満月の子編
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あれから暫くして、私は落ち着いた
正直自分でもこんなに続けて泣くとは思ってなかった
こんなに泣いたのは本当にいつ以来だろうか・・・
そう思う程だった
気持ちも落ち着いた頃にアスラ達が戻って来て、“外”での出来事を教えてくれた
外での出来事、それはユーリ達の事、
そして今、ユニオンを含むダングレストで何が起こっているかを・・・
67.背徳の代償
「ダングレストの様子は思った通り、か」
「うん。だけど、」
「気になってるのは、パティの事、だね」
アスラの言葉に私は小さく頷いた
今、ダングレストは大変な騒ぎになっている
それは戦士の殿堂が兵装魔導器を持ってダングレストに向かっているから、ユニオンも戦う準備をするか否か言い合っているようだった
そして、ドンは事情を聞くと直ぐさまイエガーがいる背徳の館へと向かって行った
それもドンが自ら掟を破ってまで・・・
無事にドンを見つけたユーリ達だったが、ドンはパティの姿を見るなり驚いた顔をした
そして「アイフリードにそっくりだ・・・まさに生き写しだぜ・・・」と言ったそうだ
「生き写し・・・ね」
そう言った話しは聞いた事があるけど、何となく何かが引っかかる感じがした
「リア・・・?」
「あ、ううん、何でも・・・」
「それでどうするの?」
「やはりダングレストへ向かわれるのですか?」
「「え!?」」
センキとナセアの言葉にタイリンとユイカは驚いて私を見た
「・・・・」
ドンと軽く話しをしたユーリ達だったが、事はそれだけでは済まなかった
ダングレストに戻って来るや異な、ドンは急いでユニオンに戻って来たがその表情は何かを決心したような顔だったそうだ
それがどう言う意味なのか、私も兄さんもアスラ達も直ぐに理解出来た
「・・・ドン、代償を払うって言ったのよね」
「ああ」
「・・・・」
再度確認して私はある事を思い出し兄さんへと視線を向けると、兄さんは私が言いたい事を解っているような目をしていた
「・・・ダングレストに向かうわ」
「リア、本気なの!?」
「だって起きてそんなに時間経ってないのよ。それに力もまだ万全じゃないんだし・・・」
「また倒れる可能性だってあるし・・・」
タイリン、ユイカ、カムイから心配する声が聞こえる
みんなを見ると、半分は私が思っている事を解っている、そして半分はまだ此処にいるべきだと思っている
だけど・・・
「私と兄さんは前にドンとある約束をした。だから、今行かなくちゃ行けないの。ドンの最期を見届けなきゃいけないから・・・」
“最期”
・・・それはドンが自害する事を決めたからだった
いくら偽情報を掴まされたとはいえ戦士の殿堂の統領の命を奪ってしまった
そうなれば相手も黙ってはいない
部下の不始末は首領が取る
それは何処の世界でも一緒
だからドンはベリウスの命に釣り合う代償、つまり自らの命を戦士の殿堂に差し出す事だった
「『血には血の制裁を・・・』、か・・・」
「けど・・・命を代償にするのは・・・」
「それがギルドの掟っと言うものだ」
「理を破ってまでも守らなくてはいけない事もあります・・・」
「「「・・・・」」」
ケンク、ミズハ、リンコウ、ハクスイが順に言うと少しだけ間が出来た後、腹立たしいようにゲツレイが言う
「ったく、人間ってのはいつでも面倒なもんばっか作りやがるな」
それは長く生き、多くの人々の死を見ている式神達 にとってはツライ事なのかもしれない
「けど、それが解ってるからリアもセイも行くんだろ?」
「うん」「ああ」
フキの言葉に私も兄さんも頷いた
ドンとの約束を果たしに、
そして、ドンの決意を見届ける為に・・・
「解った。なら、私達は何も言うまい」
「リンコウ!!」
