水道魔導器奪還編
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「なあ、あんたは何でギルド作ったんだ?」
ユニオンに着き特別室の扉を開け中に入り、階段を降りていると話し声が聞こえた
「帝国の作ったルールじゃあ、俺の大事なもんが、守れねえって思ったからだ」
その声はユーリとドンのものだった
雰囲気的にこのまま足を運ぶのも何だと思い、私はそのまま歩みを止めて話しを聞いていた
「帝国にいた方が守りやすいもんもあったろ。下町でさえ結界に守られてた。魔物は絶対に入ってこねえ」
「だから、その他の気に入らねえ事をてめぇは我慢してんのかよ」
「・・・それは」
「・・・・」
ドンの言葉にユーリも話しを聞いていた私も押し黙ってしまう
ユーリが帝国の作ったルールに対して不満を持っているのは私も知っているし、その事で大事なものを沢山奪われた事も重々承知だ
「帝国の作ったルールが気に入らねえなら、選択肢は二つだ」
そう声が聞こえ顔を上げてドンを見る
「あの騎士の坊主のように変えてやろうと意気込むか、もしくは帝国を飛び出して、てめぇのルールをてめぇで作り上げるか、だ」
「はっきりしてんのな」
ドンの静かな答えに対し、ユーリは深みを感じぽつりと呟いた
「そうそう。うちの大切な人質を逃がした責任は取れよ」
「身代わり以外に、まだなんかやれっての?」
「茶番を仕切ってる黒幕が街に紛れてるはずだ。あの騎士の坊主に探させるつもりだったんだがなぁ」
「それ、オレに探せって?」
「責任の取り方はてめぇに任せる。連れの娘っ子だって、ケガ人相手に駆けずり回って、ルーティア兄妹も情報集めで駆けずり回ってんだ。てめぇだけのんびりってのは性に合わねえだろう」
「・・・リアやエステル達がね。ま、あいつ等らしいか」
「ま、もう迎えが着てるがな」
「?」
ドンの言葉にユーリは疑問を持っていると、私は小さく笑って柱の影から出て行った
「ユーリって、ホント牢屋の常連さんよね」
「リア!?」
そんな私とユーリを見るとドンは小さく笑ってその場を離れて行く
「何時からいたんだ?」
「ユーリがドンにギルドを作った訳を聞いた辺りからね」
私は牢を開け、出て来るユーリに言うとユーリは苦笑していた
「外は今どうなってんだ?」
「さっきドンが言ってた通り、エステルはケガ人の手当してて、多分カロルとリタも一緒だと思う。まあアスラとラピードが一緒だから無茶はさせないと思うけど・・・」
「セイは情報収集か?」
「うん、ドンや他のギルドの動きを探りにね。多分今頃ドンと話してると思うけど。フレンも無事に街の外に出られたから、今頃本物の書状を取り戻しに行ってるはずよ」
「そっか。じゃ、オレ達も・・・」
「? アスラ・・?」
ユーリに一通りの事を伝え終わり、ユーリも今の状況を把握し、フレンの事を聞き安堵し、私に向き合いお互いに外に向かおうとした時だった
突然アスラから連絡が入り、その連絡を聞くと私とユーリは急いでユニオンを出て広場まで戻って行った
33. 記された地下の誓い
「ユーリ! リア!」
アスラから連絡が入り、広場まで戻って来るとカロルが私とユーリの姿を見つけ声を掛け、私達はカロルとアスラの前で止まった
「カロル、アスラ、紅の絆傭兵団の居場所見つけたってのは本当か?」
「うん、今、エステル達がその近くで様子を伺ってるんだ」
「バルボスは見なかったんだけど・・・」
「足取りが掴めただけでも十分よ」
「そうだな。行こうぜ」
各々数言話し、私達はエステルとリタがいる場所へと向かい出した
「リタ・・・!」
「しっ・・・ガキんちょ、あんた声でかい」
広場を抜けて着いた場所は街外れにある一軒の酒場だった
その前にエステルとリタとラピードがいた
「・・・あこそは、紅の傭兵団が使ってる酒場」
「みたいです・・・」
酒場の前を見ると、紅の傭兵団が数人たむろっていてた
