満月の子編
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翌朝、私達は甲板に集まり今後の事を話し合った
ジュディスや私達から話を聞き、ユーリ達はとりあえず納得してくれた
そしてこの旅の最初の目的であるフェローに会いに行く事にした
フェローがいる場所はコゴール砂漠の中央にある岩山だと分かり、私達はその岩山に向かった
「此処にフェローがいるんだな」
岩山に着いた私達はフィエルティア号を少し広くなっている所に着け、降りた
「おそらくね。砂漠では会えなかったけれど此処では会えると思う」
此処に、フェローがいる
エステルの・・・否、私達の最初の目的である場所
とうとう此処まで来た
各々フェローに聞きたい事は山程ある
それにフェローが答えてくれるかは解らないけど、私も確かめたい事があるからフェローに会いに来た
ジュディスが言うにフェローはこの先の岩山にいると言う
私達は覚悟を決めて岩山を登りだした
57.満月の子
「フェローいないね。お、お休みなんじゃない・・・なんて」
岩山を登り終え広い所に出ると、フェローの姿はなかった
カロルがユーリの後ろに隠れて少し上擦った声で言うとジュディスが一歩前に出て岩陰の方に向かって声をかけた
「フェロー。いるんでしょう?」
その途端、突然辺りが暗くなり砂が舞ってバサバサと羽根の音が聞こえた
「わあああ!!」
カロルは目の前の岩にフェローが降り立ったのを見て大きな声を出して驚いた
フェローは私達を見下すような形で私達を見て、少し目を細めてエステルを見た
「忌まわしき毒よ、遂に我が下に来たか!」
「・・・お出ましか。現れるなり毒呼ばわりとはご挨拶だな、フェロー!」
「何故我に会いに来た? 我にとってお前達を消す事なぞ造作もない事、解っておろう」
「ちっ、あんたもこれで語るタイプか? やるってんならしょうがねぇな」
ユーリは鞘から剣を抜き、構えるがそれをエステルが止める
「駄目です、ユーリ! みんなも待って!」
「エステル!」
「お願いです、フェロー、話をさせて下さい!」
「死を恐れぬのか、小さき者よ。そなたの死なる我を?」
「話、聞いてやってよ。フェロー」
「・・・式神か」
「ほら、エステル」
私の促しにエステルは頷き、ギュッと手を握ってフェローを見た
「怖いです。でも自分が何者なのか知らないまま死ぬのはもっと怖いです。ベリウスはあなたに会って運命を確かめろと言いました。わたしは自分の運命が知りたいんです。わたしが始祖の隷長にとって危険だと言うのは解りました。でもあなたは世界の毒と・・・わたしの力は何? 満月の子とは何なんです? 本当にわたしが生きている事が許されないのなら・・・」
エステルはそこで一呼吸置いてこう告げた
「死んだって良い」
その言葉にユーリがぴくりと反応した
「・・・・」
リタもカロルも驚いた顔をしていたが、エステルは必死にフェローに問いかける
「でも! せめてどうして死ななければならないのか・・・教えて下さい! お願いです!」
「かつては此処もエアルクレーネの恵みを受けた豊かな土地であった」
「此処にエアルクレーネがあったのね」
「でも、それが何故こんな事に?」
「エアルの暴走とその後の枯渇がもたらした結果だ。何故エアルが暴走したか・・・それこそが満月の子が世界の毒たる所以よ」
「え・・・」
「満月の子の力はどの魔導器にも増してエアルクレーネを刺激する」
「どういう事だ?」
「・・・魔導器は術式によってエアルを活動力に変えるもの」
その問いに答えたのはフェローではなくリタだった
リタは何処か悔しそうなつらそうな顔をして言葉を続ける
「なら、その魔導器を使わずに治癒術が使えるエステルはエアルを力に変える術式をその身に持ってるって事・・・ジュディスが狙ってるのは特殊な術式の魔導器・・・つまり・・・エステルはその身に持つ特殊な術式で大量のエアルを消費する・・・そしてエアルクレーネは活動を強め、エアルが大量に放出される・・・」