直ぐに納得したリンコウにタイリンとユイカが食って掛かろうとしたが、直ぐに二人の首根っこをケンクが掴んだ
「ケンク、放してよ」
「いいから大人しくしてろ」
「リア様、もうあまり猶予がありません」
「ダングレストへ向かわれるのでしたら早く向かった方が良いでしょう」
「準備が出来たら急いで向かうぞ」
「うん」
兄さんに返事を返すと、私は立ち上がって外へ視線を向け、ダングレストにいるユーリ達の事を思った
(みんなも、もうこの事は知ってるんだよね。 ・・・一番ツライのはドンに憧れていたカロルかもしれないな・・・)
ダングレストで生まれ育ったカロルにとってドンは憧れだった
その事は一緒に旅をしている時に話しを聞き、凛々の明星を大きくしてドンに恩返しが出来るように、この街を守っていきたい、と語ってくれた事を思い出す
「・・・・」
そう思いながらダングレストへ向かう準備をする為に自分の部屋へと向かって歩き出した
*
準備を済ませ、フキにユニオン近くに繋いで貰った
そして直ぐにユニオンへと向かい、私達は急いで中に入った
この街の人々とユニオンにはこの後ドンがどうするか伝わっているのか、皆様々な表情をしていた
私達はそれを横目に急いでユニオンの奥へと進んだ
そして・・・
「「ドン・・・」」
ドンの私室から少し離れた所で私達は足を止め、前から歩いて来る白髪の老人に声を掛ける
「あんた達は・・・!」
ハリーは私と兄さんを見て声を上げるが、ドンは気にした様子もなく小さく笑った
「やっぱり来たか」
「ああ」
「それもちゃんと正装までして」
「・・・・」
私は無言でドンを見るとドンはまた小さく笑い、ハリーを含む天を射る矢の人達に目を向ける
「てめぇら、暫く入ってくんじゃねぇぞ」
「え・・・ド「入ってくんじゃねぇぞ」
言葉を続けようとしている人の言葉を遮り更にドンは言い、私室へと向かって歩き出し、私と兄さんもその後に続いた
人払いをして私室に入ったドンはいつも座っている椅子に座らず、近くにある椅子に座り私と兄さんも近くにある椅子に座わり、私達の隣にアスラとフキも並んだ
「その格好で来たってぁ、もう事情知ってんだろ」
その格好、私と兄さんが今着ているのはいつもと違う、正装服
綺麗な着物を身に纏い髪も結っていて、いつもと違う雰囲気に包まれている
「ああ・・・だからあんたの決意を確かめに来た」
「ドン・・・本当に良いの?」
私の言葉にドンは真剣な表情になり口を開く
「ギルドの掟はオメェ等も知ってるだろ」
「うん・・・でも・・・」
「オメェが言いたい事は良く解る。けどよ、俺はもう悟ってんだ。時代が変わるなら今だってな」
「・・・・」
「オメェにはまだ早すぎる話だったか」
「かもね」「かもな」
黙って事を見ていたアスラとフキが頷きドンは言葉を続ける
「これからは若い連中がこの先を背負って行かなきゃなんねぇ。ベリウスが死んだ時よ、俺は思ったんだ。俺等はそろそろ、引退すべきなんだとよ」
ドンの言葉と共に重たい空気が漂い、私達は静かに耳を傾けていた
「けど、未練がないワケじゃないんでしょ?」
「そりゃな。もうこんな歳で随分と生きちまった。けど、守りたいもんを守り続けてたらな・・・過保護過ぎるのも問題だなぁ・・・」
その視線は兄さんとアスラとフキに向けられていた
「俺達が過保護なのは認めてるぜ」
「けど、あんた程じゃないと思うけどな」
ドンの言葉に兄さんとフキが皮肉っぽく言うとドンは豪快に笑った
「はっ、相変わらずの減らず口だな。けどよ、やっぱ俺は・・・あいつ等が好きだ。本当は後腐れなく逝っちまいたかったがな・・・」
そのドンの瞳は本当に寂しそうだったが、それは直ぐに消え、私達を見据えた
「オメェ等、正装で来たって事はあん時の約束を果たしに来たんだな」
