水道魔導器奪還編
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「此処がシャイコス遺跡よ」
アスピオを出て更に東に向かって歩いていると、明らかに自然のものではない石畳が見えて来た
その先には白っぽい石で組み上げられた建物がいくつも建造されていた
今は蔓草が壁を伝ってはいるけれど、何百年も前には大きな都市だったのだろう事を想像させられる
辺りを見渡すが盗賊団の姿も、騎士団も影も形も見当たらない
ただ何百年も前の建物が時を止めたままひっそりと佇んでいるだけだった
ゆっくりと遺跡内に足を踏み入れ、物珍しそうに遺跡を眺めるエステルを他所に、ラピードはくんくんと石畳がはがれ、地面が剥き出しになった場所を嗅ぎ始めた
何があるのか覗き込んでいると、明らかに最近付けられた足跡がある
「この足跡まだ新しいね。数も沢山あるよ」
「騎士団か盗賊団か、その両方かってとこだろ」
「きっとフレンの足跡もこの中にあるんでしょうね」
「かもな」
「ほら、こっち。早く来て」
「モルディオさんは暗がりに連れ込んで、オレ等を始末する気だな」
リタが急がせるのを見てユーリは少し嫌味っぽく言うとリタも不敵に笑った
「・・・始末、ね。その方があたし好みだったかも」
「不気味な笑みで同調しないでよι」
「背後に黒いものが見えるんだけど、気のせい?ι」
「気のせいじゃないと思うよι」
「な、仲良くしましょうよι」
お互いに捻くれた事を言い私達ははらはらしながその様子を見ていた
今居る場所は恐らく居住区だったのだろう
あちこちに用水路があり、水に豊かな場所だったのだろう事を想像させる
綺麗に出来たアーチ状の橋といい、かなり高い文明を持っていたのだろう
恐らく魔導器を作っていた時代のものだろう
「騎士団も盗賊団もいねえな」
「もっと奥の方でしょうか?」
「奥って言ってもなあ」
この先は階段も崩れていて通れそうもないし、闇雲に探したって逃げられるか、迷うかのどっちかだろう
「まさか、地下の情報が外に洩れてんじゃないでしょうね」
「地下?」
エステルが鸚鵡返しに聞くとリタは面倒臭そうに説明する
「此処最近になって、地下の入り口が発見されたのよ。まだ一部の魔導士にしか知らされてないはずなのに・・・」
「それをオレ等に教えて良いのかよ」
「しょうがないでしょ。身の潔白を証明する為だから」
「身の潔白ねえ・・・」
「地面に擦れた跡がある」
ユーリはまだリタの事を疑っているようだったが傍にあった石像の裏を見ると動かし擦れた後があった
「これを動かせば地下に行けると?」
「そういう事」
リタの返事を聞くとカロルは両手で石像を押すが、カロルの腕力を考えると一人で動かすのは難しいだろうと判断したユーリはカロルの横に行き、石像に手を置いた
「ほら、行くぞ。もうちっと頑張れよ」
ユーリが加わり、カロルと一緒に石像を押すと石像は鈍い音を立てて横にずれ、石像のあった場所にはぽっかりと四角い穴が開いていた
そこにはちゃんと階段もあり地下への入り口になっていた
「カロル、大丈夫です?」
「こ、これくらい余裕だよ・・・。はぁはぁ・・・」
「じゃ、行くわよ」
ぜえぜえと荒い息を吐くカロルにエステルは声を掛けるが、リタは気にした様子もなく地下に降りて行った
「相変わらず無愛想な奴だな・・・」
09.魔刻泥棒を追って
地下に降りるとそこは上の遺跡とは違い何処か神秘的に思えた
「そこ、足元滑るから気を付けて」
エステルに向けリタがそっけないながらも言った一言にユーリは驚きリタをじっと見ていると、ユーリの視線に気付きリタはユーリを見た
「・・・何見てんのよ」
「モルディオさんは意外とお優しいなあと思ってね」
「はあ・・・やっぱり面倒を引き連れて来た気がする。別に一人でも問題なかったのよね・・・」
「リタはいつも一人でこの遺跡の調査に来るんです?」
「そうよ」
「罠とか魔物とか、危険なんじゃありません?」
そうエステルが訪ねるとリタは呆れた顔をして振り返った