リタはそう言って言葉を切り、ギュッと拳を握って悔しそうに目を閉じた
「あたしの仮説・・・間違ってて欲しかった・・・」
「わたしは・・・」
「その者の言う通りだ」
エステルが顔を俯けると上からフェローの声が聞こえ私達はフェローを見た
「満月の子は力を使う度に魔導器などとは比べものにならぬ程、エアルを消費し、世界のエアルを乱す。世界にとって毒以外の何物でもない」
「だから消すってか? そりゃ随分と気が短いな。え? フェローよ」
「これは世界全体の問題なのだ。そしてその者はその原因。座視する訳には行かぬ」
「オレ達の不始末ならオレ達がやる。勝手な押し付けはごめんだぜ」
「お前達は事の重大さが理解出来ていないのだ」
「じゃあ聞くが、エステルが死んだからって何もかも解決するのかよ?」
「少なくとも一つは問題を取り除く事が出来る。だが、その者がそこの言霊使い達にも影響を与えていると知っていてもか?」
「えっ?」
フェローの言葉に皆一斉に私と兄さんを見た
「確かに満月の子の力は俺達に影響を与える」
「特に力の強いリアとセイにはね」
兄さんとアスラの言葉にユーリ達は驚きエステルはまた暗い顔をしていた
「けど、私はエステルを攻めたりはしないわ」
「自分の力が不安定になっているのにか?」
「ええ」
「俺も同じだぜ。俺はリアほど不安定じゃないけど」
「だがその者は・・・「フェロー」
その先の言葉はアスラによって掻き消され、フェローはアスラが視線を送った方を見るとジュディスがフェローを見ていて、視線が合ったのを確認するとジュディスは口を開いた
「フェロー、ヘリオードで私は手を止め、ダングレストでは貴方を止めたわ。最初は魔導器のはずが人間だったから。次は私自身が分からなくなったから。この子が貴方が言うような危険な存在とは思えなかったからよ」
「そうだ。故に我はそなたに免じて見極めの為の時間を与えた。その結果、我は同胞ベリウスを失う事となり、言霊使いにも影響を与えた。もう十分だ。その力は滅びを招く」
「ふーん。良く分かんないけど力を使うのがまずいなら、使わなきゃ良いだけじゃないの?」
「その娘が力を使わないと言う保証はない」
「・・・そうね。この子は目の前の事を見過ごせない子。きっとまた誰かの為に使うでしょうね。だけどその心がある限り害あるものとは言い切れないはず。彼女は魔導器とは違う。貴方にもそれが分かると思うけれど?」
「・・・心で世界は救えぬ」
「おい、フェロー」
ジュディスの問いにフェローはさらりと答えると隣にいたユーリが痺れを切らし口を開いた
「お前が世界とやらの為にあれこれ考えてるのは良く分かった。けどな、なんでエステルがその世界に含まれてない?」
「より大きなものを守る為には、切り捨てる事も必要なのだ」
「クソ喰らえだな。その何を切り捨てるかを決められる程、お前は偉いのかよ?」
「我等はお前達の想像も及ばぬ程の長きに渡り、忍耐と心労を重ねてきたのだ。わずかな時間でしか世界を捉える事の出来ぬ身で何を言うか!!」
「悪いけど、俺はリア達の味方だよ」
「式神・・・」
アスラの一人称が『俺』になった
『俺』と使うのはアスラが本気の時だけ使う言葉だ
そしてアスラは元の姿に戻ってフェローを見て、私達も静かにアスラとフェローを見た
「確かにエステルの力は世界にとってもリア達言霊使いにとっても害を及ぼす。俺もあんたと一緒で随分と長く生きてるから世界の異変には気付いてた。けど、ベリウスはエステルを認めた。慈しむ心を大事にしろって。確かにリアの力は不安定になったけど、それでもエステルはあんたが思ってるほど危険な存在じゃない、己の力を傲慢に使う事はない」
「アスラ・・・」
「・・・・」
「フェロー、聞いて」
アスラの言葉を聞いてエステルはアスラを見て小さく呟き、フェローは少し黙るが直ぐにジュディスに呼ばれ視線をジュディスに向ける
