満月の子編
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「人の命は尊い物。人間なんてそう長生き出来る生き物じゃないんだから・・・」
それはアスラがいつも口にしていた言葉
言霊使いはそれを一番身近に感じている事だった
だけど、その事を今回一番実感したかもしれない
そう思っていると何かふかふかしたものに横になっていると意識が錯覚し始めた
「・・・うっ・・・あれぇ?」
意識が戻り、私は起き上がり周りを見た
何処かの家のようで私達は一人一人ベッドの上に寝かされていた
窓の外からは鳥の囀りや子供達の声が聞こえ、緑の葉が見える
「・・・確か、砂漠で倒れて・・・それから・・・」
途切れ途切れで覚えている事を思い出そうとしていると一人の女性が部屋に入って来た
「あ、お目覚めですか?」
「・・・はい。あの・・・貴女が助けてくれたんですか?」
「いいえ。貴方達が砂漠で倒れてた所を誰かが助けてくれたみたいなの」
「その人、どんな人か解りませんか?」
「ごめんないさい。解らないわ」
「そうですか」
私はそう言ってベッドから立ち上がった
「まだお連れの方々も休んでいますからゆっくりしていって下さい」
「はい。有り難う御座います」
46.悠久の平穏が約束された街
「・・・此処は、何処?」
私は宿の外に出て辺りを見た
そこは時間がのんびりと流れているように感じるようなとても豊な所だった
「あ、リア、気が付いたんだ」
小川に架かった小さな橋の所にアスラ、兄さん、ジュディス、レイヴンの姿を見つけ私はみんなの所に移動した
「みんな、無事だったんだ」
「ええ、とりあえずは」
「でも、俺達砂漠でぶっ倒れたよね? それがなんで街に・・・?」
「宿の人の話じゃ誰かが運んで来た、って言ってたよな」
「うん、誰かは分からないけど、って・・・」
「しかも怪我まで治ってるし」
「あの人達が治癒術使えるとは思えないわ」
「助けてくれた人が治してくれたのかもね」
「うん。そういえばアルフとライラの両親は?」
ふとあの夫婦の姿が此処でも見えない事を思いそう尋ねると兄さんが少しだけ街の方に視線を向けて言う
「二人とも無事だ。今は街を見て回ってるとこだ」
「こんなとこ俺様達も知らないし、あの夫婦も知らないってのも妙なのよね」
「ちょっと情報集めてみる?」
「そうね。それが言いと思うわ」
「じゃあ俺とレイヴンとラピード、リアとアスラに分かれて調査だな」
「え~、リアちゃんとジュディスちゃんと一緒じゃないのぉ~」
「私達が一緒に行くと危ないものね」
「危ないって俺様が?」
「さあ。どうかしら」
「じゃあ行って来るね」
そう言って私達情報収集組みは二手に分かれ情報を集めだした
一人納得していないレイヴンは兄さんに引っ張られて行ったけど・・・ι
*
私は情報収集が一段落して、今は街の中央にある小さな見晴台に来ていて、手摺りに寄り掛かって海を見ていた
「・・・結界がない街。砂漠の中にある地図にも載っていない街・・・」
「まさかとは思ったけど、此処があの日誌に書いてあった街、ヨームゲンだなんて・・・」
「・・・うん」
街の人にこの街の名前を聞いた時にヨームゲンと言われ私とアスラは一瞬耳を疑った
確かにこの街は砂漠が近いのに結界の一つも見当たらない
それどころか街の人達は魔物に怯える様子もなく穏やかな表情 をしていて、砂漠の中にある街とは思えないほど緑豊かで気持ちの良い風が吹いている
けど、どことなく不思議な感覚があった
「・・・アスラ、どう思う?」
「そうだね・・・。ボクが知ってるヨームゲンに似てはいるんだけど、此処ってなんだか違和感があるんだよね・・・」
「やっぱりアスラもそう思ってたのね・・・」
「結界がない事には気が付いてるけど、この違和感に気付いてるのってボク達だけだと思うよ」
「うん・・・そうだろうね」
「リア」
ふと後ろから聞き覚えのある声が聞こえ振り返るとユーリ達がこちらに向かって歩いて来ていた
