満月の子編
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カドスの喉笛を抜け、私達はコゴール砂漠の山麓部と中央部の中間地点にあるオアシス、マンタイクに入った
「静かな街だな・・・」
「でも、暑い街よ・・・」
「こんな所にも騎士がいる・・・」
辺りを見れば鎧を着た騎士が出口、民家の前、その他にも街のあちこちにいた
「少なくとも前来た時はあんな物騒な人達はいなかったわね」
「確かに前に来た時はあんなのいなかったな・・・」
「とりあえず、自由行動にしないか?」
「賛成~・・・何するにしてもちょっと休憩したい・・・」
「じゃ、日が落ちたら宿屋の前で落ち合おうぜ」
「解ったわ」
その返事を聞くと各自、好きな場所に向かいだした
「気ぃ遣うもの大変やね」
「ま、ちっとは考える時間も必要だろ」
「はっはっは。頑張れ、若人ども」
そう言ってレイヴンも何処かへ歩いて行った
「さて、じゃあオレ達も行くか」
「ワン」
ユーリは立ち上がってラピードと歩き出そうとした
「あ、ユーリ」
「ん?」
ユーリとラピードは振り返って私を見るが、その言葉の続きが出てこなかった
「・・・ううん、何でもない」
「そうか?」
「うん、じゃあ後でね」
私はそう言ってアスラを連れてユーリの横をすり抜けて湖の方へと向かって行った
43.決意新たに
私は湖の方へ歩いて行き、湖の近くにある小さな茂みに入った
そこは少しだけ広くなっていて数本木が生えて木陰になっていて気持ちの良い風が吹いていた
此処は以前この街に来た時に見つけた場所だった
私は一本の木に凭れ掛かるようにして座った
「はあーーー・・・っ」
私は大きく息を吐き、同時に伸びをして膝を抱えて顔を埋めた
「・・・リア、大丈夫? 暑さにやられた?」
「ううん、まだ大丈夫。最近色々とあり過ぎて、ね・・・」
私の言葉にアスラもそうだね・・・と言ってこれまでの事を思い返していた
「水道魔導器の魔刻を取り戻したと思ったらまた別の事に巻き込まれて、ユーリ達のギルドが出来て、ヘリオードの事件も解決して、アーセルム号の中で橙明の核晶が入った箱を拾って、闘技場でユーリとフレンが戦って、その箱をイエガーが盗んで・・・」
「この街に来たのは良いけど、様子が可笑しいし。ジュディスも言ってたけど前に来た時は騎士団なんていなかったのにね」
「住民は見かけないけど、商売やってる人と騎士団しか外にいないし・・・」
「これじゃあ情報屋や天地の窖に情報を聞こうにも聞けないしね・・・」
お互いに考えるが答えは出てこない
「フェロー、橙明の核晶、この街の状況・・・解らない事だらけよね・・・」
「・・・だね。あ、解らないと言えば、リア」
「ん?」
「何か最近様子が可笑しいよね?」
「・・・え?」
アスラの言葉に私は一瞬驚いてしまう
「そう?」
「うん。ノードポリカの辺りからだけど、特に闘技場にいた時、ね」
ノードポリカと闘技場、それはあながち間違いではなかった
それはユーリとフレンが私の手の甲とそして、唇に触れるだけのキスをしたからだった・・・
あれ以来、その事が頭の隅から離れなかった
その事をゆっくりと考えようとしても次から次に色々な事が起こってしまい考える暇も無かった
「・・・・・」
「・・・・のか?」
「「?」」
私は話しを切り出すかどうしようかと考えているとふと茂みの向こうから話し声が聞こえた
私とアスラは顔を見合わせ、少し移動して茂みの向こうを覗いた
そこにはいつの間にかエステルと兄さんがいた
二人は何か話しているようだったが、いつもと雰囲気が違い何処か張り詰めた空気が漂っていた
「・・・エステルはこのまま俺達と別れて一人で砂漠に行くつもりか?」
「・・・はい。これ以上皆さんに迷惑をかける訳にはいきませんし」
「そう思ってるのは多分エステルだけだと思うぜ」
「・・・え?」
兄さんの言葉にエステルは俯いていた顔を上げ兄さんを見た
「迷惑だと思ってんなら俺達は此処まで来てねえし、そう思ってたらとっくに別れてるぜ」
「そうですけど・・・」
「それに此処まで来て『じゃあそうですか、さようなら』って言って別れる程薄情な連中じゃねえだろ」
「・・・・・」
兄さんの言葉にエステルはまた黙ってしまう
それはエステル自身も良く解っている事だ
けど、その事に私達を巻き込みたくないと言うのも見ていて解る事だ
