救出編
夢主名変更
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「・・・時が満ちた。来たまえ」
そう言ってアレクセイが私の所に来たのはあれから30分くらいしてからだった
リアとエステルの救出を目指して、オレ達は御剣の階梯へ続く仕掛けを解いていた時だった
「セイ! アスラ! フキ!」
突然何処からか子供の声が聞こえた
途端、オレ達の前に青い髪の子供が現れた
「カムイ、どうした?」
どうやらこいつもアスラとフキと同じく式神らしい
「大変だよ。アレクセイがリアを何処かに連れて行っちゃった!」
「「!」」
カムイの言葉にオレ達は眉を寄せた
「何処か解らないのか?」
「今みんなで探してるけど、この城の中には気配を感じないみたい・・・」
カムイは顔を俯けて言うと、セイとアスラとフキがカムイの側に行って何か話し出した
「城の中で気配を感じないって事は他の場所に移動させたって事かしら?」
「奴さんの計画にリアちゃんは必要じゃないって事?」
「それとも此処で必要じゃないかだな・・・」
オレ達が話しをしていると、仕掛けを解いていたカロルとリタがオレ達の所に戻って来た
それと同時にカムイとフキが姿を消した
「さっきの、伝言か何か?」
「ああ。アレクセイの野郎がリアを別の場所に連れて行ったらしい」
「え! じゃあリアは何処に?」
「それはまだ調べてる所だ。フキにも捜索に向かって貰った」
「リアの事はフキ達に任せて、ボク達は目の前の事をやろう」
リアの事一番心配しているのはこの二人のはず
だけど、そう言い切れるのはフキ達を信頼しているからだろう
「そうだな。行くぜ」
それを理解したオレ達は返事を返し、アレクセイがいる御剣の階梯を目指した
71.対となる鍵
アレクセイに連れられて来た所は城の最上部、国の偉い人達しか入れない場所、御剣の階梯だった
そしてそこにはあの夢で見た術式結界に閉じ込められているエステルの姿があった
「! エステル」
だが、エステルは意識のない目をしていた
(・・・完全に拒絶してる・・・)
エステルは満月の子の力で傷つけた、失ったものの痛みに絶えきれず心を閉ざし、その力を拒絶し嘆いていた
『―― 殺して』
「っ・・・」
途端、またあの言葉が耳に響いた
「・・・エステル」
私は悲しい顔をしながら優しい声音でもう一度エステルの名前を呼んだ
その声にピクリと反応し、ゆっくりと私の方を向いた
「・・・リ、ア?」
エステルは私の姿を確認すると先程までの表情と違い、意識も完全に戻りとても驚いた顔をして私を見ていた
「リア、無事だったんですね! でも、どうして此処に!? それにどうしてリアも術式結界に・・・?」
エステルは一息で思っている事を言い、エステルとは別の術式結界に閉じ込められている私を見て疑問符を出していた
「エステルと一緒に連れて来られたみたいね」
私は安心して優しく微笑んで苦笑まじりに言うとエステルはまた驚いた顔をして、きっとアレクセイを睨んだ
「アレクセイ、どういう事ですか!」
「彼女には姫様とは別にやってもらう事があるのですよ」
「別に、やる事・・・?」
その言葉に私もエステルも疑問を抱いた
確かにアレクセイは私の・・・言霊使いの力がどうと言う事を言っていた
そして、最後には私とエステルの犠牲により世界は救われる、と・・・
「さて、話は此処までにしよう」
そう言ってアレクセイは聖核を取り出し、エステルの方へ掲げた
「ああぁぁぁ!」
「エステル!」
エステルの意識は段々と遠ざかっていき、また自身を無くした目になってしまった
「・・・っ」
それは一瞬の事だった
多分、アレクセイがエステルと話をさせる為に数分だけ術を解いたのだろう
