水道魔導器奪還編
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ハルルを出た私達はアスピオへと向かい出した
アスピオは仕事で何度か訪れた事があるから私は先頭を歩いていた
エステルと話しをしながら歩いているとふとカロルが疑問を振った
「ねえ、実際の所、フレンって本当に誰なの? エステルの訳ありな人?」
「・・・訳あり?」
「なんです? その訳ありな人って?」
カロルの言葉にユーリとアスラは少しだけ驚いていたが、私とエステルは意味が解らず首を傾げるとアスラが少し呆れていた
「・・・リアも意味解ってないみたいだよι」
「フレンはユーリとリアのお友達ですよ」
「まあ、そんな所だ」
「うん、幼馴染みよね」
「友人同士で一人の女性を? 見かけによらず、エステルってどろどろな人生送ってるね」
「なんです? そのどろどろな人生って?」
「いや、えっとぉ・・・」
「・・・まあ、ある意味間違ってないと思うけどね」
「え? それってもしかして、エステルじゃなくてリア・・・?」
「私が、どうかした?」
カロルの言葉に私は疑問符を出して首を傾げていると、ユーリとアスラが複雑な顔をしていた
「あー・・・いや、なんでも・・ない、よ」
「? そう?」
カロルを見ると気にしないで良いよ、と言う顔をしていたので私とエステルはそのまま歩き出しまた話しを始めた
ユーリはその様子をじっと見ていると、カロルの視線に気が付き少しめんどくさそうな口調で聞いた
「・・・なんだよ」
「・・・ユーリって、リアの事好きなの?」
「なんだ、急に?」
「だって、リアと居る時、ちょっと雰囲気違うから」
「!」
カロルの言葉にユーリは驚いて少しだけ目を見開いた
「意外に見てるんだね」
「意外って何さ。で、どうなの? あ、もしかして、そのフレンって人もリアの事好きなの? 幼馴染みで取り合い?」
「さあな・・・ほら、さっさと行かねえと置いてかれるぞ」
「あ、待ってよぉ~」
「・・・大変だね、ユーリ」
ユーリはアスラの言葉に苦笑し、前にもどっかのお嬢様に同じ事言われた気がする、と思いながらリア達の後を追った
08.アスピオの有名人
「此処がアスピオよ」
アスピオはハルルを出て東に行った所にある洞窟の中だった
「薄暗いし肌寒い所だね」
「洞窟の中、だからね」
「太陽見れねぇと心まで拗くれんのかね、魔刻盗むとか」
そう、ユーリの目的は魔刻泥棒である『モルディオ』を捕まえる為に此処まで来たのだ
「確か此処って通行許可書がないと入れないんじゃなかったっけ?」
「通行許可書が必要なんです?」
「一応帝国直属の施設だからね」
「その通行許可書って持ってるの?」
「今は持ってないわ。随分と前に依頼人さんに返しちゃったから」
「そっかぁ・・・」
「とりあえず、行ってみっか」
ユーリはそう言って正門の方へ歩き出し、アスピオの中に入ろうとすると門番の騎士に止められ「通行許可書の掲示を・・・」と言われてしまったが、ユーリはそのまま言葉を続ける
「中に知り合いがいんだけど、通してもらえない?」
「正規の訪問手続きをしたなら、許可証が渡っているはずだ。その知り合いとやらからな」
「いや、何も聞いてないんだけど・・・入れないってんなら、呼んで来てくんないかな?」
「その知り合いの名は?」
「モルディオ」
「モ、モルディオだと!?」
『モルディオ』と言う名を聞き、門番達は異常な驚きを見せた
この異常な驚きと言う事はやはりモルディオと言う人物は偉大な人物なのだろう
「や、やはり駄目だ。書簡にてやり取りをし、正式に許可証を交付してもらえ」
「ちぇ、融通効かないんだから」
カロルはむっとした様子を隠そうともせず、足元にあった石を蹴り飛ばした
どうしたものかと考えているとエステルがあの、と騎士に話し掛けた
「フレンと言う名の騎士が、訪ねて来ませんでしたか?」
「施設に関する一切は機密事項です。些細な事でも教えられません」
「フレンが来た目的も?」
「勿論です」
「・・・と言う事は、フレンは此処に来たんですね!」
騎士の口振りが逆に仇になってしまったらしい
「うっわ、分かりやす~」
騎士達は慌ててそれを否定しようとするが、時既に遅しだ
エステルは伝言だけでもと頼もうとしたが、流石にそこまであの騎士達がやってくれるとは思わずユーリは早々にその場を離れた
「冷静に行こうぜ」
「でも、中にはフレンが・・・」
