救出編
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「フレン・・・は下か」
外に出てフレンを探すとやはりまだ騎士団の船にいた
「騎士団の船、なんかやばそうだよ」
「あーあれはまずいの。あの傾き方は浸水しとる。もたもたしてると沈むのじゃ」
「あそこでなんか叫んでるの、フレンじゃないの?」
「ありゃ抜け出すって訳にはいきそうにねえな。フレンには悪いがこのまま行くか」
「良いの? 後で文句言われるんじゃない?」
「あいつの小言には慣れてるよ」
「それに此処でもたもたしてる方がもっと怒られそうな気がするよ」
「だな。ジュディ、頼む」
「バウル!」
ジュディスがバウルを呼ぶと帝都に向ってもらうように頼み、ユーリ達はフィエルティア号に乗って帝都へと向かった
87.Sorrowful wish
「!? 何、今の・・・?」
光結界の周りにある聖核から光が放たれる事はもう無くなった
けど、やっぱりどうやっても光結界を破る事も出来なければ外との連絡も取れなくなっていた
だから今がどういう状況にあるのかまったく解らない
けど、もの凄い地響きが何処からか響いてきた
それが帝都での事なのかそれとも帝都付近での事なのか・・・
「・・・帝都じゃない事を、祈りたいな・・・」
アレクセイがエステルを連れてこの部屋を出て行ってからもうかなりの時間が経っている
けど、立ち去り際に妙に気になる事を言っていた
「エステルの、満月の子の力を使って帝都の結界の調整をする。それって帝都の結界を自在に扱えるようにするって事よね・・・。自在に扱う事が出来るなら、結界を消す事も出来るって事で・・・、? 結界を、消す?」
ふとその事に疑問を抱いていると、一瞬何かが見えた
(・・? 何・・・?)
気のせいかと思っているとまた目の前がぼやけて何かが見えた
(海・・・?)
さっきよりも見えるようになり、唯一見えたのは海だった
「・・・、!?」
そして何処か神秘的な雰囲気を感じていると急に景色が変わった
「・・・此処は・・・」
周りの景色がはっきりと解ると、とても見覚えのある街が見えた
「帝都・・・? だけど・・・」
そう、此処は今私がいる帝都ザーフィアス
だけど、この帝都にはいつも頭上にある結界がなくなっていた
そして、帝都全体を赤い高度なエアルが包み込んでいた
「・・・これじゃあ、ザーフィアスは・・・・下町は・・・」
赤いエアルが帝都を包んでる所為で街や人々がどうなったかまったく解らない
だけど、嫌な汗が背中を流れた
「・・・・!? エステル!」
ザーフィアス城の最上階で何かが光り見てみると、術式結界の中に捕らえられているエステルと聖核を片手に持ったアレクセイの姿があった
「エステル!!」
私はエステルに呼び掛けたが、届いている感じがまったくなかった
「聞こえてない? それに今の私の状態って・・・」
今の私の状態、それはいつも私達言霊使いが夢で見る時と同じような状態になっていた
「でもどうして? 此処は夢の中じゃないのに? !」
疑問を抱いていると、空からまた違う気配を感じた
「あれはバウル!? ! ユーリ!」
バウルはこちらに向かって徐々に近付いてくる
そしてフィエルティア号の先端の飾りの上にユーリが掴まって立っている姿が見えた
必死にユーリ達がエステルの名前を叫んでいる
だけど、エステルは力を引き出されそれに答える事が出来ない
「っ! エステル!!」
思わず私も叫んでしまうが、その声はまた届かない
「いや! 力が抑えられない! 怖い!!」
エステルは涙を流しながら自分の身体を押さえて力を抑えようとしている
「弱気になるな! エステル! 今助けてやる!」
そう言うとユーリはそのまま勢いを付けて飛び、エステルはユーリのその姿を目にすると自然と手を伸ばして、ユーリもエステルの手を掴むように手を伸ばした
もう少しでお互いの手が届く、そう思った時だった
「っ! ユーリ! エステル!」
途端アレクセイが不敵に笑ったのが見え、私は二人の名前を叫んだ
アレクセイは聖核でエステルを囲んでいる結界に力を与え、ユーリはそのまま吹き飛ばされた
「うわあああああああ!!」
「ユーリ!!!!」
何とかフィエルティア号の帆の近くにある綱に掴まって無事だった
ほっと安堵の息を吐いているとエステルが小さく呟いている声が聞こえ、視線をエステルに戻す
「これ以上・・・誰かを傷つける前に・・・お願い・・・」
エステルは大粒の涙を流しながらユーリ達に聞こえるか聞こえないような声で言い、そしてエステルはこう告げた
「殺して」
「「!」」
その言葉を聞いて私は固まってしまった
(・・・今、何て言ったの?)
