満月の子編
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翌朝、私達は街の出口で待ち合わせをして、これからの事を話し合った
リタはカドスの喉笛のエアルクレーネを調べる、レイヴンはベリウスに手紙を渡す、カロルはベリウスに会ってみたいと言い、ユーリはマンタイクの騎士団の行動をフレンに問いただすと言い、ノードポリカへ
エステルははやり始祖の隷長が満月の子を疎む理由を知りたいと言うが、砂漠を歩いて探すには無理があるのでノードポリカに戻ってベリウスに聞いてみれば解ると言うジュディスの提案に乗る事にし、ノードポリカを目指す事にした
でもまずは、アルフとライラの両親をマンタイク送り届けるのが先だ
どのみち砂漠を抜けてマンタイクに戻らないとノードポリカには戻れないので、私達はマンタイクを目指し砂漠へと向かった
48.それは正義
「はぁ~・・・やっと帰って来た。砂漠はもうこりごりだわ・・・」
「ホントだよ・・・」
砂漠を抜け、無事にマンタイクに戻って来た私達は入り口で足を止めた
「あれ・・・人が外に出てる・・・」
「外出禁止令ってのが、解かれたのかもね」
人の姿が見え良く見てみるとそこには馬車があり、その前に騎士が二人とマンタイクの住民らしき男女が四人、その後ろにまた騎士が一人、そして・・・あのキュモールがいた
「キュモール・・・!」
「急いては事を仕損じるよ」
一歩前に出そうになるリタをジュディスが止め、同じく一歩前に出そうになるエステルをレイヴンが冷静に判断して言葉で止めた
「ほらほら、早く乗りな。楽しい旅に連れてってあげるんだ、ね?」
「私達がいないと子供達は・・・!」
「翼のある巨大な魔物を殺して死骸を持って来れば、お金はやるよ。そうしたら、子供共々楽な生活が送れるんだよ」
先頭にいる男性が必死に言うがキュモールは聞く耳持たず、口角を上げて楽しそうにしていた
「お許し下さい!」
「知るか! 乗れって言ってんだろう、下民共め! さっさと行っちゃえ!」
更に後ろの男性も必死に言うが、キュモールは痺れを切らし男性に叫ぶ
その様子を私達は物陰に隠れて様子を見ているとアルフとライラの両親が自分達もあんな風に砂漠に連れて行かれ放り出されたと言った
「翼のある巨大な魔物ってフェローの事だよね」
「にしても、フェロー捕まえて何しようってんだかね」
「それでどうするのかしら? 放っておけないのでしょう?」
「わたしが・・・」
「あのバカ、ヘリオードでエステルが言っても聞く耳持たなかっただろ。行くだけ無駄だ」
「・・・じゃあどうするんです?」
「カロル、耳貸せ」
ユーリはカロルを呼ぶとカロルの耳元で何か話を始めた
「ええっ? 出来るけど・・・道具が・・・って、もしかして・・・」
カロルはゆっくりと首を動かしジュディスを見るとジュディスはニッコリとしてスパナを出した
「ええ、準備は出来てるわよ」
「やっぱりね・・・」
カロルはガクリと項垂れた後、ジュディスからスパナを受け取り前を見たがくるりと振り返った
「・・・危なかったら、助けてよ?」
「大丈夫、護衛にアスラを付けるから」
「あ、それなら安心!」
「じゃあ行こう」
「うん」
カロルの顔は少し泣きそうな顔だったが、私の一言で安心してアスラと一緒にキュモール達から影になって見えないように馬車の方へ向かいだした
「やっぱり拾ったのか?」
「前に落ちてたのを、ね。使う事もあるかと思って」
「・・・変なの」
「ともあれ、少年の活躍に期待しようじゃない」
レイヴンの言葉に私達は頷き、また物陰からキュモール達の様子を伺った
「ノロノロ、ノロノロと下民共はまるでカメだね。早く乗っちゃえ!」
「キュモール様、全員馬車に乗りました!」
「じゃ、君も馬車に乗りな」
「え、わ、私も・・・?」
キュモールの言葉に馬車の隣にいた一人の兵士が驚いてキュモールを見た
「仕事が遅い者には罰を与えないと、ね?」
「キュモール様、お許しを! 私には妻と娘が・・・」
「キミが行かなきゃ、変わりに行くのは・・・奥さんと娘さん、かな?」
その言葉にエステルは辛そうに顔を歪め、リタは少し苛ついていて、ユーリと兄さんは眉間に皺を寄せていた
「さ、出発だ!」
「カロル・・・」
「大丈夫よ。出来る子よ、あの子は」
「それにアスラも付いてんだ。心配ない」
心配そうに呟いたエステルにジュディスはにこりとして答え、リタもつられてジュディスを見るとリタの視線に気が付きまたにこりとするとリタは顔を少し赤らめて逸らし、兄さんの言葉を聞くとエステルの表情が少し緩んだ
「・・・そろそろね」
時間を見て馬車の方へ視線を向けた途端、馬車の車輪が外れ、馬が驚きの声を上げた
「何してるんだ!? 馬車を準備したのは誰!? きーっ!! 馬車を直せ! この責任は問うからね!」
言うとキュモールは腹を立てその場を離れて行った
「これがガキんちょに授けた知恵って訳ね」
リタがユーリにそう問うとカロルとアスラが戻って来た
「お疲れさん」
「ふーっ・・・ドキドキもんだったよ」
「お疲れ様、二人共」
「でも、これってただの時間稼ぎじゃない」
「これが限度ね、私達には」
「騎士団に表立って楯突いたらカロル先生、泣いちまうからな」