「「・・・うん」」「「・・・ああ」」
ドンの言葉に私達は静かに頷いた
その約束と言うのはドンが私達が言霊使いだと言う事を知った時に言った事
「『俺が死ぬ時ぁ、オメェ等の仕事で逝 くってくれや・・・』」
あの時言われた言葉をドンはまた口にした
「だからわざわざ俺んとこに来たんだろ?」
「ああ、その言葉をもう一度聞きたかったのもあるけどな」
そう言って兄さんは立ち上がるとドンも立ち上がりお互いに数歩進んで握手をした
「ドンの決意、確かに受け取った」
「約束は必ず果たす」
「後の事はボク達に任せて」
「期待してるぜ」
ドンは兄さん、フキ、アスラと握手を交わすと私の前に来てしゃがんで私を見た
「オメェにはツライ事ばっかりだな」
「・・・ううん。これが私達の仕事だもん」
「強気なこった」
ドンは笑って私の頭を撫でた
「あの小僧の事、大事にすんだぞ」
「え?」
誰の事か疑問に思っているとドンはにっと笑って答えた
「ユーリ、だ。あれは俺の若い頃にそっくりだ」
「それ、前にバルボスも言ってた」
「はは、あ奴もそう思ってたか。なら尚更オメェが着いてないとなぁ」
「無茶するから?」
「良く解ってんじゃねぇか。けど、それだけじゃねえだろ?」
「え・・?」
「っと、この先は俺が言う事じゃねえな」
「ドン・・・?」
ドンの言葉に疑問を持って首を傾げるとドンは優しく微笑んで私の頭を撫でた
「あの小僧の事も、自分の事も大事な」
「・・・うん」
ドンにそう言われ私は頷くとお互いに握手をした
そしてドンは立ち上がって私達を見た
「あんがとよ。オメェ等に出逢えた事は俺の人生の中で良かった事に入る」
「「「ああ、俺達もだ」」」
「私も、ドンと出逢えて良かった」
私達の返事を聞くとドンは満足そうに笑って、私室を出て行った
*
ドンと話をした後、私達もゆっくりと広場に向かった
そこにはドンを尊敬していた誰もが集まり、悲しみに暮れていた
それは勿論、この街で育ったカロルも同じで涙を堪えていて、少し離れた所にレイヴンとハリーとパティもいた
今にも割けてしまいそうな緊張感の中、ドンは小刀を取り出す
「すまんが誰か介錯頼む」
その言葉に誰もが俯き、顔を逸らす中、
「・・・オレがやろう」
そう呟く声が聞こえ、その方に顔を向けると、広場の入り口近くからゆっくりと黒髪を靡かせてユーリがドンの方に歩いて来た
「・・・ユーリ」
私はそのままゆっくりとドンの後ろへ歩いていくユーリを見ていた
「おめえも損な役回りだな」
「お互い様だ」
「はっ、違いねえ。ユーリ、おめえの将来 を見てみたかったがな、俺は先に地獄で休んでるとするぜ」
「あんたが逝くのが地獄なら、オレはあんたの所にゃいけそうにないわ」
「ふん、おめぇの減らず口、忘れねぇぞ」
「オレもあんたの覚悟忘れないぜ、ドン・ホワイトホース」
お互いに真剣な表情をしていると、
「それから・・・」
ぽつりとドンは言葉を漏らしユーリはドンを見る
「リアの事、しっかり守ってやるんだぞ」
「リアを・・・?」
「あの娘っ子にはおめぇが必要だ」
急に出て来た名前に疑問を持っているとドンは更に真剣な表情で言い、ユーリは静かにドンの言葉に耳を傾ける
「おめぇはまだあの娘について知らない事が多すぎる。が、それはいずれ解る事だ」
「・・・ドン、あんた何か知って・・・」
「リアの事大事に思ってんならしっかり護るんだな」
ユーリの言葉にドンは遮るように言葉を続け、更に口角を上げて笑ってユーリを見た
「惚れた女なら尚更な」
「!」
ユーリは驚いて目を見開いてドンを見るとドンは更に満足そうに笑い、急に辺りを見渡し口を開いた
「てめぇら、これからはてめぇの足で歩け! てめぇらの時代を拓くんだ! いいな!」
辺りを見渡し、ドンの怒鳴るような声が、辺りを静かにさせる