「まあ落ち着いて。何処か別の場所から入れるかもしれないよ」
「でも・・・」
「諦めちゃっても良いの?」
「絶対に諦めません! 今度こそフレンに会うんです!」
「ねぇ、みんなこっち来て!」
私の問にエステルは力一杯答え、周囲を調べようとしているとカロルが裏口を見つけた
ユーリがドアノブを回すがやはり開いていなくどうしようかと考えているとカロルがドアの前に行きごそごそと細工を始めた
「え? カロル・・・ι」
「・・・お前のいるギルドって、魔物狩るのが仕事だよな? 盗賊ギルドも兼ねてんのかよ」
「え、あ、うん・・・。まあ、ボクぐらいだよ。こんな事までやれるのは」
易々と裏口の鍵を開けてしまったカロルに向かって、ユーリは疑わしい目を向ける
ある意味感心してしまい、エステルははらはらしながらその様子を見ていた
そしてあっという間にガチャっと音が鳴り鍵は開いた
「ま、ボクにかかればこんなもんだね!」
「ご苦労さん、んじゃ行くか」
「ホントに、駄目ですって! フレンを待ちましょう」
「フレンが出て来る偶然に期待出来る程オレ、我慢強くないんだよ。大体こういう時に法とか規則に縛られんのが嫌でオレ、騎士団辞めたんだし」
「「・・・・」」
そう言うとユーリは一瞬寂しそうな顔をしたが、それに気付いたのは多分私とアスラだけだろう
「ほら、エステル行こう」
そんなユーリに気を遣い私はエステルに声を掛けた
「でも・・・」
「此処でじっとしててもしょうがないしさ」
「それにフレンに怒られても事情を説明すれば分かってもらえるから、ね」
エステルは暫し悩んでいたが、溜め息を吐いてこくんと頷いた
「・・・解りました。今はリアとアスラの言う事を信じます」
「決まりだな。んじゃ、入るぞ」
「ユーリは少しくらい悪気を感じて下さい」
その扉の先には街が広がっている訳ではなく、所狭しと本が置かれた書庫のような場所だった
ローブを着た人々が一言も言葉を交わす事もないまま黙々と分厚い書物を読み耽っていた
「流石学者の街だね・・・」
「なんかモルディオみたいのがいっぱいいるな・・・」
彼等は勝手に入って来た私達に注目するでもなく、視線は文字がびっしり詰まった本の頁に注がれていて、自分の世界に入り込んでいた
「あの、少しお時間よろしいです?」
エステルがその中の一人に話し掛けると、鬱陶しいくらいに前髪を伸ばし、丸眼鏡を掛けたいかにも本の虫といった青年が、面倒臭そうに振り返った
そのリアクションには愛想のカケラもない
「フレン・シーフォという騎士が訪ねて来ませんでしたか?」
「フレン?」
暫く唸った後何とか思い出してくれたようで言葉を続ける
「あれか、遺跡荒らしを捕まえるとか言ってた・・・」
(((遺跡荒らし・・・?)))
男の言葉に疑問を持った私とユーリとアスラだったが、エステルがフレンの居場所を聞き出そうとしたものの、彼は研究でそれどころではない、と再び本の世界に舞い戻ってしまった
「ちょ、待った。もう一つ教えてくれ。此処にモルディオって天才魔導士がいるよな?」
するとその名を聞いた男性はぎょっとして、思わず本を床に落とした
「な! あの変人に客!?」
やはりモルディオという名前は此処でも妙な効力を持っていたらしい
「流石有名人、知ってんだ」
「あ、いや、何も知らない。俺はあんなのとは関係ない・・・」
彼はぶつぶつとそういうと逃げるようにその場を去ろうとしたが、ユーリはあくまで親しげな物腰で引き止める
「まだ話は全然終わってないって」
「もう! なんだよ! 奥の小屋に一人で住んでるから勝手に行けばいいだろ!」
「サンキュ」
それを聞くとユーリは男を放してやり男は床に落とした本を拾い汚れを払いそのまま何処かへ行ってしまった
「大丈夫なの?」
「ん?」
「名前出しただけで、みんな嫌がるなんて可笑しいよ」
「気になりますね」
「そりゃ、魔導器ドロボウだしな。嫌われてんのも当然だろ」
「とりあえず、行ってみない?」
「そうね。行きましょう」
男の情報を元に私達はモルディオが住んでいる小屋へと向かった
街の奥に行くと本当に小さな小屋があった
だが入り口には『絶対入るな! モルディオ』と紙に大きな字で書いてあった
ユーリは先程と同じくドアノブを回し開かないと思うと乱暴にノックした
毎度の事ながらユーリは順序が逆じゃ・・・と思い苦笑しているとユーリが戻って来た
「いないみたいだね」
「でも、人の気配はするよ」
「じゃあ中にいるって事だろ」
ユーリはそう言ってカロルを見るとカロルもニッと笑った