「ユーリ、みんな、目が覚めたんだ」
「ああ。リアも無事みたいだな」
「うん」
「それで、そっちは何か解った?」
「ああ、それだけどね・・・」
「どうやら此処がヨームゲンって街らしいぜ」
「やっぱり・・・」
「アスラが言っていたヨームゲンって此処の事です?」
「それがよく分からないんだ。似てはいるんだけど、ちょっと違和感がある感じがして・・・」
「皆さん」
また聞き覚えのある声が聞こえ見ると、あの夫婦が私達の姿を見つけこちらに歩いて来ていた
「よ。あんた達も無事だったんだな」
「はい。本当にありがとう御座いました」
「砂漠で助けたのはボク達だけど、此処まで運んでくれたのは誰だか分かんないんだよね」
「私達も聞いてみたのですが、同じ事を言われて・・・」
「その箱・・・」
「?」
今度は別の声が聞こえ私達は声の主を見ると、年若い女性がエステルが持っているあの紅い箱をじっと見ていた
「この箱について何かご存知なんですか?」
「その箱は・・・ロンチーの持っていた・・・それを何処で・・・?」
「アーセルム号って船ですよ。美しい方、知ってるのかい?」
「ええ・・・貴方方、アーセルム号をご存知なんですか!?」
レイヴンは気取った態度で前に出て女性に尋ねると、彼女は必死の表情で聞き返した
「え、ええ、偶然、海で見つけて・・・」
「ロンチーに会いませんでしたか?」
「む、ロンチーってどちらさん?」
「あ、私の恋人の名前です。 ・・・すみません、突然で」
「恋人・・・ちぇ・・・カロルくん、交代」
レイヴンは拗ねたように首を振り、私達は苦笑してカロルが呆れ顔で女性の前に立った
「まったく・・・えっと、ボク達が見たのはその、船の方だけなんだ」
「そ、そうですか・・・」
「貴方の名前を聞いても良いかしら?」
「あ、私はユイファンと言います」
「アーセルム号の日記にあった名前ですね」
私とユーリと兄さんは頷き、彼女に声を掛けた
「あんた、橙明の核晶って知ってるか?」
「魔物を退けるものらしいんだけど」
「結界を作る為に必要な物だと賢人様がおっしゃっていました。ま、まさか、その箱の中に?」
「はい、私達届けに来たんです」
「そう、だったんですか」
ユイファンさんは一度下を向き、ポケットから鍵を取り出した
「その鍵、まさか・・・」
「箱を貸してもらえますか?」
エステルは頷き、ユイファンさんに箱を渡し、鍵を鍵穴に差込みゆっくり回すとあれほど固く閉ざされていた箱ががちゃりと音を立ててあっさりと開いてしまった
開いた箱から出てきたのは青く透き通った光を放つ大きめの結晶だった
「うわあ・・・これがもしかして橙明の核晶?」
「みたいね・・・」
エステルが持つ結晶を見たカロルが弾んだ声を上げ、リタは魔導士らしく興味深げに橙明の核晶を見ていた
「で、さっき言ってた賢人様って誰の事よ?」
「賢人様は、砂漠の向こうからいらしたクリティア族の偉いお方です」
「クリティア族の・・・?」
「結界を作るって事は、魔導器を作るって事よね」
「ブラス・・・ティ・・・ア? さ、さあ・・・」
「でも今の技術じゃ魔導器は作れないでしょ?」
「それを作るヤツがいるの。見たでしょ、エフミドやカルボクラムで。その賢人様とやらがあのメチャクチャな術式で魔導器作った奴じゃないでしょうね」
その言葉は私達にではなく、ユイファンさんに向けられたものだった
「ご、ごめんなさい。私、良く分からないんです・・・とにかく結界を作る為に橙明の核晶が必要だって、賢人様はおっしゃって。それを探しにロンチーは旅に出て・・・。もう三年にもなります」
「・・・三年、ね」
「そりゃ心配するわな」
ユーリと兄さんの横ではエステル達がユイファンさんに聞こえないよう小声で話していた
「なんか色々話が可笑しくない?」
「なんだか話が噛み合ってませんね」
「千年の間違いじゃないん?」
「それじゃ、彼女、何歳?」
「さあ・・・?」
まるで結論が出てこない、また謎が増える一方だった
