満月の子編
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賢人様がいる家に向かう途中、ユーリ達にユイファンさんと話していた事を話すと、やっぱり色々と噛み合っていない事に疑問を抱いていた
けど、それはこれから向かう賢人様と言う人に会えば何か解るかも知れないと思い、そのまま賢人様がいる家へと向かった
賢人様の家はユイファンさんから教えて貰っていたので直ぐに見つかった
家、というより館と言った方が正しいのかもしれないが・・・
玄関先から綺麗に手入れがされていた
玄関の扉は開いていて、ユーリは戸を軽くノックしてから室内へと入った
「邪魔するぜ」
「!」
「え・・・この人が・・・?」
「あんたは・・・」
室内に入って私達は窓際にいる銀髪の男性を見て一瞬目を疑った
60.語り継ぐ理想郷
「誰なのじゃ?」
「此処に来るまで何度か会ったってだけだよ」
そこにいたのはデュークだった
「お前達・・・どうやって此処へ来た?」
私達の声にデュークも振り返り、お互いどうして此処にいるか疑問を出していた
「どうやってって、足で歩いて砂漠を越えて、だよ」
「・・・成る程・・・だが、一体・・・?」
「・・・?」
デュークはちらりと私を見て少しだけ眉を寄せ視線を外した
私がその様子に疑問符を出しているとデュークが口を開いた
「いや・・・此処に何をしに来た?」
「こいつについて、ちょっとな」
ユーリは私が持っている橙明の核晶をデュークに見せると、デュークの眉がぴくりと動き、私はユーリに橙明の核晶を渡し、ユーリはデュークの前へ移動した
「わざわざ悪い事をした」
「いや・・・まあ成り行きだしな」
「そうか・・・だとするなら奇跡だな」
「奇跡・・・?」
デュークの言葉に疑問を抱いていると、背後からリタが前に出た
「あんた、結界魔導器作るって言ってるそうじゃない。賢人気取るのも良いけど、魔導器を作るのはやめなさい。そんな魔刻じゃない怪しいもの使って結界魔導器を作るなんて・・・」
「魔刻ではないが、魔刻と同じエアルの塊だ。術式が刻まれていないだけの事」
「術式が刻まれていない魔刻・・・? どういう事!?」
「一般的には聖核と呼ばれている。橙明の核晶はその一つだ」
「これが聖核・・・!?」
「おっさんが探してるお宝かの?」
聖核という言葉にレイヴンを含め、私達も反応して聖核を見た
これがレイヴンが探していた聖核
これが魔刻の原石ならば『魔物を退ける力』っというのも納得がいった
けど、やっぱり橙明の核晶を見ていると心が締め付けられるような感じする
「それに賢人は私ではない」
「え・・・?」
デュークの言葉に驚いて私達はデュークを見ると、彼は聖核をユーリから受け取り床に置くと立ち上がりこう告げた
「かの者もう死んだ」
「「・・・・」」
その言葉にみんな驚いて目を瞠り、私と兄さんは少しだけ表情を固めた
「そりゃ、困ったな。そしたらそいつ、あんたには渡せねぇんだけど」
「そうだな、私には、そして人の世にも必要ない物だ」
そう告げるとデュークは聖核に剣を向けた
「ちょっ!」
「あ~、何すんの! 待て待て待て!!」
リタとレイヴンの制止を耳にしつつも、デュークは剣を振り下ろすと急に床に円陣が浮かび上がり、聖核が円陣から出た光に包まれ跡形もなく消え去った
「これ、ケーブ・モックで見た現象と同じ!?」
「あっちゃ~。せっかくの聖核を」
「聖核は人の世に混乱をもたらす。エアルに還した方が良い」
「・・・エアルに還す? 今の、本当にそれだけ・・・」
「おいおい、だからって壊す事はねえだろ」
「せっかくのお宝に乱暴な事をする御仁なのじゃ」
流石のユーリも声を低めて咎めると、パティとエステルもそれに同調した