「なら、ボクの出番だね」
「え・・・? 出番って・・・。それも駄目ですって!」
カロルはそのままドアの前に行き、あっという間に鍵を開けた
ドアが開くとユーリとカロルとラピードはそのまま何事もなかったかの様に入って行き、私とアスラもその後に続いた
「あ、待って下さい!」
私は着いて来ないエステルを見るとエステルは困った顔をしていたが慌てて後に続いた
中に入ると此処は図書館ですか? という位、本が積まれていて人が住めるのかと思ってしまった
「すっごっ・・・。こんなんじゃ誰も住めないよ~」
「その気になりゃあ、存外どんなとこだって食ったり寝たり出来るもんだ」
「確かにね」
「ユーリ、先に言う事がありますよ!」
「こんにちは、お邪魔してますよ」
エステルの言葉にユーリは全然気持ちの篭ってない声音で何処にいるとも知れないこの家の家主にそう断りを入れた
「カギの謝罪もです」
「カロルが勝手に開けました。ごめんなさい」
同じく感情の籠もってない、むしろ某読みに近い口調で謝った
私とアスラが苦笑していると隣にいたエステルが呆れた声を出した
「もう・・・ごめん下さ~い。何方かいらっしゃいませんか?」
しかし部屋の中はしんと静まり返って、誰かがいる気配はない
「居ないんなら好都合。証拠を探すとするか」
ユーリは既にガサ入れ体制に入っている
いつもの事だが、行動力はあるのだが、いかんせん荒っぽすぎるのがユーリの欠点だな、と苦笑し部屋を見渡しているとカロルが私を見て疑問を振った
「リアは此処に来た事あるのに、そのモルディオの事知らないの?」
「噂だけは聞いた事があるの。かなりの天才魔導士だって」
「けど、その後殆どの人が“あいつは変人だ”“変わり者だ”って言うんだよね」
「そういえばさっきの人も“あの変人”って言ってたよね?」
「魔刻盗む奴ならそう言われても可笑しくはねえだろ」
「でも、モルディオって『天才少女』って呼ばれてるのよね」
「え? でも、ユーリが見た魔刻泥棒は男性、でしたよね?」
「ああ。ありゃ確かに男だったよな」
「ワン」
ユーリの言葉にラピードも同意していると、カロルが更に首を傾げた
「何か色々と話しが噛み合ってなくない?」
「ですね・・・」
そんな疑問を持っているとある術式に目が止まり、私はその術式が書かれているものの前で止まった
「あ、リア」
「・・・・・・」
「なんだ、これ知ってんのか?」
真剣な表情でその術式を見ていた私にユーリは声を掛けるが私は唸りながら答えた
「うーん。似てるなって思っただけで・・・」
と、話していると本の山の一部が崩れた
突然の事に驚いて振り返ると、本の山の中心が崩れていく
何事かとその経緯を見守っていると、白いフードのようなものを被った人間がむくりと身体を起すのが見えた
「ぎゃあああ~~~~~っ! あう、あう、あうあうあう・・・」
本の山の近くにいたカロルがぎょっとして腰を抜かし、床に尻餅をついた
どう見ても怪しい格好のその人物は、変わった人が多いアスピオの街でも結構目立ちそうな井出達だった
「・・・うるさい・・・」
その声はかなり低めで機嫌が悪い声だった
カロルは慌ててユーリの後ろに隠れその腕に掴まった
そして声の主はいきなり構えると小さな声で詠唱を始め、周りから赤い光の粒子が立ち上る
「やばっ!!」
ユーリはそれを見るや否や私の手を引っ張って三メートル程左に移動した
「ドロボウは・・・・」
「うわわわっ、待ってぇっ!」
一人取り残されてしまったカロルがおどおどしているとその人物はカロルに視線を向け詠唱を唱える体制を取り
「ぶっ飛べ!!」
「いやぁぁぁ・・・!」
直ぐさまファイアーボールをカロルに向けて放った
見事にカロルに当たり周りは灰色の煙に包まれた
煙が腫れると同時にカロルが咳き込んでいた
そしてその原因を作った張本人を見ると被っていたフードが脱げ、あどけない顔立ちの茶髪の少女がむっとしたままこっちを睨んでいた
「お、女の子っ!?」
「やっぱり女の子だったんだね」
エステルはやはり驚いて目の前の少女を見てアスラはやっぱりと納得していた
そしてユーリは手に持っていた剣の鞘を乱暴に振り払って剣を構えると、まだ年端も行かぬ少女に真っ向から突き付けた
「こんだけやれりゃあ、帝都で会った時も逃げる必要なかったのにな」
しかし少女は動揺するどころか、呆れた顔をしてユーリを睨み付けている
エステルとカロルはその雰囲気にただ息を飲んだ
