満月の子編
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あれから暫くして、私は落ち着いた
正直自分でもこんなに続けて泣くとは思ってなかった
こんなに泣いたのは本当にいつ以来だろうか・・・
そう思うほどだった
気持ちも落ち着いた頃にアスラもフキも戻って来た
そして色々と疑問に思っていた事を話してくれた
始祖の隷長の事、聖核の事、満月の子の事・・・
そして今、ユニオンを含むダングレストで何が起こっているかを・・・
53.漢の最期
静かな部屋にしゅるしゅると言う音が響いていた
その部屋には数人の男女がいて、部屋の中心にはリアがいた
「・・・ねえ、本当に行くの?」
リアの後ろで少し幼さの残る女性の声が聞こえる
その女性は栗色の髪をしていて黒い猫耳のようなものが生えていてた
「さっきから何回同じ事聞いてんだよ」
更にその女性の後ろから仏頂面な男の子の声が聞こえる
男の子の方は茶色い髪をしていて頭に狐のお面を付けている
「ゲツレイ! あんたはリアの事心配じゃないの!」
ゲツレイはめんどくさそうな顔をしてタイリンを見る
「本人が大丈夫だって言ってんだ。大丈夫だろ」
「だって起きてそんなに時間経ってないのよ。また倒れたら・・・」
「そん時はそん時だよ」
「もぉ~!!」
(二人共、相変わらずなんだから(苦笑))
リアは着替えながら二人の様子を見て苦笑していた
この二人もアスラ達同様同じ神将の一人だ
二人もあまり故郷の外には出ないが、良くリア達の元に行っていた
リアは足下に置いていた帯を取りながらユニオンを含むダングレストの事を考えた
今、ダングレストは大変な騒ぎになっていた
それはドンが自ら掟を破ってまで、イエガーの元へ乗り込んで行ったからだった
無事にドンを見つけたユーリ達だったが、事はそれだけでは済まなかった
ダングレストに戻って来るや異な、ドンは急いでユニオンに戻って来たがその表情は何かを決心したような顔だった
それを聞いたリアはいても経ってもいられず、ダングレストへ向かう準備を始め今に至るのだった
「ほら、お前達そこまでにしとけ」
リアが帯を締め終わると部屋の戸が開き、金髪の青年が入って来た
「「ケンク!」」
タイリンとゲツレイはケンクの声に反応して一斉に振り向いた
「準備出来たみたいだな」
「うん。兄さん達の方も?」
「ああ。外で待ってる」
リアはケンクの返事を聞き頷いて鏡の扉を閉め始めた
ケンクも同じく神将の一人で良くこの二人 の面倒を見ている
「荷物は俺が持つから」
「ありがとう、ケンク」
「じゃあ、行くか」
「あ、ちょっと、あたしも行く~!」
ケンクとリアの後に座っていたゲツレイも立ち上がりその後をタイリンが追いかけて来た
「お待たせ」
外に出るとリア同様着物を着たセイ、その隣にアスラとフキがいてリアが来るのを待っていた
だが、三人は怪訝そうな顔をしていた
「どうしたの?」
リアの問いにセイ達は重たく口を開いた
「・・・戦士の殿堂が兵装魔導器を持ってダングレストに向かってるらしい」
「!」
「奴等、思ってたより早く動きやがったな」
「・・・・」
その言葉に少し重たい空気が流れる
ドンの様子が可笑しかったのは、ドンが自害する事を決めたからだった
いくら偽情報を掴まされたとはいえ戦士の殿堂の統領の命を奪ってしまった
そうなれば相手も黙ってはいない
部下の不始末は首領が取る
それは何処の世界でも一緒
だからドンはベリウスの命に釣り合う代償、つまり自らの命を戦士の殿堂に差し出す事だった
「『血には血の制裁を・・・』、か・・・」
「それがギルドの掟ってやつだ」
「ったく、人間ってのは面倒なもんばっか作りやがるな」
