満月の子編
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カドスの喉笛を抜け騎士団を撒いた私達は、無事にノードポリカへと辿り着く事が出来た
「騎士の姿はちらほら見えるけど・・・」
「この前の大会の騒動考えれば、普通の警備って感じ」
街の中に入り少し様子を伺うが騎士の姿はそんなに見当たらなかった
「魔物が逃げ出して大変でしたからね」
「逆に気味が悪いぜ。あんな検問敷いてたってのに。やっぱおっさんの言う通り、騎士団め、何か企んでやがるな」
「でも今は目立たなければ街の中にいても平気そう」
「そうだね。見た感じ、まだ此処の騎士達にはボク達の事知らされてないみたいだし」
「街の警備っぽいしな」
「ベリウスに会えるのは新月の夜・・・丁度今夜ね」
「じゃ、宿で一休みしてからベリウスに会いに行きますか。ようやくドンの手紙を渡せるわ」
「パティ、そんな所に隠れて何してんの」
カロルは物陰に隠れているパティにそう声を掛けるとリタが言葉を続ける
「あの子、前にこの街で色々遭ったでしょ」
「出ていらっしゃい、大丈夫よ」
ジュディスの言葉を聞くとパティは物陰から出て来て私達の前に来るが、少しだけ浮かない顔をしていた
「パティ・・?」
それを疑問に思っているとパティは顔を上げる
「うちも、もうすこーしだけ一緒にいても良いかの?」
「え? うん・・・構わない、よね?」
「・・・そうですね・・・この街を出るまでは一緒にいた方がいいですね」
「どうせ、此処で別れても、行った先でまた会うような気がするのじゃ。だったら、一緒に行っても行かなくても同じ事なのじゃ」
「それ、良く解らない理屈なんだけど」
「きっと、ユーリ達は麗しの星がある方向に向かって進んでおるのじゃ」
「・・・それも良く分かんない」
「つまり、うちは・・・」
「一緒に来たいって事よね?」
「・・・一人で行くより、ユーリ達と行った方が色々と・・・得なのじゃ」
「来たいなら、着いて来い。今更、道連れが一人増えたって困りゃしねぇよ」
「じゃの!」
ユーリはそのまま私へと視線を向け、私もユーリを見ると小声で話を始めた
「フレンの奴、もうこの街に入ってるんだろうな」
「そうだろうね・・・」
「もろもろとっとと片付けてフレンのヤツを問い詰めなきゃな・・・」
「その時は私も・・・一緒に行くから」
「・・・解った」
ユーリは少し間を置いて頷いてくれた
そして夜、
私達は宿を抜けエントランスに集まりベリウスに会いに行こうとしていた
「みんな覚悟は良いか?」
「・・・い、いいよぉ・・・」
「あんた震えてるわよ」
「ま、ギルドの大物にして、人魔戦争の黒幕って話しだしな」
「なに、相手は同じ人間だ。怖がる事はねえって」
「だ、だって・・・」
「カロルは往生際が悪いのじゃ」
「パティは肝が据わってるのね」
「見ろよ。嬢ちゃんも大したもんだぜ」
「・・・わたしも結構もう、いっぱいいっぱいです・・・」
「無理しなくても良いと思うよ」
リタの言葉にエステルは首を横に振り決意の決まった目をした
「もう後には退けません、退きたくありません。わたし、ちゃんと知りたいんです。自分の事を」
「良い覚悟ね」
「それじゃあ、ベリウスに会いに行くぞ」
「?」
一歩前に出た瞬間、何処からか人の気配を感じた
それはカロルも感じたのか後ろをじっと見ていた
「・・・気のせいかな・・・?」
カロルがそう呟き、私も同じくじっと見ていると気配はなくなりカロルはユーリ達の後を追い、私もその後に続いた
けど、この時にちゃんとこの気配の正体を調べておけば良かった
そうしたら、こんな事にはならなかったかもしれない・・・
63.言霊使いと神将と満月の子
「ベリウスに会いに来た」