「はあ? 逃げるって何よ。なんであたしが逃げなきゃなんないの?」
「そりゃ帝都の下町から魔導器の魔刻を盗んだからだ」
それを聞いた少女は更に不機嫌そうに顔を顰め、相変わらず歯に衣着せぬ物言いで反論する
「いきなり何? あたしがドロボウって事? あんた、常識って言葉知ってる?」
「まあ、人並みには」
「勝手に家に上がり込んで人をドロボウ呼ばわりした挙句、剣突き付けるのが人並みの常識!?」
そしてラピードとアスラの姿を見た彼女は更に声を荒げた
「ちょっと、犬! と、そっちの犬か猫か分かんないけど動物入れないでよ! そこのガキんちょも! その子を返しなさい!」
「「え?」」
私とカロルは同時に驚き声を上げたが、お互いに驚いた所は違った
「もしかして見えてる?」
「!」
アスラが喋った事に少女は驚きハッとしてアスラを見た
「もしかして・・・あんた、式が「はい、ストップ」
少女が言葉を発っそうとすると私は少女の前に行きニッコリと微笑んでその言葉を止めた
「あの、リア?」
エステルは不思議に思い私を見たが私は気にする事なくカロルから魔導器を貰い少女に返した
「まさか・・・まだ実在してるなんて・・・」
少女は私から魔導器を受け取ると私をじっと見て何かぶつぶつと言っていた
「えっと、モルディオさん。突然お邪魔してごめんなさいね。ほら、みんなも謝って」
「ご、ごめんなさい」
カロルが謝るとエステルも少女の前に来て深々とお辞儀すると少女は少し動じたようだった
「な、なによ、あんた」
「わたし、エステリーゼって言います。突然、お邪魔してごめんなさい!」
「・・・・・」
(ユーリ・・・ι)
ユーリは断固として謝ったりしなかったが、少女は気にした様子もなく私達について尋ねエステルと一緒に経緯を分かりやすく端折って説明すると、それで? と続きを迫った
「魔刻ドロボウの特徴ってのが・・・マント! 小柄! 名前はモルディオ! だったんだよ」
「・・・ふ~ん、確かにあたしはモルディオよ。リタ・モルディオ」
今までの事を話してみるとリタは嘘を付いている様子もなく、本当に事情を知らない様子で魔刻泥棒ではないのでは? と思った
「で、実際の所どうなんだ?」
「だから、そんなの知らな・・・あ、その手があるか」
一瞬言葉を切り何か思いついたらしく私達を見た
「ついて来て」
そう言ってリタはすたすたと部屋の奥に歩いて行った
「はあ? お前意味わかんねえって。まだ話が・・・」
「いいから来て。シャイコス遺跡に盗賊団が現れたって話、せっかく思い出したんだから」
「盗賊団? それ、本当かよ」
「協力要請に来た騎士から聞いた話よ。間違いないでしょ」
協力要請に来た騎士・・・それはやはりフレンの事だろうか
エステルも同じ事を考えたようで、私達はリタに聞こえないようにひそひそと会議を始めた
「その騎士ってフレンの事でしょうか?」
「・・・だな。あいつ、フラれたんだ」
「それ、ちょっと違うんじゃ・・・」
「そういえば、さっきの人も遺跡荒らしがどうとか言ってたよね?」
「うん。ちょっと気になってたんだけどあれって『シャイコス遺跡』の事だったんだね」
「つまり、その盗賊団が魔刻を盗んだ犯人って事でしょうか?」
「さあなあ・・・」
「あり得なくはないと思うけどね」
「・・・相談終わった? じゃ行こう」
奥から出て来たリタは先程とは違い、動きやすそうな年相応の格好をしていた
こうして見るとさっきみたいな怪しさはなく、普通の女の子のように見える
「とか言って、出し抜いて逃げるなよ」
「来るのが嫌なら、此処に警備呼ぶ? 困るのはあたしじゃないし」
それを言われぐっと押し黙ってしまうエステルとカロルに苦笑し私は言葉を続けた
「行ってみよう。もしかしたらフレンいるかもしれないし」
「そうですね。行ってみた方が良いと思います」
「捕まる、逃げる、着いてくる。ど~すんのかさっさと決めてくれない?」
いい加減痺れを切らしたリタはドアの前で苛々していた
ユーリは溜め息を吐いて仕方なく着いて行く事を了承した
剣呑な空気の流れる中、私は機嫌の悪そうなユーリとリタを見てアスラと一緒に苦笑していた
続く
あとがき
最初の方と、家を漁ってる時の会話を増やしてみました
最初の会話の方はユーリとエステルが話しているスキット(好きなんです?(TOV))があるのでそちらを見て下さい(笑)
そして前回言った通り、同じ所で終わりましたねι
まあ次回は前より解りやすく書く予定ですのでι
それではまた次回!