「あたし達や言霊使いはそんなのないけどね」
「だな。けど、それが解ってるから行くんだろ?」
「うん」「ああ」
ダングレストに、いや、ユニオンに攻めて来ていると言う事はドンも知っているだろう
だからリア達はこれからドンに会いに行く
彼の決意を見届ける為に・・・
「あんま話してる時間はなさそうだな。フキ、ユニオン近くに繋いでくれ」
「了解」
フキは返事を返すと次元の歪みをユニオン近くに繋いだ
「じゃあ行くか」
「うん。みんなまた暫く留守にするけどよろしくね」
「ああ、こっちは任せとけ」
「無茶しちゃダメだよ」
「解ってるって」
「そっちも慎重にな」
「ああ」
「じゃあ行ってきます」
そう言い、リア達は光に包まれた
*
ユニオンに着いた私達は急いで中に入った
この街の人々とユニオンにはこの後ドンがどうするか伝わっているのか、皆様々な表情をしていた
私達はそれを横目に急いでユニオンの奥へと進んだ
そして・・・
「「ドン・・・」」
ドンの私室から少し離れた所で私達は足を止め、前から歩いて来る白髪の老人に声を掛ける
「あんた達は・・・!」
ハリーは私と兄さんを見て声を上げるが、ドンは気にした様子もなく小さく笑った
「やっぱり来たか」
「ああ」
「それもちゃんと正装までして」
「・・・・」
私は無言でドンを見るとドンはまた小さく笑い、ハリーを含む天を射る矢の人達に目を向ける
「てめぇら、暫く入ってくんじゃねぇぞ」
「え・・・ド「入ってくんじゃねぇぞ」
言葉を続けようとしている人の言葉を遮り更にドンは言い、私室へと向かって歩き出し、私と兄さんもその後に続いた
人払いをして私室に入ったドンはいつも座っている椅子に座らず、近くにある椅子に座り私と兄さんも近くにある椅子に座わり、私達の隣にアスラとフキも並んだ
「その格好で来たってぁ、もう事情知ってんだろ」
「ああ・・・だからあんたの決意を確かめに来た」
「ドン・・・本当に良いの?」
私の言葉にドンは真剣な表情になり口を開く
「ギルドの掟はオメェ等も知ってるだろ」
「うん・・・でも・・・」
「オメェが言いたい事は良く解る。けどよ、俺はもう悟ってんだ。時代が変わるなら今だってな」
「・・・・」
「オメェにはまだ早すぎる話だったか」
「かもね」「かもな」
黙って事を見ていたアスラとフキが頷きドンは言葉を続ける
「これからは若い連中がこの先を背負って行かなきゃなんねぇ。ベリウスが死んだ時よ、俺は思ったんだ。俺等はそろそろ、引退すべきなんだとよ」
ドンの言葉と共に重たい空気が漂い、私達は静かに耳を傾けていた
「けど、未練がないワケじゃないんでしょ?」
「そりゃな。もうこんな歳で随分と生きちまった。けど、守りたいもんを守り続けてたらな・・・過保護過ぎるのも問題だなぁ・・・」
その視線は兄さんとアスラとフキに向けられていた
「俺達が過保護なのは認めてるぜ」
「けど、あんた程じゃないと思うけどな」
ドンの言葉に兄さんとフキが皮肉っぽく言うとドンは豪快に笑った
「はっ、相変わらずの減らず口だな。けどよ、やっぱ俺は・・・あいつ等が好きだ。本当は後腐れなく逝っちまいたかったがな・・・」
そのドンの瞳は本当に寂しそうだったが、それは直ぐに消え、私達を見据えた
「オメェ等、正装で来たって事はあん時の約束を果たしに来たんだな」
「「・・・うん」」「「・・・ああ」」
ドンの言葉に私達は静かに頷いた
その約束と言うのはドンが私達が言霊使いだと言う事を知った時に言った事
「『俺が死ぬ時ぁ、オメェ等の仕事で逝 くってくれや・・・』」
あの時言われた言葉をドンはまた口にした
「だからわざわざ俺んとこに来たんだろ?」
「ああ、その言葉をもう一度聞きたかったのもあるけどな」
