満月の子編
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翌朝、私達は甲板に集まり今後の事を話し合った
ジュディスや私達から話を聞き、ユーリ達はとりあえず納得してくれた
そしてこの旅の最初の目的であるフェローに会いに行く事にした
フェローがいる場所はコゴール砂漠の中央にある岩山だと分かり、私達はその岩山に向かった
「此処にフェローがいるんだな」
岩山に着いた私達はフィエルティア号を少し広くなっている所に着け、降りた
「おそらくね。砂漠では会えなかったけれど此処では会えると思う」
此処に、フェローがいる
エステルの・・・否、私達の最初の目的である場所
とうとう此処まで来た
各々フェローに聞きたい事は山程ある
それにフェローが答えてくれるかは解らないけど、私も確かめたい事があるからフェローに会いに来た
もし、フェローにあの事を聞ければ・・・私と兄さんがこの後どうするべきかも解る
正直な事を言うと、凄く不安で恐い
けど、これは私自身もエステルも、そしてみんなも確かめておかなきゃいけない事だから
ジュディスが言うにフェローはこの先の岩山にいると言う
リタはエステルにフェローに会う事を再確認していた
エステルは返事を返すと岩山を登りだし、みんなも次々に続いて行くがリタとユーリだけは留まったままだった
「リタ。ジュディの話聞いてからなんかお前変だぞ? フェローに会うのになんか問題があるのか?」
「多分、あの子にとってつらい話だから。もう、今更しょうがないわ。此処まで来ちゃったんだから」
言うとリタはさっさと走って行き、私と兄さんの横を通り過ぎた
「「「・・・・」」」
リタの言葉を聞き私と兄さんとアスラは少しだけ複雑な顔をした
(リタは、もう何かに気が付いてるのね)
通り過ぎ様に見たリタの顔はとても悲しそうな顔だった
さっきの言葉でも何か確信しているのは解ったけど、それが私が思っている事なのかは解らないけど・・・
そしてユーリが歩いて来るのが見え、兄さんとアスラに目で促され私達は表情を戻して岩山を登りだした
71.満月の子の真相
「フェローいないね。お、お休みなんじゃない・・・なんて」
岩山を登り終え広い所に出ると、フェローの姿はなかった
カロルがユーリの後ろに隠れて少し上擦った声で言うとジュディスが一歩前に出て岩陰の方に向かって声をかけた
「フェロー。いるんでしょう?」
その途端、突然辺りが暗くなり砂が舞ってバサバサと羽根の音が聞こえた
「わあああ!!」
カロルは目の前の岩にフェローが降り立ったのを見て大きな声を出して驚いた
フェローは私達を見下すような形で私達を見て、少し目を細めてエステルを見た
「忌まわしき毒よ、遂に我が下に来たか!」
「・・・お出ましか。現れるなり毒呼ばわりとはご挨拶だな、フェロー!」
「何故我に会いに来た? 我にとってお前達を消す事なぞ造作もない事、解っておろう」
「ちっ、あんたもこれで語るタイプか? やるってんならしょうがねぇな」
ユーリは鞘から剣を抜き、構えるがそれをエステルが止める
「駄目です、ユーリ! みんなも待って!」
「エステル!」
「お願いです、フェロー、話をさせて下さい!」
「死を恐れぬのか、小さき者よ。そなたの死なる我を?」
「話、聞いてやってよ。フェロー」
「・・・式神か」
「ほら、エステル」
私の促しにエステルは頷き、ギュッと手を握ってフェローを見た
「怖いです。でも自分が何者なのか知らないまま死ぬのはもっと怖いです。ベリウスは貴方に会って運命を確かめろと言いました。わたしは自分の運命が知りたいんです。わたしが始祖の隷長にとって危険だと言うのは解りました。でも貴方は世界の毒と・・・わたしの力は何? 満月の子とは何なんです? 本当にわたしが生きている事が許されないのなら・・・」
エステルはそこで一呼吸置いてこう告げた
「死んだって良い」
その言葉にユーリがぴくりと反応した
「・・・・」
リタもカロルも驚いた顔をしていたが、エステルは必死にフェローに問いかける
「でも! せめてどうして死ななければならないのか・・・教えて下さい! お願いです!」
「かつては此処もエアルクレーネの恵みを受けた豊かな土地であった」
「此処にエアルクレーネがあったのね」
「でも、それが何故こんな事に?」
「エアルの暴走とその後の枯渇がもたらした結果だ。何故エアルが暴走したか・・・それこそが満月の子が世界の毒たる所以よ」
「え・・・」
