満月の子編
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ベリウスの私室を後にした私達は急いで階段を駆け下り開け放たれた扉を抜けると、そこにはケガをして倒れている人が大勢いた
「っ! 大丈夫ですか!」
「酷い・・・。これをナンが・・・?」
私は近くにいた男性に駆け寄るとカロルのショックを受けたような声が聞こえユーリも駆け寄ってくる
「大丈夫か?」
「・・・ナッツ様が・・・闘技場の方を守る為に・・・魔狩りの剣と戦って・・・お願いします・・・助けて・・・」
「い、今、わたしが・・・」
エステルが駆け寄ろうとして私とユーリは無言で首を横に振る
「もう少し、早ければ・・・」
「悔やんでる時ではないでしょ」
「ナッツって人を助けなきゃ・・・!」
「ああ・・・この上か」
「行くぞ」
兄さんは闘技場へと続く扉を勢い良く開けた
64.Perplexity and confusion
「闘技場は現在、魔狩りの剣が制圧した! 速やかに退去せよ!」
闘技場に入って直ぐに聞こえたのは、魔狩りの剣の女の子、ナンの声だった
「ナン! もうやめてよ!」
「カロル? 何で此処に・・・」
ナンは振り返りカロルと私達を見ると怪訝そうな顔をした
「ギルド同士の抗争はユニオンじゃ厳禁でしょ!」
「何言ってんの! これはユニオンから直々に依頼された仕事なんだから!」
「何だと?」
すると、ナンの後ろから金髪の青年が出て来た
「お前・・・ハリー!?」
「あいつ・・・ダングレストで会ったユニオンの奴・・・?」
「ああ、ドンの孫のハリーだ」
「ドンの孫・・・?」
「ちょっと、何がどうなってるのよ?」
「お前もドンに命令されたろ? 聖核を探せって」
「ああ、でも聖核とこの騒ぎ、何の関係があるってんだ?」
「ジュディス! どうしたの・・・」
「あそこ!」
「ナッツさん・・・!」
「行くぞ!」
ジュディスが走って行く方に目を向けると、魔狩りの剣に囲まれているナッツさんが見え、私達もその後を追った
「ええい! こっちの話、終わってねぇってのに・・・!」
「待て! 退去しろと言っているだろう!」
「レイヴンもいるんだ。あいつ等は味方だろ。ほっとけ」
「後一人じゃ物足んねぇだろ? オレ等が相手してやるよ」
ユーリはナッツさんの周りを囲んでいる魔狩りの剣にそう言うと一気にこちらを向いた
「貴様等もベリウスの配下か!」
「ボ、ボク等は凛々の明星だ!」
「何か知らねぇが、魔物に味方する奴は死ね!」
「遅い!!」
魔狩りの剣達が一歩踏み出した瞬間、私、ユーリ、兄さん、ジュディス、アスラ、ラピードが即座に攻撃を仕掛け、その後にレイヴンも矢を放ちリタの魔術が発動した
「ぐわあぁっ!!」
魔狩りの剣達はそのまま倒れてしまい、気絶しているのを確認するとエステルは急いでナッツさんに駆け寄り治癒術を掛けてあげた
「・・・うう」
「何とか間に合ったようね」
「あんた治癒術師だったんだな。お陰で命拾いしたよ」
「ベリウスの方は大丈夫なのかの・・・?」
途端、ガシャンと言う音と共に上からベリウスとクリント、そして窓だった硝子の破片が落ちて来た
「うわっ!」
「ベリウス様!」
ベリウスを見るとかなりの傷を負っていたが命に別状はないようだった
「ナッツ、無事のようだの。まだやるか、人間共!」
「・・・この・・・悪の根源・・・め・・・」
「あいつが悪の根源? んな訳ねぇだろ。良く見てみやがれ!」
「魔物は悪と決まっている・・・! ゆえに、狩る・・・! 魔狩りの剣が、我々が・・・!」
クリントはそう言ってそのまま倒れる
「この石頭共!」
「この・・・魔物風情がぁ・・・!」
走り出そうとしているティソンをジュディスが止める
「ジュディ姐!」
それを見てパティはジュディスの加勢へと向かい私も向かおうとしているとエステルがベリウスに近付き、治癒術を掛け始めた
「ならぬ、そなたの力は・・・」
「だめ!」「「エステル、ダメ!」」「待て、エステル!」
私、アスラ、兄さん、ジュディスが叫ぶ
何故だか解らないけど、私はそう叫んだ
次の瞬間、眩い金色の光がベリウスを包んだ
「ぐぁああああっっっ!」
