星喰み編
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ノール港に着くと街は閑散としていた
みんなあの空の所為やエフミドの丘が通れなくなったから他の街に移動したのかもしれない
リタとエステルはそのまま買い出しに行き、兄さんとアスラは情報収集に向かい、私達は先に宿屋に向かう事にした
部屋に付くとユーリは壁に寄り掛り、カロルがその前にいてその隣にラピード、そしてベッドの上にレイヴンが胡座を掻いて座り、私は隣のベッドに、その隣のベッドにはパティが腰掛けユーリ達の話しを聞いていた
「ティグルさんちも避難したらしいよ」
「エフミドの丘が通れるようになったとしても頭の上があれじゃあな」
扉が開く音が聞こえ、エステルとリタが紙袋に荷物を沢山入れて抱えて戻って来た
「こんな時でも港町はやっぱり物があるわね。お陰でなんとかなりそうだわ」
「何買って来たんだ?」
「術式紋章ひと揃えと・・・筐体パーツです」
「何しようってのよ?」
「精霊の力を収束する為の装置を作ってるの。即席の宙の戒典をね」
「宙の戒典かぁ・・・。デューク、今頃何してるんだろうね」
「さぁな・・・あいつ、相当思い詰めてた感じだったが・・・」
「うん・・・」
別れ際に見たデュークの目は本当に寂しそうな目をしていた
でもその目はいつも以上に悲しみに満ちた目だった
「・・・・」
あの目は私になのか、それとも私達になのか、それとも・・・
「・・・・」
「パティ、どうしたの?」
アスラがパティの近くに行って声を掛けるとやっと私達の方を向いた
「・・・む? うちは腹が空いたのじゃ」
「何か作ろうか?」
「その気持ちだけで、感謝感激なのじゃ。でも、今食うと太るのじゃ。空腹を紛らわすのは寝るのが一番なのじゃ。お休み、なのじゃ」
「寝る子は育つって言うけど、パティちゃんは育たないね」
「・・・リタの方も時間が必要だろうしその間、オレ達は休ませて貰おうぜ」
「そう、ですね」
パティが横になったのを見るとレイヴンが気の抜けたような声でそう言い、私達もユーリの言葉に同意して休む事にした
109.アイフリード
夜中、誰かが外に出て行く感じがしてうっすらと目を開けた
(・・・パティ?)
パティが出て行ったのを気配で感じたのかみんな身体を起こしていた
「・・・」
「・・・」
アスラに合図を送りパティの後を追わせ隣のベッドにいる兄さんとも合図を交わし、ユーリとエステルとラピードと一緒に外へ出た
「・・・こんな夜中に一人で出て行くなんて・・・心配です」
「ああ、そういえば、何か考えてる風だったな」
「アイフリードの事でも考えてたのかしら?」
「そう言えばあの子、最近、アイフリードの事口にしなくなったわね」
「ジュディス、リタまで・・・」
「おっさんも起きてるわよ」
エステルはリタ達も起きていた事に驚いていたが直ぐにパティが走って行った方へと向いた
「・・・わたし、ちょっと様子見てきます」
「私も行くわ。女の子が一人フラフラ出歩くと危ないもの」
「いやいや、ジュディスちゃん、女の子二人でも危険よ。おじさんも護衛に付くよ」
「あたしも行く」
「しょうがねぇな、まったく」
「パティの後はアスラに追わせてる」
「ええ。追うなら早く・・・」
「・・・みんな、どうしたの・・・?」
寝ぼけたような声が聞こえ宿屋の入り口を見ると眠そうな目を擦りながらカロルが私達の方へ歩いてきていた
「起きたか。ちょっと出てくるから留守番しててくれるか」
「え? 何、何処行くの? お、置いてかないで!」
「ガキんちょも行くってさ」
「じゃあ、みんなでこそっと見てきますか」
「リア、セイ、みんな、こっち」
アスラにパティの後を追わせたお陰でパティの居場所は直ぐに解った
パティは執政官邸の横にある船着き場にいた
「・・・手に何か持ってる?」
「あれって、確か・・・!」