「満月の子の力はどの魔導器にも増してエアルクレーネを刺激する」
「どういう事だ?」
「・・・魔導器は術式によってエアルを活動力に変えるもの」
その問いに答えたのはフェローではなくリタだった
リタは何処か悔しそうなつらそうな顔をして言葉を続ける
「なら、その魔導器を使わずに治癒術が使えるエステルはエアルを力に変える術式をその身に持ってるって事・・・ジュディスが狙ってるのは特殊な術式の魔導器・・・つまり・・・エステルはその身に持つ特殊な術式で大量のエアルを消費する・・・そしてエアルクレーネは活動を強め、エアルが大量に放出される・・・」
リタはそう言って言葉を切り、ギュッと拳を握って悔しそうに目を閉じた
「あたしの仮説・・・間違ってて欲しかった・・・」
「わたしは・・・」
「その者の言う通りだ」
エステルが顔を俯けると上からフェローの声が聞こえ私達はフェローを見た
「満月の子は力を使う度に魔導器などとは比べものにならぬ程、エアルを消費し、世界のエアルを乱す。世界にとって毒以外の何物でもない」
「だから消すってか? そりゃ随分と気が短いな。え? フェローよ」
「これは世界全体の問題なのだ。そしてその者はその原因。座視する訳には行かぬ」
「オレ達の不始末ならオレ達がやる」
「そうなのじゃ、勝手に押し付けはゴメンなのじゃ」
「お前達は事の重大さが理解出来ていないのだ」
「じゃあ聞くが、エステルが死んだからって何もかも解決するのかよ?」
「少なくとも一つは問題を取り除く事が出来る」
此処までは故郷で兄さんやアスラ達から聞いた事だった
そしてフェローは私と兄さんへと視線を向ける
「だが、その者がそこの言霊使い達にも影響を与えていると知っていてもか?」
「えっ?」
フェローの言葉に皆一斉に私と兄さんを見た
「確かに満月の子の力は俺達に影響を与える」
「特に力の強いリアとセイにはね」
兄さんとアスラの言葉にユーリ達は驚きエステルはまた暗い顔をしていた
「言霊使いの姫よ。そなたはどう思っているのだ?」
「・・・影響を受けて力の安定が出来なくなったのは確かよ。でも、私もエステルを消すって言うのは納得出来ない」
「何故だ?」
「今の私やみんなが知ってる事は長年生きてる貴方やアスラ達に比べたら少なすぎる事が多いと思う。貴方があの時驚いてた理由はちゃんと解ってる訳じゃない。過去に何が遭ったか解らないけど、私はずっとエステルとみんなと旅をして来て、エステルが危険な存在じゃないって解ってる。それはアスラも兄さんも同意見、エステルは誰よりも優しい子だから」
「・・・リア」
私の言葉を聞くとエステルは驚いたような嬉しいような顔をして、みんなも嬉しそうな顔をして笑っていた
「だがその者は・・・「フェロー」
その先の言葉はアスラによって掻き消され、フェローはアスラが視線を送った方を見るとジュディスがフェローを見ていて、視線が合ったのを確認するとジュディスは口を開いた
「フェロー、ヘリオードで私は手を止め、ダングレストでは貴方を止めたわ。最初は魔導器のはずが人間だったから。次は私自身が分からなくなったから。この子が貴方が言うような危険な存在とは思えなかったからよ」
「そうだ。故に我はそなたに免じて見極めの為の時間を与えた。その結果、我は同胞ベリウスを失う事となり、言霊使いにも影響を与えた。もう十分だ。その力は滅びを招く」
「ふーん。良く分かんないけど力を使うのがまずいなら、使わなきゃ良いだけじゃないの?」
「その娘が力を使わないと言う保証はない」
「・・・そうね。この子は目の前の事を見過ごせない子。きっとまた誰かの為に使うでしょうね。だけどその心がある限り害あるものとは言い切れないはず。彼女は魔導器とは違う。貴方にもそれが分かると思うけれど?」
「・・・心で世界は救えぬ」
「おい、フェロー」
ジュディスの問いにフェローはさらりと答えると隣にいたユーリが痺れを切らし口を開いた
「お前が世界とやらの為にあれこれ考えてるのは良く分かった。けどな、なんでエステルがその世界に含まれてない?」
「より大きなものを守る為には、切り捨てる事も必要なのだ」
「クソ喰らえだな。その何を切り捨てるかを決められる程、お前は偉いのかよ?」
「我等はお前達の想像も及ばぬ程の長きに渡り、忍耐と心労を重ねてきたのだ。わずかな時間でしか世界を捉える事の出来ぬ身で何を言うか!!」
「悪いけど、話はそこまでにしてくれない?」
そう声が聞こえた途端アスラは元の姿に戻りフェローを見た
「式神・・・。何故止める? そなたもこの事については」