「要するにエアルの暴走を抑える方法があれば良いのでしょう? まだそれを探す為の時間くらいはあるはずよ」
「ジュディス・・・」
「それにもし・・・エステルの力の影響が本当の限界に来たら・・・約束通り私が殺すわ。それなら文句ないでしょう?」
「ちょ、ちょっと、ジュディス、本気で言ってるの!?」
ジュディスの言葉に驚いてカロルは声を上げると、ジュディスはにこりとして答えた
「あら、そうならないように凛々の明星が何とかするでしょ?」
「え!? あ、そうか・・・うん、そうだ、そうだね!」
「一本取られたな」
ユーリは苦笑して言うと直ぐに表情を変えてフェローを見た
「そう言う訳だ。エステルの事も、世界のヤバさもそれがオレ達人間の所為だってならオレ達自身がケジメ付ける。それで駄目なら、丸焼きでも何でも好きにしたら良い」
フェローはジュディスとじっと見た後、ゆっくりと口を開く
「・・・そなた変わったな。かつてのそなたなら・・・」
「さあどうなのかしら? でもそう言われて悪い気はしないわね」
確かにフェローの言う通り、ジュディスは変わったと思う
最初に会った時より考え方や行動も変わった
「・・・よかろう」
そう思っているとフェローの声が聞こえ私はまたフェローを見た
「だが忘れるな、時は尽きつつあると言う事を!」
そうしてフェローは飛び立ち始めた
「ま「待って!」
フェローを呼び止めようとしていると先にリタが口を開いた
その声が必死だったからリタに譲りその言葉を聞いていた
「術式がエアル暴走の原因って言うなら昔にも同じように暴走した事があるはずでしょ。魔導器は古代文明で生み出された技術なんだから」
「罪を受け継ぐ者達がいる。そ奴等を探すが良い。彼の者共なら過去に何が起こったのか伝えているであろう」
言い終えるとフェローの姿はもう何処にもなかった
「行っちゃった・・・」
「えっと、あの・・・有り難う御座います、ユーリ。それに・・・ジュディスもアスラも」
「それは良いんだけどな」
ユーリは静かにエステルの元へ歩き出し、エステルの前で止まるとエステルを睨み付けた
「え?」
「死んだって良い? ふざけてんのか?」
「・・・ごめんなさい」
「二度と言うなよ」
「ごめんなさい・・・」
そしてユーリは踵を返しフィエルティア号に向かい出しカロル達もその後に続いた
「・・・・」
私はそのままじっとフェローがいた岩場を見ているとポンっと頭に何が乗り、見ると兄さんが私の頭に手を乗せていた
「俺達も行くぞ」
兄さんとアスラを見ると小さく微笑んでいた
「・・・うん」
兄さんは私の返事を聞くと、一回頭を撫でて歩き出し数歩遅れて私もアスラも続いた
「はぁ・・・どうなるかと思ったよ」
部屋に着くなりカロルは肩を落として大きな溜息を吐いた
「あーんなデカブツ相手に良くまあ話だけで済んだねえ。おっさん心臓がどうにかなりそうだったわ」
「本当にエステルを殺すつもりだったら問答無用で来れば良かったはずだが・・・そこがどうも解せないな」
「多分、フェローも迷ってたのよ。だから私達がどう振舞うか見定める為に砂漠では姿を隠した」
「ふうん、思ったより悪い奴じゃなかったのかな?」
「どうだかな。いざとなりゃ、何だってやるタイプと思うがな、オレは」
「それはあんたも一緒でしょ」
「・・・かもな」
「でもどうするの、ユーリ? あんな事言っちゃって」
「エアルが悪さすんのをどうにかする。それだけだろ?」
「つっても手掛かりゼロじゃ話になんないんでない?」
「エアルの消費に関しては間違いなく術式が関わってるはずなのよ。昔の魔導器についてやその時に暴走が起きたかどうか。その辺の情報があれば手掛かりになるんだけど・・・」
「過去の出来事については罪を受け継ぐ者達に聞け・・・。フェローはそう言ってました」
「魔導器を発明したのはクリティア族、つまり今も伝承を受け継ぐクリティア族に聞けと言う意味ね」
「確かに、クリティア族が魔導器を生み出したとは言われてるけど・・・」