「・・・じゃあ質問変える。もしこのまま上手く砂漠を越えてフェローと会ったとする。そん時にフェローが容赦なくエステルに襲い掛かって来て食われたらどうするんだ?」
「・・・その時はその時です」
「自分が聞きたい事も聞けないんだぞ」
「はい・・・。聞けない事は心残りになるでしょうけど・・・」
「そう思うんなら、一人で行くってのは考え直すんだな」
「でも・・・」
「エステルが俺達を巻き込みたくないってのは十分解ってる。けど、それであいつ等が納得しないだろ。あいつ等も俺達もフェローには聞きたい事があるんだしな」
「・・・フェローに?」
「聞きたい事はエステルと同じだろうけどな。俺達は俺達で聞きたい事があるしな」
「達って・・・ユーリ達とは別って事です?」
「俺とリア、お互いにフェローに聞きたい事があるしな。だからエステルが断っても俺達は着いて行くってのだけは覚えとけよ。けど、ユーリ達も来ると思うぞ。あいつ等もほっとけない病が出てるからな」
「・・・ほっとけない病・・・。そうですね」
エステルは兄さんの言葉を聞いて小さく笑った
そこでようやく張り詰めていた空気が緩んだ
「ま、後は良く考えておけ。俺だけの意見で決めづらかったらユーリ辺りにでも意見聞いて決めるのもありだしな」
「そうですね。じっくりと考えてみます」
「ただし、考え過ぎるなよ」
「はい。セイ、これを・・・」
エステルはそう言ってポケットから何かを取り出し兄さんに渡した
「・・・これは?」
「報酬です」
報酬と言って手渡されたものは花の形をしたブローチだった
「報酬って・・・俺何もしてないぞ」
「相談に乗ってくれましたし、今までも守ってくれました」
「仲間として守るのは当然だろ。相談にしても護衛にしてもこれは・・・」
兄さんが言葉を続けようとするとエステルが兄さんの手を包むようにして握って首を横に振った
「受け取って下さい」
「・・・・はぁ・・・解ったよ」
エステルに言われ兄さんは溜息を吐いて渋々ブローチを受け取った
「セイ、相談に乗ってくれてありがとう御座いました」
それを確認して兄さんにお礼を言うとエステルは会釈をしてその場を離れて行った
「・・・リア、アスラ、もう出て来て良いぞ」
エステルがいなくなって兄さんは私達がいる茂みの方に向かってそう言った
私達はガサガサと音を立て茂みを抜けてゆっくりと兄さんの方へ歩き出した
「・・・やっぱり気付いてたんだ」
「そりゃな。エステルは気付いてなかったみたいだけどな」
「あの雰囲気で出て行くにも行けなかったしね・・・」
「まあね・・・。で、さっきの話しだけど・・・」
「後はエステル自身が考える事だ。その後はなるようにしかならないだろう」
「そうだね・・・。でも結果は見て解るけどね」
「まあな」
アスラの言葉に私も兄さんも小さく笑った
さっきの兄さんの言葉通り、私達もユーリ達もほっとけない病が出ちゃってるし、実際にフェローと会うと言うのは私自身の目的でもあるからだった
「で、そのブローチどうするの?」
「これか・・・」
そう言って兄さんは自分の手にあるブローチを見る
「報酬って渡されてもな・・・。俺が持ってても意味ねえし、リア持ってろ」
「え? でも・・・」
「女物のブローチを男が持っててもなぁ・・・」
「じゃあエステルに返したら?」
「あのお姫様が直ぐに受け取る訳ないだろ」
「・・・ま、そっか」
私は手渡されたブローチを見る
そのブローチはピンクの花の形をしたものだったが、大切に扱っていたのか傷も汚れもなかった
「・・・このブローチ、凄く大事な物なのかもね」
「ああ。だから受け取りづらくてな」
「だから受け取るの渋ってたんだ」
「リアなら同室になる事が多いし、俺が持ってるより安心だしな」
確かに私の方が同室になる事が多いから機会を伺って返せる率の方が高いしね
「・・・解った。じゃあ私が持ってるね」
私は返事を返すとブローチをポケットに入れた
「さてと、じゃあ俺達も宿に行って一休みするか」
「そうだね。この状況じゃまともに情報収集も出来ないしね」
「休めるうちに休んでおきたいしね。暑いのニガテだし・・・」
「同感だ。此処も涼しいけど宿の方が涼しいしな。行こうぜ」
私達はそこで話しを終わらせ宿へと向かって歩き出した
*
夕方、日が落ち、私達は宿屋の前に集まった
ユーリは全員揃ったのを確認するとエステルへと視線を移し、私達もエステルに視線を移す
