ルードルート
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厨房から包丁の刻みの良い音が聞こえ、鍋からは良い匂いが漂っている
朝、ルードとリアはいつものように朝食の準備をしていた
「二人とも、おはよう」
「あ、ダリウスさん、おはよう御座います」
「おはよう御座います、ダリウス様」
そしていつものようにダリウスも厨房にいる二人に挨拶をして二人の返事を聞き食堂へ戻ろうとした
だが
「リアさん、そこの瓶を取って貰えますか」
「うん。・・はい、どうぞ」
「ありがとう御座います」
「・・・・」
その何気ないいつもの二人の会話と姿だったがダリウスは何かを思っている顔をしていた
「・・? ダリウスさん、どうかしましたか?」
その視線を感じたのかリアはダリウスを見てそう言い、ルードも振り返る
「いや。今日も美味しい料理を楽しみにしているよ」
「「はい」」
ダリウスはそう言って食堂へ向かうもその顔は何処か嬉しそうな、そして子供の成長を喜んでいる父親のような顔だった
37.新たな出逢いと可能性
「ルードくん、買い物に付き合ってくれてありがとう」
「いえ。私も買い足す物がありましたので」
あれから時間は過ぎ、今は午後の2時過ぎでリアとルードは買い物を済ませ今は芝公園を歩いていた
「今日は天気が良いし涼しいよね」
「ええ。夏の暑さをあまり感じませんね」
もうすぐ8月も終わるが夏の暑さは続くも今日は比較的涼しい方だった
そう話していると子供達の元気な声が聞こえてきた
「次はあっちに行ってみようぜ!」
「じゃあ競争だな!」
「え~、待ってよぉ~!」
「はしゃぎ過ぎて転ぶんじゃないよ」
「「はーい!」」
「先生も早く!」
元気に先頭を走る男の子に続き男の子や女の子も続き、子供達と一緒に居た老人は先生と呼ばれていて、何処かの塾生と先生なのかなと思った
「元気が良いね」
「ええ。そうですね」
「っ・・・」
自分達の隣を走って行く子供達を見てルードと話をしていると一人の女の子が苦しそうに胸を押さえてその場に座り込んでしまった
「! 大丈夫?」
「美智子!」
リアは直ぐ隣に居たので屈んで女の子に声を掛けていると先程の老人が駆け寄ってきた
「む、胸が・・くるし・・」
「え?」
「この子は心臓の病で――、早く病院へ連れて行かねば」
「では、車を・・・っ!」
ルードがそう判断して踵を返そうとしたが、周りの空気が変わった事に気付きリアもそれに気付くと怨霊が現れた
「っ、怨霊!」
「間の悪い・・・」
怨霊の出現と同時に子供達は怯えて泣き出してしまう子も居た
「ルードくん! ・・・っ!」
ルードに戦おうと言おうとしていると、自分達の周りに結界が張られた
「リアさんはその子達とご老人に着いていて下さい」
言うとルードは怨霊と戦い始め、リアは泣いている子供達へ視線を移す
「大丈夫、直ぐに終わるから。怖がらなくても大丈夫よ」
子供達を落ち着かせるように、いつもの優しい笑みを向けて言うと子供達は泣き止んだ
そしてリアが言っていた通り、怨霊との戦いはあっという間に終わった
「なんと言うお力だ・・・」
老人はルードの力に圧倒されて驚いていた
「今なら車を呼びに行けます。この子達は私達が見ていますので」
「ありがとう御座います。では少しの間、この子達をお願いします」
もう怨霊の気配がない事を確認するとリアは老人にそう伝え、老人は一礼して車を呼びに行った
「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!」
「いえ・・・」
「お姉ちゃんもあたし達を守ってくれてありがとう」
子供達はルードとリアにお礼を言うとリアは先程の様に優しく笑った
「美智子ちゃん、今先生が車を呼びに行ってるから」
「もうちょっとだよ」
「う、・・ん・・・」
そして美智子の近くにいた子供達は美智子にそう声を掛けていた
リアも心配そうに美智子を見ていて、ルードも何かを思っている顔をしていたが足音が近付いてくる事に気付く
「来たようですよ」
顔を上げると老人が息を切らせて走ってきて公園の外に車を準備していると言う