闘技場を抜け、ベリウスの私室の前に来るとユーリは私室の前を見張っていたナッツさんにそう告げた
「あんた達は・・・確か、ドン・ホワイトホースの使いだったかな」
「そそ。そゆワケだから通してもらいたいんだけど」
「・・・そちらは通っても良いが・・・他の者は控えてもらいたい」
ちらりと私達を見てナッツさんはそう答えると、カロルとリタが不満の声を上げる
「えー! どうしてですか?」
「あたし等が信用出来ないっての?」
「申し訳ないがそう言う事になる」
「そんな・・・」
「口を開かないシャコガイよりうちらの方が信用出来る事、間違いないのじゃ」
「良い。皆通せ」
扉の向こうから凛々しい女性の声が聞こえた
「統領! しかし・・・」
「良いと言うておる」
「話が分かる統領じゃねぇか」
「・・・解りました。くれぐれも中で見た事は他言無用で願いたい」
ナッツさんは私達に向き合い、真剣な表情でそう言った
「他言無用・・・? どうして?」
「それが我がギルドの掟だからだ」
「解った。約束しよう」
ユーリが返事を返すとナッツさんは扉を開けて私達を通してくれた
扉の先には階段が続いていてその一番奥の部屋がベリウスの私室だった
扉を開け、中に入ると
「え、ええっ・・・! こ、これ何?」
部屋は真っ暗で辺りが全然見えなかった
「みんないるよな?」
「「ええ」」「ああ」「「うん」」「はい!」「いるわよ」「おーーー」「のじゃ」「ワン!」
その返事を確認すると同時に松明に紫の炎が灯され松明の間に大きな狐のような姿をした魔物が見えた
「なっ、魔物・・・!」
「ったく、豪華なお食事付きかと期待してたのに、罠とはね」
「罠ではないわ、彼女が・・・」
「ベリウス?」
「いかにも。妾がノードポリカの統領、戦士の殿堂を束ねるベリウスじゃ」
「こりゃたまげた」
その姿に私達は驚いているとエステルが一歩前に出てベリウスに近付く
「貴方も、人の言葉を話せるのですね」
「先刻そなた等はフェローに会うておろう。なれば、言の葉を操る妾とてさほど珍しくもあるまいて」
「あんた、始祖の隷長だな?」
「左様じゃ」
「じゃ、じゃあ、この街を作った古い一族ってのは・・・」
「妾の事じゃ」
「この街出来たのは、何百年も何百年も昔・・・って事は・・・」
「左様、妾はその頃からこの街を統治してきた」
「スゴイのじゃ!」
「アスラ達以外にそんな人がいるなんて・・・」
「ま、そうだよね」
私の言葉にアスラは苦笑していた
「・・・ドンのじいさん、知ってて隠してやがったな」
「そなたは?」
「ドン・ホワイトホースの部下のレイヴン。書状を持って来たぜ」
レイヴンはベリウスに手紙を渡し、ベリウスはその手紙を読み出す
「今更あのじいさんが誰と知り合いでも驚かねえけど、一体どういう関係なのよ?」
「人魔戦争の折りに、色々と世話になったのじゃ」
「人魔戦争・・・! なら、黒幕って噂は本当なんですか?」
「ほほ、確かに妾は人魔戦争に参加した。しかしそれは始祖の隷長の務めに従ったまでの事。黒幕などと言われては心外よ」
「人魔戦争が始祖の隷長との戦い・・・」
「いずれにせよ、ドンとはその頃からの付き合い。あれは人間にしておくのは惜しい男よな」
「じいさんが人魔戦争に関わってたなんて話、初めて聞いたぜ」
「やつとて話したくない事ぐらいあろう。さて、ドンはフェローとの仲立ちを妾に求めている。あの剛毅な男も、フェローに街を襲われては敵わぬようじゃな。無碍には出来ぬ願いよ。一応承知しておこうかの」
「ふぃ~。いい人で助かったわ」
「街を襲うのもいれば、ギルドの長やってんのもいる。始祖の隷長ってのは妙な連中だな」
「そなた等人も同じであろう」
「うむうむ、その通りなのじゃ」
