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梓が邸から消えて 数日、梓は帝国軍所属の神子様として世間に知られる事となった
リアやダリウス達もその事は梓がいなくなった翌日の新聞を読んで知っていた
コハクと虎はあの日、梓を外に連れ出し白龍の神子に会わせた事がダリウスにバレてしまい、あの晩こっぴどく叱られ、ルードもその事や梓がいなくなった事、そしてリアを悲しませた事に対して怒っていて二人の食事を抜いていた
二人が梓を連れ出した理由はそれぞれだった
コハクは自由を奪われた梓が可哀想だったから助けたかったそうで、虎は金目当てで取引をしていたそうだ
勿論それはダリウスとの契約に違反するもので、二人への食事は翌日の昼から出るようになったものの制裁として仕事と報酬の差し止めを食らっていた
皆、梓がいなくなって気持ちが浮上していなかった
それが一番大きかったのは言わずもがな、リアだった
ダリウスやルードの気遣いで何とか気持ちも落ち着いてきて、沈んでいるだけでは何も出来ないと気持ちを切り替えそれぞれ自分のやるべき事をやっていた
そしてリアもいつも通りミルクホールで働いていて今は買い出しの為、浅草の仲見世に寄っていた
「これで買う物は揃ったかな・・・。・・うん、大丈夫ね」
手元にあるメモを見て必要なものが揃ったか確認して歩き出そうとしていると
「・・・あれ? あそこにいるの」
見覚えのある人物が見え人並みを抜けてその人物の後を追う
「コハクくん」
「・・! あ、れ、リアさん? どうしたの、こんなところで。今日お仕事だったよね」
「今は買い出し中。コハクくんはこれから独楽回し?」
「え・・・あ・・うん・・・」
そう言うコハクだったが何処か元気がなかった
「・・・コハクくん・・?」
「・・・ねえ、リアさん。少しだけ、時間貰えないかな・・?」
コハクは少し考えた後、少しだけ迷った目をしてリアにそう言いリアは頷いた
「此処ならゆっくり話が出来るね」
「うん・・・」
リアとコハクがやって来たのは境内の裏だった
「それでどうしたの。・・何か話したい事があるんじゃない」
「・・・うん」
そこでまた言葉を切ったコハクだったがゆっくりと話し出す
「おれ・・・昔の記憶、少しだけ思い出したんだ」
「え・・?」
「政虎さんと一緒に梓さんを外に連れ出してる時に、たまたま須崎に立ち寄ったんだ。その時に景色が見えて・・・」
「景色・・?」
「おれ、須崎で生まれたみたいなんだ。だけど・・・そこではおれ、『厄介者』って言われてたんだ・・・」
「えっ?」
意外な言葉が出てきてリアは驚いてしまうがコハクはそのまま淡々と続けた
「全部、断片的な記憶だけどね。花街で暮らしてた事や病気になった事・・・。政虎さんが言うにはおれが見世で下働きしてた時に病に罹って追い出されたんだろうって・・・」
「!」
確かに流行り病に罹って亡くなった人は多いと言う事も知っていたし、リアも店に来ていた客が同じように流行り病に罹って亡くなったのを知っていた
「・・・ダリウスさんはおれに早く記憶を取り戻すようにって言ってたけど、・・・おれはもう良いかなって思ってるんだ」
確かにコハクを邸に匿う条件として早く記憶を思い出す事とダリウスに言われコハクもそれを承知して契約書に署名した
思い出した記憶でそう言われていたと知れば傷つくし、それ以上の記憶を思い出してもっと嫌な思い出も思い出すだろう
だが、
「・・・コハクくんは、本当にそれで良いの?」
「・・え?」
「迷ってるんじゃない? 記憶を思い出すのが怖い、厄介者って呼ばれて肉親もいるのか解らない。だけど本心では思い出さなきゃいけないって思ってる」
「・・それ、は・・」
「本当に思い出さなくて良いって思っていたら私に相談しないと思うけど」
「・・・・」
リアの言葉にコハクは思わず言葉に詰まってしまうも、リアはいつもの優しい笑みを向け言葉を続けた
