救出編
夢主名変更
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「っ! ユーリ! エステル!」
あの光景から目覚めた私は勢い良く身体を起こした
「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・」
私は若干息が上がっていた
それは多分さっき見た夢の所為だろう
『・・・殺して』
「っ!」
息を整えているとエステルが言った言葉がまた耳に響いた
エステルの立場を考えればあの言葉を言うのも無理はない
けど、あの言葉はユーリにも届いていたと思う
あの時、ユーリの表情が変わったように思えたから・・・
私はシーツをギュっと握った後、深呼吸してゆっくりとベッドから降りた
あれからどれくらい此処にいるんだろう?
クロームに眠らされてからだいぶ日にちが経ったと思う
眠っている間の事を調べようにも術式結界に遮断され、アスラや始祖の隷長とも連絡が取れない
唯一解っている事はさっき夢で見た事
それは過去なのか現在なのか、それとも未来の話しなのか解らない
けど、それは忘れてはいけない事だと脳が告げている
「忘れたくても、忘れられない事よ・・・っ」
私は小さく頭を振って、窓際に移動して景色を見た
普段は騎士達が歩き回る城内は今や閑散としている
それは窓から見ていてもこの部屋にいても解る
(・・・きっとエステルはこんな感じで暮らしてたのね)
城から出た事のない、外の世界に憧れていた貴族の女の子
初めて会った時に名前を聞いてまさかと思っていたエステリーゼは、本当に皇帝の血を引くお姫様であり、あの満月の子だった
城の中の風景、本に囲まれている部屋
城の中に庭はあってもそこはエステルの言う『外の世界』ではない
エステルの言う『外の世界』は私や兄さん、ユーリやフレンが育った下町や結界の外の街、ハルルや他の大陸の事
そして、一緒に旅をした世界中の景色と人々
それがエステルの憧れていた『外の世界』
それは本を読んでもこの城にいては解らない事だらけだった
「・・・エステルが外の世界に憧れるのも解る気がする」
苦笑しながら小さく溜息を吐いた途端、頭の中に何かの鳴き声が響いた
68.狂いゆくギア
(・・・言霊使いの姫・・・)
「! アスタル!?」
それはユーリ達が向かったピピオニア大陸にあるバクティオン神殿に祀られている始祖の隷長、アスタルの声だった
(姫・・・後・・を・・お願い・・しま・・す)
私はその言葉を聞き、胸に手を持っていきギュっと握った
「・・・アスタル」
「ほう。聖核になったアスタルの声を聞いたか。流石は言霊使いの姫、と言った所か」
「!」
その声の主は男性、そして何度か会った事のある人物
「・・・アレクセイ」
アレクセイは扉を閉め、ゆっくりと私の方へ歩いて来た
「・・・貴方が今回の黒幕だったのね」
私はさっきの光景を思い出し、目の前で止まったアレクセイをきっと睨み付けた
「そんな恐い顔をしないでくれたまえ」
「エステルは何処? 何でアスタルを殺して聖核にしたの?」
「自分の心配より他人の心配か」
アレクセイは面白そうに笑い、私は静かにアレクセイの言葉を待った
「姫様は今まで集めた聖核と共に別の所にいる。その聖核の中に君が声を聞いたアスタルの聖核もある」
「・・・もう一度聞くわ。どうしてアスタルを殺したの」
私はいつも以上に静かに言ったがその声には怒りが込められていた
「私の計画に聖核が必要だからだよ」
「・・・だから、他の聖核も集めた」
「ああ。アスタルの最後は随分とあっさりとしていたよ」
「っ・・・。そしてエステルの、いえ、聖核の力を引き出す満月の子の力が必要だった?」
「その通りだ」
「っ!」
パアァァン!!
