満月の子編
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あれから私達は無事にフィエルティア号に戻った
トクナガさんによると、突然駆動魔導器が動き出したそうだ
カウフマンさんに原因が何だったか聞かれたけど結局原因は解らなかった、とユーリは答えた
アーセルム号の中でもエステルが言ってたけど、橙明の核晶を誰かに渡したくて私達を呼んだと思う
だから駆動魔導器を止めて、私達に橙明の核晶を預けたのだと私達は判断した
とにかく、船も動くようになった事だし私達は本来の目的地であるノードポリカに向かった
39.tradition
アーセルム号を後にしてノードポリカへ向かう途中、段々と日が沈み空は薄暗くなった
そして、北の方に大きな街が見え私達はその街に目を向けた
「あれがノードポリカね」
「うん、別名、闘技場都市!」
「かつては罪人同士を戦わせ、貴族達の熱狂と狂乱を呼んだ。現在はギルド、戦士の殿堂 が闘技場の運営権を持ち、市民の娯楽の場となっている、です」
「戦士の殿堂はね、ドンのギルド、天を射る矢にも匹敵する大きなギルドで・・・」
空に花火が打ち上げられその音にカロルの言葉が遮られる
「あら、綺麗」
「毎日がお祭り騒ぎってとこか。こりゃ良いわ」
「あんたは遊びで来てんじゃねぇだろ」
「そうだった・・・。下っ端はつらいの~」
レイヴンはそう言って手を額に当て、はぁ・・・と溜息を吐いた
「ドンの使者なんだからベリウスに失礼の無いようにね!」
「何だよ、少年。俺様いつも礼を弁えてるぜ。うひゃひゃひゃ」
「お陰で依頼は無事完了よ。約束通り、積み荷を降ろしたらフィエルティア号は貴方達にあげるわ」
「やったね! ありがとう。大事にするよ」
「それでコゴール砂漠ってのは此処からまだ遠いのか?」
「ノードポリカのずっと西ね」
「え、でも途中に大きな山があるんじゃなかったっけ?」
「ちょっと歩きじゃ大変そうだな。近くまで船で行けねえか」
「きっと無理ね。砂漠に行く事自体珍しいのに船が着ける所があるとは思えない」
「ね、本当に行くつもり? 前も言ったけど、本当に危険な所なのよ。そんな所にあんた行かせるわけには・・・じゃなくて・・・!」
「・・・心配なら心配って言えば良いのにね」
「言えない所がリタらしいけどな。見てて飽きねえけどな」
「聞こえてないと良いけどι」
「入港します」
トクナガさんの合図と共にフィエルティア号は港へと入っていった
港に船を着けて街に足を踏み入れると、夜だと言うのに人々で賑わっていた
「なんだか賑やかですね」
「この街には闘技場があるから参加する人、見る人で賑わってるのよ」
「リアはこの街に来た事あるんです?」
「ええ、何度かね。闘技場の方にも行った事あるわよ」
「え! リア、闘技場に行った事あるの?」
「うん、見応えがあって面白かったわよ」
「へえ、それは一度参加してみたいものだな」
「そうね」
「やっぱりあんた達って、根っからの戦闘狂ねι」
「楽しそうね、青年とジュディスちゃん」
「ユーリとジュディスは余裕で勝ち抜けるだろうな」
「だろうねえ」
そう話していると、カウフマンさんが商人と話を終えて私達の方へ来た
「ご苦労様、どうもね」
「ううん、こちらこそ大助かりだよ」
「そうそう、お互い様って奴だ」
「あ、こ、これはカウフマンさん、い、いつも、お、お世話になって、い、います」
二人の言葉の後に、聞きなれない声がして私達はその声の方に顔を向ける
するとそこにいたのは細身の体をした男の人だった
その人はどもった口調でカウフマンさんに話し掛ける
「また何処かに遺跡発掘? 首領自ら赴くなんて、いつもながら感心するわ」
「い、遺跡発掘は、わ、私の生き甲斐、ですから」
「あれ、誰・・・?」
「遺講の門 の首領ラーギィよ」
「遺講の門? 何か覚えある・・・」