「その賢人様、この街にいるのでしょう? 何処にいるのかしら?」
「え? あ、はい、街の一番奥の家に」
「賢人様と言う人に話を聞いた方が早いと思うけれど」
此処はジュディスの言う通りかもしれない
これ以上考えても分からないのなら、この事を知っている人に聞くのがいいだろう
「あのぉ・・・それじゃあ、橙明の核晶を賢人様の所に持って行って頂けますか」
「ええ、勿論です」
「じゃ、すいません。お願いします」
ユイファンさんは深々と頭を下げてその場を離れて行った
さっき街を歩いたお陰で賢人の家は直ぐに見つかった
家、というより館と言った方が正しいのかもしれない
玄関先から綺麗に手入れがされていた
玄関の扉は開いていて、ユーリは戸を軽くノックしてから室内へと入った
「邪魔するぜ」
「!」
「え・・・この人が・・・?」
「あんたは・・・」
室内に入って私達は窓際にいる銀髪の男性を見て一瞬目を疑った
「デューク、何で此処に?」
「お前達・・・どうやって此処へ来た?」
私達の声にデュークも振り返り、お互いどうして此処にいるか疑問を出していた
「どうやってって、足で歩いて砂漠を越えて、だよ」
「・・・成る程・・・だが、一体・・・?」
「ボクの力じゃないよ」
「そうか・・・」
「・・・?」
デュークはちらりとアスラを見ると、アスラは何か察したのかそう答えた
私がその様子に疑問符を出しているとデュークが口を開いた
「いや・・・此処に何をしに来た?」
「こいつについて、ちょっとな」
ユーリは橙明の核晶をデュークに見せると、デュークの眉がぴくりと動き、ユーリの手から橙明の核晶を受け取った
「わざわざ悪い事をした」
「いや・・・まあ成り行きだしな」
「そうか・・・だとするなら奇跡だな」
デュークの言葉に疑問を抱いていると、背後からリタが前に出た
「あんた、結界魔導器作るって言ってるそうじゃない。賢人気取るのも良いけど、魔導器を作るのはやめなさい。そんな魔刻じゃない怪しいもの使って結界魔導器を作るなんて・・・」
「魔刻ではないが、魔刻と同じエアルの塊だ。術式が刻まれていないだけの事」
「術式が刻まれていない魔刻・・・? どういう事!?」
「一般的には聖核と呼ばれている。橙明の核晶はその一つだ」
「これが聖核・・・!?」
聖核という言葉にレイヴンを含め、私達も反応して聖核を見た
これがレイヴンが探していた聖核
これが魔刻の原石ならば『魔物を退ける力』っというのも納得がいった
けど、何故だか心が締め付けられるような感じがした
「それに賢人は私ではない」
「え・・・?」
デュークの言葉に私達はデュークを見ると、彼は聖核を床に置くと立ち上がり賢人はもう死んだと告げた
「そりゃ、困ったな。そしたらそいつ、あんたには渡せねぇんだけど」
「そうだな、私には、そして人の世にも必要ない物だ」
そう告げるとデュークは聖核に剣を向けた
「ちょっ!」
「あ~、何すんの! 待て待て待て!!」
リタとレイヴンの制止を耳にしつつも、デュークは剣を振り下ろすと急に床に円陣が浮かび上がり、聖核が円陣から出た光に包まれ跡形もなく消え去った
「これ、ケーブ・モックで見た現象と同じ!?」
「あっちゃ~。せっかくの聖核を」
「聖核は人の世に混乱をもたらす。エアルに還した方が良い」
「・・・エアルに還す? 今の、本当にそれだけ・・・」
「おいおい、だからって壊す事はねえだろ」
流石のユーリも声を低めて咎めると、エステルもそれに同調した
「橙明の核晶は・・・いえ、聖核は、この街を魔物から救う為に必要なものだったんじゃないんです?」
「この街に、結界も救いも不要だ。此処は悠久の平穏が約束されているのだから」
「悠久の平穏が約束されてる・・・?」
「確かにのどかなとこだけどな」
「でも、フェローのような魔物も近くにいるんですよ」
「何故、フェローの事を知っている」
エステルがフェローの名を口にした途端、デュークは目を細めてエステルを見た