私はその様子を苦虫を噛む思いで見ているしかなかった
「さて、君には少し隠れていてもらおうか」
「どういう・・・!」
アレクセイは私に向き合い、私はその意味を聞こうとすると下の方から人の気配と足音が聞こえだした
(・・・もしかして・・・)
私はゆっくりと走って来る音が聞こえる方へと視線を向ける
今、御剣の階梯を駆け上がって来る人物
それは私の幼馴染みであり、親友であり、親族であり、相棒であり、そして何より、私とエステルにとってもとても大切な人達・・・
「ユーリ! 兄さん! アスラ! みんな!!」
私はみんなの姿が見えた途端に叫んだ
だがその声はアレクレイが持っている聖核で壁を作られてしまっている所為で、ユーリ達に届く事は無かった
ユーリ達は頂上に着くと立ち止まりアレクセイとの間に暫く沈黙が流れた
その間は風の吹きすさむ音だけが響いていた
「・・・呆れたものだ。あの衝撃でも死なないとは」
最初に口を開いたのは余裕を見せるアレクセイだった
「危うくご期待に沿えるとこだったけどな」
ユーリの静かな声が一層空気を張り詰めさせる
「エステル返してぶっ倒されんのとぶっ倒されてエステル返すのと、どっちか選びな」
ユーリはちらりとエステルを見た後、アレクセイを睨み付けながらそう告げた
「月並みで悪いが、どちらも断ると言ったら?」
「じゃあオレが決めてやるよ」
ユーリは静かに言うと剣を抜き、構えた
だがアレクセイは振り返る事も無く、ただエステルを恍惚の表情で見つめている
「姫の力は本当に素晴らしかった。古の満月の子等と比べても遜色あるまい。人にはそれぞれ相応しい役回りというものがある。姫はそれを立派に果たしてくれた」
「用が済んだってんなら、尚の事返してもらうぜ」
少しの沈黙が流れた後、アレクセイはさらりと答えた
「いいとも」
聖核で術式結界を操り、エステルをユーリ達の方に向け、アレクセイは私を一瞥した
「・・・後はもう一人の姫がいれば良いだけだ」
「・・・何?」
「きゃあっ!」
その言葉と同時に私の周りを囲んでいた結界と壁が壊れ、私は前のめりになり地面に膝と手を着いた
「「「「「「「リア(ちゃん)っ!」」」」」」」
突然現れた私の姿にユーリ達は驚いた
「これから君に面白いものを見せてあげよう」
「え?」
アレクセイは私にだけ聞こえる声でいい、顔を上げるとアレクセイは口角を上げて笑った
「リアっ!」
ユーリが私の所へ走って来ようとしていると術式結界から解放されたエステルが、剣と盾を構えてユーリに向かって走って行き剣を振り翳した
「うおっ!!」
ユーリは咄嗟に剣でそれを受け止めるが、エステルの尋常じゃない力にユーリはその場から動けなくなってしまう
「ユーリ! エステル!」
「エステル! どうしたんだよ!」
思いもよらない出来事に私とカロルは思わず叫んでしまう
「待って。操られているようよ」
ジュディスの言う通り、今のエステルは精神ダメージを受け自身を失っている為、アレクセイに良いように操られている
「取り戻してどうする? 姫の力はもう本人の意思ではどうにもならん。我がシステムによってようやく制御している状態なのだ。暴走した魔導器を止めるには破壊するしかない。諸君なら良く知っているはずだな」
「エステルを物呼ばわりしないで!!」
「ああ、まさしくかけがえのない道具だったよ、姫は。お前もだ、シュヴァーン。生き延びたのならまた使ってやる。さっさと道具らしく戻って来るが良い」
「シュヴァーンなら可哀想に、あんたが生き埋めにしたでしょが。俺はレイヴン。そこんとこよろしく」
その言葉、言い方は紛れもなく私の知っているレイヴンだった
「で、エステルやシュヴァーンが使えなくなったから今度はリアってか?」
「リアの・・・言霊使いの力って訳?」