「何かを得る為にリスクがあるなんて当たり前じゃない」
「リスク・・・」
「そう。その結果、何かを傷付けてもあたしはそれを受け入れる」
「傷付くのがリタ自身でも?」
「そうよ」
その言葉を聞いて納得した
実際に私自身もそうだと思う所があったからだ
それは誰しも思っている事かもしれない、と
「何も傷つけずに望みを叶えようなんて悩み、心が贅沢だから出来るのよ」
「心が贅沢・・・」
自分に向けられた言葉のように感じたのか、エステルは俯いた
「それに、魔導器はあたしを裏切らないから・・・。面倒がなくて楽なの」
そう言うとリタはスタスタと歩いて行った
「・・・リタって、大人だね」
「はい・・。とても凄いです。あんなにきっぱりと言い切れて」
「何が大切なのか、それがはっきりしてるのね」
エステルは少し息を吐いて余計に肩を落とした
「わたしは、まだその大切が良く分かりません・・・」
「適当に旅して回ってりゃあ、そのうち嫌でも見つかるって」
ユーリの言葉に私も頷いた
確かにエステルくらいの年頃なら悩む事だ
大切なものを直ぐに決められる人の方が少ないんだし、焦って決めたって意味はない
自分にとってかけがえのないものは、年齢や経験を重ねていくうちに自然と解っていくものだし
それに気付くのが早いか遅いかの違いだけ
そんな事を思いながら更に遺跡の奥深くへと進んだ
地下遺跡に入って小一時間
開けた場所に置いてあったのは、全長十メートルはあるのではないかという石で出来た人形のような魔導器だった
それを見るや否や、ユーリの制止の声など聞かずリタは走ってそれの調査に行った
「うわ、何これ?! これも魔導器?」
「こんな人形じゃなくて、オレは水道魔導器が欲しいな」
動かないのが分かり、ユーリはぺたぺたとその大きな魔導器に触るとリタが不用意に触るなと怒鳴った
「この子を調べれば念願の自立術式を・・・あれ?」
「・・・?」
「うそ! この子も魔刻がないなんて!」
どうしたのかと聞こうとした瞬間、リタは悔しそうに唇を噛んだ
「・・・人の気配がする」
「・・・リタ、お前のお友達がいるぜ」
アスラの言葉にユーリも私も反応し、皆一斉に今いるフロアから続く崩れかけた階段の上を見えると、確かに白い何かが動くのが見えた
あれで隠れているつもりらしい・・・
「ちょっと! あんた、誰?」
リタのきつい声音にその人は渋々姿を現した
全身白い装束に身を包み、顔までフードを被っていていかにも怪しい
「わ、私はアスピオの魔導器研究員だ!」
「・・・だとさ」
「お前達こそ何者だ! 此処は立ち入り禁止だぞ!!」
「はあ? あんた救いようのないバカね」
リタは偉そうに怒鳴り付ける自称研究員の男を睨み付ける
その目はとても私より年下とは思えない迫力があった
「あたしはあんたを知らないけど、あんたがアスピオの人間ならあたしを知らない訳ないでしょ」
「・・・無茶苦茶言うなぁ」
そう臆する事なく言ってのけるリタは自信に満ち溢れていた
確かにモルディオの名を出しただけで、街の人どころか門番の騎士達までもが動揺を見せたのだ
だが、此処まではっきり言われるとそれらの事がなくても逆にヘンな理屈だと思ってしまう
ユーリは無言で剣を構えると、それを見た自称研究員は憎憎しげに吐き捨てた
「くっ! 邪魔の多い仕事だ。騎士といい、こいつらといい!」
彼は勢い良くあの大きな石で出来た魔導器を殴りつけると、それがぎぎぎと鈍い音を立てて動き始めた
リタが魔刻がないと言っていたのにまさか動くだなんて思っていなかった私達は、予想外の事態に慌てた
そしてその魔導器は私達が思うよりもずっと俊敏で、その人十人分くらいあるのではないかという腕を易々と振り回す
「リタ!」
エステルの声が聞こえると同時に、魔導器の近くにいたリタは五メートル後方に放り出されていた
あの強烈な攻撃を受けたら、いくら天才魔導士だろうが傷を負わない訳がない
エステルは慌てて駆け寄り、リタに治癒術を掛けると不思議な陣が浮かび上がり、光となってリタの傷口に収束した
「!」
