三つの街改革
それはある日のハン・ノヴァ城での事──
「だからよー。いっそのこと全部商店街にしようぜ?」
「いや。絶全部鍛治屋街だよ!こればかりは譲れないね」
「めんどくっせぇな…そのまんま全部歓楽街でいいだろ」
「だからそれじゃ駄目だっつってんだろが!」
「…何をやっているんだ?」
エッグこと偽ギュスターヴは会議室に入るなり唖然とした。
「あ、ギュスターヴ様…実は皆が街を建て直そうって聞かないんですよ」
「街を?」
「だって全部歓楽街なんて気が触れてるとしか思えませんよ!」
「そうっすよ!大体ギュスターヴ様は気にした事ないんですか?」
「いや、私は特には気にした事は無かったが…そうか、この状態はおかしいものなのか…」
現在偽ギュスターヴが本拠地としているハン・ノヴァは城を半径状に囲んで三つの街から成り立っている。
しかしこの都を建設する時、どういう訳だか当時この都の主だったギュスターヴ13世は全部を歓楽街にしてしまったのだ。
「話によると市長に良いように乗せられたとか…」
「本当に馬鹿げてるわ。子供の教育に悪いったらありゃしない」
「何が?」
ミカの言葉にモイが首を傾げる。
「モイは気にしなくていいから」
「えぇ~?僕にも教えてよ!」
「えっと…モイも大人になったら意味が分かるよ。だから今は落ち着こう。ね?」
「ヒヒッ…てめぇもガキだろうがよ」
モイをなだめようとするイシスにトーワが茶々を入れる
「五月蝿いなキメラ野郎。15歳過ぎたら法律上は大人だよ」
「オレにとっちゃ12歳も17歳もどっちもガキだっつの」
「………あーそうだよねぇー!あんた若作りしてるだけで本当はもう老人だもんね!あんたにとっちゃここにいる全員クソガキみたいなもんだろうねっ!」
トーワの嫌味に、イシスもこれまた嫌みったらしいセリフを極上の笑み付きで返した。
(…このクソガキが)
「俺の育ての親のジジイ…じゃなくてバット船長はギュスターヴ公と知り合いだったけど、聞いた話じゃ結構その場のノリで動く人っぽかったらしいぜ?」
「いや、いくら何でもノリが良すぎよ。一時の感情でここまでした人なんて私他に見た事ないわ」
「だな…俺もここに来て流石にちょっと幻滅した」
ミカが間髪入れずボルスに突っ込み、ボルスも苦笑いを浮かべた。
「おいギュスターヴ。お前のじいちゃん馬っ鹿だな~。後世の人間にこんなに呆れられるとかよ~」
ついでにトーワは偽ギュスターヴに向かって嘲笑を浮かべた。
「呼び捨てにするな。様を付けろ様を」
「んん?本名で呼ばれるのをご所望か?デーニ…」
「わ゙ー!!?」
慌てて偽ギュスターヴはトーワの口を押さえる。
「ははへぇー!!」
「駄目だ!離したらお前ボルスの前で言うだろ!!」
「へ…?俺が何か?」
「ああいや何でもな…」
「ふふひーんはほ…このやふぉーっ!!」
「いぎゃああああーー!!?」
ボルスの方に気を取られた一瞬の隙を付き、トーワは偽ギュスターヴの指に噛み付いた。