「・・・わたし、ユーリやセイの意見を聞いて考えました。みんな自分達のやるべき事を探して、やりたい事の為に頑張ってる。でもわたしはそんな事考えてなかったかもって・・・」
エステルは顔を上げ真っ直ぐ私達を見て言葉を続ける
「わたしも自分の本当にやりたい事、やるべき事を見つけなきゃって思ったんです。その為にも、自分で決めて、自分から始めたこの旅の目的を達したい、って」
「それはフェローに会うって事で良いのかしら?」
「はい」
「一人で、か?」
「・・・・・」
その言葉にエステルは黙ってしまうが、ゆっくりと首を横に振ってまた私達を見た
「・・・これ以上迷惑をかけたくない。それが本音ではあります。けど、リアとセイとアスラはわたしが断っても着いて行くって言ってくれました」
「だからリア達とだけで行くの?」
「・・・いいえ」
エステルはユーリとカロル、そしてジュディス、ラピードを見て答えた
「凛々の明星に、改めて護衛の依頼をお願いします」
エステルはそう言って深く頭を下げた
「義を持って事を成せ、不義には罰を」
「え・・・? ・・・あ、ボク達の掟だね」
急に凛々の明星の掟が出て来て私達はきょとんとする
「エステルが頼まなくても俺達は掟に従うぜ。オレ、掟を破る度胸ねぇしな。な」
「ワン!」
「うん!」
「そう言う事のようだけど」
ユーリの言葉にラピードもカロルも嬉しそうに答え、ジュディスはニコリとしてエステルを見る
「ありがとうござ「待ちなさい、エステル!」
エステルが喜びの声を上げていると黙って事を見ていたリタがエステルの言葉を遮り口を開いた
「あんた達、何考えてんの? 自然なめてない?」
「なめてないぜ。けど、一人で行かせるより遥かにマシだと思うぜ」
「エステルの事、気になる事をそのまま放置するのって嫌じゃない」
「だったら一緒に行って解決した方がお互いにすっきりするでしょ」
「そうだな。途中で投げ出すもの割に合わねぇしな」
「みんなほっとけない病が発動してるしね」
「ワン」
上から兄さん、カロル、私、ユーリ、アスラ、ラピードが答えるとリタは急に向きを変え、レイヴンを見て叫んだ
「あんた! 何とか言いなさいよ!」
「此処でごねたら俺一人であの街もどんないとダメでしょ? それもめんどくさいのよね」
「此処まで来たんだから諦めろ」
「なっ」
「リタだってエステルが心配なんでしょ?」
「あ、あたしは・・・別に・・・」
「心配だからこそ、そこまでして行かせたくないんでしょ」
兄さん、アスラ、私の言葉にリタは一瞬押し黙りエステルを見る
「・・・・どうしても行くの?」
「はい。これは、わたしのけじめでもあるんです」
エステルの真剣な眼差しと言葉を聞いてリタは少し間を置いて口を開く
「・・・解ったわよ、入ろうじゃないの、砂漠中央部に」
「え・・・?」
「こんな頑固な連中、もうあたしには止めきれないわよ」
「リタ・・・」
「リタこそ、着いてくる必要ないだろ。エアルクレーネ調べるんじゃないのか?」
「あんた達みたいなバカ、ほっとけるワケないでしょ。エアルクレーネは逃げないんだから後でまた行くわよ。ただし! この街でちゃんと準備して、万全で行くわよ」
「迷惑かけて、ゴメンなさい・・・」
「この旅の最初からこうなる予定だったろ」
「うん」
「ありがとうございます」
「あれ・・・? ジュディスは?」
話しも纏まり、エステルが嬉しそうにしてお辞儀をするとカロルがジュディスがいない事に気が付き私達も辺りを見回していると、宿屋の扉が開きジュディスが出て来てこちらに歩いてきた
「話は纏まった?」
「とっくに」
「どうするの?」
「行きます。砂漠の中央部に」
エステルの答えを再確認するとジュディスはニコリと笑って答えた
「だと思って準備をお願いしておいたわ。宿屋で貸してくれるそうよ」
「この街から出る前に十分に休みを取った方が良いわね」
「おっさん、休んでばっかり」
「そうね。一緒に添い寝してくれる?」
レイヴンが冗談っぽく言うと、リタは思いっきりレイヴンの足を踏みつけ何事もなかったように宿に向かい、ユーリ達もその後に続いて行き私とエステルは苦笑して宿屋に入って行った
「フェローは、どうするかしら・・・」
リア達が宿に入ったのを確認するとジュディスは砂漠へと続く街の外を見ながら小さく呟いたのだった
続く
あとがき
やっと仕上がりました!
