救出編
夢主名変更
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
長老の家に着くと私達は中に入り椅子に座ったり壁に寄りかかって長老の帰りを待っていた
「ホントに勝手に入って良いんでしょうか?」
「本人が入って待ってろって言ったんだから良いでしょ」
「やっぱりクリティアの人ってなんか変わってるよね」
「のほほんとしてると言うかマイペースと言うか」
「おかしな人達でしょう?」
「ジュディスも何となく似てるけどね」
「おかしいわね。随分と違うと思うのだけれど」
違うとは言うけど確かにマイペースな所は一緒だと思っていると、ガチャリと扉が開く音が聞こえ、長老さんが中に入って来た
「ただいま」
「あ、お帰りなさい」
「待たせたの。それじゃ、その奥に行くと良い」
長老に言われ、私達は部屋の奥にやって来た
そこには横長い壁があった
「・・・・?」
「これこそがミョルゾに伝わる伝承を表すものなのじゃよ」
「でも、ただの壁だぜ?」
「ジュディスよ、ナギーグで壁に触れながら、こう唱えるのじゃ。『・・・霧のまにまに浮かぶ夢の都、それが現実の続き』」
「・・・霧のまにまに浮かぶ夢の都、それが現実の続き・・・?」
「これは・・・」
61.The rest is silence.
ジュディスがそう唱えると目の前の壁に絵が映し出された
「我等クリティアには物に込められた情報を読み取るナギーグという古き力がある。この力と口伝の秘文とにより、この壁画は真の姿を現すのじゃ」
「な、なんか不気味な絵だね・・・」
「うん・・・」
目の前の壁に映し出された絵は、何かドス黒いものが絵の中に書かれている世界を覆っていた
まるで、この世界を食べようとしているかのように・・・
「クリティアこそ知恵の民なり。大いなるゲライオスの礎、古の世の賢人なり。されど賢明ならざる知恵は禍なるかな。我等が手になる魔導器、天地に恵みをもたらすも星の血なりしエアルを穢したり」
「やっぱりリタの言った通り、エアルの乱れは過去にも起きていたんですね」
「・・・」
「こいつがエアルの乱れを表してるのか」
「世界を食べようとしてるみたい・・・」
「んむ。大量のエアルが世界全体を飲み込むかのようだったという」
「エアルの穢れ、嵩じて大いなる災いを招き。我等怖れもてこれを星喰 みと名付けたり・・・」
「星喰み・・・」
「此処に世のことごとく一丸となりて星喰みに挑み、忌まわしき力を消さんとす」
「ねえひょっとしてこれ、始祖の隷長を表してるのかな?」
「魔物みたいなのが人と一緒に化け物に挑んでるように見えるねぇ」
「結果、古代ゲライオス文明は滅んでしまったが、星喰みは鎮められたようじゃの。その点はワシ等がこうして生きている事からも明らかじゃな」
「ようするにこの絵はその星喰みを鎮めてる図って事?」
「最後、なんて書いてあるの?」
「・・・・」
「ジュディ?」「ジュディス?」
カロルの問いにジュディスは少し黙ってしまい、私とユーリはジュディスを見ると、少し顔を歪めて続きを読んだ
「・・・世の祈りを受け満月の子等は命燃え果つ。星喰み虚空へと消え去れり」
「なんだと?」
「世の祈りを受け・・・満月の子等は命燃え果つ・・・」
「!」
「かくて世は永らえたり。されど我等は罪を忘れず、此処に世々語り継がん・・・アスール、240」
最後まで読み終えると私達は表情を変え、リタは勢い良く長老さんを見た
「どういう事!」
「個々の言葉の全部が全部、何を意味しているのかまでは伝わっておらんのじゃ」
「・・・・」
「とにかく魔導器を生み出し、ひとつの文明の滅びを導く事となった我等の祖先は魔導器を捨て、外界と関わりを断つ道を選んだとされておる」
「エステル!」
その言葉を聞いた途端、エステルは走って外に行ってしまった
「ほっといてやれ」
「今は一人で考えさせてやれ」
「ミョルゾに伝わる伝承はこれで全てじゃ」
「ありがとな、じいさん。参考になった」
「有り難う御座います」