「知ってるよ。けど、俺は主が決めた事になら従うぜ」
アスラの一人称が『俺』になった
『俺』と使うのはアスラが本気の時だけ使う言葉だ
「フェロー、一つだけ聞かせて」
みんながアスラの口調が変わった事に驚いている間に私は聞きたかった事を聞いた
「私達言霊使いが満月の子と一緒にいるのは危険だって事は神将達 から故郷で聞かされた。詳しくまでは聞かされてないけど、私達は本当に一緒にいるのはいけないの?」
「・・・・」
少し沈黙が流れた後、フェローはゆっくりと答える
「稀な力を持ち合わせているなら尚の事。それがそなたの為であり世界の為だ」
「世界の、為・・・?」
“世界の為”
その言葉が妙に引っかかっていると、アスラが一歩前に出た
「フェロー、これ以上は話しても無駄だと思うよ。時間、あんまないのはあんたも解ってるでしょ?」
「・・・・」
その言葉にフェローが押し黙ってしまう
「要するに、エアルの暴走を抑える方法を俺達が探せば良いんだろ」
「・・・・」
ずっと黙って事を見ていた兄さんの言葉を聞きフェローは少しだけ目を細め、アスラにだけ伝わるよう何か語っているようだった
その様子を静かに見ているとアスラは私の視線に気が付き優しく微笑んだ
「もし・・・エステルの力の影響が本当の限界に来たら・・・」
そう声が聞こえ私達は一斉にジュディスを見た
「約束通り私が殺すわ。それなら文句ないでしょう?」
「ちょ、ちょっと、ジュディス、本気で言ってるの!?」
ジュディスの言葉に驚いてカロルは声を上げると、ジュディスはにこりとして答えた
「あら、そうならないように凛々の明星が何とかするでしょ?」
「え!? あ、そうか・・・うん、そうだ、そうだね!」
「一本取られたな」
ユーリは苦笑して言うと直ぐに表情を変えてフェローを見た
「そう言う訳だ。エステルの事も、世界のヤバさもそれがオレ達人間の所為だってならオレ達自身がケジメ付ける。それで駄目なら、丸焼きでも何でも好きにしたら良い」
フェローはユーリ達から私と兄さんとアスラへと視線を向け、私も強い眼差しで深く頷きフェローはジュディスへと視線を移し、ゆっくりと口を開く
「・・・そなた変わったな。かつてのそなたなら・・・」
「さあどうなのかしら? でもそう言われて悪い気はしないわね」
確かにフェローの言う通り、ジュディスは変わったと思う
最初に会った時より考え方や行動も変わった
それはみんなと出会ったお陰だろうけどね
「・・・よかろう」
そう思っているとフェローの声が聞こえ私はまたフェローを見た
「だが忘れるな、時は尽きつつあると言う事を!」
そしてフェローは私と兄さんへと視線を向ける
「言霊使い、そなた達も今まで以上に覚悟を決めておく事だ」
言うとフェローは飛び立ち始めた
「ま「待って!」
フェローを呼び止めようとしていると先にリタが口を開いた
その声が必死だったからリタに譲りその言葉を聞いていた
「術式がエアル暴走の原因って言うのなら昔にも同じように暴走した事があるはずでしょ。魔導器は古代文明で生み出された技術なんだから」
「罪を受け継ぐ者達がいる。そ奴等を探すが良い。彼の者共なら過去に何が起こったのか伝えているであろう」
言い終えるとフェローの姿はもう何処にもなかった
「行っちゃった・・・」
「バイバイなのじゃ」
「えっと、あの・・・有り難う御座います、ユーリ。それに・・・ジュディスもアスラもセイも」
「それは良いんだけどな」
ユーリは静かにエステルの元へ歩き出し、エステルの前で止まるとエステルを睨み付けた
「え?」
「死んだって良い? ふざけてんのか?」
「・・・ごめんなさい」
「二度と言うなよ」
「ごめんなさい・・・」
そしてユーリは踵を返しフィエルティア号に向かいだしカロル達もその後に続いた
「・・・・」
私はそのままじっとユーリの背中を見つめた
あの言葉はユーリが一番嫌う言葉だったから・・・
私達言霊使い、そして始祖の隷長と同じく長年生きているアスラ達も嫌っている言葉だったから、ユーリが怒ってエステルに言っている時、兄さんもアスラも少しだけ眼を細めていた
そう思って兄さんを見ると私の視線に気付き、優しく微笑んだ
「俺達もそろそろ行くか」
「・・うん」
「じゃ、行こう」
いつの間にかアスラはいつもの姿に戻り私の肩に飛び乗り、私達もフィエルティア号へと向かった
「はぁ・・・どうなるかと思ったよ」
部屋に着くなりカロルは肩を落として大きな溜息を吐いた
