満月の子編
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「私は無実です! これは評議会を潰さんとする騎士団の陰謀です!」
水道魔導器の魔刻を無事に取り戻したリア達はダングレストに戻って来た
そして街の中に入ると、騎士団と騎士団に捕らえられているラゴウの姿があった
だがラゴウは自分は関係ないと騎士団や街の人達に訴えかけていた
「往生際の悪いじいさん」
「・・・フレンは・・・?」
「此処からじゃ見えないな」
「もうちょっと近くに行ってみよう」
リア達はもう少し状況が把握出来る所まで移動した
「騎士団を信じてはいけません! 彼等は貴方達を安心させた上でこの街を潰そうとしているのです!」
「我等は騎士団の名の下に、そのような不実な事をしないと誓います」
「貴方は・・・フレン・シーフォ!」
フレンは騎士団の間を抜けてラゴウの前まで来て止まった
「帝国とユニオンの間に友好協定が結ばれる事になりました」
「な! そんな、バカな・・・」
フレンの言葉を聞いてラゴウは驚いて目を丸くした
バルボスと手を組み上手く事を運んだつもりだったが、まさかそうなるとは思っていなかったのだろう
「今、ドン・ホワイトホースとヨーデル様の間で話し合いがもたれています。正式な調印も時間の問題でしょう」
「どうして・・・アレクセイめは今、別事で身動きが取れぬはず」
「確かに、騎士団長はこちらの方に顔を出された後、直ぐに帝都に戻られました」
「では・・・誰の指示で・・・」
ラゴウは驚きながら思考を巡らせ、そしてフレンへと向ける
「くっ・・・まさかこんな若造に我が計画を潰されるとは・・・」
ラゴウは悔しそうに顔を歪めフレンを見ていた
フレンは指示を出すと、ラゴウは騎士団に連れて行かれた
「これでカプワ・ノールの人々も圧政から解放されますね」
「次はまともな執政官が来りゃ良いんだがな」
「良い人が選ばれるように、お城に戻ったら掛け合ってみます」
「お城にって・・・エステル、帝都に帰っちゃうの?」
「・・・はい。ラゴウが捕まって、もうお城の中も安全でしょうから」
エステルはそう言うのもも何処か寂しそうな顔をしていた
「・・・ホントは帰りたくない」
「え?」
「って、顔してる」
「そんな事、ないです・・・」
「ま、好きにすりゃ良いさ。自分で決めたんだろ」
「・・・帰ります。これ以上、フレンや他の方々を心配させないように・・・」
エステルはそう言ってフレンに目を向け、リアもユーリもフレンに目を向けると、フレンが振り返りユーリに合図を送るとユーリも返事を返し、リアもアスラも軽く首を横に傾けて返事を返し、フレンはそのまま騎士達の後を追った
「そう言えば、セイは?」
「多分、ドンとヨーデル様との話し合いを見てるはずよ」
「こういう話し合いには中立の立場である人がいた方が良いしね」
アスラの言う通り、リアとセイは帝国にもギルドにも所属していないフリーの情報屋で、どちらの仕事も引き受けている
ドンやヨーデル、エステル、フレン、帝国とギルドのトップに立っている人達に一目置かれ信頼出来、中立の立場である人間がそう言った事を見届けると言う事はお互いに信頼出来る所だった
「とりあえず、宿に行かない?」
「そうだな。落ち着いた事だしゆっくり休もうぜ」
リアの提案にみんな賛成して宿に向かって歩き出した
「エステル、私達も宿に行こう・・・エステル?」
「え、・・あ、何です?」
「疲れもあるし、宿に行こう」
「はい」
エステルは考え込んでいたのかリアに声を掛けられ慌ててリアと一緒に歩き出し、宿へと向かった
宿に着くとセイが部屋を用意してくれていたようで、リア達は男女に分かれ部屋に行き、皆、仮眠を取った後、各々やる事をやって頃合いを見てセイが戻って来て軽くみんなと話しをした後、リアとアスラと一緒に仕事に向かった