2009.10.10
アスピオは仕事で何度か訪れた事があるから私は先頭を歩いていた
エステルと話しをしながら歩いているとふとカロルが疑問を振った
「ねえ、実際の所、フレンって本当に誰なの? エステルの訳ありな人?」
「・・・訳あり?」
「なんです? その訳ありな人って?」
カロルの言葉にユーリとアスラは少しだけ驚いていたが、私とエステルは意味が解らず首を傾げるとアスラが少し呆れていた
「・・・リアも意味解ってないみたいだよι」
「フレンはユーリとリアのお友達ですよ」
「まあ、そんな所だ」
「うん、幼馴染みよね」
「友人同士で一人の女性を? 見かけによらず、エステルってどろどろな人生送ってるね」
「なんです? そのどろどろな人生って?」
「いや、えっとぉ・・・」
「・・・まあ、ある意味間違ってないと思うけどね」
「え? それってもしかして、エステルじゃなくてリア・・・?」
「私が、どうかした?」
カロルの言葉に私は疑問符を出して首を傾げていると、ユーリとアスラが複雑な顔をしていた
「あー・・・いや、なんでも・・ない、よ」
「? そう?」
カロルを見ると気にしないで良いよ、と言う顔をしていたので私とエステルはそのまま歩き出しまた話しを始めた
ユーリはその様子をじっと見ていると、カロルの視線に気が付き少しめんどくさそうな口調で聞いた
「・・・なんだよ」
「・・・ユーリって、リアの事好きなの?」
「なんだ、急に?」
「だって、リアと居る時、ちょっと雰囲気違うから」
「!」
カロルの言葉にユーリは驚いて少しだけ目を見開いた
「意外に見てるんだね」
「意外って何さ。で、どうなの? あ、もしかして、そのフレンって人もリアの事好きなの? 幼馴染みで取り合い?」
「さあな・・・ほら、さっさと行かねえと置いてかれるぞ」
「あ、待ってよぉ~」
「・・・大変だね、ユーリ」
ユーリはアスラの言葉に苦笑し、前にもどっかのお嬢様に同じ事言われた気がする、と思いながらリア達の後を追った
08.アスピオの有名人
「此処がアスピオよ」
アスピオはハルルを出て東に行った所にある洞窟の中だった
「薄暗いし肌寒い所だね」
「洞窟の中、だからね」
「太陽見れねぇと心まで拗くれんのかね、魔刻盗むとか」
そう、ユーリの目的は魔刻泥棒である『モルディオ』を捕まえる為に此処まで来たのだ
「確か此処って通行許可書がないと入れないんじゃなかったっけ?」
「通行許可書が必要なんです?」
「一応帝国直属の施設だからね」
「その通行許可書って持ってるの?」
「今は持ってないわ。随分と前に依頼人さんに返しちゃったから」
「そっかぁ・・・」
「とりあえず、行ってみっか」
ユーリはそう言って正門の方へ歩き出し、アスピオの中に入ろうとすると門番の騎士に止められ「通行許可書の掲示を・・・」と言われてしまったが、ユーリはそのまま言葉を続ける
「中に知り合いがいんだけど、通してもらえない?」
「正規の訪問手続きをしたなら、許可証が渡っているはずだ。その知り合いとやらからな」
「いや、何も聞いてないんだけど・・・入れないってんなら、呼んで来てくんないかな?」
「その知り合いの名は?」
「モルディオ」
「モ、モルディオだと!?」
『モルディオ』と言う名を聞き、門番達は異常な驚きを見せた
この異常な驚きと言う事はやはりモルディオと言う人物は偉大な人物なのだろう
「や、やはり駄目だ。書簡にてやり取りをし、正式に許可証を交付してもらえ」
「ちぇ、融通効かないんだから」
カロルはむっとした様子を隠そうともせず、足元にあった石を蹴り飛ばした
どうしたものかと考えているとエステルがあの、と騎士に話し掛けた
「フレンと言う名の騎士が、訪ねて来ませんでしたか?」
「施設に関する一切は機密事項です。些細な事でも教えられません」
「フレンが来た目的も?」
「勿論です」
「・・・と言う事は、フレンは此処に来たんですね!」
騎士の口振りが逆に仇になってしまったらしい
「うっわ、分かりやす~」
騎士達は慌ててそれを否定しようとするが、時既に遅しだ
エステルは伝言だけでもと頼もうとしたが、流石にそこまであの騎士達がやってくれるとは思わずユーリは早々にその場を離れた
「冷静に行こうぜ」
「でも、中にはフレンが・・・」
「まあ落ち着いて。何処か別の場所から入れるかもしれないよ」
「でも・・・」
「諦めちゃっても良いの?」
「絶対に諦めません! 今度こそフレンに会うんです!」