「それにね、本当に辛い環境で育っていたらコハクくんは今みたいにみんなを明るく照らして沢山の人と一緒に笑い合ったり出来ないよ」
「っ・・・」
リアの言葉を聞きコハクは目を瞠り、その言葉に心を打たれたような顔をしていた
「・・・もし、コハクくんが記憶を取り戻したいって思っているんだったら、私は協力するよ」
「・・え」
その先は何も言わなかったがいつもの優しい笑顔を向られ、コハクは小さく笑った
「リアさんって・・本当に聖母様だよね」
「え・・? ! コ、コハクくん!」
そう言った途端コハクはリアを抱きしめた
「・・・ごめん。でも今はこうしてたい。・・・今、貴女に顔を見られたくないんだ」
どうやらコハクは今自分で情けないくらいどうしようもない顔をしているようで、リアに見られたくなくて抱きついた
いや、抱きしめたのはそれだけじゃなかった
先程のリアの言葉、そしていつもの優しい笑顔が、コハクの悩みを消し去ってくれてそれが嬉しくて抱きしめていた
「・・・ありがとう、リアさん。 ―― おれ、覚悟決めたよ」
言うとコハクはゆっくりとリアから離れ
「おれ、もう一度須崎に行ってみるよ。だから・・、リアさんも一緒に着てくれない?」
「ええ、勿論。でも今日はまだ仕事があるから明日でも良いかな? 明日だったら丁度休みだから」
「うん。じゃあ明日一緒に須崎に行こう」
決意の固まった瞳 して言うコハクを見てリアも頷き、明日須崎へ向かう事を決めたのだった
15.大切な記憶(前編)
翌日、リアとコハクは須崎にやってきた
だがやはり花街と言うだけあって普段行き慣れている浅草や煉瓦街や飲食店などとは違った独特な雰囲気に包まれていて、道行く人達も派手な格好をしたり綺麗な格好をしたりしている人達ばかりだった
「・・・私達、ちょっと浮いてる・・?」
「・・そうだね」
コハクも同じ事を思ったのか同意していたが、リアも綺麗な顔立ちをしているからか人目を惹いていた
「うーん・・これは気を付けないと・・・」
「コハクくん、どうかした?」
その事に気が付いていないのかリアはキョトンとした顔をした
「あ、いや、なんでもないよ。それより・・・」
コハクが話題を変えようとしていると何処からか三味線の音と歌が聞こえた
「―― いのち短し恋せよ少女
朱き唇、褪せぬ間に」
「・・・あれ」
「この歌・・・」
この歌にリアもコハクも聞き覚えがあった
以前この歌をコハクが歌っていたのをリアも聴いた事があり、綺麗な歌声だと褒めるとコハクが照れたように笑っていた
「―― 熱き血潮の冷えぬ間に
明日の月日はないものを――」
何処から聞こえてくるのかと思っていると近くの見世の欄干に座っている女性が歌っていた
「あの、すみません」
「・・・・おや? どうした事だろうね。可憐な・・いや、優美な小鳥が一羽舞い込んで来たようだね」
リアはその女性に声を掛けるとリアを見てそう言った
「・・・お客にしては綺麗な顔立ちをしてる子だね。もしかして道にでも迷ったのかい?」
「いえ・・・、少しお尋ねしたい事がありまして・・・。あの、この子に見覚えはありませんでしょうか?」
「・・・・」
隣に居るコハクを見て言うとコハクは少しだけ不安そうな目をしていたが、
「ん? その顔・・・お前さん、もしかして・・・善次郎? 善次郎なのかい!?」
「えっ?」
女性はコハクを見た途端驚いた顔をして“善次郎”と呼んだ
「この子の事を知っているんですか?」
「ちょっと待っておくれ。今、降りて行くから」
「・・・・」
コハクは驚いたまま固まっていると欄干から降りて来た先程の女性がコハクの前に行く
「ああ、善次郎! やっぱり善次郎だ! 今まで何処に居たんだ。体の具合はもう良いのかい?」
女性はコハクを見て善次郎と呼びとても嬉しそうな安堵したような表情を浮かべた
「善次郎? それが、おれの名前なの?」