「さて、用向きは書状だけではあるまい。のう、満月の子と言霊使いよ」
「言霊使い・・・? それって」
「お伽話に出てくる・・・、あの?」
ベリウスはそう言って私と兄さんとアスラを見ていて、みんなも同じように私達を見た
「神将の中でも一二の力を持つそなたを連れておると言う事はかなりの力を持っておるようじゃの」
「そりゃ、正統後継者にして跡取りの二人だからね」
「え・・・?」
アスラの言葉に驚き、みんな一斉に私達を見た
「リアとセイが、言霊使い・・・!?」
「正統後継者で跡取り・・・」
「それに神将って・・・」
「神将とは式神と呼ばれている神に近い生き物。式神の中でも最も強い力を持っているものが神将と呼ばれ、あらゆる力を扱う事の出来る式神が十二体いる。その十二体の事を『十二神将』と言う。式神は言霊使いが操る事が出来、式神は言霊使いに従っている。です」
「その通りよ」
私達が答えるより先にエステルが答え、言い終わると同時に兄さんと頷いた
「するとアスラはその神将、と言うヤツなのかの?」
「そうだよ」
「「「「「「「!」」」」」」」
「んじゃあ、前に船で会ったセイのツレも?」
「ああ、あれは俺の式神だ。フキもその神将の一人だ」
意外な事実に驚きを隠せないエステル達
それは勿論、私達の事を知っているユーリもリタもジュディスもだった
私と兄さんが言霊使いでアスラが式神だと言う事は話してはいたが、流石にそこまで詳しくは話していなかったからだった
「つか、さっき一二の強さを持つって言ってなかった・・・?」
「言ったけど」
「さらっと言ったよ・・・ι それって・・・」
「もしかしなくてもリア達の事だよな?」
「ええ」
「じゃが、本来神将は人に従ぬのじゃ」
「どうして?」
「エステルも言ってた通り、強い力を持っているからよ」
「でも、リアちゃんとセイはその神将を使えてるわよね?」
「詳しくは話せないが、俺達の先祖が従えるようにしたからな」
「だから神将を使えるのは私と兄さん、正統系統者だけ」
私と兄さんの言葉にユーリ達は先程までとは違った重みを感じていた
「・・・成る程ね。だから情報屋って言うのは表向きの仕事って言ってたのね」
「そーいや、ドンがそれっぽい事言ってたっけ」
「ドンが?」
「ああ。内容まではちゃんと覚えてないけどそれっぽい事言ってた気がするぜ」
「じゃあドンもリア達の事知ってたって事?」
「情報屋としても言霊使いとしても、な」
ユーリ達は驚きの連続で段々と言葉がなくなってきていた
そんなユーリ達を見かねてアスラは話しを戻した
「とりあえずボク達の事はこれくらいにして、一旦話し戻さない?」
「そう、ね・・・」
リタはそう言ってベリウスを見た
「エステルが満月の子って事解るの?」
「我等、始祖の隷長は満月の子を感じる事が出来るのじゃ」
エステルは先程よりも前に出てベリウスを見つめた
「エステリーゼと言います。満月の子とは一体何なのですか? わたし、フェローに忌まわしき毒と言われました。あれはどういう意味なんですか?」
「ふむ。それを知った所でそなたの運命が変わるかは解らぬが・・・」
「ベリウス、その事なのだけど・・・」
「ジュディス・・・?」
「ふむ、何かあると言うのか?」
「フェローは・・・」
ジュディスとベリウスのやり取りを聞いて不思議に思って見ていると、外から何か騒がしい音が聞こえた
「なんの騒ぎだよ、一体」
「遂に見つけたぞ、始祖の隷長! 魔物を率いる悪の根源め!」
途端、扉が勢い良く開き二人の男が入って来た
「ティソン! 首領!」
部屋に入って来たのは以前デイドン砦で見た二人、魔狩りの剣の首領クリントとティソンだった
「これはカロル君ご一行。化け物と仲良くお話するとは変わった趣味だな」