『殺して ――』
エステルが言った言葉がまた耳に響く
「エス、テル・・・」
信じられない言葉が出て来た事に私はショックを受けてしまい言葉が出なくなった
そしてまたエステルは力を引き出され、大きな悲鳴を上げる
エステルの声に応えるかのように、エアルが乱れていき、突風のようなものが吹いた
それに耐えきれなくなったバウルは体制を崩してフィエルティア号共々吹き飛ばされた
「ユーリーーー!!」
私はユーリの名を大声で叫ぶと、眩い光が発し、段々と景色が変わりだした
*
「ん・・生きてる・・・」
帝都から吹っ飛ばされたオレ達は何処かの平原に投げ出されていた
オレはゆっくりと起き上がろうとしていると、急に身体のあちこちに痛みが走った
「っ!! ってぇ・・・」
「大丈夫?」
隣を見るとアスラが心配そうな顔をしてオレを見ていた
「・・・何とかな。アスラは平気か?」
「うん。ただ、エアルの乱れを浴びすぎてるから本領発揮出来ないと思う・・・」
「そっか・・・」
そういや前に言ってたっけ
リアやセイ、言霊使いもアスラ達式神も満月の子の力やエアルの乱れを浴びすぎると力の安定が効かないって
「・・みんな生きてるか?」
オレはそう言ってみんなを見ると、ジュディとおっさんとラピードとパティが身体を起こしたが、カロルとリタはまだ衝撃が残っているのか起き上がれないでいた
「私はなんとか」
「クゥー・・・ン」
「生きてるっちゃ生きてるけど、無事かと言われると微妙よ。何本か骨いっちゃったっぽいわ」
「船もメチャクチャじゃ・・・許すまじ、アレクセイ・・・・いてて・・・」
「ユーリ・・痛いよ・・・」
「あの衝撃を受けたんだから、無理もないよ」
「エステルのあれ、宙の戒典と似てた。多分、幾つもの聖核集めて同じ事やろうと・・・」
「無理に喋るな。二人共、直ぐ医者見つけてやっからな。ちょっとだけ辛抱してくれ」
リタはオレの言葉を聞くと座り、荒くなっている息を整えだした
バウルを見るとかなり怪我を負っていた
「暫く運んで貰うのは無理そうだな」
「ええ。傷が癒えるまで、何処かで休んでもらうわ」
「無理させちまったな。ゆっくり休んでくれ」
バウルは俺達の言葉を聞くとゆっくりと浮上して行った
「・・・エステルは?」
「そうよ! 急がないと」
「・・・・」
エステル
その名にオレは一瞬黙ってしまった
『殺して』
それは、船が吹き飛ばされる前にエステルが口にした言葉だった
オレはみんなに聞こえないように息を吐きカロルとリタを見た
「エステルの心配より自分の心配しろ」
「うむ・・・この体で乗り込めば確実に返り討ち、なのじゃ・・・」
「・・・此処はカプワ・ノールの近くのようね。とにかくノール港へ行きましょ。きっとお医者さんもいるはず」
「ああ」
「いやな空だね。エアルが雲みたく渦巻いてやがる。・・・災厄・・・か」
「・・・・・・」
災厄、か
確かに今のこの空を見るとその言葉につきる
あれ以上、エステルの力を使わせないようにしなきゃいけねえが・・・無理だろうな
そういやあん時、
『ユーリーーー!!』
一瞬だけ何処からかリアの声が聞こえたような気がした・・・
「ユーリ、どうしたの難しい顔して?」
「・・なあアスラ。船が吹っ飛ばされてる時、リアの声が聞こえなかったか?」
「リアの?」
相棒のアスラなら解るかと思って聞いてみたが、アスラはうーんと呻って考え出した
(やっぱ、オレの気のせいか?)