「・・・ありゃ、ちょっと無理矢理押し入るって訳にゃいかなそうだな」
「此処で騒ぎ立ててもしょうがないしね」
「でも、あの中にバルボスがいるとしたら・・・」
「指咥えて見てるって訳にもいかねぇよな」
「どうしよっか・・・」
「いー事、教えてあげよう」
そう声が聞こえ振り返るとレイヴンが私達の方に向かって歩いて来ていた
「・・・また、あんたか」
「おいおい、良いのか、あっち行かなくて」
「よかないけど、青年達が下手打たないようにちゃんと見とけってドンがさ。ゆっくり酒場にでも行って俺様のお話聞かない?」
「酒場・・・?」
「そ、酒場」
「わたし達にはそんなゆっくりしてる暇は・・・」
「解ったわ、行きましょう」
「えっ!?」
レイヴンが言っている酒場があそこだと直ぐに分かり私が返事を返すと、カロルは驚いて声を上げ、ユーリもエステルもリタも驚いた顔をしていた
「リア、あんた、本気で言ってんの?」
「勿論そこには兄さんもいるんでしょ?」
「さっすがリアちゃん、良く解ってる」
「じゃ、行こうみんな」
「あ、・・・」
アスラはユーリ達に声を掛け、先に私と一緒に歩き出した
「ほら、青年達も」
「リアとアスラが知ってて、セイもそこにいるなら信用出来っけど・・・」
ユーリは隣に歩いて来たラピードを見ると、ラピードはユーリに視線を向け直ぐにリアの後ろ姿に視線を向け、またユーリを見た
「・・解ったよ。じゃ、行こうぜ」
「ワン」
ユーリはラピードが言いたい事を理解し、それを見たエステル達もユーリの後ろを着いて行きだした
「ちょいと通してもらうよ」
場所は変わって、此処は西側にある酒場
そこに着くとレイヴンはある部屋の前に立っているギルド員に声を掛け、私達を連れて中に入った
「やっと来たか」
「セイ!」
部屋の中に入ると、兄さんはソファに腰掛けていて私達を見つけると視線を向け、私は兄さんの正面のソファに座ると、その隣にラピードが座り、頭を撫でてあげた
「なんだ、此処は」
ユーリは部屋の中を見てレイヴンにそう尋ねた
どう見ても隣の酒場とは違い、立派な家具やお酒、グラスなどが置いてあり、そして中央には天を射る矢の旗が飾られてあった
「ドンが偉い客迎えてお酒飲みながら秘密のお話する所よ」
「で、何でセイが此処にいるのよ?」
「基本、俺達もドンと話しする時は此処だからな」
「だから兄さんは此処で私達が来るの待ってたのよ」
「どういう事?」
「おたくのお友達が本物の書状持ってくれば、とりあえず事は丸く収まるのよね」
私の言葉とそして兄さんが此処で私達が来るのを待っていた事にカロルが疑問を持っているとレイヴンがそう答え、ユーリの方を見る
「悪ぃけど、フレン一人にいい格好させとく訳にゃいかないんでね」
「わたし達、この騒ぎの犯人を突き止めなければならないんです! もしバルボスが・・・」
「まあまあ。急いては事をし損じる♪」
そう言ってレイヴンは天を射る矢の旗が飾ってある前で止まりその下を見ると、取っ手のようなものがあった
「・・・扉?」
「これは?」
「この街の地下には複雑に地下水道が張り巡らされてる。その昔、街が帝国に占領された時、ギルドはこの地下水道に潜伏して、反撃の機会を窺ったんだと」
「まさか・・・此処がその地下水道に繋がってる・・・とか言わないよね」
カロルは扉の方へと歩いて行きながら言うとレイヴンはにいっと笑って答える
「そのまさかよ。で、此処からこっそりと連中の足元に忍び込めるって寸法な訳よ」
「ちゃちゃっと忍び込んで奴等ふん捕まえる。回り道だが、それが確実って事か」
「そう言う事。信じて良かったでしょ?」
「まだ良かったかどうかは行ってみないとわかんねぇな」
「やっぱおっさんは信用ならない?」
「当然、おっさんも付き合ってくれんだろ?」
「あっらー? おっさん、このままバックれる気満々だったのに」
「おっさんにも良い格好させてやるってんだよ、ほら行くぜ」