「ねぇ、みんなこっち来て!」
私の問にエステルは力一杯答え、周囲を調べようとしているとカロルが裏口を見つけた
ユーリがドアノブを回すがやはり開いていなくどうしようかと考えているとカロルがドアの前に行きごそごそと細工を始めた
「え? カロル・・・ι」
「・・・お前のいるギルドって、魔物狩るのが仕事だよな? 盗賊ギルドも兼ねてんのかよ」
「え、あ、うん・・・。まあ、ボクぐらいだよ。こんな事までやれるのは」
易々と裏口の鍵を開けてしまったカロルに向かって、ユーリは疑わしい目を向ける
ある意味感心してしまい、エステルははらはらしながらその様子を見ていた
そしてあっという間にガチャっと音が鳴り鍵は開いた
「ま、ボクにかかればこんなもんだね!」
「ご苦労さん、んじゃ行くか」
「ホントに、駄目ですって! フレンを待ちましょう」
「フレンが出て来る偶然に期待出来る程オレ、我慢強くないんだよ。大体こういう時に法とか規則に縛られんのが嫌でオレ、騎士団辞めたんだし」
「「・・・・」」
そう言うとユーリは一瞬寂しそうな顔をしたが、それに気付いたのは多分私とアスラだけだろう
「ほら、エステル行こう」
そんなユーリに気を遣い私はエステルに声を掛けた
「でも・・・」
「此処でじっとしててもしょうがないしさ」
「それにフレンに怒られても事情を説明すれば分かってもらえるから、ね」
エステルは暫し悩んでいたが、溜め息を吐いてこくんと頷いた
「・・・解りました。今はリアとアスラの言う事を信じます」
「決まりだな。んじゃ、入るぞ」
「ユーリは少しくらい悪気を感じて下さい」
その扉の先には街が広がっている訳ではなく、所狭しと本が置かれた書庫のような場所だった
ローブを着た人々が一言も言葉を交わす事もないまま黙々と分厚い書物を読み耽っていた
「流石学者の街だね・・・」
「なんかモルディオみたいのがいっぱいいるな・・・」
彼等は勝手に入って来た私達に注目するでもなく、視線は文字がびっしり詰まった本の頁に注がれていて、自分の世界に入り込んでいた
「あの、少しお時間よろしいです?」
エステルがその中の一人に話し掛けると、鬱陶しいくらいに前髪を伸ばし、丸眼鏡を掛けたいかにも本の虫といった青年が、面倒臭そうに振り返った
そのリアクションには愛想のカケラもない
「フレン・シーフォという騎士が訪ねて来ませんでしたか?」
「フレン?」
暫く唸った後何とか思い出してくれたようで言葉を続ける
「あれか、遺跡荒らしを捕まえるとか言ってた・・・」
(((遺跡荒らし・・・?)))
男の言葉に疑問を持った私とユーリとアスラだったが、エステルがフレンの居場所を聞き出そうとしたものの、彼は研究でそれどころではない、と再び本の世界に舞い戻ってしまった
「ちょ、待った。もう一つ教えてくれ。此処にモルディオって天才魔導士がいるよな?」
するとその名を聞いた男性はぎょっとして、思わず本を床に落とした
「な! あの変人に客!?」
やはりモルディオという名前は此処でも妙な効力を持っていたらしい
「流石有名人、知ってんだ」
「あ、いや、何も知らない。俺はあんなのとは関係ない・・・」
彼はぶつぶつとそういうと逃げるようにその場を去ろうとしたが、ユーリはあくまで親しげな物腰で引き止める
「まだ話は全然終わってないって」
「もう! なんだよ! 奥の小屋に一人で住んでるから勝手に行けばいいだろ!」
「サンキュ」
それを聞くとユーリは男を放してやり男は床に落とした本を拾い汚れを払いそのまま何処かへ行ってしまった
「大丈夫なの?」
「ん?」
「名前出しただけで、みんな嫌がるなんて可笑しいよ」
「気になりますね」
「そりゃ、魔導器ドロボウだしな。嫌われてんのも当然だろ」
「とりあえず、行ってみない?」
「そうね。行きましょう」
男の情報を元に私達はモルディオが住んでいる小屋へと向かった
街の奥に行くと本当に小さな小屋があった
だが入り口には『絶対入るな! モルディオ』と紙に大きな字で書いてあった
ユーリは先程と同じくドアノブを回し開かないと思うと乱暴にノックした
毎度の事ながらユーリは順序が逆じゃ・・・と思い苦笑しているとユーリが戻って来た
「いないみたいだね」
「でも、人の気配はするよ」
「じゃあ中にいるって事だろ」
ユーリはそう言ってカロルを見るとカロルもニッと笑った
「なら、ボクの出番だね」
「え・・・? 出番って・・・。それも駄目ですって!」