「橙明の核晶は・・・いえ、聖核は、この街を魔物から救う為に必要なものだったんじゃないんです?」
「この街に、結界も救いも不要だ。此処は悠久の平穏が約束されているのだから」
「! 悠久の平穏が約束されてる・・・?」
その言葉である事に気が付いていると、ユーリとエステルが言葉を続けた
「確かにのどかなとこだけどな」
「でも、フェローのような魔物も近くにいるんですよ」
「何故、フェローの事を知っている」
エステルがフェローの名を口にした途端、デュークは目を細めてエステルを見た
「そりゃ、こっちの台詞だ。あんたも知ってんだな」
「・・・・」
「知っている事を教えてくれませんか? わたし、フェローに忌まわしき毒だと言われました」
「!」
エステルの言葉を聞き、デュークは振り返ってエステルを見て、そしてちらりと私と兄さんを見て、少しだけ間を置いて何か納得した顔をした
「・・・成る程」
「何か知ってるんですね?」
デュークは少し間を置き、私達から視線を逸らして話を始めた
「この世界には始祖の隷長が忌み嫌う力の使い手がいる」
「それが、わたし・・・?」
「・・・」
「その力の使い手を満月の子と言う」
「・・・満月の子って伝承の・・・もしかして始祖の隷長って言うのはフェローの事、ですか・・・?」
「その通りだ」
「!」
デュークの言葉を聞き、私は一人驚いて少しだけ目を瞠った
(やっぱり、あの満月の子はエステルだったのね・・・)
フェローに告げられずっと思っていた事が分かり、私はエステルを見た
「どうしてその始祖の隷長はわたしを・・・満月の子を嫌うんです? 始祖の隷長が忌み嫌う満月の子の力って何の事ですか?」
「真意は始祖の隷長本人の心の内。始祖の隷長に直接聞くしか、それを知る方法、はない」
「やっぱりフェローに会って直接聞くしかないって事ですか?」
「フェローに会った所で、満月の子は消されるだけ。愚かな事はやめるが良い」
「でも・・・!」
「エステル、もうやめとこう」
エステルの声が高くなった途端、リタがエステルを止める
「ね、始祖の隷長って前に遺講の門のラーギィ・・・イエガーも言ってたよね」
「ノードポリカを作った古い一族、だっけ」
「フェローがノードポリカを? そんな訳ないじゃない」
「立ち去れ。もはや此処には用はなかろう」
言うとデュークは身を翻した
「待って! あたしもあんたに聞きたい事がある。エアルクレーネであんた何してたの? あんた何者よ、その剣は何!?」
「お前達に理解出来る事ではない。また理解も求めぬ。去れ。もはや語る事はない」
「ちょっ、何よそれ!」
「リタ」
ユーリのその言葉を聞きリタは大人しく外に向かって歩き出し、ユーリ達もその後に続いた
「「「・・・・」」」
けど、私と兄さんとジュディスだけは何故か複雑な表情をしていた
時間は過ぎて、今は夜
あれから私達は今日一日この街に泊まる事にした
まだ体調も万全じゃない状態で砂漠に入ってもまた倒れてしまうかもしれないと言うのと、リタが調べ物をしたいというのがあり、此処に泊まる事にした
かく言う私も昼間、デュークと話した事やこの街の事、色々と気になって考えを纏めたくて宿を抜けて、見晴台へと向かっていた
「・・・あれ、あそこにいるの・・」
見晴台に着くと先客がいた
そこにいたのは昼間賢人の家にいたデュークだった
ゆっくりと歩いて行き、近くに来た所で声を掛けた
「デューク」
が、彼はずっと海を見つめたまま答えない
「? デューク?」
私は首を傾げもう一度声を掛けるとゆっくりと私に顔を向けた
「! ・・・ラ」
「え・・? !?」
デュークは何か呟いた途端、急に私を抱きしめた
「デュ、デューク?!」
「・・・!」
その声でようやく私を抱きしめている事に気が付き、ゆっくりと私を放した
「・・・すまない」
「ううん・・・」