37.裁かれるべき咎人
夜、ユーリが部屋で寝ていると廊下をドタバタ走る音が聞こえ自分の部屋の扉がカロルの大きな声と共に大きな音を立てて開いた
「大変だよ! ユーリ!」
「ゆっくり寝かせろって・・・」
「ラゴウが、ラゴウが!」
「ラゴウがどうしたって?」
ユーリはゆっくりと身体を起こしカロルの方を見た
「評議会の立場を利用して、罪を軽くしたんだって! 少し地位が低くなるだけで済まされるみたい! 酷い事してたのに!」
「面白くねえ冗談だな」
「冗談じゃなくて、本当よ」
「リア・・・」
ユーリが少し目を細めいつもより低い声でそう言うと、第三者の声が聞こえた
扉の方を見るとリアとセイが部屋に入って来ている所だった
「色々探ってみたが、上手い様に逃げやがったな」
「これが今の帝国のルールか。ったく、ホントに面白くねぇ」
「どうしよう、ユーリ」
「さて・・・な」
「ちゃんとした罰も受けないなんて、こんなの絶対可笑しいよ。そうだ! エステルに言えば何とかなるかもしれない!」
「おい、あんまお姫様に迷惑かけんじゃねえぞ」
言ってカロルは部屋から飛び出して行き、ユーリの言葉など聞こえていないようだった
「ったく、何やってんだよ、フレン」
「フレンなら駐屯地のテントにいるよ」
「行くの?」
「ああ」
「なら、後で尋ねるって伝えといてくれ」
「もうちょっとだけ仕事があるから」
「解った。んじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
「・・・?」
ユーリは小さく笑ってリア達の横を通り過ぎたが、リアはユーリの背中を見て少しだけ疑問を抱いた
「リア、どうかしたの?」
「ううん」
「なら、俺達も戻るか」
「うん」
言ってセイとアスラは歩き出し、リアもその後に続いた
だが、リアの表情は少しだけ重たいものだった
(・・・なんだか嫌な予感がする・・・。この直感が何にかは解らないけど・・・)
「・・・気のせいよね、きっと」
リアは小さく頭を振って扉を閉めセイとアスラの後を追った
*
時刻は深夜
ダングレストの街は昼間の賑やかさとは違い、しんと寝静まっていた
そのダングレストの表通りを数名の男達が歩いていた
先頭を歩いているのはあのラゴウ、後ろには武装した男が二人、護衛として着いていた
「アレクセイがいないと思って羽目を外し過ぎましたか・・・。フレン・シーフォか・・・生意気な騎士の小僧め。この恨み、忘れませんよ。評議会の力で、必ず厳罰を下してやります」
ラゴウは忌々しそうな顔をした
その顔や口調には反省の色すら感じられない
一時的とはいえ自分に恥をかかせたのだ
それ相当の処罰を与えなくては気が済まないのだろう
「うわぁっ・・・!」
そう憎らしく思いながら街を流れる橋の上を通りかかっていると、突然男の悲鳴が聞こえた
「ぐおっ・・・!!」
その直後、後ろにいた護衛の男達は倒れそのまま橋から墜ちて川の中へと墜ちた
「何・・・!?」
ラゴウは何事かと思い正面を見ると、そこには闇夜に溶けるように立ちはだかっている男がいた
「あ、貴方は・・・」
ラゴウの前に立ちはだかっていたのは、ユーリだった
だが、彼の左手には剣が握られていて、全身には殺気を漂わせていた
ラゴウは恐怖と驚きで顔を引きつらせた
「私に手を出す気ですか!? 私は評議会の人間ですよ!」
ユーリは無言でラゴウに近付くと、ラゴウはじりじりと後ろに下がる
「貴方など簡単に潰せるのです。無事では、す、すみませんよ」
「法や評議会がお前を許してもオレはお前を許さねえ」
ようやく口を開いたが、その声はいつも以上に低い声だった
ユーリは剣を握り直して構えた
「ひぃ、く、来るな!」
