長短編
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「え? 昔の話し?」
「うん。リア達が幼馴染みなのは知ってるけどあんまり子供の頃の話しって聞いた事がなかったから」
夕食も終わり部屋に戻って来て皆寛いでいると、エステルからそう言えば・・・と言ってリア達を見て、リア達の昔の話しを聞いてみたいと言われたのだった
どうやら先程からエステルが読んでいる本に登場する子供達がとても仲が良く、微笑ましいものだった
そして顔を上げると丁度リア達に目が止まり、皆幼い頃からずっと一緒に居る幼馴染み達がその話に出てくる子供達と重なり、カロルやジュディス達も気になったようで今に至っているのだった
「うーん・・、みんなとあんまり変わらないと思うけど・・・」
「それなら一つ変わった事があったよね」
「え?」
「あー確かに、」
「もしかしてアレかい?」
「アレ、だろうな・・・」
子供の頃の事を思い出しているとふとアスラが何かを思い出したようでそう言うとユーリ達も何の事だか解ったのか次々にそう答えた
「え、アレって・・・」
「リアが結婚を申し込まれた話し、だな」
「「「「「ええええ、け、結婚(ですか)っっ!?!?!?」」」」」
セイの言葉にそれまで本を読んでいたリタやベッドに横になって寛いでいたレイヴン、そして話しを聞いていたカロル達も驚きの声を上げていた
「それって、いつの話し!?」
「リアが15くらいの時だったかな・・・」
「15って言ったらリタっちくらいの時よね?」
「そうなるわね」
「ワフっ!」
「なんでそこであたしを見るのよ!」
「うんにゃ。それで、相手はどんな奴だったんじゃ?」
「確か貴族の男だったよな」
「ああ。リアに一目惚れして、何度も申し込んでたね」
「かなりしつこい奴だったよな」
「けど、その頃確かフレンは帝都を離れていたと聞きましたけど・・・」
「ええ。その時は少し用事があってたまたま帝都に戻って来ていたんです」
「で、丁度そん時その騒動になってたって訳だ」
下町の歌姫、結婚騒動(前編)
約5年前 ――
「う~~んっ・・・、今日も良い天気」
「仕事も終わったし、久々に帝都に戻れるな」
「うん。下町のみんな、それにユーリとも会うのも久しぶりだもんね」
此処はデイドン砦の旅人達が休憩を兼ねて休んでいる場所、その一角にリアとセイもテントを張っていた
丁度この辺りでの表向きの仕事も言霊使いとしての仕事も終わり、デイドン砦で一晩過ごしてザーフィアスに戻ろうと決め、朝を迎えた所だった
「二人とも、朝食はどうする?」
「暫くは下町でゆっくりするつもりだからな」
「じゃあ朝食の材料とこれからの分も含めて一緒に買って帰って作る?」
「そうだな。なら、荷物纏めたら帝都に戻るぞ」
「「うん」」
これからの予定を決めリアとセイは荷物を纏め帝都へと向かい、言っていた通り露店街へ寄り食材を買い込んで下町へと戻ってきた
「リアとセイじゃない!」
「おかえり!」
「二人一緒に帰ってくるとは珍しいな」
下町へ戻ってくると、下町の住民がリアとセイを見つけ次々と声を掛けてくる
こうやって声を掛けてくれるのはリアとセイにとっても嬉しい事だった
二人にとってこの下町は第二の故郷でもあるのだから・・・
そして、
「よ、お二人さん」
「ユーリ!」
下町の噴水広場から少し離れ自分達が住んでいる家へと向かっていると聞き慣れた声が聞こえ前を見ると幼馴染みであるユーリがいた
「珍しいな、ユーリが出迎えとは」
「テッドや他の連中ががリアとセイが帰って来たって騒いでたからな」