「そうだよ、お前。まさか、自分の名前も忘れちまったのかい?」
どうやらこの女性はコハクが記憶を失 くす前のコハクを知っているようだった
「貴女は・・・?」
「あたしは浮雲、その子の母さんとは長い事同じ見世にいてね。人気を奪い合ったもんさ」
「おれの・・・・母さん?」
「この子の母親は今何処に居ますか?」
「米七・・・その子の母さんはふた月前に亡くなったよ」
「「・・・・!」」
浮雲の言葉にリアもコハクも驚いて息を詰め、浮雲は目を伏せて悲しそうな顔をして続ける
「仕方がなかったんだよ。病が進んでいて手の施しようもなかった。善次郎、お前は米七の薬代を稼ぐって言って出て行ったけれど次の日にはもう・・・」
「えっ・・・?」
「じゃあ、この子は追い出された訳じゃないんですね」
「ああ。番頭達が追い出すのなんだのって騒いでいたけれどね。米七が懸命にお前を庇ったんだ」
「米七・・・母さん・・・。っ・・・あ・・・」
「コハクくん!?」
急に少しだけ苦しそうにするコハクを見てリアが心配そうな顔をしてコハクを見ると、何かを思い出したような顔をしていた
「・・・そうだ、あの時・・・おれは・・・」
**
『疫病だ? 善次郎の奴、厄介なものにかかりやがったな』
『頼むよ、薬がなきゃあの子が死んじまう・・・・ごほっ』
『気の毒とは思うさ、だがな見世番の薬代を出す余裕なんざある訳ねえだろう? 他に移ったらいけねえ。善次郎にはとっとと出て行ってもらうぞ!』
言うと番頭と槍手は米七と善次郎 が休んでいる部屋から出て行った
『大丈夫だよ、善次郎。母さんがお前の分まで働くから。お前はゆっくり養生していれば良いんだ』
『母さん・・・でも、母さんだって・・・』
『私なら、平気だよ。・・・っ、ごほっ・・・ごほっ・・・・!』
コハクを安心させるように言う米七だったがそこで咳き込んでしまう
『・・・母さん、やっぱり母さんだって、おれと同じ病気なんじゃないか。母さんこそちゃんと養生しないと。おれなんて、どうでも良いからさ』
『何馬鹿な事言ってるの。お前はねえ、身寄りの無い母さんのたった一人の家族なんだよ。お前の命より大事なものなんてありはしないよ』
『母さん・・・・。・・・・』
病気で辛いはずだが米七の顔はコハクを安心させる母親の顔だった
そんな米七を見てコハクはある決心して夜、見世を抜け出した
『ごほっ・・・・ごほっ・・・・。・・・・・・っ』
『善次郎! 何処行く気だい!』
コハクが咳をして荒い息を吐いているとコハクが見世を抜け出すのが見えたのか浮雲が追い掛けコハクに心配そうに駆け寄る
『街で良い薬を買ってくる・・・・ごほっ、ごほっ・・・』
『やめな。そんなぼろぼろの体で何が出来るって言うんだよ!』
『馴染みの客に教えてもらった独楽回し・・・おれ、上手いんだよ。これならきっと沢山銭を稼げるから・・・良い薬も手に入るよ』
『善次郎、お前・・・』
『浮雲さん、お願い・・・母さんを看ててあげて・・・おれ、行ってくるよ』
『善次郎! 善次郎――――!』
言うとコハクは駆け出して行き、後ろからは心配する浮雲の声が聞こえた ――
**
続く
あとがき
え、此処で続くの!?(°□°;)
しかもメインがリアちゃんとコハクしか出てないし、まさかの前後編になってしまったし回想シーン終わって終わるのかよ!!!( ̄□ ̄;)!!
っと盛大にツッコみを入れた所で・・・w
前回のあとがきで書き忘れてしまったので此処でも一応言っておきますと、梓が帝国軍側に行ってからは殆ど蠱惑の森の皆さんとは接する事がなくなるので彼等のルートのお話はうちの姫が担当しますので・・・♪w
が、まさか一番手をコハクが切るとはww
コハクは結構重要なキャラクターでありストーリーにもかなり大事な所を握ってるキャラなので書いてみましたが、まさか続くとは(^_^;)w
でも最初の方でちょっと甘い感じなのが書けたのでほっとしておりますw
さ、次回はこの続きからです!