ユーリの言葉に私も兄さんもソファから立ち上がり、地下水道へと続く扉の方へ歩き出し、エステル達もその後ろに続いた
*
地下水道に入った私達は、ラピードが見つけた光照魔導器 のお陰でどんどん地下水道を進んで行った
「・・・ん、何だ?」
地下水道の中腹辺りまで来ると、少しだけ辺りの景色が変わり、そして目の前に大きな壁が見え、私達は足を止め、その壁に近付いた
「ん、何か此処に刻んであるな。 ・・・文字か。何だ?」
「・・・かつて我等の父祖は、民を護る務めを忘れし国を捨て、自ら真の自由の護り手となった」
ユーリが文字をなぞっていると、エステルが上から文字を読み始め、私達もその文字に目を通す
「これ抑ちギルドの起こりである。しかし今や圧制者の鉄の鎖は再び我等の首に届くに至った。我等が父祖の誓いを忘れ、利を巡り互いの争いに明け暮れたからである。故に我等は今一度ギルドの本義に立ち戻り、捨てる力を一つにせん。我等の剣は自由の為。我等の盾は友の為。我等の命は皆の為・・・。此処に、古き誓いを新たにす」
「ねえ・・・これって『ユニオン誓約』じゃない?」
「何よ、それ?」
「ドンがユニオンを結成した時に作られたユニオンの標語みたいなもんだよ」
「自分達の事は帝国に頼らないで自分達で守る。その為にはしっかり結束し、お互いの為なら命もかけよう。みたいな事ね」
「でも、何でこんな所に誓約が書かれてるの?」
「ユニオンってのは帝国がこの街を占領した時に抵抗したギルド勢力が元になってんのよ。それまでギルドってのはてんでバラバラ好き勝手やってて、問題が生じた時だけ団結してた。で、事が済めばまたバラバラ。帝国に占領されて、ようやくそれじゃまずいって悟った訳ね」
「そのギルド勢力を率いたのがドン・ホワイトホースなんだ!?」
「そそ。そん時、この地下水道も大いに役に立ったはずよ」
「じゃあ、その時此処で結成の誓いを立てたって事なんだね」
「そう言う事みたいね。確かに誓約書の実物が何処かにあるって話だったけど、こんな壁の落書きだったとはね」
私も何処かにユニオン誓約があるとは聞いていたけど、まさか地下水道の壁に書かれているなんて思ってもみなかった
「壁に書かれた誓約書なんて、何か素敵ですね」
「?」
壁に書かれている誓約書を見ていると一番下にあるものに目が止まった
「・・・アイフリード・・?」
「ああ、あの大悪党って噂の海賊王か」
「ドンが言うには一応、盟友だったそうよ。でも、頭の回る食えない人物で、あのドンですら相手にすんのに苦労したってさ」
「それでも盟友とか言う辺り大した器のじいさんだな、ドンってのは」
確かに、アイフリードがドンと知り合いだとは聞いた事があったけど、盟友だという事は聞いた事がなかったので少しだけ驚いてしまった
「・・・我等の命は皆の為・・・か・・・」
「面白いもんが見れたが、今はバルボスだ。そろそろ行こうぜ」
私達はもう一度だけ壁を見上げ、歩き出しユーリの隣に並ぶとユーリはぽつりと呟いた
「我等の剣は自由の為、か」
「さっきのユニオン誓約?」
それに気が付いたのかカロルもユーリへと視線を向ける
「融通の効かない帝国法なんかじゃなくて、自分達の自由の為ってのは良いな」
「共感出来るなら、ユーリはギルド向きかもね」
「ん? ああ、騎士団向きではなかったな」
「「確かに」」「確かにな」
「ワンッ!」
「え、リアもセイもアスラもラピードも、同意しちゃうんだ?」
「ワン、ワンッ!」
「まあね」
騎士団時代のユーリの事を知っている私達は苦笑して答えるとカロルは意外そうな顔をしていた
「ギルド、か・・・」
ユーリは宙を見てそうぽつりと呟き、その言葉は誰に聞こえる事なく消え、そのまま歩いて行った
続く
あとがき
此処は二回に分けて書くつもりじゃなかったんですけど、流れ的に分かれてしまったι
さ、次は遂に紅の傭兵団のアジトである酒場に乗り込みますよぉ!