その言葉に堪えきれなくなった人々が次々にドンの名前を呼ぶ
そしてドンは手に持っていた小刀をずぷりと自分の腹に入れ、横に一筋、力を入れてその筋肉に、赤い一の字を描く
痛みにも声を出さず、静かに目を閉じ、次の瞬間には振り下ろされた剣がドンの首を静かに断った
その反動で白髪と赤い鮮血が放物線を描きながら飛び、ぐしゃりと地面に落ちる鈍い音が辺りに響き、首を失なった体は支えを無くした人形の様に前に倒れ、足元には溢れ出る鮮血で、大きな血溜まりを作る
一人の人生が幕を閉じていく光景を目の前に、残された人々はドンの名前をぽつりぽつりと口にして、やがて何も言わなくなった
自分達を厳しく叱り、頼もしく護ってくれたその存在は、今や何も言わぬ塊でしかない
誰もが口を閉ざし、溢れ出る涙を堪え、悲しみに打ちひしがれる
―――終止符 と 告げる冷たい雨
遠い日々へ馳せる思い
すると突然何処からか唄が聞こえだし皆、その声の主を探し始める
その声の主は水色の髪をし、着物を着ている一人の女性だった
その後ろに同じく着物を着た男性も続いて来る
「・・・リア・・・セイ・・・」
ユーリは二人の姿を確認すると少し驚いた顔をした
天上 を仰ぐ度 紡げない未来に
君が幸せであれと最期まで願う
リアとセイは唄を歌いながらゆっくりと広場に歩いて来る
地の果ての影に留まりながら
鉛の空を想うのだろう
夜を算 え 夢を観て 黎明の聖刻 を迎え
限りある生命 よ 魂よ
永遠 に眠れ ―――
その美しくも悲しい唄に誰もが聴き入っていた
まるで今の気持ちを現しているかのように・・・
アスラは地面に転がるドンの頭を布に包んでやり、フキはドンの体を静かに横にさせた
リアとセイは歌い終わると目を開け、ドンに目を向けた
「ドン、これが私達『言霊使い』の仕事」
「ちゃんとドンに見せられて良かったぜ」
「「「「・・・永遠の眠りを」」」」
そう言うとリアとセイとアスラとフキはドンに手を合わせた
そしてそれを見ていたユーリとレイヴンもドンの側に寄り手を合わせると周りに居た人達も自然と体が動きだし、手を合わせ暫くはその行動が続いた
そして、最後の一人が終わるとドンを埋葬する準備に取り掛かった
*
ドンの埋葬には言霊使いであるリアとセイも駆り出され、後処理等でも引っ張り回され、気付いた頃にはもうとっくに日付が変わっていた
「・・・とりあえず、一段落、かな」
「・・・だな」
リアとセイは用意された部屋に行き、ソファに座り宙を仰いだ
「落ち着いたら、ベリウスの方も行かないとな」
「そうだね。でも、まずはジュディスとバウルの方に行かないと・・・」
ドンの方はこれで終わった
後は此処のユニオンの人間がやる事だから、リア達がやる事はない
だからもう一つの問題、ジュディスとバウルの事を思う
「ユーリ達も、ジュディスの所に向かうんだろうね」
「なら、リアはユーリ達と一緒に行くか?」
「・・・ううん。このまま兄さんと一緒に行くよ」
ユーリ達の事も心配だしユーリもリアの事を心配しているが、今はジュディスとバウルの方が心配だった
それは彼女達の所にあの魔狩りの剣が何度も向かって行っているからだった
「私達が早く行かないと、ジュディスとバウルも安心出来ないだろうし」
彼女達の事を知っていて二人の事を大事に思っているリアとしては、それが気がかりだった
「そうだな。けど、少しだけ休め。久々にやったから疲れただろ」
「うん・・・」
リアはセイに返事を返し薄く笑った
そして数分後、リア達はジュディスとバウルがいるテムザ山へ向かって行き、同時刻にユーリ達もテムザ山へ向かうべくフィエルティア号へ向かい出したのだった
続く
あとがき
ふう~何とか書き終わった~
でもまた気になる事が出て来ましたねえ
パティがアイフリードの生き写し・・・うーん、この子はますます謎が増えるなぁ