瞬間、ユーリは地を蹴り身を翻し逃げようとしていたラゴウに一気に詰め寄り、斬り払い、月夜の光の下で真紅の血がしぶいた
「ぐっ・・・」
ラゴウの身体が蹌踉めいた
致命傷であったが、ラゴウはよろよろと橋の手摺りに近付いた
「後少しで、宙の戒典 をぉ・・・がふっ」
苦悶の声を発しラゴウは力尽き、そのまま手摺りを乗り越え、ザバンと音を立て川の中へ墜ちて行った
「・・・・・・」
ユーリは表情を変えず暫くじっとその川を橋の上から眺めていた
同時刻、
リアはやっと仕事の方が一段落し、宿に戻る前に少しだけ気分転換をしようと思い散歩をしていた
「流石にこれだけハードだと疲れちゃうなぁ・・・」
リアはこれまでの旅の事と帝国とギルドが友好関係を結ぶ事になり、その処理等の手伝い、そしてついさっきまでやっていた本業の仕事を終え、苦笑して息を吐いていた
「少し風に当たろうかな」
そう思い、ダングレストの街に掛かる橋の方へと歩いて行く
すると
「うわぁっ・・・!」
「!」
「ぐおっ・・・!!」
突然男の悲鳴が聞こえ、更に続けてまた男の悲鳴が聞こえた
「何っ!?」
その声はリアが向かおうとしている橋の方からだった
(嫌な予感がする・・・)
「っ!?」
リアは表情を固め、走り出そうとしていると、リアの服の裾を何かに捕まれ足を止めそれを見た
「! ラピード!? どうして此処に・・?」
「・・・・」
ラピードはリアの服の裾を加えたままじっとリアを見つめる
(ラピードが此処にいるって事は、ユーリが近くにいる・・・? ユーリ・・・?)
ふとそこで何かに気が付きリアは橋の方を見てそしてラピードに目を戻す
(あの時のユーリ・・・。まさか・・・!?)
「ラピード、放して!」
「ワゥウウン、ワン!!」
リアは嫌な事が浮かび、ラピードに言うがラピードは未だにリアの服の裾を引っ張り、行くなと言っている
(ラピードのこの反応・・・。やっぱり、ラピードはユーリがしようとしてる事を解ってて・・・)
「お願いラピード、放して」
リアは優しい声音で言うがその言葉と目はいつも以上に真剣なものだった
「・・・・」
それを見たラピードは少しだけ考えた後、ゆっくりと服の裾を放した
「ありがとう、ラピード」
リアは小さく笑った後、踵を返して走り出した
(お願い! 間に合って!!)
リアは懐から式を出し、それを飛ばし、握り拳を作り必死に走った
「法や評議会がお前を許してもオレはお前を許さねえ」
「!?」
飛ばした式を通して、ユーリがいる場所がリアの脳裏に映し出される
そこには闇夜に溶けるように立ちはだかっているユーリとラゴウがいた
だが、ユーリの手には剣が握られていて、その声はいつも以上に低い声で殺気が交ざっていた
ユーリは言って剣を握り直して構えた
「ひぃ、く、来るな!」
瞬間、ユーリは地を蹴り身を翻し逃げようとしていたラゴウに一気に詰め寄り、斬り払った
「ユーリッ!!」
リアはその光景に思わず声を出し立ち止まった
そして、月夜の光の下で真紅の血がしぶいた
「ぐっ・・・」
ラゴウの身体が蹌踉めいた
致命傷であったが、ラゴウはよろよろと橋の手摺りに近付いた
「後少しで、宙の戒典をぉ・・・がふっ」
苦悶の声を発しラゴウは力尽き、そのまま手摺りを乗り越え、ザバンと音を立て川の中へ墜ちて行った
「・・・・・・」
ユーリは表情を変えずじっとその川を橋の上から眺めた
「・・・・ユーリ・・・」
リアはそれを見て顔を歪めた
それはずっと感じていた嫌な予感の正体に気付くのが遅かった事に対してだった
そして角を曲がると、例の橋に着いた
「・・・・」
橋の上を見るとそこにユーリがいて、ユーリはじっと橋の上から川を見ていた
「・・・・」
リアはもう一度目を閉じ、考えを纏めてゆっくりと顔を上げてユーリを見た
「・・・ユーリ」
「・・・! リア・・・」