「そりゃあ、帝国魔導士の遺跡発掘をお手伝いしてるギルドだし」
「ああ、それで聞いた事あるのか」
リタは小声で隣にいた私とレイヴンに振り、私もレイヴンも小声で返すとリタは納得したような顔をしてラーギィさんを見ていた
「で、では、仲間を待たせてお、おりますので、こ、これで」
ラーギィさんはそう言って立ち去って行った
「いい人そうですね」
「ねぇ、前に兵装魔導器を売ってるギルドの話をしてたわよね」
「海凶の爪か?」
「そこに魔導器の横流ししてんのあいつ等じゃない?」
「遺講の門は完全に白よ」
「なんでそう言い切れるんだ?」
「温厚で、真面目に、こつこつと。それが売りのギルドだからなぁ」
「・・・・・」
だが、リタは手を顎の下に持っていて何か考えだした
「じゃ、もう行くわね。フィエルティア号、大事に使ってあげて。トクナガもよろしく」
「ああ」
「凛々の明星、頑張ってね」
「はい!」
カロルの返事を聞くとカウフマンさんはニッコリとして私達から離れて行った
「・・・何処かの魔導士が魔導器横流ししてるとか? 笑えないわね」
「リタ」
「え? ああ、うん」
「んじゃ、こっちはこっちの仕事してきますかね」
「手紙、届けるのよね? ベリウスに」
「そそ」
「ボク達も行ってみようよ」
「そうだな。フェローの事、何か知ってそうだしな。挨拶がてら、おっさんをダシに会ってみようぜ」
「だだ漏れで聞こえてるんだが・・・それにしても・・・挨拶ねぇ」
「何? 何かあるの?」
「いや? なーんも?」
「ベリウスさんは何処にいるのです?」
「戦士の殿堂の首領だから、闘技場に行けば会えるんじゃないかな?」
「んじゃ、闘技場に行ってみるか」
「そういや、戦士の殿堂のベリウスって一体どんな奴なんだ?」
「さあ、名前だけは良く耳にするけど、会った事もなければ、見た事もないんで知らないのよ」
「カロルは知らないんです?」
「ボクも活動はずっとダングレストだったから、ノードポリカのギルドの事はちょっと・・・」
「ドンみたいなじいさんがもう一人出て来たら、たまんねえな」
「ははっ、そら言えてるわ。あんなじいさんは一人で十分よね」
「ベリウスに会うの、楽しみだね」
そうこう話しているうちに私達は闘技場に着いた
夜だと言うのに、闘技場には沢山の人がいた
参加する者、見学する者、商人、様々な人達がいて何処を見ても賑わっている
「外も賑やかだったけど、此処も賑やかね」
「みんな良い顔してるわ」
通り過ぎざまに見る人達の顔は生き生きしている
「ベリウスの人望があってこそだろうけどね」
まさにそこ言葉通りだと思う
ベリウスのいる部屋まで足を運ぶと、その部屋の前には体格の良い男の人が立っていて行く手を阻んでいた
「この先は我が主、ベリウスの私室だ。立ち入りは控えてもらう」
「そのベリウスさんに会いに来たんです」
「何だって? お前達は誰だ?」
「ギルド、凛々の明星だよ」
「・・・聞かない名前だな。主との約束はあるか?」
「え? や、約束?」
「残念ながら、我が主は約束のない者とは会わない」
「ドン・ホワイトホースの使いの者でも?」
「ドン・・・こ、これは失礼。我が名はナッツ。この街の首領代理を務めている。我が主への用向きならば私が承ろう」
「すまないねぇ。一応ベリウスさんに直接渡せってドンから言われてんだ」
「そうか・・・しかしながら、ベリウス様は新月の晩にしか人に会われない。できれば、次の新月の晩に来てもらいたいのだが・・・」
「次の新月か・・・」
次の新月は二週間後、それまでベリウスには会えないようだ
「なら、出直しますか」
「居ないんなら仕方ないもんね」
「わざわざ悪かったな。ドンの使いの者が訪れた事は連絡しておこう」
「頼むわ」
「じゃあ今の内に砂漠の情報を集めてはどう?」
「フェローの情報もね」
「あたしはエアルクレーネの情報探したいんだけど」