「そりゃ、こっちの台詞だ。あんたも知ってんだな」
「・・・」
「知っている事を教えてくれませんか? わたし、フェローに忌まわしき毒だと言われました」
「! ・・・成る程」
「何か知ってるんですね?」
デュークは少し間を置き、私達から視線を逸らして話を始めた
「この世界には始祖の隷長が忌み嫌う力の使い手がいる」
「それが、わたし・・・?」
「・・・」
「その力の使い手を満月の子と言う」
「・・・満月の子って伝承の・・・もしかして始祖の隷長って言うのはフェローの事、ですか・・・?」
「その通りだ」
「どうしてその始祖の隷長はわたしを・・・満月の子を嫌うんです? 始祖の隷長が忌み嫌う満月の子の力って何の事ですか?」
「真意は始祖の隷長本人の心の内。始祖の隷長に直接聞くしか、それを知る方法、はない」
「やっぱりフェローに会って直接聞くしかないって事ですか?」
「フェローに会った所で、満月の子は消されるだけ。愚かな事はやめるが良い」
「でも・・・!」
「エステル、もうやめとこう」
エステルの声が高くなった途端、リタがエステルを止める
「ね、始祖の隷長って前に遺講の門のラーギィ・・・イエガーも言ってたよね」
「ノードポリカを作った古い一族、だっけ」
「フェローがノードポリカを? そんな訳ないじゃない」
「立ち去れ。もはや此処には用はなかろう」
言うとデュークは身を翻した
「待って! あたしもあんたに聞きたい事がある。エアルクレーネであんた何してたの? あんた何者よ、その剣は何!?」
「お前達に理解出来る事ではない。また理解も求めぬ。去れ。もはや語る事はない」
「ちょっ何よそれ!」
「リタ」
ユーリのその言葉を聞きリタは大人しく外に向かって歩き出し、ユーリ達もその後に続いた
「「「・・・・」」」
だが、アスラと兄さんとジュディスだけは何故か複雑な顔をしていた
続く
あとがき
またもやプロットと全然違う所で終わってしまった・・・
まさか此処の話が二回に分けて書くことになるなんて・・・
次回、頑張って埋めて次の話に繋げたいと思います
では・・・(テンション低っ)
下書き:2008.12.16
完成:2009.07.14
それはアスラがいつも口にしていた言葉
言霊使いはそれを一番身近に感じている事だった
だけど、その事を今回一番実感したかもしれない
そう思っていると何かふかふかしたものに横になっていると意識が錯覚し始めた
「・・・うっ・・・あれぇ?」
意識が戻り、私は起き上がり周りを見た
何処かの家のようで私達は一人一人ベッドの上に寝かされていた
窓の外からは鳥の囀りや子供達の声が聞こえ、緑の葉が見える
「・・・確か、砂漠で倒れて・・・それから・・・」
途切れ途切れで覚えている事を思い出そうとしていると一人の女性が部屋に入って来た
「あ、お目覚めですか?」
「・・・はい。あの・・・貴女が助けてくれたんですか?」
「いいえ。貴方達が砂漠で倒れてた所を誰かが助けてくれたみたいなの」
「その人、どんな人か解りませんか?」
「ごめんないさい。解らないわ」
「そうですか」
私はそう言ってベッドから立ち上がった
「まだお連れの方々も休んでいますからゆっくりしていって下さい」
「はい。有り難う御座います」
46.悠久の平穏が約束された街
「・・・此処は、何処?」
私は宿の外に出て辺りを見た
そこは時間がのんびりと流れているように感じるようなとても豊な所だった
「あ、リア、気が付いたんだ」
小川に架かった小さな橋の所にアスラ、兄さん、ジュディス、レイヴンの姿を見つけ私はみんなの所に移動した
「みんな、無事だったんだ」
「ええ、とりあえずは」
「でも、俺達砂漠でぶっ倒れたよね? それがなんで街に・・・?」
「宿の人の話じゃ誰かが運んで来た、って言ってたよな」
「うん、誰かは分からないけど、って・・・」
「しかも怪我まで治ってるし」
「あの人達が治癒術使えるとは思えないわ」
「助けてくれた人が治してくれたのかもね」
「うん。そういえばアルフとライラの両親は?」