「ふむ。もっと参考になるどんな料理も美味しくなる幻のキュウリの話があるのじゃが・・・」
「結構よ。それより何処か休める所を借りても良いかしら? 仲間が落ち着くまで暫くお世話になりたいのだけれど」
「む。ならば隣の家を使うと良い。今は誰も使っておらんでの」
「助かるわ。行きましょ」
そう言い、ジュディス達は歩いて行き出し私は長老さんに一礼してその後に続いた
「長老の話、全部本当の事なんだよね?」
長老の家を出て休める場所に移動しているとカロルがぽつりと呟いた
「壁画の解釈に間違いがあるかもしれないけれど言葉と壁画を照らし合わせると、説得力はあったわ」
「フェローに話を聞いた時点で、問題が世界規模だって事は解ってんだ。あいつは、これを見たオレ達がどう反応するか、それを解った上で時間をくれたんだろうな」
「所詮、人間如きに対処出来る事態じゃない、とでも思わせたかったのかね」
「そして、あの子の事を諦めさせる?」
「・・・これじゃ、フェローの思惑通りじゃない。あたし、そんなの絶対に認めない。認めてたまるか・・・諦めてたまるか」
「だな。とりあえず、休める所まで言ってさっきの話しを纏めてみようぜ」
「うん・・・」
*
「世界の災い、星喰みかぁ」
長老さんに言われてやって来た隣の家に着くと私達は各々イスに座ったり壁に寄り掛かったりしていていて、カロルが先程の話しを思い出しぽつりと呟いた
「あの伝承からだと前に星喰みが起きたのは、満月の子の力が原因とは言い切れないもんだった」
「けどよ、世の祈りを受け満月の子等は命燃え果つってのは・・・」
「星喰みの原因の満月の子の命を絶った事で危機を回避したとも取れるわ」
「・・・・」
「で、でもさ、ボク達が確実に原因になってるヘルメス式魔導器を止めれば良いんだよね・・・?」
「ヘルメス式だけじゃないかもな。あの伝承からだと全ての魔導器がエアルを乱してるって感じだった。違うか、リタ」
「長老、魔導器に普通も特殊もないって言ってた。つまり違うのは術式によって扱うエアルの量の大小のみって事だと思う」
「オレ達が使ってるこいつもか?」
ユーリは自分の武醒魔導器を見せるとリタは小さく頷いた
「武醒魔導器は特殊だけど、術式によってエアルを用いる以上、どの魔導器も同じよ・・・それに術技はどのみちエアルを必要とするもの。多分、ヘルメス式も満月の子も本質的には危険の一部でしかない。魔導器の数が増え続ければ遅かれ早かれ星喰みが起こる。始祖の隷長はそれを怖れてるんだわ」
「やっぱそうか」
「認めたくなかった・・・!」
リタはそう言って悔しそうな顔をして俯いた
「悪いのは魔導器じゃない、悪い事に使ってるヤツが悪いんだって。そう信じてた・・・でも・・・違った」
「じゃあ全部の魔導器を止めなきゃダメなの? このミョルゾの人達みたいに?」
「そりゃ無理な話だ。魔導器はもう俺達の生活には無くてはならないものだぜ。結界魔導器や水道魔導器とか・・・もちろん武醒魔導器も、な」
「確かにな・・・実際、こいつがないとすげぇ化け物とかの相手は無理かもしれない」
「そうだよね・・・」
ユーリは自分の武醒魔導器に目を落として言うと、皆自然と自分達の武醒魔導器を見ていた
確かにこれが無くなればユーリ達は今みたいに戦う事は難しくなる
私も兄さんも持っているとはいえ、そんなに使う事はない
言霊使いの力と一緒に使って戦っているから不便ではなくなるけど、魔導器が無くなれば安全な生活を送る事が難しくなる
でも、原因は魔導器・・・
「魔導器を使ってもエアルが消費しなければ良いのだけど・・・夢物語なのかしらね」
それは私も考えた事だった
「リゾマータの公式・・・」
すると、リタが何か思い付いたような顔をしてそう呟いた
「なんだそれ?」
「あらゆるものはエアルの昇華、還元、構築、分解により成り立ってるんだけど、そのエアルの仕組み自体に自由に干渉する事が可能になるはずの未知の理論が予想されてるの。それを確率する為に世界中の魔導士が追い求めている現代魔導学の最終到達点よ」
「それがリゾマータの公式?」