「けどクリティアの街テムザはもう滅んじまってるぜ。他にもあるってんなら話は違うが・・・」
「隠された街ミョルゾ。テムザよりずっと古い、クリティア族の故郷。そして魔導器発祥の地」
「ほへ~。そんな街があるのね。もしかしてジュディスちゃん。そのミョルゾっての何処にあるか知ってる?」
「さあ?」
「その名前に覚えがある・・・」
次に聞かれるのはアスラか、と思っているとリタがぽつりと呟いた
「アスピオに来てたクリティア族の人が何かその名前を言ってたような」
「その人、まだアスピオにいるでしょうか?」
「ま、当たってみるしかないな」
「ジュディス・・・一緒に来てくれる?」
「・・・そうね。まだギルドのケジメが残ってるものね」
「じゃアスピオに行くとするか」
そして私達はアスピオに向かいだした
「はあ・・・」
私は部屋に戻って来るとそのままベッドに横になった
「結局、フェローには聞けずじまい、か・・・」
フェローに会ったのは良いが、私が聞きたかった事は聞けずに終わってしまった
あの場合仕方がないかもしれないけど、聞きたい事が聞けなかったのは私だけじゃない
「・・・次に会える時を待つしかないか」
それに今はこの事より、エステルや世界の事を優先するべきだし
そう思っていると急に睡魔が襲って来た
「・・・アスピオに着くまで一眠りしよう」
思いの外疲れたのか私はそう言って目を閉じるとそのまま眠りについた
続く
あとがき
終わりました! 満月の子編!!
そして遂にフェローに会う事が出来た一行!
だけど、結局リアちゃんが聞きたかった事は聞けずに終わってしまいましたが・・・
ホント、次に会う時に聞けると良いですね・・・
そして本気になったアスラ
この子は本気になると一人称が変わりますからねw
やっぱりフェロー相手だと本気にならないといけないんでしょうね
さて、遂に満月の子編も終わり次回からは新章『救出編』が始まります!
こっからは本編もオリジナルもかなりの急展開になるのでお楽しみに!
では、新章『救出編』でお会いしましょう!!
下書き:2008.12.19
完成:2009.07.30
ジュディスや私達から話を聞き、ユーリ達はとりあえず納得してくれた
そしてこの旅の最初の目的であるフェローに会いに行く事にした
フェローがいる場所はコゴール砂漠の中央にある岩山だと分かり、私達はその岩山に向かった
「此処にフェローがいるんだな」
岩山に着いた私達はフィエルティア号を少し広くなっている所に着け、降りた
「おそらくね。砂漠では会えなかったけれど此処では会えると思う」
此処に、フェローがいる
エステルの・・・否、私達の最初の目的である場所
とうとう此処まで来た
各々フェローに聞きたい事は山程ある
それにフェローが答えてくれるかは解らないけど、私も確かめたい事があるからフェローに会いに来た
ジュディスが言うにフェローはこの先の岩山にいると言う
私達は覚悟を決めて岩山を登りだした
57.満月の子
「フェローいないね。お、お休みなんじゃない・・・なんて」
岩山を登り終え広い所に出ると、フェローの姿はなかった
カロルがユーリの後ろに隠れて少し上擦った声で言うとジュディスが一歩前に出て岩陰の方に向かって声をかけた
「フェロー。いるんでしょう?」
その途端、突然辺りが暗くなり砂が舞ってバサバサと羽根の音が聞こえた
「わあああ!!」
カロルは目の前の岩にフェローが降り立ったのを見て大きな声を出して驚いた
フェローは私達を見下すような形で私達を見て、少し目を細めてエステルを見た
「忌まわしき毒よ、遂に我が下に来たか!」
「・・・お出ましか。現れるなり毒呼ばわりとはご挨拶だな、フェロー!」
「何故我に会いに来た? 我にとってお前達を消す事なぞ造作もない事、解っておろう」
「ちっ、あんたもこれで語るタイプか? やるってんならしょうがねぇな」
ユーリは鞘から剣を抜き、構えるがそれをエステルが止める
「駄目です、ユーリ! みんなも待って!」
「エステル!」