けど、一瞬だけだけど、何処か寂しそうな目をしていた・・・
「「・・・・」」
お互いに気まずくなって言葉が続かない
でもこのままでいるのももっと気まずくなってしまうから、私は思っていた事をデュークに聞いた
「ねえ、昼間『此処は悠久の平穏が約束された街』って言ったよね。あれってどういう意味?」
「そのままの意味だ。この街は悠久そのものだ」
「悠久そのものって・・・じゃあやっぱりこの街は・・・」
「それはお前自身が感じているのではないか?」
その答えに私はこの街の違和感が解けた
何処となく故郷に似ていたと感じたのは存在しないもの
つまり別空間にあるからだった
「だからこの違和感は私と兄さんしか気付いてなかったのね」
「あの魔導士の娘達も少しは気付いてはいるが、はっきりと分かっているのはお前達言霊使いだけだろう」
「・・・前にも聞いたけど、デュークは私達・・言霊使いの事、何処まで知ってるの?」
「少なくともお前よりは知っている」
「・・・私より?」
デュークの言葉に私は疑問を抱いた
どう見てもデュークは普通の人間だ
帝国の偉い人でもなければクリティア族でもない
けど、纏っている空気はユーリ達とは何処か違う雰囲気を纏い人を寄せ付けないものがあった
言霊使いの事を知っているのは限られた人のみ
そして何より、言霊使いの正統系統者の跡取りでもある私より知っている事・・・
「それって・・・一体・・・」
何? と聞こうとしてデュークを見ると、赤い瞳がじっと私を見ていた
その目は何処か寂しげだった
「・・・デューク?」
私の呼びかけにゆっくりと視線を外し言葉を続ける
「お前はまだ自分の力に付いて知らない事がある」
「・・・聞いても答えてはくれないわよね」
「・・・・・」
デュークは私を見て少し考えて言葉を続ける
「私が言える事はお前は周りに注意を払う事だ。それから・・・」
そういうとデュークは先程よりも真剣な表情をして私を見た
「あまり満月の子と居ない方が良い」
「・・・え?」
満月の子、つまりエステルの事だ
「・・・それって、エステルの事、よね・・・どうし・・!」
そこまで言ってフェローに言われた言葉が過ぎった
「・・・エステルがフェローに『世界の毒』だって言われた後、フェロー、私を見て言霊使いの姫って言ったの・・・。今デュークが言った事とフェローが言った事って何か関係あるの? 私とエステルは・・ううん、言霊使いと満月の子は何か関係してるの?」
「・・・・」
私の言葉を聞くとデュークは黙ってしまった
お互いにじっと見つめているとデュークはゆっくりと口を開いた
「お前も、あの娘と同じくフェローに会うつもりなのか?」
「フェローの言葉の真意を知りたい、私とエステルはそう思ってる。だからこうやって今みんなと一緒に旅をしてる」
「・・・そうか」
私の言葉を聞くとデュークは身を翻した
「ならば、直接フェローに聞くと良いだろう。お前なら、フェローに消される心配はない」
「え? あ、待って! もう一つだけ教えて!」
身を翻して歩き出そうとしているデュークを見て、私は急いで呼び止めた
「フェローにそう言われた時に、妙に心臓が脈打ったり、聖核を見た時に心臓が締め付けられる感じがするの。 ・・・これも、関係してる事なの?」
「・・・・・」
後ろを向いているから表情は見えないけど、きっとデュークは眉を細めて何かを考えているのだろう
それは彼の背中を見れば直ぐに解った
「・・・満月の子もだが、エアルクレーネにも近付かない方が良い」
「エアルクレーネって、ケーブ・モックやカドスの喉笛にあったあのエアルの源水よね・・・?」
「あれは人に害を及ぼす。いや、人だけではない。魔物や植物にも影響を与える。特に力のある者は影響を受けやすい」
力のある者・・・つまり私や兄さん、言霊使いの事だろうか?