私はいても経ってもいられなくなり、アレクセイの頬を思いっきり叩いた
「貴方最っっ低! エステルや始祖の隷長を何だと思ってるの!!」
私は目に悔し涙を浮かべ怒鳴り荒い息を整えながら私は言葉を続けた
「貴方はまるでエステルや聖核を、道具として扱ってるようにしか見えないわ!」
「道具だよ。使えるものは使うだけさ。そして・・・」
「っ!」
アレクセイは不適に笑い私の顎に手を持っていき、くいっと上げた
「君も私の計画には欠かせない人物なのだよ、リア・ルーティア。いや、言霊使いの姫君。君の力は姫様や聖核以上の力を持っているからな」
私はアレクセイの手を払い除け、後ろに下がり距離を置きまた睨み付けた
「貴方が何をしようとしているのかは知らないけど、これ以上は止めた方が良いわ。これ以上エアルを乱すと世界が・・・」
「安心したまえ。それは君と姫様の犠牲により、この世界は救われる」
「!」
私はその言葉を聞き驚いてアレクセイを見ると、アレクセイは勝ち誇ったような笑みを浮かべて私を見ていた
「もっとも、君は未知数の力を秘めているから力を失うだけかもしれないがな・・・」
「・・・アレクセイ様」
扉の向こうに控えていたのかいつの間にかクロームが部屋に入って来ていた
アレクセイはクロームに軽く返事を返すとまた私を見た
「・・・城内に薄汚れた小鼠が紛れ込んでいてね。どうやら食堂で息を潜めているようだ」
「!」
私はそれがユーリ達だと直ぐに分かり、大きく目を見開いた
「このまま姫の力をお借りしてしまえば・・・」
「・・・私が貴方に従えば良いのね?」
私は俯いて小さく握り拳を作った
アレクセイはその反応を見てまた面白そうに私を見た
「ふ、やはり君は素直で面白いな。物分かりの良い女性は好きだよ」
「・・・それはどうも」
「時が来たら君を迎えに来よう」
アレクセイは私の心ない返事を聞くと満足そうな顔をして部屋を出て行った
*
ノール港の近くに吹っ飛ばされたオレ達は、怪我を治す為にノール港に向かった
ノール港に着くとエアルの所為で異変が起きている事にざわつく声が聞こえた
そんな中オレ達はティグルに会い直ぐに医者を呼んでもらい、何とか動けるようになった
だが、帝都に戻ろうにもエフミドの丘はヘラクレスの砲弾が着弾して空いた大穴の影響で、抜ける事が出来なくなっているらしい
けど今は一刻を争う時だ、のんびりしてる暇はねえ
そう話していると、ティグルがあまりお勧めしないがと言って教えてくれたのはゾフェル氷刃海と言う所だった
そこから抜ける事が出来ると分かりオレ達は直ぐに向かった
途中でセイからハルルの宿で待っていると連絡があり、ゾフェル氷刃海を抜け直ぐにハルルに向かった
だが、ハルルに着くと前来た時よりもごった返していた
身なりからして帝都から逃げてきた連中だってのは直ぐに解った
街の様子を見てるとカロルが荒い息を出しているとジュディがカロルの額に手をあてると、かなり無理してたのか熱が出てしまった
そしてオレ達はカロル休ませるのとセイと合流場所でもある宿屋に向かった
宿に着くとセイは直ぐに部屋に案内してくれ、カロルをベッドに寝かせ、一息付いた所でオレ達は話を始めた
「あの避難民・・・帝都は大変な状況のようね」
「ああ。近付けたもんじゃないぜ」
「入れなくはないんだろ?」
「ああ。ただ・・・」
「ただ・・・?」
セイはそこで言葉を切って、ゆっくりと口を開いた
「・・・もう人の住めない街としか言えないな」
「!」
「・・・詳しい話は後で、な」
「アレクセイの大将、一体何をしでかすつもりなんだか」
「アレクセイなんてどうでもいい。・・・エステルとリアよ。あたしはエステルとリアを助けたい」
「そうね。でもその為にはアレクセイを何とかしないと。それに、このままじゃ無策すぎるわ。またノール港まで飛ばされる訳にはいかないもの」
「そっちも色々大変だったみたいだな」