パティは手に持っていたものを宙に掲げると、閃光が伸び何かと反応するように光が反射し、何処からか違う色の閃光がパティの持っているものに当たった
眩い光が消えると、船着き場から少し離れた所に見覚えのある船が現れた
「あ、あれって・・・!」
「アーセルム号・・?」
「行くぞ!」
「パティ、待って下さい!」
「みんな・・・どうして・・・」
ユーリの言葉で私達は一斉に駆け出し、パティはエステルの声を聞き振り向くと驚いた顔をしていた
「それはこっちの台詞よ。一人で何してんのよ」
「精霊も揃った・・・この先は命を賭けた大仕事なのじゃ。でも、その大仕事の前に、自分の中の決着を付けようと思ったのじゃ」
「それはアイフリードの事か?」
「これはうちの問題なのじゃ。誰にも任せられない、うちの・・・」
「だからって、一人で行かなくても」
「・・・・」
「あれ・・・アーセルム号、よね・・・?」
「どうして此処に・・・?」
「パティ、お前が呼び出したのか?」
「そう言えばパティちゃん、麗しの星掲げてなかった?」
レイヴンの言葉を聞き私はパティが持っているものを見た
確かにそれはパティが欲しがっていた麗しの星だった
パティが麗しの星をザウデで見つけたと言う事は故郷で兄さんやアスラから聞いていたけど、実物を見るのは私も初めてだった
「つまり麗しの星ってのは、あいつを呼び出す道具だったって事か」
「こいつの片割れと引き合っておるのじゃ」
「つまり、その片割れがあの船の中にあるって事ね」
「でも、麗しの星って・・・あれ?」
「そ、それはあんたの言う問題ってのと何か関係あんの?」
リタは少しだけ声が上擦っていたが、パティは気にした様子もなくリタの言葉に頷いた
「のじゃ」
「じゃ、行こうぜ」
「え・・・?」
「行かないのか?」
「着いて来てくれるのか・・・?」
「オレ達と一緒にいて一人で行かせてもらえないのは解ってるだろ?」
ユーリの言葉に驚いてパティはユーリと私達を見て、私達はにこりと微笑んで答えた
「・・・ありがとうなのじゃ。だが、最後の決着だけはうちが付けるのじゃ」
「ああ、解ってるさ」
「あそこにボートがあるわ、乗って行きましょ」
ジュディスの言う方を見ると既にラピードが乗船していた
「ラピード、早いねι」
「ワフ!」
「ねえ、もしかして・・・あの船にアイフリードがいるって事かな?」
「さあな・・・ま、行ってみりゃ解るさ」
「・・・・」
その言葉に少しだけ息を詰め、私達はボートに乗ってアーセルム号へ乗船した
「パティはアイフリードが隠した宝物を探してたんだよね。アイフリードに会って記憶を取り戻す為に」
「んじゃ」
「で、見つけたのがその麗しの星・・・なんだよね?」
「そうなんじゃが・・・ちょっと違うのじゃ。麗しの星はアイフリードが探してたお宝なのじゃ」
「は? あんたが探してたものとじいさんが探してたものが同じって事? それでじいさんに会えるの?」
リタの言葉にパティは一瞬唇を噛んで言葉を濁らせたが、麗しの星を見ながら答える
「麗しの星を使えば会える・・・それは間違いではないのじゃ」
「って事は、やっぱりアイフリードがこの船に・・・」
「それは・・・」
途端、何処からか咆吼が聞こえた
「な、何よ!?」
「上だ!」「あそこ!」
ユーリとアスラの言う方を見ると、船長室の上に骸骨の騎士が立っていた
「あの魔物って・・・」
「リアを襲ってた奴だな・・・」
「あの魔物、此処で倒したわね、前に」
その言葉に頷き魔物へ視線を向けようとしていると急にパティが走り出した
「パティ!」
「まさか、あれがアイフリード・・・」
「あれが? そんな、でも・・・」
「とにかくオレ達も行くぞ!」
「ええ、確か船長室から上に上がる梯子があったわね」
急いでパティの後を追い駆け、辿り着いたのは船長室の上にある甲板だった
「うわっ・・・! で、出たっ・・・!」
リタが骸骨の魔物を見て驚いた声を上げたが、パティは麗しの星を手にしたまま魔物に近付いた
「サイファー、うちじゃ! 解るか・・・!」