だが、苦しいのか美智子はずっとリアの袖を掴んでいた
「リアさん、我々も共に行きましょう」
「ルードくん?」
「成り行きとは言え、この様な事態に遭遇してしまいました。それにその子はリアさんに居て欲しいようですし、此処で放って帰っては後味が悪すぎます・・・」
確かに今の状況で放って帰ってはリアもルードも後味が悪くなってしまうし、リアも自分の性格を考えこの状態を放っておけないと言うのも分かっていたし、ルードもそれを分かっているからこう言ったのだろうとも思った
「うん。そうだね。私達も一緒に行こう」
「有り難う御座います! ではみんな、私達はこれから病院に向かいますので今日は此処で解散です。くれぐれも気を付けて帰るんですよ」
「はい」
「美智子ちゃん、がんばってね!」
子供達の返事を聞くとリアとルードは老人と共に急いで車へと向かう
そして車が向かった先は麻布記念病院だった
病院に向かい美智子を先生に預け、看て貰うと幸い軽い発作だったようで命に別状はなく、夕方頃には家に帰れると言われ皆ほっとしていた
「ありがとう御座います。貴方方のお陰で美智子は助かりました」
あれから暫くして老人はリアとルードにお礼を言っていた
「いえ、先程も言いましたが、成り行きですので・・・」
「それでも貴方が怨霊と戦って下さらなければ美智子は助からなかったでしょうし、貴女も子供達を宥めて下さったお陰で誰も怪我をせずに済んだのです。どうかお礼をさせて下さい」
「「・・・・」」
確かに老人の言う通りだが、此処までお礼を言われてリアもルードも言葉に詰まってしまう
「ルードくん、お礼、受け取っておこう。此処まで言われて断っちゃもっと後味悪いし」
「・・・そうですね」
ルードもそう思い返事を返し、老人の家に招かれた
老人の家はこの病院のすぐ隣で、名前は村野と言うそうだ
村野さんの家に着くとお茶とお茶菓子を出してくれた
「大したものがなくてすみません」
「いえ、お構いなく」
家の中を見ると沢山の机が並んでいて如何にも此処が塾だと言わんばかりだった
「村野さんは子供達に先生と呼ばれていましたけど、勉強を教えているんですか?」
先程芝公園で子供達にそう呼ばれていた事を思い出し、リアは村野さんに聞いてみた
「ええ。此処で私塾を営んでいます。美智子を始め子供達に教えていて、先程一緒にいた子達が私の生徒です。夜には大人にも教えているんですよ」
「子供達だけじゃなく大人にも勉強を教えているなんて凄いですね」
今のご時世、勉強をしようにもまだ勉強出来ない子供の方が多く、大人も働き始めてその場で覚えていく人が多かった
「いえ。好きで始めた事ですから」
「これは・・・日本と海外の国との関わりの年表ですか?」
ルードは近くにあった年表を見て言うと村野さんは驚いた顔をした
「なんと。見ただけで分かるんですか」
「ええ。独学ではありますが、歴史の勉強はしましたので」
「でも、まだ途中みたいですね」
リアもそれを見て言うと村野さんはまた驚いた顔をしたが直ぐに言葉を続ける
「ええ。まだ作り始めたばかりでしたので」
「良ければ私達もお手伝いしましょうか」
「そんな、美智子を助けて貰っただけでもありがたいのに」
「書面の作成や編纂作業には慣れています」
「ルードくん程上手くはないですけど、私もやった事はありますし、勉強もしてますから良ければお手伝いさせて下さい」
「なんと、まあ・・。お若いのに立派ですね」
ルードとリアの言葉を聞くと村野さんはまた驚いた顔をしていた
確かに二人の歳で勉強だけでなく、書面の作成や編纂作業が出来ると言う人は珍しい方だろう
「・・・しかし、本当に宜しいんですか」
「ええ。お孫さんが戻って来るまでの間でしたら」
リアもルードも美智子の元気な姿を見てから邸に帰ろうと思っていたのでそれまでの間にする事が見つかったと思いそう言った
「ではリアさん、ルードさん、お願いしても宜しいでしょうか」
「「はい」」
*
「ありがとう御座います。お二人のお陰で予定より早く完成しました」
あれから二時間程で年表は完成し、村野さんはリアとルードにお礼を言った
「お二人はお若いのに本当に立派ですね」