リタは小さく頷くと、先程よりも難しい顔をして私達を見て話しを続ける
「確率されれば、エアルの制御は今よりずっと容易になるはず。もちろんエアルから変換された力をまたエアルとして再構成するような未知の術式が必要だけど・・・でも現にエステルの力はエアルに直接干渉してる。リゾマータの公式に一番近い存在なのはエステルなのよ。公式でエステルの力に干渉して相殺すればあるいは・・・」
「なんだか良く分かんねぇが、その公式ってのに辿り着けばエステルは安心して生きてけるって事だな?」
「増えすぎたエアルも制御出来れば星喰みを招く事も無くなる理屈ね」
「すごいよ!」
「で、その世界中の学者共が見つけられない公式ってのを探すっての? それこそ夢物語でしょ」
「絶対辿り着いてみせるわ。エステルの為にも、あたしの為にも!」
「そうかい・・・」
そう言うとレイヴンは外に向かって歩き出した
「あれ? 何処行くの? レイヴン?」
「散歩よ。世界を救うとか、魔導学の最終到達点とか話が壮大すぎて、おっさん、ちっとついてけないわ」
「私もちょっと外の空気吸って来ても良いかな? エステルに此処にいる事も伝えておきたいし」
「ああ。じゃあ頼むな」
「うん」
私はそう言って外に出た
外の空気を吸いたいのもエステルに伝言を伝えるのもだったが、何より先程の話で一人で考えたい事があったからだ
長老の家であの壁画を見て、さっきの話しを聞いて、フェローが言っていた世界の危機は解った
何より始祖の隷長が満月の子を嫌う理由も更に詳しく解った
世界の事をずっと見てきている彼等にとっては事を大きくしたくないのは当然だろう
それは人類にとっても同じ事
アスラ達式神も何かしら知っていたとしても始祖の隷長とは役割が違うから干渉は出来ない
だから知っていても黙っていたのだろう
ただ、気がかりなのはエステルだ
フェローにはああ言ったものの、いざ真実を知るとどう受け止めて良いものか考えてしまう
長老さんもジュディスも言っていたけど、伝承は残っていたとしてもそれがちゃんとした解釈なのかは私達では解らない
ちゃんとした真実を知っているのは始祖の隷長だけだろう
でも、一番気がかりなのは、あの壁画を見た時からずっと心臓の音が高鳴っている
何故だか解らないけど、変に高鳴って少しギュっと締め付けられる感じがしていた
顔には出ていなかったからみんなには気付かれなかったけど・・・
「・・・何なんだろう、これ・・・」
そう思って足を止めると随分と歩いて来たのか、そこは外へと続くあの大きな扉の近くだった
「随分と歩いて来ちゃったな・・・」
すると少し先の方に見覚えのある人物が見えた
それはエステルとレイヴンだった
「あ、二人共あんな所にいたんだ」
先にレイヴンがエステルを見つけ、ユーリ達の居場所を教えているのだろうかと思って一歩踏み出した時だった
「・・・え?」
突然レイヴンがエステルを気絶させ、エステルを抱えて外へと向かい出した
「・・・・」
私はそのまま二人の後を追い駆けた
*
「レイヴン!」
「! リア、ちゃん・・・どうして此処に?」
レイヴンを追い駆けるとレイヴンは入り口の外にある魔導器の前で止まり、私を見て驚いた顔をした
「外の空気を吸いに出て来たの。後、エステルに伝言伝えようと思って。そしたら二人が見えて・・・」
私はそこで一旦言葉を切りレイヴンを見た
「・・・・」
レイヴンは少し視線を逸らし、ゆっくりと私の方に歩いて来た
「・・・ごめんな、リアちゃん」
「え? ・・・っ!」
レイヴンは悲しそうな顔でそう言うと私の鳩尾を殴った
「・・・レイ・・・ヴン・・なん、で・・・」
私はそのまま倒れてしまい、ユーリ達に連絡しなきゃと思っていたがそのまま意識を失った
続く
あとがき
はい、ミョルゾまで来ました
そして最後はこんな感じになりました
此処から中盤の架橋ですからね!
でも、こうしたのはリアちゃんの設定考えた時からこうなるって考えてたので
次回からはまたオリジナルで書きます
多分、リアちゃん視点の後は暫くユーリ視点で続くと思いますι
では!