お楽しみに♪
2009.12.03
ユニオンに着き特別室の扉を開け中に入り、階段を降りていると話し声が聞こえた
「帝国の作ったルールじゃあ、俺の大事なもんが、守れねえって思ったからだ」
その声はユーリとドンのものだった
雰囲気的にこのまま足を運ぶのも何だと思い、私はそのまま歩みを止めて話しを聞いていた
「帝国にいた方が守りやすいもんもあったろ。下町でさえ結界に守られてた。魔物は絶対に入ってこねえ」
「だから、その他の気に入らねえ事をてめぇは我慢してんのかよ」
「・・・それは」
「・・・・」
ドンの言葉にユーリも話しを聞いていた私も押し黙ってしまう
ユーリが帝国の作ったルールに対して不満を持っているのは私も知っているし、その事で大事なものを沢山奪われた事も重々承知だ
「帝国の作ったルールが気に入らねえなら、選択肢は二つだ」
そう声が聞こえ顔を上げてドンを見る
「あの騎士の坊主のように変えてやろうと意気込むか、もしくは帝国を飛び出して、てめぇのルールをてめぇで作り上げるか、だ」
「はっきりしてんのな」
ドンの静かな答えに対し、ユーリは深みを感じぽつりと呟いた
「そうそう。うちの大切な人質を逃がした責任は取れよ」
「身代わり以外に、まだなんかやれっての?」
「茶番を仕切ってる黒幕が街に紛れてるはずだ。あの騎士の坊主に探させるつもりだったんだがなぁ」
「それ、オレに探せって?」
「責任の取り方はてめぇに任せる。連れの娘っ子だって、ケガ人相手に駆けずり回って、ルーティア兄妹も情報集めで駆けずり回ってんだ。てめぇだけのんびりってのは性に合わねえだろう」
「・・・リアやエステル達がね。ま、あいつ等らしいか」
「ま、もう迎えが着てるがな」
「?」
ドンの言葉にユーリは疑問を持っていると、私は小さく笑って柱の影から出て行った
「ユーリって、ホント牢屋の常連さんよね」
「リア!?」
そんな私とユーリを見るとドンは小さく笑ってその場を離れて行く
「何時からいたんだ?」
「ユーリがドンにギルドを作った訳を聞いた辺りからね」
私は牢を開け、出て来るユーリに言うとユーリは苦笑していた
「外は今どうなってんだ?」
「さっきドンが言ってた通り、エステルはケガ人の手当してて、多分カロルとリタも一緒だと思う。まあアスラとラピードが一緒だから無茶はさせないと思うけど・・・」
「セイは情報収集か?」
「うん、ドンや他のギルドの動きを探りにね。多分今頃ドンと話してると思うけど。フレンも無事に街の外に出られたから、今頃本物の書状を取り戻しに行ってるはずよ」
「そっか。じゃ、オレ達も・・・」
「? アスラ・・?」
ユーリに一通りの事を伝え終わり、ユーリも今の状況を把握し、フレンの事を聞き安堵し、私に向き合いお互いに外に向かおうとした時だった
突然アスラから連絡が入り、その連絡を聞くと私とユーリは急いでユニオンを出て広場まで戻って行った
33. 記された地下の誓い
「ユーリ! リア!」
アスラから連絡が入り、広場まで戻って来るとカロルが私とユーリの姿を見つけ声を掛け、私達はカロルとアスラの前で止まった
「カロル、アスラ、紅の絆傭兵団の居場所見つけたってのは本当か?」
「うん、今、エステル達がその近くで様子を伺ってるんだ」
「バルボスは見なかったんだけど・・・」
「足取りが掴めただけでも十分よ」
「そうだな。行こうぜ」
各々数言話し、私達はエステルとリタがいる場所へと向かい出した
「リタ・・・!」
「しっ・・・ガキんちょ、あんた声でかい」
広場を抜けて着いた場所は街外れにある一軒の酒場だった
その前にエステルとリタとラピードがいた
「・・・あこそは、紅の傭兵団が使ってる酒場」
「みたいです・・・」
酒場の前を見ると、紅の傭兵団が数人たむろっていてた
「・・・ありゃ、ちょっと無理矢理押し入るって訳にゃいかなそうだな」