そう言って兄さんは立ち上がるとドンも立ち上がりお互いに数歩進んで握手をした
「ドンの決意、確かに受け取った」
「約束は必ず果たす」
「後の事はボク達に任せて」
「期待してるぜ」
ドンは兄さん、フキ、アスラと握手を交わすと私の前に来てしゃがんで私を見た
「オメェにはツライ事ばっかりだな」
「・・・ううん。これが私達の仕事だもん」
「強気なこった」
ドンは笑って私の頭を撫でた
「あの小僧の事、大事にすんだぞ」
「え?」
誰の事か疑問に思っているとドンはにっと笑って答えた
「ユーリ、だ。あれは俺の若い頃にそっくりだ」
「それ、前にバルボスも言ってた」
「はは、あ奴もそう思ってたか。なら尚更オメェが着いてないとなぁ」
「無茶するから?」
「良く解ってんじゃねぇか。あの小僧の事も、自分の事も大事な」
「・・・うん」
ドンにそう言われ私は頷くとお互いに握手をした
そしてドンは立ち上がって私達を見た
「あんがとよ。オメェ等に出逢えた事は俺の人生の中で良かった事に入る」
「「「ああ、俺達もだ」」」
「私も、ドンと出逢えて良かった」
私達の返事を聞くとドンは満足そうに笑って、私室を出て行った
*
ドンと話をした後、私達もゆっくりと広場に向かった
そこにはドンを尊敬していた誰もが集まり、悲しみに暮れていた
それは勿論、この街で育ったカロルも同じで涙を堪えていて、少し離れた所にレイヴンとハリーもいた
今にも割けてしまいそうな緊張感の中、ドンは小刀を取り出す
「すまんが誰か介錯頼む」
その言葉に誰もが俯き、顔を逸らす中、
「・・・オレがやろう」
そう呟く声が聞こえ、その方に顔を向けると、広場の入り口近くからゆっくりと黒髪を靡かせてユーリがドンの方に歩いて来た
「・・・ユーリ」
私はそのままゆっくりとドンの後ろへ歩いていくユーリを見ていた
「おめえも損な役回りだな」
「お互い様だ」
「はっ、違いねえ。ユーリ、おめえの将来 を見てみたかったがな、俺は先に地獄で休んでるとするぜ」
「あんたが逝くのが地獄なら、オレはあんたの所にゃいけそうにないわ」
「ふん、おめぇの減らず口、忘れねぇぞ」
「オレもあんたの覚悟忘れないぜ、ドン・ホワイトホース」
お互いに真剣な表情をしていると、
「それから・・・」
ぽつりとドンは言葉を漏らしユーリはドンを見る
「リアの事、しっかり守ってやるんだぞ」
「リアを・・・?」
「あの娘っ子にはおめぇが必要だ」
急に出て来た名前に疑問を持っているとドンは更に真剣な表情で言い、ユーリは静かにドンの言葉に耳を傾ける
「おめぇはまだあの娘について知らない事が多すぎる。が、それはいずれ解る事だ」
「・・・ドン、あんた何か知って・・・」
「リアの事大事に思ってんならしっかり護るんだな」
ユーリの言葉にドンは遮るように言葉を続け、更に口角を上げて笑ってユーリを見た
「惚れた女なら尚更な」
「!」
ユーリは驚いて目を見開いてドンを見るとドンは更に満足そうに笑い、急に辺りを見渡し口を開いた
「てめぇら、これからはてめぇの足で歩け! てめぇらの時代を拓くんだ! いいな!」
辺りを見渡し、ドンの怒鳴るような声が、辺りを静かにさせる
その言葉に堪えきれなくなった人々が次々にドンの名前を呼ぶ
そしてドンは手に持っていた小刀をずぷりと自分の腹に入れ、横に一筋、力を入れてその筋肉に、赤い一の字を描く
痛みにも声を出さず、静かに目を閉じ、次の瞬間には振り下ろされた剣がドンの首を静かに断った
その反動で白髪と赤い鮮血が放物線を描きながら飛び、ぐしゃりと地面に落ちる鈍い音が辺りに響き、首を失なった体は支えを無くした人形の様に前に倒れ、足元には溢れ出る鮮血で、大きな血溜まりを作る