あ、そこもちゃんと後に書くのでご安心をww
そして今回はこのままセイにちゃんと一緒にテムザ山へ向かうパターンです
なので次回はジュディスと会う所からですね
じゃ、頑張って次書くか
2010.04.06
正直自分でもこんなに続けて泣くとは思ってなかった
こんなに泣いたのは本当にいつ以来だろうか・・・
そう思う程だった
気持ちも落ち着いた頃にアスラ達が戻って来て、“外”での出来事を教えてくれた
外での出来事、それはユーリ達の事、
そして今、ユニオンを含むダングレストで何が起こっているかを・・・
67.背徳の代償
「ダングレストの様子は思った通り、か」
「うん。だけど、」
「気になってるのは、パティの事、だね」
アスラの言葉に私は小さく頷いた
今、ダングレストは大変な騒ぎになっている
それは戦士の殿堂が兵装魔導器を持ってダングレストに向かっているから、ユニオンも戦う準備をするか否か言い合っているようだった
そして、ドンは事情を聞くと直ぐさまイエガーがいる背徳の館へと向かって行った
それもドンが自ら掟を破ってまで・・・
無事にドンを見つけたユーリ達だったが、ドンはパティの姿を見るなり驚いた顔をした
そして「アイフリードにそっくりだ・・・まさに生き写しだぜ・・・」と言ったそうだ
「生き写し・・・ね」
そう言った話しは聞いた事があるけど、何となく何かが引っかかる感じがした
「リア・・・?」
「あ、ううん、何でも・・・」
「それでどうするの?」
「やはりダングレストへ向かわれるのですか?」
「「え!?」」
センキとナセアの言葉にタイリンとユイカは驚いて私を見た
「・・・・」
ドンと軽く話しをしたユーリ達だったが、事はそれだけでは済まなかった
ダングレストに戻って来るや異な、ドンは急いでユニオンに戻って来たがその表情は何かを決心したような顔だったそうだ
それがどう言う意味なのか、私も兄さんもアスラ達も直ぐに理解出来た
「・・・ドン、代償を払うって言ったのよね」
「ああ」
「・・・・」
再度確認して私はある事を思い出し兄さんへと視線を向けると、兄さんは私が言いたい事を解っているような目をしていた
「・・・ダングレストに向かうわ」
「リア、本気なの!?」
「だって起きてそんなに時間経ってないのよ。それに力もまだ万全じゃないんだし・・・」
「また倒れる可能性だってあるし・・・」
タイリン、ユイカ、カムイから心配する声が聞こえる
みんなを見ると、半分は私が思っている事を解っている、そして半分はまだ此処にいるべきだと思っている
だけど・・・
「私と兄さんは前にドンとある約束をした。だから、今行かなくちゃ行けないの。ドンの最期を見届けなきゃいけないから・・・」
“最期”
・・・それはドンが自害する事を決めたからだった
いくら偽情報を掴まされたとはいえ戦士の殿堂の統領の命を奪ってしまった
そうなれば相手も黙ってはいない
部下の不始末は首領が取る
それは何処の世界でも一緒
だからドンはベリウスの命に釣り合う代償、つまり自らの命を戦士の殿堂に差し出す事だった
「『血には血の制裁を・・・』、か・・・」
「けど・・・命を代償にするのは・・・」
「それがギルドの掟っと言うものだ」
「理を破ってまでも守らなくてはいけない事もあります・・・」
「「「・・・・」」」
ケンク、ミズハ、リンコウ、ハクスイが順に言うと少しだけ間が出来た後、腹立たしいようにゲツレイが言う
「ったく、人間ってのはいつでも面倒なもんばっか作りやがるな」
それは長く生き、多くの人々の死を見ている
「けど、それが解ってるからリアもセイも行くんだろ?」
「うん」「ああ」
フキの言葉に私も兄さんも頷いた
ドンとの約束を果たしに、
そして、ドンの決意を見届ける為に・・・
「解った。なら、私達は何も言うまい」