それを見たリタは何故かひどく驚いた様子で、エステルの武醒魔導器が付いた方の腕を掴み取った
「あんた、これって・・・」
「な、なに!?」
エステルの驚いた声にリタは腕を解放し、もう一度確かめるようにエステルを見つめた
「今の・・・」
「え、えっ? ただケガを治そうと・・・」
そう話している間にも、あの魔導器は容赦なくその巨体で襲い掛かってくる
さっき繰り出された一発は間一髪の所で避ける事が出来たが、流石にこの狭さじゃ戦うのが苦だった
「ちょっと! サボってないで手伝って!」
カロルが半ば泣きそうな声でそう叫ぶと、リタはむっとして立ち上がる
「あ~、もうしょうがないわね! あたし、あのバカ追うから! 此処はあんた等に任せた!」
「任せたって、行けねえぞ!?」
ユーリの言う通り、自称研究員が逃げた先へ行くには壊れた階段を上るしか方法がない
壊れ方は半端ではなく軽く五、六メートルは階段が抜け落ちていた
流石のリタもそこを飛び越えるなんて事は出来そうもない
「じゃあ此処はアスラの出番ね」
「りょーかい。任せといて」
その様子を横で見ていた私はアスラに声を掛けアスラはそのまま男の後を追った
「さて、じゃあオレ達はこいつの相手か」
「さっさとこの子を止めてあの馬鹿追うわよ!」
ユーリは視線を目の前の魔導器に戻し、剣を構えそれに連なり私達も戦闘態勢を取った
数分後、あの魔導器を倒した私達は急いでアスラの後を追った
遺跡の中間地点とも言える場所に戻って来ると魔刻泥棒ともう一人いるのが見えた
「ワン!」
ラピードの声に気が付きその人物は私達の方を見た
エステルとカロルとリタはその人物を見て警戒したが私とユーリとラピードは気にする事なくその人物に近寄った
「ご苦労様、アスラ」
私がそう言うと後ろでエステルとカロルの驚く声が聞こえた
「久しぶりに見るな、その姿」
「ボクも戻ったの久しぶりだし。それに捕まえるならこっちの方が早いと思ってね」
「ひっ!!」
そう言ってアスラは魔刻泥棒に目をやると魔刻泥棒は酷く怯えていた
一体何が遭ったのだろうと一同が思っているとリタが魔刻泥棒の前に来た
「魔核盗んで歩くなんてどうしてやろうかしら・・・」
リタの言葉には底知れぬ怒りが込められていて、そのドスの聞いた声に魔刻泥棒は狼狽え始め、情けない声を上げた
「ひぃいっ! やめてくれ! や、やめて、もう、やめて! 俺は頼まれただけだ・・・。魔導器の魔核を持ってくれば、それなりの報酬をやるって・・・!」
「その辺は一応ボクが聞いておいたから詳しく説明するよ」
アスラは軽く息を吐き私達が来るまでに魔刻泥棒から聞き出した事を話した
魔核を集めている人物がいて、他にも雇っている仲間がいる事
そしてその雇い主の名前と特徴と居場所
「顔の右に傷のある、隻眼でバカに体格の良い大男・・・ね」
此処まで話しユーリは男の特徴を口にするとカロルが呟いた
「なんか話が大掛かりだし、すごい黒幕でもいるんじゃない?」
「カロル先生、冴えてるな。ただのコソ泥集団でもなさそうだ」
ユーリ達がそんな話をしていると、魔刻泥棒は急に地団太を踏み始めた
「騎士も魔物もやり過ごして奥まで行ったのに! ついてねぇ、ついてねぇよっ!」
「騎士? やはりフレンが来てたんですね」
「ああ、そんな名前の奴だ! くそー! あの騎士の若造め!」
「・・・うっさい!」
魔刻泥棒の見苦しい物言いにリタがキレて戦闘で使っていた帯で思いっきり攻撃し、魔刻泥棒はそのまま気絶してしまった
それには此処に居た全員が可哀想に・・・と思った程だった
「り、リタ、やりすぎじゃ・・・」
「そ、そうだよ。気絶しちゃったよ、この人! どうすんの?」
「後で街の警備に頼んで拾わせるわよ」
「拾わせるって・・・ι」
「じゃあ、アスピオに戻るか」
「そうだね、とりあえず戻ろう」
ユーリの言葉にアスラも同意し、私達はリタにこてんぱんにやられた魔刻泥棒を残したままアスピオに戻ったのだった
続く
あとがき
結局ちょっと修正した程度で終わったなι