一人の人生が幕を閉じていく光景を目の前に、残された人々はドンの名前をぽつりぽつりと口にして、やがて何も言わなくなった
自分達を厳しく叱り、頼もしく護ってくれたその存在は、今や何も言わぬ塊でしかない
誰もが口を閉ざし、溢れ出る涙を堪え、悲しみに打ちひしがれる
―――終止符 と 告げる冷たい雨
遠い日々へ馳せる思い
すると突然何処からか唄が聞こえだし皆、その声の主を探し始める
その声の主は水色の髪をし、着物を着ている一人の女性だった
その後ろに同じく着物を着た男性も続いて来る
「・・・リア・・・セイ・・・」
ユーリは二人の姿を確認すると少し驚いた顔をした
天上 を仰ぐ度 紡げない未来に
君が幸せであれと最期まで願う
リアとセイは唄を歌いながらゆっくりと広場に歩いて来る
地の果ての影に留まりながら
鉛の空を想うのだろう
夜を算 え 夢を観て 黎明の聖刻 を迎え
限りある生命 よ 魂よ
永遠 に眠れ ―――
その美しくも悲しい唄に誰もが聴き入っていた
まるで今の気持ちを現しているかのように・・・
アスラは地面に転がるドンの頭を布に包んでやり、フキはドンの体を静かに横にさせた
リアとセイは歌い終わると目を開け、ドンに目を向けた
「ドン、これが私達『言霊使い』の仕事」
「ちゃんとドンに見せられて良かったぜ」
「「「「・・・永遠の眠りを」」」」
そう言うとリアとセイとアスラとフキはドンに手を合わせた
そしてそれを見ていたユーリとレイヴンもドンの側に寄り手を合わせると周りに居た人達も自然と体が動きだし、手を合わせ暫くはその行動が続いた
そして、最後の一人が終わるとドンを埋葬する準備に取り掛かった
*
ドンの埋葬には言霊使いであるリアとセイも駆り出され、後処理等でも引っ張り回され、気付いた頃にはもうとっくに日付が変わっていた
「・・・とりあえず、一段落、かな」
「・・・だな」
リアとセイは用意された部屋に行き、ソファに座り宙を仰いだ
「落ち着いたら、ベリウスの方も行かないとな」
「そうだね。でも、まずはジュディスとバウルの方に行かないと・・・」
「とりあえずジュディスの方は俺とフキで行くから、リアはユーリの方に行け」
「道知ってる奴がいた方が安心だろ? それにユーリ、リアの事心配してたろ?」
ジュディスとバウルの事も心配だけど、確かにあのままユーリ達を行かせるよりかは私がいた方が良いと思う
色々と聞かれそうだけどね・・・
それに兄さん達も言ってたけど、何よりユーリが心配してるだろうし
「うん、じゃあそうする」
「少し休憩したら行くか」
「そうだね」
各々返事を返し、疲れを取ると私服に着替え兄さんとフキはジュディスとバウルがいるテムザ山へ、私とアスラは街の入り口へと向かいだした
「で、テムザ山って言うのは何処にあるの?」
「それは私が案内するわ」
「「「! リア!?」」」
突然の声にユーリ達は私を見て驚いていた
「おまっ、どうして此処に・・・?」
「追い駆けて来たから」
「後処理の方はもう良いんです?」
「ええ、もう私達のやる事は終わった。後は此処の人達の仕事よ」
私は遠くに見えるユニオンを眺めて言うとユーリとエステルも黙って同じ方を見ていた
「案内って言ってたけど、テムザ山の場所知ってんの?」
「ええ。色々と聞きたい事はあるだろうけど、今は時間がないから船に行きましょう」
「そうだな、行くぞ」
ユーリの掛け声と共に、私達はダングレストを出てフィエルティア号が止まっている浜辺へと向かい出した
続く
あとがき
切ない・・・切にゃいよぉぉ~~~~!!!!(号泣)
もうホント、此処はゲームん時にマジ泣きしましたもん!!
ドン、貴方は本当にギルドの鑑です!
男の中の漢です!!
そして初登場の太燐、玥零、絢玖!