「サイファーって・・・アイフリードじゃなくて?」
「サイファーはそのアイフリードの参謀の名前だわね、確か」
「「パティ!」」
が、骸骨の魔物はそのままパティを突き飛ばし、私とエステルはパティに駆け寄った
骸骨は私達を見ると殺気を露わにし、ユーリ達は一斉に武器を構えた
「こりゃ、うだうだしてる暇なさそうだぜ・・・」
「サイファー・・・今、決着を着けるのじゃ!」
「ユーリ、私達は後方に回るね」
「俺達の攻撃はあいつに通用しないからな」
以前此処であの魔物と戦った時、何故か私の攻撃が通用しなかった
そして妙な息苦しさがあったのを思い出し、この場から動かない方が良いと判断しユーリに伝えると、ユーリもその事を思い出したのか了承してくれた
(あの記憶が正しければ・・・)
「はあっ!!」
みんなが敵を弱らせたのを見て敵が更に上へと上がって行くのが見え動きを封じる術を放ち、その隙に距離を置いた
「パティ!」
パティへと声を掛けるとパティは頷いてそのまま魔物を追い駆けて行き、その後を追おうとしていたエステルをユーリが手で制し、私達は下でパティの最後の大仕事を見守る事にした
梯子を登り切ったパティは表情を硬くし、片手に銃を持って骸骨の騎士に話し掛けた
「サイファー、長い事、待たせてすまなかった。記憶を失って時間が掛かったが、ようやく、辿り着いたのじゃ」
「・・・やっぱり・・・記憶が戻ってやがったか・・・」
「ええ・・・」
ユーリの言葉に私も頷いた
あのお墓での出来事から今日に至るまで、パティは記憶が戻っているかのように思う所がいくつかあった
けどそれを敢えて私達にも言わなかった
だから私もユーリも、そして兄さんもアスラも言わなかった
「アイ・・・フリード・・・」
「・・・!」
「あ、あ、あれは・・・」
途端、骸骨の前に一人の人格が浮かび上がった
「アイフリード、か・・・久しいな・・・」
「ア、アイフリードって、え? まさか・・?」
男性のアイフリードと言う言葉を聞き、カロル達は驚いたままパティへと視線を移すと
「アイフリードは・・・うちの事じゃ!」
パティは静かにそう告げた
「ど、どう言う事です・・・?」
パティの言葉に更に驚いているエステルがそう言った
「サイファー、うちが解るのか!?」
「ああ・・・だが、再び自我を失い、お前に刃を向ける前に此処を去れ」
「・・・そう言う訳にはいかないのじゃ。うちはお前を解放しに来たのじゃ。その魔物の姿とブラックホープ号の因縁から」
「俺はあの事件で多くの人を手に懸け、罪を犯した・・・」
「じゃあ、ブラックホープ号事件ってのは・・・」
パティは静かに首を横に振る
「ああしなければ、彼等は苦しみ続けたのじゃ。今のお前のように。あの事故で魔物化した人達をサイファーは救ったのじゃ」
「だが、彼等を手に懸けた俺はこんな姿で今ものうのうと生きている・・・」
「お前はうちを助け、逃がしてくれた。だから・・・今度はうちがお前を助ける番なのじゃ、サイファー」
「アイフリード・・・俺をこの苦しみから解放してくれるというのか」
「お前には随分世話になった。荒くれ者の集まりだった海精 の牙を良く見守ってくれた。そして・・・うちを良く支えてくれたのじゃ」
そこで言葉を切り、
「でも・・・此処で・・・終わりなのじゃ」
パティは決意を固めた目と声をして拳銃をサイファーに向けた
「・・・くっ・・・」
「「・・・パティ」」
パティは悲しげな表情を浮かべ、拳銃を握っている手が少しだけ震え撃てないでいた
「サイファーだけは・・・うちが・・・」
「辛い想いをさせて、すまぬな、アイフリード」
「ツラいのはうちだけではない。サイファーはうちよりずっと辛い想いをしてきたのじゃ。うちらは仲間じゃ。だから、うちはお前の辛さの分も背負うのじゃ。お前を苦しみから解放する為、お前を・・・殺す」
「その決意を支えているのはそこにいる者達か?」
サイファーは私達の方を見てパティへと視線を向ける