「まあな。で、リアの方は分かったのか?」
「ああ。流石に今回ばかりは手こずったな」
「珍しい・・・」
「それだけリアが必要って事でしょ」
「みたいね。で、リアちゃんは?」
「城の貴族達が住んでる部屋の何カ所かに術式結界が張ってある所があった。しかもご丁寧に中と連絡が取れないようにしてある」
「間違いなさそうだな」
その言葉に全員が頷いた
「ま、とにかく今はカロルが回復するまで待つしかないな」
「だな。今のうちに休んでおくか」
「そうね。そうするわ」
「ユーリ、アスラ、お前等は一緒に来い」
「?」
少し休もうとしているとセイがオレとアスラを呼び、そのままセイに連れられて宿の外まで来た
「で、オレ達は何処向かってんだ?」
「長老の家だ」
「長老の?」
「さっき詳しい話しは後でって言っただろ? そこに行けば大体解るはずだ」
そう言ってセイは長老の家を目指して行き、オレとアスラもその後に続いた
「! ・・・皆さん、無事だったんですね」
長老の家に行くと、丁度ある人物が出て来た所だった
それはあの天然殿下、ヨーデルだった
「成る程な、あんたか? 宿屋をタダで解放させたのは」
「なんだね君は。無礼であろう。この方を何方と・・・」
だが、ヨーデルは男の前に出て首を横に振る
「身一つで逃げ出して来た人も多いですし、これも国の役目だと思っています」
「ふうん、ま、良いさ。セイから帝都が人が住めない街だって聞いた」
「・・・その通りです」
「それをもう少し詳しく教えてくれませんか?」
「教えてくれ」
オレとアスラに言われヨーデル達は少し視線を落として話を始めた
「街の結界魔導器が光を発して・・・地震と落雷が街を襲った・・・」
「ですが本当の恐怖はその後でした。結界魔導器の根元から光る靄のようなものが現れて、全域に広がったんです。触れた植物が巨大化して、水は毒の沼のように・・・地獄のような光景でした」
「エアルの暴走だね・・・」
「栄えある帝国の首都、ザーフィアスがよもやあのような事になろうとは・・・」
「帝都全部を満たすエアル・・・どれだけ負担掛けてんだか・・・」
「あ、あれはアレクセイめの仕業に違いない! 奴は我々に服従を要求してきた。断ると、それなら塵になれと言いよった!」
「しかも脱出した我々に、アレクセイめ、親衛隊を、け、けしかけおったんじゃ!」
「じゃあどうやって此処まで来たの?」
「フレンが食い止めてくれたのです。そしてセイが此処まで護衛してくれたんです。彼等が駆け着けてくれなかったら私達は全滅していたでしょう」
「流石フレン、と言いたい所だが、避難民の中に下町の連中が見当たらねぇのが気になる。連中はどうなった?」
その言葉にヨーデルは顔を俯け、護衛の者達も顔を逸らし気まずい雰囲気が流れるが、その気まずい雰囲気をセイが壊す
「下町の連中なら他の場所に避難してる。心配すんな」
セイはそう言ってオレの肩にポンと手を乗せた
「ヨーデル様、私達はこれで失礼します」
セイは一礼するとオレとアスラに合図を送り宿に戻った
宿に戻るとオレとセイとアスラはさっき聞いた話をジュディ達に話した
「ヨーデル殿下が・・・」
「帝都は丸ごとエアルに飲み込まれたらしい。中心にいるのはおそらく・・・」
「無茶苦茶よ! つまりそれ全部エステルの負担って事なのよ? 無理矢理、力使わされる度にどんだけの消耗を強いられるか。ただでさえ制御が危うくなっているのに、そんな使ってたらどうなるか・・・」
「・・・・」
「もし・・・もし手遅れになったりしたら・・・・アレクセイを倒したって・・・」
「その・・・力を抑える方法ってのはないもんなのかね」
リタは首を横に振るが直ぐに顔を上げる
「ある。きっとある。でもまだ・・・」
「あ・・・と、そうそう、騎士団はどうしてんの?」
「城には親衛隊が残ってる。今フレンが頑張ってるが、そう長くは保たないだろうな」