「なんじゃ!?」
「・・・遅かった・・・」
「わたしのせい・・・?」
「っ・・・!?」
そしてその光を見ていると急に胸が苦しくなって倒れそうになったけど、直ぐに兄さんが支えてくれた
幸いユーリ達には気付かれていない様子だった
「あのまま暴れられると闘技場が崩れっちまうぜ!」
「・・・リア、まだ平気か?」
「え、うん」
レイヴンの言葉を聞くと兄さんは私とアスラだけに聞こえる声で言いじっとベリウスを見た
「このままだとレイヴンが言った通り、闘技場を壊しかねない」
「けど今の状態じゃまともに戦えない」
「ああ」
「え?」
アスラの言葉に疑問を持っていると兄さんは頷いて言葉を続ける
「今の俺達じゃ力が安定出来ねえ。なら、一か八か戦って動きを止める」
「・・・それしか方法はないの?」
「うん・・・」
それはつまりベリウスと戦うと言う事だった
「これ以上リアに負担は掛けられない。だからリアは後方にいて」
「え?」
アスラの言葉に驚いているとベリウスが雄叫びに近い声を上げ、ユーリ達に向かって来ていた
「行くぞ!!」
ユーリの掛け声と共に皆一斉に戦闘態勢に入り、兄さんとアスラも前線へと向かった
「・・・戦って止めるしかないなんて・・・」
私は悲しい目をしてそうぽつりと呟いた
でも傷つけずに済ませたいと思っているのは私だけじゃない、此処にいるみんなが思っている事
「・・・? 傷つけずに済ませる方法・・・」
そこである事に気が付き思考を巡らせる
(傷つけない方法・・・つまり動きを止めさえすれば良いって事よね・・・)
「なら・・・」
私は決意を固めた眼をして顔を上げ、気を引き締めゆっくりと息を吸ってある言葉を発し出す
「・・・―― 、」
すると徐々に光の粒が辺りに集まりだした
「~~~♪」
そしてゆっくりとその言葉を唱えていくと、それは徐々に歌に変わっていく
「え?」
私の少し前で詠唱をしていたリタとエステルとレイヴンが振り返って私を見た
「リアちゃん?」
「これは・・・?」
「~~~♪」
「・・何だ?」
それは前衛にいたユーリ達にも聞こえだし、少しだけ振り返った
「・・・そう来たか」
前衛にいた兄さんとアスラも振り返り、その様子を見ていた
そして最後のフレーズを歌い終わると私は剣を構え、
「・・・絶え間なく歌え、」
ゆっくりと剣を降ろし、正面に向けると周りに集まっていた光の粒が大きな円陣を描いた
「ホーリーソング ――」
そう呟くと円陣から光が放たれ、私達の周りを温かい光が包み、ベリウスはその光を浴びて悲鳴を上げ、動きが止まった
「リア・・・」
みんな、ホーリーソングを使った私を見ると驚いた顔をしていた
私はそのまま視線をベリウスへと移すと、ベリウスは荒い息を吐いていた
なんとか動きが止まった事に安堵していると急にベリウスの身体が光り出した
「!」
「今度は何?」
「こんな結果になるなんて・・・」
「ごめんなさい・・・。わたし・・・わたし・・・」
エステルはその場に座り込み、辛い顔をして今にも泣きそうだった
「気に・・・病むでない・・・。そなたは・・・妾を救おうとしてくれたのであろう・・・」
「・・・でも、ごめんなさい。わたし・・・」
「力は己を傲慢にする・・・。だが、そなたは違うじゃな。他者を慈しむ優しき心を・・・大切にするのじゃ・・・フェローに会うが良い・・・。己の運命を確かめたいのであれば・・・」
「フェローに?」
「ナッツ、世話になったのう。この者達を恨むでないぞ・・・」
「ベリウス様!!」
「ま、待って下さい! だめ、お願いです! 行かないで!」
「ベリウス・・・さようなら・・・」
さらに眩い光が放たれ、光が消えた途端目の前に青く透き通った光を放つ大きめの結晶、聖核が現れた
「妾の魂、蒼穹の水玉 を我が友、ドン・ホワイトホースに」
聖核はエステルの前に降りてきて、エステルはそれを手に取った
(・・・言霊使い、式神・・・後は任せましたよ・・・)
(・・・ベリウス・・・)
(ああ、任せてくれ・・・)(・・・・)
聖核から私達の心にベリウスの声が聞こえ私と兄さんはそれぞれ返事を返し、アスラもベリウスの言葉に頷いた
(姫、止めてくれてありがとう)
(!?)