「リンコウ!!」
直ぐに納得したリンコウにタイリンとユイカが食って掛かろうとしたが、直ぐに二人の首根っこをケンクが掴んだ
「ケンク、放してよ」
「いいから大人しくしてろ」
「リア様、もうあまり猶予がありません」
「ダングレストへ向かわれるのでしたら早く向かった方が良いでしょう」
「準備が出来たら急いで向かうぞ」
「うん」
兄さんに返事を返すと、私は立ち上がって外へ視線を向け、ダングレストにいるユーリ達の事を思った
(みんなも、もうこの事は知ってるんだよね。 ・・・一番ツライのはドンに憧れていたカロルかもしれないな・・・)
ダングレストで生まれ育ったカロルにとってドンは憧れだった
その事は一緒に旅をしている時に話しを聞き、凛々の明星を大きくしてドンに恩返しが出来るように、この街を守っていきたい、と語ってくれた事を思い出す
「・・・・」
そう思いながらダングレストへ向かう準備をする為に自分の部屋へと向かって歩き出した
*
準備を済ませ、フキにユニオン近くに繋いで貰った
そして直ぐにユニオンへと向かい、私達は急いで中に入った
この街の人々とユニオンにはこの後ドンがどうするか伝わっているのか、皆様々な表情をしていた
私達はそれを横目に急いでユニオンの奥へと進んだ
そして・・・
「「ドン・・・」」
ドンの私室から少し離れた所で私達は足を止め、前から歩いて来る白髪の老人に声を掛ける
「あんた達は・・・!」
ハリーは私と兄さんを見て声を上げるが、ドンは気にした様子もなく小さく笑った
「やっぱり来たか」
「ああ」
「それもちゃんと正装までして」
「・・・・」
私は無言でドンを見るとドンはまた小さく笑い、ハリーを含む天を射る矢の人達に目を向ける
「てめぇら、暫く入ってくんじゃねぇぞ」
「え・・・ド「入ってくんじゃねぇぞ」
言葉を続けようとしている人の言葉を遮り更にドンは言い、私室へと向かって歩き出し、私と兄さんもその後に続いた
人払いをして私室に入ったドンはいつも座っている椅子に座らず、近くにある椅子に座り私と兄さんも近くにある椅子に座わり、私達の隣にアスラとフキも並んだ
「その格好で来たってぁ、もう事情知ってんだろ」
その格好、私と兄さんが今着ているのはいつもと違う、正装服
綺麗な着物を身に纏い髪も結っていて、いつもと違う雰囲気に包まれている
「ああ・・・だからあんたの決意を確かめに来た」
「ドン・・・本当に良いの?」
私の言葉にドンは真剣な表情になり口を開く
「ギルドの掟はオメェ等も知ってるだろ」
「うん・・・でも・・・」
「オメェが言いたい事は良く解る。けどよ、俺はもう悟ってんだ。時代が変わるなら今だってな」
「・・・・」
「オメェにはまだ早すぎる話だったか」
「かもね」「かもな」
黙って事を見ていたアスラとフキが頷きドンは言葉を続ける
「これからは若い連中がこの先を背負って行かなきゃなんねぇ。ベリウスが死んだ時よ、俺は思ったんだ。俺等はそろそろ、引退すべきなんだとよ」
ドンの言葉と共に重たい空気が漂い、私達は静かに耳を傾けていた
「けど、未練がないワケじゃないんでしょ?」
「そりゃな。もうこんな歳で随分と生きちまった。けど、守りたいもんを守り続けてたらな・・・過保護過ぎるのも問題だなぁ・・・」
その視線は兄さんとアスラとフキに向けられていた
「俺達が過保護なのは認めてるぜ」
「けど、あんた程じゃないと思うけどな」
ドンの言葉に兄さんとフキが皮肉っぽく言うとドンは豪快に笑った
「はっ、相変わらずの減らず口だな。けどよ、やっぱ俺は・・・あいつ等が好きだ。本当は後腐れなく逝っちまいたかったがな・・・」
そのドンの瞳は本当に寂しそうだったが、それは直ぐに消え、私達を見据えた
「オメェ等、正装で来たって事はあん時の約束を果たしに来たんだな」