「宙の戒典もねえしな」
「ふーむ・・・」
「フェローに聞いてみるわ。まだどのくらい時間が残されているかって」
「・・・・」
ジュディはそう言ってフェローと連絡を取り始めると、
「ユーリ・・・」
カロルの力ない声が聞こえオレはカロルの所に移動した
「悪ぃ起こしちまったか。調子はどうだ?」
「ごめん、また足引っ張っちゃって・・・帝都に行くんでしょ?」
「気にすんなって。オレ達助けてそうなったんだから。それより治す事に集中しろ」
「うん、でも置いてっちゃやだよ。エステルとリア、ギルドのみんなで助けるんだから・・・」
「ああ、分かってる。さ、もう少し寝とけ。な?」
「うん・・・」
カロルはそう言ってまた目を閉じた
「繋がらないわ。エアルが乱れている所為かも」
「いいさ、どっちみち、アレクセイの野郎をぶっ倒すだけの話だ。だろ?」
「・・・それだけ?」
「・・・ちょっと外の空気吸ってくる。カロル、見ててやってくれ」
オレは一つ間を置いてそう答えると部屋を出て行った
「・・・・」
ジュディスはユーリが出て行った後をじっと見ているとラピードがユーリの後を追い駆けた
「氷貰ってくるわ」
俺は小さく溜息を吐いて洗面器を持って部屋を出て行った
「・・・損な役回り、か」
「そう思うんだったら何でも一人で背負い込むな」
「!」
「前にリアに言われなかった?」
「・・・セイ、アスラ・・・」
急に聞こえた声にユーリは驚いて俺とアスラがいる宿屋の階段を見た
「一人で行くなら俺等に気付かれない様に気配消してけ、って昔から言ってるだろ」
「・・・これでも消してたんだけどな」
「みんなには分かんなくてもボク等は分かるって」
「・・・だな」
俺は階段を降りてユーリの前に行きながらアスラと一緒にそう言うとユーリは苦笑していた
そして俺はユーリの前で止まって、真剣な表情をしてユーリを見た
「大体の事はアスラやフキ達に聞いた」
「・・・・」
俺の言葉にユーリは少し視線を落とした
リアの事もあるが、今ユーリが思っている事はエステルが言ったあの言葉を自分一人でやろうとしている
こいつは昔から損な役回りをするヤツだからな・・・
俺は小さく息を吐いてユーリを見て言葉を続ける
「此処は俺等に任せてさっさと行け」
「セイ・・・」
「止めたって無駄なのは知ってるから」
「アスラ・・・」
「ラピード、この馬鹿の事頼むぞ」
「ワン!」
「・・・悪ぃ。頼んだ・・・」
「ああ・・・」「うん・・・」
ユーリは俺達の返事を聞くと、手をひらひらとさせ出口へ向かって歩いて行き、俺も踵を返して宿屋に入りフロントに預けてあった洗面器を取りに行き氷と水の入った洗面器を持って部屋に戻った
続く
あとがき
やっとプロットまで戻って来た
付け足しの所もあったけど、そんなに変更はなかったな
さて、遂にリアちゃんも黒幕のアレクセイと会いました
が、色々と気になる所が・・・
そしてセイ兄もユーリ達と合流しました
けど、こっちもこっちでユーリが一人で行動始めました
セイ兄とアスラは解ってて見送りましたがどうなる事か・・・
さあ次もプロットがちょっとしかないから頑張って書こう
下書き:2008.12.27
完成:2009.08.04
あの光景から目覚めた私は勢い良く身体を起こした
「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・」
私は若干息が上がっていた
それは多分さっき見た夢の所為だろう
『・・・殺して』
「っ!」
息を整えているとエステルが言った言葉がまた耳に響いた
エステルの立場を考えればあの言葉を言うのも無理はない
けど、あの言葉はユーリにも届いていたと思う
あの時、ユーリの表情が変わったように思えたから・・・
私はシーツをギュっと握った後、深呼吸してゆっくりとベッドから降りた
あれからどれくらい此処にいるんだろう?