The rest is silence.(そして静寂だけが残る)
下書き:2008.12.25
完成:2009.08.01
「ホントに勝手に入って良いんでしょうか?」
「本人が入って待ってろって言ったんだから良いでしょ」
「やっぱりクリティアの人ってなんか変わってるよね」
「のほほんとしてると言うかマイペースと言うか」
「おかしな人達でしょう?」
「ジュディスも何となく似てるけどね」
「おかしいわね。随分と違うと思うのだけれど」
違うとは言うけど確かにマイペースな所は一緒だと思っていると、ガチャリと扉が開く音が聞こえ、長老さんが中に入って来た
「ただいま」
「あ、お帰りなさい」
「待たせたの。それじゃ、その奥に行くと良い」
長老に言われ、私達は部屋の奥にやって来た
そこには横長い壁があった
「・・・・?」
「これこそがミョルゾに伝わる伝承を表すものなのじゃよ」
「でも、ただの壁だぜ?」
「ジュディスよ、ナギーグで壁に触れながら、こう唱えるのじゃ。『・・・霧のまにまに浮かぶ夢の都、それが現実の続き』」
「・・・霧のまにまに浮かぶ夢の都、それが現実の続き・・・?」
「これは・・・」
61.The rest is silence.
ジュディスがそう唱えると目の前の壁に絵が映し出された
「我等クリティアには物に込められた情報を読み取るナギーグという古き力がある。この力と口伝の秘文とにより、この壁画は真の姿を現すのじゃ」
「な、なんか不気味な絵だね・・・」
「うん・・・」
目の前の壁に映し出された絵は、何かドス黒いものが絵の中に書かれている世界を覆っていた
まるで、この世界を食べようとしているかのように・・・
「クリティアこそ知恵の民なり。大いなるゲライオスの礎、古の世の賢人なり。されど賢明ならざる知恵は禍なるかな。我等が手になる魔導器、天地に恵みをもたらすも星の血なりしエアルを穢したり」
「やっぱりリタの言った通り、エアルの乱れは過去にも起きていたんですね」
「・・・」
「こいつがエアルの乱れを表してるのか」
「世界を食べようとしてるみたい・・・」
「んむ。大量のエアルが世界全体を飲み込むかのようだったという」
「エアルの穢れ、嵩じて大いなる災いを招き。我等怖れもてこれを
「星喰み・・・」
「此処に世のことごとく一丸となりて星喰みに挑み、忌まわしき力を消さんとす」
「ねえひょっとしてこれ、始祖の隷長を表してるのかな?」
「魔物みたいなのが人と一緒に化け物に挑んでるように見えるねぇ」
「結果、古代ゲライオス文明は滅んでしまったが、星喰みは鎮められたようじゃの。その点はワシ等がこうして生きている事からも明らかじゃな」
「ようするにこの絵はその星喰みを鎮めてる図って事?」
「最後、なんて書いてあるの?」
「・・・・」
「ジュディ?」「ジュディス?」
カロルの問いにジュディスは少し黙ってしまい、私とユーリはジュディスを見ると、少し顔を歪めて続きを読んだ
「・・・世の祈りを受け満月の子等は命燃え果つ。星喰み虚空へと消え去れり」
「なんだと?」
「世の祈りを受け・・・満月の子等は命燃え果つ・・・」
「!」
「かくて世は永らえたり。されど我等は罪を忘れず、此処に世々語り継がん・・・アスール、240」
最後まで読み終えると私達は表情を変え、リタは勢い良く長老さんを見た
「どういう事!」
「個々の言葉の全部が全部、何を意味しているのかまでは伝わっておらんのじゃ」
「・・・・」
「とにかく魔導器を生み出し、ひとつの文明の滅びを導く事となった我等の祖先は魔導器を捨て、外界と関わりを断つ道を選んだとされておる」
「エステル!」
その言葉を聞いた途端、エステルは走って外に行ってしまった
「ほっといてやれ」
「今は一人で考えさせてやれ」
「ミョルゾに伝わる伝承はこれで全てじゃ」
「ありがとな、じいさん。参考になった」
「有り難う御座います」
「ふむ。もっと参考になるどんな料理も美味しくなる幻のキュウリの話があるのじゃが・・・」