「いえ。私よりルードくんの方が立派ですよ。頼りになりますし」
「っ、そう言う事は、言わなくて良いですから」
リアの言葉にルードは少しだけ言葉を詰まらせ、村野さんはそんな二人を見て微笑んでいた
「彼はこの飾らない性分が気持ちいいですよね。誠実な人柄が窺えます」
「・・・・」
「ルードさん、貴方は強く、賢い人です。怨霊との戦いも見事でした。精鋭分隊に所属していないのが可笑しいくらいだ。良ければ、帝国軍内の上層部へ取り次ぎましょうか?」
「!? 何を言うんですか・・・」
その言葉にルードだけでなくリアも驚いてしまう
「おや、これでも私は昔、帝国軍人だったんですよ。ツテなら、ちゃんとあります」
「そう言う問題ではありません。私が帝国軍に所属するなど・・・馬鹿げています」
「何故ですか?」
「・・・貴方だって、薄々勘づいているんじゃないですか? この容姿や、怨霊と戦う力・・・それに結界を張った力・・・私の正体は明らかでしょう」
「・・・・」
ルードの言葉にリアは心配そうな顔をしてその様子を見ていた
だが、村野さんからは予想もしていなかった言葉が返ってくる
「ええ。推測はしていました。でも・・・言ったでしょう? 貴方は強く、賢く・・・優れた人です。私が貴方に一目置きその将来に胸ときめかす時、出自などが何の妨げになるでしょう」
「・・・っ」「・・・!」
「そうだ。軍人が嫌なら、教師はどうですか? 私は腕を負傷して軍を辞めこの私塾を営んでいるんです。貴方の言動や先程の仕事ぶりを見ればお若いながら高い知識教養を身に付けているのが分かる。何より、真面目で正義感があります。そう言う人は何かを教える職業に向いていると思いますよ」
「・・・・」
村野さんの言葉にルードは黙ってしまった
(確かにルードくんは何でも熟せるし、人に教えるのが上手だし、梓ちゃんがたまに先生って呼んでた時もあったものね・・・私も一度だけ言った事があったけど)
「ああ、すみません。無論、強要するつもりはまったくないですよ」
「・・・はい」
だがルードは難しい顔をして考え込んでいた
「リアさんもルードさんと同じように色々な事を身に付けていますし、強さや優しさがあります」
「え?」
急にそう言われリアも驚いてしまうが、村野さんは先程と変わらず優しい笑みを向けて言葉を続ける
「芝公園で子供達を守っていた時の貴女はとても頼もしく、そして懸命に子供達を守って美智子も救ってもらった。貴方方は本当にお若いのに立派だ」
「「・・・・」」
こんな風に言われたのはダリウス以外いなかったので、リアもルードも驚きを隠せないでいた
そんな時、玄関の開く音と同時に元気な声が聞こえた
「おじいちゃんただいま!」
「おお、美智子。おかえり。まさか一人で帰ってきたのか?」
「とちゅうまでは病院のお姉ちゃんと一緒だったよ。あ、みちこを助けてくれたお兄ちゃんとお姉ちゃん!」
言うと美智子はリアとルードの所へ駆け寄ってきた
「みちこやおじいちゃん、それにみんなを助けてくれてありがとう!」
その笑顔が眩しくリアもルードも目を瞠ったが直ぐに微笑み、リアは美智子と目線を合わせる為に屈んだ
「元気になって良かったね、美智子ちゃん」
「うん!」
「リアさん、そろそろ・・・」
此処に居るのは美智子の元気な姿を見るまで、と言っていたのでリアとルードは立ち上がった
「長々とお邪魔してすみませんでした。私達はこれでお暇します」
「お邪魔しました。お茶とお茶菓子もご馳走様でした」
「とんでもない。また何時でもいらして下さい」
「お兄ちゃん、お姉ちゃんまたね!」
美智子は元気に手を振りリアも手を振り替えしてルードと共に歩き出した
「「・・・・・」」
村野さんの家を出た後、リアとルードも何かを思っている顔をしていた
「村野さん、良い人だったね」
「ええ・・・。ですが、あの人と関わるべきではなかったと思います」
「え?」
「村野さんは良い方です。偏見の心を持たず真っ直ぐで、優しくて・・・さっきは、ダリウス様と同じように私を認めてくれた。首領に向いていなかった私に教師と言う新たな可能性を事も無げに示して・・・今、心が揺れている自分がいます・・・困るんです。たった一日で帝国軍側にさまざまな人間がいる事を実感してしまった。敵対する場所にも善人が居ると言う事をまざまざと・・・」