では!
2015.06.25
リアやダリウス達もその事は梓がいなくなった翌日の新聞を読んで知っていた
コハクと虎はあの日、梓を外に連れ出し白龍の神子に会わせた事がダリウスにバレてしまい、あの晩こっぴどく叱られ、ルードもその事や梓がいなくなった事、そしてリアを悲しませた事に対して怒っていて二人の食事を抜いていた
二人が梓を連れ出した理由はそれぞれだった
コハクは自由を奪われた梓が可哀想だったから助けたかったそうで、虎は金目当てで取引をしていたそうだ
勿論それはダリウスとの契約に違反するもので、二人への食事は翌日の昼から出るようになったものの制裁として仕事と報酬の差し止めを食らっていた
皆、梓がいなくなって気持ちが浮上していなかった
それが一番大きかったのは言わずもがな、リアだった
ダリウスやルードの気遣いで何とか気持ちも落ち着いてきて、沈んでいるだけでは何も出来ないと気持ちを切り替えそれぞれ自分のやるべき事をやっていた
そしてリアもいつも通りミルクホールで働いていて今は買い出しの為、浅草の仲見世に寄っていた
「これで買う物は揃ったかな・・・。・・うん、大丈夫ね」
手元にあるメモを見て必要なものが揃ったか確認して歩き出そうとしていると
「・・・あれ? あそこにいるの」
見覚えのある人物が見え人並みを抜けてその人物の後を追う
「コハクくん」
「・・! あ、れ、リアさん? どうしたの、こんなところで。今日お仕事だったよね」
「今は買い出し中。コハクくんはこれから独楽回し?」
「え・・・あ・・うん・・・」
そう言うコハクだったが何処か元気がなかった
「・・・コハクくん・・?」
「・・・ねえ、リアさん。少しだけ、時間貰えないかな・・?」
コハクは少し考えた後、少しだけ迷った目をしてリアにそう言いリアは頷いた
「此処ならゆっくり話が出来るね」
「うん・・・」
リアとコハクがやって来たのは境内の裏だった
「それでどうしたの。・・何か話したい事があるんじゃない」
「・・・うん」
そこでまた言葉を切ったコハクだったがゆっくりと話し出す
「おれ・・・昔の記憶、少しだけ思い出したんだ」
「え・・?」
「政虎さんと一緒に梓さんを外に連れ出してる時に、たまたま須崎に立ち寄ったんだ。その時に景色が見えて・・・」
「景色・・?」
「おれ、須崎で生まれたみたいなんだ。だけど・・・そこではおれ、『厄介者』って言われてたんだ・・・」
「えっ?」
意外な言葉が出てきてリアは驚いてしまうがコハクはそのまま淡々と続けた
「全部、断片的な記憶だけどね。花街で暮らしてた事や病気になった事・・・。政虎さんが言うにはおれが見世で下働きしてた時に病に罹って追い出されたんだろうって・・・」
「!」
確かに流行り病に罹って亡くなった人は多いと言う事も知っていたし、リアも店に来ていた客が同じように流行り病に罹って亡くなったのを知っていた
「・・・ダリウスさんはおれに早く記憶を取り戻すようにって言ってたけど、・・・おれはもう良いかなって思ってるんだ」
確かにコハクを邸に匿う条件として早く記憶を思い出す事とダリウスに言われコハクもそれを承知して契約書に署名した
思い出した記憶でそう言われていたと知れば傷つくし、それ以上の記憶を思い出してもっと嫌な思い出も思い出すだろう
だが、
「・・・コハクくんは、本当にそれで良いの?」
「・・え?」
「迷ってるんじゃない? 記憶を思い出すのが怖い、厄介者って呼ばれて肉親もいるのか解らない。だけど本心では思い出さなきゃいけないって思ってる」
「・・それ、は・・」
「本当に思い出さなくて良いって思っていたら私に相談しないと思うけど」
「・・・・」
リアの言葉にコハクは思わず言葉に詰まってしまうも、リアはいつもの優しい笑みを向け言葉を続けた