ユーリは小さく息を吐きその場を離れようとすると、急に名前を呼ばれ顔を上げるとそこにはリアが立っていた
見ると、リアは少しだけ表情を曇らせていた
「・・・見てた・・のか・・・?」
「・・・全部じゃないけど・・・」
ユーリは剣を鞘に納めながら聞くとそう返事が返って来て少しだけ表情を変えた
聞きたい事は色々とある、が、上手く言葉が出てこない
いや、出てこないと言うより、これ以上今の自分を見られているのが嫌で歩き出そうとした時だった
「・・ユーリ」
ふと名前を呼ばれ、足を止めてしまいリアを見ると
「後悔、してる」
「・・・・・」
リアの表情は先程とは違い真剣な表情をしてじっとユーリを見ていた
ユーリは赤く染まった手を見つめた
罪だという事は分かってる、でもこのままラゴウを野放しにしておく方がいけないと思ったから、自分の正義を貫いた
許されない、っと知っていても
「・・・いや」
そう答えるとリアはゆっくりと歩いてきてユーリの前で止まった
「・・・それが、ユーリの信じる正義?」
「ああ」
その答えに迷いはなかった
「・・・・」
リアはそのまま黙ってしまい、ユーリは目を伏せた
後悔はない
そうは言うものの、別の後悔が押し寄せてくる
一番見られたくない人に、見られてしまった
一番大事に想っている人に、もう触れる事は出来ない
(オレの手はもう汚れてしまったから・・・)
そう思っていると、急に手に温かさを感じた
目を開けると、リアが両手でユーリの手を包み込むように握っていた
「・・・ユーリは何でも一人で抱え込み過ぎ。特に、こういう重たい事は・・・」
「・・・オレはもう手を汚したんだ。だからその手を「離さない」
ユーリの言葉を遮るようにリアが少し強めの口調で言った
「離したら、ユーリがそのまま遠くへ行っちゃいそうだもん」
「・・・・・」
それはあながち間違いではなかった
夜が明けたら直ぐにでも街を出て下町に戻るつもりだった
リアを置いて・・・
「・・・オレが、怖くないのか?」
ユーリはリアを見据えて先程よりも真剣な表情で聞いた
直ぐに答えが返ってこないだろうと思っていたがリアは表情を緩めて言った
「怖い訳ないじゃない」
ユーリは驚いてリアを見た
「ユーリはユーリ。私の知ってるユーリ・ローウェルは、守るべきモノの為なら必死で頑張るとても真っ直ぐな人。それで自分が傷つく事を厭わないで無茶ばっかりする人。それは今も昔も変わらない・・・目の前にいるユーリだよ」
リアはニコリとしてユーリを見た
ユーリは驚いてまた目を見開いているとリアは言葉を続けた
「・・・ユーリが信じて貫いた事なら、私は見届けるよ」
その言葉でユーリの胸の中にあった重たいモノがストンと落ちた
昔から変わらぬ優しさとその笑顔
何が遭っても相手の事を考えて理解してくれるその優しさと笑顔に今まで何人の人が救われた事か
勿論その中に自分も、フレンもいる
(・・・やっぱ、リアには敵わねぇな・・・)
「リア」
ユーリは小さく笑ってリアの名前を呼ぶと、血が付いていない方の手でリアを引き寄せそのまま抱きしめた
「ありがとな」
「・・・うん」
リアは突然の事で一瞬驚いたが、ユーリの声を聞き自然と背中に手を回し抱きしめ返した
(・・・罪を背負ったオレを認めてくれたお前は、オレから離れないで居てくれた。
もう汚れた手で触れる事は出来ないと思っていたモノが、温もりが、今こうして腕の中にある。
お前が信じてくれる限り、オレはお前の傍にいる。
何が遭っても・・・)
続く
あとがき
今回はフレンの所に行かないパターンで考えてたらこうなってしまった(笑)
でも最後の方は箱版と同じに・・・違う風に考えたけどいまいちだったのでι
個人的にはラピードがリアちゃんを引き留めてる所が好きです
ラピードはやっぱ偉い犬 だわ♡
さ、次回はまたまた違うパターンで来ますよ!