「そうか・・・記憶を無くし、一人で頼りない想いをしていないかそれだけが気掛かりだったが、良い仲間に巡り会えたのだな、アイフリード。受け取れ、これを・・・」
パティの前に光り輝く紋章が現れる
「これは・・・馨しの珊瑚 ・・・」
「これで、安心して死にゆける。さぁ・・・やれ」
サイファーはそう言うと爽やかに微笑み、数秒沈黙が流れ、パティは銃を構えた
そして、辺りには銃声が響いた
「バイバイ・・・」
銃声が響いた中、パティは静かにそう呟いた
*
「・・・サイファー・・・」
暫くした後、私達はアーセルム号を離れノール港の船着き場に戻って来た
だがパティは船着き場の向こうに見えるアーセルム号をじっと見てぽつりとサイファーの名を呼んだ
けど、その声は今にも崩れてしまいそうなほど弱々しい涙声だった
「我慢しなくてもいい。泣きたければ泣いた方がいい」
「つらくても泣かないのじゃ。それがうちのモットーなのじゃ・・・!」
「パティ・・・」
「うちは泣かないのじゃ、涙を見せたら、死んでいった大切な仲間に申し訳ないのじゃ。うちは海精の牙の首領、アイフリードなのじゃ。だから・・・泣かない・・・絶対、泣かない、泣きたく、ない・・・」
「・・・っ」
今にも消えてしまいそうな、崩れてしまいそうなパティを見て私はそのままパティを優しく抱き寄せた
「っ・・・・!!」
そしてパティは耐えきれなくなり、私の腕の中で大声を出し大粒の涙を流して泣き崩れた
その間は誰一人口を挟まずこの場から動こうとせず、パティが泣き止むのを待っていた
続く
あとがき
パティことアイフリードとサイファーの話しでした
此処はホントに泣きました
パティの中の人の泣き演技はホントに泣けます(他の作品でも泣いてる人)
次回この後の話をちょっとだけパティと話してみようかなと思っています
あ~まだ若干切ない気持ちだ ←
2011.06.27
みんなあの空の所為やエフミドの丘が通れなくなったから他の街に移動したのかもしれない
リタとエステルはそのまま買い出しに行き、兄さんとアスラは情報収集に向かい、私達は先に宿屋に向かう事にした
部屋に付くとユーリは壁に寄り掛り、カロルがその前にいてその隣にラピード、そしてベッドの上にレイヴンが胡座を掻いて座り、私は隣のベッドに、その隣のベッドにはパティが腰掛けユーリ達の話しを聞いていた
「ティグルさんちも避難したらしいよ」
「エフミドの丘が通れるようになったとしても頭の上があれじゃあな」
扉が開く音が聞こえ、エステルとリタが紙袋に荷物を沢山入れて抱えて戻って来た
「こんな時でも港町はやっぱり物があるわね。お陰でなんとかなりそうだわ」
「何買って来たんだ?」
「術式紋章ひと揃えと・・・筐体パーツです」
「何しようってのよ?」
「精霊の力を収束する為の装置を作ってるの。即席の宙の戒典をね」
「宙の戒典かぁ・・・。デューク、今頃何してるんだろうね」
「さぁな・・・あいつ、相当思い詰めてた感じだったが・・・」
「うん・・・」
別れ際に見たデュークの目は本当に寂しそうな目をしていた
でもその目はいつも以上に悲しみに満ちた目だった
「・・・・」
あの目は私になのか、それとも私達になのか、それとも・・・
「・・・・」
「パティ、どうしたの?」
アスラがパティの近くに行って声を掛けるとやっと私達の方を向いた
「・・・む? うちは腹が空いたのじゃ」
「何か作ろうか?」
「その気持ちだけで、感謝感激なのじゃ。でも、今食うと太るのじゃ。空腹を紛らわすのは寝るのが一番なのじゃ。お休み、なのじゃ」
「寝る子は育つって言うけど、パティちゃんは育たないね」
「・・・リタの方も時間が必要だろうしその間、オレ達は休ませて貰おうぜ」
「そう、ですね」
パティが横になったのを見るとレイヴンが気の抜けたような声でそう言い、私達もユーリの言葉に同意して休む事にした
109.アイフリード
夜中、誰かが外に出て行く感じがしてうっすらと目を開けた
(・・・パティ?)