「お願いです、フェロー、話をさせて下さい!」
「死を恐れぬのか、小さき者よ。そなたの死なる我を?」
「話、聞いてやってよ。フェロー」
「・・・式神か」
「ほら、エステル」
私の促しにエステルは頷き、ギュッと手を握ってフェローを見た
「怖いです。でも自分が何者なのか知らないまま死ぬのはもっと怖いです。ベリウスはあなたに会って運命を確かめろと言いました。わたしは自分の運命が知りたいんです。わたしが始祖の隷長にとって危険だと言うのは解りました。でもあなたは世界の毒と・・・わたしの力は何? 満月の子とは何なんです? 本当にわたしが生きている事が許されないのなら・・・」
エステルはそこで一呼吸置いてこう告げた
「死んだって良い」
その言葉にユーリがぴくりと反応した
「・・・・」
リタもカロルも驚いた顔をしていたが、エステルは必死にフェローに問いかける
「でも! せめてどうして死ななければならないのか・・・教えて下さい! お願いです!」
「かつては此処もエアルクレーネの恵みを受けた豊かな土地であった」
「此処にエアルクレーネがあったのね」
「でも、それが何故こんな事に?」
「エアルの暴走とその後の枯渇がもたらした結果だ。何故エアルが暴走したか・・・それこそが満月の子が世界の毒たる所以よ」
「え・・・」
「満月の子の力はどの魔導器にも増してエアルクレーネを刺激する」
「どういう事だ?」
「・・・魔導器は術式によってエアルを活動力に変えるもの」
その問いに答えたのはフェローではなくリタだった
リタは何処か悔しそうなつらそうな顔をして言葉を続ける
「なら、その魔導器を使わずに治癒術が使えるエステルはエアルを力に変える術式をその身に持ってるって事・・・ジュディスが狙ってるのは特殊な術式の魔導器・・・つまり・・・エステルはその身に持つ特殊な術式で大量のエアルを消費する・・・そしてエアルクレーネは活動を強め、エアルが大量に放出される・・・」
リタはそう言って言葉を切り、ギュッと拳を握って悔しそうに目を閉じた
「あたしの仮説・・・間違ってて欲しかった・・・」
「わたしは・・・」
「その者の言う通りだ」
エステルが顔を俯けると上からフェローの声が聞こえ私達はフェローを見た
「満月の子は力を使う度に魔導器などとは比べものにならぬ程、エアルを消費し、世界のエアルを乱す。世界にとって毒以外の何物でもない」
「だから消すってか? そりゃ随分と気が短いな。え? フェローよ」
「これは世界全体の問題なのだ。そしてその者はその原因。座視する訳には行かぬ」
「オレ達の不始末ならオレ達がやる。勝手な押し付けはごめんだぜ」
「お前達は事の重大さが理解出来ていないのだ」
「じゃあ聞くが、エステルが死んだからって何もかも解決するのかよ?」
「少なくとも一つは問題を取り除く事が出来る。だが、その者がそこの言霊使い達にも影響を与えていると知っていてもか?」
「えっ?」
フェローの言葉に皆一斉に私と兄さんを見た
「確かに満月の子の力は俺達に影響を与える」
「特に力の強いリアとセイにはね」
兄さんとアスラの言葉にユーリ達は驚きエステルはまた暗い顔をしていた
「けど、私はエステルを攻めたりはしないわ」
「自分の力が不安定になっているのにか?」
「ええ」
「俺も同じだぜ。俺はリアほど不安定じゃないけど」
「だがその者は・・・「フェロー」
その先の言葉はアスラによって掻き消され、フェローはアスラが視線を送った方を見るとジュディスがフェローを見ていて、視線が合ったのを確認するとジュディスは口を開いた
「フェロー、ヘリオードで私は手を止め、ダングレストでは貴方を止めたわ。最初は魔導器のはずが人間だったから。次は私自身が分からなくなったから。この子が貴方が言うような危険な存在とは思えなかったからよ」
「そうだ。故に我はそなたに免じて見極めの為の時間を与えた。その結果、我は同胞ベリウスを失う事となり、言霊使いにも影響を与えた。もう十分だ。その力は滅びを招く」