「俺達、気付かれる前に隠れた方が良いんじゃなあい?」
「それじゃあ、私達は・・・」
「ああ、ガキに顔見せてやんな。今回みたいにいつも助けが来ると思うなよ」
「は、はい。色々と有り難う御座いました」
「じゃ、俺達も宿屋に隠れに行くか」
夫婦はお辞儀をすると歩いて行き、私達も宿屋に向かい出し、エステル達はさっきのカロルとアスラの行動の事を話しながら進んでいた
が、いつもなら先頭を歩いているユーリが最後尾にいる事に気が付き私はユーリの隣に並んだ
ユーリを見ると何か考え込んでいる様子だった
多分、さっきのキュモールの行動についてだろうけど・・・
「力で住民を脅して、良いように使うなんざ、帝都の下町より性質が悪いじゃねえか」
そう思っていると急にユーリが呟くように言い、少しだけユーリの表情が変わった
「・・・キュモール、お前、やり過ぎだよ」
「・・・・・」
宿屋に着くと店主が私達の姿を見つけ嬉しそうな声を上げるが、まだ監視されているのかカウンターの横には騎士がいた
騎士がいる事を思い出し直ぐに商売声に戻り、部屋の手配をしてくれた
疲れもあった所為か私達は部屋に着くなりベッドに横になって軽く仮眠を取った
そして夜、
「あのキュモールっての、ホントどうしようもないヤツね」
リタ達は窓際に集まり昼間のキュモールの事を話していた
私は部屋の入り口の壁に寄りかかっているユーリの隣に座り、ユーリの足下で床に顔を付け丸まっているラピードを撫でていた
「あいつ等、フェロー捕まえてどうするんのかね」
「解りません、ですけど・・・このままだと、大人はみんな残らず砂漠行きです」
「大人がいなくなれば、次は子供の番かもしれないわね」
「そんなの絶対にダメです! わたしが皇族の者として話をしたら・・・!」
「昼間も言ったが、あいつ、エステルの言葉に耳を持たなかっただろ」
「お姫様だろうと皇族だろうと関係なく、ね」
「・・・・」
「とりあえず、自分の事か人の事か、どっちかにしたら?」
「リタ・・・」
「知りたいんでしょ? 始祖の隷長の思惑を。だったら、キュモールの事は今は考えないようにしてはどう?」
「あんたと意見が合うとはね。あたしもベリウスに会うのを優先した方が良いと思う」
「そうだな。まずはそっち優先だろうな」
「それにキュモールを捕まえてもあたし等には裁く権利もない。どうしようもないなら出来る事からするべきだわ」
「フレンなら・・・!」
「居場所、解んの?」
「それは・・・」
「ごめん、エステル・・・みんな責めてる訳じゃない。あたしだってムカつくわ。今頃、詰め所のベッドであいつが大いびきかいてるの想像したら・・・でも・・・」
「リタ・・・解ってます」
「例え捕まっても、釈放されたらまた同じ事繰り返すよ。ああいう奴は」
「だろうなぁ。バカは死ななきゃ、治らないって言うしねぇ」
「死ななきゃ治らない・・・か」
「「・・・・・」」
入口の壁に寄りかかってリタ達の話しを聞いていたユーリはそう呟いた
その言葉が聞こえたのは隣に座っていた私とラピードだけだった
*
深夜、誰かが起きた気配がしてゆっくりと目を開けその方向を見るとユーリがじっと自分の手を見ていた
「オレはオレのやり方で・・・か」
そう小さく呟き、私達が寝ている事を確認すると静かに部屋の扉を開け、ゆっくりと宿から出て行くのが解った
「・・・・」
ユーリの気配が宿から少し離れた所で私も起き上がり、ユーリと同じくみんなを見て気配を消してそのまま宿を後にした
外に出ると綺麗な星空が広がっていた
こんなに綺麗な光景が空には広がっている
だが、地上に目を戻すとこの光景には相応しくない光景が目に入る
騎士団の詰め所からキュモールが必死に何かから逃げている
キュモールの後ろを見ると、手に剣を持ってゆっくりと歩いて来るユーリの姿が見えた
「・・・バカ、何でも一人で背負い込むんじゃないわよ」
私は小さく息を吐き気配を消してそのままユーリ達の後を追い、物陰に隠れて暫くその様子を見ていた
「ま、待て! ボクは悪くないんだ! これは命令なんだよ! 仕方なくなんだ!」
「だったら命令した奴を恨むんだな」
「ま、待てっ! こうしよう! ボクの権力でキミが犯した罪を帳消しにしてあげるよ! 騎士団に戻りたければ、そのように手はずもする!」
キュモールは必死にユーリに訴えながら少しずつ後退って行く
「金は沢山ある、金さえあれば、どんな望みでも叶えてあげられる。さあ! 望みを言ってごらん!」
暫く沈黙が流れ、ユーリが口を開いた
「オレがお前に望むのは一つだけだ」
「そ、それは何だい・・・?」
キュモールはこれで助かると言う顔をしてユーリを見た
だがユーリは更にキュモールを睨み付け無言のままキュモールへと近付いて行く
ユーリの表情を見てキュモールはユーリの願いが分かり、更に怯えまた後退る
「や、やめろ・・・来るな! 近付くな、下民が! ボクは騎士団の隊長だよ! そして、いずれ騎士団長になるキュモール様だ! うわああああっ!!」
キュモールがそう叫んだ瞬間、ユーリはまた一歩キュモールに近付くとキュモールは足場を崩し蟻地獄に落ちる
「た、頼む! 助けてくれ!」