パティが出て行ったのを気配で感じたのかみんな身体を起こしていた
「・・・」
「・・・」
アスラに合図を送りパティの後を追わせ隣のベッドにいる兄さんとも合図を交わし、ユーリとエステルとラピードと一緒に外へ出た
「・・・こんな夜中に一人で出て行くなんて・・・心配です」
「ああ、そういえば、何か考えてる風だったな」
「アイフリードの事でも考えてたのかしら?」
「そう言えばあの子、最近、アイフリードの事口にしなくなったわね」
「ジュディス、リタまで・・・」
「おっさんも起きてるわよ」
エステルはリタ達も起きていた事に驚いていたが直ぐにパティが走って行った方へと向いた
「・・・わたし、ちょっと様子見てきます」
「私も行くわ。女の子が一人フラフラ出歩くと危ないもの」
「いやいや、ジュディスちゃん、女の子二人でも危険よ。おじさんも護衛に付くよ」
「あたしも行く」
「しょうがねぇな、まったく」
「パティの後はアスラに追わせてる」
「ええ。追うなら早く・・・」
「・・・みんな、どうしたの・・・?」
寝ぼけたような声が聞こえ宿屋の入り口を見ると眠そうな目を擦りながらカロルが私達の方へ歩いてきていた
「起きたか。ちょっと出てくるから留守番しててくれるか」
「え? 何、何処行くの? お、置いてかないで!」
「ガキんちょも行くってさ」
「じゃあ、みんなでこそっと見てきますか」
「リア、セイ、みんな、こっち」
アスラにパティの後を追わせたお陰でパティの居場所は直ぐに解った
パティは執政官邸の横にある船着き場にいた
「・・・手に何か持ってる?」
「あれって、確か・・・!」
パティは手に持っていたものを宙に掲げると、閃光が伸び何かと反応するように光が反射し、何処からか違う色の閃光がパティの持っているものに当たった
眩い光が消えると、船着き場から少し離れた所に見覚えのある船が現れた
「あ、あれって・・・!」
「アーセルム号・・?」
「行くぞ!」
「パティ、待って下さい!」
「みんな・・・どうして・・・」
ユーリの言葉で私達は一斉に駆け出し、パティはエステルの声を聞き振り向くと驚いた顔をしていた
「それはこっちの台詞よ。一人で何してんのよ」
「精霊も揃った・・・この先は命を賭けた大仕事なのじゃ。でも、その大仕事の前に、自分の中の決着を付けようと思ったのじゃ」
「それはアイフリードの事か?」
「これはうちの問題なのじゃ。誰にも任せられない、うちの・・・」
「だからって、一人で行かなくても」
「・・・・」
「あれ・・・アーセルム号、よね・・・?」
「どうして此処に・・・?」
「パティ、お前が呼び出したのか?」
「そう言えばパティちゃん、麗しの星掲げてなかった?」
レイヴンの言葉を聞き私はパティが持っているものを見た
確かにそれはパティが欲しがっていた麗しの星だった
パティが麗しの星をザウデで見つけたと言う事は故郷で兄さんやアスラから聞いていたけど、実物を見るのは私も初めてだった
「つまり麗しの星ってのは、あいつを呼び出す道具だったって事か」
「こいつの片割れと引き合っておるのじゃ」
「つまり、その片割れがあの船の中にあるって事ね」
「でも、麗しの星って・・・あれ?」
「そ、それはあんたの言う問題ってのと何か関係あんの?」
リタは少しだけ声が上擦っていたが、パティは気にした様子もなくリタの言葉に頷いた
「のじゃ」
「じゃ、行こうぜ」
「え・・・?」
「行かないのか?」
「着いて来てくれるのか・・・?」
「オレ達と一緒にいて一人で行かせてもらえないのは解ってるだろ?」
ユーリの言葉に驚いてパティはユーリと私達を見て、私達はにこりと微笑んで答えた
「・・・ありがとうなのじゃ。だが、最後の決着だけはうちが付けるのじゃ」
「ああ、解ってるさ」
「あそこにボートがあるわ、乗って行きましょ」