「闘技場で凶暴な魔物どもを飼い慣らす、人間の大敵! 覚悟せよ、我が刃の錆となれ!」
「カロルの知り合いにしては、ガラが悪いのじゃな」
「なんだ、このちっこいのは」
「残念なのじゃ、乱暴者に名乗る名前は持ち合わせておらんのじゃ」
パティはとても私より年下に見えないほどの物言いと態度だった
「ふん・・・名乗れねぇ事情でもあんのか?」
「ナ、ナンは・・・?」
それを遮るようにカロルがティソンに聞いた
「お? 気になるか? 今頃、闘技場で魔物狩りを指揮してる頃だろうよ。俺等魔狩りの剣の制裁を邪魔する奴ぁ、人間だって容赦しやしねえぜ」
「かかって来ないなら、俺から行く! さあ相手になれ、化け物!」
そう言った途端、クリントは剣を抜きティソンと一緒にベリウスに襲い掛かろうとした
それを見て、ユーリはティソンに剣を振るい何とか攻撃を塞いだが、クリントはそのまままっすぐ向かって行きベリウスの正面にいたジュディスを弾き飛ばした
「ジュディス!」
「大丈夫だ」
ジュディスの方に顔を向けると兄さんがジュディスを受け止めていた
「ありがとう、セイ」
ジュディスの無事を確認すると私はベリウスに目を戻す
ベリウスはクリントの攻撃を綺麗に受け止めていた
「こ奴等は妾が相手をせねば抑えられぬようじゃ。そなた等、すまぬがナッツの加勢に行ってもらえぬか」
「あんたは大丈夫なのかよ!?」
「たかが人などに遅れは取りはせぬ」
「解った、行くぞ!」
「すまんな」
そして私達は急いで闘技場へと向かって行った
(・・・ベリウス、ナッツさん、どうか無事でいて!!)
続く
あとがき
うわぁ~箱版と同じ流れで書いてる~(あたふた)
うーでもこの辺は変わりなくになるのは仕方ないですよね?(聞くな)
次回も多分あんまり変わりないかもしれないけど、頑張って書こう・・・
予告もかなり良い感じに仕上がった!
此処からかなーーーりシリアス&リアちゃんが切なくなるシーンが多くなってくるね・・・
2010.03.17
「騎士の姿はちらほら見えるけど・・・」
「この前の大会の騒動考えれば、普通の警備って感じ」
街の中に入り少し様子を伺うが騎士の姿はそんなに見当たらなかった
「魔物が逃げ出して大変でしたからね」
「逆に気味が悪いぜ。あんな検問敷いてたってのに。やっぱおっさんの言う通り、騎士団め、何か企んでやがるな」
「でも今は目立たなければ街の中にいても平気そう」
「そうだね。見た感じ、まだ此処の騎士達にはボク達の事知らされてないみたいだし」
「街の警備っぽいしな」
「ベリウスに会えるのは新月の夜・・・丁度今夜ね」
「じゃ、宿で一休みしてからベリウスに会いに行きますか。ようやくドンの手紙を渡せるわ」
「パティ、そんな所に隠れて何してんの」
カロルは物陰に隠れているパティにそう声を掛けるとリタが言葉を続ける
「あの子、前にこの街で色々遭ったでしょ」
「出ていらっしゃい、大丈夫よ」
ジュディスの言葉を聞くとパティは物陰から出て来て私達の前に来るが、少しだけ浮かない顔をしていた
「パティ・・?」
それを疑問に思っているとパティは顔を上げる
「うちも、もうすこーしだけ一緒にいても良いかの?」
「え? うん・・・構わない、よね?」
「・・・そうですね・・・この街を出るまでは一緒にいた方がいいですね」
「どうせ、此処で別れても、行った先でまた会うような気がするのじゃ。だったら、一緒に行っても行かなくても同じ事なのじゃ」
「それ、良く解らない理屈なんだけど」
「きっと、ユーリ達は麗しの星がある方向に向かって進んでおるのじゃ」
「・・・それも良く分かんない」
「つまり、うちは・・・」
「一緒に来たいって事よね?」
「・・・一人で行くより、ユーリ達と行った方が色々と・・・得なのじゃ」