「これだけ人の集まる場所なら期待出来そうですね」
「おっさんは先に宿に行ってて良い? とりあえずドンに経過報告の手紙出しとくわ」
「ああ」
「じゃあ、あたし等も行こ」
話しが纏まった所で私達は宿へと向かった
レイヴンが先に宿屋に行ったお陰で、無事に部屋を取る事が出来た(私達で部屋は埋まったらしい)
宿に泊まれば後はいつも通り朝まで自由行動
各自好きな事を始め、私は外の空気を吸いに港まで出ていた
近くにあった木箱に腰掛けて私は波の音を聞きながら空を見上げた
空には綺麗な月と星々、そしてこの街の結界魔導器が見える
その中でも一際輝きを放っている星に目が止まった
「・・・凛々の明星、か・・・」
夜空で最も強い光を放つ星、凛々の明星
ユーリ達ギルドの名前
そして、古い伝承のあの凛々の明星
「・・・今更だけど、恐れ多い名前をギルドに付けちゃったな」
「何が恐れ多いんだ?」
独り言のつもりだったのに急に声が聞こえると、ユーリが私が座っている木箱の隣に立っていた
「ユーリ。いつからいたの?」
「今来た所だ。で、何が恐れ多い名前なんだ?」
ユーリはそう言って私の横に座った
「ブレイブヴェスペリア・・・凛々の明星よ」
私は空に瞬く星の一つに指を指すと、ユーリはその星を見る
「夜空で最も強い光を放つ星・・・か」
「あの星には古い伝承があるの・・・」
私はそう言って伝承を語り出した
――その昔、世界を滅亡に追い込む災厄が起こりました。
人々は災厄に立ち向かい、多くの命が失われました。
皆が倒れ、力尽きた時、ある兄妹が現れました。
その兄妹は、力を合わせ、災厄と戦い、世界を救いました。
妹は満月の子と呼ばれ、戦いの後も大地に残りました。
兄は凛々の明星と呼ばれ、空から世界を見守る事にしました。――
「・・・て言う話」
「・・・ホント、恐れ多いな」
一通り話しを終えると、ユーリは自分達のギルド名がそんな凄いものだったとは思っていなかったらしく苦笑して凛々の明星を見ていた
「・・・ユーリ」
「ん?」
「あの輝きに負けないくらい立派なギルドにしてね。私達も情報提供はするから」
「ああ・・・今度、カロルにも聞かせてやらないとな。名前負けして格好悪くならないように」
「そうだね」
カロルの反応が頭に浮かび笑っていると、ユーリが私を見た
「にしても、お前良く港にいるよな」
「え? そう?」
「ああ。ノール港ん時もそうだったろ」
ユーリに言われて思い返してみると確かに一人でいる時は良く海の近くや港に来ていた
「そういえば、そうだね」
「海、好きなのか?」
「うん、なんだか見てると落ち着くし、波の音が心地良いって言うか懐かしい感じ」
「懐かしい?」
「下町を思い出すの。あっちは波じゃないけど、水の流れる音を聞いてると下町にいる時の事思い出して・・・」
そう言うとユーリは「そうかもな・・・」と言って海を眺めた
「ユーリ、旅が終わったら下町に戻るの?」
「そうだな・・・何だかんだ言ってもあそこがオレ達の育った町だしな」
「でも、ギルドの拠点にする訳にはいかないでしょ?」
「まあな。カロルはダングレストが良いって言うだろうし、ジュディは・・・オレ達に任せそうだな」
「じゃあ私と兄さんみたいに旅をしながら依頼を受ける、で良いんじゃない?」
「そうだな。今もそれでやってるしオレ達には旅をしながらの方が向いてそうだな」
「私もそう思う」
お互いに笑うと私達はまた海を眺めだした
暫く海を見ているとユーリが木箱から降りた
「さてと、んじゃそろそろ帰るか。あんまり遅いとリタ辺りが五月蠅いだろうしな」
「ふふっ、そうかも」
ユーリの言葉に笑っていると突然ユーリが右手を出して私の左手を取った
そのまま引いて立たせてくれるのかと思っていると、ユーリが悪戯っ子のような笑みを浮かべ私の左手の甲にキスを落とした
「っ/// ユ、ユーリ///!?」