カロルはそのままドアの前に行き、あっという間に鍵を開けた
ドアが開くとユーリとカロルとラピードはそのまま何事もなかったかの様に入って行き、私とアスラもその後に続いた
「あ、待って下さい!」
私は着いて来ないエステルを見るとエステルは困った顔をしていたが慌てて後に続いた
中に入ると此処は図書館ですか? という位、本が積まれていて人が住めるのかと思ってしまった
「すっごっ・・・。こんなんじゃ誰も住めないよ~」
「その気になりゃあ、存外どんなとこだって食ったり寝たり出来るもんだ」
「確かにね」
「ユーリ、先に言う事がありますよ!」
「こんにちは、お邪魔してますよ」
エステルの言葉にユーリは全然気持ちの篭ってない声音で何処にいるとも知れないこの家の家主にそう断りを入れた
「カギの謝罪もです」
「カロルが勝手に開けました。ごめんなさい」
同じく感情の籠もってない、むしろ某読みに近い口調で謝った
私とアスラが苦笑していると隣にいたエステルが呆れた声を出した
「もう・・・ごめん下さ~い。何方かいらっしゃいませんか?」
しかし部屋の中はしんと静まり返って、誰かがいる気配はない
「居ないんなら好都合。証拠を探すとするか」
ユーリは既にガサ入れ体制に入っている
いつもの事だが、行動力はあるのだが、いかんせん荒っぽすぎるのがユーリの欠点だな、と苦笑し部屋を見渡しているとカロルが私を見て疑問を振った
「リアは此処に来た事あるのに、そのモルディオの事知らないの?」
「噂だけは聞いた事があるの。かなりの天才魔導士だって」
「けど、その後殆どの人が“あいつは変人だ”“変わり者だ”って言うんだよね」
「そういえばさっきの人も“あの変人”って言ってたよね?」
「魔刻盗む奴ならそう言われても可笑しくはねえだろ」
「でも、モルディオって『天才少女』って呼ばれてるのよね」
「え? でも、ユーリが見た魔刻泥棒は男性、でしたよね?」
「ああ。ありゃ確かに男だったよな」
「ワン」
ユーリの言葉にラピードも同意していると、カロルが更に首を傾げた
「何か色々と話しが噛み合ってなくない?」
「ですね・・・」
そんな疑問を持っているとある術式に目が止まり、私はその術式が書かれているものの前で止まった
「あ、リア」
「・・・・・・」
「なんだ、これ知ってんのか?」
真剣な表情でその術式を見ていた私にユーリは声を掛けるが私は唸りながら答えた
「うーん。似てるなって思っただけで・・・」
と、話していると本の山の一部が崩れた
突然の事に驚いて振り返ると、本の山の中心が崩れていく
何事かとその経緯を見守っていると、白いフードのようなものを被った人間がむくりと身体を起すのが見えた
「ぎゃあああ~~~~~っ! あう、あう、あうあうあう・・・」
本の山の近くにいたカロルがぎょっとして腰を抜かし、床に尻餅をついた
どう見ても怪しい格好のその人物は、変わった人が多いアスピオの街でも結構目立ちそうな井出達だった
「・・・うるさい・・・」
その声はかなり低めで機嫌が悪い声だった
カロルは慌ててユーリの後ろに隠れその腕に掴まった
そして声の主はいきなり構えると小さな声で詠唱を始め、周りから赤い光の粒子が立ち上る
「やばっ!!」
ユーリはそれを見るや否や私の手を引っ張って三メートル程左に移動した
「ドロボウは・・・・」
「うわわわっ、待ってぇっ!」
一人取り残されてしまったカロルがおどおどしているとその人物はカロルに視線を向け詠唱を唱える体制を取り
「ぶっ飛べ!!」
「いやぁぁぁ・・・!」
直ぐさまファイアーボールをカロルに向けて放った
見事にカロルに当たり周りは灰色の煙に包まれた
煙が腫れると同時にカロルが咳き込んでいた
そしてその原因を作った張本人を見ると被っていたフードが脱げ、あどけない顔立ちの茶髪の少女がむっとしたままこっちを睨んでいた
「お、女の子っ!?」
「やっぱり女の子だったんだね」
エステルはやはり驚いて目の前の少女を見てアスラはやっぱりと納得していた
そしてユーリは手に持っていた剣の鞘を乱暴に振り払って剣を構えると、まだ年端も行かぬ少女に真っ向から突き付けた
「こんだけやれりゃあ、帝都で会った時も逃げる必要なかったのにな」
しかし少女は動揺するどころか、呆れた顔をしてユーリを睨み付けている
エステルとカロルはその雰囲気にただ息を飲んだ
「はあ? 逃げるって何よ。なんであたしが逃げなきゃなんないの?」