「それにね、本当に辛い環境で育っていたらコハクくんは今みたいにみんなを明るく照らして沢山の人と一緒に笑い合ったり出来ないよ」
「っ・・・」
リアの言葉を聞きコハクは目を瞠り、その言葉に心を打たれたような顔をしていた
「・・・もし、コハクくんが記憶を取り戻したいって思っているんだったら、私は協力するよ」
「・・え」
その先は何も言わなかったがいつもの優しい笑顔を向られ、コハクは小さく笑った
「リアさんって・・本当に聖母様だよね」
「え・・? ! コ、コハクくん!」
そう言った途端コハクはリアを抱きしめた
「・・・ごめん。でも今はこうしてたい。・・・今、貴女に顔を見られたくないんだ」
どうやらコハクは今自分で情けないくらいどうしようもない顔をしているようで、リアに見られたくなくて抱きついた
いや、抱きしめたのはそれだけじゃなかった
先程のリアの言葉、そしていつもの優しい笑顔が、コハクの悩みを消し去ってくれてそれが嬉しくて抱きしめていた
「・・・ありがとう、リアさん。 ―― おれ、覚悟決めたよ」
言うとコハクはゆっくりとリアから離れ
「おれ、もう一度須崎に行ってみるよ。だから・・、リアさんも一緒に着てくれない?」
「ええ、勿論。でも今日はまだ仕事があるから明日でも良いかな? 明日だったら丁度休みだから」
「うん。じゃあ明日一緒に須崎に行こう」
決意の固まった
15.大切な記憶(前編)
翌日、リアとコハクは須崎にやってきた
だがやはり花街と言うだけあって普段行き慣れている浅草や煉瓦街や飲食店などとは違った独特な雰囲気に包まれていて、道行く人達も派手な格好をしたり綺麗な格好をしたりしている人達ばかりだった
「・・・私達、ちょっと浮いてる・・?」
「・・そうだね」
コハクも同じ事を思ったのか同意していたが、リアも綺麗な顔立ちをしているからか人目を惹いていた
「うーん・・これは気を付けないと・・・」
「コハクくん、どうかした?」
その事に気が付いていないのかリアはキョトンとした顔をした
「あ、いや、なんでもないよ。それより・・・」
コハクが話題を変えようとしていると何処からか三味線の音と歌が聞こえた
「―― いのち短し恋せよ
朱き唇、褪せぬ間に」
「・・・あれ」
「この歌・・・」
この歌にリアもコハクも聞き覚えがあった
以前この歌をコハクが歌っていたのをリアも聴いた事があり、綺麗な歌声だと褒めるとコハクが照れたように笑っていた
「―― 熱き血潮の冷えぬ間に
明日の月日はないものを――」
何処から聞こえてくるのかと思っていると近くの見世の欄干に座っている女性が歌っていた
「あの、すみません」
「・・・・おや? どうした事だろうね。可憐な・・いや、優美な小鳥が一羽舞い込んで来たようだね」
リアはその女性に声を掛けるとリアを見てそう言った
「・・・お客にしては綺麗な顔立ちをしてる子だね。もしかして道にでも迷ったのかい?」
「いえ・・・、少しお尋ねしたい事がありまして・・・。あの、この子に見覚えはありませんでしょうか?」
「・・・・」
隣に居るコハクを見て言うとコハクは少しだけ不安そうな目をしていたが、
「ん? その顔・・・お前さん、もしかして・・・善次郎? 善次郎なのかい!?」
「えっ?」
女性はコハクを見た途端驚いた顔をして“善次郎”と呼んだ
「この子の事を知っているんですか?」
「ちょっと待っておくれ。今、降りて行くから」
「・・・・」
コハクは驚いたまま固まっていると欄干から降りて来た先程の女性がコハクの前に行く
「ああ、善次郎! やっぱり善次郎だ! 今まで何処に居たんだ。体の具合はもう良いのかい?」
女性はコハクを見て善次郎と呼びとても嬉しそうな安堵したような表情を浮かべた
「善次郎? それが、おれの名前なの?」
「そうだよ、お前。まさか、自分の名前も忘れちまったのかい?」