「「・・・うん」」「「・・・ああ」」
ドンの言葉に私達は静かに頷いた
その約束と言うのはドンが私達が言霊使いだと言う事を知った時に言った事
「『俺が死ぬ時ぁ、オメェ等の仕事で
あの時言われた言葉をドンはまた口にした
「だからわざわざ俺んとこに来たんだろ?」
「ああ、その言葉をもう一度聞きたかったのもあるけどな」
そう言って兄さんは立ち上がるとドンも立ち上がりお互いに数歩進んで握手をした
「ドンの決意、確かに受け取った」
「約束は必ず果たす」
「後の事はボク達に任せて」
「期待してるぜ」
ドンは兄さん、フキ、アスラと握手を交わすと私の前に来てしゃがんで私を見た
「オメェにはツライ事ばっかりだな」
「・・・ううん。これが私達の仕事だもん」
「強気なこった」
ドンは笑って私の頭を撫でた
「あの小僧の事、大事にすんだぞ」
「え?」
誰の事か疑問に思っているとドンはにっと笑って答えた
「ユーリ、だ。あれは俺の若い頃にそっくりだ」
「それ、前にバルボスも言ってた」
「はは、あ奴もそう思ってたか。なら尚更オメェが着いてないとなぁ」
「無茶するから?」
「良く解ってんじゃねぇか。けど、それだけじゃねえだろ?」
「え・・?」
「っと、この先は俺が言う事じゃねえな」
「ドン・・・?」
ドンの言葉に疑問を持って首を傾げるとドンは優しく微笑んで私の頭を撫でた
「あの小僧の事も、自分の事も大事な」
「・・・うん」
ドンにそう言われ私は頷くとお互いに握手をした
そしてドンは立ち上がって私達を見た
「あんがとよ。オメェ等に出逢えた事は俺の人生の中で良かった事に入る」
「「「ああ、俺達もだ」」」
「私も、ドンと出逢えて良かった」
私達の返事を聞くとドンは満足そうに笑って、私室を出て行った
*
ドンと話をした後、私達もゆっくりと広場に向かった
そこにはドンを尊敬していた誰もが集まり、悲しみに暮れていた
それは勿論、この街で育ったカロルも同じで涙を堪えていて、少し離れた所にレイヴンとハリーとパティもいた
今にも割けてしまいそうな緊張感の中、ドンは小刀を取り出す
「すまんが誰か介錯頼む」
その言葉に誰もが俯き、顔を逸らす中、
「・・・オレがやろう」
そう呟く声が聞こえ、その方に顔を向けると、広場の入り口近くからゆっくりと黒髪を靡かせてユーリがドンの方に歩いて来た
「・・・ユーリ」
私はそのままゆっくりとドンの後ろへ歩いていくユーリを見ていた
「おめえも損な役回りだな」
「お互い様だ」
「はっ、違いねえ。ユーリ、おめえの
「あんたが逝くのが地獄なら、オレはあんたの所にゃいけそうにないわ」
「ふん、おめぇの減らず口、忘れねぇぞ」
「オレもあんたの覚悟忘れないぜ、ドン・ホワイトホース」
お互いに真剣な表情をしていると、
「それから・・・」
ぽつりとドンは言葉を漏らしユーリはドンを見る
「リアの事、しっかり守ってやるんだぞ」
「リアを・・・?」
「あの娘っ子にはおめぇが必要だ」
急に出て来た名前に疑問を持っているとドンは更に真剣な表情で言い、ユーリは静かにドンの言葉に耳を傾ける
「おめぇはまだあの娘について知らない事が多すぎる。が、それはいずれ解る事だ」
「・・・ドン、あんた何か知って・・・」
「リアの事大事に思ってんならしっかり護るんだな」
ユーリの言葉にドンは遮るように言葉を続け、更に口角を上げて笑ってユーリを見た
「惚れた女なら尚更な」
「!」
ユーリは驚いて目を見開いてドンを見るとドンは更に満足そうに笑い、急に辺りを見渡し口を開いた
「てめぇら、これからはてめぇの足で歩け! てめぇらの時代を拓くんだ! いいな!」
辺りを見渡し、ドンの怒鳴るような声が、辺りを静かにさせる
その言葉に堪えきれなくなった人々が次々にドンの名前を呼ぶ