兄さんとアスラはいつもより少し声のトーンが低かった
徐々に怒りが露わになって着ているが、アレクセイは気にした様子もなく言葉を続ける
「流石と言うべきかな。だが、生憎と言霊使いの姫はまだ役回りを果たしていない」
「どういう事?」
「もう一人の姫の役回りは、これからと言う事さ」
「役回りがあるってのは同感だけどな、その中身は自分で決めるもんだろ」
「それで無駄な人生を送る者もいると言うのにかね。異な事を」
「自分で選んだなら受け入れるよ。自分で決めるってのはそう言う事だ!」
「・・・カロル」
(暫く見ない間に成長したみたいね)
カロルの凛々しい言葉と態度に私は自然と微笑んでいた
「残念だな。何処までも平行線か」
アレクセイはそう言ってまた私の周りに術式結界を張り、四方に聖核を置き、剣を抜いた
そしてその剣には聖核が埋め込まれていた
アレクセイは剣を構えると私の周りを囲んでいる聖核が光だした
「きゃあああ!!」
「リアっ!!」
ユーリがエステルの剣を上手く払い除けたが、また直ぐにエステルが剣を振り翳す
「よせ、エステル! くっそおお!!」
その状況を楽しそうに見ていたアレクセイは、更に表情を歪めながらユーリ達を見つめた
「君達は言霊使いの姫の本当の力を知らないだろう。彼女は『鍵』なのだよ」
「・・・鍵?」
「そうだ。そして・・・」
アレクセイは聖核が埋め込まれている剣をエステルに向ける
「双方の姫は対となる鍵なのだよ!」
「きゃあああ!!」
「エステル!!」
エステルはまた術式結界に閉じ込められ、私と同じく力を引き出され叫んでしまう
「やめろ!!」「やめて!!」
ユーリ達の叫びを聞くが、アレクセイは気にもせず、喉の奥でくつくつと笑った
「諸君のお陰でこうして宙の戒典に変わる新しい『鍵』・・・真の満月の子と言霊使いの姫を手に入れる事が出来た。礼と言っては何だが、我が計画の仕上げを見届けて頂こう」
「「きゃあああ!!」」
アレクセイが掲げた聖核により、私とエステルはまた力を引き出され、悲鳴を上げる
すると帝都全体を漂っていたエアルの光がどんどんと御剣の階梯の中央にいる私とエステルに取り込まれていき、青白い光を放ち、私達の真上にある結界魔導器の紋章が、連動するようにバチバチと光を放ち、白い閃光が一気に空を、雲を貫き、海の方へ飛んで行った
その衝撃で海の水が大きく立ち昇り、白い靄が消えた先には不思議な指輪の様な形をした遺跡が現れた
「・・・なっ・・・」
「く・・・何だ、ありゃ・・・」
「あれは・・・ミョルゾで見た・・・」
「・・・ザウデ不落宮・・・」
ユーリ達はエアルの乱れを受けて辛そうにしている中、現れた物を見てアスラがそう小さく言った
「くくく・・・ははは・・・成功だ! やったぞ、遂にやった!! 双方の姫には感謝の言葉もない」
「くっ、どういう事だ?」
「双方の姫はあのザウデ不落宮の対となる鍵なのだよ。そして」
アレクセイは自慢げに言うとまた自分の世界へと戻って行く
「あれこそ、古代文明が生み出した究極の遺産!! かつて世界を見舞った災厄をも打ち砕いたと言う究極の魔導器!」
「魔導器!? あれが・・・」
「誰もいないとこでやってくれ。聞いてて恥ずかしいぜ」
アレクセイは一息吐き、満足げに言う
「・・・ショーは終わりだ。幕引きをするとしよう」
「終わったんなら、リアとエステル返して貰うぜ」
「言い方が悪かったな。エステリーゼ姫のショーは終わり、と言う意味だ」
アレクセイは力を使って疲れ切っている私の腕を掴み立ち上がらせると私の肩を抱き、自分の方へ引き寄せ口角を上げて笑った
「彼女のショーは、これからだ」
「っ・・・」
私はその手を払い除け直ぐさまユーリの元に向かいたかったが、さっき思いっきり力を引き出され動く事が出来ないうえに、此処でアレクセイに従わなければエステルやユーリ達の身の保証が無い事は解っていたので大人しくしていた