「此処で騒ぎ立ててもしょうがないしね」
「でも、あの中にバルボスがいるとしたら・・・」
「指咥えて見てるって訳にもいかねぇよな」
「どうしよっか・・・」
「いー事、教えてあげよう」
そう声が聞こえ振り返るとレイヴンが私達の方に向かって歩いて来ていた
「・・・また、あんたか」
「おいおい、良いのか、あっち行かなくて」
「よかないけど、青年達が下手打たないようにちゃんと見とけってドンがさ。ゆっくり酒場にでも行って俺様のお話聞かない?」
「酒場・・・?」
「そ、酒場」
「わたし達にはそんなゆっくりしてる暇は・・・」
「解ったわ、行きましょう」
「えっ!?」
レイヴンが言っている酒場があそこだと直ぐに分かり私が返事を返すと、カロルは驚いて声を上げ、ユーリもエステルもリタも驚いた顔をしていた
「リア、あんた、本気で言ってんの?」
「勿論そこには兄さんもいるんでしょ?」
「さっすがリアちゃん、良く解ってる」
「じゃ、行こうみんな」
「あ、・・・」
アスラはユーリ達に声を掛け、先に私と一緒に歩き出した
「ほら、青年達も」
「リアとアスラが知ってて、セイもそこにいるなら信用出来っけど・・・」
ユーリは隣に歩いて来たラピードを見ると、ラピードはユーリに視線を向け直ぐにリアの後ろ姿に視線を向け、またユーリを見た
「・・解ったよ。じゃ、行こうぜ」
「ワン」
ユーリはラピードが言いたい事を理解し、それを見たエステル達もユーリの後ろを着いて行きだした
「ちょいと通してもらうよ」
場所は変わって、此処は西側にある酒場
そこに着くとレイヴンはある部屋の前に立っているギルド員に声を掛け、私達を連れて中に入った
「やっと来たか」
「セイ!」
部屋の中に入ると、兄さんはソファに腰掛けていて私達を見つけると視線を向け、私は兄さんの正面のソファに座ると、その隣にラピードが座り、頭を撫でてあげた
「なんだ、此処は」
ユーリは部屋の中を見てレイヴンにそう尋ねた
どう見ても隣の酒場とは違い、立派な家具やお酒、グラスなどが置いてあり、そして中央には天を射る矢の旗が飾られてあった
「ドンが偉い客迎えてお酒飲みながら秘密のお話する所よ」
「で、何でセイが此処にいるのよ?」
「基本、俺達もドンと話しする時は此処だからな」
「だから兄さんは此処で私達が来るの待ってたのよ」
「どういう事?」
「おたくのお友達が本物の書状持ってくれば、とりあえず事は丸く収まるのよね」
私の言葉とそして兄さんが此処で私達が来るのを待っていた事にカロルが疑問を持っているとレイヴンがそう答え、ユーリの方を見る
「悪ぃけど、フレン一人にいい格好させとく訳にゃいかないんでね」
「わたし達、この騒ぎの犯人を突き止めなければならないんです! もしバルボスが・・・」
「まあまあ。急いては事をし損じる♪」
そう言ってレイヴンは天を射る矢の旗が飾ってある前で止まりその下を見ると、取っ手のようなものがあった
「・・・扉?」
「これは?」
「この街の地下には複雑に地下水道が張り巡らされてる。その昔、街が帝国に占領された時、ギルドはこの地下水道に潜伏して、反撃の機会を窺ったんだと」
「まさか・・・此処がその地下水道に繋がってる・・・とか言わないよね」
カロルは扉の方へと歩いて行きながら言うとレイヴンはにいっと笑って答える
「そのまさかよ。で、此処からこっそりと連中の足元に忍び込めるって寸法な訳よ」
「ちゃちゃっと忍び込んで奴等ふん捕まえる。回り道だが、それが確実って事か」
「そう言う事。信じて良かったでしょ?」
「まだ良かったかどうかは行ってみないとわかんねぇな」
「やっぱおっさんは信用ならない?」
「当然、おっさんも付き合ってくれんだろ?」
「あっらー? おっさん、このままバックれる気満々だったのに」
「おっさんにも良い格好させてやるってんだよ、ほら行くぜ」