「来たいなら、着いて来い。今更、道連れが一人増えたって困りゃしねぇよ」
「じゃの!」
ユーリはそのまま私へと視線を向け、私もユーリを見ると小声で話を始めた
「フレンの奴、もうこの街に入ってるんだろうな」
「そうだろうね・・・」
「もろもろとっとと片付けてフレンのヤツを問い詰めなきゃな・・・」
「その時は私も・・・一緒に行くから」
「・・・解った」
ユーリは少し間を置いて頷いてくれた
そして夜、
私達は宿を抜けエントランスに集まりベリウスに会いに行こうとしていた
「みんな覚悟は良いか?」
「・・・い、いいよぉ・・・」
「あんた震えてるわよ」
「ま、ギルドの大物にして、人魔戦争の黒幕って話しだしな」
「なに、相手は同じ人間だ。怖がる事はねえって」
「だ、だって・・・」
「カロルは往生際が悪いのじゃ」
「パティは肝が据わってるのね」
「見ろよ。嬢ちゃんも大したもんだぜ」
「・・・わたしも結構もう、いっぱいいっぱいです・・・」
「無理しなくても良いと思うよ」
リタの言葉にエステルは首を横に振り決意の決まった目をした
「もう後には退けません、退きたくありません。わたし、ちゃんと知りたいんです。自分の事を」
「良い覚悟ね」
「それじゃあ、ベリウスに会いに行くぞ」
「?」
一歩前に出た瞬間、何処からか人の気配を感じた
それはカロルも感じたのか後ろをじっと見ていた
「・・・気のせいかな・・・?」
カロルがそう呟き、私も同じくじっと見ていると気配はなくなりカロルはユーリ達の後を追い、私もその後に続いた
けど、この時にちゃんとこの気配の正体を調べておけば良かった
そうしたら、こんな事にはならなかったかもしれない・・・
63.言霊使いと神将と満月の子
「ベリウスに会いに来た」
闘技場を抜け、ベリウスの私室の前に来るとユーリは私室の前を見張っていたナッツさんにそう告げた
「あんた達は・・・確か、ドン・ホワイトホースの使いだったかな」
「そそ。そゆワケだから通してもらいたいんだけど」
「・・・そちらは通っても良いが・・・他の者は控えてもらいたい」
ちらりと私達を見てナッツさんはそう答えると、カロルとリタが不満の声を上げる
「えー! どうしてですか?」
「あたし等が信用出来ないっての?」
「申し訳ないがそう言う事になる」
「そんな・・・」
「口を開かないシャコガイよりうちらの方が信用出来る事、間違いないのじゃ」
「良い。皆通せ」
扉の向こうから凛々しい女性の声が聞こえた
「統領! しかし・・・」
「良いと言うておる」
「話が分かる統領じゃねぇか」
「・・・解りました。くれぐれも中で見た事は他言無用で願いたい」
ナッツさんは私達に向き合い、真剣な表情でそう言った
「他言無用・・・? どうして?」
「それが我がギルドの掟だからだ」
「解った。約束しよう」
ユーリが返事を返すとナッツさんは扉を開けて私達を通してくれた
扉の先には階段が続いていてその一番奥の部屋がベリウスの私室だった
扉を開け、中に入ると
「え、ええっ・・・! こ、これ何?」
部屋は真っ暗で辺りが全然見えなかった
「みんないるよな?」
「「ええ」」「ああ」「「うん」」「はい!」「いるわよ」「おーーー」「のじゃ」「ワン!」
その返事を確認すると同時に松明に紫の炎が灯され松明の間に大きな狐のような姿をした魔物が見えた
「なっ、魔物・・・!」
「ったく、豪華なお食事付きかと期待してたのに、罠とはね」
「罠ではないわ、彼女が・・・」
「ベリウス?」
「いかにも。妾がノードポリカの統領、戦士の殿堂を束ねるベリウスじゃ」
「こりゃたまげた」
その姿に私達は驚いているとエステルが一歩前に出てベリウスに近付く
「貴方も、人の言葉を話せるのですね」