下町のみんなは家族同然の存在だから、直ぐに次々に二人が帰ってきた事は自然と耳に入るものだ
そして、リアとセイと昔から一緒に居て一番仲が良いユーリに二人を迎えに行け、とみんなから言われたのだろうと検討がつきリアは小さく笑った後、何かを思った顔をしてユーリを見た
「ユーリ、もう朝ご飯済んじゃった?」
「いや、まだ食ってねえけど」
「ならこれからうちで一緒に食べない? 私と兄さんもまだ食べてないの」
まだ朝早い時間だったので食べたか微妙ではあったがユーリからそう返事が返ってきたので誘ってみると
「そりゃ良いな。リアの飯食うのも久々だしな」
ユーリも久し振りにリアの手料理を食べられると喜んでいて、皆で家へと向かい朝食を取った
食事を済ませた後はハンクス達に挨拶に行ったり、子供達と遊んだり、旅先での話をしたりとしながら数日が過ぎていった
そして、ある日の午後、
「・・・・」
「お、リア、戻って来たか」
「・・・・」
「・・・リア?」
パタンと家の扉が閉まる音が聞こえセイと共にいたユーリがそちらを向くと、丁度帰って来たリアがいたのだが、リアはずっと俯いて無言のままだった
「・・・アスラ、何か遭ったのか?」
「・・ちょっとね・・。リア、とりあえず椅子に座ろう?」
セイとユーリは一緒に居たアスラにそう尋ねるとアスラは苦笑して答えリアを椅子に座るよう促しリアは小さく頷いて椅子に座った
「・・・で、何が遭っ・・・」
「リア! 結婚を申し込まれたって本当!?」
「相手は何処のどいつだ!?」
「なっ!?」「は・・?」
改めて事情を聞こうとしていると外から大勢が走ってくる音が聞こえたかと思ったら勢い良く扉が開き、リアやユーリ、セイと同じくらいの年の下町の住民が家へと乗り込んできた
「・・え/// な、なんでみんな知って・・」
「さっき子供達が騒いでたよ! リアが知らない男の人に結婚を申し込まれたって!」
アスラはこの事態が予想出来ていたのか少し溜め息に似た息を吐いていた
「お前等、ちょっと落ち着けって」
「これが落ち着いていられるかよ、セイ!」
「そうよ! 一大事よ!」
と、一斉に皆抗議の声を上げる
「俺達も今から事情を聞こうとしてた所なんだ。後、リアがこの手の事話しづらいの知ってるだろ。それも含め色々と察してくれ・・・」
「あ、うん・・ごめん」
そこでようやくみんな落ち着きを取り戻したのか、大人しくなった
セイの言う通り、リアがこの手の事について鈍い事も話しづらい事も知っているし、何よりセイが言っていた“色々”の意味にみんなも気付いていて自然とユーリと固まっているリアを見てしまっていた
「話し聞き終わったらみんなにも伝えるからとりあえず今は退散してくれ」
「分かった」
そこでようやく皆家から出て行き、部屋にはリアとセイ、ユーリとアスラだけになった
「・・・ようやく静かになったね」
「ああ。・・リア、ユーリ、そろそろお前等も座れ」
「あ、ああ・・」「う、うん・・・」
少しだけ疲れた表情を浮かべたセイが椅子に腰掛け、二人に声を掛けると二人も座っていた場所へと腰掛けた
「・・で、話しに戻るが・・・」
「・・結婚を申し込まれたって、どう言う事だ?」
セイが話を降る前にユーリがリアを見てそう問いただす
「それは・・・」
「リアからは話しづらいだろうからボクが話すよ」
まだ気持ちの整理が出来ていないリアを見かねてアスラが話を始めた
「今日、子供達と遊ぶ約束してたでしょ。で、広場から離れてちょっと露店街に近い所でいつものように子供達に歌を聴かせてたんだよ」
「・・・それで歌い終わったら急に拍手が聞こえて・・」
パチパチパチ
「?」