クロームに眠らされてからだいぶ日にちが経ったと思う
眠っている間の事を調べようにも術式結界に遮断され、アスラや始祖の隷長とも連絡が取れない
唯一解っている事はさっき夢で見た事
それは過去なのか現在なのか、それとも未来の話しなのか解らない
けど、それは忘れてはいけない事だと脳が告げている
「忘れたくても、忘れられない事よ・・・っ」
私は小さく頭を振って、窓際に移動して景色を見た
普段は騎士達が歩き回る城内は今や閑散としている
それは窓から見ていてもこの部屋にいても解る
(・・・きっとエステルはこんな感じで暮らしてたのね)
城から出た事のない、外の世界に憧れていた貴族の女の子
初めて会った時に名前を聞いてまさかと思っていたエステリーゼは、本当に皇帝の血を引くお姫様であり、あの満月の子だった
城の中の風景、本に囲まれている部屋
城の中に庭はあってもそこはエステルの言う『外の世界』ではない
エステルの言う『外の世界』は私や兄さん、ユーリやフレンが育った下町や結界の外の街、ハルルや他の大陸の事
そして、一緒に旅をした世界中の景色と人々
それがエステルの憧れていた『外の世界』
それは本を読んでもこの城にいては解らない事だらけだった
「・・・エステルが外の世界に憧れるのも解る気がする」
苦笑しながら小さく溜息を吐いた途端、頭の中に何かの鳴き声が響いた
68.狂いゆくギア
(・・・言霊使いの姫・・・)
「! アスタル!?」
それはユーリ達が向かったピピオニア大陸にあるバクティオン神殿に祀られている始祖の隷長、アスタルの声だった
(姫・・・後・・を・・お願い・・しま・・す)
私はその言葉を聞き、胸に手を持っていきギュっと握った
「・・・アスタル」
「ほう。聖核になったアスタルの声を聞いたか。流石は言霊使いの姫、と言った所か」
「!」
その声の主は男性、そして何度か会った事のある人物
「・・・アレクセイ」
アレクセイは扉を閉め、ゆっくりと私の方へ歩いて来た
「・・・貴方が今回の黒幕だったのね」
私はさっきの光景を思い出し、目の前で止まったアレクセイをきっと睨み付けた
「そんな恐い顔をしないでくれたまえ」
「エステルは何処? 何でアスタルを殺して聖核にしたの?」
「自分の心配より他人の心配か」
アレクセイは面白そうに笑い、私は静かにアレクセイの言葉を待った
「姫様は今まで集めた聖核と共に別の所にいる。その聖核の中に君が声を聞いたアスタルの聖核もある」
「・・・もう一度聞くわ。どうしてアスタルを殺したの」
私はいつも以上に静かに言ったがその声には怒りが込められていた
「私の計画に聖核が必要だからだよ」
「・・・だから、他の聖核も集めた」
「ああ。アスタルの最後は随分とあっさりとしていたよ」
「っ・・・。そしてエステルの、いえ、聖核の力を引き出す満月の子の力が必要だった?」
「その通りだ」
「っ!」
パアァァン!!