キュモールは必死にユーリに助けを求めるが、ユーリは無言のままその様子を見て顔を反らし、視線を戻した
「ゆ、許してくれ! このままでは! こ、このままではっ!」
「お前はその言葉を、今まで何度聞いてきた?」
ユーリのその言葉は今まで以上にドスの聞いた声だった
「うわあああああっ!」
砂に埋もれて行くキュモールの悲鳴が聞こえなくなるのはあっという間だった
「・・・・・」
それを見届けたユーリは空を仰いだ
すると、突然サクっと砂を踏む音と足音が聞こえた
「「!」」
私は歩いて来た人物を見て驚いて息を呑んだ
「・・・フ、レン・・・」
フレンは私が隠れている前を通り過ぎ、ユーリに向き合うと静かに口を開いた
「街の中は僕の部下が抑えた。もう誰も苦しめない」
「そうか、これでまた出世の足がかりになるな」
そしてまた沈黙が流れるが先程までとは違う、とても重たい沈黙だった・・・
「オレ、あいつ等の所に戻るから」
「ユーリ、後で話がしたい」
そう言ってユーリは歩き出しフレンの横を通り過ぎ様としているとフレンは静かにそう告げた
「・・・解ってる」
「湖の傍で・・・待ってる」
少し間を置いてユーリは答え、フレンも少し間を置いて返事を返した
「・・・・・」
私は暫くその場に止まり、フレンが立ち去るのを待った
だが、直ぐにフレンは私が隠れている方を見た
「・・・リア、そこにいるんだろ?」
「・・・気付いてたんだ」
私は物陰から出てフレンの近くまで行った
「僕が来た時にユーリとは別の気配がしたからね」
「・・・そっか」
フレンの言う通り、あの時驚いてしまい気を緩めてしまったから気付いたのだろう
フレンが解ってたなら当然ユーリも解ってたんだろうな・・・
「リア、君も後で湖に来て欲しい」
「解ったわ・・・」
ユーリと同じく、短い会話をすると私も宿屋に戻って行った
宿屋に戻ると、街の事を知ったのかエステル達が嬉しそうな顔をして喜んでいた
フレン隊のお陰で街は賑やかさを取り戻し、外はお祭り状態になり花火まで上がっていた
「本当はこんなに賑やかな街だったんだね」
「ええ。解放されて良かったわ、本当に」
「まさかフレンが来てくれるなんて」
「ホント、ウソみたい」
「でも逃げたキュモールはまた何処かで悪事を働くかもしれません」
「直ぐにフレンが捕まえてくれるよ。ね、ユーリ、リア」
「・・・ん、まあ、そうだな」「え、ええ・・・」
「・・ユーリ・・・?」「リア・・・?」
「「・・・・・」」
曖昧な答えを返した私とユーリにカロルとエステルは疑問符を出して顔を見合わせた
私は膝を抱え顔を乗せちらりとユーリを見るとユーリはその視線に気付いた
「・・・ユーリ、あの、ね・・・」
私はみんなに聞こえない程の声で、少し心配そうな顔をしてユーリを見ているとユーリが優しく頭を撫でてくれた
「・・・心配すんな。大丈夫だ」
「・・・やっぱり気付いてたんだ」
「最初は気付かなかったけどな。フレンが来た時に気ぃ緩めただろ。そん時にな」
やっぱりユーリもフレンもそこで気が付いたのか・・・
そこで一旦エステル達の方へ目を向けるといつの間にかリタが戻って来ていたが、兄さんとアスラはまだ戻って来ていなかった
兄さんはアスラを連れて馴染みの情報屋に会いに行っているから今日は戻ってこないだろう
そしてまたユーリへと視線を戻し、言葉を続ける
「後で湖に行くんでしょ?」
「ああ」
「私も来て欲しいって言われた・・・」
「・・・そっか」
私の返事を聞くとユーリは何処か寂しそうな顔をした後、立ち上がった
「ユーリ?」
急に立ち上がったユーリを見てエステルは疑問符を出すとリタ達もつられてユーリを見た
そろそろフレンの所へ行くのだろうかと思い私も立ち上がった
ユーリは私が立ち上がったのを確認するとゆっくりと歩き出した
「ちょっとフレンに挨拶行ってくる」
「私も行ってくるね」
そう言って私もユーリ同様ゆっくりと歩き出し、少し遅れて湖へと向かった
*
湖に行くとフレンとユーリが背中合わせで座っているのが見えた
「・・・座ったらどうだい」
「うん・・・」
フレンはちらりと私を見て言うと私はとりあえず二人の顔が見える所に座った
「話があんだろ」
ユーリが静かにそう言い少し間を置いてフレンは前を見据えて口を開いた
「・・・何故、キュモールを殺した。人が人を裁くなど許されない。法によって裁かれるべきなんだ!」
怒りを堪えるように目を伏せると、ユーリはフレンに目線を向ける
「なら、法はキュモールを裁けたって言うのか!? ラゴウを裁けなかった法が? 冗談言うな」
「ユーリ、君は・・・」
ユーリは立ち上がりフレンに背を向けたまま、前を見つめる
結界の光と夜空に上がる花火が淡く辺りを照らしその光にあてられるユーリの表情は酷く不快そうなものだった
「いつだって、法は権力を握る奴の味方じゃねえか」
「だからと言って、個人の感覚で善悪を決め人が人を裁いて良いはずがない!」
フレンも立ち上がり声を荒げ悔しそうに表情を歪めながら、ユーリをじっと見つめる
「法が間違っているなら、まずは法を正す事が大切だ。その為に僕は、今も騎士団にいるんだぞ!」
「あいつ等が今死んで救われた奴がいるのも事実だ。お前は助かった命に、いつか法を正すから今は我慢して死ねって言うのか!」