そしてドンは手に持っていた小刀をずぷりと自分の腹に入れ、横に一筋、力を入れてその筋肉に、赤い一の字を描く
痛みにも声を出さず、静かに目を閉じ、次の瞬間には振り下ろされた剣がドンの首を静かに断った
その反動で白髪と赤い鮮血が放物線を描きながら飛び、ぐしゃりと地面に落ちる鈍い音が辺りに響き、首を失なった体は支えを無くした人形の様に前に倒れ、足元には溢れ出る鮮血で、大きな血溜まりを作る
一人の人生が幕を閉じていく光景を目の前に、残された人々はドンの名前をぽつりぽつりと口にして、やがて何も言わなくなった
自分達を厳しく叱り、頼もしく護ってくれたその存在は、今や何も言わぬ塊でしかない
誰もが口を閉ざし、溢れ出る涙を堪え、悲しみに打ちひしがれる
―――
遠い日々へ馳せる思い
すると突然何処からか唄が聞こえだし皆、その声の主を探し始める
その声の主は水色の髪をし、着物を着ている一人の女性だった
その後ろに同じく着物を着た男性も続いて来る
「・・・リア・・・セイ・・・」
ユーリは二人の姿を確認すると少し驚いた顔をした
君が幸せであれと最期まで願う
リアとセイは唄を歌いながらゆっくりと広場に歩いて来る
地の果ての影に留まりながら
鉛の空を想うのだろう
夜を
限りある
その美しくも悲しい唄に誰もが聴き入っていた
まるで今の気持ちを現しているかのように・・・
アスラは地面に転がるドンの頭を布に包んでやり、フキはドンの体を静かに横にさせた
リアとセイは歌い終わると目を開け、ドンに目を向けた
「ドン、これが私達『言霊使い』の仕事」
「ちゃんとドンに見せられて良かったぜ」
「「「「・・・永遠の眠りを」」」」
そう言うとリアとセイとアスラとフキはドンに手を合わせた
そしてそれを見ていたユーリとレイヴンもドンの側に寄り手を合わせると周りに居た人達も自然と体が動きだし、手を合わせ暫くはその行動が続いた
そして、最後の一人が終わるとドンを埋葬する準備に取り掛かった
*
ドンの埋葬には言霊使いであるリアとセイも駆り出され、後処理等でも引っ張り回され、気付いた頃にはもうとっくに日付が変わっていた
「・・・とりあえず、一段落、かな」
「・・・だな」
リアとセイは用意された部屋に行き、ソファに座り宙を仰いだ
「落ち着いたら、ベリウスの方も行かないとな」
「そうだね。でも、まずはジュディスとバウルの方に行かないと・・・」
ドンの方はこれで終わった
後は此処のユニオンの人間がやる事だから、リア達がやる事はない
だからもう一つの問題、ジュディスとバウルの事を思う
「ユーリ達も、ジュディスの所に向かうんだろうね」
「なら、リアはユーリ達と一緒に行くか?」
「・・・ううん。このまま兄さんと一緒に行くよ」
ユーリ達の事も心配だしユーリもリアの事を心配しているが、今はジュディスとバウルの方が心配だった
それは彼女達の所にあの魔狩りの剣が何度も向かって行っているからだった
「私達が早く行かないと、ジュディスとバウルも安心出来ないだろうし」
彼女達の事を知っていて二人の事を大事に思っているリアとしては、それが気がかりだった
「そうだな。けど、少しだけ休め。久々にやったから疲れただろ」
「うん・・・」
リアはセイに返事を返し薄く笑った
そして数分後、リア達はジュディスとバウルがいるテムザ山へ向かって行き、同時刻にユーリ達もテムザ山へ向かうべくフィエルティア号へ向かい出したのだった
続く
あとがき
ふう~何とか書き終わった~
でもまた気になる事が出て来ましたねえ
パティがアイフリードの生き写し・・・うーん、この子はますます謎が増えるなぁ
あ、そこもちゃんと後に書くのでご安心をww
そして今回はこのままセイにちゃんと一緒にテムザ山へ向かうパターンです
なので次回はジュディスと会う所からですね
じゃ、頑張って次書くか
2010.04.06