ベリウスが言った言葉に驚いて勢い良く顔を上げ、声を発しそうになったが、それは喉元に詰まって出てこなかった
「・・・・」
その事とベリウスを助けられなかった事にツライ顔をしていると、前にいたエステルもそのまま顔を俯けて床に座りこんでしまった
「ハリーが言ってたのはこういう訳か」
「人間・・・その石を渡せ」
思いに耽っているといつの間にかクリントが荒い息を吐きながらティソンの肩を借りて立っていてエステルの持っている聖核を睨み付けていた
「こいつがてめえ等の狙いか。素直に渡すと思うか?」
「では素直に・・・させるまでの事」
「そこまでだ! 全員、武器を置け!」
闘技場の入り口からソディアさんの声が聞こえその後ろから鎧の音が聞こえ出す
「ちっ、来ちまいやがった」
「貴様・・・闘技場にいる者を、全て捕らえろ!」
「さっさと逃げないと、俺等も捕まっちまうよ?」
「あたし等、捕まるような事何もしてないわよ!」
「きっと何か捕まえる理由こじつけられちゃうに決まってるよ!」
「そうね。逃げた方が良さそう」
「ワン!」
「逃げ道を確保したのじゃ。急ぐのじゃ」
「行くぞ」
ラピードとパティが逃げ道を確保してくれて兄さんの掛け声でカロル達は走り出したが、レイヴンは出口とは違う方に視線を向けていた
「レイヴンはハリーの方に行きなよ」
「そうするわ」
「ユーリ、エステル早く!!」
「ああ!」「はい!」
その先が何処の事だか解りアスラが声を掛け、レイヴンがハリーの所へ行ったのを確認すると私はユーリとエステルに声を掛け二人が来たと同時に走り出した
闘技場の出口に行くと騎士達が出口を塞いでいた
「こりゃ、完全に騎士に制圧されてんな」
「港から海に出るしかないわね」
「港も封鎖されてるんじゃ?」
「カドスの喉笛だって封鎖されてんのよ。だったら一か八か港の包囲網に突っ込むのよ!」
「そっか、海に逃げた方がまだマシだもんね」
「そう言うこった。パティ、悪いがまた操船頼めるか?」
「うむ、任せるのじゃ。うちの腕の見せ所じゃな。駆動魔導器がちゃんと新しくなってるといいがの」
「上等よ、魔導器の面倒はあたしが見るわ! って、あれ、おっさんは・・・?」
リタはこの場にいないレイヴンに気が付き後ろを見たが、やっぱりいなかった
「ハリーの方に行ったよ」
「心配しなくてもレイヴンなら大丈夫だ」
「そうね。呼ばれなくても出て来る人だもの」
「ユーリ・ローウェル、そこまでだ!」
後ろからソディアさんの声が聞こえその隣にはウィチル君もいた
「エステリーゼ様もお戻り下さい。フレン隊長が心配してます」
「・・・わ、わたしは・・・」
「エステルは帰らないわよ!」
リタはエステルの前に出て魔術を発動させるとウィチル君も魔術を発動させ、お互いにファイアーボールを当てその隙に私達は外へ逃げた
港近くまで逃げて来ると、フレンが待ち構えていた
「フレン・・・」
「こっちの考えはお見通しって訳」
「エステリーゼ様と、手に入れた石を渡してくれ」
「何でフレンが聖核の事・・・?」
「騎士団の狙いも、この聖核って訳か」
「魔狩りの剣も欲しがってた・・・」
「ヨームゲンの兄ちゃんが言うとった・・・聖核は人の世に混乱をもたらす、と・・・。やっぱり・・・」
そこまで言うとパティは急に後ろを振り向きジュディスと一緒に武器を構えた
後ろからはソディアさんとウィチル君が追いついて来た
カドスの時と同様、また挟み撃ちとなってしまった
「渡してくれ」
その様子を横目で見てフレンに視線を戻すとフレンは静かに告げ、鞘に手を当てる
「!?」
「うそっ、本気?」
その行動に思わず私とカロルは声を出してしまう
「お前、何やってんだよ。街を武力制圧って、冗談が過ぎるぜ。任務だかなんだか知らねえけど、力で全部抑え付けやがって」
「隊長、指示を!」
「それを変える為に、お前は騎士団にいんだろうが。こんな事、オレに言わせるな。お前なら解ってんだろ」
「「「「・・・・」」」」
ユーリの言葉にフレンは少し顔を歪め、兄さんもユーリ同様怒ったような表情をしていて、アスラは私達をじっと見て、私はあの時と同じように複雑な表情をして二人を見ていた
「何とか言えよ。これじゃ、オレ等の嫌いな帝国そのものじゃねえか。ラゴウやキュモールにでもなるつもりか!」