私はユーリの行動に驚いて顔を赤くすると、ユーリは意地悪そうに笑う
「顔赤いぞ」
「だ、誰の所為よっ///!!」
「誰だろうな」
そう言うもののユーリは私の左手を握ったままだった
私はその手をじっと見ているとユーリがまた悪戯の笑みを浮かべた
「手じゃ物足んなかったか? それとも・・・」
「・・・っ!」
すると彼はゆっくりと私に顔を近付けて来て、そのまま私の唇に自分のそれを重ね、私の手に自分の手を添えて、彼は触れるだけのキスを私に送る
「・・・こっちの方が良かったか?」
暫くして唇が離れると、私は顔を赤く染め唇を手で押さえユーリを見た
「・・・ユーリ、今・・・」
何したの? と言おうとするが、ちゃんと言葉に出来ず私は口をぱくぱくさせていた
ユーリは私の反応に満足そうに笑い再び私の左手を取って自分の方に引き寄せて立たせてくれた
「じゃあ、帰りますか。お嬢様」
今度は紳士がエスコートするような言い方をしてユーリは私の手を引いて歩き出した
暫くしてやっと頭に酸素が回ってきてふと、子供の頃を思い出した
(・・・そう言えば、子供の頃にこんな風に手を繋いで帰った事があったな)
そう思い、小さく笑った
静かな夜、波の音を聞きながら私達は手を繋いで宿へと帰ったのだった
続く
あとがき
どうもこんばんは~!
やっと仕上がりました、今日で小説4本目!!
久々に書けてるよ、俺!!
あ、そんな事はどうでもいい? さっさと感想にいけ?
はい・・・では感想を!!
今回はノードポリカに到着してその夜までの話しでした
夜はユーリとの会話を入れたかったから入れたんですけど、最後は何か甘くなっちゃいました!?
いや、自分でもビックリですよ、ホントに(笑)
でも、そろそろ甘いの入れとかないと今後の展開が進まなくなるのでね・・・
さてと、次回はまたまた事件に巻き込まれてしまうメンバーですが、久々にあの人の登場です!
こっちも頑張って書かないとな・・・
では!!
tradition(伝説、言い伝え、伝統・・・etc)
下書き:2008.12.13
完成:2009.07.05
トクナガさんによると、突然駆動魔導器が動き出したそうだ
カウフマンさんに原因が何だったか聞かれたけど結局原因は解らなかった、とユーリは答えた
アーセルム号の中でもエステルが言ってたけど、橙明の核晶を誰かに渡したくて私達を呼んだと思う
だから駆動魔導器を止めて、私達に橙明の核晶を預けたのだと私達は判断した
とにかく、船も動くようになった事だし私達は本来の目的地であるノードポリカに向かった
39.tradition
アーセルム号を後にしてノードポリカへ向かう途中、段々と日が沈み空は薄暗くなった
そして、北の方に大きな街が見え私達はその街に目を向けた
「あれがノードポリカね」
「うん、別名、闘技場都市!」
「かつては罪人同士を戦わせ、貴族達の熱狂と狂乱を呼んだ。現在はギルド、
「戦士の殿堂はね、ドンのギルド、天を射る矢にも匹敵する大きなギルドで・・・」
空に花火が打ち上げられその音にカロルの言葉が遮られる
「あら、綺麗」
「毎日がお祭り騒ぎってとこか。こりゃ良いわ」
「あんたは遊びで来てんじゃねぇだろ」
「そうだった・・・。下っ端はつらいの~」
レイヴンはそう言って手を額に当て、はぁ・・・と溜息を吐いた
「ドンの使者なんだからベリウスに失礼の無いようにね!」
「何だよ、少年。俺様いつも礼を弁えてるぜ。うひゃひゃひゃ」
「お陰で依頼は無事完了よ。約束通り、積み荷を降ろしたらフィエルティア号は貴方達にあげるわ」
「やったね! ありがとう。大事にするよ」
「それでコゴール砂漠ってのは此処からまだ遠いのか?」
「ノードポリカのずっと西ね」
「え、でも途中に大きな山があるんじゃなかったっけ?」
「ちょっと歩きじゃ大変そうだな。近くまで船で行けねえか」