「そうは言わない!」
ユーリは振り返りフレンに掴みかかりそうになって、その手を握り堪えた
頭に上る血をどうにか押さえるが、それでも己の感情の爆発が収まらず、言葉が怒涛の勢いで溢れていく
「いるんだよ、世の中には。死ぬまで人を傷つける悪党が。そんな悪党に弱い連中は一方的に虐げられるだけだ。下町の連中がそうだったろ」
「それでもユーリのやり方は間違っている。そうやって、君の価値観だけで悪人全てを裁くつもりか」
そしてフレンは言葉を一度だけ留め、友として、言いたくなかった事を告げた
「それはもう罪人の行いだ」
認めたくなかった
フレンはそんな顔をしていた
今にも裂けてしまいそうな程張り詰めた空気の中、ユーリはその言葉を理解して静かに瞳を閉じた
「解ってるさ。解った上で、選んだ。人殺しは罪だ」
「解っていながら君は手を汚す道を選ぶのか」
「選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ」
自分の中の決意をその結果を友に言われ、解っていた世界が下す答えを再確認し、それでも尚、ユーリの決意が揺らぐ事はない
フレンは暫く目を閉じて俯いていたが顔を上げ私に向き合う
「リア、君はユーリのやっている事を知っていながら何故止めなかった? 君なら止める事が出来たはずだろ」
「・・・確かに止められたと思う。ユーリの言う事も、フレンの言う事も、どっちも正しいし間違ってるとも言える。だけど、それが間違っていても私は・・・」
私はそこで言葉を切りゆっくりと立ち上がり、ユーリもフレンもじっと私を見て言葉の続きを待った
「私も救える命があるなら救うし、守るわ・・・」
「「・・・・」」
私は握り拳をぎゅっと握って言うとユーリもフレンも黙ってしまった
人の死を何よりも身近に感じる言霊使い
ユーリもフレンも間近で見ているとはいえ私や兄さんほど多くは体験していない
けど、その重みは二人には十分伝わっている
だから先程の言葉に重みが乗って黙ってしまったのだろう
フレンはゆっくりと私から視線を外し一旦目を瞑ってユーリを見た
「・・・ユーリ、それが、君のやり方か」
「・・・腹を決めた、と言ったよな」
「ああ、でも、その意味を正しく理解出来ていなかったみたいだ・・・」
「「・・・・」」
「騎士として、君の罪を見過ごす事は出来ない」
私もユーリも言葉を発さずいると、フレンはゆっくりと鞘に手を置き、ユーリも構えるように足を動かそうとした時だった
「隊長、こちらでしたか」
突然ソディアさんの声が聞こえ張り詰めていた空気が無くなり、フレンはそのままソディアさんの方に歩いて行き、ユーリは私の所に来て私の手を引いて歩き出した
*
「・・・・」
フレンと話した場所から少し離れた所に着くとユーリは立ち止まった
そこは以前私が見つけたお気に入りの場所だった
「悪かったな、付き合わせちまって」
「ううん。あの場合仕方なかったよ・・・」
そう言うものの私は浮かない顔をしていた
「・・・・」
すると急にユーリが私を抱き締めた
「・・・ユーリ?」
「・・・無理すんな」
「え?」
「今にも泣きそうな顔してんぞ」
「っ!」
ユーリに言われ私は顔を隠そうとすると、ユーリが私の頭を抑えた
「見てるの、ツラかったんだろ」
「・・・うん」
「お前がツライ思いしてんのはオレもフレンも解ってた。けど、あのまま宿に残したらお前もエステル達も余計に心配すんだろ」
「・・・うん・・・」
「だからリアにツライ思いをさせると解ってても、フレンはお前を呼んで考えを聞いて置きたかったんだと思う」
「・・・う、ん・・・」
少しずつ目に涙が浮かび出す
「結果、予想以上にツライ思いさせちまったみたいだけどな・・・」
「・・・・・」
私は何も言えずに黙っていると私を抱き締めているユーリの手が少し強まる
「・・・悪かった・・・。もう我慢しなくて良いぞ」
「っ・・・!」
ユーリにそう言われた途端、我慢していたものが一気に途切れ目に溜っていた涙が溢れ出し、私はユーリの腕の中で声を出して泣きだした
ユーリが言った事は本当の事だった
仕事上さっきみたいな光景を目の当たりにする事は山ほどあるけど、今回はユーリとフレンだ
今まで以上に対立してる二人を見ていてツラかったし怖かった
あの場はどうにかなったけど、ユーリに言われて段々と我慢していたものが溶けていき、最後の一言でそれが途切れて泣き出した
ユーリはそんな私を見て優しく微笑んで、優しく頭を撫でて強く抱き締めた
私が泣いている間、ユーリはずっとそうしてくれていた
続く
あとがき
シリアスだ・・・そして自分でもビックリなほど書いてます(笑)
でも此処は重要な所だし、話し的に二部に分けられないから長くなりますよねえι
でも何より一番ビックリしたのは最後ですね
プロットん時はこんな展開になってなかったのに段々修正していったらこういう形になって、今までこんな展開書いた事ないから、ホント自分でもこんな展開になるなんてビックリですよ(笑)
でもやっぱユーリ、カッコイイよ!
セイ兄とアスラの出番&台詞少なくてゴメンよιι
さて、次回はこれの後をちょっと書いてからストーリーに戻ると思います
では!