お楽しみに
2009.12.08
水道魔導器の魔刻を無事に取り戻したリア達はダングレストに戻って来た
そして街の中に入ると、騎士団と騎士団に捕らえられているラゴウの姿があった
だがラゴウは自分は関係ないと騎士団や街の人達に訴えかけていた
「往生際の悪いじいさん」
「・・・フレンは・・・?」
「此処からじゃ見えないな」
「もうちょっと近くに行ってみよう」
リア達はもう少し状況が把握出来る所まで移動した
「騎士団を信じてはいけません! 彼等は貴方達を安心させた上でこの街を潰そうとしているのです!」
「我等は騎士団の名の下に、そのような不実な事をしないと誓います」
「貴方は・・・フレン・シーフォ!」
フレンは騎士団の間を抜けてラゴウの前まで来て止まった
「帝国とユニオンの間に友好協定が結ばれる事になりました」
「な! そんな、バカな・・・」
フレンの言葉を聞いてラゴウは驚いて目を丸くした
バルボスと手を組み上手く事を運んだつもりだったが、まさかそうなるとは思っていなかったのだろう
「今、ドン・ホワイトホースとヨーデル様の間で話し合いがもたれています。正式な調印も時間の問題でしょう」
「どうして・・・アレクセイめは今、別事で身動きが取れぬはず」
「確かに、騎士団長はこちらの方に顔を出された後、直ぐに帝都に戻られました」
「では・・・誰の指示で・・・」
ラゴウは驚きながら思考を巡らせ、そしてフレンへと向ける
「くっ・・・まさかこんな若造に我が計画を潰されるとは・・・」
ラゴウは悔しそうに顔を歪めフレンを見ていた
フレンは指示を出すと、ラゴウは騎士団に連れて行かれた
「これでカプワ・ノールの人々も圧政から解放されますね」
「次はまともな執政官が来りゃ良いんだがな」
「良い人が選ばれるように、お城に戻ったら掛け合ってみます」
「お城にって・・・エステル、帝都に帰っちゃうの?」
「・・・はい。ラゴウが捕まって、もうお城の中も安全でしょうから」
エステルはそう言うのもも何処か寂しそうな顔をしていた
「・・・ホントは帰りたくない」
「え?」
「って、顔してる」
「そんな事、ないです・・・」
「ま、好きにすりゃ良いさ。自分で決めたんだろ」
「・・・帰ります。これ以上、フレンや他の方々を心配させないように・・・」
エステルはそう言ってフレンに目を向け、リアもユーリもフレンに目を向けると、フレンが振り返りユーリに合図を送るとユーリも返事を返し、リアもアスラも軽く首を横に傾けて返事を返し、フレンはそのまま騎士達の後を追った
「そう言えば、セイは?」
「多分、ドンとヨーデル様との話し合いを見てるはずよ」
「こういう話し合いには中立の立場である人がいた方が良いしね」
アスラの言う通り、リアとセイは帝国にもギルドにも所属していないフリーの情報屋で、どちらの仕事も引き受けている
ドンやヨーデル、エステル、フレン、帝国とギルドのトップに立っている人達に一目置かれ信頼出来、中立の立場である人間がそう言った事を見届けると言う事はお互いに信頼出来る所だった
「とりあえず、宿に行かない?」
「そうだな。落ち着いた事だしゆっくり休もうぜ」
リアの提案にみんな賛成して宿に向かって歩き出した
「エステル、私達も宿に行こう・・・エステル?」
「え、・・あ、何です?」
「疲れもあるし、宿に行こう」
「はい」
エステルは考え込んでいたのかリアに声を掛けられ慌ててリアと一緒に歩き出し、宿へと向かった
宿に着くとセイが部屋を用意してくれていたようで、リア達は男女に分かれ部屋に行き、皆、仮眠を取った後、各々やる事をやって頃合いを見てセイが戻って来て軽くみんなと話しをした後、リアとアスラと一緒に仕事に向かった
37.裁かれるべき咎人