そう思っているとアスラがオレをじっと見ていた
「どうした?」
「ユーリにはリアの声、聞こえたんだよね?」
「ああ・・・」
オレがそう答えるとアスラは一旦目を閉じてオレを見た
「なら、それを信じて」
「信じるって、リアの声が聞こえた事をか?」
「うん」
「でもあそこにリアはいなかったぜ」
「・・・ボクの考えが合ってるなら、ユーリにはそう思ってて欲しいんだ」
言うとアスラはそのまま先に進んで行った
(・・・ボク達の考えが合ってるなら、ユーリにはそう思ってて欲しい。それはエステルを助けるのもリアを助ける事にも関わって来るし、何より、リアの事大事に思ってるんだったら尚更信じて欲しい)
「・・・じゃないとリアの事、助けられないと思うから・・・」
アスラは空にあるエアルの雲を見てそう呟いた
その言葉は誰に聞こえる事もなく虚空へと消えた
*
ノール港に着くとやはりこの状況にパニックになっていた
その様子を見ていると一人の男性がユーリ達にこの状況を知らないか? と尋ねられ返答に困っていると、以前この街で出会ったティグルがユーリ達の姿を見て駆け付けて来た
ヒドイ有様だったユーリ達を見て医者を呼んで来ると言い、宿屋で医者に診てもらっていた
「・・・どうも有り難う御座いました、先生」
「助かったよ。ヘリオードから戻って来てたんだな」
「はい。あの時はお世話になりました。あら、貴女もこの方達と一緒に?」
ケラスがそう尋ねたのはレイヴンの隣で横になっているパティに、だった
「のじゃ」
「なんだ? 知ってるのか?」
「ポリーを送り届けた時に、一宿一飯のご恩なのじゃ」
「ああ・・・ラゴウの屋敷を出た後な」
「ノールも執政官が代わったお陰で、前よりは随分と暮らしやすくなったと思ってたのに、今度はあの空だ」
「それでね。ちょっと前にね、ドーンってすごい音がして、ぐらぐらーってなったんだよ」
「今、役人の人達が様子を見に行っている所なんです」
ティグルの説明の後にポリーは手振り身振りをつけて話し、ケラスもその後に話しを続けると、ポリーがきょろきょろと辺りを見て首を傾げた
「ねえねえ、あのお姉ちゃん達とお兄ちゃんは? いないの?」
「!」
「そういえばあの子なら、あんた達の怪我も治せるだろうに。どうしたんだ? もう一人の子もいないみたいだが」
「・・・ある馬鹿野郎がさぁ、悪い奴に渡しちまってね。それで、今、追い駆けてんのよ」
「「・・・」」
ポリーとティグルの問いに皆どう答えようかと思っていると、レイヴンが遠くを見つめながら答えた
「そうか・・・悪い事聞いたみたいだな」
「ごめんなさいね。お姉ちゃん達、今日はお休みなの」
「お兄ちゃんは?」
「セイ兄なら、仕事でちょっと離れとるだけじゃ」
「そうなんだ・・・」
「大丈夫よ、今度また来る時はちゃんと一緒にいるから」
「本当!? 良かった!」
ポリーの残念そうな声を聞くとベッドに横になっていたリタが身体を起こしながら言い、その言葉を聞きポリーは嬉しそうな顔になった
「とにかく今はゆっくり休むと良いよ」
「ああ。そうさせて貰うぜ」
「あら?」
ティグル達が部屋を出ると同時にジュディスの横を白い蝶が横切った
「これは確か・・・」
「アスラ達が連絡を取り合う時に使うもの、だったわよね?」
蝶はそのままアスラの前で止まり、アスラはその蝶をじっと見て眉を寄せた
「どうした?」
その様子に気が付きユーリが声を掛けると重たい息を吐いて口を開いた
「・・・最悪だね。あのヘラクレスの砲撃、どうやらエフミドの丘に当たっちゃったらしいよ」
「エフミドの丘に?」
「おいおい、もしかしてそれってヤバいんじゃないの?」
「もしかしなくともそうでしょ。帝都に続く道はあそこしかないんだから」
「街に当たらなかったのがせめてもの救い、ではあるけれどね」
アスラの話しを聞いていると、ベッドに寝ていたカロルが起き上がった
「もういいのか」
「まだあちこち痛いけど・・・。エステルやリアが危ないんだ。のんびり寝てられないよ」