「さて・・・」
アレクセイは私の反応を見て満足そうに笑い、エステルを見た
「姫、一人ずつお仲間の首を落として差し上げるが良い」
「なっ!」「! てめえ・・・」
冷たい目でユーリ達を流すように見つめ、エステルの光の結界を解き、振り返える
「姫も君達がわざわざ此処に来たりしなげれば、こんな事をせずに済んだものを。我に返った時の姫の事を思うと心が痛むよ」
アレクセイは自分の方に引き寄せた私をじっと見つめた
「君は姫より大事な『鍵』なのでな。丁寧に扱わなくては・・・」
「まだリアを利用するってのか」
ユーリのその言葉にはいつも以上に怒りが込められていた
「言霊使いの姫の鍵はこんな事では使い終わらない・・・これからだ」
その言葉に背筋がぞくりとした
「では、ごきげんよう・・・」
アレクセイは紳士のように良いお辞儀をすると私を連れて歩き出した
「待てってんだ、アレクセイ!」
それを見たユーリはエステルの剣を払い除け、アレクセイと私の所へ走って来た
「リア!!」
「ユーリ!!」
私はユーリに手を伸ばしユーリも必死に私の手を掴もうとするが、アレクセイの起こした風に包まれてしまいその手を掴む事が出来なかった
「くそっ、リアーーー!!」
風に包まれ移動する中、ユーリの必死の叫びが聞こえた
続く
あとがき
にゃあぁぁぁ~~~!! やっと此処まで書けました!!
はい、此処が一番書きたかった所なのです!!
いや、夢小説書いてる人なら此処が書きたいのは当たり前か(笑)
冒頭でまたまた新しい子が出て来ました
カムイ、ちょっとしか出番なくてごめんねι
さてさて、話しもいよいよ架橋です!!
でもまた次回からユーリかセイ兄ちゃん視点で書きますι
またプロットがないから悩みながら書かなきゃな・・・ι
ではまた次回お楽しみ下さい!!
下書き:2008.12.27
完成:2009.08.06
そう言ってアレクセイが私の所に来たのはあれから30分くらいしてからだった
リアとエステルの救出を目指して、オレ達は御剣の階梯へ続く仕掛けを解いていた時だった
「セイ! アスラ! フキ!」
突然何処からか子供の声が聞こえた
途端、オレ達の前に青い髪の子供が現れた
「カムイ、どうした?」
どうやらこいつもアスラとフキと同じく式神らしい
「大変だよ。アレクセイがリアを何処かに連れて行っちゃった!」
「「!」」
カムイの言葉にオレ達は眉を寄せた
「何処か解らないのか?」
「今みんなで探してるけど、この城の中には気配を感じないみたい・・・」
カムイは顔を俯けて言うと、セイとアスラとフキがカムイの側に行って何か話し出した
「城の中で気配を感じないって事は他の場所に移動させたって事かしら?」
「奴さんの計画にリアちゃんは必要じゃないって事?」
「それとも此処で必要じゃないかだな・・・」
オレ達が話しをしていると、仕掛けを解いていたカロルとリタがオレ達の所に戻って来た
それと同時にカムイとフキが姿を消した
「さっきの、伝言か何か?」
「ああ。アレクセイの野郎がリアを別の場所に連れて行ったらしい」
「え! じゃあリアは何処に?」
「それはまだ調べてる所だ。フキにも捜索に向かって貰った」
「リアの事はフキ達に任せて、ボク達は目の前の事をやろう」
リアの事一番心配しているのはこの二人のはず
だけど、そう言い切れるのはフキ達を信頼しているからだろう
「そうだな。行くぜ」
それを理解したオレ達は返事を返し、アレクセイがいる御剣の階梯を目指した
71.対となる鍵
アレクセイに連れられて来た所は城の最上部、国の偉い人達しか入れない場所、御剣の階梯だった
そしてそこにはあの夢で見た術式結界に閉じ込められているエステルの姿があった