「あーんなデカブツ相手に良くまあ話だけで済んだねえ。おっさん心臓がどうにかなりそうだったわ」
「おっさんのくせに、度胸がないのじゃ」
「本当、パティちゃんはいつも肝が据わってるのね」
パティの言葉にレイヴンは関心の声を上げていると、ユーリが壁に寄りかかりながら言う
「本当にエステルを殺すつもりだったら問答無用で来れば良かったはずだが・・・そこがどうも解せないな」
「多分、フェローも迷ってたのよ。だから私達がどう振舞うか見定める為に砂漠では姿を隠した」
「ふうん、思ったより悪い奴じゃなかったのかな?」
「どうだかな。いざとなりゃ、何だってやるタイプと思うがな、オレは」
「それはあんたも一緒でしょ」
「・・・かもな」
リタの言葉にユーリは苦笑して答えると心配そうなカロルの声が聞こえる
「でもどうするの、ユーリ? あんな事言っちゃって」
「エアルが悪さすんのをどうにかする。それだけだろ?」
「つっても手掛かりゼロじゃ話になんないんでない?」
「うむうむ、手掛かりは大切じゃぞ」
「エアルの消費に関しては間違いなく術式が関わってるはずなのよ。昔の魔導器についてやその時に暴走が起きたかどうか。その辺の情報があれば手掛かりになるんだけど・・・」
「過去の出来事については罪を受け継ぐ者達に聞け・・・。フェローはそう言ってました」
「魔導器を発明したのはクリティア族、つまり今も伝承を受け継ぐクリティア族に聞けと言う意味ね」
「確かに、クリティア族が魔導器を生み出したとは言われてるけど・・・」
「けどクリティアの街テムザはもう滅んじまってるぜ」
「他にもあれば話が早いんじゃがの」
「隠された街ミョルゾ。テムザよりずっと古い、クリティア族の故郷。そして魔導器発祥の地」
「ほへ~。そんな街があるのね。もしかしてジュディスちゃん。そのミョルゾっての何処にあるか知ってる?」
「さぁ?」
「その名前に覚えがある・・・」
ジュディスがニコリとして軽く受け流していると、リタがぽつりと呟いた
「アスピオに来てたクリティア族の人が何かその名前を言ってたような」
「その人、まだアスピオにいるでしょうか?」
「ま、当たってみるしかないな」
「ジュディス・・・一緒に来てくれる?」
「・・・そうね。まだギルドのケジメが残ってるものね」
「リア達はどうすんだ?」
ジュディスの返答を聞いた後、ユーリがそう言うと一斉に視線が私と兄さんに集まる
「言霊使いと満月の子が一緒にいるのは危険・・なんだよね?」
「稀な力を持ち合わせているなら尚の事。それがリアの為であり世界の為だ、って言ってたよな」
「稀な力を持ち合わせている分、その力が反応し合っちゃうって事?」
「・・・うん」
「けど、世界の為って言うのはどう言う事なのかしら?」
「リアの力も、世界に影響を与えとると言う事かの?」
「それならフェローが嬢ちゃんの時みたいに言ったはずじゃない?」
「・・ですね」
この答えはこの場にいる誰もが疑問に思っていた
実際にフェローが言った事は事実だし、満月の子の力を受けて力の安定がなくなったり倒れた事もあったけど、“世界の為”と大きな括りになった事は私も驚いてしまった
その答えを知っているかもしれないアスラは今は故郷に戻ってフェローと話した事を他の式神達に伝えに戻っている
「俺達もアスピオに行く」
考え込んでいると隣にいた兄さんが静かに答えた
「・・・兄さん。良いの?」
「良いも何も、あんな事言われて気にしないって方が無理あるだろ」
「そう、だけど」
一番心配してるのは兄さんやアスラ達だ
だから兄さんの言葉に少しだけ驚いてしまった
「じゃ、リアもセイもこのまま一緒に来るんだよね?」
「ああ。ただし、ヤバイと思ったら前みたいに抜けるからな」
綺麗に言い放った兄さんの言葉を聞きみんな驚いた顔をし、そういう条件付きかと私もユーリも小さく笑った
「解った。じゃ、アスピオに行くとするか」
そして私達はアスピオに向かい出した
続く
あとがき
ふ~何とか書き終わりました!
箱版と違う形に、と考えたらこのパターンだろうなぁ~・・・
けど、今回は色々とまた解らない事が増え、アスラもちょっとだけ本性時の台詞を増やしてみましたが・・・やっぱアスラも何か知ってる感じですが・・・それは後に解ってくるのかなぁ~?
最後はフェローの言葉が気になりつつ、リアちゃんもセイ兄ちゃんもユーリ達と一緒にアスピオへ向かいました
これで一応満月の子編は終了です
次回から新章『救出編』に移ります!
こっからは更に本編もオリジナルも増やしかなりの急展開になるのでお楽しみに!!