「うわちょっ…血がドバッて出っ…トーワァァァ!!貴様主人の手に本気で噛み切る勢いで食いつくなこのド阿呆がぁぁぁ!!」
「はぁ…はぁ…呼吸困難になるほど押さえるてめぇが悪いんだろが!!」
「くっ…!まぁいい…外部の人間とボルスの前では絶対に言うなよ?奴らにバレたら面倒なんだから」
自分の指に生命の水をかけながら偽ギュスターヴは小声でトーワに囁いた。
「へいへい、分かりましたよギュスターヴのお孫様」
「……トーワ、お前減給な」
「げぇっ!?」
「ぷっ…自業自得だねキメラ野郎」
音のアニマを司るイシスの耳には偽ギュスターヴとトーワのひそひそ話が丸聞こえになっており、思わずクスクスと笑い出す。
「…てめぇみたいな根暗なガキにだけは言われたくなかったんだがな」
「ああ?何だって?もう一度言ってみろよ」
トーワの呟きにイシスは笑うのを止め、ドスの効いた声で返す。
「根暗で陰険なクソガキにだけは言われたく無かったって言ってんだよ」
「…表に出ろクソジジイ」
「おお上等だぜ。せいぜい楽しませてくれよぉ?」
「もぉ~!イシス兄ちゃんもオジジも止めてよ!!また喧嘩で城の壁破壊したなんて事になったら街の元老院の人達から何言われるか分かったもんじゃないんだよ?」
「……」
「…チッ」
モイの言葉に二人は戦闘体制を解いて押し黙った。
(イシスはともかくトーワも元老院の人達に嫌味言われるの嫌なんだな…)
サルゴンはふとそんな事を思った。
「で、具体的にどうすると言うのだ?」
「俺はやっぱり全区画を商業都市にした方がいいと思います!交易とかして他国の文化を取り入れていけばもっとこの国は強化されますよ!!」
ボルスは意気込んで自分の案を偽ギュスターヴに言った。
「ふむ…なるほどな」
「それって、あんたの元商人としての自分の特技を披露したいからじゃないの?」
「うぐっ…!」
ミカの一言にボルスの肩がびくりと跳ね上がる。
「……図星…なんですね…」
「ち…違ぇよ!つかミカもサルゴンも人の意見に横槍入れんなよ!この都市の発展を考えての意見なんだから良いだろ別に!」
「馬鹿の遠吠えだな」
「トーワも何言ってんだゴラァー!」
「まぁまぁ、オジジの相手なんてするだけ無駄だから放っときなよボルス兄ちゃん」
モイは苦笑しながらボルスをなだめる。
「イシス、お前は?」
「僕としては全区画を鍛治屋街にしたいです。鍛冶技術と言えば鋼の13世様の代名詞とも言えますし。それで自分で作った武器や防具の大会とか開きたくて」
「ふむ…」
「でも、鍛冶屋ばっかりあっても競争相手だらけで売りさばけなくなるし、一カ所鍛治屋街にすれば事足りるんじゃないかなぁ?」
「うっ…モイ、痛いとこ突かないでってば…」
「まぁ、武器や防具の大会というのは後で都の行事として考えてやる」
「本当ですかギュスターヴ様!?」
イシスの顔がパアッと明るくなる。
「あ、でも面倒だな。やっぱり止めよう」
「えっ…」
そしてショックで固まった。
(普通持ち上げといて叩き落とすような真似しますかね…?)
