ギュスターヴは、先程の話し合いの詳細を兵士達へと説明する。

ちなみに兵士はほぼ全員があんぐりと口を開けて固まっていた。

「街の配置等はまだ決めていないのだが、この組み合わせの発案者のモイによれば鍛冶屋街を挟むように商店街を設置すれば良いのではないかとの事だが…」

「…ったい……」

「ん?」

「絶っっっ対反対です!!!」
「そうです!嫌ですよそんなの!!」
「考え直して下さいギュスターヴ様!!」

兵士達は口々に叫んだ。

「…お前らそんなに嫌か?」
「当たり前ですよ!何ガキの言う事間に受けてんすかギュスターヴ閣下!!?」
「え?何?君って僕の事そんな目で見てたの?」

モイはドス黒いアニマを放ちながら先程発言した兵士の方を見る。

「あ、いやついうっかり口が滑って…」
「口が滑ったって事は思ってたんだよね?やだなぁ心外だなぁ……とりあえずこの人殴り殺していいですかギュスターヴ様?」

モイは鈍器と言ってもいい馬鹿デカい根棒のような愛用の杖を構え、まるで玩具を与えられた幼子のように無垢な笑顔で偽ギュスターヴに問い掛ける。

「ひぃぃっ!!?お許し下さいモイ将軍!!」
「おい止めろモイ!そいつが可哀相だろ!」
「むぅ~…ボルス兄ちゃんがそう言うなら止めるよ」

モイは不満げに杖を下ろした。

(た、助かった…ボルス将軍。ありがとうございます…)

うっかり口を滑らせた兵士はホッと胸を撫で下ろした。


「と…とにかく歓楽街を無くすなんて事俺達は断固反対です!」

他の兵士がモイに若干怯えつつも果敢に言い放つ。

「そうっすよ!!ギュスターヴ様も分かりますでしょう?歓楽街は俺達兵士達にとっては潤いの場所…ハン・ノヴァは男どもの夢の土地なんすよ!?」
「男だけじゃないわ!」
「そうよ!この過酷労働の中で生きるアタシ女兵達にとってはCブロック地区のホストクラブのリュー君だけが唯一の癒しなんだから!!」

女兵士達もつられて叫ぶ。

「俺達はもうハン・ノヴァの歓楽街無しじゃ兵士なんてやってらんないっすよ!」
「歓楽街が無くなるなんて俺は嫌だぜ!もしこの都が鍛冶屋街と商店街だけになるってんなら俺はこの軍を抜けさせてもらう!」
「俺も!!」
「俺だって!!」
「あたしもよ!!」

「……そう、それならそれでいいわよ」

ミカが静かに、しかし愛用の槍を構えながら呟く。

「ただし抜けるなら半殺しでは済まさないけどね」

イシスも弓矢をセットする。

「そうだねぇ~。言う事聞かない人にはお仕置きしなきゃね」

モイも再び杖を持ち直した。

(ギャァァァーー!!?)
(やべぇやべぇ死にたくない!!)

「おいおいおい!三人とも落ち着けって!」

(ナイス制止ですボルスさん!!)
(流石はボルス将軍!)

「ボルス…こいつらはギュスターヴ様に盾突くつもりなんだよ?」
「そりゃまぁ、そうだけど…」
「ここでこの者達を排除しなければギュスターヴ様はお命を狙われるかもしれない…貴方はそれでもいいの?」
「うっ…そ、それは嫌だ!!」
「じゃあどうすべきか分かるよね?ボルス兄ちゃん」
「……………」

ボルスは少し迷った揚句、斧を手に取った

(って丸め込まれてんじゃねぇぇぇー!!)
(うわぁぁぁ最悪だぁぁぁーー!!!)

「…四人ともいい加減にして下さい」
「サルゴン!だってこいつら…」
「焼殺…食らいたいんですか?」

有無を言わせぬ表情であった。
いわゆる顔は笑っているけど目は笑っていないという奴である。

「わ…分かったわよ…止めればいいんでしょ止めれば」

四人は渋々ながら武器を降ろした。

(ナイスですサルゴン将軍!)
(あんた神様だよ!!)

兵士達は心の中でサルゴンを拝み倒した。

「ゴホン!えー…お前らがそう言うのなら仕方ない」

偽ギュスターヴは咳払いをしてその場を静める。

「分かって頂けたんですね!?」
「ああ…お前達の思いはよく伝わった」
「じゃあ…」
「なら一つのブロックに歓楽街全ての店を詰め込んで開いたブロックに商店街と鍛冶屋街を設置する事にしよう」
「えぇぇぇ~~~」
「そんなぁ…」