「ブラボ~~!! 素晴らしい!! なんて素敵な歌声なんだ!」
「あ、有り難う御座います」
「子供達に囲まれて素敵な笑顔を歌声を披露している! まさに貴方は天使・・いや、女神みたいだ」
「は、はあ・・」
「だあれ、このひと~?」
「リアのしってるひと??」
「僕はルイス・バールズ。お嬢さん、貴女のお名前をお聞かせ下さい」
「え、えっと・・リア・ルーティア、です」
「リアさんだね」
「え?」
突然現れて褒めたりしていたと思ったら次は名前を名乗りリアの名前を聞き終わったと同時にルイスは片膝を付き、そしてリアの目の前に綺麗な薔薇の花束を差し出した
「リアさん、僕と結婚してくれないか?」
「・・・え・・?」
「「「「「「「「「ええええええ!?!?!?!?!?」」」」」」
「・・・子供達の前で恥ずかしげもなく良く堂々とそんな事言えるな、そいつ・・」
「ああ・・で、その後はどうしたんだ?」
「リアは暫く固まってたんだけど、その後返事は今すぐじゃなくて良い。今度会った時に聞かせてくれって言って去って行ったんだよね」
「で、下町に戻って来て子供達がみんなに知らせて、リアはそのまま戻って来て今に至る訳か」
「・・そう言う事」
そこまで聞き、ようやく今の状況が理解出来た
確かにあのリアが『知らない男の人から結婚を申し込まれた』と聞くと、皆黙ってはいないだろう
特にこの場にいるユーリと・・・今は別の街に住んでいるもう一人の幼馴染みであるフレンが聞けば尚の事
「つか、バールズっつったら、貴族でも結構地位があったよな」
「何でまたそんな奴がリアにそう言ったんだ?」
「多分、リアの歌声とかいつもの、だと思うよ」
その“いつもの”と言うのはセイもユーリも、そしてこの下町の住民の皆なら知っている事だった
「・・・で、リアはどうするつもりなんだ?」
「ど、どうって・・・」
貴族が嫌いなユーリは更に面白くないと言う顔をしてリアに尋ねる
今まで告白はされた事はあったものの、いきなり『結婚』だ
恋愛経験がない、そして何よりその関連に鈍いリアには衝撃が大きすぎる
「・・・とにかく俺は連中に話してくるよ。これ以上騒がれたら面倒な事になりかねないからな」
「ボクも行って来るよ」
答えに困っているリアを見てセイはそう言って外へと向かい、アスラも二人に気を遣ってなのかセイと共に外へと向かっていった
「「・・・・」」
残された二人の間には何とも言えない重たい空気だけが漂っていた
「・・・ユーリ、」
「ん?」
「ユーリなら、どうする・・?」
少しの沈黙が続いた後にリアがぽつりとユーリを呼び、更にぽつりとそう尋ねた
「いきなり知らない人から好きって言われたり、結婚して下さいって言われたら・・ユーリなら、どうする・・?」
「オレなら断るよ」
「・・ユーリははっきりしてるもんね」
予想通りの答えが返ってきた事にリアは小さく微笑んだ
「セイもオレと同じで断るだろうな」
「うん・・」
「けど、あいつもリアと同じ反応しそうだよな」
「・・! ふふ、うん、そうかも」
そこでセイと、もう一人の幼馴染みであるフレンも例えで出されその光景が目に浮かんだのかリアはそこでようやくいつもの笑みを見せた
「ようやく笑ったな」
「!」
ユーリも微笑んで言うとリアの頭の上に手を乗せた
「リアが直ぐに断れねえってのはオレ達みんな知ってる。だから困った事があれば直ぐにオレ達を呼べよ。じゃねえと、また心配であいつ等がこの家に乗り込んで来るぞ」
「・・うん、ありがとう」
ユーリや下町のみんなの気持ちが伝わり、嬉しくなったリアは今日一番の笑顔を見せていた
それからまた数日が過ぎたある日、
「フレン!」
「リア、久し振りだね」