「なら、僕も消すか? ラゴウやキュモールのように君は僕を消すと言うのか?」
「フレン!!」
「え・・・それって・・・?」
「お前が悪党になるならな」
「ユーリ・・・」「ユーリ・・・?」
フレンの言葉に耐えきれず声を上げると、エステルとカロルは驚いた顔をしてユーリを見た後ゆっくりと私へ顔を向け、パティはその事が気になりユーリへと視線を向けた
「そいつとの喧嘩なら別のとこでやってくんない? 急いでるんでしょ!?」
「・・・ち」
「行くわよ!」
「・・・フレン・・・」
「・・・・」
リタ達は港へ向かって走り出し、私はフレンを見つめるとフレンはやっぱり複雑な顔をしていた
「・・・リア、ユーリとセイが待ってる。行こう」
「・・・うん・・・」
アスラは静かにそう告げ、私は小さく頷いてフレンの横をすり抜け少し先で私を待っているユーリと兄さんの所へ走って行った
私達は港へ走り、フィエルティア号に乗った
船に乗り込むとユーリと兄さんは錨を上げ、私達の後を追い駆けて来たレイヴンがハリーを連れて船に乗り込むと、パティは直ぐに船を出した
船が出航して暫くすると突然船が大きく揺れた
異常な揺れと感覚に私と兄さんとアスラは直ぐにその原因に気が付いた
「! これ!!」
そう思ってジュディスを見るとジュディスは既に駆動魔導器に向かって行っていた
そして駆動魔導器はエステルが持っている蒼穹の水玉と共鳴し合っていた
「あいつ、まさか」
「何するんです!」
「な、やめてぇっ!!」
その途端、エステルとリタの悲鳴と共に何かが爆発する音が聞こえた
その悲鳴と爆発音を聞きつけ、ユーリ達も駆動魔導器の元に集まった
「・・・やっちゃった」
私達はゆっくりと駆動魔導器の方へと歩いて行く
「・・・ジュディス」
「・・・どうして?」
「・・・私の道だから」
空からバウルの鳴き声が聞こえると、バウルはジュディスの方へ向かって来ていた
「ジュディ! 待て!」
「・・・さようなら」
ユーリは直ぐさまジュディスの所へ向かうが、バウルの方が先に辿り着きジュディスはバウルに乗って飛び去って行った
「ジュディス・・・!?」
「なんで、どうしてよ!?」
リタは悔しそうに握り拳を作り俯いていて、エステルとカロルはどうして? と言う顔をして、レイヴンとパティとラピードはバウルが飛び去って行った方をじっと見ていた
「・・・ジュディス」
そう呟いた途端、意識が朦朧として倒れそうになったが、元の姿に戻ったアスラが支え、兄さんは宙を仰ぐと隣にフキが現れた
「兄さん、アスラ、フキ・・・?」
けど、私を見る目がいつもと違う気がして疑問に思っていると違う気配を感じた
「リア、俺達も戻るぞ」
「え・・?」
「戻るって、何処にだ?」
「ユーリ・・・」
兄さんの言葉に驚いていると、急にユーリの声が聞こえた
いつの間にかユーリが私達の所に戻って来ていた
「そのままの意味だ。今の状態のリアとセイをこのまま此処に置いておく訳にはいかねえ」
「このままの状態・・?」
「さっきの戦いで、かなり不可が掛かっちゃったからね。戻らないとマズイんだ」
「悪いな、あんま長く話してる時間がねえんだ」
そう言って兄さんはアスラとフキに合図を出すと踵を返して歩き出した
「待てよ、それどういう!?」
ユーリが兄さん達の所に行こうとしていると、急に着物を羽織っている青い髪の女性がユーリの前に現れた
「リンコウ・・・」
ユーリの前に現れた女性はアスラとフキと同じ神将のリンコウだった
「リアとセイの事を思うなら、このまま故郷へ戻らせるべきだ」
「・・・故郷?」
「行くぞ」
フキの声を聞きリンコウは兄さんとフキの隣に移動してくる
「悪ぃな、ユーリ。暫く俺等も抜けるわ」
兄さんは薄く笑ってそう告げると風に包まれ出し、私は朦朧とした中小さく呟いた
「・・・ごめんね、ユーリ」
「!」
それが聞こえたのか解らないまま私達は風に包まれ故郷へと続く扉を越えた
続く
あとがき
ちょっとだけ箱版と変えて、今回はリアちゃんにホーリーソングを使って貰いました
その前に言ってる「絶え間なく歌え――」は某ゲームやってる時に使えるな・・と思った&思いついたので此処で使ってみました
そしてリンコウも登場!
ちょっとしか出番なかったけど多分次回はもっと出る予定です(予定かよι)
次は・・・多分故郷での話し・・・か?