「きっと無理ね。砂漠に行く事自体珍しいのに船が着ける所があるとは思えない」
「ね、本当に行くつもり? 前も言ったけど、本当に危険な所なのよ。そんな所にあんた行かせるわけには・・・じゃなくて・・・!」
「・・・心配なら心配って言えば良いのにね」
「言えない所がリタらしいけどな。見てて飽きねえけどな」
「聞こえてないと良いけどι」
「入港します」
トクナガさんの合図と共にフィエルティア号は港へと入っていった
港に船を着けて街に足を踏み入れると、夜だと言うのに人々で賑わっていた
「なんだか賑やかですね」
「この街には闘技場があるから参加する人、見る人で賑わってるのよ」
「リアはこの街に来た事あるんです?」
「ええ、何度かね。闘技場の方にも行った事あるわよ」
「え! リア、闘技場に行った事あるの?」
「うん、見応えがあって面白かったわよ」
「へえ、それは一度参加してみたいものだな」
「そうね」
「やっぱりあんた達って、根っからの戦闘狂ねι」
「楽しそうね、青年とジュディスちゃん」
「ユーリとジュディスは余裕で勝ち抜けるだろうな」
「だろうねえ」
そう話していると、カウフマンさんが商人と話を終えて私達の方へ来た
「ご苦労様、どうもね」
「ううん、こちらこそ大助かりだよ」
「そうそう、お互い様って奴だ」
「あ、こ、これはカウフマンさん、い、いつも、お、お世話になって、い、います」
二人の言葉の後に、聞きなれない声がして私達はその声の方に顔を向ける
するとそこにいたのは細身の体をした男の人だった
その人はどもった口調でカウフマンさんに話し掛ける
「また何処かに遺跡発掘? 首領自ら赴くなんて、いつもながら感心するわ」
「い、遺跡発掘は、わ、私の生き甲斐、ですから」
「あれ、誰・・・?」
「
「遺講の門? 何か覚えある・・・」
「そりゃあ、帝国魔導士の遺跡発掘をお手伝いしてるギルドだし」
「ああ、それで聞いた事あるのか」
リタは小声で隣にいた私とレイヴンに振り、私もレイヴンも小声で返すとリタは納得したような顔をしてラーギィさんを見ていた
「で、では、仲間を待たせてお、おりますので、こ、これで」
ラーギィさんはそう言って立ち去って行った
「いい人そうですね」
「ねぇ、前に兵装魔導器を売ってるギルドの話をしてたわよね」
「海凶の爪か?」
「そこに魔導器の横流ししてんのあいつ等じゃない?」
「遺講の門は完全に白よ」
「なんでそう言い切れるんだ?」
「温厚で、真面目に、こつこつと。それが売りのギルドだからなぁ」
「・・・・・」
だが、リタは手を顎の下に持っていて何か考えだした
「じゃ、もう行くわね。フィエルティア号、大事に使ってあげて。トクナガもよろしく」
「ああ」
「凛々の明星、頑張ってね」
「はい!」
カロルの返事を聞くとカウフマンさんはニッコリとして私達から離れて行った
「・・・何処かの魔導士が魔導器横流ししてるとか? 笑えないわね」
「リタ」
「え? ああ、うん」
「んじゃ、こっちはこっちの仕事してきますかね」
「手紙、届けるのよね? ベリウスに」
「そそ」
「ボク達も行ってみようよ」
「そうだな。フェローの事、何か知ってそうだしな。挨拶がてら、おっさんをダシに会ってみようぜ」
「だだ漏れで聞こえてるんだが・・・それにしても・・・挨拶ねぇ」
「何? 何かあるの?」
「いや? なーんも?」
「ベリウスさんは何処にいるのです?」
「戦士の殿堂の首領だから、闘技場に行けば会えるんじゃないかな?」
「んじゃ、闘技場に行ってみるか」
「そういや、戦士の殿堂のベリウスって一体どんな奴なんだ?」
「さあ、名前だけは良く耳にするけど、会った事もなければ、見た事もないんで知らないのよ」
「カロルは知らないんです?」
「ボクも活動はずっとダングレストだったから、ノードポリカのギルドの事はちょっと・・・」
「ドンみたいなじいさんがもう一人出て来たら、たまんねえな」