そしてかなりオリジナルで書きました!!
此処はどうしてもセイ兄に見せ場を作りたかったのでこういう形になりました!
満足ですよw
原作じゃ最後の方はエステルがじれったい感じですが、こっちではちょっと凛々しくしてみました
それはセイ兄との会話もあったからってのとユーリの意見もあったからと思ってくれたら嬉しいです
あ、でも今気付いたけど、リアちゃんの悩み事の事がどっか行っちゃってたねι
でもこれは後々の方がしっくりくるかな・・・?
うん・・・まあそう言う事で(どういう事だよ(笑))今回はリアちゃんっていうよりセイ兄ちゃんメインって事で!(笑)
ユーリといいセイ兄といい、ああいう頼れる兄貴分って良いですよね!
さて、次はいよいよ砂漠に入ります
また日にち空くかもしれないけど、PS3版出るまでに絶対に全話完成させるぞ!
では!!
下書き:2008.12.15
完成:2009.07.14
「静かな街だな・・・」
「でも、暑い街よ・・・」
「こんな所にも騎士がいる・・・」
辺りを見れば鎧を着た騎士が出口、民家の前、その他にも街のあちこちにいた
「少なくとも前来た時はあんな物騒な人達はいなかったわね」
「確かに前に来た時はあんなのいなかったな・・・」
「とりあえず、自由行動にしないか?」
「賛成~・・・何するにしてもちょっと休憩したい・・・」
「じゃ、日が落ちたら宿屋の前で落ち合おうぜ」
「解ったわ」
その返事を聞くと各自、好きな場所に向かいだした
「気ぃ遣うもの大変やね」
「ま、ちっとは考える時間も必要だろ」
「はっはっは。頑張れ、若人ども」
そう言ってレイヴンも何処かへ歩いて行った
「さて、じゃあオレ達も行くか」
「ワン」
ユーリは立ち上がってラピードと歩き出そうとした
「あ、ユーリ」
「ん?」
ユーリとラピードは振り返って私を見るが、その言葉の続きが出てこなかった
「・・・ううん、何でもない」
「そうか?」
「うん、じゃあ後でね」
私はそう言ってアスラを連れてユーリの横をすり抜けて湖の方へと向かって行った
43.決意新たに
私は湖の方へ歩いて行き、湖の近くにある小さな茂みに入った
そこは少しだけ広くなっていて数本木が生えて木陰になっていて気持ちの良い風が吹いていた
此処は以前この街に来た時に見つけた場所だった
私は一本の木に凭れ掛かるようにして座った
「はあーーー・・・っ」
私は大きく息を吐き、同時に伸びをして膝を抱えて顔を埋めた
「・・・リア、大丈夫? 暑さにやられた?」
「ううん、まだ大丈夫。最近色々とあり過ぎて、ね・・・」
私の言葉にアスラもそうだね・・・と言ってこれまでの事を思い返していた
「水道魔導器の魔刻を取り戻したと思ったらまた別の事に巻き込まれて、ユーリ達のギルドが出来て、ヘリオードの事件も解決して、アーセルム号の中で橙明の核晶が入った箱を拾って、闘技場でユーリとフレンが戦って、その箱をイエガーが盗んで・・・」
「この街に来たのは良いけど、様子が可笑しいし。ジュディスも言ってたけど前に来た時は騎士団なんていなかったのにね」
「住民は見かけないけど、商売やってる人と騎士団しか外にいないし・・・」
「これじゃあ情報屋や天地の窖に情報を聞こうにも聞けないしね・・・」
お互いに考えるが答えは出てこない
「フェロー、橙明の核晶、この街の状況・・・解らない事だらけよね・・・」
「・・・だね。あ、解らないと言えば、リア」
「ん?」
「何か最近様子が可笑しいよね?」
「・・・え?」
アスラの言葉に私は一瞬驚いてしまう
「そう?」
「うん。ノードポリカの辺りからだけど、特に闘技場にいた時、ね」
ノードポリカと闘技場、それはあながち間違いではなかった