夜、ユーリが部屋で寝ていると廊下をドタバタ走る音が聞こえ自分の部屋の扉がカロルの大きな声と共に大きな音を立てて開いた
「大変だよ! ユーリ!」
「ゆっくり寝かせろって・・・」
「ラゴウが、ラゴウが!」
「ラゴウがどうしたって?」
ユーリはゆっくりと身体を起こしカロルの方を見た
「評議会の立場を利用して、罪を軽くしたんだって! 少し地位が低くなるだけで済まされるみたい! 酷い事してたのに!」
「面白くねえ冗談だな」
「冗談じゃなくて、本当よ」
「リア・・・」
ユーリが少し目を細めいつもより低い声でそう言うと、第三者の声が聞こえた
扉の方を見るとリアとセイが部屋に入って来ている所だった
「色々探ってみたが、上手い様に逃げやがったな」
「これが今の帝国のルールか。ったく、ホントに面白くねぇ」
「どうしよう、ユーリ」
「さて・・・な」
「ちゃんとした罰も受けないなんて、こんなの絶対可笑しいよ。そうだ! エステルに言えば何とかなるかもしれない!」
「おい、あんまお姫様に迷惑かけんじゃねえぞ」
言ってカロルは部屋から飛び出して行き、ユーリの言葉など聞こえていないようだった
「ったく、何やってんだよ、フレン」
「フレンなら駐屯地のテントにいるよ」
「行くの?」
「ああ」
「なら、後で尋ねるって伝えといてくれ」
「もうちょっとだけ仕事があるから」
「解った。んじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
「・・・?」
ユーリは小さく笑ってリア達の横を通り過ぎたが、リアはユーリの背中を見て少しだけ疑問を抱いた
「リア、どうかしたの?」
「ううん」
「なら、俺達も戻るか」
「うん」
言ってセイとアスラは歩き出し、リアもその後に続いた
だが、リアの表情は少しだけ重たいものだった
(・・・なんだか嫌な予感がする・・・。この直感が何にかは解らないけど・・・)
「・・・気のせいよね、きっと」
リアは小さく頭を振って扉を閉めセイとアスラの後を追った
*
時刻は深夜
ダングレストの街は昼間の賑やかさとは違い、しんと寝静まっていた
そのダングレストの表通りを数名の男達が歩いていた
先頭を歩いているのはあのラゴウ、後ろには武装した男が二人、護衛として着いていた
「アレクセイがいないと思って羽目を外し過ぎましたか・・・。フレン・シーフォか・・・生意気な騎士の小僧め。この恨み、忘れませんよ。評議会の力で、必ず厳罰を下してやります」
ラゴウは忌々しそうな顔をした
その顔や口調には反省の色すら感じられない
一時的とはいえ自分に恥をかかせたのだ
それ相当の処罰を与えなくては気が済まないのだろう
「うわぁっ・・・!」
そう憎らしく思いながら街を流れる橋の上を通りかかっていると、突然男の悲鳴が聞こえた
「ぐおっ・・・!!」
その直後、後ろにいた護衛の男達は倒れそのまま橋から墜ちて川の中へと墜ちた
「何・・・!?」
ラゴウは何事かと思い正面を見ると、そこには闇夜に溶けるように立ちはだかっている男がいた
「あ、貴方は・・・」
ラゴウの前に立ちはだかっていたのは、ユーリだった
だが、彼の左手には剣が握られていて、全身には殺気を漂わせていた
ラゴウは恐怖と驚きで顔を引きつらせた
「私に手を出す気ですか!? 私は評議会の人間ですよ!」
ユーリは無言でラゴウに近付くと、ラゴウはじりじりと後ろに下がる
「貴方など簡単に潰せるのです。無事では、す、すみませんよ」
「法や評議会がお前を許してもオレはお前を許さねえ」
ようやく口を開いたが、その声はいつも以上に低い声だった
ユーリは剣を握り直して構えた
「ひぃ、く、来るな!」
瞬間、ユーリは地を蹴り身を翻し逃げようとしていたラゴウに一気に詰め寄り、斬り払い、月夜の光の下で真紅の血がしぶいた