「ははっ、そら言えてるわ。あんなじいさんは一人で十分よね」
「ベリウスに会うの、楽しみだね」
そうこう話しているうちに私達は闘技場に着いた
夜だと言うのに、闘技場には沢山の人がいた
参加する者、見学する者、商人、様々な人達がいて何処を見ても賑わっている
「外も賑やかだったけど、此処も賑やかね」
「みんな良い顔してるわ」
通り過ぎざまに見る人達の顔は生き生きしている
「ベリウスの人望があってこそだろうけどね」
まさにそこ言葉通りだと思う
ベリウスのいる部屋まで足を運ぶと、その部屋の前には体格の良い男の人が立っていて行く手を阻んでいた
「この先は我が主、ベリウスの私室だ。立ち入りは控えてもらう」
「そのベリウスさんに会いに来たんです」
「何だって? お前達は誰だ?」
「ギルド、凛々の明星だよ」
「・・・聞かない名前だな。主との約束はあるか?」
「え? や、約束?」
「残念ながら、我が主は約束のない者とは会わない」
「ドン・ホワイトホースの使いの者でも?」
「ドン・・・こ、これは失礼。我が名はナッツ。この街の首領代理を務めている。我が主への用向きならば私が承ろう」
「すまないねぇ。一応ベリウスさんに直接渡せってドンから言われてんだ」
「そうか・・・しかしながら、ベリウス様は新月の晩にしか人に会われない。できれば、次の新月の晩に来てもらいたいのだが・・・」
「次の新月か・・・」
次の新月は二週間後、それまでベリウスには会えないようだ
「なら、出直しますか」
「居ないんなら仕方ないもんね」
「わざわざ悪かったな。ドンの使いの者が訪れた事は連絡しておこう」
「頼むわ」
「じゃあ今の内に砂漠の情報を集めてはどう?」
「フェローの情報もね」
「あたしはエアルクレーネの情報探したいんだけど」
「これだけ人の集まる場所なら期待出来そうですね」
「おっさんは先に宿に行ってて良い? とりあえずドンに経過報告の手紙出しとくわ」
「ああ」
「じゃあ、あたし等も行こ」
話しが纏まった所で私達は宿へと向かった
レイヴンが先に宿屋に行ったお陰で、無事に部屋を取る事が出来た(私達で部屋は埋まったらしい)
宿に泊まれば後はいつも通り朝まで自由行動
各自好きな事を始め、私は外の空気を吸いに港まで出ていた
近くにあった木箱に腰掛けて私は波の音を聞きながら空を見上げた
空には綺麗な月と星々、そしてこの街の結界魔導器が見える
その中でも一際輝きを放っている星に目が止まった
「・・・凛々の明星、か・・・」
夜空で最も強い光を放つ星、凛々の明星
ユーリ達ギルドの名前
そして、古い伝承のあの凛々の明星
「・・・今更だけど、恐れ多い名前をギルドに付けちゃったな」
「何が恐れ多いんだ?」
独り言のつもりだったのに急に声が聞こえると、ユーリが私が座っている木箱の隣に立っていた
「ユーリ。いつからいたの?」
「今来た所だ。で、何が恐れ多い名前なんだ?」
ユーリはそう言って私の横に座った
「ブレイブヴェスペリア・・・凛々の明星よ」
私は空に瞬く星の一つに指を指すと、ユーリはその星を見る
「夜空で最も強い光を放つ星・・・か」
「あの星には古い伝承があるの・・・」
私はそう言って伝承を語り出した
――その昔、世界を滅亡に追い込む災厄が起こりました。
人々は災厄に立ち向かい、多くの命が失われました。
皆が倒れ、力尽きた時、ある兄妹が現れました。
その兄妹は、力を合わせ、災厄と戦い、世界を救いました。
妹は満月の子と呼ばれ、戦いの後も大地に残りました。
兄は凛々の明星と呼ばれ、空から世界を見守る事にしました。――
「・・・て言う話」
「・・・ホント、恐れ多いな」
一通り話しを終えると、ユーリは自分達のギルド名がそんな凄いものだったとは思っていなかったらしく苦笑して凛々の明星を見ていた
「・・・ユーリ」
「ん?」
「あの輝きに負けないくらい立派なギルドにしてね。私達も情報提供はするから」