彼等も良い味出して登場してくれました
若干口調似てる人多いから解りづらかったかもですが・・・ι
キャラ設定はオリキャラ紹介を見て下さい(笑)
そういやもうすぐ満月の子編終わりますよ
頑張って書いて新章に行くようにしなきゃな・・・
では
下書き:2008.12.18
完成:2009.07.21
正直自分でもこんなに続けて泣くとは思ってなかった
こんなに泣いたのは本当にいつ以来だろうか・・・
そう思うほどだった
気持ちも落ち着いた頃にアスラもフキも戻って来た
そして色々と疑問に思っていた事を話してくれた
始祖の隷長の事、聖核の事、満月の子の事・・・
そして今、ユニオンを含むダングレストで何が起こっているかを・・・
53.漢の最期
静かな部屋にしゅるしゅると言う音が響いていた
その部屋には数人の男女がいて、部屋の中心にはリアがいた
「・・・ねえ、本当に行くの?」
リアの後ろで少し幼さの残る女性の声が聞こえる
その女性は栗色の髪をしていて黒い猫耳のようなものが生えていてた
「さっきから何回同じ事聞いてんだよ」
更にその女性の後ろから仏頂面な男の子の声が聞こえる
男の子の方は茶色い髪をしていて頭に狐のお面を付けている
「ゲツレイ! あんたはリアの事心配じゃないの!」
ゲツレイはめんどくさそうな顔をしてタイリンを見る
「本人が大丈夫だって言ってんだ。大丈夫だろ」
「だって起きてそんなに時間経ってないのよ。また倒れたら・・・」
「そん時はそん時だよ」
「もぉ~!!」
(二人共、相変わらずなんだから(苦笑))
リアは着替えながら二人の様子を見て苦笑していた
この二人もアスラ達同様同じ神将の一人だ
二人もあまり故郷の外には出ないが、良くリア達の元に行っていた
リアは足下に置いていた帯を取りながらユニオンを含むダングレストの事を考えた
今、ダングレストは大変な騒ぎになっていた
それはドンが自ら掟を破ってまで、イエガーの元へ乗り込んで行ったからだった
無事にドンを見つけたユーリ達だったが、事はそれだけでは済まなかった
ダングレストに戻って来るや異な、ドンは急いでユニオンに戻って来たがその表情は何かを決心したような顔だった
それを聞いたリアはいても経ってもいられず、ダングレストへ向かう準備を始め今に至るのだった
「ほら、お前達そこまでにしとけ」
リアが帯を締め終わると部屋の戸が開き、金髪の青年が入って来た
「「ケンク!」」
タイリンとゲツレイはケンクの声に反応して一斉に振り向いた
「準備出来たみたいだな」
「うん。兄さん達の方も?」
「ああ。外で待ってる」
リアはケンクの返事を聞き頷いて鏡の扉を閉め始めた
ケンクも同じく神将の一人で良く
「荷物は俺が持つから」
「ありがとう、ケンク」
「じゃあ、行くか」
「あ、ちょっと、あたしも行く~!」
ケンクとリアの後に座っていたゲツレイも立ち上がりその後をタイリンが追いかけて来た
「お待たせ」
外に出るとリア同様着物を着たセイ、その隣にアスラとフキがいてリアが来るのを待っていた
だが、三人は怪訝そうな顔をしていた
「どうしたの?」
リアの問いにセイ達は重たく口を開いた
「・・・戦士の殿堂が兵装魔導器を持ってダングレストに向かってるらしい」
「!」
「奴等、思ってたより早く動きやがったな」
「・・・・」
その言葉に少し重たい空気が流れる
ドンの様子が可笑しかったのは、ドンが自害する事を決めたからだった
いくら偽情報を掴まされたとはいえ戦士の殿堂の統領の命を奪ってしまった
そうなれば相手も黙ってはいない
部下の不始末は首領が取る
それは何処の世界でも一緒
だからドンはベリウスの命に釣り合う代償、つまり自らの命を戦士の殿堂に差し出す事だった
「『血には血の制裁を・・・』、か・・・」