リアは噴水広場の前で丁度帝都に用があり戻って来ていたフレンと待ち合わせていた
今日はフレンが戻って来た事もあり、リアの家でユーリとフレン、セイの四人で夕食を取ろうと約束をしていてこの場所でリアとフレンが待ち合わせていたのだった
「フレン、また背伸びた?」
「そうかな?」
「うん、前に会った時はもうちょっと目線を上げなかったし」
ユーリとフレンとセイと比べるとリアは身長が低い為、目線を上げて話す事が多いのでそう言った変化はリアの方が気付きやすいのだろう
「あら、フレンちゃんじゃない!」
「おばさん、こんにちは。お久し振りです」
近くにいた叔母さんがフレンに気付き声を掛け少し話をした後、
「そう言えばリアちゃん、あの話しはどうなったの?」
「え・・? あ、ああ、アレ・・ですか・・」
「・・アレ?」
「なんだい、まだ断ってなかったのお!」
その言葉にフレンは疑問を持ちリアを見ると、リアは苦笑したような少し困ったような顔をしていた
そして次々にリアとフレンを見かけた下町の住民は再会の挨拶からリアのその話題へと続いていく
「・・・リア、さっきからみんなが言っている事は・・?」
「な、何でもないの! それより、もうユーリも来てると思うから早く家に行こう?」
「あ、ああ・・」
リアの態度と誤魔化し方を見て、フレンは何か隠していると解った
リアの家に行くとリアが言っていた通り、ユーリも来ていてセイとアスラと話をしていた所だった
「よお、フレン、久し振りだな」
「久し振り、フレン」
「久し振りだな、セイ、アスラ」
「相変わらずだな、色男」
「君も相変わらずだな、ユーリ」
「ちょっと待っててね。今から残りのものも作っちゃうから。あ、先に好きなもの飲んでて」
「ありがとう」
それぞれ挨拶が終わるとリアはそのままキッチンの方へと向かい、リアの後ろ姿が見えなくなるとフレンは椅子に座り、テーブルの上に並べられている飲み物の中から好きな物を手に取りグラスに注ぎながらユーリ達にある疑問を振った
「ユーリ達に聞きたい事があるんだが」
「なんだ、突然?」
「いや、此処に来る途中でみんながリアにアレ、がどう・・・っと聞いていたんだ」
「・・・ああ、お前も聞いちまったのか」
「え?」
フレンの質問にユーリは心底不機嫌な顔をし、セイもアスラも呆れたような表情を浮かべた
「・・・先に言っておくけど、驚くと思うけど、リアには聞こえないようにしてね。実はね、・・・」
そこからアスラとセイにより、下町のみんなが話していた内容を話すと案の定、フレンも驚いた顔をし声を出しそうになったが、アスラに釘を刺されていたので声は出さなかった
「・・・そんな事になっていたのか」
「直ぐに断れば済む話しだが・・・」
「リアの場合、それがなかなか出来ない、と言いたいんだろ」
「やっぱ、お前も良く解ってんな」
そりゃね、と言う顔をしたフレンだが、それは此処に居る誰もが分かっている事だった
「それで、それはまだ続いていると言う事なのかい?」
「まあね。でもそろそろケリを付けないと面倒な事になりかねないよ」
既にもう二週間程続いている状態だ
今はまだ言葉で伝えているだけだが、時が経てば経つ程、相手も手段を執りかねない
それも相手は貴族だ
何をやるか分からないと言う事は、ずっとリアの様子を見ているセイやアスラ、下町のみんな、そして一番ユーリが気にしている事も分かっていた
「・・・とりあえずこの話は此処で終わり。そろそろリアが料理を運んで来る頃だよ」
「そうだね。僕も暫くは下町にいるから気に留めておくよ」
そう話し終えるとキッチンの方からリアが向かって来ている足音が聞こえ初め、皆この場の空気を変えた