が、頑張って繋げますよ!!
Perplexity and confusion:困惑と混乱
2010.03.20
「っ! 大丈夫ですか!」
「酷い・・・。これをナンが・・・?」
私は近くにいた男性に駆け寄るとカロルのショックを受けたような声が聞こえユーリも駆け寄ってくる
「大丈夫か?」
「・・・ナッツ様が・・・闘技場の方を守る為に・・・魔狩りの剣と戦って・・・お願いします・・・助けて・・・」
「い、今、わたしが・・・」
エステルが駆け寄ろうとして私とユーリは無言で首を横に振る
「もう少し、早ければ・・・」
「悔やんでる時ではないでしょ」
「ナッツって人を助けなきゃ・・・!」
「ああ・・・この上か」
「行くぞ」
兄さんは闘技場へと続く扉を勢い良く開けた
64.Perplexity and confusion
「闘技場は現在、魔狩りの剣が制圧した! 速やかに退去せよ!」
闘技場に入って直ぐに聞こえたのは、魔狩りの剣の女の子、ナンの声だった
「ナン! もうやめてよ!」
「カロル? 何で此処に・・・」
ナンは振り返りカロルと私達を見ると怪訝そうな顔をした
「ギルド同士の抗争はユニオンじゃ厳禁でしょ!」
「何言ってんの! これはユニオンから直々に依頼された仕事なんだから!」
「何だと?」
すると、ナンの後ろから金髪の青年が出て来た
「お前・・・ハリー!?」
「あいつ・・・ダングレストで会ったユニオンの奴・・・?」
「ああ、ドンの孫のハリーだ」
「ドンの孫・・・?」
「ちょっと、何がどうなってるのよ?」
「お前もドンに命令されたろ? 聖核を探せって」
「ああ、でも聖核とこの騒ぎ、何の関係があるってんだ?」
「ジュディス! どうしたの・・・」
「あそこ!」
「ナッツさん・・・!」
「行くぞ!」
ジュディスが走って行く方に目を向けると、魔狩りの剣に囲まれているナッツさんが見え、私達もその後を追った
「ええい! こっちの話、終わってねぇってのに・・・!」
「待て! 退去しろと言っているだろう!」
「レイヴンもいるんだ。あいつ等は味方だろ。ほっとけ」
「後一人じゃ物足んねぇだろ? オレ等が相手してやるよ」
ユーリはナッツさんの周りを囲んでいる魔狩りの剣にそう言うと一気にこちらを向いた
「貴様等もベリウスの配下か!」
「ボ、ボク等は凛々の明星だ!」
「何か知らねぇが、魔物に味方する奴は死ね!」
「遅い!!」
魔狩りの剣達が一歩踏み出した瞬間、私、ユーリ、兄さん、ジュディス、アスラ、ラピードが即座に攻撃を仕掛け、その後にレイヴンも矢を放ちリタの魔術が発動した
「ぐわあぁっ!!」
魔狩りの剣達はそのまま倒れてしまい、気絶しているのを確認するとエステルは急いでナッツさんに駆け寄り治癒術を掛けてあげた
「・・・うう」
「何とか間に合ったようね」
「あんた治癒術師だったんだな。お陰で命拾いしたよ」
「ベリウスの方は大丈夫なのかの・・・?」
途端、ガシャンと言う音と共に上からベリウスとクリント、そして窓だった硝子の破片が落ちて来た
「うわっ!」
「ベリウス様!」
ベリウスを見るとかなりの傷を負っていたが命に別状はないようだった
「ナッツ、無事のようだの。まだやるか、人間共!」
「・・・この・・・悪の根源・・・め・・・」
「あいつが悪の根源? んな訳ねぇだろ。良く見てみやがれ!」
「魔物は悪と決まっている・・・! ゆえに、狩る・・・! 魔狩りの剣が、我々が・・・!」
クリントはそう言ってそのまま倒れる
「この石頭共!」
「この・・・魔物風情がぁ・・・!」
走り出そうとしているティソンをジュディスが止める
「ジュディ姐!」
それを見てパティはジュディスの加勢へと向かい私も向かおうとしているとエステルがベリウスに近付き、治癒術を掛け始めた
「ならぬ、そなたの力は・・・」
「だめ!」「「エステル、ダメ!」」「待て、エステル!」
私、アスラ、兄さん、ジュディスが叫ぶ
何故だか解らないけど、私はそう叫んだ
次の瞬間、眩い金色の光がベリウスを包んだ
「ぐぁああああっっっ!」
「なんじゃ!?」
「・・・遅かった・・・」