「結構よ。それより何処か休める所を借りても良いかしら? 仲間が落ち着くまで暫くお世話になりたいのだけれど」
「む。ならば隣の家を使うと良い。今は誰も使っておらんでの」
「助かるわ。行きましょ」
そう言い、ジュディス達は歩いて行き出し私は長老さんに一礼してその後に続いた
「長老の話、全部本当の事なんだよね?」
長老の家を出て休める場所に移動しているとカロルがぽつりと呟いた
「壁画の解釈に間違いがあるかもしれないけれど言葉と壁画を照らし合わせると、説得力はあったわ」
「フェローに話を聞いた時点で、問題が世界規模だって事は解ってんだ。あいつは、これを見たオレ達がどう反応するか、それを解った上で時間をくれたんだろうな」
「所詮、人間如きに対処出来る事態じゃない、とでも思わせたかったのかね」
「そして、あの子の事を諦めさせる?」
「・・・これじゃ、フェローの思惑通りじゃない。あたし、そんなの絶対に認めない。認めてたまるか・・・諦めてたまるか」
「だな。とりあえず、休める所まで言ってさっきの話しを纏めてみようぜ」
「うん・・・」
*
「世界の災い、星喰みかぁ」
長老さんに言われてやって来た隣の家に着くと私達は各々イスに座ったり壁に寄り掛かったりしていていて、カロルが先程の話しを思い出しぽつりと呟いた
「あの伝承からだと前に星喰みが起きたのは、満月の子の力が原因とは言い切れないもんだった」
「けどよ、世の祈りを受け満月の子等は命燃え果つってのは・・・」
「星喰みの原因の満月の子の命を絶った事で危機を回避したとも取れるわ」
「・・・・」
「で、でもさ、ボク達が確実に原因になってるヘルメス式魔導器を止めれば良いんだよね・・・?」
「ヘルメス式だけじゃないかもな。あの伝承からだと全ての魔導器がエアルを乱してるって感じだった。違うか、リタ」
「長老、魔導器に普通も特殊もないって言ってた。つまり違うのは術式によって扱うエアルの量の大小のみって事だと思う」
「オレ達が使ってるこいつもか?」
ユーリは自分の武醒魔導器を見せるとリタは小さく頷いた
「武醒魔導器は特殊だけど、術式によってエアルを用いる以上、どの魔導器も同じよ・・・それに術技はどのみちエアルを必要とするもの。多分、ヘルメス式も満月の子も本質的には危険の一部でしかない。魔導器の数が増え続ければ遅かれ早かれ星喰みが起こる。始祖の隷長はそれを怖れてるんだわ」
「やっぱそうか」
「認めたくなかった・・・!」
リタはそう言って悔しそうな顔をして俯いた
「悪いのは魔導器じゃない、悪い事に使ってるヤツが悪いんだって。そう信じてた・・・でも・・・違った」
「じゃあ全部の魔導器を止めなきゃダメなの? このミョルゾの人達みたいに?」
「そりゃ無理な話だ。魔導器はもう俺達の生活には無くてはならないものだぜ。結界魔導器や水道魔導器とか・・・もちろん武醒魔導器も、な」
「確かにな・・・実際、こいつがないとすげぇ化け物とかの相手は無理かもしれない」
「そうだよね・・・」
ユーリは自分の武醒魔導器に目を落として言うと、皆自然と自分達の武醒魔導器を見ていた
確かにこれが無くなればユーリ達は今みたいに戦う事は難しくなる
私も兄さんも持っているとはいえ、そんなに使う事はない
言霊使いの力と一緒に使って戦っているから不便ではなくなるけど、魔導器が無くなれば安全な生活を送る事が難しくなる
でも、原因は魔導器・・・
「魔導器を使ってもエアルが消費しなければ良いのだけど・・・夢物語なのかしらね」
それは私も考えた事だった
「リゾマータの公式・・・」
すると、リタが何か思い付いたような顔をしてそう呟いた
「なんだそれ?」
「あらゆるものはエアルの昇華、還元、構築、分解により成り立ってるんだけど、そのエアルの仕組み自体に自由に干渉する事が可能になるはずの未知の理論が予想されてるの。それを確率する為に世界中の魔導士が追い求めている現代魔導学の最終到達点よ」
「それがリゾマータの公式?」
リタは小さく頷くと、先程よりも難しい顔をして私達を見て話しを続ける