下書き:2008.12.16
完成:2009.07.16
リタはカドスの喉笛のエアルクレーネを調べる、レイヴンはベリウスに手紙を渡す、カロルはベリウスに会ってみたいと言い、ユーリはマンタイクの騎士団の行動をフレンに問いただすと言い、ノードポリカへ
エステルははやり始祖の隷長が満月の子を疎む理由を知りたいと言うが、砂漠を歩いて探すには無理があるのでノードポリカに戻ってベリウスに聞いてみれば解ると言うジュディスの提案に乗る事にし、ノードポリカを目指す事にした
でもまずは、アルフとライラの両親をマンタイク送り届けるのが先だ
どのみち砂漠を抜けてマンタイクに戻らないとノードポリカには戻れないので、私達はマンタイクを目指し砂漠へと向かった
48.それは正義
「はぁ~・・・やっと帰って来た。砂漠はもうこりごりだわ・・・」
「ホントだよ・・・」
砂漠を抜け、無事にマンタイクに戻って来た私達は入り口で足を止めた
「あれ・・・人が外に出てる・・・」
「外出禁止令ってのが、解かれたのかもね」
人の姿が見え良く見てみるとそこには馬車があり、その前に騎士が二人とマンタイクの住民らしき男女が四人、その後ろにまた騎士が一人、そして・・・あのキュモールがいた
「キュモール・・・!」
「急いては事を仕損じるよ」
一歩前に出そうになるリタをジュディスが止め、同じく一歩前に出そうになるエステルをレイヴンが冷静に判断して言葉で止めた
「ほらほら、早く乗りな。楽しい旅に連れてってあげるんだ、ね?」
「私達がいないと子供達は・・・!」
「翼のある巨大な魔物を殺して死骸を持って来れば、お金はやるよ。そうしたら、子供共々楽な生活が送れるんだよ」
先頭にいる男性が必死に言うがキュモールは聞く耳持たず、口角を上げて楽しそうにしていた
「お許し下さい!」
「知るか! 乗れって言ってんだろう、下民共め! さっさと行っちゃえ!」
更に後ろの男性も必死に言うが、キュモールは痺れを切らし男性に叫ぶ
その様子を私達は物陰に隠れて様子を見ているとアルフとライラの両親が自分達もあんな風に砂漠に連れて行かれ放り出されたと言った
「翼のある巨大な魔物ってフェローの事だよね」
「にしても、フェロー捕まえて何しようってんだかね」
「それでどうするのかしら? 放っておけないのでしょう?」
「わたしが・・・」
「あのバカ、ヘリオードでエステルが言っても聞く耳持たなかっただろ。行くだけ無駄だ」
「・・・じゃあどうするんです?」
「カロル、耳貸せ」
ユーリはカロルを呼ぶとカロルの耳元で何か話を始めた
「ええっ? 出来るけど・・・道具が・・・って、もしかして・・・」
カロルはゆっくりと首を動かしジュディスを見るとジュディスはニッコリとしてスパナを出した
「ええ、準備は出来てるわよ」
「やっぱりね・・・」
カロルはガクリと項垂れた後、ジュディスからスパナを受け取り前を見たがくるりと振り返った
「・・・危なかったら、助けてよ?」
「大丈夫、護衛にアスラを付けるから」
「あ、それなら安心!」
「じゃあ行こう」
「うん」
カロルの顔は少し泣きそうな顔だったが、私の一言で安心してアスラと一緒にキュモール達から影になって見えないように馬車の方へ向かいだした
「やっぱり拾ったのか?」
「前に落ちてたのを、ね。使う事もあるかと思って」
「・・・変なの」
「ともあれ、少年の活躍に期待しようじゃない」
レイヴンの言葉に私達は頷き、また物陰からキュモール達の様子を伺った
「ノロノロ、ノロノロと下民共はまるでカメだね。早く乗っちゃえ!」
「キュモール様、全員馬車に乗りました!」
「じゃ、君も馬車に乗りな」
「え、わ、私も・・・?」
キュモールの言葉に馬車の隣にいた一人の兵士が驚いてキュモールを見た
「仕事が遅い者には罰を与えないと、ね?」
「キュモール様、お許しを! 私には妻と娘が・・・」
「キミが行かなきゃ、変わりに行くのは・・・奥さんと娘さん、かな?」
その言葉にエステルは辛そうに顔を歪め、リタは少し苛ついていて、ユーリと兄さんは眉間に皺を寄せていた
「さ、出発だ!」
「カロル・・・」
「大丈夫よ。出来る子よ、あの子は」
「それにアスラも付いてんだ。心配ない」
心配そうに呟いたエステルにジュディスはにこりとして答え、リタもつられてジュディスを見るとリタの視線に気が付きまたにこりとするとリタは顔を少し赤らめて逸らし、兄さんの言葉を聞くとエステルの表情が少し緩んだ
「・・・そろそろね」
時間を見て馬車の方へ視線を向けた途端、馬車の車輪が外れ、馬が驚きの声を上げた
「何してるんだ!? 馬車を準備したのは誰!? きーっ!! 馬車を直せ! この責任は問うからね!」
言うとキュモールは腹を立てその場を離れて行った
「これがガキんちょに授けた知恵って訳ね」
リタがユーリにそう問うとカロルとアスラが戻って来た
「お疲れさん」
「ふーっ・・・ドキドキもんだったよ」
「お疲れ様、二人共」
「でも、これってただの時間稼ぎじゃない」
「これが限度ね、私達には」
「騎士団に表立って楯突いたらカロル先生、泣いちまうからな」
「俺達、気付かれる前に隠れた方が良いんじゃなあい?」