それはユーリとフレンが私の手の甲とそして、唇に触れるだけのキスをしたからだった・・・
あれ以来、その事が頭の隅から離れなかった
その事をゆっくりと考えようとしても次から次に色々な事が起こってしまい考える暇も無かった
「・・・・・」
「・・・・のか?」
「「?」」
私は話しを切り出すかどうしようかと考えているとふと茂みの向こうから話し声が聞こえた
私とアスラは顔を見合わせ、少し移動して茂みの向こうを覗いた
そこにはいつの間にかエステルと兄さんがいた
二人は何か話しているようだったが、いつもと雰囲気が違い何処か張り詰めた空気が漂っていた
「・・・エステルはこのまま俺達と別れて一人で砂漠に行くつもりか?」
「・・・はい。これ以上皆さんに迷惑をかける訳にはいきませんし」
「そう思ってるのは多分エステルだけだと思うぜ」
「・・・え?」
兄さんの言葉にエステルは俯いていた顔を上げ兄さんを見た
「迷惑だと思ってんなら俺達は此処まで来てねえし、そう思ってたらとっくに別れてるぜ」
「そうですけど・・・」
「それに此処まで来て『じゃあそうですか、さようなら』って言って別れる程薄情な連中じゃねえだろ」
「・・・・・」
兄さんの言葉にエステルはまた黙ってしまう
それはエステル自身も良く解っている事だ
けど、その事に私達を巻き込みたくないと言うのも見ていて解る事だ
「・・・じゃあ質問変える。もしこのまま上手く砂漠を越えてフェローと会ったとする。そん時にフェローが容赦なくエステルに襲い掛かって来て食われたらどうするんだ?」
「・・・その時はその時です」
「自分が聞きたい事も聞けないんだぞ」
「はい・・・。聞けない事は心残りになるでしょうけど・・・」
「そう思うんなら、一人で行くってのは考え直すんだな」
「でも・・・」
「エステルが俺達を巻き込みたくないってのは十分解ってる。けど、それであいつ等が納得しないだろ。あいつ等も俺達もフェローには聞きたい事があるんだしな」
「・・・フェローに?」
「聞きたい事はエステルと同じだろうけどな。俺達は俺達で聞きたい事があるしな」
「達って・・・ユーリ達とは別って事です?」
「俺とリア、お互いにフェローに聞きたい事があるしな。だからエステルが断っても俺達は着いて行くってのだけは覚えとけよ。けど、ユーリ達も来ると思うぞ。あいつ等もほっとけない病が出てるからな」
「・・・ほっとけない病・・・。そうですね」
エステルは兄さんの言葉を聞いて小さく笑った
そこでようやく張り詰めていた空気が緩んだ
「ま、後は良く考えておけ。俺だけの意見で決めづらかったらユーリ辺りにでも意見聞いて決めるのもありだしな」
「そうですね。じっくりと考えてみます」
「ただし、考え過ぎるなよ」
「はい。セイ、これを・・・」
エステルはそう言ってポケットから何かを取り出し兄さんに渡した
「・・・これは?」
「報酬です」
報酬と言って手渡されたものは花の形をしたブローチだった
「報酬って・・・俺何もしてないぞ」
「相談に乗ってくれましたし、今までも守ってくれました」
「仲間として守るのは当然だろ。相談にしても護衛にしてもこれは・・・」
兄さんが言葉を続けようとするとエステルが兄さんの手を包むようにして握って首を横に振った
「受け取って下さい」
「・・・・はぁ・・・解ったよ」
エステルに言われ兄さんは溜息を吐いて渋々ブローチを受け取った
「セイ、相談に乗ってくれてありがとう御座いました」
それを確認して兄さんにお礼を言うとエステルは会釈をしてその場を離れて行った
「・・・リア、アスラ、もう出て来て良いぞ」
エステルがいなくなって兄さんは私達がいる茂みの方に向かってそう言った