私はいても経ってもいられなくなり、アレクセイの頬を思いっきり叩いた
「貴方最っっ低! エステルや始祖の隷長を何だと思ってるの!!」
私は目に悔し涙を浮かべ怒鳴り荒い息を整えながら私は言葉を続けた
「貴方はまるでエステルや聖核を、道具として扱ってるようにしか見えないわ!」
「道具だよ。使えるものは使うだけさ。そして・・・」
「っ!」
アレクセイは不適に笑い私の顎に手を持っていき、くいっと上げた
「君も私の計画には欠かせない人物なのだよ、リア・ルーティア。いや、言霊使いの姫君。君の力は姫様や聖核以上の力を持っているからな」
私はアレクセイの手を払い除け、後ろに下がり距離を置きまた睨み付けた
「貴方が何をしようとしているのかは知らないけど、これ以上は止めた方が良いわ。これ以上エアルを乱すと世界が・・・」
「安心したまえ。それは君と姫様の犠牲により、この世界は救われる」
「!」
私はその言葉を聞き驚いてアレクセイを見ると、アレクセイは勝ち誇ったような笑みを浮かべて私を見ていた
「もっとも、君は未知数の力を秘めているから力を失うだけかもしれないがな・・・」
「・・・アレクセイ様」
扉の向こうに控えていたのかいつの間にかクロームが部屋に入って来ていた
アレクセイはクロームに軽く返事を返すとまた私を見た
「・・・城内に薄汚れた小鼠が紛れ込んでいてね。どうやら食堂で息を潜めているようだ」
「!」
私はそれがユーリ達だと直ぐに分かり、大きく目を見開いた
「このまま姫の力をお借りしてしまえば・・・」
「・・・私が貴方に従えば良いのね?」
私は俯いて小さく握り拳を作った
アレクセイはその反応を見てまた面白そうに私を見た
「ふ、やはり君は素直で面白いな。物分かりの良い女性は好きだよ」
「・・・それはどうも」
「時が来たら君を迎えに来よう」
アレクセイは私の心ない返事を聞くと満足そうな顔をして部屋を出て行った
*
ノール港の近くに吹っ飛ばされたオレ達は、怪我を治す為にノール港に向かった
ノール港に着くとエアルの所為で異変が起きている事にざわつく声が聞こえた
そんな中オレ達はティグルに会い直ぐに医者を呼んでもらい、何とか動けるようになった
だが、帝都に戻ろうにもエフミドの丘はヘラクレスの砲弾が着弾して空いた大穴の影響で、抜ける事が出来なくなっているらしい
けど今は一刻を争う時だ、のんびりしてる暇はねえ
そう話していると、ティグルがあまりお勧めしないがと言って教えてくれたのはゾフェル氷刃海と言う所だった
そこから抜ける事が出来ると分かりオレ達は直ぐに向かった
途中でセイからハルルの宿で待っていると連絡があり、ゾフェル氷刃海を抜け直ぐにハルルに向かった
だが、ハルルに着くと前来た時よりもごった返していた
身なりからして帝都から逃げてきた連中だってのは直ぐに解った
街の様子を見てるとカロルが荒い息を出しているとジュディがカロルの額に手をあてると、かなり無理してたのか熱が出てしまった
そしてオレ達はカロル休ませるのとセイと合流場所でもある宿屋に向かった
宿に着くとセイは直ぐに部屋に案内してくれ、カロルをベッドに寝かせ、一息付いた所でオレ達は話を始めた
「あの避難民・・・帝都は大変な状況のようね」
「ああ。近付けたもんじゃないぜ」
「入れなくはないんだろ?」
「ああ。ただ・・・」
「ただ・・・?」
セイはそこで言葉を切って、ゆっくりと口を開いた
「・・・もう人の住めない街としか言えないな」
「!」
「・・・詳しい話は後で、な」
「アレクセイの大将、一体何をしでかすつもりなんだか」
「アレクセイなんてどうでもいい。・・・エステルとリアよ。あたしはエステルとリアを助けたい」