「それじゃあ、私達は・・・」
「ああ、ガキに顔見せてやんな。今回みたいにいつも助けが来ると思うなよ」
「は、はい。色々と有り難う御座いました」
「じゃ、俺達も宿屋に隠れに行くか」
夫婦はお辞儀をすると歩いて行き、私達も宿屋に向かい出し、エステル達はさっきのカロルとアスラの行動の事を話しながら進んでいた
が、いつもなら先頭を歩いているユーリが最後尾にいる事に気が付き私はユーリの隣に並んだ
ユーリを見ると何か考え込んでいる様子だった
多分、さっきのキュモールの行動についてだろうけど・・・
「力で住民を脅して、良いように使うなんざ、帝都の下町より性質が悪いじゃねえか」
そう思っていると急にユーリが呟くように言い、少しだけユーリの表情が変わった
「・・・キュモール、お前、やり過ぎだよ」
「・・・・・」
宿屋に着くと店主が私達の姿を見つけ嬉しそうな声を上げるが、まだ監視されているのかカウンターの横には騎士がいた
騎士がいる事を思い出し直ぐに商売声に戻り、部屋の手配をしてくれた
疲れもあった所為か私達は部屋に着くなりベッドに横になって軽く仮眠を取った
そして夜、
「あのキュモールっての、ホントどうしようもないヤツね」
リタ達は窓際に集まり昼間のキュモールの事を話していた
私は部屋の入り口の壁に寄りかかっているユーリの隣に座り、ユーリの足下で床に顔を付け丸まっているラピードを撫でていた
「あいつ等、フェロー捕まえてどうするんのかね」
「解りません、ですけど・・・このままだと、大人はみんな残らず砂漠行きです」
「大人がいなくなれば、次は子供の番かもしれないわね」
「そんなの絶対にダメです! わたしが皇族の者として話をしたら・・・!」
「昼間も言ったが、あいつ、エステルの言葉に耳を持たなかっただろ」
「お姫様だろうと皇族だろうと関係なく、ね」
「・・・・」
「とりあえず、自分の事か人の事か、どっちかにしたら?」
「リタ・・・」
「知りたいんでしょ? 始祖の隷長の思惑を。だったら、キュモールの事は今は考えないようにしてはどう?」
「あんたと意見が合うとはね。あたしもベリウスに会うのを優先した方が良いと思う」
「そうだな。まずはそっち優先だろうな」
「それにキュモールを捕まえてもあたし等には裁く権利もない。どうしようもないなら出来る事からするべきだわ」
「フレンなら・・・!」
「居場所、解んの?」
「それは・・・」
「ごめん、エステル・・・みんな責めてる訳じゃない。あたしだってムカつくわ。今頃、詰め所のベッドであいつが大いびきかいてるの想像したら・・・でも・・・」
「リタ・・・解ってます」
「例え捕まっても、釈放されたらまた同じ事繰り返すよ。ああいう奴は」
「だろうなぁ。バカは死ななきゃ、治らないって言うしねぇ」
「死ななきゃ治らない・・・か」
「「・・・・・」」
入口の壁に寄りかかってリタ達の話しを聞いていたユーリはそう呟いた
その言葉が聞こえたのは隣に座っていた私とラピードだけだった
*
深夜、誰かが起きた気配がしてゆっくりと目を開けその方向を見るとユーリがじっと自分の手を見ていた
「オレはオレのやり方で・・・か」
そう小さく呟き、私達が寝ている事を確認すると静かに部屋の扉を開け、ゆっくりと宿から出て行くのが解った
「・・・・」
ユーリの気配が宿から少し離れた所で私も起き上がり、ユーリと同じくみんなを見て気配を消してそのまま宿を後にした
外に出ると綺麗な星空が広がっていた
こんなに綺麗な光景が空には広がっている
だが、地上に目を戻すとこの光景には相応しくない光景が目に入る
騎士団の詰め所からキュモールが必死に何かから逃げている
キュモールの後ろを見ると、手に剣を持ってゆっくりと歩いて来るユーリの姿が見えた
「・・・バカ、何でも一人で背負い込むんじゃないわよ」
私は小さく息を吐き気配を消してそのままユーリ達の後を追い、物陰に隠れて暫くその様子を見ていた
「ま、待て! ボクは悪くないんだ! これは命令なんだよ! 仕方なくなんだ!」
「だったら命令した奴を恨むんだな」
「ま、待てっ! こうしよう! ボクの権力でキミが犯した罪を帳消しにしてあげるよ! 騎士団に戻りたければ、そのように手はずもする!」
キュモールは必死にユーリに訴えながら少しずつ後退って行く
「金は沢山ある、金さえあれば、どんな望みでも叶えてあげられる。さあ! 望みを言ってごらん!」
暫く沈黙が流れ、ユーリが口を開いた
「オレがお前に望むのは一つだけだ」
「そ、それは何だい・・・?」
キュモールはこれで助かると言う顔をしてユーリを見た
だがユーリは更にキュモールを睨み付け無言のままキュモールへと近付いて行く
ユーリの表情を見てキュモールはユーリの願いが分かり、更に怯えまた後退る
「や、やめろ・・・来るな! 近付くな、下民が! ボクは騎士団の隊長だよ! そして、いずれ騎士団長になるキュモール様だ! うわああああっ!!」
キュモールがそう叫んだ瞬間、ユーリはまた一歩キュモールに近付くとキュモールは足場を崩し蟻地獄に落ちる
「た、頼む! 助けてくれ!」
キュモールは必死にユーリに助けを求めるが、ユーリは無言のままその様子を見て顔を反らし、視線を戻した