「しかしどうするよ、実際」
「エフミドの丘を抜けられないなら、船で迂回するとか」
「それは無理みたいだよ。仲間からの情報じゃこの港にあった船は騎士団がヘラクレスに向かう為に持って行ったみたいだよ」
「じゃあフィエルティア号は?」
「船の竜骨がグチャグチャで、ちゃんと修理するには、時間が掛かるのじゃ」
「くそ、一刻を争うってのに」
「・・・方法がない事もない」
扉越しにそう声が聞こえ見ると先程部屋を出たティグルが人数分の水を持って部屋に入って来た
「手があるなら教えてくれ」
「あまりお勧め出来ないがね」
「それでも構わない。オレ達急いで帝都に行きたいんだ」
ティグルはユーリ達に水の入ったコップを渡しながら答えた
「大きく遠回りする事になるんだが・・・。エフミドの丘の手前を北に行くと、山と海に挟まれた細い海岸がある。その先は行き止まりなんだが、今の季節、そこに流氷が沢山流れ着く」
「ゾフェル氷刃海ね」
「そう。あそこの流氷は、運が良ければ列なって道になる事があるんだ」
「つまり、そこを通って行けば、大陸の真ん中の方に迂回出来る訳じゃな」
「ゾフェル氷刃海か・・・。あの辺りは気味悪い噂が色々遭って、漁師も近付かないって話しだよ」
「それに自然の事だから、必ず通れるとも限らない」
「自然はむしろ、人の敵である事の方が多いからの」
「なかなか穿った事を言うわね、パティちゃん」
「それしか方法がないなら、行くしかないでしょ」
「だね」
「・・・世話になったな」
「いいって。あんた達はうちの一家の恩人なんだから。その代わり、うちの子の期待を裏切らないでやってくれよ」
「うん、任せてよ!」
リタとアスラの言葉に頷きユーリはティグルへ視線を向けて礼を言い、ティグルの言葉にカロルが元気に答え、ゾフェル氷刃海へと向けて準備を始めた
続く
あとがき
ふぃ~、やっと完成した
箱版と違う形でと言う事でちょっとだけ替えてみました
最後は前回カットしたので追加で・・・
さて次回も前回カットになったゾフェル氷刃海の話しです!
カロル先生の見せ場ぁ~ww
よし、じゃあ次行こう!
Sorrowful wish:悲痛な願い
2011.05.01
外に出てフレンを探すとやはりまだ騎士団の船にいた
「騎士団の船、なんかやばそうだよ」
「あーあれはまずいの。あの傾き方は浸水しとる。もたもたしてると沈むのじゃ」
「あそこでなんか叫んでるの、フレンじゃないの?」
「ありゃ抜け出すって訳にはいきそうにねえな。フレンには悪いがこのまま行くか」
「良いの? 後で文句言われるんじゃない?」
「あいつの小言には慣れてるよ」
「それに此処でもたもたしてる方がもっと怒られそうな気がするよ」
「だな。ジュディ、頼む」
「バウル!」
ジュディスがバウルを呼ぶと帝都に向ってもらうように頼み、ユーリ達はフィエルティア号に乗って帝都へと向かった
87.Sorrowful wish
「!? 何、今の・・・?」
光結界の周りにある聖核から光が放たれる事はもう無くなった
けど、やっぱりどうやっても光結界を破る事も出来なければ外との連絡も取れなくなっていた
だから今がどういう状況にあるのかまったく解らない
けど、もの凄い地響きが何処からか響いてきた
それが帝都での事なのかそれとも帝都付近での事なのか・・・
「・・・帝都じゃない事を、祈りたいな・・・」
アレクセイがエステルを連れてこの部屋を出て行ってからもうかなりの時間が経っている
けど、立ち去り際に妙に気になる事を言っていた
「エステルの、満月の子の力を使って帝都の結界の調整をする。それって帝都の結界を自在に扱えるようにするって事よね・・・。自在に扱う事が出来るなら、結界を消す事も出来るって事で・・・、? 結界を、消す?」
ふとその事に疑問を抱いていると、一瞬何かが見えた
(・・? 何・・・?)
気のせいかと思っているとまた目の前がぼやけて何かが見えた
(海・・・?)