「先刻そなた等はフェローに会うておろう。なれば、言の葉を操る妾とてさほど珍しくもあるまいて」
「あんた、始祖の隷長だな?」
「左様じゃ」
「じゃ、じゃあ、この街を作った古い一族ってのは・・・」
「妾の事じゃ」
「この街出来たのは、何百年も何百年も昔・・・って事は・・・」
「左様、妾はその頃からこの街を統治してきた」
「スゴイのじゃ!」
「アスラ達以外にそんな人がいるなんて・・・」
「ま、そうだよね」
私の言葉にアスラは苦笑していた
「・・・ドンのじいさん、知ってて隠してやがったな」
「そなたは?」
「ドン・ホワイトホースの部下のレイヴン。書状を持って来たぜ」
レイヴンはベリウスに手紙を渡し、ベリウスはその手紙を読み出す
「今更あのじいさんが誰と知り合いでも驚かねえけど、一体どういう関係なのよ?」
「人魔戦争の折りに、色々と世話になったのじゃ」
「人魔戦争・・・! なら、黒幕って噂は本当なんですか?」
「ほほ、確かに妾は人魔戦争に参加した。しかしそれは始祖の隷長の務めに従ったまでの事。黒幕などと言われては心外よ」
「人魔戦争が始祖の隷長との戦い・・・」
「いずれにせよ、ドンとはその頃からの付き合い。あれは人間にしておくのは惜しい男よな」
「じいさんが人魔戦争に関わってたなんて話、初めて聞いたぜ」
「やつとて話したくない事ぐらいあろう。さて、ドンはフェローとの仲立ちを妾に求めている。あの剛毅な男も、フェローに街を襲われては敵わぬようじゃな。無碍には出来ぬ願いよ。一応承知しておこうかの」
「ふぃ~。いい人で助かったわ」
「街を襲うのもいれば、ギルドの長やってんのもいる。始祖の隷長ってのは妙な連中だな」
「そなた等人も同じであろう」
「うむうむ、その通りなのじゃ」
「さて、用向きは書状だけではあるまい。のう、満月の子と言霊使いよ」
「言霊使い・・・? それって」
「お伽話に出てくる・・・、あの?」
ベリウスはそう言って私と兄さんとアスラを見ていて、みんなも同じように私達を見た
「神将の中でも一二の力を持つそなたを連れておると言う事はかなりの力を持っておるようじゃの」
「そりゃ、正統後継者にして跡取りの二人だからね」
「え・・・?」
アスラの言葉に驚き、みんな一斉に私達を見た
「リアとセイが、言霊使い・・・!?」
「正統後継者で跡取り・・・」
「それに神将って・・・」
「神将とは式神と呼ばれている神に近い生き物。式神の中でも最も強い力を持っているものが神将と呼ばれ、あらゆる力を扱う事の出来る式神が十二体いる。その十二体の事を『十二神将』と言う。式神は言霊使いが操る事が出来、式神は言霊使いに従っている。です」
「その通りよ」
私達が答えるより先にエステルが答え、言い終わると同時に兄さんと頷いた
「するとアスラはその神将、と言うヤツなのかの?」
「そうだよ」
「「「「「「「!」」」」」」」
「んじゃあ、前に船で会ったセイのツレも?」
「ああ、あれは俺の式神だ。フキもその神将の一人だ」
意外な事実に驚きを隠せないエステル達
それは勿論、私達の事を知っているユーリもリタもジュディスもだった
私と兄さんが言霊使いでアスラが式神だと言う事は話してはいたが、流石にそこまで詳しくは話していなかったからだった
「つか、さっき一二の強さを持つって言ってなかった・・・?」
「言ったけど」
「さらっと言ったよ・・・ι それって・・・」
「もしかしなくてもリア達の事だよな?」
「ええ」
「じゃが、本来神将は人に従ぬのじゃ」
「どうして?」
「エステルも言ってた通り、強い力を持っているからよ」
「でも、リアちゃんとセイはその神将を使えてるわよね?」
「詳しくは話せないが、俺達の先祖が従えるようにしたからな」
「だから神将を使えるのは私と兄さん、正統系統者だけ」