「ぐっ・・・」
ラゴウの身体が蹌踉めいた
致命傷であったが、ラゴウはよろよろと橋の手摺りに近付いた
「後少しで、
苦悶の声を発しラゴウは力尽き、そのまま手摺りを乗り越え、ザバンと音を立て川の中へ墜ちて行った
「・・・・・・」
ユーリは表情を変えず暫くじっとその川を橋の上から眺めていた
同時刻、
リアはやっと仕事の方が一段落し、宿に戻る前に少しだけ気分転換をしようと思い散歩をしていた
「流石にこれだけハードだと疲れちゃうなぁ・・・」
リアはこれまでの旅の事と帝国とギルドが友好関係を結ぶ事になり、その処理等の手伝い、そしてついさっきまでやっていた本業の仕事を終え、苦笑して息を吐いていた
「少し風に当たろうかな」
そう思い、ダングレストの街に掛かる橋の方へと歩いて行く
すると
「うわぁっ・・・!」
「!」
「ぐおっ・・・!!」
突然男の悲鳴が聞こえ、更に続けてまた男の悲鳴が聞こえた
「何っ!?」
その声はリアが向かおうとしている橋の方からだった
(嫌な予感がする・・・)
「っ!?」
リアは表情を固め、走り出そうとしていると、リアの服の裾を何かに捕まれ足を止めそれを見た
「! ラピード!? どうして此処に・・?」
「・・・・」
ラピードはリアの服の裾を加えたままじっとリアを見つめる
(ラピードが此処にいるって事は、ユーリが近くにいる・・・? ユーリ・・・?)
ふとそこで何かに気が付きリアは橋の方を見てそしてラピードに目を戻す
(あの時のユーリ・・・。まさか・・・!?)
「ラピード、放して!」
「ワゥウウン、ワン!!」
リアは嫌な事が浮かび、ラピードに言うがラピードは未だにリアの服の裾を引っ張り、行くなと言っている
(ラピードのこの反応・・・。やっぱり、ラピードはユーリがしようとしてる事を解ってて・・・)
「お願いラピード、放して」
リアは優しい声音で言うがその言葉と目はいつも以上に真剣なものだった
「・・・・」
それを見たラピードは少しだけ考えた後、ゆっくりと服の裾を放した
「ありがとう、ラピード」
リアは小さく笑った後、踵を返して走り出した
(お願い! 間に合って!!)
リアは懐から式を出し、それを飛ばし、握り拳を作り必死に走った
「法や評議会がお前を許してもオレはお前を許さねえ」
「!?」
飛ばした式を通して、ユーリがいる場所がリアの脳裏に映し出される
そこには闇夜に溶けるように立ちはだかっているユーリとラゴウがいた
だが、ユーリの手には剣が握られていて、その声はいつも以上に低い声で殺気が交ざっていた
ユーリは言って剣を握り直して構えた
「ひぃ、く、来るな!」
瞬間、ユーリは地を蹴り身を翻し逃げようとしていたラゴウに一気に詰め寄り、斬り払った
「ユーリッ!!」
リアはその光景に思わず声を出し立ち止まった
そして、月夜の光の下で真紅の血がしぶいた
「ぐっ・・・」
ラゴウの身体が蹌踉めいた
致命傷であったが、ラゴウはよろよろと橋の手摺りに近付いた
「後少しで、宙の戒典をぉ・・・がふっ」
苦悶の声を発しラゴウは力尽き、そのまま手摺りを乗り越え、ザバンと音を立て川の中へ墜ちて行った
「・・・・・・」
ユーリは表情を変えずじっとその川を橋の上から眺めた
「・・・・ユーリ・・・」
リアはそれを見て顔を歪めた
それはずっと感じていた嫌な予感の正体に気付くのが遅かった事に対してだった
そして角を曲がると、例の橋に着いた
「・・・・」
橋の上を見るとそこにユーリがいて、ユーリはじっと橋の上から川を見ていた
「・・・・」
リアはもう一度目を閉じ、考えを纏めてゆっくりと顔を上げてユーリを見た
「・・・ユーリ」
「・・・! リア・・・」
ユーリは小さく息を吐きその場を離れようとすると、急に名前を呼ばれ顔を上げるとそこにはリアが立っていた