「ふーん。良く分かんないけど力を使うのがまずいなら、使わなきゃ良いだけじゃないの?」
「その娘が力を使わないと言う保証はない」
「・・・そうね。この子は目の前の事を見過ごせない子。きっとまた誰かの為に使うでしょうね。だけどその心がある限り害あるものとは言い切れないはず。彼女は魔導器とは違う。貴方にもそれが分かると思うけれど?」
「・・・心で世界は救えぬ」
「おい、フェロー」
ジュディスの問いにフェローはさらりと答えると隣にいたユーリが痺れを切らし口を開いた
「お前が世界とやらの為にあれこれ考えてるのは良く分かった。けどな、なんでエステルがその世界に含まれてない?」
「より大きなものを守る為には、切り捨てる事も必要なのだ」
「クソ喰らえだな。その何を切り捨てるかを決められる程、お前は偉いのかよ?」
「我等はお前達の想像も及ばぬ程の長きに渡り、忍耐と心労を重ねてきたのだ。わずかな時間でしか世界を捉える事の出来ぬ身で何を言うか!!」
「悪いけど、俺はリア達の味方だよ」
「式神・・・」
アスラの一人称が『俺』になった
『俺』と使うのはアスラが本気の時だけ使う言葉だ
そしてアスラは元の姿に戻ってフェローを見て、私達も静かにアスラとフェローを見た
「確かにエステルの力は世界にとってもリア達言霊使いにとっても害を及ぼす。俺もあんたと一緒で随分と長く生きてるから世界の異変には気付いてた。けど、ベリウスはエステルを認めた。慈しむ心を大事にしろって。確かにリアの力は不安定になったけど、それでもエステルはあんたが思ってるほど危険な存在じゃない、己の力を傲慢に使う事はない」
「アスラ・・・」
「・・・・」
「フェロー、聞いて」
アスラの言葉を聞いてエステルはアスラを見て小さく呟き、フェローは少し黙るが直ぐにジュディスに呼ばれ視線をジュディスに向ける
「要するにエアルの暴走を抑える方法があれば良いのでしょう? まだそれを探す為の時間くらいはあるはずよ」
「ジュディス・・・」
「それにもし・・・エステルの力の影響が本当の限界に来たら・・・約束通り私が殺すわ。それなら文句ないでしょう?」
「ちょ、ちょっと、ジュディス、本気で言ってるの!?」
ジュディスの言葉に驚いてカロルは声を上げると、ジュディスはにこりとして答えた
「あら、そうならないように凛々の明星が何とかするでしょ?」
「え!? あ、そうか・・・うん、そうだ、そうだね!」
「一本取られたな」
ユーリは苦笑して言うと直ぐに表情を変えてフェローを見た
「そう言う訳だ。エステルの事も、世界のヤバさもそれがオレ達人間の所為だってならオレ達自身がケジメ付ける。それで駄目なら、丸焼きでも何でも好きにしたら良い」
フェローはジュディスとじっと見た後、ゆっくりと口を開く
「・・・そなた変わったな。かつてのそなたなら・・・」
「さあどうなのかしら? でもそう言われて悪い気はしないわね」
確かにフェローの言う通り、ジュディスは変わったと思う
最初に会った時より考え方や行動も変わった
「・・・よかろう」
そう思っているとフェローの声が聞こえ私はまたフェローを見た
「だが忘れるな、時は尽きつつあると言う事を!」
そうしてフェローは飛び立ち始めた
「ま「待って!」
フェローを呼び止めようとしていると先にリタが口を開いた
その声が必死だったからリタに譲りその言葉を聞いていた
「術式がエアル暴走の原因って言うなら昔にも同じように暴走した事があるはずでしょ。魔導器は古代文明で生み出された技術なんだから」
「罪を受け継ぐ者達がいる。そ奴等を探すが良い。彼の者共なら過去に何が起こったのか伝えているであろう」
言い終えるとフェローの姿はもう何処にもなかった
「行っちゃった・・・」
「えっと、あの・・・有り難う御座います、ユーリ。それに・・・ジュディスもアスラも」
「それは良いんだけどな」
ユーリは静かにエステルの元へ歩き出し、エステルの前で止まるとエステルを睨み付けた
「え?」