では、新章『救出編』でお会いしましょう!!
2010.05.09
ジュディスや私達から話を聞き、ユーリ達はとりあえず納得してくれた
そしてこの旅の最初の目的であるフェローに会いに行く事にした
フェローがいる場所はコゴール砂漠の中央にある岩山だと分かり、私達はその岩山に向かった
「此処にフェローがいるんだな」
岩山に着いた私達はフィエルティア号を少し広くなっている所に着け、降りた
「おそらくね。砂漠では会えなかったけれど此処では会えると思う」
此処に、フェローがいる
エステルの・・・否、私達の最初の目的である場所
とうとう此処まで来た
各々フェローに聞きたい事は山程ある
それにフェローが答えてくれるかは解らないけど、私も確かめたい事があるからフェローに会いに来た
もし、フェローにあの事を聞ければ・・・私と兄さんがこの後どうするべきかも解る
正直な事を言うと、凄く不安で恐い
けど、これは私自身もエステルも、そしてみんなも確かめておかなきゃいけない事だから
ジュディスが言うにフェローはこの先の岩山にいると言う
リタはエステルにフェローに会う事を再確認していた
エステルは返事を返すと岩山を登りだし、みんなも次々に続いて行くがリタとユーリだけは留まったままだった
「リタ。ジュディの話聞いてからなんかお前変だぞ? フェローに会うのになんか問題があるのか?」
「多分、あの子にとってつらい話だから。もう、今更しょうがないわ。此処まで来ちゃったんだから」
言うとリタはさっさと走って行き、私と兄さんの横を通り過ぎた
「「「・・・・」」」
リタの言葉を聞き私と兄さんとアスラは少しだけ複雑な顔をした
(リタは、もう何かに気が付いてるのね)
通り過ぎ様に見たリタの顔はとても悲しそうな顔だった
さっきの言葉でも何か確信しているのは解ったけど、それが私が思っている事なのかは解らないけど・・・
そしてユーリが歩いて来るのが見え、兄さんとアスラに目で促され私達は表情を戻して岩山を登りだした
71.満月の子の真相
「フェローいないね。お、お休みなんじゃない・・・なんて」
岩山を登り終え広い所に出ると、フェローの姿はなかった
カロルがユーリの後ろに隠れて少し上擦った声で言うとジュディスが一歩前に出て岩陰の方に向かって声をかけた
「フェロー。いるんでしょう?」
その途端、突然辺りが暗くなり砂が舞ってバサバサと羽根の音が聞こえた
「わあああ!!」
カロルは目の前の岩にフェローが降り立ったのを見て大きな声を出して驚いた
フェローは私達を見下すような形で私達を見て、少し目を細めてエステルを見た
「忌まわしき毒よ、遂に我が下に来たか!」
「・・・お出ましか。現れるなり毒呼ばわりとはご挨拶だな、フェロー!」
「何故我に会いに来た? 我にとってお前達を消す事なぞ造作もない事、解っておろう」
「ちっ、あんたもこれで語るタイプか? やるってんならしょうがねぇな」
ユーリは鞘から剣を抜き、構えるがそれをエステルが止める
「駄目です、ユーリ! みんなも待って!」
「エステル!」
「お願いです、フェロー、話をさせて下さい!」
「死を恐れぬのか、小さき者よ。そなたの死なる我を?」
「話、聞いてやってよ。フェロー」
「・・・式神か」
「ほら、エステル」
私の促しにエステルは頷き、ギュッと手を握ってフェローを見た
「怖いです。でも自分が何者なのか知らないまま死ぬのはもっと怖いです。ベリウスは貴方に会って運命を確かめろと言いました。わたしは自分の運命が知りたいんです。わたしが始祖の隷長にとって危険だと言うのは解りました。でも貴方は世界の毒と・・・わたしの力は何? 満月の子とは何なんです? 本当にわたしが生きている事が許されないのなら・・・」
エステルはそこで一呼吸置いてこう告げた
「死んだって良い」
その言葉にユーリがぴくりと反応した
「・・・・」
リタもカロルも驚いた顔をしていたが、エステルは必死にフェローに問いかける
「でも! せめてどうして死ななければならないのか・・・教えて下さい! お願いです!」
「かつては此処もエアルクレーネの恵みを受けた豊かな土地であった」
「此処にエアルクレーネがあったのね」
「でも、それが何故こんな事に?」
「エアルの暴走とその後の枯渇がもたらした結果だ。何故エアルが暴走したか・・・それこそが満月の子が世界の毒たる所以よ」
「え・・・」
「満月の子の力はどの魔導器にも増してエアルクレーネを刺激する」
「どういう事だ?」