「ルードくん・・・」
ルードの言う事はリアもずっと思っていた事だった
リアはミルクホールで働いていて客として秋兵や有馬、他の軍人が来ているし、九段ともハイカラヤで甘味仲間として話をしている
「・・・リアさんも、ずっとこう思っていたんですね」
「え?」
そう思っていたらルードに声を掛けられルードを見ると何処か迷っているような目をしていた
「仕事柄、帝国軍人と会っていましたし、善人がいる事も知っていましたよね」
「うん・・・。でも、村野さんのように偏見を持っていない人とは初めて会った。きっと私の力を見ても村野さんは同じように偏見を持たないで接してくれると思う」
「・・そうですね」
リアの言葉にルードは頷いたが、それでも表情は堅いままだった
「ルードくん」
「っ・・・」
「気持ちが落ち着かないのも無理はないと思う。けど、今日の事はゆっくりと考えて答えを出せば良いと思うよ。今日村野さんと出逢ったのは無駄じゃない。私はそう思うな」
「リアさん・・・」
言うとリアはルードの手を握っていつもの優しい笑みを浮かべていた
「・・・そう、ですね。・・・ありがとう御座います、リアさん」
その笑顔と優しさ、そして今自分の気持ちを落ち着かせようと手を握ってくれている事に感謝していた
続く
あとがき
さて、前回のあとがきで言っていた通り、ルードくんルートで重要な人物、村野さん遂に登場です!
最初は出さないでゲームEDとは違う形にしようと思ったんですけど、今後のあるシーンを考えるとやっぱり村野さんを登場させないといけないよなーっと思って登場させたら思っていたより書けちゃったよww
けど村野さんのような人が沢山居たら本当に帝都は変わっていただろうし、鬼への偏見も違ったんだろうなーと思います
そして何気に前回から良い雰囲気になっているリアちゃんとルードくん、それに気付いているようなダリウスさんww
この辺りも今後気になる所ですね!
次回もルードくんの葛藤やらが見れると思いますよ
では次回もお楽しみに
2015.07.22
朝、ルードとリアはいつものように朝食の準備をしていた
「二人とも、おはよう」
「あ、ダリウスさん、おはよう御座います」
「おはよう御座います、ダリウス様」
そしていつものようにダリウスも厨房にいる二人に挨拶をして二人の返事を聞き食堂へ戻ろうとした
だが
「リアさん、そこの瓶を取って貰えますか」
「うん。・・はい、どうぞ」
「ありがとう御座います」
「・・・・」
その何気ないいつもの二人の会話と姿だったがダリウスは何かを思っている顔をしていた
「・・? ダリウスさん、どうかしましたか?」
その視線を感じたのかリアはダリウスを見てそう言い、ルードも振り返る
「いや。今日も美味しい料理を楽しみにしているよ」
「「はい」」
ダリウスはそう言って食堂へ向かうもその顔は何処か嬉しそうな、そして子供の成長を喜んでいる父親のような顔だった
37.新たな出逢いと可能性
「ルードくん、買い物に付き合ってくれてありがとう」
「いえ。私も買い足す物がありましたので」
あれから時間は過ぎ、今は午後の2時過ぎでリアとルードは買い物を済ませ今は芝公園を歩いていた
「今日は天気が良いし涼しいよね」
「ええ。夏の暑さをあまり感じませんね」
もうすぐ8月も終わるが夏の暑さは続くも今日は比較的涼しい方だった
そう話していると子供達の元気な声が聞こえてきた
「次はあっちに行ってみようぜ!」
「じゃあ競争だな!」
「え~、待ってよぉ~!」
「はしゃぎ過ぎて転ぶんじゃないよ」
「「はーい!」」
「先生も早く!」
元気に先頭を走る男の子に続き男の子や女の子も続き、子供達と一緒に居た老人は先生と呼ばれていて、何処かの塾生と先生なのかなと思った
「元気が良いね」
「ええ。そうですね」
「っ・・・」
自分達の隣を走って行く子供達を見てルードと話をしていると一人の女の子が苦しそうに胸を押さえてその場に座り込んでしまった
「! 大丈夫?」
「美智子!」