さっきよりも見えるようになり、唯一見えたのは海だった
「・・・、!?」
そして何処か神秘的な雰囲気を感じていると急に景色が変わった
「・・・此処は・・・」
周りの景色がはっきりと解ると、とても見覚えのある街が見えた
「帝都・・・? だけど・・・」
そう、此処は今私がいる帝都ザーフィアス
だけど、この帝都にはいつも頭上にある結界がなくなっていた
そして、帝都全体を赤い高度なエアルが包み込んでいた
「・・・これじゃあ、ザーフィアスは・・・・下町は・・・」
赤いエアルが帝都を包んでる所為で街や人々がどうなったかまったく解らない
だけど、嫌な汗が背中を流れた
「・・・・!? エステル!」
ザーフィアス城の最上階で何かが光り見てみると、術式結界の中に捕らえられているエステルと聖核を片手に持ったアレクセイの姿があった
「エステル!!」
私はエステルに呼び掛けたが、届いている感じがまったくなかった
「聞こえてない? それに今の私の状態って・・・」
今の私の状態、それはいつも私達言霊使いが夢で見る時と同じような状態になっていた
「でもどうして? 此処は夢の中じゃないのに? !」
疑問を抱いていると、空からまた違う気配を感じた
「あれはバウル!? ! ユーリ!」
バウルはこちらに向かって徐々に近付いてくる
そしてフィエルティア号の先端の飾りの上にユーリが掴まって立っている姿が見えた
必死にユーリ達がエステルの名前を叫んでいる
だけど、エステルは力を引き出されそれに答える事が出来ない
「っ! エステル!!」
思わず私も叫んでしまうが、その声はまた届かない
「いや! 力が抑えられない! 怖い!!」
エステルは涙を流しながら自分の身体を押さえて力を抑えようとしている
「弱気になるな! エステル! 今助けてやる!」
そう言うとユーリはそのまま勢いを付けて飛び、エステルはユーリのその姿を目にすると自然と手を伸ばして、ユーリもエステルの手を掴むように手を伸ばした
もう少しでお互いの手が届く、そう思った時だった
「っ! ユーリ! エステル!」
途端アレクセイが不敵に笑ったのが見え、私は二人の名前を叫んだ
アレクセイは聖核でエステルを囲んでいる結界に力を与え、ユーリはそのまま吹き飛ばされた
「うわあああああああ!!」
「ユーリ!!!!」
何とかフィエルティア号の帆の近くにある綱に掴まって無事だった
ほっと安堵の息を吐いているとエステルが小さく呟いている声が聞こえ、視線をエステルに戻す
「これ以上・・・誰かを傷つける前に・・・お願い・・・」
エステルは大粒の涙を流しながらユーリ達に聞こえるか聞こえないような声で言い、そしてエステルはこう告げた
「殺して」
「「!」」
その言葉を聞いて私は固まってしまった
(・・・今、何て言ったの?)
『殺して ――』
エステルが言った言葉がまた耳に響く
「エス、テル・・・」
信じられない言葉が出て来た事に私はショックを受けてしまい言葉が出なくなった
そしてまたエステルは力を引き出され、大きな悲鳴を上げる
エステルの声に応えるかのように、エアルが乱れていき、突風のようなものが吹いた
それに耐えきれなくなったバウルは体制を崩してフィエルティア号共々吹き飛ばされた
「ユーリーーー!!」
私はユーリの名を大声で叫ぶと、眩い光が発し、段々と景色が変わりだした
*
「ん・・生きてる・・・」
帝都から吹っ飛ばされたオレ達は何処かの平原に投げ出されていた
オレはゆっくりと起き上がろうとしていると、急に身体のあちこちに痛みが走った
「っ!! ってぇ・・・」
「大丈夫?」
隣を見るとアスラが心配そうな顔をしてオレを見ていた
「・・・何とかな。アスラは平気か?」
「うん。ただ、エアルの乱れを浴びすぎてるから本領発揮出来ないと思う・・・」
「そっか・・・」
そういや前に言ってたっけ
リアやセイ、言霊使いもアスラ達式神も満月の子の力やエアルの乱れを浴びすぎると力の安定が効かないって
「・・みんな生きてるか?」
オレはそう言ってみんなを見ると、ジュディとおっさんとラピードとパティが身体を起こしたが、カロルとリタはまだ衝撃が残っているのか起き上がれないでいた