「わたしのせい・・・?」
「っ・・・!?」
そしてその光を見ていると急に胸が苦しくなって倒れそうになったけど、直ぐに兄さんが支えてくれた
幸いユーリ達には気付かれていない様子だった
「あのまま暴れられると闘技場が崩れっちまうぜ!」
「・・・リア、まだ平気か?」
「え、うん」
レイヴンの言葉を聞くと兄さんは私とアスラだけに聞こえる声で言いじっとベリウスを見た
「このままだとレイヴンが言った通り、闘技場を壊しかねない」
「けど今の状態じゃまともに戦えない」
「ああ」
「え?」
アスラの言葉に疑問を持っていると兄さんは頷いて言葉を続ける
「今の俺達じゃ力が安定出来ねえ。なら、一か八か戦って動きを止める」
「・・・それしか方法はないの?」
「うん・・・」
それはつまりベリウスと戦うと言う事だった
「これ以上リアに負担は掛けられない。だからリアは後方にいて」
「え?」
アスラの言葉に驚いているとベリウスが雄叫びに近い声を上げ、ユーリ達に向かって来ていた
「行くぞ!!」
ユーリの掛け声と共に皆一斉に戦闘態勢に入り、兄さんとアスラも前線へと向かった
「・・・戦って止めるしかないなんて・・・」
私は悲しい目をしてそうぽつりと呟いた
でも傷つけずに済ませたいと思っているのは私だけじゃない、此処にいるみんなが思っている事
「・・・? 傷つけずに済ませる方法・・・」
そこである事に気が付き思考を巡らせる
(傷つけない方法・・・つまり動きを止めさえすれば良いって事よね・・・)
「なら・・・」
私は決意を固めた眼をして顔を上げ、気を引き締めゆっくりと息を吸ってある言葉を発し出す
「・・・―― 、」
すると徐々に光の粒が辺りに集まりだした
「~~~♪」
そしてゆっくりとその言葉を唱えていくと、それは徐々に歌に変わっていく
「え?」
私の少し前で詠唱をしていたリタとエステルとレイヴンが振り返って私を見た
「リアちゃん?」
「これは・・・?」
「~~~♪」
「・・何だ?」
それは前衛にいたユーリ達にも聞こえだし、少しだけ振り返った
「・・・そう来たか」
前衛にいた兄さんとアスラも振り返り、その様子を見ていた
そして最後のフレーズを歌い終わると私は剣を構え、
「・・・絶え間なく歌え、」
ゆっくりと剣を降ろし、正面に向けると周りに集まっていた光の粒が大きな円陣を描いた
「ホーリーソング ――」
そう呟くと円陣から光が放たれ、私達の周りを温かい光が包み、ベリウスはその光を浴びて悲鳴を上げ、動きが止まった
「リア・・・」
みんな、ホーリーソングを使った私を見ると驚いた顔をしていた
私はそのまま視線をベリウスへと移すと、ベリウスは荒い息を吐いていた
なんとか動きが止まった事に安堵していると急にベリウスの身体が光り出した
「!」
「今度は何?」
「こんな結果になるなんて・・・」
「ごめんなさい・・・。わたし・・・わたし・・・」
エステルはその場に座り込み、辛い顔をして今にも泣きそうだった
「気に・・・病むでない・・・。そなたは・・・妾を救おうとしてくれたのであろう・・・」
「・・・でも、ごめんなさい。わたし・・・」
「力は己を傲慢にする・・・。だが、そなたは違うじゃな。他者を慈しむ優しき心を・・・大切にするのじゃ・・・フェローに会うが良い・・・。己の運命を確かめたいのであれば・・・」
「フェローに?」
「ナッツ、世話になったのう。この者達を恨むでないぞ・・・」
「ベリウス様!!」
「ま、待って下さい! だめ、お願いです! 行かないで!」
「ベリウス・・・さようなら・・・」
さらに眩い光が放たれ、光が消えた途端目の前に青く透き通った光を放つ大きめの結晶、聖核が現れた
「妾の魂、
聖核はエステルの前に降りてきて、エステルはそれを手に取った
(・・・言霊使い、式神・・・後は任せましたよ・・・)
(・・・ベリウス・・・)
(ああ、任せてくれ・・・)(・・・・)
聖核から私達の心にベリウスの声が聞こえ私と兄さんはそれぞれ返事を返し、アスラもベリウスの言葉に頷いた
(姫、止めてくれてありがとう)
(!?)