私と兄さんの言葉にユーリ達は先程までとは違った重みを感じていた
「・・・成る程ね。だから情報屋って言うのは表向きの仕事って言ってたのね」
「そーいや、ドンがそれっぽい事言ってたっけ」
「ドンが?」
「ああ。内容まではちゃんと覚えてないけどそれっぽい事言ってた気がするぜ」
「じゃあドンもリア達の事知ってたって事?」
「情報屋としても言霊使いとしても、な」
ユーリ達は驚きの連続で段々と言葉がなくなってきていた
そんなユーリ達を見かねてアスラは話しを戻した
「とりあえずボク達の事はこれくらいにして、一旦話し戻さない?」
「そう、ね・・・」
リタはそう言ってベリウスを見た
「エステルが満月の子って事解るの?」
「我等、始祖の隷長は満月の子を感じる事が出来るのじゃ」
エステルは先程よりも前に出てベリウスを見つめた
「エステリーゼと言います。満月の子とは一体何なのですか? わたし、フェローに忌まわしき毒と言われました。あれはどういう意味なんですか?」
「ふむ。それを知った所でそなたの運命が変わるかは解らぬが・・・」
「ベリウス、その事なのだけど・・・」
「ジュディス・・・?」
「ふむ、何かあると言うのか?」
「フェローは・・・」
ジュディスとベリウスのやり取りを聞いて不思議に思って見ていると、外から何か騒がしい音が聞こえた
「なんの騒ぎだよ、一体」
「遂に見つけたぞ、始祖の隷長! 魔物を率いる悪の根源め!」
途端、扉が勢い良く開き二人の男が入って来た
「ティソン! 首領!」
部屋に入って来たのは以前デイドン砦で見た二人、魔狩りの剣の首領クリントとティソンだった
「これはカロル君ご一行。化け物と仲良くお話するとは変わった趣味だな」
「闘技場で凶暴な魔物どもを飼い慣らす、人間の大敵! 覚悟せよ、我が刃の錆となれ!」
「カロルの知り合いにしては、ガラが悪いのじゃな」
「なんだ、このちっこいのは」
「残念なのじゃ、乱暴者に名乗る名前は持ち合わせておらんのじゃ」
パティはとても私より年下に見えないほどの物言いと態度だった
「ふん・・・名乗れねぇ事情でもあんのか?」
「ナ、ナンは・・・?」
それを遮るようにカロルがティソンに聞いた
「お? 気になるか? 今頃、闘技場で魔物狩りを指揮してる頃だろうよ。俺等魔狩りの剣の制裁を邪魔する奴ぁ、人間だって容赦しやしねえぜ」
「かかって来ないなら、俺から行く! さあ相手になれ、化け物!」
そう言った途端、クリントは剣を抜きティソンと一緒にベリウスに襲い掛かろうとした
それを見て、ユーリはティソンに剣を振るい何とか攻撃を塞いだが、クリントはそのまままっすぐ向かって行きベリウスの正面にいたジュディスを弾き飛ばした
「ジュディス!」
「大丈夫だ」
ジュディスの方に顔を向けると兄さんがジュディスを受け止めていた
「ありがとう、セイ」
ジュディスの無事を確認すると私はベリウスに目を戻す
ベリウスはクリントの攻撃を綺麗に受け止めていた
「こ奴等は妾が相手をせねば抑えられぬようじゃ。そなた等、すまぬがナッツの加勢に行ってもらえぬか」
「あんたは大丈夫なのかよ!?」
「たかが人などに遅れは取りはせぬ」
「解った、行くぞ!」
「すまんな」
そして私達は急いで闘技場へと向かって行った
(・・・ベリウス、ナッツさん、どうか無事でいて!!)
続く
あとがき
うわぁ~箱版と同じ流れで書いてる~(あたふた)
うーでもこの辺は変わりなくになるのは仕方ないですよね?(聞くな)
次回も多分あんまり変わりないかもしれないけど、頑張って書こう・・・
予告もかなり良い感じに仕上がった!
此処からかなーーーりシリアス&リアちゃんが切なくなるシーンが多くなってくるね・・・
2010.03.17