「私はなんとか」
「クゥー・・・ン」
「生きてるっちゃ生きてるけど、無事かと言われると微妙よ。何本か骨いっちゃったっぽいわ」
「船もメチャクチャじゃ・・・許すまじ、アレクセイ・・・・いてて・・・」
「ユーリ・・痛いよ・・・」
「あの衝撃を受けたんだから、無理もないよ」
「エステルのあれ、宙の戒典と似てた。多分、幾つもの聖核集めて同じ事やろうと・・・」
「無理に喋るな。二人共、直ぐ医者見つけてやっからな。ちょっとだけ辛抱してくれ」
リタはオレの言葉を聞くと座り、荒くなっている息を整えだした
バウルを見るとかなり怪我を負っていた
「暫く運んで貰うのは無理そうだな」
「ええ。傷が癒えるまで、何処かで休んでもらうわ」
「無理させちまったな。ゆっくり休んでくれ」
バウルは俺達の言葉を聞くとゆっくりと浮上して行った
「・・・エステルは?」
「そうよ! 急がないと」
「・・・・」
エステル
その名にオレは一瞬黙ってしまった
『殺して』
それは、船が吹き飛ばされる前にエステルが口にした言葉だった
オレはみんなに聞こえないように息を吐きカロルとリタを見た
「エステルの心配より自分の心配しろ」
「うむ・・・この体で乗り込めば確実に返り討ち、なのじゃ・・・」
「・・・此処はカプワ・ノールの近くのようね。とにかくノール港へ行きましょ。きっとお医者さんもいるはず」
「ああ」
「いやな空だね。エアルが雲みたく渦巻いてやがる。・・・災厄・・・か」
「・・・・・・」
災厄、か
確かに今のこの空を見るとその言葉につきる
あれ以上、エステルの力を使わせないようにしなきゃいけねえが・・・無理だろうな
そういやあん時、
『ユーリーーー!!』
一瞬だけ何処からかリアの声が聞こえたような気がした・・・
「ユーリ、どうしたの難しい顔して?」
「・・なあアスラ。船が吹っ飛ばされてる時、リアの声が聞こえなかったか?」
「リアの?」
相棒のアスラなら解るかと思って聞いてみたが、アスラはうーんと呻って考え出した
(やっぱ、オレの気のせいか?)
そう思っているとアスラがオレをじっと見ていた
「どうした?」
「ユーリにはリアの声、聞こえたんだよね?」
「ああ・・・」
オレがそう答えるとアスラは一旦目を閉じてオレを見た
「なら、それを信じて」
「信じるって、リアの声が聞こえた事をか?」
「うん」
「でもあそこにリアはいなかったぜ」
「・・・ボクの考えが合ってるなら、ユーリにはそう思ってて欲しいんだ」
言うとアスラはそのまま先に進んで行った
(・・・ボク達の考えが合ってるなら、ユーリにはそう思ってて欲しい。それはエステルを助けるのもリアを助ける事にも関わって来るし、何より、リアの事大事に思ってるんだったら尚更信じて欲しい)
「・・・じゃないとリアの事、助けられないと思うから・・・」
アスラは空にあるエアルの雲を見てそう呟いた
その言葉は誰に聞こえる事もなく虚空へと消えた
*
ノール港に着くとやはりこの状況にパニックになっていた
その様子を見ていると一人の男性がユーリ達にこの状況を知らないか? と尋ねられ返答に困っていると、以前この街で出会ったティグルがユーリ達の姿を見て駆け付けて来た
ヒドイ有様だったユーリ達を見て医者を呼んで来ると言い、宿屋で医者に診てもらっていた
「・・・どうも有り難う御座いました、先生」
「助かったよ。ヘリオードから戻って来てたんだな」
「はい。あの時はお世話になりました。あら、貴女もこの方達と一緒に?」
ケラスがそう尋ねたのはレイヴンの隣で横になっているパティに、だった
「のじゃ」
「なんだ? 知ってるのか?」
「ポリーを送り届けた時に、一宿一飯のご恩なのじゃ」
「ああ・・・ラゴウの屋敷を出た後な」
「ノールも執政官が代わったお陰で、前よりは随分と暮らしやすくなったと思ってたのに、今度はあの空だ」
「それでね。ちょっと前にね、ドーンってすごい音がして、ぐらぐらーってなったんだよ」
「今、役人の人達が様子を見に行っている所なんです」
ティグルの説明の後にポリーは手振り身振りをつけて話し、ケラスもその後に話しを続けると、ポリーがきょろきょろと辺りを見て首を傾げた