「そうね。でもその為にはアレクセイを何とかしないと。それに、このままじゃ無策すぎるわ。またノール港まで飛ばされる訳にはいかないもの」
「そっちも色々大変だったみたいだな」
「まあな。で、リアの方は分かったのか?」
「ああ。流石に今回ばかりは手こずったな」
「珍しい・・・」
「それだけリアが必要って事でしょ」
「みたいね。で、リアちゃんは?」
「城の貴族達が住んでる部屋の何カ所かに術式結界が張ってある所があった。しかもご丁寧に中と連絡が取れないようにしてある」
「間違いなさそうだな」
その言葉に全員が頷いた
「ま、とにかく今はカロルが回復するまで待つしかないな」
「だな。今のうちに休んでおくか」
「そうね。そうするわ」
「ユーリ、アスラ、お前等は一緒に来い」
「?」
少し休もうとしているとセイがオレとアスラを呼び、そのままセイに連れられて宿の外まで来た
「で、オレ達は何処向かってんだ?」
「長老の家だ」
「長老の?」
「さっき詳しい話しは後でって言っただろ? そこに行けば大体解るはずだ」
そう言ってセイは長老の家を目指して行き、オレとアスラもその後に続いた
「! ・・・皆さん、無事だったんですね」
長老の家に行くと、丁度ある人物が出て来た所だった
それはあの天然殿下、ヨーデルだった
「成る程な、あんたか? 宿屋をタダで解放させたのは」
「なんだね君は。無礼であろう。この方を何方と・・・」
だが、ヨーデルは男の前に出て首を横に振る
「身一つで逃げ出して来た人も多いですし、これも国の役目だと思っています」
「ふうん、ま、良いさ。セイから帝都が人が住めない街だって聞いた」
「・・・その通りです」
「それをもう少し詳しく教えてくれませんか?」
「教えてくれ」
オレとアスラに言われヨーデル達は少し視線を落として話を始めた
「街の結界魔導器が光を発して・・・地震と落雷が街を襲った・・・」
「ですが本当の恐怖はその後でした。結界魔導器の根元から光る靄のようなものが現れて、全域に広がったんです。触れた植物が巨大化して、水は毒の沼のように・・・地獄のような光景でした」
「エアルの暴走だね・・・」
「栄えある帝国の首都、ザーフィアスがよもやあのような事になろうとは・・・」
「帝都全部を満たすエアル・・・どれだけ負担掛けてんだか・・・」
「あ、あれはアレクセイめの仕業に違いない! 奴は我々に服従を要求してきた。断ると、それなら塵になれと言いよった!」
「しかも脱出した我々に、アレクセイめ、親衛隊を、け、けしかけおったんじゃ!」
「じゃあどうやって此処まで来たの?」
「フレンが食い止めてくれたのです。そしてセイが此処まで護衛してくれたんです。彼等が駆け着けてくれなかったら私達は全滅していたでしょう」
「流石フレン、と言いたい所だが、避難民の中に下町の連中が見当たらねぇのが気になる。連中はどうなった?」
その言葉にヨーデルは顔を俯け、護衛の者達も顔を逸らし気まずい雰囲気が流れるが、その気まずい雰囲気をセイが壊す
「下町の連中なら他の場所に避難してる。心配すんな」
セイはそう言ってオレの肩にポンと手を乗せた
「ヨーデル様、私達はこれで失礼します」
セイは一礼するとオレとアスラに合図を送り宿に戻った
宿に戻るとオレとセイとアスラはさっき聞いた話をジュディ達に話した
「ヨーデル殿下が・・・」
「帝都は丸ごとエアルに飲み込まれたらしい。中心にいるのはおそらく・・・」
「無茶苦茶よ! つまりそれ全部エステルの負担って事なのよ? 無理矢理、力使わされる度にどんだけの消耗を強いられるか。ただでさえ制御が危うくなっているのに、そんな使ってたらどうなるか・・・」