「ゆ、許してくれ! このままでは! こ、このままではっ!」
「お前はその言葉を、今まで何度聞いてきた?」
ユーリのその言葉は今まで以上にドスの聞いた声だった
「うわあああああっ!」
砂に埋もれて行くキュモールの悲鳴が聞こえなくなるのはあっという間だった
「・・・・・」
それを見届けたユーリは空を仰いだ
すると、突然サクっと砂を踏む音と足音が聞こえた
「「!」」
私は歩いて来た人物を見て驚いて息を呑んだ
「・・・フ、レン・・・」
フレンは私が隠れている前を通り過ぎ、ユーリに向き合うと静かに口を開いた
「街の中は僕の部下が抑えた。もう誰も苦しめない」
「そうか、これでまた出世の足がかりになるな」
そしてまた沈黙が流れるが先程までとは違う、とても重たい沈黙だった・・・
「オレ、あいつ等の所に戻るから」
「ユーリ、後で話がしたい」
そう言ってユーリは歩き出しフレンの横を通り過ぎ様としているとフレンは静かにそう告げた
「・・・解ってる」
「湖の傍で・・・待ってる」
少し間を置いてユーリは答え、フレンも少し間を置いて返事を返した
「・・・・・」
私は暫くその場に止まり、フレンが立ち去るのを待った
だが、直ぐにフレンは私が隠れている方を見た
「・・・リア、そこにいるんだろ?」
「・・・気付いてたんだ」
私は物陰から出てフレンの近くまで行った
「僕が来た時にユーリとは別の気配がしたからね」
「・・・そっか」
フレンの言う通り、あの時驚いてしまい気を緩めてしまったから気付いたのだろう
フレンが解ってたなら当然ユーリも解ってたんだろうな・・・
「リア、君も後で湖に来て欲しい」
「解ったわ・・・」
ユーリと同じく、短い会話をすると私も宿屋に戻って行った
宿屋に戻ると、街の事を知ったのかエステル達が嬉しそうな顔をして喜んでいた
フレン隊のお陰で街は賑やかさを取り戻し、外はお祭り状態になり花火まで上がっていた
「本当はこんなに賑やかな街だったんだね」
「ええ。解放されて良かったわ、本当に」
「まさかフレンが来てくれるなんて」
「ホント、ウソみたい」
「でも逃げたキュモールはまた何処かで悪事を働くかもしれません」
「直ぐにフレンが捕まえてくれるよ。ね、ユーリ、リア」
「・・・ん、まあ、そうだな」「え、ええ・・・」
「・・ユーリ・・・?」「リア・・・?」
「「・・・・・」」
曖昧な答えを返した私とユーリにカロルとエステルは疑問符を出して顔を見合わせた
私は膝を抱え顔を乗せちらりとユーリを見るとユーリはその視線に気付いた
「・・・ユーリ、あの、ね・・・」
私はみんなに聞こえない程の声で、少し心配そうな顔をしてユーリを見ているとユーリが優しく頭を撫でてくれた
「・・・心配すんな。大丈夫だ」
「・・・やっぱり気付いてたんだ」
「最初は気付かなかったけどな。フレンが来た時に気ぃ緩めただろ。そん時にな」
やっぱりユーリもフレンもそこで気が付いたのか・・・
そこで一旦エステル達の方へ目を向けるといつの間にかリタが戻って来ていたが、兄さんとアスラはまだ戻って来ていなかった
兄さんはアスラを連れて馴染みの情報屋に会いに行っているから今日は戻ってこないだろう
そしてまたユーリへと視線を戻し、言葉を続ける
「後で湖に行くんでしょ?」
「ああ」
「私も来て欲しいって言われた・・・」
「・・・そっか」
私の返事を聞くとユーリは何処か寂しそうな顔をした後、立ち上がった
「ユーリ?」
急に立ち上がったユーリを見てエステルは疑問符を出すとリタ達もつられてユーリを見た
そろそろフレンの所へ行くのだろうかと思い私も立ち上がった
ユーリは私が立ち上がったのを確認するとゆっくりと歩き出した
「ちょっとフレンに挨拶行ってくる」
「私も行ってくるね」
そう言って私もユーリ同様ゆっくりと歩き出し、少し遅れて湖へと向かった
*
湖に行くとフレンとユーリが背中合わせで座っているのが見えた
「・・・座ったらどうだい」
「うん・・・」
フレンはちらりと私を見て言うと私はとりあえず二人の顔が見える所に座った
「話があんだろ」
ユーリが静かにそう言い少し間を置いてフレンは前を見据えて口を開いた
「・・・何故、キュモールを殺した。人が人を裁くなど許されない。法によって裁かれるべきなんだ!」
怒りを堪えるように目を伏せると、ユーリはフレンに目線を向ける
「なら、法はキュモールを裁けたって言うのか!? ラゴウを裁けなかった法が? 冗談言うな」
「ユーリ、君は・・・」
ユーリは立ち上がりフレンに背を向けたまま、前を見つめる
結界の光と夜空に上がる花火が淡く辺りを照らしその光にあてられるユーリの表情は酷く不快そうなものだった
「いつだって、法は権力を握る奴の味方じゃねえか」
「だからと言って、個人の感覚で善悪を決め人が人を裁いて良いはずがない!」
フレンも立ち上がり声を荒げ悔しそうに表情を歪めながら、ユーリをじっと見つめる
「法が間違っているなら、まずは法を正す事が大切だ。その為に僕は、今も騎士団にいるんだぞ!」
「あいつ等が今死んで救われた奴がいるのも事実だ。お前は助かった命に、いつか法を正すから今は我慢して死ねって言うのか!」