「ねえねえ、あのお姉ちゃん達とお兄ちゃんは? いないの?」
「!」
「そういえばあの子なら、あんた達の怪我も治せるだろうに。どうしたんだ? もう一人の子もいないみたいだが」
「・・・ある馬鹿野郎がさぁ、悪い奴に渡しちまってね。それで、今、追い駆けてんのよ」
「「・・・」」
ポリーとティグルの問いに皆どう答えようかと思っていると、レイヴンが遠くを見つめながら答えた
「そうか・・・悪い事聞いたみたいだな」
「ごめんなさいね。お姉ちゃん達、今日はお休みなの」
「お兄ちゃんは?」
「セイ兄なら、仕事でちょっと離れとるだけじゃ」
「そうなんだ・・・」
「大丈夫よ、今度また来る時はちゃんと一緒にいるから」
「本当!? 良かった!」
ポリーの残念そうな声を聞くとベッドに横になっていたリタが身体を起こしながら言い、その言葉を聞きポリーは嬉しそうな顔になった
「とにかく今はゆっくり休むと良いよ」
「ああ。そうさせて貰うぜ」
「あら?」
ティグル達が部屋を出ると同時にジュディスの横を白い蝶が横切った
「これは確か・・・」
「アスラ達が連絡を取り合う時に使うもの、だったわよね?」
蝶はそのままアスラの前で止まり、アスラはその蝶をじっと見て眉を寄せた
「どうした?」
その様子に気が付きユーリが声を掛けると重たい息を吐いて口を開いた
「・・・最悪だね。あのヘラクレスの砲撃、どうやらエフミドの丘に当たっちゃったらしいよ」
「エフミドの丘に?」
「おいおい、もしかしてそれってヤバいんじゃないの?」
「もしかしなくともそうでしょ。帝都に続く道はあそこしかないんだから」
「街に当たらなかったのがせめてもの救い、ではあるけれどね」
アスラの話しを聞いていると、ベッドに寝ていたカロルが起き上がった
「もういいのか」
「まだあちこち痛いけど・・・。エステルやリアが危ないんだ。のんびり寝てられないよ」
「しかしどうするよ、実際」
「エフミドの丘を抜けられないなら、船で迂回するとか」
「それは無理みたいだよ。仲間からの情報じゃこの港にあった船は騎士団がヘラクレスに向かう為に持って行ったみたいだよ」
「じゃあフィエルティア号は?」
「船の竜骨がグチャグチャで、ちゃんと修理するには、時間が掛かるのじゃ」
「くそ、一刻を争うってのに」
「・・・方法がない事もない」
扉越しにそう声が聞こえ見ると先程部屋を出たティグルが人数分の水を持って部屋に入って来た
「手があるなら教えてくれ」
「あまりお勧め出来ないがね」
「それでも構わない。オレ達急いで帝都に行きたいんだ」
ティグルはユーリ達に水の入ったコップを渡しながら答えた
「大きく遠回りする事になるんだが・・・。エフミドの丘の手前を北に行くと、山と海に挟まれた細い海岸がある。その先は行き止まりなんだが、今の季節、そこに流氷が沢山流れ着く」
「ゾフェル氷刃海ね」
「そう。あそこの流氷は、運が良ければ列なって道になる事があるんだ」
「つまり、そこを通って行けば、大陸の真ん中の方に迂回出来る訳じゃな」
「ゾフェル氷刃海か・・・。あの辺りは気味悪い噂が色々遭って、漁師も近付かないって話しだよ」
「それに自然の事だから、必ず通れるとも限らない」
「自然はむしろ、人の敵である事の方が多いからの」
「なかなか穿った事を言うわね、パティちゃん」
「それしか方法がないなら、行くしかないでしょ」
「だね」
「・・・世話になったな」
「いいって。あんた達はうちの一家の恩人なんだから。その代わり、うちの子の期待を裏切らないでやってくれよ」
「うん、任せてよ!」
リタとアスラの言葉に頷きユーリはティグルへ視線を向けて礼を言い、ティグルの言葉にカロルが元気に答え、ゾフェル氷刃海へと向けて準備を始めた
続く
あとがき
ふぃ~、やっと完成した
箱版と違う形でと言う事でちょっとだけ替えてみました
最後は前回カットしたので追加で・・・
さて次回も前回カットになったゾフェル氷刃海の話しです!
カロル先生の見せ場ぁ~ww
よし、じゃあ次行こう!
Sorrowful wish:悲痛な願い
2011.05.01