「・・・・」
「もし・・・もし手遅れになったりしたら・・・・アレクセイを倒したって・・・」
「その・・・力を抑える方法ってのはないもんなのかね」
リタは首を横に振るが直ぐに顔を上げる
「ある。きっとある。でもまだ・・・」
「あ・・・と、そうそう、騎士団はどうしてんの?」
「城には親衛隊が残ってる。今フレンが頑張ってるが、そう長くは保たないだろうな」
「宙の戒典もねえしな」
「ふーむ・・・」
「フェローに聞いてみるわ。まだどのくらい時間が残されているかって」
「・・・・」
ジュディはそう言ってフェローと連絡を取り始めると、
「ユーリ・・・」
カロルの力ない声が聞こえオレはカロルの所に移動した
「悪ぃ起こしちまったか。調子はどうだ?」
「ごめん、また足引っ張っちゃって・・・帝都に行くんでしょ?」
「気にすんなって。オレ達助けてそうなったんだから。それより治す事に集中しろ」
「うん、でも置いてっちゃやだよ。エステルとリア、ギルドのみんなで助けるんだから・・・」
「ああ、分かってる。さ、もう少し寝とけ。な?」
「うん・・・」
カロルはそう言ってまた目を閉じた
「繋がらないわ。エアルが乱れている所為かも」
「いいさ、どっちみち、アレクセイの野郎をぶっ倒すだけの話だ。だろ?」
「・・・それだけ?」
「・・・ちょっと外の空気吸ってくる。カロル、見ててやってくれ」
オレは一つ間を置いてそう答えると部屋を出て行った
「・・・・」
ジュディスはユーリが出て行った後をじっと見ているとラピードがユーリの後を追い駆けた
「氷貰ってくるわ」
俺は小さく溜息を吐いて洗面器を持って部屋を出て行った
「・・・損な役回り、か」
「そう思うんだったら何でも一人で背負い込むな」
「!」
「前にリアに言われなかった?」
「・・・セイ、アスラ・・・」
急に聞こえた声にユーリは驚いて俺とアスラがいる宿屋の階段を見た
「一人で行くなら俺等に気付かれない様に気配消してけ、って昔から言ってるだろ」
「・・・これでも消してたんだけどな」
「みんなには分かんなくてもボク等は分かるって」
「・・・だな」
俺は階段を降りてユーリの前に行きながらアスラと一緒にそう言うとユーリは苦笑していた
そして俺はユーリの前で止まって、真剣な表情をしてユーリを見た
「大体の事はアスラやフキ達に聞いた」
「・・・・」
俺の言葉にユーリは少し視線を落とした
リアの事もあるが、今ユーリが思っている事はエステルが言ったあの言葉を自分一人でやろうとしている
こいつは昔から損な役回りをするヤツだからな・・・
俺は小さく息を吐いてユーリを見て言葉を続ける
「此処は俺等に任せてさっさと行け」
「セイ・・・」
「止めたって無駄なのは知ってるから」
「アスラ・・・」
「ラピード、この馬鹿の事頼むぞ」
「ワン!」
「・・・悪ぃ。頼んだ・・・」
「ああ・・・」「うん・・・」
ユーリは俺達の返事を聞くと、手をひらひらとさせ出口へ向かって歩いて行き、俺も踵を返して宿屋に入りフロントに預けてあった洗面器を取りに行き氷と水の入った洗面器を持って部屋に戻った
続く
あとがき
やっとプロットまで戻って来た
付け足しの所もあったけど、そんなに変更はなかったな
さて、遂にリアちゃんも黒幕のアレクセイと会いました
が、色々と気になる所が・・・
そしてセイ兄もユーリ達と合流しました
けど、こっちもこっちでユーリが一人で行動始めました
セイ兄とアスラは解ってて見送りましたがどうなる事か・・・
さあ次もプロットがちょっとしかないから頑張って書こう
下書き:2008.12.27
完成:2009.08.04