リアは直ぐ隣に居たので屈んで女の子に声を掛けていると先程の老人が駆け寄ってきた
「む、胸が・・くるし・・」
「え?」
「この子は心臓の病で――、早く病院へ連れて行かねば」
「では、車を・・・っ!」
ルードがそう判断して踵を返そうとしたが、周りの空気が変わった事に気付きリアもそれに気付くと怨霊が現れた
「っ、怨霊!」
「間の悪い・・・」
怨霊の出現と同時に子供達は怯えて泣き出してしまう子も居た
「ルードくん! ・・・っ!」
ルードに戦おうと言おうとしていると、自分達の周りに結界が張られた
「リアさんはその子達とご老人に着いていて下さい」
言うとルードは怨霊と戦い始め、リアは泣いている子供達へ視線を移す
「大丈夫、直ぐに終わるから。怖がらなくても大丈夫よ」
子供達を落ち着かせるように、いつもの優しい笑みを向けて言うと子供達は泣き止んだ
そしてリアが言っていた通り、怨霊との戦いはあっという間に終わった
「なんと言うお力だ・・・」
老人はルードの力に圧倒されて驚いていた
「今なら車を呼びに行けます。この子達は私達が見ていますので」
「ありがとう御座います。では少しの間、この子達をお願いします」
もう怨霊の気配がない事を確認するとリアは老人にそう伝え、老人は一礼して車を呼びに行った
「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!」
「いえ・・・」
「お姉ちゃんもあたし達を守ってくれてありがとう」
子供達はルードとリアにお礼を言うとリアは先程の様に優しく笑った
「美智子ちゃん、今先生が車を呼びに行ってるから」
「もうちょっとだよ」
「う、・・ん・・・」
そして美智子の近くにいた子供達は美智子にそう声を掛けていた
リアも心配そうに美智子を見ていて、ルードも何かを思っている顔をしていたが足音が近付いてくる事に気付く
「来たようですよ」
顔を上げると老人が息を切らせて走ってきて公園の外に車を準備していると言う
だが、苦しいのか美智子はずっとリアの袖を掴んでいた
「リアさん、我々も共に行きましょう」
「ルードくん?」
「成り行きとは言え、この様な事態に遭遇してしまいました。それにその子はリアさんに居て欲しいようですし、此処で放って帰っては後味が悪すぎます・・・」
確かに今の状況で放って帰ってはリアもルードも後味が悪くなってしまうし、リアも自分の性格を考えこの状態を放っておけないと言うのも分かっていたし、ルードもそれを分かっているからこう言ったのだろうとも思った
「うん。そうだね。私達も一緒に行こう」
「有り難う御座います! ではみんな、私達はこれから病院に向かいますので今日は此処で解散です。くれぐれも気を付けて帰るんですよ」
「はい」
「美智子ちゃん、がんばってね!」
子供達の返事を聞くとリアとルードは老人と共に急いで車へと向かう
そして車が向かった先は麻布記念病院だった
病院に向かい美智子を先生に預け、看て貰うと幸い軽い発作だったようで命に別状はなく、夕方頃には家に帰れると言われ皆ほっとしていた
「ありがとう御座います。貴方方のお陰で美智子は助かりました」
あれから暫くして老人はリアとルードにお礼を言っていた
「いえ、先程も言いましたが、成り行きですので・・・」
「それでも貴方が怨霊と戦って下さらなければ美智子は助からなかったでしょうし、貴女も子供達を宥めて下さったお陰で誰も怪我をせずに済んだのです。どうかお礼をさせて下さい」
「「・・・・」」
確かに老人の言う通りだが、此処までお礼を言われてリアもルードも言葉に詰まってしまう
「ルードくん、お礼、受け取っておこう。此処まで言われて断っちゃもっと後味悪いし」
「・・・そうですね」
ルードもそう思い返事を返し、老人の家に招かれた
老人の家はこの病院のすぐ隣で、名前は村野と言うそうだ
村野さんの家に着くとお茶とお茶菓子を出してくれた
「大したものがなくてすみません」
「いえ、お構いなく」
家の中を見ると沢山の机が並んでいて如何にも此処が塾だと言わんばかりだった
「村野さんは子供達に先生と呼ばれていましたけど、勉強を教えているんですか?」