「・・・魔導器は術式によってエアルを活動力に変えるもの」
その問いに答えたのはフェローではなくリタだった
リタは何処か悔しそうなつらそうな顔をして言葉を続ける
「なら、その魔導器を使わずに治癒術が使えるエステルはエアルを力に変える術式をその身に持ってるって事・・・ジュディスが狙ってるのは特殊な術式の魔導器・・・つまり・・・エステルはその身に持つ特殊な術式で大量のエアルを消費する・・・そしてエアルクレーネは活動を強め、エアルが大量に放出される・・・」
リタはそう言って言葉を切り、ギュッと拳を握って悔しそうに目を閉じた
「あたしの仮説・・・間違ってて欲しかった・・・」
「わたしは・・・」
「その者の言う通りだ」
エステルが顔を俯けると上からフェローの声が聞こえ私達はフェローを見た
「満月の子は力を使う度に魔導器などとは比べものにならぬ程、エアルを消費し、世界のエアルを乱す。世界にとって毒以外の何物でもない」
「だから消すってか? そりゃ随分と気が短いな。え? フェローよ」
「これは世界全体の問題なのだ。そしてその者はその原因。座視する訳には行かぬ」
「オレ達の不始末ならオレ達がやる」
「そうなのじゃ、勝手に押し付けはゴメンなのじゃ」
「お前達は事の重大さが理解出来ていないのだ」
「じゃあ聞くが、エステルが死んだからって何もかも解決するのかよ?」
「少なくとも一つは問題を取り除く事が出来る」
此処までは故郷で兄さんやアスラ達から聞いた事だった
そしてフェローは私と兄さんへと視線を向ける
「だが、その者がそこの言霊使い達にも影響を与えていると知っていてもか?」
「えっ?」
フェローの言葉に皆一斉に私と兄さんを見た
「確かに満月の子の力は俺達に影響を与える」
「特に力の強いリアとセイにはね」
兄さんとアスラの言葉にユーリ達は驚きエステルはまた暗い顔をしていた
「言霊使いの姫よ。そなたはどう思っているのだ?」
「・・・影響を受けて力の安定が出来なくなったのは確かよ。でも、私もエステルを消すって言うのは納得出来ない」
「何故だ?」
「今の私やみんなが知ってる事は長年生きてる貴方やアスラ達に比べたら少なすぎる事が多いと思う。貴方があの時驚いてた理由はちゃんと解ってる訳じゃない。過去に何が遭ったか解らないけど、私はずっとエステルとみんなと旅をして来て、エステルが危険な存在じゃないって解ってる。それはアスラも兄さんも同意見、エステルは誰よりも優しい子だから」
「・・・リア」
私の言葉を聞くとエステルは驚いたような嬉しいような顔をして、みんなも嬉しそうな顔をして笑っていた
「だがその者は・・・「フェロー」
その先の言葉はアスラによって掻き消され、フェローはアスラが視線を送った方を見るとジュディスがフェローを見ていて、視線が合ったのを確認するとジュディスは口を開いた
「フェロー、ヘリオードで私は手を止め、ダングレストでは貴方を止めたわ。最初は魔導器のはずが人間だったから。次は私自身が分からなくなったから。この子が貴方が言うような危険な存在とは思えなかったからよ」
「そうだ。故に我はそなたに免じて見極めの為の時間を与えた。その結果、我は同胞ベリウスを失う事となり、言霊使いにも影響を与えた。もう十分だ。その力は滅びを招く」
「ふーん。良く分かんないけど力を使うのがまずいなら、使わなきゃ良いだけじゃないの?」
「その娘が力を使わないと言う保証はない」
「・・・そうね。この子は目の前の事を見過ごせない子。きっとまた誰かの為に使うでしょうね。だけどその心がある限り害あるものとは言い切れないはず。彼女は魔導器とは違う。貴方にもそれが分かると思うけれど?」
「・・・心で世界は救えぬ」
「おい、フェロー」
ジュディスの問いにフェローはさらりと答えると隣にいたユーリが痺れを切らし口を開いた
「お前が世界とやらの為にあれこれ考えてるのは良く分かった。けどな、なんでエステルがその世界に含まれてない?」
「より大きなものを守る為には、切り捨てる事も必要なのだ」
「クソ喰らえだな。その何を切り捨てるかを決められる程、お前は偉いのかよ?」
「我等はお前達の想像も及ばぬ程の長きに渡り、忍耐と心労を重ねてきたのだ。わずかな時間でしか世界を捉える事の出来ぬ身で何を言うか!!」
「悪いけど、話はそこまでにしてくれない?」
そう声が聞こえた途端アスラは元の姿に戻りフェローを見た
「式神・・・。何故止める? そなたもこの事については」