「! エステル」
だが、エステルは意識のない目をしていた
(・・・完全に拒絶してる・・・)
エステルは満月の子の力で傷つけた、失ったものの痛みに絶えきれず心を閉ざし、その力を拒絶し嘆いていた
『―― 殺して』
「っ・・・」
途端、またあの言葉が耳に響いた
「・・・エステル」
私は悲しい顔をしながら優しい声音でもう一度エステルの名前を呼んだ
その声にピクリと反応し、ゆっくりと私の方を向いた
「・・・リ、ア?」
エステルは私の姿を確認すると先程までの表情と違い、意識も完全に戻りとても驚いた顔をして私を見ていた
「リア、無事だったんですね! でも、どうして此処に!? それにどうしてリアも術式結界に・・・?」
エステルは一息で思っている事を言い、エステルとは別の術式結界に閉じ込められている私を見て疑問符を出していた
「エステルと一緒に連れて来られたみたいね」
私は安心して優しく微笑んで苦笑まじりに言うとエステルはまた驚いた顔をして、きっとアレクセイを睨んだ
「アレクセイ、どういう事ですか!」
「彼女には姫様とは別にやってもらう事があるのですよ」
「別に、やる事・・・?」
その言葉に私もエステルも疑問を抱いた
確かにアレクセイは私の・・・言霊使いの力がどうと言う事を言っていた
そして、最後には私とエステルの犠牲により世界は救われる、と・・・
「さて、話は此処までにしよう」
そう言ってアレクセイは聖核を取り出し、エステルの方へ掲げた
「ああぁぁぁ!」
「エステル!」
エステルの意識は段々と遠ざかっていき、また自身を無くした目になってしまった
「・・・っ」
それは一瞬の事だった
多分、アレクセイがエステルと話をさせる為に数分だけ術を解いたのだろう
私はその様子を苦虫を噛む思いで見ているしかなかった
「さて、君には少し隠れていてもらおうか」
「どういう・・・!」
アレクセイは私に向き合い、私はその意味を聞こうとすると下の方から人の気配と足音が聞こえだした
(・・・もしかして・・・)
私はゆっくりと走って来る音が聞こえる方へと視線を向ける
今、御剣の階梯を駆け上がって来る人物
それは私の幼馴染みであり、親友であり、親族であり、相棒であり、そして何より、私とエステルにとってもとても大切な人達・・・
「ユーリ! 兄さん! アスラ! みんな!!」
私はみんなの姿が見えた途端に叫んだ
だがその声はアレクレイが持っている聖核で壁を作られてしまっている所為で、ユーリ達に届く事は無かった
ユーリ達は頂上に着くと立ち止まりアレクセイとの間に暫く沈黙が流れた
その間は風の吹きすさむ音だけが響いていた
「・・・呆れたものだ。あの衝撃でも死なないとは」
最初に口を開いたのは余裕を見せるアレクセイだった
「危うくご期待に沿えるとこだったけどな」
ユーリの静かな声が一層空気を張り詰めさせる
「エステル返してぶっ倒されんのとぶっ倒されてエステル返すのと、どっちか選びな」
ユーリはちらりとエステルを見た後、アレクセイを睨み付けながらそう告げた
「月並みで悪いが、どちらも断ると言ったら?」
「じゃあオレが決めてやるよ」
ユーリは静かに言うと剣を抜き、構えた
だがアレクセイは振り返る事も無く、ただエステルを恍惚の表情で見つめている
「姫の力は本当に素晴らしかった。古の満月の子等と比べても遜色あるまい。人にはそれぞれ相応しい役回りというものがある。姫はそれを立派に果たしてくれた」
「用が済んだってんなら、尚の事返してもらうぜ」
少しの沈黙が流れた後、アレクセイはさらりと答えた
「いいとも」
聖核で術式結界を操り、エステルをユーリ達の方に向け、アレクセイは私を一瞥した
「・・・後はもう一人の姫がいれば良いだけだ」
「・・・何?」
「きゃあっ!」