「そうは言わない!」
ユーリは振り返りフレンに掴みかかりそうになって、その手を握り堪えた
頭に上る血をどうにか押さえるが、それでも己の感情の爆発が収まらず、言葉が怒涛の勢いで溢れていく
「いるんだよ、世の中には。死ぬまで人を傷つける悪党が。そんな悪党に弱い連中は一方的に虐げられるだけだ。下町の連中がそうだったろ」
「それでもユーリのやり方は間違っている。そうやって、君の価値観だけで悪人全てを裁くつもりか」
そしてフレンは言葉を一度だけ留め、友として、言いたくなかった事を告げた
「それはもう罪人の行いだ」
認めたくなかった
フレンはそんな顔をしていた
今にも裂けてしまいそうな程張り詰めた空気の中、ユーリはその言葉を理解して静かに瞳を閉じた
「解ってるさ。解った上で、選んだ。人殺しは罪だ」
「解っていながら君は手を汚す道を選ぶのか」
「選ぶんじゃねえ、もう選んだんだよ」
自分の中の決意をその結果を友に言われ、解っていた世界が下す答えを再確認し、それでも尚、ユーリの決意が揺らぐ事はない
フレンは暫く目を閉じて俯いていたが顔を上げ私に向き合う
「リア、君はユーリのやっている事を知っていながら何故止めなかった? 君なら止める事が出来たはずだろ」
「・・・確かに止められたと思う。ユーリの言う事も、フレンの言う事も、どっちも正しいし間違ってるとも言える。だけど、それが間違っていても私は・・・」
私はそこで言葉を切りゆっくりと立ち上がり、ユーリもフレンもじっと私を見て言葉の続きを待った
「私も救える命があるなら救うし、守るわ・・・」
「「・・・・」」
私は握り拳をぎゅっと握って言うとユーリもフレンも黙ってしまった
人の死を何よりも身近に感じる言霊使い
ユーリもフレンも間近で見ているとはいえ私や兄さんほど多くは体験していない
けど、その重みは二人には十分伝わっている
だから先程の言葉に重みが乗って黙ってしまったのだろう
フレンはゆっくりと私から視線を外し一旦目を瞑ってユーリを見た
「・・・ユーリ、それが、君のやり方か」
「・・・腹を決めた、と言ったよな」
「ああ、でも、その意味を正しく理解出来ていなかったみたいだ・・・」
「「・・・・」」
「騎士として、君の罪を見過ごす事は出来ない」
私もユーリも言葉を発さずいると、フレンはゆっくりと鞘に手を置き、ユーリも構えるように足を動かそうとした時だった
「隊長、こちらでしたか」
突然ソディアさんの声が聞こえ張り詰めていた空気が無くなり、フレンはそのままソディアさんの方に歩いて行き、ユーリは私の所に来て私の手を引いて歩き出した
*
「・・・・」
フレンと話した場所から少し離れた所に着くとユーリは立ち止まった
そこは以前私が見つけたお気に入りの場所だった
「悪かったな、付き合わせちまって」
「ううん。あの場合仕方なかったよ・・・」
そう言うものの私は浮かない顔をしていた
「・・・・」
すると急にユーリが私を抱き締めた
「・・・ユーリ?」
「・・・無理すんな」
「え?」
「今にも泣きそうな顔してんぞ」
「っ!」
ユーリに言われ私は顔を隠そうとすると、ユーリが私の頭を抑えた
「見てるの、ツラかったんだろ」
「・・・うん」
「お前がツライ思いしてんのはオレもフレンも解ってた。けど、あのまま宿に残したらお前もエステル達も余計に心配すんだろ」
「・・・うん・・・」
「だからリアにツライ思いをさせると解ってても、フレンはお前を呼んで考えを聞いて置きたかったんだと思う」
「・・・う、ん・・・」
少しずつ目に涙が浮かび出す
「結果、予想以上にツライ思いさせちまったみたいだけどな・・・」
「・・・・・」
私は何も言えずに黙っていると私を抱き締めているユーリの手が少し強まる
「・・・悪かった・・・。もう我慢しなくて良いぞ」
「っ・・・!」
ユーリにそう言われた途端、我慢していたものが一気に途切れ目に溜っていた涙が溢れ出し、私はユーリの腕の中で声を出して泣きだした
ユーリが言った事は本当の事だった
仕事上さっきみたいな光景を目の当たりにする事は山ほどあるけど、今回はユーリとフレンだ
今まで以上に対立してる二人を見ていてツラかったし怖かった
あの場はどうにかなったけど、ユーリに言われて段々と我慢していたものが溶けていき、最後の一言でそれが途切れて泣き出した
ユーリはそんな私を見て優しく微笑んで、優しく頭を撫でて強く抱き締めた
私が泣いている間、ユーリはずっとそうしてくれていた
続く
あとがき
シリアスだ・・・そして自分でもビックリなほど書いてます(笑)
でも此処は重要な所だし、話し的に二部に分けられないから長くなりますよねえι
でも何より一番ビックリしたのは最後ですね
プロットん時はこんな展開になってなかったのに段々修正していったらこういう形になって、今までこんな展開書いた事ないから、ホント自分でもこんな展開になるなんてビックリですよ(笑)
でもやっぱユーリ、カッコイイよ!
セイ兄とアスラの出番&台詞少なくてゴメンよιι
さて、次回はこれの後をちょっと書いてからストーリーに戻ると思います
では!
下書き:2008.12.16
完成:2009.07.16