ふとあの夫婦の姿が此処でも見えない事を思いそう尋ねると兄さんが少しだけ街の方に視線を向けて言う
「二人とも無事だ。今は街を見て回ってるとこだ」
「こんなとこ俺様達も知らないし、あの夫婦も知らないってのも妙なのよね」
「ちょっと情報集めてみる?」
「そうね。それが言いと思うわ」
「じゃあ俺とレイヴンとラピード、リアとアスラに分かれて調査だな」
「え~、リアちゃんとジュディスちゃんと一緒じゃないのぉ~」
「私達が一緒に行くと危ないものね」
「危ないって俺様が?」
「さあ。どうかしら」
「じゃあ行って来るね」
そう言って私達情報収集組みは二手に分かれ情報を集めだした
一人納得していないレイヴンは兄さんに引っ張られて行ったけど・・・ι
*
私は情報収集が一段落して、今は街の中央にある小さな見晴台に来ていて、手摺りに寄り掛かって海を見ていた
「・・・結界がない街。砂漠の中にある地図にも載っていない街・・・」
「まさかとは思ったけど、此処があの日誌に書いてあった街、ヨームゲンだなんて・・・」
「・・・うん」
街の人にこの街の名前を聞いた時にヨームゲンと言われ私とアスラは一瞬耳を疑った
確かにこの街は砂漠が近いのに結界の一つも見当たらない
それどころか街の人達は魔物に怯える様子もなく穏やかな
けど、どことなく不思議な感覚があった
「・・・アスラ、どう思う?」
「そうだね・・・。ボクが知ってるヨームゲンに似てはいるんだけど、此処ってなんだか違和感があるんだよね・・・」
「やっぱりアスラもそう思ってたのね・・・」
「結界がない事には気が付いてるけど、この違和感に気付いてるのってボク達だけだと思うよ」
「うん・・・そうだろうね」
「リア」
ふと後ろから聞き覚えのある声が聞こえ振り返るとユーリ達がこちらに向かって歩いて来ていた
「ユーリ、みんな、目が覚めたんだ」
「ああ。リアも無事みたいだな」
「うん」
「それで、そっちは何か解った?」
「ああ、それだけどね・・・」
「どうやら此処がヨームゲンって街らしいぜ」
「やっぱり・・・」
「アスラが言っていたヨームゲンって此処の事です?」
「それがよく分からないんだ。似てはいるんだけど、ちょっと違和感がある感じがして・・・」
「皆さん」
また聞き覚えのある声が聞こえ見ると、あの夫婦が私達の姿を見つけこちらに歩いて来ていた
「よ。あんた達も無事だったんだな」
「はい。本当にありがとう御座いました」
「砂漠で助けたのはボク達だけど、此処まで運んでくれたのは誰だか分かんないんだよね」
「私達も聞いてみたのですが、同じ事を言われて・・・」
「その箱・・・」
「?」
今度は別の声が聞こえ私達は声の主を見ると、年若い女性がエステルが持っているあの紅い箱をじっと見ていた
「この箱について何かご存知なんですか?」
「その箱は・・・ロンチーの持っていた・・・それを何処で・・・?」
「アーセルム号って船ですよ。美しい方、知ってるのかい?」
「ええ・・・貴方方、アーセルム号をご存知なんですか!?」
レイヴンは気取った態度で前に出て女性に尋ねると、彼女は必死の表情で聞き返した
「え、ええ、偶然、海で見つけて・・・」
「ロンチーに会いませんでしたか?」
「む、ロンチーってどちらさん?」
「あ、私の恋人の名前です。 ・・・すみません、突然で」
「恋人・・・ちぇ・・・カロルくん、交代」
レイヴンは拗ねたように首を振り、私達は苦笑してカロルが呆れ顔で女性の前に立った
「まったく・・・えっと、ボク達が見たのはその、船の方だけなんだ」
「そ、そうですか・・・」
「貴方の名前を聞いても良いかしら?」
「あ、私はユイファンと言います」
「アーセルム号の日記にあった名前ですね」
私とユーリと兄さんは頷き、彼女に声を掛けた
「あんた、橙明の核晶って知ってるか?」
「魔物を退けるものらしいんだけど」
「結界を作る為に必要な物だと賢人様がおっしゃっていました。ま、まさか、その箱の中に?」