その言葉と同時に私の周りを囲んでいた結界と壁が壊れ、私は前のめりになり地面に膝と手を着いた
「「「「「「「リア(ちゃん)っ!」」」」」」」
突然現れた私の姿にユーリ達は驚いた
「これから君に面白いものを見せてあげよう」
「え?」
アレクセイは私にだけ聞こえる声でいい、顔を上げるとアレクセイは口角を上げて笑った
「リアっ!」
ユーリが私の所へ走って来ようとしていると術式結界から解放されたエステルが、剣と盾を構えてユーリに向かって走って行き剣を振り翳した
「うおっ!!」
ユーリは咄嗟に剣でそれを受け止めるが、エステルの尋常じゃない力にユーリはその場から動けなくなってしまう
「ユーリ! エステル!」
「エステル! どうしたんだよ!」
思いもよらない出来事に私とカロルは思わず叫んでしまう
「待って。操られているようよ」
ジュディスの言う通り、今のエステルは精神ダメージを受け自身を失っている為、アレクセイに良いように操られている
「取り戻してどうする? 姫の力はもう本人の意思ではどうにもならん。我がシステムによってようやく制御している状態なのだ。暴走した魔導器を止めるには破壊するしかない。諸君なら良く知っているはずだな」
「エステルを物呼ばわりしないで!!」
「ああ、まさしくかけがえのない道具だったよ、姫は。お前もだ、シュヴァーン。生き延びたのならまた使ってやる。さっさと道具らしく戻って来るが良い」
「シュヴァーンなら可哀想に、あんたが生き埋めにしたでしょが。俺はレイヴン。そこんとこよろしく」
その言葉、言い方は紛れもなく私の知っているレイヴンだった
「で、エステルやシュヴァーンが使えなくなったから今度はリアってか?」
「リアの・・・言霊使いの力って訳?」
兄さんとアスラはいつもより少し声のトーンが低かった
徐々に怒りが露わになって着ているが、アレクセイは気にした様子もなく言葉を続ける
「流石と言うべきかな。だが、生憎と言霊使いの姫はまだ役回りを果たしていない」
「どういう事?」
「もう一人の姫の役回りは、これからと言う事さ」
「役回りがあるってのは同感だけどな、その中身は自分で決めるもんだろ」
「それで無駄な人生を送る者もいると言うのにかね。異な事を」
「自分で選んだなら受け入れるよ。自分で決めるってのはそう言う事だ!」
「・・・カロル」
(暫く見ない間に成長したみたいね)
カロルの凛々しい言葉と態度に私は自然と微笑んでいた
「残念だな。何処までも平行線か」
アレクセイはそう言ってまた私の周りに術式結界を張り、四方に聖核を置き、剣を抜いた
そしてその剣には聖核が埋め込まれていた
アレクセイは剣を構えると私の周りを囲んでいる聖核が光だした
「きゃあああ!!」
「リアっ!!」
ユーリがエステルの剣を上手く払い除けたが、また直ぐにエステルが剣を振り翳す
「よせ、エステル! くっそおお!!」
その状況を楽しそうに見ていたアレクセイは、更に表情を歪めながらユーリ達を見つめた
「君達は言霊使いの姫の本当の力を知らないだろう。彼女は『鍵』なのだよ」
「・・・鍵?」
「そうだ。そして・・・」
アレクセイは聖核が埋め込まれている剣をエステルに向ける
「双方の姫は対となる鍵なのだよ!」
「きゃあああ!!」
「エステル!!」
エステルはまた術式結界に閉じ込められ、私と同じく力を引き出され叫んでしまう
「やめろ!!」「やめて!!」
ユーリ達の叫びを聞くが、アレクセイは気にもせず、喉の奥でくつくつと笑った
「諸君のお陰でこうして宙の戒典に変わる新しい『鍵』・・・真の満月の子と言霊使いの姫を手に入れる事が出来た。礼と言っては何だが、我が計画の仕上げを見届けて頂こう」
「「きゃあああ!!」」
アレクセイが掲げた聖核により、私とエステルはまた力を引き出され、悲鳴を上げる