でも、次回の頭辺りは変えるつもりです
アスラの本性の話し入れたいしねι
2009.10.10
アスピオを出て更に東に向かって歩いていると、明らかに自然のものではない石畳が見えて来た
その先には白っぽい石で組み上げられた建物がいくつも建造されていた
今は蔓草が壁を伝ってはいるけれど、何百年も前には大きな都市だったのだろう事を想像させられる
辺りを見渡すが盗賊団の姿も、騎士団も影も形も見当たらない
ただ何百年も前の建物が時を止めたままひっそりと佇んでいるだけだった
ゆっくりと遺跡内に足を踏み入れ、物珍しそうに遺跡を眺めるエステルを他所に、ラピードはくんくんと石畳がはがれ、地面が剥き出しになった場所を嗅ぎ始めた
何があるのか覗き込んでいると、明らかに最近付けられた足跡がある
「この足跡まだ新しいね。数も沢山あるよ」
「騎士団か盗賊団か、その両方かってとこだろ」
「きっとフレンの足跡もこの中にあるんでしょうね」
「かもな」
「ほら、こっち。早く来て」
「モルディオさんは暗がりに連れ込んで、オレ等を始末する気だな」
リタが急がせるのを見てユーリは少し嫌味っぽく言うとリタも不敵に笑った
「・・・始末、ね。その方があたし好みだったかも」
「不気味な笑みで同調しないでよι」
「背後に黒いものが見えるんだけど、気のせい?ι」
「気のせいじゃないと思うよι」
「な、仲良くしましょうよι」
お互いに捻くれた事を言い私達ははらはらしながその様子を見ていた
今居る場所は恐らく居住区だったのだろう
あちこちに用水路があり、水に豊かな場所だったのだろう事を想像させる
綺麗に出来たアーチ状の橋といい、かなり高い文明を持っていたのだろう
恐らく魔導器を作っていた時代のものだろう
「騎士団も盗賊団もいねえな」
「もっと奥の方でしょうか?」
「奥って言ってもなあ」
この先は階段も崩れていて通れそうもないし、闇雲に探したって逃げられるか、迷うかのどっちかだろう
「まさか、地下の情報が外に洩れてんじゃないでしょうね」
「地下?」
エステルが鸚鵡返しに聞くとリタは面倒臭そうに説明する
「此処最近になって、地下の入り口が発見されたのよ。まだ一部の魔導士にしか知らされてないはずなのに・・・」
「それをオレ等に教えて良いのかよ」
「しょうがないでしょ。身の潔白を証明する為だから」
「身の潔白ねえ・・・」
「地面に擦れた跡がある」
ユーリはまだリタの事を疑っているようだったが傍にあった石像の裏を見ると動かし擦れた後があった
「これを動かせば地下に行けると?」
「そういう事」
リタの返事を聞くとカロルは両手で石像を押すが、カロルの腕力を考えると一人で動かすのは難しいだろうと判断したユーリはカロルの横に行き、石像に手を置いた
「ほら、行くぞ。もうちっと頑張れよ」
ユーリが加わり、カロルと一緒に石像を押すと石像は鈍い音を立てて横にずれ、石像のあった場所にはぽっかりと四角い穴が開いていた
そこにはちゃんと階段もあり地下への入り口になっていた
「カロル、大丈夫です?」
「こ、これくらい余裕だよ・・・。はぁはぁ・・・」
「じゃ、行くわよ」
ぜえぜえと荒い息を吐くカロルにエステルは声を掛けるが、リタは気にした様子もなく地下に降りて行った
「相変わらず無愛想な奴だな・・・」
09.魔刻泥棒を追って
地下に降りるとそこは上の遺跡とは違い何処か神秘的に思えた
「そこ、足元滑るから気を付けて」
エステルに向けリタがそっけないながらも言った一言にユーリは驚きリタをじっと見ていると、ユーリの視線に気付きリタはユーリを見た
「・・・何見てんのよ」
「モルディオさんは意外とお優しいなあと思ってね」
「はあ・・・やっぱり面倒を引き連れて来た気がする。別に一人でも問題なかったのよね・・・」
「リタはいつも一人でこの遺跡の調査に来るんです?」
「そうよ」
「罠とか魔物とか、危険なんじゃありません?」
そうエステルが訪ねるとリタは呆れた顔をして振り返った
「何かを得る為にリスクがあるなんて当たり前じゃない」
「リスク・・・」