「それがギルドの掟ってやつだ」
「ったく、人間ってのは面倒なもんばっか作りやがるな」
「あたし達や言霊使いはそんなのないけどね」
「だな。けど、それが解ってるから行くんだろ?」
「うん」「ああ」
ダングレストに、いや、ユニオンに攻めて来ていると言う事はドンも知っているだろう
だからリア達はこれからドンに会いに行く
彼の決意を見届ける為に・・・
「あんま話してる時間はなさそうだな。フキ、ユニオン近くに繋いでくれ」
「了解」
フキは返事を返すと次元の歪みをユニオン近くに繋いだ
「じゃあ行くか」
「うん。みんなまた暫く留守にするけどよろしくね」
「ああ、こっちは任せとけ」
「無茶しちゃダメだよ」
「解ってるって」
「そっちも慎重にな」
「ああ」
「じゃあ行ってきます」
そう言い、リア達は光に包まれた
*
ユニオンに着いた私達は急いで中に入った
この街の人々とユニオンにはこの後ドンがどうするか伝わっているのか、皆様々な表情をしていた
私達はそれを横目に急いでユニオンの奥へと進んだ
そして・・・
「「ドン・・・」」
ドンの私室から少し離れた所で私達は足を止め、前から歩いて来る白髪の老人に声を掛ける
「あんた達は・・・!」
ハリーは私と兄さんを見て声を上げるが、ドンは気にした様子もなく小さく笑った
「やっぱり来たか」
「ああ」
「それもちゃんと正装までして」
「・・・・」
私は無言でドンを見るとドンはまた小さく笑い、ハリーを含む天を射る矢の人達に目を向ける
「てめぇら、暫く入ってくんじゃねぇぞ」
「え・・・ド「入ってくんじゃねぇぞ」
言葉を続けようとしている人の言葉を遮り更にドンは言い、私室へと向かって歩き出し、私と兄さんもその後に続いた
人払いをして私室に入ったドンはいつも座っている椅子に座らず、近くにある椅子に座り私と兄さんも近くにある椅子に座わり、私達の隣にアスラとフキも並んだ
「その格好で来たってぁ、もう事情知ってんだろ」
「ああ・・・だからあんたの決意を確かめに来た」
「ドン・・・本当に良いの?」
私の言葉にドンは真剣な表情になり口を開く
「ギルドの掟はオメェ等も知ってるだろ」
「うん・・・でも・・・」
「オメェが言いたい事は良く解る。けどよ、俺はもう悟ってんだ。時代が変わるなら今だってな」
「・・・・」
「オメェにはまだ早すぎる話だったか」
「かもね」「かもな」
黙って事を見ていたアスラとフキが頷きドンは言葉を続ける
「これからは若い連中がこの先を背負って行かなきゃなんねぇ。ベリウスが死んだ時よ、俺は思ったんだ。俺等はそろそろ、引退すべきなんだとよ」
ドンの言葉と共に重たい空気が漂い、私達は静かに耳を傾けていた
「けど、未練がないワケじゃないんでしょ?」
「そりゃな。もうこんな歳で随分と生きちまった。けど、守りたいもんを守り続けてたらな・・・過保護過ぎるのも問題だなぁ・・・」
その視線は兄さんとアスラとフキに向けられていた
「俺達が過保護なのは認めてるぜ」
「けど、あんた程じゃないと思うけどな」
ドンの言葉に兄さんとフキが皮肉っぽく言うとドンは豪快に笑った
「はっ、相変わらずの減らず口だな。けどよ、やっぱ俺は・・・あいつ等が好きだ。本当は後腐れなく逝っちまいたかったがな・・・」
そのドンの瞳は本当に寂しそうだったが、それは直ぐに消え、私達を見据えた
「オメェ等、正装で来たって事はあん時の約束を果たしに来たんだな」
「「・・・うん」」「「・・・ああ」」
ドンの言葉に私達は静かに頷いた
その約束と言うのはドンが私達が言霊使いだと言う事を知った時に言った事
「『俺が死ぬ時ぁ、オメェ等の仕事で
あの時言われた言葉をドンはまた口にした
「だからわざわざ俺んとこに来たんだろ?」
「ああ、その言葉をもう一度聞きたかったのもあるけどな」