「今はまだ大丈夫のようだが、自分の身を案じるならその方が良い」
そう言うとデュークは踵を返し立ち去って行った
「あ! ・・・行っちゃった」
私はデュークが立ち去って行った場所を見て呟いた
「・・・今はまだ大丈夫・・・? 身を案じるって・・・」
また謎が増えてしまったが、その言葉はいつも以上に頭に残った言葉だった
「・・・盗み聞きとは悪趣味だな」
デュークは見晴台から離れ、リアが見えなくなった所で足を止めそう呟くと闇夜の中一人の男が出て来た
「盗み聞きつーより、リア探してたらたまたまだよ」
ユーリは苦笑してデュークの近くへと移動した
そして打って変わって真剣な表情 になる
「リアもリタも言ってたけど、あんた本当に何もんだ? なんでオレ達が知らねえ事知ってんだ?」
「・・それを聞いてどうする。私から聞いた事をあの娘達にでも話すつもりか?」
「どうかな。内容次第、だな」
デュークは横目でユーリを見るとそのまま視線を戻して言う
「お前は、あの言霊使いの娘の事が大事か?」
「なんだよ、いきなり」
デュークはゆっくりとユーリへ向き合うと真剣な表情をして告げる
「言霊使いや式神が側にいても、あの娘が大事だと思うなら、決して手放さない事だ」
「!」
その言葉に驚いて目を瞠っていると、デュークはそのまま立ち去って行った
「・・・何だってんだ、一体」
だがその言葉は妙に重みを感じ、ユーリの心に残った言葉だった
「・・・んな事、言われなくたって解ってるって」
ユーリはそう呟いてまだ見晴台にいるであろうリアを思って見晴台へと視線を向ける
(リアを守るのは他の誰でもねえ。オレだけだからな)
そう思い、そのまま見晴台へと向かって歩き出した
続く
あとがき
デュークとの会話は、やっぱ箱版書き終わった後なのであーゆー展開の方がしっくりと来たのでこうしました
けど、最後が何か微妙?重たい?感じになったーーー!(あたふた)
ただユーリは途中から話しを聞いていたので最初に抱きしめられた所は見てません
ま、一応逆ハーだし、こういうのもありって事で!w(次の事を考えると甘いのは絶対に持って来れないから・・・ι)
今回は意外とさらっと書き上がりました
うん、多分次回はかなぁ~り悩んで書くと思いますよι
じゃ、次書いてきます・・・ι
2010.03.17
けど、それはこれから向かう賢人様と言う人に会えば何か解るかも知れないと思い、そのまま賢人様がいる家へと向かった
賢人様の家はユイファンさんから教えて貰っていたので直ぐに見つかった
家、というより館と言った方が正しいのかもしれないが・・・
玄関先から綺麗に手入れがされていた
玄関の扉は開いていて、ユーリは戸を軽くノックしてから室内へと入った
「邪魔するぜ」
「!」
「え・・・この人が・・・?」
「あんたは・・・」
室内に入って私達は窓際にいる銀髪の男性を見て一瞬目を疑った
60.語り継ぐ理想郷
「誰なのじゃ?」
「此処に来るまで何度か会ったってだけだよ」
そこにいたのはデュークだった
「お前達・・・どうやって此処へ来た?」
私達の声にデュークも振り返り、お互いどうして此処にいるか疑問を出していた
「どうやってって、足で歩いて砂漠を越えて、だよ」
「・・・成る程・・・だが、一体・・・?」
「・・・?」
デュークはちらりと私を見て少しだけ眉を寄せ視線を外した
私がその様子に疑問符を出しているとデュークが口を開いた
「いや・・・此処に何をしに来た?」
「こいつについて、ちょっとな」
ユーリは私が持っている橙明の核晶をデュークに見せると、デュークの眉がぴくりと動き、私はユーリに橙明の核晶を渡し、ユーリはデュークの前へ移動した
「わざわざ悪い事をした」
「いや・・・まあ成り行きだしな」
「そうか・・・だとするなら奇跡だな」
「奇跡・・・?」
デュークの言葉に疑問を抱いていると、背後からリタが前に出た