「そう。その結果、何かを傷付けてもあたしはそれを受け入れる」
「傷付くのがリタ自身でも?」
「そうよ」
その言葉を聞いて納得した
実際に私自身もそうだと思う所があったからだ
それは誰しも思っている事かもしれない、と
「何も傷つけずに望みを叶えようなんて悩み、心が贅沢だから出来るのよ」
「心が贅沢・・・」
自分に向けられた言葉のように感じたのか、エステルは俯いた
「それに、魔導器はあたしを裏切らないから・・・。面倒がなくて楽なの」
そう言うとリタはスタスタと歩いて行った
「・・・リタって、大人だね」
「はい・・。とても凄いです。あんなにきっぱりと言い切れて」
「何が大切なのか、それがはっきりしてるのね」
エステルは少し息を吐いて余計に肩を落とした
「わたしは、まだその大切が良く分かりません・・・」
「適当に旅して回ってりゃあ、そのうち嫌でも見つかるって」
ユーリの言葉に私も頷いた
確かにエステルくらいの年頃なら悩む事だ
大切なものを直ぐに決められる人の方が少ないんだし、焦って決めたって意味はない
自分にとってかけがえのないものは、年齢や経験を重ねていくうちに自然と解っていくものだし
それに気付くのが早いか遅いかの違いだけ
そんな事を思いながら更に遺跡の奥深くへと進んだ
地下遺跡に入って小一時間
開けた場所に置いてあったのは、全長十メートルはあるのではないかという石で出来た人形のような魔導器だった
それを見るや否や、ユーリの制止の声など聞かずリタは走ってそれの調査に行った
「うわ、何これ?! これも魔導器?」
「こんな人形じゃなくて、オレは水道魔導器が欲しいな」
動かないのが分かり、ユーリはぺたぺたとその大きな魔導器に触るとリタが不用意に触るなと怒鳴った
「この子を調べれば念願の自立術式を・・・あれ?」
「・・・?」
「うそ! この子も魔刻がないなんて!」
どうしたのかと聞こうとした瞬間、リタは悔しそうに唇を噛んだ
「・・・人の気配がする」
「・・・リタ、お前のお友達がいるぜ」
アスラの言葉にユーリも私も反応し、皆一斉に今いるフロアから続く崩れかけた階段の上を見えると、確かに白い何かが動くのが見えた
あれで隠れているつもりらしい・・・
「ちょっと! あんた、誰?」
リタのきつい声音にその人は渋々姿を現した
全身白い装束に身を包み、顔までフードを被っていていかにも怪しい
「わ、私はアスピオの魔導器研究員だ!」
「・・・だとさ」
「お前達こそ何者だ! 此処は立ち入り禁止だぞ!!」
「はあ? あんた救いようのないバカね」
リタは偉そうに怒鳴り付ける自称研究員の男を睨み付ける
その目はとても私より年下とは思えない迫力があった
「あたしはあんたを知らないけど、あんたがアスピオの人間ならあたしを知らない訳ないでしょ」
「・・・無茶苦茶言うなぁ」
そう臆する事なく言ってのけるリタは自信に満ち溢れていた
確かにモルディオの名を出しただけで、街の人どころか門番の騎士達までもが動揺を見せたのだ
だが、此処まではっきり言われるとそれらの事がなくても逆にヘンな理屈だと思ってしまう
ユーリは無言で剣を構えると、それを見た自称研究員は憎憎しげに吐き捨てた
「くっ! 邪魔の多い仕事だ。騎士といい、こいつらといい!」
彼は勢い良くあの大きな石で出来た魔導器を殴りつけると、それがぎぎぎと鈍い音を立てて動き始めた
リタが魔刻がないと言っていたのにまさか動くだなんて思っていなかった私達は、予想外の事態に慌てた
そしてその魔導器は私達が思うよりもずっと俊敏で、その人十人分くらいあるのではないかという腕を易々と振り回す
「リタ!」
エステルの声が聞こえると同時に、魔導器の近くにいたリタは五メートル後方に放り出されていた
あの強烈な攻撃を受けたら、いくら天才魔導士だろうが傷を負わない訳がない
エステルは慌てて駆け寄り、リタに治癒術を掛けると不思議な陣が浮かび上がり、光となってリタの傷口に収束した
「!」
それを見たリタは何故かひどく驚いた様子で、エステルの武醒魔導器が付いた方の腕を掴み取った