後編へ続く
2018.06.24
「うん。リア達が幼馴染みなのは知ってるけどあんまり子供の頃の話しって聞いた事がなかったから」
夕食も終わり部屋に戻って来て皆寛いでいると、エステルからそう言えば・・・と言ってリア達を見て、リア達の昔の話しを聞いてみたいと言われたのだった
どうやら先程からエステルが読んでいる本に登場する子供達がとても仲が良く、微笑ましいものだった
そして顔を上げると丁度リア達に目が止まり、皆幼い頃からずっと一緒に居る幼馴染み達がその話に出てくる子供達と重なり、カロルやジュディス達も気になったようで今に至っているのだった
「うーん・・、みんなとあんまり変わらないと思うけど・・・」
「それなら一つ変わった事があったよね」
「え?」
「あー確かに、」
「もしかしてアレかい?」
「アレ、だろうな・・・」
子供の頃の事を思い出しているとふとアスラが何かを思い出したようでそう言うとユーリ達も何の事だか解ったのか次々にそう答えた
「え、アレって・・・」
「リアが結婚を申し込まれた話し、だな」
「「「「「ええええ、け、結婚(ですか)っっ!?!?!?」」」」」
セイの言葉にそれまで本を読んでいたリタやベッドに横になって寛いでいたレイヴン、そして話しを聞いていたカロル達も驚きの声を上げていた
「それって、いつの話し!?」
「リアが15くらいの時だったかな・・・」
「15って言ったらリタっちくらいの時よね?」
「そうなるわね」
「ワフっ!」
「なんでそこであたしを見るのよ!」
「うんにゃ。それで、相手はどんな奴だったんじゃ?」
「確か貴族の男だったよな」
「ああ。リアに一目惚れして、何度も申し込んでたね」
「かなりしつこい奴だったよな」
「けど、その頃確かフレンは帝都を離れていたと聞きましたけど・・・」
「ええ。その時は少し用事があってたまたま帝都に戻って来ていたんです」
「で、丁度そん時その騒動になってたって訳だ」
下町の歌姫、結婚騒動(前編)
約5年前 ――
「う~~んっ・・・、今日も良い天気」
「仕事も終わったし、久々に帝都に戻れるな」
「うん。下町のみんな、それにユーリとも会うのも久しぶりだもんね」
此処はデイドン砦の旅人達が休憩を兼ねて休んでいる場所、その一角にリアとセイもテントを張っていた
丁度この辺りでの表向きの仕事も言霊使いとしての仕事も終わり、デイドン砦で一晩過ごしてザーフィアスに戻ろうと決め、朝を迎えた所だった
「二人とも、朝食はどうする?」
「暫くは下町でゆっくりするつもりだからな」
「じゃあ朝食の材料とこれからの分も含めて一緒に買って帰って作る?」
「そうだな。なら、荷物纏めたら帝都に戻るぞ」
「「うん」」
これからの予定を決めリアとセイは荷物を纏め帝都へと向かい、言っていた通り露店街へ寄り食材を買い込んで下町へと戻ってきた
「リアとセイじゃない!」
「おかえり!」
「二人一緒に帰ってくるとは珍しいな」
下町へ戻ってくると、下町の住民がリアとセイを見つけ次々と声を掛けてくる
こうやって声を掛けてくれるのはリアとセイにとっても嬉しい事だった
二人にとってこの下町は第二の故郷でもあるのだから・・・
そして、
「よ、お二人さん」
「ユーリ!」
下町の噴水広場から少し離れ自分達が住んでいる家へと向かっていると聞き慣れた声が聞こえ前を見ると幼馴染みであるユーリがいた
「珍しいな、ユーリが出迎えとは」
「テッドや他の連中ががリアとセイが帰って来たって騒いでたからな」
下町のみんなは家族同然の存在だから、直ぐに次々に二人が帰ってきた事は自然と耳に入るものだ