「あんた、結界魔導器作るって言ってるそうじゃない。賢人気取るのも良いけど、魔導器を作るのはやめなさい。そんな魔刻じゃない怪しいもの使って結界魔導器を作るなんて・・・」
「魔刻ではないが、魔刻と同じエアルの塊だ。術式が刻まれていないだけの事」
「術式が刻まれていない魔刻・・・? どういう事!?」
「一般的には聖核と呼ばれている。橙明の核晶はその一つだ」
「これが聖核・・・!?」
「おっさんが探してるお宝かの?」
聖核という言葉にレイヴンを含め、私達も反応して聖核を見た
これがレイヴンが探していた聖核
これが魔刻の原石ならば『魔物を退ける力』っというのも納得がいった
けど、やっぱり橙明の核晶を見ていると心が締め付けられるような感じする
「それに賢人は私ではない」
「え・・・?」
デュークの言葉に驚いて私達はデュークを見ると、彼は聖核をユーリから受け取り床に置くと立ち上がりこう告げた
「かの者もう死んだ」
「「・・・・」」
その言葉にみんな驚いて目を瞠り、私と兄さんは少しだけ表情を固めた
「そりゃ、困ったな。そしたらそいつ、あんたには渡せねぇんだけど」
「そうだな、私には、そして人の世にも必要ない物だ」
そう告げるとデュークは聖核に剣を向けた
「ちょっ!」
「あ~、何すんの! 待て待て待て!!」
リタとレイヴンの制止を耳にしつつも、デュークは剣を振り下ろすと急に床に円陣が浮かび上がり、聖核が円陣から出た光に包まれ跡形もなく消え去った
「これ、ケーブ・モックで見た現象と同じ!?」
「あっちゃ~。せっかくの聖核を」
「聖核は人の世に混乱をもたらす。エアルに還した方が良い」
「・・・エアルに還す? 今の、本当にそれだけ・・・」
「おいおい、だからって壊す事はねえだろ」
「せっかくのお宝に乱暴な事をする御仁なのじゃ」
流石のユーリも声を低めて咎めると、パティとエステルもそれに同調した
「橙明の核晶は・・・いえ、聖核は、この街を魔物から救う為に必要なものだったんじゃないんです?」
「この街に、結界も救いも不要だ。此処は悠久の平穏が約束されているのだから」
「! 悠久の平穏が約束されてる・・・?」
その言葉である事に気が付いていると、ユーリとエステルが言葉を続けた
「確かにのどかなとこだけどな」
「でも、フェローのような魔物も近くにいるんですよ」
「何故、フェローの事を知っている」
エステルがフェローの名を口にした途端、デュークは目を細めてエステルを見た
「そりゃ、こっちの台詞だ。あんたも知ってんだな」
「・・・・」
「知っている事を教えてくれませんか? わたし、フェローに忌まわしき毒だと言われました」
「!」
エステルの言葉を聞き、デュークは振り返ってエステルを見て、そしてちらりと私と兄さんを見て、少しだけ間を置いて何か納得した顔をした
「・・・成る程」
「何か知ってるんですね?」
デュークは少し間を置き、私達から視線を逸らして話を始めた
「この世界には始祖の隷長が忌み嫌う力の使い手がいる」
「それが、わたし・・・?」
「・・・」
「その力の使い手を満月の子と言う」
「・・・満月の子って伝承の・・・もしかして始祖の隷長って言うのはフェローの事、ですか・・・?」
「その通りだ」
「!」
デュークの言葉を聞き、私は一人驚いて少しだけ目を瞠った
(やっぱり、あの満月の子はエステルだったのね・・・)
フェローに告げられずっと思っていた事が分かり、私はエステルを見た
「どうしてその始祖の隷長はわたしを・・・満月の子を嫌うんです? 始祖の隷長が忌み嫌う満月の子の力って何の事ですか?」
「真意は始祖の隷長本人の心の内。始祖の隷長に直接聞くしか、それを知る方法、はない」
「やっぱりフェローに会って直接聞くしかないって事ですか?」
「フェローに会った所で、満月の子は消されるだけ。愚かな事はやめるが良い」
「でも・・・!」
「エステル、もうやめとこう」
エステルの声が高くなった途端、リタがエステルを止める