「知ってるよ。けど、俺は主が決めた事になら従うぜ」
アスラの一人称が『俺』になった
『俺』と使うのはアスラが本気の時だけ使う言葉だ
「フェロー、一つだけ聞かせて」
みんながアスラの口調が変わった事に驚いている間に私は聞きたかった事を聞いた
「私達言霊使いが満月の子と一緒にいるのは危険だって事は
「・・・・」
少し沈黙が流れた後、フェローはゆっくりと答える
「稀な力を持ち合わせているなら尚の事。それがそなたの為であり世界の為だ」
「世界の、為・・・?」
“世界の為”
その言葉が妙に引っかかっていると、アスラが一歩前に出た
「フェロー、これ以上は話しても無駄だと思うよ。時間、あんまないのはあんたも解ってるでしょ?」
「・・・・」
その言葉にフェローが押し黙ってしまう
「要するに、エアルの暴走を抑える方法を俺達が探せば良いんだろ」
「・・・・」
ずっと黙って事を見ていた兄さんの言葉を聞きフェローは少しだけ目を細め、アスラにだけ伝わるよう何か語っているようだった
その様子を静かに見ているとアスラは私の視線に気が付き優しく微笑んだ
「もし・・・エステルの力の影響が本当の限界に来たら・・・」
そう声が聞こえ私達は一斉にジュディスを見た
「約束通り私が殺すわ。それなら文句ないでしょう?」
「ちょ、ちょっと、ジュディス、本気で言ってるの!?」
ジュディスの言葉に驚いてカロルは声を上げると、ジュディスはにこりとして答えた
「あら、そうならないように凛々の明星が何とかするでしょ?」
「え!? あ、そうか・・・うん、そうだ、そうだね!」
「一本取られたな」
ユーリは苦笑して言うと直ぐに表情を変えてフェローを見た
「そう言う訳だ。エステルの事も、世界のヤバさもそれがオレ達人間の所為だってならオレ達自身がケジメ付ける。それで駄目なら、丸焼きでも何でも好きにしたら良い」
フェローはユーリ達から私と兄さんとアスラへと視線を向け、私も強い眼差しで深く頷きフェローはジュディスへと視線を移し、ゆっくりと口を開く
「・・・そなた変わったな。かつてのそなたなら・・・」
「さあどうなのかしら? でもそう言われて悪い気はしないわね」
確かにフェローの言う通り、ジュディスは変わったと思う
最初に会った時より考え方や行動も変わった
それはみんなと出会ったお陰だろうけどね
「・・・よかろう」
そう思っているとフェローの声が聞こえ私はまたフェローを見た
「だが忘れるな、時は尽きつつあると言う事を!」
そしてフェローは私と兄さんへと視線を向ける
「言霊使い、そなた達も今まで以上に覚悟を決めておく事だ」
言うとフェローは飛び立ち始めた
「ま「待って!」
フェローを呼び止めようとしていると先にリタが口を開いた
その声が必死だったからリタに譲りその言葉を聞いていた
「術式がエアル暴走の原因って言うのなら昔にも同じように暴走した事があるはずでしょ。魔導器は古代文明で生み出された技術なんだから」
「罪を受け継ぐ者達がいる。そ奴等を探すが良い。彼の者共なら過去に何が起こったのか伝えているであろう」
言い終えるとフェローの姿はもう何処にもなかった
「行っちゃった・・・」
「バイバイなのじゃ」
「えっと、あの・・・有り難う御座います、ユーリ。それに・・・ジュディスもアスラもセイも」
「それは良いんだけどな」
ユーリは静かにエステルの元へ歩き出し、エステルの前で止まるとエステルを睨み付けた
「え?」
「死んだって良い? ふざけてんのか?」
「・・・ごめんなさい」
「二度と言うなよ」
「ごめんなさい・・・」
そしてユーリは踵を返しフィエルティア号に向かいだしカロル達もその後に続いた
「・・・・」
私はそのままじっとユーリの背中を見つめた
あの言葉はユーリが一番嫌う言葉だったから・・・
私達言霊使い、そして始祖の隷長と同じく長年生きているアスラ達も嫌っている言葉だったから、ユーリが怒ってエステルに言っている時、兄さんもアスラも少しだけ眼を細めていた
そう思って兄さんを見ると私の視線に気付き、優しく微笑んだ
「俺達もそろそろ行くか」
「・・うん」
「じゃ、行こう」
いつの間にかアスラはいつもの姿に戻り私の肩に飛び乗り、私達もフィエルティア号へと向かった
「はぁ・・・どうなるかと思ったよ」
部屋に着くなりカロルは肩を落として大きな溜息を吐いた
「あーんなデカブツ相手に良くまあ話だけで済んだねえ。おっさん心臓がどうにかなりそうだったわ」
「おっさんのくせに、度胸がないのじゃ」