(ちょっとありゃ酷だよな…)
「おいそこの炎と水、お前らなんか失礼な事考えてるだろ」
「…すみません」
「…誠に申し訳ありませんでしたギュスターヴ様」
「あら、ボルスにしては妙に丁寧な謝り方ね。私に謝る時もそのくらいへりくだって欲しいものだわ」
「ギュスターヴ様ならともかくタメのお前に何でここまでへりくだらなきゃならないんだよ」
「当たり前でしょう?私は由緒正しきオート侯の分家の血統。あんたは素性も分からない野蛮人。身分が違うのよ。身分が」
「誰が野蛮人だ誰が!」
「ミカの言う事なんか気にしねぇでひとまず落ち着けよボルシチ」
「人の名前を料理みたいに呼ぶんじゃねぇよクソジジイ!!俺はボルスだっつってんだろうがぁ!!」
「ボルス!落ち着いて下さい!!」
トーワに殴り掛かろうとするボルスをサルゴンが必死で止める。
「聞くまでもないと思うがトーワは…」
「ん?ああオレか?出費かさむからそのままがいいと思うぞ」
「確かに…」
「出費かさむってのは建前で単に面倒なだけなんでしょ?ギュスターヴ様が来るまで散々言ってたじゃない」
「あ、やっぱバレてるのな」
「お前なぁ…もっと真面目に考えろよ!ったく…」
まだ怒りが収まらないボルスは不機嫌そうに呟いた。
「オレはいつでも大真面目なんだがな。大体考えてみろよ?歓楽街はいわゆる男のロマンみたいなとこだぜ?」
「え」
「中にはお触りパブとかも…」
「お、お触り……」
数秒固まった後、ボルスは鼻血を噴出しながらドスンと後ろに倒れた。
「うわっ!?ボルス兄ちゃんが鼻血吹いて倒れた!」
「すぐ復活するから放って置きなさいよ」
「で…モイ、お前は?」
「あ、僕?そうだなぁ…今の状況では買い物はもっぱら旅の商人とかから買う他無いですし…やはり人が住む街としてちゃんと安定して生活用品を買える店がないのは少し不便なので商店街を二つ。それと武器屋があれば都の守り自体も増強されると思うんで鍛冶屋街を一つ作れればいいと思いますよ?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「ほう…なるほど」
「ん?どしたのみんな?ギュスターヴ様以外いきなり黙っちゃって」
「いえ…まともな意見ね…」
「君ってたまに本当に子供か疑いたくなるほど冷静沈着な事口走るよね…」
「天然なのか確信犯なのか…」
「てめぇエーデルリッターになる前の記憶が無いらしいが、それ以前の性格が出てんのか?」
「?…みんな褒めてくれてるんだよね?」
モイはきょとんと首を傾げる。
「まぁ、一番まともな案はモイのだな。私としてはこれを採用したいのだが」
「そうですね…」
「私もそれでよろしいですわ」
「ギュスターヴ様が決めたのなら僕も従いますよ…」
「そのまんまでいいと思うけどなぁ~」
「キメラ野郎は黙ってなさい。ギュスターヴ様の決定は絶対よ」
「…へいへい」
ミカに睨まれ、トーワは肩をすくめた。
「どのブロックにどの街を立てるかは後にして、とりあえず兵士達の方に伝えに行くとしますかね」
「ああ、そうだな。おいイシス、ボルスを叩き起こせ」
「あ、はい」
偽ギュスターヴに命令されると、イシスは指をパチンと鳴らした。
「ひぎゃああああーーっ!!?頭が割れるうぅぅぅーーー!!!!」
その直後、気絶していたボルスは跳ね起きたかと思うと、ゴロゴロと床をのたうち回った。
「…今何やったんですか?」
サルゴンがイシスに耳打ちする。
「え?ああ、ちょっとアニマの伝わり方を調整してボルスだけに周囲の音が大音量で響くようにしただけだよ」
「て事は今の指パッチンも…」
「生で聞いたら鼓膜破れるレベルの音響かせてやったから、死んだ方がマシってくらい頭ガンガンしてるんじゃないかな?」
「………」
そう答えたイシスの顔があまりにも清々しい笑みだったので、サルゴンはそれ以上何も言えなくなった。
「くぅ~~~……っ!!」
「おいボルス、聞こえるか?私は誰だ?」
ようやくのたうち回るのを止めたボルスの頬を偽ギュスターヴはペチペチと叩き、反応に異常が無いか調べる。
「うう…ギ、ギュスターヴ…様?」
「よし、大丈夫だな。これから皆で詰め所の方へ行く。お前も付いて来い。」
「は…はい」
こうして一同は兵士達のいる詰め所の方へと向かった。
「おい、ミカ」
その途中でトーワがミカに話し掛ける。
「何よキメラ野郎。あんたが喋ると空気が汚れるんだからなるべく口閉じてなさいよ」
「そんならてめぇが光合成して浄化しろよ。それよりもよ、あいつ等はああ言ってるが最低一ヶ所は歓楽街になるぜ?」
「はぁ…?」
「まぁ見てなって…ヒヒッ」
トーワはそう言って楽しげに笑った。