すると帝都全体を漂っていたエアルの光がどんどんと御剣の階梯の中央にいる私とエステルに取り込まれていき、青白い光を放ち、私達の真上にある結界魔導器の紋章が、連動するようにバチバチと光を放ち、白い閃光が一気に空を、雲を貫き、海の方へ飛んで行った
その衝撃で海の水が大きく立ち昇り、白い靄が消えた先には不思議な指輪の様な形をした遺跡が現れた
「・・・なっ・・・」
「く・・・何だ、ありゃ・・・」
「あれは・・・ミョルゾで見た・・・」
「・・・ザウデ不落宮・・・」
ユーリ達はエアルの乱れを受けて辛そうにしている中、現れた物を見てアスラがそう小さく言った
「くくく・・・ははは・・・成功だ! やったぞ、遂にやった!! 双方の姫には感謝の言葉もない」
「くっ、どういう事だ?」
「双方の姫はあのザウデ不落宮の対となる鍵なのだよ。そして」
アレクセイは自慢げに言うとまた自分の世界へと戻って行く
「あれこそ、古代文明が生み出した究極の遺産!! かつて世界を見舞った災厄をも打ち砕いたと言う究極の魔導器!」
「魔導器!? あれが・・・」
「誰もいないとこでやってくれ。聞いてて恥ずかしいぜ」
アレクセイは一息吐き、満足げに言う
「・・・ショーは終わりだ。幕引きをするとしよう」
「終わったんなら、リアとエステル返して貰うぜ」
「言い方が悪かったな。エステリーゼ姫のショーは終わり、と言う意味だ」
アレクセイは力を使って疲れ切っている私の腕を掴み立ち上がらせると私の肩を抱き、自分の方へ引き寄せ口角を上げて笑った
「彼女のショーは、これからだ」
「っ・・・」
私はその手を払い除け直ぐさまユーリの元に向かいたかったが、さっき思いっきり力を引き出され動く事が出来ないうえに、此処でアレクセイに従わなければエステルやユーリ達の身の保証が無い事は解っていたので大人しくしていた
「さて・・・」
アレクセイは私の反応を見て満足そうに笑い、エステルを見た
「姫、一人ずつお仲間の首を落として差し上げるが良い」
「なっ!」「! てめえ・・・」
冷たい目でユーリ達を流すように見つめ、エステルの光の結界を解き、振り返える
「姫も君達がわざわざ此処に来たりしなげれば、こんな事をせずに済んだものを。我に返った時の姫の事を思うと心が痛むよ」
アレクセイは自分の方に引き寄せた私をじっと見つめた
「君は姫より大事な『鍵』なのでな。丁寧に扱わなくては・・・」
「まだリアを利用するってのか」
ユーリのその言葉にはいつも以上に怒りが込められていた
「言霊使いの姫の鍵はこんな事では使い終わらない・・・これからだ」
その言葉に背筋がぞくりとした
「では、ごきげんよう・・・」
アレクセイは紳士のように良いお辞儀をすると私を連れて歩き出した
「待てってんだ、アレクセイ!」
それを見たユーリはエステルの剣を払い除け、アレクセイと私の所へ走って来た
「リア!!」
「ユーリ!!」
私はユーリに手を伸ばしユーリも必死に私の手を掴もうとするが、アレクセイの起こした風に包まれてしまいその手を掴む事が出来なかった
「くそっ、リアーーー!!」
風に包まれ移動する中、ユーリの必死の叫びが聞こえた
続く
あとがき
にゃあぁぁぁ~~~!! やっと此処まで書けました!!
はい、此処が一番書きたかった所なのです!!
いや、夢小説書いてる人なら此処が書きたいのは当たり前か(笑)
冒頭でまたまた新しい子が出て来ました
カムイ、ちょっとしか出番なくてごめんねι
さてさて、話しもいよいよ架橋です!!
でもまた次回からユーリかセイ兄ちゃん視点で書きますι
またプロットがないから悩みながら書かなきゃな・・・ι
ではまた次回お楽しみ下さい!!
下書き:2008.12.27
完成:2009.08.06