先程芝公園で子供達にそう呼ばれていた事を思い出し、リアは村野さんに聞いてみた
「ええ。此処で私塾を営んでいます。美智子を始め子供達に教えていて、先程一緒にいた子達が私の生徒です。夜には大人にも教えているんですよ」
「子供達だけじゃなく大人にも勉強を教えているなんて凄いですね」
今のご時世、勉強をしようにもまだ勉強出来ない子供の方が多く、大人も働き始めてその場で覚えていく人が多かった
「いえ。好きで始めた事ですから」
「これは・・・日本と海外の国との関わりの年表ですか?」
ルードは近くにあった年表を見て言うと村野さんは驚いた顔をした
「なんと。見ただけで分かるんですか」
「ええ。独学ではありますが、歴史の勉強はしましたので」
「でも、まだ途中みたいですね」
リアもそれを見て言うと村野さんはまた驚いた顔をしたが直ぐに言葉を続ける
「ええ。まだ作り始めたばかりでしたので」
「良ければ私達もお手伝いしましょうか」
「そんな、美智子を助けて貰っただけでもありがたいのに」
「書面の作成や編纂作業には慣れています」
「ルードくん程上手くはないですけど、私もやった事はありますし、勉強もしてますから良ければお手伝いさせて下さい」
「なんと、まあ・・。お若いのに立派ですね」
ルードとリアの言葉を聞くと村野さんはまた驚いた顔をしていた
確かに二人の歳で勉強だけでなく、書面の作成や編纂作業が出来ると言う人は珍しい方だろう
「・・・しかし、本当に宜しいんですか」
「ええ。お孫さんが戻って来るまでの間でしたら」
リアもルードも美智子の元気な姿を見てから邸に帰ろうと思っていたのでそれまでの間にする事が見つかったと思いそう言った
「ではリアさん、ルードさん、お願いしても宜しいでしょうか」
「「はい」」
*
「ありがとう御座います。お二人のお陰で予定より早く完成しました」
あれから二時間程で年表は完成し、村野さんはリアとルードにお礼を言った
「お二人はお若いのに本当に立派ですね」
「いえ。私よりルードくんの方が立派ですよ。頼りになりますし」
「っ、そう言う事は、言わなくて良いですから」
リアの言葉にルードは少しだけ言葉を詰まらせ、村野さんはそんな二人を見て微笑んでいた
「彼はこの飾らない性分が気持ちいいですよね。誠実な人柄が窺えます」
「・・・・」
「ルードさん、貴方は強く、賢い人です。怨霊との戦いも見事でした。精鋭分隊に所属していないのが可笑しいくらいだ。良ければ、帝国軍内の上層部へ取り次ぎましょうか?」
「!? 何を言うんですか・・・」
その言葉にルードだけでなくリアも驚いてしまう
「おや、これでも私は昔、帝国軍人だったんですよ。ツテなら、ちゃんとあります」
「そう言う問題ではありません。私が帝国軍に所属するなど・・・馬鹿げています」
「何故ですか?」
「・・・貴方だって、薄々勘づいているんじゃないですか? この容姿や、怨霊と戦う力・・・それに結界を張った力・・・私の正体は明らかでしょう」
「・・・・」
ルードの言葉にリアは心配そうな顔をしてその様子を見ていた
だが、村野さんからは予想もしていなかった言葉が返ってくる
「ええ。推測はしていました。でも・・・言ったでしょう? 貴方は強く、賢く・・・優れた人です。私が貴方に一目置きその将来に胸ときめかす時、出自などが何の妨げになるでしょう」
「・・・っ」「・・・!」
「そうだ。軍人が嫌なら、教師はどうですか? 私は腕を負傷して軍を辞めこの私塾を営んでいるんです。貴方の言動や先程の仕事ぶりを見ればお若いながら高い知識教養を身に付けているのが分かる。何より、真面目で正義感があります。そう言う人は何かを教える職業に向いていると思いますよ」
「・・・・」
村野さんの言葉にルードは黙ってしまった
(確かにルードくんは何でも熟せるし、人に教えるのが上手だし、梓ちゃんがたまに先生って呼んでた時もあったものね・・・私も一度だけ言った事があったけど)
「ああ、すみません。無論、強要するつもりはまったくないですよ」
「・・・はい」
だがルードは難しい顔をして考え込んでいた
「リアさんもルードさんと同じように色々な事を身に付けていますし、強さや優しさがあります」