ベリウスが言った言葉に驚いて勢い良く顔を上げ、声を発しそうになったが、それは喉元に詰まって出てこなかった
「・・・・」
その事とベリウスを助けられなかった事にツライ顔をしていると、前にいたエステルもそのまま顔を俯けて床に座りこんでしまった
「ハリーが言ってたのはこういう訳か」
「人間・・・その石を渡せ」
思いに耽っているといつの間にかクリントが荒い息を吐きながらティソンの肩を借りて立っていてエステルの持っている聖核を睨み付けていた
「こいつがてめえ等の狙いか。素直に渡すと思うか?」
「では素直に・・・させるまでの事」
「そこまでだ! 全員、武器を置け!」
闘技場の入り口からソディアさんの声が聞こえその後ろから鎧の音が聞こえ出す
「ちっ、来ちまいやがった」
「貴様・・・闘技場にいる者を、全て捕らえろ!」
「さっさと逃げないと、俺等も捕まっちまうよ?」
「あたし等、捕まるような事何もしてないわよ!」
「きっと何か捕まえる理由こじつけられちゃうに決まってるよ!」
「そうね。逃げた方が良さそう」
「ワン!」
「逃げ道を確保したのじゃ。急ぐのじゃ」
「行くぞ」
ラピードとパティが逃げ道を確保してくれて兄さんの掛け声でカロル達は走り出したが、レイヴンは出口とは違う方に視線を向けていた
「レイヴンはハリーの方に行きなよ」
「そうするわ」
「ユーリ、エステル早く!!」
「ああ!」「はい!」
その先が何処の事だか解りアスラが声を掛け、レイヴンがハリーの所へ行ったのを確認すると私はユーリとエステルに声を掛け二人が来たと同時に走り出した
闘技場の出口に行くと騎士達が出口を塞いでいた
「こりゃ、完全に騎士に制圧されてんな」
「港から海に出るしかないわね」
「港も封鎖されてるんじゃ?」
「カドスの喉笛だって封鎖されてんのよ。だったら一か八か港の包囲網に突っ込むのよ!」
「そっか、海に逃げた方がまだマシだもんね」
「そう言うこった。パティ、悪いがまた操船頼めるか?」
「うむ、任せるのじゃ。うちの腕の見せ所じゃな。駆動魔導器がちゃんと新しくなってるといいがの」
「上等よ、魔導器の面倒はあたしが見るわ! って、あれ、おっさんは・・・?」
リタはこの場にいないレイヴンに気が付き後ろを見たが、やっぱりいなかった
「ハリーの方に行ったよ」
「心配しなくてもレイヴンなら大丈夫だ」
「そうね。呼ばれなくても出て来る人だもの」
「ユーリ・ローウェル、そこまでだ!」
後ろからソディアさんの声が聞こえその隣にはウィチル君もいた
「エステリーゼ様もお戻り下さい。フレン隊長が心配してます」
「・・・わ、わたしは・・・」
「エステルは帰らないわよ!」
リタはエステルの前に出て魔術を発動させるとウィチル君も魔術を発動させ、お互いにファイアーボールを当てその隙に私達は外へ逃げた
港近くまで逃げて来ると、フレンが待ち構えていた
「フレン・・・」
「こっちの考えはお見通しって訳」
「エステリーゼ様と、手に入れた石を渡してくれ」
「何でフレンが聖核の事・・・?」
「騎士団の狙いも、この聖核って訳か」
「魔狩りの剣も欲しがってた・・・」
「ヨームゲンの兄ちゃんが言うとった・・・聖核は人の世に混乱をもたらす、と・・・。やっぱり・・・」
そこまで言うとパティは急に後ろを振り向きジュディスと一緒に武器を構えた
後ろからはソディアさんとウィチル君が追いついて来た
カドスの時と同様、また挟み撃ちとなってしまった
「渡してくれ」
その様子を横目で見てフレンに視線を戻すとフレンは静かに告げ、鞘に手を当てる
「!?」
「うそっ、本気?」
その行動に思わず私とカロルは声を出してしまう
「お前、何やってんだよ。街を武力制圧って、冗談が過ぎるぜ。任務だかなんだか知らねえけど、力で全部抑え付けやがって」
「隊長、指示を!」
「それを変える為に、お前は騎士団にいんだろうが。こんな事、オレに言わせるな。お前なら解ってんだろ」
「「「「・・・・」」」」
ユーリの言葉にフレンは少し顔を歪め、兄さんもユーリ同様怒ったような表情をしていて、アスラは私達をじっと見て、私はあの時と同じように複雑な表情をして二人を見ていた
「何とか言えよ。これじゃ、オレ等の嫌いな帝国そのものじゃねえか。ラゴウやキュモールにでもなるつもりか!」
「なら、僕も消すか? ラゴウやキュモールのように君は僕を消すと言うのか?」