どうやらこの女性はコハクが記憶を
「貴女は・・・?」
「あたしは浮雲、その子の母さんとは長い事同じ見世にいてね。人気を奪い合ったもんさ」
「おれの・・・・母さん?」
「この子の母親は今何処に居ますか?」
「米七・・・その子の母さんはふた月前に亡くなったよ」
「「・・・・!」」
浮雲の言葉にリアもコハクも驚いて息を詰め、浮雲は目を伏せて悲しそうな顔をして続ける
「仕方がなかったんだよ。病が進んでいて手の施しようもなかった。善次郎、お前は米七の薬代を稼ぐって言って出て行ったけれど次の日にはもう・・・」
「えっ・・・?」
「じゃあ、この子は追い出された訳じゃないんですね」
「ああ。番頭達が追い出すのなんだのって騒いでいたけれどね。米七が懸命にお前を庇ったんだ」
「米七・・・母さん・・・。っ・・・あ・・・」
「コハクくん!?」
急に少しだけ苦しそうにするコハクを見てリアが心配そうな顔をしてコハクを見ると、何かを思い出したような顔をしていた
「・・・そうだ、あの時・・・おれは・・・」
**
『疫病だ? 善次郎の奴、厄介なものにかかりやがったな』
『頼むよ、薬がなきゃあの子が死んじまう・・・・ごほっ』
『気の毒とは思うさ、だがな見世番の薬代を出す余裕なんざある訳ねえだろう? 他に移ったらいけねえ。善次郎にはとっとと出て行ってもらうぞ!』
言うと番頭と槍手は米七と
『大丈夫だよ、善次郎。母さんがお前の分まで働くから。お前はゆっくり養生していれば良いんだ』
『母さん・・・でも、母さんだって・・・』
『私なら、平気だよ。・・・っ、ごほっ・・・ごほっ・・・・!』
コハクを安心させるように言う米七だったがそこで咳き込んでしまう
『・・・母さん、やっぱり母さんだって、おれと同じ病気なんじゃないか。母さんこそちゃんと養生しないと。おれなんて、どうでも良いからさ』
『何馬鹿な事言ってるの。お前はねえ、身寄りの無い母さんのたった一人の家族なんだよ。お前の命より大事なものなんてありはしないよ』
『母さん・・・・。・・・・』
病気で辛いはずだが米七の顔はコハクを安心させる母親の顔だった
そんな米七を見てコハクはある決心して夜、見世を抜け出した
『ごほっ・・・・ごほっ・・・・。・・・・・・っ』
『善次郎! 何処行く気だい!』
コハクが咳をして荒い息を吐いているとコハクが見世を抜け出すのが見えたのか浮雲が追い掛けコハクに心配そうに駆け寄る
『街で良い薬を買ってくる・・・・ごほっ、ごほっ・・・』
『やめな。そんなぼろぼろの体で何が出来るって言うんだよ!』
『馴染みの客に教えてもらった独楽回し・・・おれ、上手いんだよ。これならきっと沢山銭を稼げるから・・・良い薬も手に入るよ』
『善次郎、お前・・・』
『浮雲さん、お願い・・・母さんを看ててあげて・・・おれ、行ってくるよ』
『善次郎! 善次郎――――!』
言うとコハクは駆け出して行き、後ろからは心配する浮雲の声が聞こえた ――
**
続く
あとがき
え、此処で続くの!?(°□°;)
しかもメインがリアちゃんとコハクしか出てないし、まさかの前後編になってしまったし回想シーン終わって終わるのかよ!!!( ̄□ ̄;)!!
っと盛大にツッコみを入れた所で・・・w
前回のあとがきで書き忘れてしまったので此処でも一応言っておきますと、梓が帝国軍側に行ってからは殆ど蠱惑の森の皆さんとは接する事がなくなるので彼等のルートのお話はうちの姫が担当しますので・・・♪w
が、まさか一番手をコハクが切るとはww
コハクは結構重要なキャラクターでありストーリーにもかなり大事な所を握ってるキャラなので書いてみましたが、まさか続くとは(^_^;)w
でも最初の方でちょっと甘い感じなのが書けたのでほっとしておりますw
さ、次回はこの続きからです!
では!
2015.06.25