「あんた、これって・・・」
「な、なに!?」
エステルの驚いた声にリタは腕を解放し、もう一度確かめるようにエステルを見つめた
「今の・・・」
「え、えっ? ただケガを治そうと・・・」
そう話している間にも、あの魔導器は容赦なくその巨体で襲い掛かってくる
さっき繰り出された一発は間一髪の所で避ける事が出来たが、流石にこの狭さじゃ戦うのが苦だった
「ちょっと! サボってないで手伝って!」
カロルが半ば泣きそうな声でそう叫ぶと、リタはむっとして立ち上がる
「あ~、もうしょうがないわね! あたし、あのバカ追うから! 此処はあんた等に任せた!」
「任せたって、行けねえぞ!?」
ユーリの言う通り、自称研究員が逃げた先へ行くには壊れた階段を上るしか方法がない
壊れ方は半端ではなく軽く五、六メートルは階段が抜け落ちていた
流石のリタもそこを飛び越えるなんて事は出来そうもない
「じゃあ此処はアスラの出番ね」
「りょーかい。任せといて」
その様子を横で見ていた私はアスラに声を掛けアスラはそのまま男の後を追った
「さて、じゃあオレ達はこいつの相手か」
「さっさとこの子を止めてあの馬鹿追うわよ!」
ユーリは視線を目の前の魔導器に戻し、剣を構えそれに連なり私達も戦闘態勢を取った
数分後、あの魔導器を倒した私達は急いでアスラの後を追った
遺跡の中間地点とも言える場所に戻って来ると魔刻泥棒ともう一人いるのが見えた
「ワン!」
ラピードの声に気が付きその人物は私達の方を見た
エステルとカロルとリタはその人物を見て警戒したが私とユーリとラピードは気にする事なくその人物に近寄った
「ご苦労様、アスラ」
私がそう言うと後ろでエステルとカロルの驚く声が聞こえた
「久しぶりに見るな、その姿」
「ボクも戻ったの久しぶりだし。それに捕まえるならこっちの方が早いと思ってね」
「ひっ!!」
そう言ってアスラは魔刻泥棒に目をやると魔刻泥棒は酷く怯えていた
一体何が遭ったのだろうと一同が思っているとリタが魔刻泥棒の前に来た
「魔核盗んで歩くなんてどうしてやろうかしら・・・」
リタの言葉には底知れぬ怒りが込められていて、そのドスの聞いた声に魔刻泥棒は狼狽え始め、情けない声を上げた
「ひぃいっ! やめてくれ! や、やめて、もう、やめて! 俺は頼まれただけだ・・・。魔導器の魔核を持ってくれば、それなりの報酬をやるって・・・!」
「その辺は一応ボクが聞いておいたから詳しく説明するよ」
アスラは軽く息を吐き私達が来るまでに魔刻泥棒から聞き出した事を話した
魔核を集めている人物がいて、他にも雇っている仲間がいる事
そしてその雇い主の名前と特徴と居場所
「顔の右に傷のある、隻眼でバカに体格の良い大男・・・ね」
此処まで話しユーリは男の特徴を口にするとカロルが呟いた
「なんか話が大掛かりだし、すごい黒幕でもいるんじゃない?」
「カロル先生、冴えてるな。ただのコソ泥集団でもなさそうだ」
ユーリ達がそんな話をしていると、魔刻泥棒は急に地団太を踏み始めた
「騎士も魔物もやり過ごして奥まで行ったのに! ついてねぇ、ついてねぇよっ!」
「騎士? やはりフレンが来てたんですね」
「ああ、そんな名前の奴だ! くそー! あの騎士の若造め!」
「・・・うっさい!」
魔刻泥棒の見苦しい物言いにリタがキレて戦闘で使っていた帯で思いっきり攻撃し、魔刻泥棒はそのまま気絶してしまった
それには此処に居た全員が可哀想に・・・と思った程だった
「り、リタ、やりすぎじゃ・・・」
「そ、そうだよ。気絶しちゃったよ、この人! どうすんの?」
「後で街の警備に頼んで拾わせるわよ」
「拾わせるって・・・ι」
「じゃあ、アスピオに戻るか」
「そうだね、とりあえず戻ろう」
ユーリの言葉にアスラも同意し、私達はリタにこてんぱんにやられた魔刻泥棒を残したままアスピオに戻ったのだった
続く
あとがき
結局ちょっと修正した程度で終わったなι
でも、次回の頭辺りは変えるつもりです
アスラの本性の話し入れたいしねι
2009.10.10