そして、リアとセイと昔から一緒に居て一番仲が良いユーリに二人を迎えに行け、とみんなから言われたのだろうと検討がつきリアは小さく笑った後、何かを思った顔をしてユーリを見た
「ユーリ、もう朝ご飯済んじゃった?」
「いや、まだ食ってねえけど」
「ならこれからうちで一緒に食べない? 私と兄さんもまだ食べてないの」
まだ朝早い時間だったので食べたか微妙ではあったがユーリからそう返事が返ってきたので誘ってみると
「そりゃ良いな。リアの飯食うのも久々だしな」
ユーリも久し振りにリアの手料理を食べられると喜んでいて、皆で家へと向かい朝食を取った
食事を済ませた後はハンクス達に挨拶に行ったり、子供達と遊んだり、旅先での話をしたりとしながら数日が過ぎていった
そして、ある日の午後、
「・・・・」
「お、リア、戻って来たか」
「・・・・」
「・・・リア?」
パタンと家の扉が閉まる音が聞こえセイと共にいたユーリがそちらを向くと、丁度帰って来たリアがいたのだが、リアはずっと俯いて無言のままだった
「・・・アスラ、何か遭ったのか?」
「・・ちょっとね・・。リア、とりあえず椅子に座ろう?」
セイとユーリは一緒に居たアスラにそう尋ねるとアスラは苦笑して答えリアを椅子に座るよう促しリアは小さく頷いて椅子に座った
「・・・で、何が遭っ・・・」
「リア! 結婚を申し込まれたって本当!?」
「相手は何処のどいつだ!?」
「なっ!?」「は・・?」
改めて事情を聞こうとしていると外から大勢が走ってくる音が聞こえたかと思ったら勢い良く扉が開き、リアやユーリ、セイと同じくらいの年の下町の住民が家へと乗り込んできた
「・・え/// な、なんでみんな知って・・」
「さっき子供達が騒いでたよ! リアが知らない男の人に結婚を申し込まれたって!」
アスラはこの事態が予想出来ていたのか少し溜め息に似た息を吐いていた
「お前等、ちょっと落ち着けって」
「これが落ち着いていられるかよ、セイ!」
「そうよ! 一大事よ!」
と、一斉に皆抗議の声を上げる
「俺達も今から事情を聞こうとしてた所なんだ。後、リアがこの手の事話しづらいの知ってるだろ。それも含め色々と察してくれ・・・」
「あ、うん・・ごめん」
そこでようやくみんな落ち着きを取り戻したのか、大人しくなった
セイの言う通り、リアがこの手の事について鈍い事も話しづらい事も知っているし、何よりセイが言っていた“色々”の意味にみんなも気付いていて自然とユーリと固まっているリアを見てしまっていた
「話し聞き終わったらみんなにも伝えるからとりあえず今は退散してくれ」
「分かった」
そこでようやく皆家から出て行き、部屋にはリアとセイ、ユーリとアスラだけになった
「・・・ようやく静かになったね」
「ああ。・・リア、ユーリ、そろそろお前等も座れ」
「あ、ああ・・」「う、うん・・・」
少しだけ疲れた表情を浮かべたセイが椅子に腰掛け、二人に声を掛けると二人も座っていた場所へと腰掛けた
「・・で、話しに戻るが・・・」
「・・結婚を申し込まれたって、どう言う事だ?」
セイが話を降る前にユーリがリアを見てそう問いただす
「それは・・・」
「リアからは話しづらいだろうからボクが話すよ」
まだ気持ちの整理が出来ていないリアを見かねてアスラが話を始めた
「今日、子供達と遊ぶ約束してたでしょ。で、広場から離れてちょっと露店街に近い所でいつものように子供達に歌を聴かせてたんだよ」
「・・・それで歌い終わったら急に拍手が聞こえて・・」
パチパチパチ
「?」
「ブラボ~~!! 素晴らしい!! なんて素敵な歌声なんだ!」
「あ、有り難う御座います」