私達はガサガサと音を立て茂みを抜けてゆっくりと兄さんの方へ歩き出した
「・・・やっぱり気付いてたんだ」
「そりゃな。エステルは気付いてなかったみたいだけどな」
「あの雰囲気で出て行くにも行けなかったしね・・・」
「まあね・・・。で、さっきの話しだけど・・・」
「後はエステル自身が考える事だ。その後はなるようにしかならないだろう」
「そうだね・・・。でも結果は見て解るけどね」
「まあな」
アスラの言葉に私も兄さんも小さく笑った
さっきの兄さんの言葉通り、私達もユーリ達もほっとけない病が出ちゃってるし、実際にフェローと会うと言うのは私自身の目的でもあるからだった
「で、そのブローチどうするの?」
「これか・・・」
そう言って兄さんは自分の手にあるブローチを見る
「報酬って渡されてもな・・・。俺が持ってても意味ねえし、リア持ってろ」
「え? でも・・・」
「女物のブローチを男が持っててもなぁ・・・」
「じゃあエステルに返したら?」
「あのお姫様が直ぐに受け取る訳ないだろ」
「・・・ま、そっか」
私は手渡されたブローチを見る
そのブローチはピンクの花の形をしたものだったが、大切に扱っていたのか傷も汚れもなかった
「・・・このブローチ、凄く大事な物なのかもね」
「ああ。だから受け取りづらくてな」
「だから受け取るの渋ってたんだ」
「リアなら同室になる事が多いし、俺が持ってるより安心だしな」
確かに私の方が同室になる事が多いから機会を伺って返せる率の方が高いしね
「・・・解った。じゃあ私が持ってるね」
私は返事を返すとブローチをポケットに入れた
「さてと、じゃあ俺達も宿に行って一休みするか」
「そうだね。この状況じゃまともに情報収集も出来ないしね」
「休めるうちに休んでおきたいしね。暑いのニガテだし・・・」
「同感だ。此処も涼しいけど宿の方が涼しいしな。行こうぜ」
私達はそこで話しを終わらせ宿へと向かって歩き出した
*
夕方、日が落ち、私達は宿屋の前に集まった
ユーリは全員揃ったのを確認するとエステルへと視線を移し、私達もエステルに視線を移す
「・・・わたし、ユーリやセイの意見を聞いて考えました。みんな自分達のやるべき事を探して、やりたい事の為に頑張ってる。でもわたしはそんな事考えてなかったかもって・・・」
エステルは顔を上げ真っ直ぐ私達を見て言葉を続ける
「わたしも自分の本当にやりたい事、やるべき事を見つけなきゃって思ったんです。その為にも、自分で決めて、自分から始めたこの旅の目的を達したい、って」
「それはフェローに会うって事で良いのかしら?」
「はい」
「一人で、か?」
「・・・・・」
その言葉にエステルは黙ってしまうが、ゆっくりと首を横に振ってまた私達を見た
「・・・これ以上迷惑をかけたくない。それが本音ではあります。けど、リアとセイとアスラはわたしが断っても着いて行くって言ってくれました」
「だからリア達とだけで行くの?」
「・・・いいえ」
エステルはユーリとカロル、そしてジュディス、ラピードを見て答えた
「凛々の明星に、改めて護衛の依頼をお願いします」
エステルはそう言って深く頭を下げた
「義を持って事を成せ、不義には罰を」
「え・・・? ・・・あ、ボク達の掟だね」
急に凛々の明星の掟が出て来て私達はきょとんとする
「エステルが頼まなくても俺達は掟に従うぜ。オレ、掟を破る度胸ねぇしな。な」
「ワン!」
「うん!」
「そう言う事のようだけど」
ユーリの言葉にラピードもカロルも嬉しそうに答え、ジュディスはニコリとしてエステルを見る
「ありがとうござ「待ちなさい、エステル!」
エステルが喜びの声を上げていると黙って事を見ていたリタがエステルの言葉を遮り口を開いた