「ね、始祖の隷長って前に遺講の門のラーギィ・・・イエガーも言ってたよね」
「ノードポリカを作った古い一族、だっけ」
「フェローがノードポリカを? そんな訳ないじゃない」
「立ち去れ。もはや此処には用はなかろう」
言うとデュークは身を翻した
「待って! あたしもあんたに聞きたい事がある。エアルクレーネであんた何してたの? あんた何者よ、その剣は何!?」
「お前達に理解出来る事ではない。また理解も求めぬ。去れ。もはや語る事はない」
「ちょっ、何よそれ!」
「リタ」
ユーリのその言葉を聞きリタは大人しく外に向かって歩き出し、ユーリ達もその後に続いた
「「「・・・・」」」
けど、私と兄さんとジュディスだけは何故か複雑な表情をしていた
時間は過ぎて、今は夜
あれから私達は今日一日この街に泊まる事にした
まだ体調も万全じゃない状態で砂漠に入ってもまた倒れてしまうかもしれないと言うのと、リタが調べ物をしたいというのがあり、此処に泊まる事にした
かく言う私も昼間、デュークと話した事やこの街の事、色々と気になって考えを纏めたくて宿を抜けて、見晴台へと向かっていた
「・・・あれ、あそこにいるの・・」
見晴台に着くと先客がいた
そこにいたのは昼間賢人の家にいたデュークだった
ゆっくりと歩いて行き、近くに来た所で声を掛けた
「デューク」
が、彼はずっと海を見つめたまま答えない
「? デューク?」
私は首を傾げもう一度声を掛けるとゆっくりと私に顔を向けた
「! ・・・ラ」
「え・・? !?」
デュークは何か呟いた途端、急に私を抱きしめた
「デュ、デューク?!」
「・・・!」
その声でようやく私を抱きしめている事に気が付き、ゆっくりと私を放した
「・・・すまない」
「ううん・・・」
けど、一瞬だけだけど、何処か寂しそうな目をしていた・・・
「「・・・・」」
お互いに気まずくなって言葉が続かない
でもこのままでいるのももっと気まずくなってしまうから、私は思っていた事をデュークに聞いた
「ねえ、昼間『此処は悠久の平穏が約束された街』って言ったよね。あれってどういう意味?」
「そのままの意味だ。この街は悠久そのものだ」
「悠久そのものって・・・じゃあやっぱりこの街は・・・」
「それはお前自身が感じているのではないか?」
その答えに私はこの街の違和感が解けた
何処となく故郷に似ていたと感じたのは存在しないもの
つまり別空間にあるからだった
「だからこの違和感は私と兄さんしか気付いてなかったのね」
「あの魔導士の娘達も少しは気付いてはいるが、はっきりと分かっているのはお前達言霊使いだけだろう」
「・・・前にも聞いたけど、デュークは私達・・言霊使いの事、何処まで知ってるの?」
「少なくともお前よりは知っている」
「・・・私より?」
デュークの言葉に私は疑問を抱いた
どう見てもデュークは普通の人間だ
帝国の偉い人でもなければクリティア族でもない
けど、纏っている空気はユーリ達とは何処か違う雰囲気を纏い人を寄せ付けないものがあった
言霊使いの事を知っているのは限られた人のみ
そして何より、言霊使いの正統系統者の跡取りでもある私より知っている事・・・
「それって・・・一体・・・」
何? と聞こうとしてデュークを見ると、赤い瞳がじっと私を見ていた
その目は何処か寂しげだった
「・・・デューク?」
私の呼びかけにゆっくりと視線を外し言葉を続ける
「お前はまだ自分の力に付いて知らない事がある」
「・・・聞いても答えてはくれないわよね」
「・・・・・」
デュークは私を見て少し考えて言葉を続ける
「私が言える事はお前は周りに注意を払う事だ。それから・・・」
そういうとデュークは先程よりも真剣な表情をして私を見た
「あまり満月の子と居ない方が良い」
「・・・え?」
満月の子、つまりエステルの事だ
「・・・それって、エステルの事、よね・・・どうし・・!」
そこまで言ってフェローに言われた言葉が過ぎった