兵士達が落胆の声を上げる。

「別に店の数が減る訳でもあるまいしいいだろうが。どうせどの地区でも土地の空きは多いのだから多少狭くなるくらいどうという事あるまい」
「でも…」
「商店街が無ければここに流れてきた住民は些か暮らしづらいだろう?」
「ま、まぁ言われてみれば確かに…」
「鍛冶屋街が無ければ戦で使う武器が足りなくなるかもしれんだろう?」
「そ、その通りっす…」
「ならば歓楽街が狭くなる事には目をつむろうではないか。大義のためには多少の犠牲は付き物だ」
「…分かりました」
「俺達が間違ってましたよ」
「ギュスターヴ閣下は我ら兵士や一般人の事を考えてこのようにして下さったのですね…」
「一生ついて行きます!ギュスターヴ陛下!」
「ギュスターヴ様ばんざーい!!」

兵士達は口々に偽ギュスターヴを褒め讃えた。

「おお、もう洗脳完了か。相変わらず手のお早い事で」
「口を慎めトーワ」
「だってコレ明らかに」
「よしトーワ。お前の給料20%カッ…」
「分かった黙る!それだけは止めろ!!」

トーワは慌てて叫んだ。

そんな訳でハン・ノヴァでは大規模な工事が行われる事となるのだった。






──そして数ヶ月後


「ここにエッグが…」

タイクーン・ウィルことウィル・ナイツはハン・ノヴァの都から漂うエッグの強大なアニマを感じ取り、忌ま忌ましげに呟く。

「おじいちゃん、大丈夫?顔真っ青だよ?」
「あ…ああ、大丈夫じゃよジニー」

心配するように寄り添ってきたジニーの頭を、ウィルはくしゃくしゃと撫でてやった。

「ここがギュスターヴ公の都か」
「結構広いですねぇ~」
「ミーティア…観光目的じゃないのよ?」
「わ、分かってますよ。プルミエールさん」
「しっかし変だなぁ…」

ロベルトが首を傾げる。

「何がだ?」
「ハン・ノヴァの市街地って全域が歓楽街って事で有名なのに…こりゃどうみても商店街だろ?」
「隣のBブロックは鍛冶屋街だったしね」
「あ、それは今ここを占拠している偽ギュスターヴ軍が不便利だからと大規模改修したってヴァンアーブル先生が」

「な、何だとぉーーっ!!?」

ロベルトが信じられないとでも言うように叫んだ。

「別に問題ないだろ」
「問題あるわ!お前考えた事ないのかよグスタフ!?」
「?」
「全域が歓楽街って事はつまり男にとって超ウハウハなんだぞ!?そんな夢の都を亡きものにするとは…エッグのやつ許せねぇ!!」
「……」
「…あ、あれ?みんなどうしたんだ?」
「見損なったぞロベルト」
「まさか貴方がそんな男だとはね」
「男の風上にも置けん奴じゃの」
「ロベルトのエッチ!」
「ロベルトさん…私幻滅しました」
「え、い…いやいや!!ジョークだってジョーク!!」
「明らかに本気の目だったじゃない」
「ゔ」

プルミエールのツッコミにロベルトは何も言い返せなくなる。

「これだから男ってやーね。全くもう」
「ジニーちゃ~ん…信じてくれよぉ…」
「べ~っだ!すけべなロベルトなんて大っ嫌いだもん!!」

泣き付くロベルトにジニーは容赦なく辛辣なセリフを言い放つ。

「そ…そんなぁ~…」

(それにしてもギュスターヴ公の都が歓楽街だらけだったというのは本当だったのか…父上達から聞いてたとはいえ少しショックだな)
(グスタフさん何を考え込んでいるのでしょうか…?はっ!もしやロベルトさんと同じでムッツリな事を!?)


そんな感じで今回の行動がやんわりとナイツ側のチームワークを乱す事となり、なんだかんだで結果オーライだった偽ギュスターヴ達であった。





「………はぁ。歓楽街を無くしてこの都も清潔感漂う美しい街にしたかったのに…」
「な?オレの言った通りだろ」
「五月蝿いわよキメラ野郎。ああ頭が痛い…」
「本当だよね。全く、何でこう煩悩まみれの人間しかいないのかな。この国は…」
「へっ!そりゃ当たり前だろ。煩悩まみれでも無けりゃこんな歓楽街しか無い都に誰が好き好んで住もうとするかよ」
「ねー?ぼんのーって何なのイシス兄ちゃん」
「…あと三年経ったら教えてあげるよ」
「えぇ~!?やだやだ!今知りたいよ~!」

「あの~…ギュスターヴ様……」
「何だボルス。帳簿なんか持って」
「今回の大規模改修でかなり出費がかさんだんですが、足りない分は一体どうすれば…」
「貴様が何とかして金引っ張って来い。どっか切り詰めれば何とかなるだろう」
「無茶言わないで下さいよ!?」
「出来ないならお前の給料から足りない分引くぞ」
「……うっ、うう…」
「ギュスターヴ様!ボルス泣いてますから!!あんまり追い詰めてボルスに辞められたりでもしたら軍資金のやりくりがままならなくなりますからあまり無茶させないであげて下さい!」
「グスッ…ありがとうサルゴン。お前優しいな…」


が、本人達は全く気付いていなかった。
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