「ああ・・・今度、カロルにも聞かせてやらないとな。名前負けして格好悪くならないように」
「そうだね」
カロルの反応が頭に浮かび笑っていると、ユーリが私を見た
「にしても、お前良く港にいるよな」
「え? そう?」
「ああ。ノール港ん時もそうだったろ」
ユーリに言われて思い返してみると確かに一人でいる時は良く海の近くや港に来ていた
「そういえば、そうだね」
「海、好きなのか?」
「うん、なんだか見てると落ち着くし、波の音が心地良いって言うか懐かしい感じ」
「懐かしい?」
「下町を思い出すの。あっちは波じゃないけど、水の流れる音を聞いてると下町にいる時の事思い出して・・・」
そう言うとユーリは「そうかもな・・・」と言って海を眺めた
「ユーリ、旅が終わったら下町に戻るの?」
「そうだな・・・何だかんだ言ってもあそこがオレ達の育った町だしな」
「でも、ギルドの拠点にする訳にはいかないでしょ?」
「まあな。カロルはダングレストが良いって言うだろうし、ジュディは・・・オレ達に任せそうだな」
「じゃあ私と兄さんみたいに旅をしながら依頼を受ける、で良いんじゃない?」
「そうだな。今もそれでやってるしオレ達には旅をしながらの方が向いてそうだな」
「私もそう思う」
お互いに笑うと私達はまた海を眺めだした
暫く海を見ているとユーリが木箱から降りた
「さてと、んじゃそろそろ帰るか。あんまり遅いとリタ辺りが五月蠅いだろうしな」
「ふふっ、そうかも」
ユーリの言葉に笑っていると突然ユーリが右手を出して私の左手を取った
そのまま引いて立たせてくれるのかと思っていると、ユーリが悪戯っ子のような笑みを浮かべ私の左手の甲にキスを落とした
「っ/// ユ、ユーリ///!?」
私はユーリの行動に驚いて顔を赤くすると、ユーリは意地悪そうに笑う
「顔赤いぞ」
「だ、誰の所為よっ///!!」
「誰だろうな」
そう言うもののユーリは私の左手を握ったままだった
私はその手をじっと見ているとユーリがまた悪戯の笑みを浮かべた
「手じゃ物足んなかったか? それとも・・・」
「・・・っ!」
すると彼はゆっくりと私に顔を近付けて来て、そのまま私の唇に自分のそれを重ね、私の手に自分の手を添えて、彼は触れるだけのキスを私に送る
「・・・こっちの方が良かったか?」
暫くして唇が離れると、私は顔を赤く染め唇を手で押さえユーリを見た
「・・・ユーリ、今・・・」
何したの? と言おうとするが、ちゃんと言葉に出来ず私は口をぱくぱくさせていた
ユーリは私の反応に満足そうに笑い再び私の左手を取って自分の方に引き寄せて立たせてくれた
「じゃあ、帰りますか。お嬢様」
今度は紳士がエスコートするような言い方をしてユーリは私の手を引いて歩き出した
暫くしてやっと頭に酸素が回ってきてふと、子供の頃を思い出した
(・・・そう言えば、子供の頃にこんな風に手を繋いで帰った事があったな)
そう思い、小さく笑った
静かな夜、波の音を聞きながら私達は手を繋いで宿へと帰ったのだった
続く
あとがき
どうもこんばんは~!
やっと仕上がりました、今日で小説4本目!!
久々に書けてるよ、俺!!
あ、そんな事はどうでもいい? さっさと感想にいけ?
はい・・・では感想を!!
今回はノードポリカに到着してその夜までの話しでした
夜はユーリとの会話を入れたかったから入れたんですけど、最後は何か甘くなっちゃいました!?
いや、自分でもビックリですよ、ホントに(笑)
でも、そろそろ甘いの入れとかないと今後の展開が進まなくなるのでね・・・
さてと、次回はまたまた事件に巻き込まれてしまうメンバーですが、久々にあの人の登場です!
こっちも頑張って書かないとな・・・
では!!
tradition(伝説、言い伝え、伝統・・・etc)
下書き:2008.12.13
完成:2009.07.05