見ると、リアは少しだけ表情を曇らせていた
「・・・見てた・・のか・・・?」
「・・・全部じゃないけど・・・」
ユーリは剣を鞘に納めながら聞くとそう返事が返って来て少しだけ表情を変えた
聞きたい事は色々とある、が、上手く言葉が出てこない
いや、出てこないと言うより、これ以上今の自分を見られているのが嫌で歩き出そうとした時だった
「・・ユーリ」
ふと名前を呼ばれ、足を止めてしまいリアを見ると
「後悔、してる」
「・・・・・」
リアの表情は先程とは違い真剣な表情をしてじっとユーリを見ていた
ユーリは赤く染まった手を見つめた
罪だという事は分かってる、でもこのままラゴウを野放しにしておく方がいけないと思ったから、自分の正義を貫いた
許されない、っと知っていても
「・・・いや」
そう答えるとリアはゆっくりと歩いてきてユーリの前で止まった
「・・・それが、ユーリの信じる正義?」
「ああ」
その答えに迷いはなかった
「・・・・」
リアはそのまま黙ってしまい、ユーリは目を伏せた
後悔はない
そうは言うものの、別の後悔が押し寄せてくる
一番見られたくない人に、見られてしまった
一番大事に想っている人に、もう触れる事は出来ない
(オレの手はもう汚れてしまったから・・・)
そう思っていると、急に手に温かさを感じた
目を開けると、リアが両手でユーリの手を包み込むように握っていた
「・・・ユーリは何でも一人で抱え込み過ぎ。特に、こういう重たい事は・・・」
「・・・オレはもう手を汚したんだ。だからその手を「離さない」
ユーリの言葉を遮るようにリアが少し強めの口調で言った
「離したら、ユーリがそのまま遠くへ行っちゃいそうだもん」
「・・・・・」
それはあながち間違いではなかった
夜が明けたら直ぐにでも街を出て下町に戻るつもりだった
リアを置いて・・・
「・・・オレが、怖くないのか?」
ユーリはリアを見据えて先程よりも真剣な表情で聞いた
直ぐに答えが返ってこないだろうと思っていたがリアは表情を緩めて言った
「怖い訳ないじゃない」
ユーリは驚いてリアを見た
「ユーリはユーリ。私の知ってるユーリ・ローウェルは、守るべきモノの為なら必死で頑張るとても真っ直ぐな人。それで自分が傷つく事を厭わないで無茶ばっかりする人。それは今も昔も変わらない・・・目の前にいるユーリだよ」
リアはニコリとしてユーリを見た
ユーリは驚いてまた目を見開いているとリアは言葉を続けた
「・・・ユーリが信じて貫いた事なら、私は見届けるよ」
その言葉でユーリの胸の中にあった重たいモノがストンと落ちた
昔から変わらぬ優しさとその笑顔
何が遭っても相手の事を考えて理解してくれるその優しさと笑顔に今まで何人の人が救われた事か
勿論その中に自分も、フレンもいる
(・・・やっぱ、リアには敵わねぇな・・・)
「リア」
ユーリは小さく笑ってリアの名前を呼ぶと、血が付いていない方の手でリアを引き寄せそのまま抱きしめた
「ありがとな」
「・・・うん」
リアは突然の事で一瞬驚いたが、ユーリの声を聞き自然と背中に手を回し抱きしめ返した
(・・・罪を背負ったオレを認めてくれたお前は、オレから離れないで居てくれた。
もう汚れた手で触れる事は出来ないと思っていたモノが、温もりが、今こうして腕の中にある。
お前が信じてくれる限り、オレはお前の傍にいる。
何が遭っても・・・)
続く
あとがき
今回はフレンの所に行かないパターンで考えてたらこうなってしまった(笑)
でも最後の方は箱版と同じに・・・違う風に考えたけどいまいちだったのでι
個人的にはラピードがリアちゃんを引き留めてる所が好きです
ラピードはやっぱ偉い
さ、次回はまたまた違うパターンで来ますよ!
お楽しみに
2009.12.08