「・・・エステルがフェローに『世界の毒』だって言われた後、フェロー、私を見て言霊使いの姫って言ったの・・・。今デュークが言った事とフェローが言った事って何か関係あるの? 私とエステルは・・ううん、言霊使いと満月の子は何か関係してるの?」
「・・・・」
私の言葉を聞くとデュークは黙ってしまった
お互いにじっと見つめているとデュークはゆっくりと口を開いた
「お前も、あの娘と同じくフェローに会うつもりなのか?」
「フェローの言葉の真意を知りたい、私とエステルはそう思ってる。だからこうやって今みんなと一緒に旅をしてる」
「・・・そうか」
私の言葉を聞くとデュークは身を翻した
「ならば、直接フェローに聞くと良いだろう。お前なら、フェローに消される心配はない」
「え? あ、待って! もう一つだけ教えて!」
身を翻して歩き出そうとしているデュークを見て、私は急いで呼び止めた
「フェローにそう言われた時に、妙に心臓が脈打ったり、聖核を見た時に心臓が締め付けられる感じがするの。 ・・・これも、関係してる事なの?」
「・・・・・」
後ろを向いているから表情は見えないけど、きっとデュークは眉を細めて何かを考えているのだろう
それは彼の背中を見れば直ぐに解った
「・・・満月の子もだが、エアルクレーネにも近付かない方が良い」
「エアルクレーネって、ケーブ・モックやカドスの喉笛にあったあのエアルの源水よね・・・?」
「あれは人に害を及ぼす。いや、人だけではない。魔物や植物にも影響を与える。特に力のある者は影響を受けやすい」
力のある者・・・つまり私や兄さん、言霊使いの事だろうか?
「今はまだ大丈夫のようだが、自分の身を案じるならその方が良い」
そう言うとデュークは踵を返し立ち去って行った
「あ! ・・・行っちゃった」
私はデュークが立ち去って行った場所を見て呟いた
「・・・今はまだ大丈夫・・・? 身を案じるって・・・」
また謎が増えてしまったが、その言葉はいつも以上に頭に残った言葉だった
「・・・盗み聞きとは悪趣味だな」
デュークは見晴台から離れ、リアが見えなくなった所で足を止めそう呟くと闇夜の中一人の男が出て来た
「盗み聞きつーより、リア探してたらたまたまだよ」
ユーリは苦笑してデュークの近くへと移動した
そして打って変わって真剣な
「リアもリタも言ってたけど、あんた本当に何もんだ? なんでオレ達が知らねえ事知ってんだ?」
「・・それを聞いてどうする。私から聞いた事をあの娘達にでも話すつもりか?」
「どうかな。内容次第、だな」
デュークは横目でユーリを見るとそのまま視線を戻して言う
「お前は、あの言霊使いの娘の事が大事か?」
「なんだよ、いきなり」
デュークはゆっくりとユーリへ向き合うと真剣な表情をして告げる
「言霊使いや式神が側にいても、あの娘が大事だと思うなら、決して手放さない事だ」
「!」
その言葉に驚いて目を瞠っていると、デュークはそのまま立ち去って行った
「・・・何だってんだ、一体」
だがその言葉は妙に重みを感じ、ユーリの心に残った言葉だった
「・・・んな事、言われなくたって解ってるって」
ユーリはそう呟いてまだ見晴台にいるであろうリアを思って見晴台へと視線を向ける
(リアを守るのは他の誰でもねえ。オレだけだからな)
そう思い、そのまま見晴台へと向かって歩き出した
続く
あとがき
デュークとの会話は、やっぱ箱版書き終わった後なのであーゆー展開の方がしっくりと来たのでこうしました
けど、最後が何か微妙?重たい?感じになったーーー!(あたふた)
ただユーリは途中から話しを聞いていたので最初に抱きしめられた所は見てません
ま、一応逆ハーだし、こういうのもありって事で!w(次の事を考えると甘いのは絶対に持って来れないから・・・ι)
今回は意外とさらっと書き上がりました
うん、多分次回はかなぁ~り悩んで書くと思いますよι
じゃ、次書いてきます・・・ι
2010.03.17