そう言って兄さんは立ち上がるとドンも立ち上がりお互いに数歩進んで握手をした
「ドンの決意、確かに受け取った」
「約束は必ず果たす」
「後の事はボク達に任せて」
「期待してるぜ」
ドンは兄さん、フキ、アスラと握手を交わすと私の前に来てしゃがんで私を見た
「オメェにはツライ事ばっかりだな」
「・・・ううん。これが私達の仕事だもん」
「強気なこった」
ドンは笑って私の頭を撫でた
「あの小僧の事、大事にすんだぞ」
「え?」
誰の事か疑問に思っているとドンはにっと笑って答えた
「ユーリ、だ。あれは俺の若い頃にそっくりだ」
「それ、前にバルボスも言ってた」
「はは、あ奴もそう思ってたか。なら尚更オメェが着いてないとなぁ」
「無茶するから?」
「良く解ってんじゃねぇか。あの小僧の事も、自分の事も大事な」
「・・・うん」
ドンにそう言われ私は頷くとお互いに握手をした
そしてドンは立ち上がって私達を見た
「あんがとよ。オメェ等に出逢えた事は俺の人生の中で良かった事に入る」
「「「ああ、俺達もだ」」」
「私も、ドンと出逢えて良かった」
私達の返事を聞くとドンは満足そうに笑って、私室を出て行った
*
ドンと話をした後、私達もゆっくりと広場に向かった
そこにはドンを尊敬していた誰もが集まり、悲しみに暮れていた
それは勿論、この街で育ったカロルも同じで涙を堪えていて、少し離れた所にレイヴンとハリーもいた
今にも割けてしまいそうな緊張感の中、ドンは小刀を取り出す
「すまんが誰か介錯頼む」
その言葉に誰もが俯き、顔を逸らす中、
「・・・オレがやろう」
そう呟く声が聞こえ、その方に顔を向けると、広場の入り口近くからゆっくりと黒髪を靡かせてユーリがドンの方に歩いて来た
「・・・ユーリ」
私はそのままゆっくりとドンの後ろへ歩いていくユーリを見ていた
「おめえも損な役回りだな」
「お互い様だ」
「はっ、違いねえ。ユーリ、おめえの
「あんたが逝くのが地獄なら、オレはあんたの所にゃいけそうにないわ」
「ふん、おめぇの減らず口、忘れねぇぞ」
「オレもあんたの覚悟忘れないぜ、ドン・ホワイトホース」
お互いに真剣な表情をしていると、
「それから・・・」
ぽつりとドンは言葉を漏らしユーリはドンを見る
「リアの事、しっかり守ってやるんだぞ」
「リアを・・・?」
「あの娘っ子にはおめぇが必要だ」
急に出て来た名前に疑問を持っているとドンは更に真剣な表情で言い、ユーリは静かにドンの言葉に耳を傾ける
「おめぇはまだあの娘について知らない事が多すぎる。が、それはいずれ解る事だ」
「・・・ドン、あんた何か知って・・・」
「リアの事大事に思ってんならしっかり護るんだな」
ユーリの言葉にドンは遮るように言葉を続け、更に口角を上げて笑ってユーリを見た
「惚れた女なら尚更な」
「!」
ユーリは驚いて目を見開いてドンを見るとドンは更に満足そうに笑い、急に辺りを見渡し口を開いた
「てめぇら、これからはてめぇの足で歩け! てめぇらの時代を拓くんだ! いいな!」
辺りを見渡し、ドンの怒鳴るような声が、辺りを静かにさせる
その言葉に堪えきれなくなった人々が次々にドンの名前を呼ぶ
そしてドンは手に持っていた小刀をずぷりと自分の腹に入れ、横に一筋、力を入れてその筋肉に、赤い一の字を描く
痛みにも声を出さず、静かに目を閉じ、次の瞬間には振り下ろされた剣がドンの首を静かに断った
その反動で白髪と赤い鮮血が放物線を描きながら飛び、ぐしゃりと地面に落ちる鈍い音が辺りに響き、首を失なった体は支えを無くした人形の様に前に倒れ、足元には溢れ出る鮮血で、大きな血溜まりを作る
一人の人生が幕を閉じていく光景を目の前に、残された人々はドンの名前をぽつりぽつりと口にして、やがて何も言わなくなった