「はい、私達届けに来たんです」
「そう、だったんですか」
ユイファンさんは一度下を向き、ポケットから鍵を取り出した
「その鍵、まさか・・・」
「箱を貸してもらえますか?」
エステルは頷き、ユイファンさんに箱を渡し、鍵を鍵穴に差込みゆっくり回すとあれほど固く閉ざされていた箱ががちゃりと音を立ててあっさりと開いてしまった
開いた箱から出てきたのは青く透き通った光を放つ大きめの結晶だった
「うわあ・・・これがもしかして橙明の核晶?」
「みたいね・・・」
エステルが持つ結晶を見たカロルが弾んだ声を上げ、リタは魔導士らしく興味深げに橙明の核晶を見ていた
「で、さっき言ってた賢人様って誰の事よ?」
「賢人様は、砂漠の向こうからいらしたクリティア族の偉いお方です」
「クリティア族の・・・?」
「結界を作るって事は、魔導器を作るって事よね」
「ブラス・・・ティ・・・ア? さ、さあ・・・」
「でも今の技術じゃ魔導器は作れないでしょ?」
「それを作るヤツがいるの。見たでしょ、エフミドやカルボクラムで。その賢人様とやらがあのメチャクチャな術式で魔導器作った奴じゃないでしょうね」
その言葉は私達にではなく、ユイファンさんに向けられたものだった
「ご、ごめんなさい。私、良く分からないんです・・・とにかく結界を作る為に橙明の核晶が必要だって、賢人様はおっしゃって。それを探しにロンチーは旅に出て・・・。もう三年にもなります」
「・・・三年、ね」
「そりゃ心配するわな」
ユーリと兄さんの横ではエステル達がユイファンさんに聞こえないよう小声で話していた
「なんか色々話が可笑しくない?」
「なんだか話が噛み合ってませんね」
「千年の間違いじゃないん?」
「それじゃ、彼女、何歳?」
「さあ・・・?」
まるで結論が出てこない、また謎が増える一方だった
「その賢人様、この街にいるのでしょう? 何処にいるのかしら?」
「え? あ、はい、街の一番奥の家に」
「賢人様と言う人に話を聞いた方が早いと思うけれど」
此処はジュディスの言う通りかもしれない
これ以上考えても分からないのなら、この事を知っている人に聞くのがいいだろう
「あのぉ・・・それじゃあ、橙明の核晶を賢人様の所に持って行って頂けますか」
「ええ、勿論です」
「じゃ、すいません。お願いします」
ユイファンさんは深々と頭を下げてその場を離れて行った
さっき街を歩いたお陰で賢人の家は直ぐに見つかった
家、というより館と言った方が正しいのかもしれない
玄関先から綺麗に手入れがされていた
玄関の扉は開いていて、ユーリは戸を軽くノックしてから室内へと入った
「邪魔するぜ」
「!」
「え・・・この人が・・・?」
「あんたは・・・」
室内に入って私達は窓際にいる銀髪の男性を見て一瞬目を疑った
「デューク、何で此処に?」
「お前達・・・どうやって此処へ来た?」
私達の声にデュークも振り返り、お互いどうして此処にいるか疑問を出していた
「どうやってって、足で歩いて砂漠を越えて、だよ」
「・・・成る程・・・だが、一体・・・?」
「ボクの力じゃないよ」
「そうか・・・」
「・・・?」
デュークはちらりとアスラを見ると、アスラは何か察したのかそう答えた
私がその様子に疑問符を出しているとデュークが口を開いた
「いや・・・此処に何をしに来た?」
「こいつについて、ちょっとな」
ユーリは橙明の核晶をデュークに見せると、デュークの眉がぴくりと動き、ユーリの手から橙明の核晶を受け取った
「わざわざ悪い事をした」
「いや・・・まあ成り行きだしな」
「そうか・・・だとするなら奇跡だな」
デュークの言葉に疑問を抱いていると、背後からリタが前に出た
「あんた、結界魔導器作るって言ってるそうじゃない。賢人気取るのも良いけど、魔導器を作るのはやめなさい。そんな魔刻じゃない怪しいもの使って結界魔導器を作るなんて・・・」
「魔刻ではないが、魔刻と同じエアルの塊だ。術式が刻まれていないだけの事」