「あんた達、何考えてんの? 自然なめてない?」
「なめてないぜ。けど、一人で行かせるより遥かにマシだと思うぜ」
「エステルの事、気になる事をそのまま放置するのって嫌じゃない」
「だったら一緒に行って解決した方がお互いにすっきりするでしょ」
「そうだな。途中で投げ出すもの割に合わねぇしな」
「みんなほっとけない病が発動してるしね」
「ワン」
上から兄さん、カロル、私、ユーリ、アスラ、ラピードが答えるとリタは急に向きを変え、レイヴンを見て叫んだ
「あんた! 何とか言いなさいよ!」
「此処でごねたら俺一人であの街もどんないとダメでしょ? それもめんどくさいのよね」
「此処まで来たんだから諦めろ」
「なっ」
「リタだってエステルが心配なんでしょ?」
「あ、あたしは・・・別に・・・」
「心配だからこそ、そこまでして行かせたくないんでしょ」
兄さん、アスラ、私の言葉にリタは一瞬押し黙りエステルを見る
「・・・・どうしても行くの?」
「はい。これは、わたしのけじめでもあるんです」
エステルの真剣な眼差しと言葉を聞いてリタは少し間を置いて口を開く
「・・・解ったわよ、入ろうじゃないの、砂漠中央部に」
「え・・・?」
「こんな頑固な連中、もうあたしには止めきれないわよ」
「リタ・・・」
「リタこそ、着いてくる必要ないだろ。エアルクレーネ調べるんじゃないのか?」
「あんた達みたいなバカ、ほっとけるワケないでしょ。エアルクレーネは逃げないんだから後でまた行くわよ。ただし! この街でちゃんと準備して、万全で行くわよ」
「迷惑かけて、ゴメンなさい・・・」
「この旅の最初からこうなる予定だったろ」
「うん」
「ありがとうございます」
「あれ・・・? ジュディスは?」
話しも纏まり、エステルが嬉しそうにしてお辞儀をするとカロルがジュディスがいない事に気が付き私達も辺りを見回していると、宿屋の扉が開きジュディスが出て来てこちらに歩いてきた
「話は纏まった?」
「とっくに」
「どうするの?」
「行きます。砂漠の中央部に」
エステルの答えを再確認するとジュディスはニコリと笑って答えた
「だと思って準備をお願いしておいたわ。宿屋で貸してくれるそうよ」
「この街から出る前に十分に休みを取った方が良いわね」
「おっさん、休んでばっかり」
「そうね。一緒に添い寝してくれる?」
レイヴンが冗談っぽく言うと、リタは思いっきりレイヴンの足を踏みつけ何事もなかったように宿に向かい、ユーリ達もその後に続いて行き私とエステルは苦笑して宿屋に入って行った
「フェローは、どうするかしら・・・」
リア達が宿に入ったのを確認するとジュディスは砂漠へと続く街の外を見ながら小さく呟いたのだった
続く
あとがき
やっと仕上がりました!
そしてかなりオリジナルで書きました!!
此処はどうしてもセイ兄に見せ場を作りたかったのでこういう形になりました!
満足ですよw
原作じゃ最後の方はエステルがじれったい感じですが、こっちではちょっと凛々しくしてみました
それはセイ兄との会話もあったからってのとユーリの意見もあったからと思ってくれたら嬉しいです
あ、でも今気付いたけど、リアちゃんの悩み事の事がどっか行っちゃってたねι
でもこれは後々の方がしっくりくるかな・・・?
うん・・・まあそう言う事で(どういう事だよ(笑))今回はリアちゃんっていうよりセイ兄ちゃんメインって事で!(笑)
ユーリといいセイ兄といい、ああいう頼れる兄貴分って良いですよね!
さて、次はいよいよ砂漠に入ります
また日にち空くかもしれないけど、PS3版出るまでに絶対に全話完成させるぞ!
では!!
下書き:2008.12.15
完成:2009.07.14