「え?」
急にそう言われリアも驚いてしまうが、村野さんは先程と変わらず優しい笑みを向けて言葉を続ける
「芝公園で子供達を守っていた時の貴女はとても頼もしく、そして懸命に子供達を守って美智子も救ってもらった。貴方方は本当にお若いのに立派だ」
「「・・・・」」
こんな風に言われたのはダリウス以外いなかったので、リアもルードも驚きを隠せないでいた
そんな時、玄関の開く音と同時に元気な声が聞こえた
「おじいちゃんただいま!」
「おお、美智子。おかえり。まさか一人で帰ってきたのか?」
「とちゅうまでは病院のお姉ちゃんと一緒だったよ。あ、みちこを助けてくれたお兄ちゃんとお姉ちゃん!」
言うと美智子はリアとルードの所へ駆け寄ってきた
「みちこやおじいちゃん、それにみんなを助けてくれてありがとう!」
その笑顔が眩しくリアもルードも目を瞠ったが直ぐに微笑み、リアは美智子と目線を合わせる為に屈んだ
「元気になって良かったね、美智子ちゃん」
「うん!」
「リアさん、そろそろ・・・」
此処に居るのは美智子の元気な姿を見るまで、と言っていたのでリアとルードは立ち上がった
「長々とお邪魔してすみませんでした。私達はこれでお暇します」
「お邪魔しました。お茶とお茶菓子もご馳走様でした」
「とんでもない。また何時でもいらして下さい」
「お兄ちゃん、お姉ちゃんまたね!」
美智子は元気に手を振りリアも手を振り替えしてルードと共に歩き出した
「「・・・・・」」
村野さんの家を出た後、リアとルードも何かを思っている顔をしていた
「村野さん、良い人だったね」
「ええ・・・。ですが、あの人と関わるべきではなかったと思います」
「え?」
「村野さんは良い方です。偏見の心を持たず真っ直ぐで、優しくて・・・さっきは、ダリウス様と同じように私を認めてくれた。首領に向いていなかった私に教師と言う新たな可能性を事も無げに示して・・・今、心が揺れている自分がいます・・・困るんです。たった一日で帝国軍側にさまざまな人間がいる事を実感してしまった。敵対する場所にも善人が居ると言う事をまざまざと・・・」
「ルードくん・・・」
ルードの言う事はリアもずっと思っていた事だった
リアはミルクホールで働いていて客として秋兵や有馬、他の軍人が来ているし、九段ともハイカラヤで甘味仲間として話をしている
「・・・リアさんも、ずっとこう思っていたんですね」
「え?」
そう思っていたらルードに声を掛けられルードを見ると何処か迷っているような目をしていた
「仕事柄、帝国軍人と会っていましたし、善人がいる事も知っていましたよね」
「うん・・・。でも、村野さんのように偏見を持っていない人とは初めて会った。きっと私の力を見ても村野さんは同じように偏見を持たないで接してくれると思う」
「・・そうですね」
リアの言葉にルードは頷いたが、それでも表情は堅いままだった
「ルードくん」
「っ・・・」
「気持ちが落ち着かないのも無理はないと思う。けど、今日の事はゆっくりと考えて答えを出せば良いと思うよ。今日村野さんと出逢ったのは無駄じゃない。私はそう思うな」
「リアさん・・・」
言うとリアはルードの手を握っていつもの優しい笑みを浮かべていた
「・・・そう、ですね。・・・ありがとう御座います、リアさん」
その笑顔と優しさ、そして今自分の気持ちを落ち着かせようと手を握ってくれている事に感謝していた
続く
あとがき
さて、前回のあとがきで言っていた通り、ルードくんルートで重要な人物、村野さん遂に登場です!
最初は出さないでゲームEDとは違う形にしようと思ったんですけど、今後のあるシーンを考えるとやっぱり村野さんを登場させないといけないよなーっと思って登場させたら思っていたより書けちゃったよww
けど村野さんのような人が沢山居たら本当に帝都は変わっていただろうし、鬼への偏見も違ったんだろうなーと思います
そして何気に前回から良い雰囲気になっているリアちゃんとルードくん、それに気付いているようなダリウスさんww
この辺りも今後気になる所ですね!
次回もルードくんの葛藤やらが見れると思いますよ
では次回もお楽しみに
2015.07.22