「子供達に囲まれて素敵な笑顔を歌声を披露している! まさに貴方は天使・・いや、女神みたいだ」
「は、はあ・・」
「だあれ、このひと~?」
「リアのしってるひと??」
「僕はルイス・バールズ。お嬢さん、貴女のお名前をお聞かせ下さい」
「え、えっと・・リア・ルーティア、です」
「リアさんだね」
「え?」
突然現れて褒めたりしていたと思ったら次は名前を名乗りリアの名前を聞き終わったと同時にルイスは片膝を付き、そしてリアの目の前に綺麗な薔薇の花束を差し出した
「リアさん、僕と結婚してくれないか?」
「・・・え・・?」
「「「「「「「「「ええええええ!?!?!?!?!?」」」」」」
「・・・子供達の前で恥ずかしげもなく良く堂々とそんな事言えるな、そいつ・・」
「ああ・・で、その後はどうしたんだ?」
「リアは暫く固まってたんだけど、その後返事は今すぐじゃなくて良い。今度会った時に聞かせてくれって言って去って行ったんだよね」
「で、下町に戻って来て子供達がみんなに知らせて、リアはそのまま戻って来て今に至る訳か」
「・・そう言う事」
そこまで聞き、ようやく今の状況が理解出来た
確かにあのリアが『知らない男の人から結婚を申し込まれた』と聞くと、皆黙ってはいないだろう
特にこの場にいるユーリと・・・今は別の街に住んでいるもう一人の幼馴染みであるフレンが聞けば尚の事
「つか、バールズっつったら、貴族でも結構地位があったよな」
「何でまたそんな奴がリアにそう言ったんだ?」
「多分、リアの歌声とかいつもの、だと思うよ」
その“いつもの”と言うのはセイもユーリも、そしてこの下町の住民の皆なら知っている事だった
「・・・で、リアはどうするつもりなんだ?」
「ど、どうって・・・」
貴族が嫌いなユーリは更に面白くないと言う顔をしてリアに尋ねる
今まで告白はされた事はあったものの、いきなり『結婚』だ
恋愛経験がない、そして何よりその関連に鈍いリアには衝撃が大きすぎる
「・・・とにかく俺は連中に話してくるよ。これ以上騒がれたら面倒な事になりかねないからな」
「ボクも行って来るよ」
答えに困っているリアを見てセイはそう言って外へと向かい、アスラも二人に気を遣ってなのかセイと共に外へと向かっていった
「「・・・・」」
残された二人の間には何とも言えない重たい空気だけが漂っていた
「・・・ユーリ、」
「ん?」
「ユーリなら、どうする・・?」
少しの沈黙が続いた後にリアがぽつりとユーリを呼び、更にぽつりとそう尋ねた
「いきなり知らない人から好きって言われたり、結婚して下さいって言われたら・・ユーリなら、どうする・・?」
「オレなら断るよ」
「・・ユーリははっきりしてるもんね」
予想通りの答えが返ってきた事にリアは小さく微笑んだ
「セイもオレと同じで断るだろうな」
「うん・・」
「けど、あいつもリアと同じ反応しそうだよな」
「・・! ふふ、うん、そうかも」
そこでセイと、もう一人の幼馴染みであるフレンも例えで出されその光景が目に浮かんだのかリアはそこでようやくいつもの笑みを見せた
「ようやく笑ったな」
「!」
ユーリも微笑んで言うとリアの頭の上に手を乗せた
「リアが直ぐに断れねえってのはオレ達みんな知ってる。だから困った事があれば直ぐにオレ達を呼べよ。じゃねえと、また心配であいつ等がこの家に乗り込んで来るぞ」
「・・うん、ありがとう」
ユーリや下町のみんなの気持ちが伝わり、嬉しくなったリアは今日一番の笑顔を見せていた
それからまた数日が過ぎたある日、
「フレン!」
「リア、久し振りだね」
リアは噴水広場の前で丁度帝都に用があり戻って来ていたフレンと待ち合わせていた