「術式が刻まれていない魔刻・・・? どういう事!?」
「一般的には聖核と呼ばれている。橙明の核晶はその一つだ」
「これが聖核・・・!?」
聖核という言葉にレイヴンを含め、私達も反応して聖核を見た
これがレイヴンが探していた聖核
これが魔刻の原石ならば『魔物を退ける力』っというのも納得がいった
けど、何故だか心が締め付けられるような感じがした
「それに賢人は私ではない」
「え・・・?」
デュークの言葉に私達はデュークを見ると、彼は聖核を床に置くと立ち上がり賢人はもう死んだと告げた
「そりゃ、困ったな。そしたらそいつ、あんたには渡せねぇんだけど」
「そうだな、私には、そして人の世にも必要ない物だ」
そう告げるとデュークは聖核に剣を向けた
「ちょっ!」
「あ~、何すんの! 待て待て待て!!」
リタとレイヴンの制止を耳にしつつも、デュークは剣を振り下ろすと急に床に円陣が浮かび上がり、聖核が円陣から出た光に包まれ跡形もなく消え去った
「これ、ケーブ・モックで見た現象と同じ!?」
「あっちゃ~。せっかくの聖核を」
「聖核は人の世に混乱をもたらす。エアルに還した方が良い」
「・・・エアルに還す? 今の、本当にそれだけ・・・」
「おいおい、だからって壊す事はねえだろ」
流石のユーリも声を低めて咎めると、エステルもそれに同調した
「橙明の核晶は・・・いえ、聖核は、この街を魔物から救う為に必要なものだったんじゃないんです?」
「この街に、結界も救いも不要だ。此処は悠久の平穏が約束されているのだから」
「悠久の平穏が約束されてる・・・?」
「確かにのどかなとこだけどな」
「でも、フェローのような魔物も近くにいるんですよ」
「何故、フェローの事を知っている」
エステルがフェローの名を口にした途端、デュークは目を細めてエステルを見た
「そりゃ、こっちの台詞だ。あんたも知ってんだな」
「・・・」
「知っている事を教えてくれませんか? わたし、フェローに忌まわしき毒だと言われました」
「! ・・・成る程」
「何か知ってるんですね?」
デュークは少し間を置き、私達から視線を逸らして話を始めた
「この世界には始祖の隷長が忌み嫌う力の使い手がいる」
「それが、わたし・・・?」
「・・・」
「その力の使い手を満月の子と言う」
「・・・満月の子って伝承の・・・もしかして始祖の隷長って言うのはフェローの事、ですか・・・?」
「その通りだ」
「どうしてその始祖の隷長はわたしを・・・満月の子を嫌うんです? 始祖の隷長が忌み嫌う満月の子の力って何の事ですか?」
「真意は始祖の隷長本人の心の内。始祖の隷長に直接聞くしか、それを知る方法、はない」
「やっぱりフェローに会って直接聞くしかないって事ですか?」
「フェローに会った所で、満月の子は消されるだけ。愚かな事はやめるが良い」
「でも・・・!」
「エステル、もうやめとこう」
エステルの声が高くなった途端、リタがエステルを止める
「ね、始祖の隷長って前に遺講の門のラーギィ・・・イエガーも言ってたよね」
「ノードポリカを作った古い一族、だっけ」
「フェローがノードポリカを? そんな訳ないじゃない」
「立ち去れ。もはや此処には用はなかろう」
言うとデュークは身を翻した
「待って! あたしもあんたに聞きたい事がある。エアルクレーネであんた何してたの? あんた何者よ、その剣は何!?」
「お前達に理解出来る事ではない。また理解も求めぬ。去れ。もはや語る事はない」
「ちょっ何よそれ!」
「リタ」
ユーリのその言葉を聞きリタは大人しく外に向かって歩き出し、ユーリ達もその後に続いた
「「「・・・・」」」
だが、アスラと兄さんとジュディスだけは何故か複雑な顔をしていた
続く
あとがき
またもやプロットと全然違う所で終わってしまった・・・
まさか此処の話が二回に分けて書くことになるなんて・・・
次回、頑張って埋めて次の話に繋げたいと思います
では・・・(テンション低っ)
下書き:2008.12.16
完成:2009.07.14