「そりゃ帝都の下町から魔導器の魔刻を盗んだからだ」
それを聞いた少女は更に不機嫌そうに顔を顰め、相変わらず歯に衣着せぬ物言いで反論する
「いきなり何? あたしがドロボウって事? あんた、常識って言葉知ってる?」
「まあ、人並みには」
「勝手に家に上がり込んで人をドロボウ呼ばわりした挙句、剣突き付けるのが人並みの常識!?」
そしてラピードとアスラの姿を見た彼女は更に声を荒げた
「ちょっと、犬! と、そっちの犬か猫か分かんないけど動物入れないでよ! そこのガキんちょも! その子を返しなさい!」
「「え?」」
私とカロルは同時に驚き声を上げたが、お互いに驚いた所は違った
「もしかして見えてる?」
「!」
アスラが喋った事に少女は驚きハッとしてアスラを見た
「もしかして・・・あんた、式が「はい、ストップ」
少女が言葉を発っそうとすると私は少女の前に行きニッコリと微笑んでその言葉を止めた
「あの、リア?」
エステルは不思議に思い私を見たが私は気にする事なくカロルから魔導器を貰い少女に返した
「まさか・・・まだ実在してるなんて・・・」
少女は私から魔導器を受け取ると私をじっと見て何かぶつぶつと言っていた
「えっと、モルディオさん。突然お邪魔してごめんなさいね。ほら、みんなも謝って」
「ご、ごめんなさい」
カロルが謝るとエステルも少女の前に来て深々とお辞儀すると少女は少し動じたようだった
「な、なによ、あんた」
「わたし、エステリーゼって言います。突然、お邪魔してごめんなさい!」
「・・・・・」
(ユーリ・・・ι)
ユーリは断固として謝ったりしなかったが、少女は気にした様子もなく私達について尋ねエステルと一緒に経緯を分かりやすく端折って説明すると、それで? と続きを迫った
「魔刻ドロボウの特徴ってのが・・・マント! 小柄! 名前はモルディオ! だったんだよ」
「・・・ふ~ん、確かにあたしはモルディオよ。リタ・モルディオ」
今までの事を話してみるとリタは嘘を付いている様子もなく、本当に事情を知らない様子で魔刻泥棒ではないのでは? と思った
「で、実際の所どうなんだ?」
「だから、そんなの知らな・・・あ、その手があるか」
一瞬言葉を切り何か思いついたらしく私達を見た
「ついて来て」
そう言ってリタはすたすたと部屋の奥に歩いて行った
「はあ? お前意味わかんねえって。まだ話が・・・」
「いいから来て。シャイコス遺跡に盗賊団が現れたって話、せっかく思い出したんだから」
「盗賊団? それ、本当かよ」
「協力要請に来た騎士から聞いた話よ。間違いないでしょ」
協力要請に来た騎士・・・それはやはりフレンの事だろうか
エステルも同じ事を考えたようで、私達はリタに聞こえないようにひそひそと会議を始めた
「その騎士ってフレンの事でしょうか?」
「・・・だな。あいつ、フラれたんだ」
「それ、ちょっと違うんじゃ・・・」
「そういえば、さっきの人も遺跡荒らしがどうとか言ってたよね?」
「うん。ちょっと気になってたんだけどあれって『シャイコス遺跡』の事だったんだね」
「つまり、その盗賊団が魔刻を盗んだ犯人って事でしょうか?」
「さあなあ・・・」
「あり得なくはないと思うけどね」
「・・・相談終わった? じゃ行こう」
奥から出て来たリタは先程とは違い、動きやすそうな年相応の格好をしていた
こうして見るとさっきみたいな怪しさはなく、普通の女の子のように見える
「とか言って、出し抜いて逃げるなよ」
「来るのが嫌なら、此処に警備呼ぶ? 困るのはあたしじゃないし」
それを言われぐっと押し黙ってしまうエステルとカロルに苦笑し私は言葉を続けた
「行ってみよう。もしかしたらフレンいるかもしれないし」
「そうですね。行ってみた方が良いと思います」
「捕まる、逃げる、着いてくる。ど~すんのかさっさと決めてくれない?」
いい加減痺れを切らしたリタはドアの前で苛々していた
ユーリは溜め息を吐いて仕方なく着いて行く事を了承した
剣呑な空気の流れる中、私は機嫌の悪そうなユーリとリタを見てアスラと一緒に苦笑していた
続く
あとがき
最初の方と、家を漁ってる時の会話を増やしてみました
最初の会話の方はユーリとエステルが話しているスキット(好きなんです?(TOV))があるのでそちらを見て下さい(笑)
そして前回言った通り、同じ所で終わりましたねι
まあ次回は前より解りやすく書く予定ですのでι
それではまた次回!
2009.10.10