ユーリの言葉に私も兄さんもソファから立ち上がり、地下水道へと続く扉の方へ歩き出し、エステル達もその後ろに続いた
*
地下水道に入った私達は、ラピードが見つけた
「・・・ん、何だ?」
地下水道の中腹辺りまで来ると、少しだけ辺りの景色が変わり、そして目の前に大きな壁が見え、私達は足を止め、その壁に近付いた
「ん、何か此処に刻んであるな。 ・・・文字か。何だ?」
「・・・かつて我等の父祖は、民を護る務めを忘れし国を捨て、自ら真の自由の護り手となった」
ユーリが文字をなぞっていると、エステルが上から文字を読み始め、私達もその文字に目を通す
「これ抑ちギルドの起こりである。しかし今や圧制者の鉄の鎖は再び我等の首に届くに至った。我等が父祖の誓いを忘れ、利を巡り互いの争いに明け暮れたからである。故に我等は今一度ギルドの本義に立ち戻り、捨てる力を一つにせん。我等の剣は自由の為。我等の盾は友の為。我等の命は皆の為・・・。此処に、古き誓いを新たにす」
「ねえ・・・これって『ユニオン誓約』じゃない?」
「何よ、それ?」
「ドンがユニオンを結成した時に作られたユニオンの標語みたいなもんだよ」
「自分達の事は帝国に頼らないで自分達で守る。その為にはしっかり結束し、お互いの為なら命もかけよう。みたいな事ね」
「でも、何でこんな所に誓約が書かれてるの?」
「ユニオンってのは帝国がこの街を占領した時に抵抗したギルド勢力が元になってんのよ。それまでギルドってのはてんでバラバラ好き勝手やってて、問題が生じた時だけ団結してた。で、事が済めばまたバラバラ。帝国に占領されて、ようやくそれじゃまずいって悟った訳ね」
「そのギルド勢力を率いたのがドン・ホワイトホースなんだ!?」
「そそ。そん時、この地下水道も大いに役に立ったはずよ」
「じゃあ、その時此処で結成の誓いを立てたって事なんだね」
「そう言う事みたいね。確かに誓約書の実物が何処かにあるって話だったけど、こんな壁の落書きだったとはね」
私も何処かにユニオン誓約があるとは聞いていたけど、まさか地下水道の壁に書かれているなんて思ってもみなかった
「壁に書かれた誓約書なんて、何か素敵ですね」
「?」
壁に書かれている誓約書を見ていると一番下にあるものに目が止まった
「・・・アイフリード・・?」
「ああ、あの大悪党って噂の海賊王か」
「ドンが言うには一応、盟友だったそうよ。でも、頭の回る食えない人物で、あのドンですら相手にすんのに苦労したってさ」
「それでも盟友とか言う辺り大した器のじいさんだな、ドンってのは」
確かに、アイフリードがドンと知り合いだとは聞いた事があったけど、盟友だという事は聞いた事がなかったので少しだけ驚いてしまった
「・・・我等の命は皆の為・・・か・・・」
「面白いもんが見れたが、今はバルボスだ。そろそろ行こうぜ」
私達はもう一度だけ壁を見上げ、歩き出しユーリの隣に並ぶとユーリはぽつりと呟いた
「我等の剣は自由の為、か」
「さっきのユニオン誓約?」
それに気が付いたのかカロルもユーリへと視線を向ける
「融通の効かない帝国法なんかじゃなくて、自分達の自由の為ってのは良いな」
「共感出来るなら、ユーリはギルド向きかもね」
「ん? ああ、騎士団向きではなかったな」
「「確かに」」「確かにな」
「ワンッ!」
「え、リアもセイもアスラもラピードも、同意しちゃうんだ?」
「ワン、ワンッ!」
「まあね」
騎士団時代のユーリの事を知っている私達は苦笑して答えるとカロルは意外そうな顔をしていた
「ギルド、か・・・」
ユーリは宙を見てそうぽつりと呟き、その言葉は誰に聞こえる事なく消え、そのまま歩いて行った
続く
あとがき
此処は二回に分けて書くつもりじゃなかったんですけど、流れ的に分かれてしまったι
さ、次は遂に紅の傭兵団のアジトである酒場に乗り込みますよぉ!
お楽しみに♪
2009.12.03