今日はフレンが戻って来た事もあり、リアの家でユーリとフレン、セイの四人で夕食を取ろうと約束をしていてこの場所でリアとフレンが待ち合わせていたのだった
「フレン、また背伸びた?」
「そうかな?」
「うん、前に会った時はもうちょっと目線を上げなかったし」
ユーリとフレンとセイと比べるとリアは身長が低い為、目線を上げて話す事が多いのでそう言った変化はリアの方が気付きやすいのだろう
「あら、フレンちゃんじゃない!」
「おばさん、こんにちは。お久し振りです」
近くにいた叔母さんがフレンに気付き声を掛け少し話をした後、
「そう言えばリアちゃん、あの話しはどうなったの?」
「え・・? あ、ああ、アレ・・ですか・・」
「・・アレ?」
「なんだい、まだ断ってなかったのお!」
その言葉にフレンは疑問を持ちリアを見ると、リアは苦笑したような少し困ったような顔をしていた
そして次々にリアとフレンを見かけた下町の住民は再会の挨拶からリアのその話題へと続いていく
「・・・リア、さっきからみんなが言っている事は・・?」
「な、何でもないの! それより、もうユーリも来てると思うから早く家に行こう?」
「あ、ああ・・」
リアの態度と誤魔化し方を見て、フレンは何か隠していると解った
リアの家に行くとリアが言っていた通り、ユーリも来ていてセイとアスラと話をしていた所だった
「よお、フレン、久し振りだな」
「久し振り、フレン」
「久し振りだな、セイ、アスラ」
「相変わらずだな、色男」
「君も相変わらずだな、ユーリ」
「ちょっと待っててね。今から残りのものも作っちゃうから。あ、先に好きなもの飲んでて」
「ありがとう」
それぞれ挨拶が終わるとリアはそのままキッチンの方へと向かい、リアの後ろ姿が見えなくなるとフレンは椅子に座り、テーブルの上に並べられている飲み物の中から好きな物を手に取りグラスに注ぎながらユーリ達にある疑問を振った
「ユーリ達に聞きたい事があるんだが」
「なんだ、突然?」
「いや、此処に来る途中でみんながリアにアレ、がどう・・・っと聞いていたんだ」
「・・・ああ、お前も聞いちまったのか」
「え?」
フレンの質問にユーリは心底不機嫌な顔をし、セイもアスラも呆れたような表情を浮かべた
「・・・先に言っておくけど、驚くと思うけど、リアには聞こえないようにしてね。実はね、・・・」
そこからアスラとセイにより、下町のみんなが話していた内容を話すと案の定、フレンも驚いた顔をし声を出しそうになったが、アスラに釘を刺されていたので声は出さなかった
「・・・そんな事になっていたのか」
「直ぐに断れば済む話しだが・・・」
「リアの場合、それがなかなか出来ない、と言いたいんだろ」
「やっぱ、お前も良く解ってんな」
そりゃね、と言う顔をしたフレンだが、それは此処に居る誰もが分かっている事だった
「それで、それはまだ続いていると言う事なのかい?」
「まあね。でもそろそろケリを付けないと面倒な事になりかねないよ」
既にもう二週間程続いている状態だ
今はまだ言葉で伝えているだけだが、時が経てば経つ程、相手も手段を執りかねない
それも相手は貴族だ
何をやるか分からないと言う事は、ずっとリアの様子を見ているセイやアスラ、下町のみんな、そして一番ユーリが気にしている事も分かっていた
「・・・とりあえずこの話は此処で終わり。そろそろリアが料理を運んで来る頃だよ」
「そうだね。僕も暫くは下町にいるから気に留めておくよ」
そう話し終えるとキッチンの方からリアが向かって来ている足音が聞こえ初め、皆この場の空気を変えた
後編へ続く
2018.06.24