「フレン!!」
「え・・・それって・・・?」
「お前が悪党になるならな」
「ユーリ・・・」「ユーリ・・・?」
フレンの言葉に耐えきれず声を上げると、エステルとカロルは驚いた顔をしてユーリを見た後ゆっくりと私へ顔を向け、パティはその事が気になりユーリへと視線を向けた
「そいつとの喧嘩なら別のとこでやってくんない? 急いでるんでしょ!?」
「・・・ち」
「行くわよ!」
「・・・フレン・・・」
「・・・・」
リタ達は港へ向かって走り出し、私はフレンを見つめるとフレンはやっぱり複雑な顔をしていた
「・・・リア、ユーリとセイが待ってる。行こう」
「・・・うん・・・」
アスラは静かにそう告げ、私は小さく頷いてフレンの横をすり抜け少し先で私を待っているユーリと兄さんの所へ走って行った
私達は港へ走り、フィエルティア号に乗った
船に乗り込むとユーリと兄さんは錨を上げ、私達の後を追い駆けて来たレイヴンがハリーを連れて船に乗り込むと、パティは直ぐに船を出した
船が出航して暫くすると突然船が大きく揺れた
異常な揺れと感覚に私と兄さんとアスラは直ぐにその原因に気が付いた
「! これ!!」
そう思ってジュディスを見るとジュディスは既に駆動魔導器に向かって行っていた
そして駆動魔導器はエステルが持っている蒼穹の水玉と共鳴し合っていた
「あいつ、まさか」
「何するんです!」
「な、やめてぇっ!!」
その途端、エステルとリタの悲鳴と共に何かが爆発する音が聞こえた
その悲鳴と爆発音を聞きつけ、ユーリ達も駆動魔導器の元に集まった
「・・・やっちゃった」
私達はゆっくりと駆動魔導器の方へと歩いて行く
「・・・ジュディス」
「・・・どうして?」
「・・・私の道だから」
空からバウルの鳴き声が聞こえると、バウルはジュディスの方へ向かって来ていた
「ジュディ! 待て!」
「・・・さようなら」
ユーリは直ぐさまジュディスの所へ向かうが、バウルの方が先に辿り着きジュディスはバウルに乗って飛び去って行った
「ジュディス・・・!?」
「なんで、どうしてよ!?」
リタは悔しそうに握り拳を作り俯いていて、エステルとカロルはどうして? と言う顔をして、レイヴンとパティとラピードはバウルが飛び去って行った方をじっと見ていた
「・・・ジュディス」
そう呟いた途端、意識が朦朧として倒れそうになったが、元の姿に戻ったアスラが支え、兄さんは宙を仰ぐと隣にフキが現れた
「兄さん、アスラ、フキ・・・?」
けど、私を見る目がいつもと違う気がして疑問に思っていると違う気配を感じた
「リア、俺達も戻るぞ」
「え・・?」
「戻るって、何処にだ?」
「ユーリ・・・」
兄さんの言葉に驚いていると、急にユーリの声が聞こえた
いつの間にかユーリが私達の所に戻って来ていた
「そのままの意味だ。今の状態のリアとセイをこのまま此処に置いておく訳にはいかねえ」
「このままの状態・・?」
「さっきの戦いで、かなり不可が掛かっちゃったからね。戻らないとマズイんだ」
「悪いな、あんま長く話してる時間がねえんだ」
そう言って兄さんはアスラとフキに合図を出すと踵を返して歩き出した
「待てよ、それどういう!?」
ユーリが兄さん達の所に行こうとしていると、急に着物を羽織っている青い髪の女性がユーリの前に現れた
「リンコウ・・・」
ユーリの前に現れた女性はアスラとフキと同じ神将のリンコウだった
「リアとセイの事を思うなら、このまま故郷へ戻らせるべきだ」
「・・・故郷?」
「行くぞ」
フキの声を聞きリンコウは兄さんとフキの隣に移動してくる
「悪ぃな、ユーリ。暫く俺等も抜けるわ」
兄さんは薄く笑ってそう告げると風に包まれ出し、私は朦朧とした中小さく呟いた
「・・・ごめんね、ユーリ」
「!」
それが聞こえたのか解らないまま私達は風に包まれ故郷へと続く扉を越えた
続く
あとがき
ちょっとだけ箱版と変えて、今回はリアちゃんにホーリーソングを使って貰いました
その前に言ってる「絶え間なく歌え――」は某ゲームやってる時に使えるな・・と思った&思いついたので此処で使ってみました
そしてリンコウも登場!
ちょっとしか出番なかったけど多分次回はもっと出る予定です(予定かよι)
次は・・・多分故郷での話し・・・か?
が、頑張って繋げますよ!!
Perplexity and confusion:困惑と混乱
2010.03.20