ジュディスの言う方を見ると既にラピードが乗船していた
「ラピード、早いねι」
「ワフ!」
「ねえ、もしかして・・・あの船にアイフリードがいるって事かな?」
「さあな・・・ま、行ってみりゃ解るさ」
「・・・・」
その言葉に少しだけ息を詰め、私達はボートに乗ってアーセルム号へ乗船した
「パティはアイフリードが隠した宝物を探してたんだよね。アイフリードに会って記憶を取り戻す為に」
「んじゃ」
「で、見つけたのがその麗しの星・・・なんだよね?」
「そうなんじゃが・・・ちょっと違うのじゃ。麗しの星はアイフリードが探してたお宝なのじゃ」
「は? あんたが探してたものとじいさんが探してたものが同じって事? それでじいさんに会えるの?」
リタの言葉にパティは一瞬唇を噛んで言葉を濁らせたが、麗しの星を見ながら答える
「麗しの星を使えば会える・・・それは間違いではないのじゃ」
「って事は、やっぱりアイフリードがこの船に・・・」
「それは・・・」
途端、何処からか咆吼が聞こえた
「な、何よ!?」
「上だ!」「あそこ!」
ユーリとアスラの言う方を見ると、船長室の上に骸骨の騎士が立っていた
「あの魔物って・・・」
「リアを襲ってた奴だな・・・」
「あの魔物、此処で倒したわね、前に」
その言葉に頷き魔物へ視線を向けようとしていると急にパティが走り出した
「パティ!」
「まさか、あれがアイフリード・・・」
「あれが? そんな、でも・・・」
「とにかくオレ達も行くぞ!」
「ええ、確か船長室から上に上がる梯子があったわね」
急いでパティの後を追い駆け、辿り着いたのは船長室の上にある甲板だった
「うわっ・・・! で、出たっ・・・!」
リタが骸骨の魔物を見て驚いた声を上げたが、パティは麗しの星を手にしたまま魔物に近付いた
「サイファー、うちじゃ! 解るか・・・!」
「サイファーって・・・アイフリードじゃなくて?」
「サイファーはそのアイフリードの参謀の名前だわね、確か」
「「パティ!」」
が、骸骨の魔物はそのままパティを突き飛ばし、私とエステルはパティに駆け寄った
骸骨は私達を見ると殺気を露わにし、ユーリ達は一斉に武器を構えた
「こりゃ、うだうだしてる暇なさそうだぜ・・・」
「サイファー・・・今、決着を着けるのじゃ!」
「ユーリ、私達は後方に回るね」
「俺達の攻撃はあいつに通用しないからな」
以前此処であの魔物と戦った時、何故か私の攻撃が通用しなかった
そして妙な息苦しさがあったのを思い出し、この場から動かない方が良いと判断しユーリに伝えると、ユーリもその事を思い出したのか了承してくれた
(あの記憶が正しければ・・・)
「はあっ!!」
みんなが敵を弱らせたのを見て敵が更に上へと上がって行くのが見え動きを封じる術を放ち、その隙に距離を置いた
「パティ!」
パティへと声を掛けるとパティは頷いてそのまま魔物を追い駆けて行き、その後を追おうとしていたエステルをユーリが手で制し、私達は下でパティの最後の大仕事を見守る事にした
梯子を登り切ったパティは表情を硬くし、片手に銃を持って骸骨の騎士に話し掛けた
「サイファー、長い事、待たせてすまなかった。記憶を失って時間が掛かったが、ようやく、辿り着いたのじゃ」
「・・・やっぱり・・・記憶が戻ってやがったか・・・」
「ええ・・・」
ユーリの言葉に私も頷いた
あのお墓での出来事から今日に至るまで、パティは記憶が戻っているかのように思う所がいくつかあった
けどそれを敢えて私達にも言わなかった
だから私もユーリも、そして兄さんもアスラも言わなかった
「アイ・・・フリード・・・」
「・・・!」
「あ、あ、あれは・・・」
途端、骸骨の前に一人の人格が浮かび上がった
「アイフリード、か・・・久しいな・・・」
「ア、アイフリードって、え? まさか・・?」