「死んだって良い? ふざけてんのか?」
「・・・ごめんなさい」
「二度と言うなよ」
「ごめんなさい・・・」
そしてユーリは踵を返しフィエルティア号に向かい出しカロル達もその後に続いた
「・・・・」
私はそのままじっとフェローがいた岩場を見ているとポンっと頭に何が乗り、見ると兄さんが私の頭に手を乗せていた
「俺達も行くぞ」
兄さんとアスラを見ると小さく微笑んでいた
「・・・うん」
兄さんは私の返事を聞くと、一回頭を撫でて歩き出し数歩遅れて私もアスラも続いた
「はぁ・・・どうなるかと思ったよ」
部屋に着くなりカロルは肩を落として大きな溜息を吐いた
「あーんなデカブツ相手に良くまあ話だけで済んだねえ。おっさん心臓がどうにかなりそうだったわ」
「本当にエステルを殺すつもりだったら問答無用で来れば良かったはずだが・・・そこがどうも解せないな」
「多分、フェローも迷ってたのよ。だから私達がどう振舞うか見定める為に砂漠では姿を隠した」
「ふうん、思ったより悪い奴じゃなかったのかな?」
「どうだかな。いざとなりゃ、何だってやるタイプと思うがな、オレは」
「それはあんたも一緒でしょ」
「・・・かもな」
「でもどうするの、ユーリ? あんな事言っちゃって」
「エアルが悪さすんのをどうにかする。それだけだろ?」
「つっても手掛かりゼロじゃ話になんないんでない?」
「エアルの消費に関しては間違いなく術式が関わってるはずなのよ。昔の魔導器についてやその時に暴走が起きたかどうか。その辺の情報があれば手掛かりになるんだけど・・・」
「過去の出来事については罪を受け継ぐ者達に聞け・・・。フェローはそう言ってました」
「魔導器を発明したのはクリティア族、つまり今も伝承を受け継ぐクリティア族に聞けと言う意味ね」
「確かに、クリティア族が魔導器を生み出したとは言われてるけど・・・」
「けどクリティアの街テムザはもう滅んじまってるぜ。他にもあるってんなら話は違うが・・・」
「隠された街ミョルゾ。テムザよりずっと古い、クリティア族の故郷。そして魔導器発祥の地」
「ほへ~。そんな街があるのね。もしかしてジュディスちゃん。そのミョルゾっての何処にあるか知ってる?」
「さあ?」
「その名前に覚えがある・・・」
次に聞かれるのはアスラか、と思っているとリタがぽつりと呟いた
「アスピオに来てたクリティア族の人が何かその名前を言ってたような」
「その人、まだアスピオにいるでしょうか?」
「ま、当たってみるしかないな」
「ジュディス・・・一緒に来てくれる?」
「・・・そうね。まだギルドのケジメが残ってるものね」
「じゃアスピオに行くとするか」
そして私達はアスピオに向かいだした
「はあ・・・」
私は部屋に戻って来るとそのままベッドに横になった
「結局、フェローには聞けずじまい、か・・・」
フェローに会ったのは良いが、私が聞きたかった事は聞けずに終わってしまった
あの場合仕方がないかもしれないけど、聞きたい事が聞けなかったのは私だけじゃない
「・・・次に会える時を待つしかないか」
それに今はこの事より、エステルや世界の事を優先するべきだし
そう思っていると急に睡魔が襲って来た
「・・・アスピオに着くまで一眠りしよう」
思いの外疲れたのか私はそう言って目を閉じるとそのまま眠りについた
続く
あとがき
終わりました! 満月の子編!!
そして遂にフェローに会う事が出来た一行!
だけど、結局リアちゃんが聞きたかった事は聞けずに終わってしまいましたが・・・
ホント、次に会う時に聞けると良いですね・・・
そして本気になったアスラ
この子は本気になると一人称が変わりますからねw
やっぱりフェロー相手だと本気にならないといけないんでしょうね
さて、遂に満月の子編も終わり次回からは新章『救出編』が始まります!
こっからは本編もオリジナルもかなりの急展開になるのでお楽しみに!
では、新章『救出編』でお会いしましょう!!
下書き:2008.12.19
完成:2009.07.30