「本当、パティちゃんはいつも肝が据わってるのね」
パティの言葉にレイヴンは関心の声を上げていると、ユーリが壁に寄りかかりながら言う
「本当にエステルを殺すつもりだったら問答無用で来れば良かったはずだが・・・そこがどうも解せないな」
「多分、フェローも迷ってたのよ。だから私達がどう振舞うか見定める為に砂漠では姿を隠した」
「ふうん、思ったより悪い奴じゃなかったのかな?」
「どうだかな。いざとなりゃ、何だってやるタイプと思うがな、オレは」
「それはあんたも一緒でしょ」
「・・・かもな」
リタの言葉にユーリは苦笑して答えると心配そうなカロルの声が聞こえる
「でもどうするの、ユーリ? あんな事言っちゃって」
「エアルが悪さすんのをどうにかする。それだけだろ?」
「つっても手掛かりゼロじゃ話になんないんでない?」
「うむうむ、手掛かりは大切じゃぞ」
「エアルの消費に関しては間違いなく術式が関わってるはずなのよ。昔の魔導器についてやその時に暴走が起きたかどうか。その辺の情報があれば手掛かりになるんだけど・・・」
「過去の出来事については罪を受け継ぐ者達に聞け・・・。フェローはそう言ってました」
「魔導器を発明したのはクリティア族、つまり今も伝承を受け継ぐクリティア族に聞けと言う意味ね」
「確かに、クリティア族が魔導器を生み出したとは言われてるけど・・・」
「けどクリティアの街テムザはもう滅んじまってるぜ」
「他にもあれば話が早いんじゃがの」
「隠された街ミョルゾ。テムザよりずっと古い、クリティア族の故郷。そして魔導器発祥の地」
「ほへ~。そんな街があるのね。もしかしてジュディスちゃん。そのミョルゾっての何処にあるか知ってる?」
「さぁ?」
「その名前に覚えがある・・・」
ジュディスがニコリとして軽く受け流していると、リタがぽつりと呟いた
「アスピオに来てたクリティア族の人が何かその名前を言ってたような」
「その人、まだアスピオにいるでしょうか?」
「ま、当たってみるしかないな」
「ジュディス・・・一緒に来てくれる?」
「・・・そうね。まだギルドのケジメが残ってるものね」
「リア達はどうすんだ?」
ジュディスの返答を聞いた後、ユーリがそう言うと一斉に視線が私と兄さんに集まる
「言霊使いと満月の子が一緒にいるのは危険・・なんだよね?」
「稀な力を持ち合わせているなら尚の事。それがリアの為であり世界の為だ、って言ってたよな」
「稀な力を持ち合わせている分、その力が反応し合っちゃうって事?」
「・・・うん」
「けど、世界の為って言うのはどう言う事なのかしら?」
「リアの力も、世界に影響を与えとると言う事かの?」
「それならフェローが嬢ちゃんの時みたいに言ったはずじゃない?」
「・・ですね」
この答えはこの場にいる誰もが疑問に思っていた
実際にフェローが言った事は事実だし、満月の子の力を受けて力の安定がなくなったり倒れた事もあったけど、“世界の為”と大きな括りになった事は私も驚いてしまった
その答えを知っているかもしれないアスラは今は故郷に戻ってフェローと話した事を他の式神達に伝えに戻っている
「俺達もアスピオに行く」
考え込んでいると隣にいた兄さんが静かに答えた
「・・・兄さん。良いの?」
「良いも何も、あんな事言われて気にしないって方が無理あるだろ」
「そう、だけど」
一番心配してるのは兄さんやアスラ達だ
だから兄さんの言葉に少しだけ驚いてしまった
「じゃ、リアもセイもこのまま一緒に来るんだよね?」
「ああ。ただし、ヤバイと思ったら前みたいに抜けるからな」
綺麗に言い放った兄さんの言葉を聞きみんな驚いた顔をし、そういう条件付きかと私もユーリも小さく笑った
「解った。じゃ、アスピオに行くとするか」
そして私達はアスピオに向かい出した
続く
あとがき
ふ~何とか書き終わりました!
箱版と違う形に、と考えたらこのパターンだろうなぁ~・・・
けど、今回は色々とまた解らない事が増え、アスラもちょっとだけ本性時の台詞を増やしてみましたが・・・やっぱアスラも何か知ってる感じですが・・・それは後に解ってくるのかなぁ~?
最後はフェローの言葉が気になりつつ、リアちゃんもセイ兄ちゃんもユーリ達と一緒にアスピオへ向かいました
これで一応満月の子編は終了です
次回から新章『救出編』に移ります!
こっからは更に本編もオリジナルも増やしかなりの急展開になるのでお楽しみに!!
では、新章『救出編』でお会いしましょう!!
2010.05.09