男性のアイフリードと言う言葉を聞き、カロル達は驚いたままパティへと視線を移すと
「アイフリードは・・・うちの事じゃ!」
パティは静かにそう告げた
「ど、どう言う事です・・・?」
パティの言葉に更に驚いているエステルがそう言った
「サイファー、うちが解るのか!?」
「ああ・・・だが、再び自我を失い、お前に刃を向ける前に此処を去れ」
「・・・そう言う訳にはいかないのじゃ。うちはお前を解放しに来たのじゃ。その魔物の姿とブラックホープ号の因縁から」
「俺はあの事件で多くの人を手に懸け、罪を犯した・・・」
「じゃあ、ブラックホープ号事件ってのは・・・」
パティは静かに首を横に振る
「ああしなければ、彼等は苦しみ続けたのじゃ。今のお前のように。あの事故で魔物化した人達をサイファーは救ったのじゃ」
「だが、彼等を手に懸けた俺はこんな姿で今ものうのうと生きている・・・」
「お前はうちを助け、逃がしてくれた。だから・・・今度はうちがお前を助ける番なのじゃ、サイファー」
「アイフリード・・・俺をこの苦しみから解放してくれるというのか」
「お前には随分世話になった。荒くれ者の集まりだった
そこで言葉を切り、
「でも・・・此処で・・・終わりなのじゃ」
パティは決意を固めた目と声をして拳銃をサイファーに向けた
「・・・くっ・・・」
「「・・・パティ」」
パティは悲しげな表情を浮かべ、拳銃を握っている手が少しだけ震え撃てないでいた
「サイファーだけは・・・うちが・・・」
「辛い想いをさせて、すまぬな、アイフリード」
「ツラいのはうちだけではない。サイファーはうちよりずっと辛い想いをしてきたのじゃ。うちらは仲間じゃ。だから、うちはお前の辛さの分も背負うのじゃ。お前を苦しみから解放する為、お前を・・・殺す」
「その決意を支えているのはそこにいる者達か?」
サイファーは私達の方を見てパティへと視線を向ける
「そうか・・・記憶を無くし、一人で頼りない想いをしていないかそれだけが気掛かりだったが、良い仲間に巡り会えたのだな、アイフリード。受け取れ、これを・・・」
パティの前に光り輝く紋章が現れる
「これは・・・
「これで、安心して死にゆける。さぁ・・・やれ」
サイファーはそう言うと爽やかに微笑み、数秒沈黙が流れ、パティは銃を構えた
そして、辺りには銃声が響いた
「バイバイ・・・」
銃声が響いた中、パティは静かにそう呟いた
*
「・・・サイファー・・・」
暫くした後、私達はアーセルム号を離れノール港の船着き場に戻って来た
だがパティは船着き場の向こうに見えるアーセルム号をじっと見てぽつりとサイファーの名を呼んだ
けど、その声は今にも崩れてしまいそうなほど弱々しい涙声だった
「我慢しなくてもいい。泣きたければ泣いた方がいい」
「つらくても泣かないのじゃ。それがうちのモットーなのじゃ・・・!」
「パティ・・・」
「うちは泣かないのじゃ、涙を見せたら、死んでいった大切な仲間に申し訳ないのじゃ。うちは海精の牙の首領、アイフリードなのじゃ。だから・・・泣かない・・・絶対、泣かない、泣きたく、ない・・・」
「・・・っ」
今にも消えてしまいそうな、崩れてしまいそうなパティを見て私はそのままパティを優しく抱き寄せた
「っ・・・・!!」
そしてパティは耐えきれなくなり、私の腕の中で大声を出し大粒の涙を流して泣き崩れた
その間は誰一人口を挟まずこの場から動こうとせず、パティが泣き止むのを待っていた
続く
あとがき
パティことアイフリードとサイファーの話しでした
此処はホントに泣きました
パティの中の人の泣き演技はホントに泣けます(他の作品でも泣いてる人)
次回この後の話をちょっとだけパティと話してみようかなと思っています
あ~まだ若干切ない気持ちだ ←
2011.06.27