「確率されれば、エアルの制御は今よりずっと容易になるはず。もちろんエアルから変換された力をまたエアルとして再構成するような未知の術式が必要だけど・・・でも現にエステルの力はエアルに直接干渉してる。リゾマータの公式に一番近い存在なのはエステルなのよ。公式でエステルの力に干渉して相殺すればあるいは・・・」
「なんだか良く分かんねぇが、その公式ってのに辿り着けばエステルは安心して生きてけるって事だな?」
「増えすぎたエアルも制御出来れば星喰みを招く事も無くなる理屈ね」
「すごいよ!」
「で、その世界中の学者共が見つけられない公式ってのを探すっての? それこそ夢物語でしょ」
「絶対辿り着いてみせるわ。エステルの為にも、あたしの為にも!」
「そうかい・・・」
そう言うとレイヴンは外に向かって歩き出した
「あれ? 何処行くの? レイヴン?」
「散歩よ。世界を救うとか、魔導学の最終到達点とか話が壮大すぎて、おっさん、ちっとついてけないわ」
「私もちょっと外の空気吸って来ても良いかな? エステルに此処にいる事も伝えておきたいし」
「ああ。じゃあ頼むな」
「うん」
私はそう言って外に出た
外の空気を吸いたいのもエステルに伝言を伝えるのもだったが、何より先程の話で一人で考えたい事があったからだ
長老の家であの壁画を見て、さっきの話しを聞いて、フェローが言っていた世界の危機は解った
何より始祖の隷長が満月の子を嫌う理由も更に詳しく解った
世界の事をずっと見てきている彼等にとっては事を大きくしたくないのは当然だろう
それは人類にとっても同じ事
アスラ達式神も何かしら知っていたとしても始祖の隷長とは役割が違うから干渉は出来ない
だから知っていても黙っていたのだろう
ただ、気がかりなのはエステルだ
フェローにはああ言ったものの、いざ真実を知るとどう受け止めて良いものか考えてしまう
長老さんもジュディスも言っていたけど、伝承は残っていたとしてもそれがちゃんとした解釈なのかは私達では解らない
ちゃんとした真実を知っているのは始祖の隷長だけだろう
でも、一番気がかりなのは、あの壁画を見た時からずっと心臓の音が高鳴っている
何故だか解らないけど、変に高鳴って少しギュっと締め付けられる感じがしていた
顔には出ていなかったからみんなには気付かれなかったけど・・・
「・・・何なんだろう、これ・・・」
そう思って足を止めると随分と歩いて来たのか、そこは外へと続くあの大きな扉の近くだった
「随分と歩いて来ちゃったな・・・」
すると少し先の方に見覚えのある人物が見えた
それはエステルとレイヴンだった
「あ、二人共あんな所にいたんだ」
先にレイヴンがエステルを見つけ、ユーリ達の居場所を教えているのだろうかと思って一歩踏み出した時だった
「・・・え?」
突然レイヴンがエステルを気絶させ、エステルを抱えて外へと向かい出した
「・・・・」
私はそのまま二人の後を追い駆けた
*
「レイヴン!」
「! リア、ちゃん・・・どうして此処に?」
レイヴンを追い駆けるとレイヴンは入り口の外にある魔導器の前で止まり、私を見て驚いた顔をした
「外の空気を吸いに出て来たの。後、エステルに伝言伝えようと思って。そしたら二人が見えて・・・」
私はそこで一旦言葉を切りレイヴンを見た
「・・・・」
レイヴンは少し視線を逸らし、ゆっくりと私の方に歩いて来た
「・・・ごめんな、リアちゃん」
「え? ・・・っ!」
レイヴンは悲しそうな顔でそう言うと私の鳩尾を殴った
「・・・レイ・・・ヴン・・なん、で・・・」
私はそのまま倒れてしまい、ユーリ達に連絡しなきゃと思っていたがそのまま意識を失った
続く
あとがき
はい、ミョルゾまで来ました
そして最後はこんな感じになりました
此処から中盤の架橋ですからね!
でも、こうしたのはリアちゃんの設定考えた時からこうなるって考えてたので
次回からはまたオリジナルで書きます
多分、リアちゃん視点の後は暫くユーリ視点で続くと思いますι
では!
The rest is silence.(そして静寂だけが残る)
下書き:2008.12.25
完成:2009.08.01