自分達を厳しく叱り、頼もしく護ってくれたその存在は、今や何も言わぬ塊でしかない
誰もが口を閉ざし、溢れ出る涙を堪え、悲しみに打ちひしがれる
―――
遠い日々へ馳せる思い
すると突然何処からか唄が聞こえだし皆、その声の主を探し始める
その声の主は水色の髪をし、着物を着ている一人の女性だった
その後ろに同じく着物を着た男性も続いて来る
「・・・リア・・・セイ・・・」
ユーリは二人の姿を確認すると少し驚いた顔をした
君が幸せであれと最期まで願う
リアとセイは唄を歌いながらゆっくりと広場に歩いて来る
地の果ての影に留まりながら
鉛の空を想うのだろう
夜を
限りある
その美しくも悲しい唄に誰もが聴き入っていた
まるで今の気持ちを現しているかのように・・・
アスラは地面に転がるドンの頭を布に包んでやり、フキはドンの体を静かに横にさせた
リアとセイは歌い終わると目を開け、ドンに目を向けた
「ドン、これが私達『言霊使い』の仕事」
「ちゃんとドンに見せられて良かったぜ」
「「「「・・・永遠の眠りを」」」」
そう言うとリアとセイとアスラとフキはドンに手を合わせた
そしてそれを見ていたユーリとレイヴンもドンの側に寄り手を合わせると周りに居た人達も自然と体が動きだし、手を合わせ暫くはその行動が続いた
そして、最後の一人が終わるとドンを埋葬する準備に取り掛かった
*
ドンの埋葬には言霊使いであるリアとセイも駆り出され、後処理等でも引っ張り回され、気付いた頃にはもうとっくに日付が変わっていた
「・・・とりあえず、一段落、かな」
「・・・だな」
リアとセイは用意された部屋に行き、ソファに座り宙を仰いだ
「落ち着いたら、ベリウスの方も行かないとな」
「そうだね。でも、まずはジュディスとバウルの方に行かないと・・・」
「とりあえずジュディスの方は俺とフキで行くから、リアはユーリの方に行け」
「道知ってる奴がいた方が安心だろ? それにユーリ、リアの事心配してたろ?」
ジュディスとバウルの事も心配だけど、確かにあのままユーリ達を行かせるよりかは私がいた方が良いと思う
色々と聞かれそうだけどね・・・
それに兄さん達も言ってたけど、何よりユーリが心配してるだろうし
「うん、じゃあそうする」
「少し休憩したら行くか」
「そうだね」
各々返事を返し、疲れを取ると私服に着替え兄さんとフキはジュディスとバウルがいるテムザ山へ、私とアスラは街の入り口へと向かいだした
「で、テムザ山って言うのは何処にあるの?」
「それは私が案内するわ」
「「「! リア!?」」」
突然の声にユーリ達は私を見て驚いていた
「おまっ、どうして此処に・・・?」
「追い駆けて来たから」
「後処理の方はもう良いんです?」
「ええ、もう私達のやる事は終わった。後は此処の人達の仕事よ」
私は遠くに見えるユニオンを眺めて言うとユーリとエステルも黙って同じ方を見ていた
「案内って言ってたけど、テムザ山の場所知ってんの?」
「ええ。色々と聞きたい事はあるだろうけど、今は時間がないから船に行きましょう」
「そうだな、行くぞ」
ユーリの掛け声と共に、私達はダングレストを出てフィエルティア号が止まっている浜辺へと向かい出した
続く
あとがき
切ない・・・切にゃいよぉぉ~~~~!!!!(号泣)
もうホント、此処はゲームん時にマジ泣きしましたもん!!
ドン、貴方は本当にギルドの鑑です!
男の中の漢です!!
そして初登場の太燐、玥零、絢玖!
彼等も良い味出して登場してくれました
若干口調似てる人多いから解りづらかったかもですが・・・ι
キャラ設定はオリキャラ紹介を見て下さい(笑)
そういやもうすぐ満月の子編終わりますよ
頑張って書いて新章に行くようにしなきゃな・・・
では
下書き:2008.12.18
完成:2009.07.21