満月の子編
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トリム港の宿に到着すると私達は部屋を2部屋借りて食事を済ませた後、ユーリ達男子部屋に集まり、リタとレイヴンがベッドに腰掛け、残りは部屋の壁に寄り掛かって立つか、地べたに座ってリタとレイヴンに二人と別れた後の出来事、フェローや凛々の明星の事を話した後、レイヴンがどうして此処まで着たのかを話してくれた
35.再出発
「成る程な、ユニオンとしては帝国の姫様がぶらぶらしてるのを知りながらほっとけないって訳か」
「ドンはもうご存知なんですね。私が次の皇帝候補であるって事」
「そそ、なもんでドンにエステルを見ておけって言われたんさ」
「監視って事? あんま気分良くなくない?」
「そんなものです?」
「あれ・・・? ボクだけ?」
「エステルは立場上慣れてるんだろ」
「ま、ともかく、追っ駆けて来たらいきなり厄介事に首突っ込んでるし、おっさん着いてくの大変だったわよ」
「・・・でも、どうしてエステルを?」
「帝国とユニオンの関係を考えたら当然の事かもね」
「腹を探り合ってるとこだからなぁ。動きを追っておきたいのさ」
「んで、あんた等はフェローってのを追ってコゴール砂漠に行こうとしてると」
「はい」
素直に頷くエステルにリタは怪訝そうな顔をした
「砂漠がどういうとこか、解ってる?」
「暑くて、乾いてて、砂ばっかの所でしょ」
「簡単に言うわね。そう簡単じゃないわよ」
「とりあえず、近くまで皆さんと一緒に行こうと思って」
「それから?」
「色々回ってみて、フェローの行方を聞こうかと」
「・・・ツッコみたい事は沢山あるけど・・・ι お城に帰りたくなくなったって事じゃないんだよね?」
リタは整った顔をこれでもかというほど引き攣らせて、米神を押さえエステルを見た
「えと・・・それは」
「おっさんとしては城に戻ってくれた方が楽なんだけどなぁ」
「ごめんなさい。わたし、知りたいんです。フェローの言葉の真意を・・・」
「ま、デズエール大陸ってんなら好都合っちゃ好都合なんだけども」
「どうしてかしら?」
「ドンのお使いでノードポリカへ行かなきゃなんないのよ。ベリウスに手紙を持ってけって」
レイヴンは懐から白い封筒に入った手紙を見せながら言う
「うわっ、大物だね」
「ノードポリカを治める、闘技場の首領の方、でしたよね?」
「正確には首領 って言うんだけどね」
レイヴンは封筒をユーリに放って寄越し、ユーリはその手紙を受ける
「その手紙の内容、知ってるの?」
「ん、ダングレストを襲った魔物に関する事だな。お前さん達の追っているフェローってヤツ。ベリウスならあの魔物の事知ってるって事だ」
「こりゃオレ達もベリウスってのに会う価値が出て来たな」
ユーリは手紙を横流しに読むと手紙を封筒に戻して同じようにレイヴンに返した
「っつー訳で、おっさんも一緒に連れてってね」
「解ったよ。でも一緒にいる間はちゃんと凛々の明星の掟は守ってもらうよ」
「了解、了解~。んでも、そっちのギルドに入る訳じゃないからそこんとこもよろしくな」
「どうして凛々の明星に入らないのです?」
「同時に二つ以上のギルドに所属する事は禁止されてるんだ。レイヴンだって一応、天を射る矢の人間だしね」
「一応ってなんだよ」
「話しは終わり? じゃああたしそろそろ休むわ」
「はい」
リタはそう言って部屋から出た
「リタは・・・どうするんでしょう?」
「さぁ、な」
「とりあえず明日は港に行ってみよう」
後は朝まで自由行動になり、ジュディスと兄さんは部屋を出て行き、私とアスラとエステルも部屋を出た
隣にいるエステルを見ると、ああ言ったもののまだ何処か決意が固まっていないようで迷いがある顔をしていた
そんなエステルを見て私はエステルに声を掛けた
「エステル、少し散歩して来たら?」
「え?」
「少し外の風に当たったら気分がすっきりするかもよ?」
アスラも同じ事を思ったのか私の提案に乗り、微笑んでいるとエステルは小さく笑って答えた
「そう、ですね・・・。じゃあ少し散歩して来ますね」
エステルはそのまま踵を返して廊下を歩いて行った
「・・・言わなくて良かったの?」
エステルが立ち去った後にアスラが私を見て聞く
私はエステルが歩いて言った方を見てそれから歩き出した
エステルは今、色んな事を知ろうとしてる途中で迷いが多い
彼女の長所である他人を放って置けない性格は、時には目的に向かって歩かなければいけないもの
けど、それは逆に短所でもあり他人を振り回してしまう時もある
それが昼間行動として出てしまい、ジュディスに手厳しい言い方をされた
他人から見ればかなり手厳しいと思うかもしれないが、それは十分エステルの心に響いたと思う
その事も含め私や兄さんが言わなくても損な役回りをする彼が言うだろう
「私が言わなくてもユーリが言うでしょ」
「まあ、そっか・・・」
部屋に戻るとリタがベッドに腰掛け考え込んでいた
「ねぇ・・・あいつ等、本当にそのフェローとかいう奴にエステルを会わせるつもり?」
「そうみたいね」
「あの子、そいつに毒って言われたんだっけ?」
「そんな事言われて気にするなって方が無理でしょ?」
「だからって皇位継承のごたごたから目を背けてもあの子の為になんないでしょ」
「そうかもだけど、エステル自身が決めたならユーリも私もエステルの自由にさせるな。それに・・・」
「それに・・・?」
「・・・私もフェローに会ってみたいの」
「フェローに? 何で?」
『世界の毒』、フェローは確かにエステルにそう言った
ただ、その言葉を聞いて私の心臓がドクンと脈を打った
それが未だに何なのか解らないが、フェローならこの事を知っているような気がしたからだ
「・・・どうかした?」
不意に言葉を切った私をリタは怪訝そうな顔をして見ていた
「ううん、何でもない。ただ会わなきゃいけない気がしただけ・・・」
「ふーん。で、その事ユーリは知ってるの?」
「え? 知らないけど・・・」
そう言うとリタははあ・・・と大きな溜息を吐き米神に手を当てアスラも少し呆れていた
「エステルもだけど、あんた自身も心配されてるって気付きなさいよι」
「特にユーリに、ね・・・」
「?」
リタとアスラが小声で言った事は私には聞こえず、私は首を傾げていた
リタと話しを終えた後、私は港の近くで夜風に当たっていた
「そこのお嬢さん、良かったら俺様とお話ししない?」
ボーっと海を見ていると不意に聞き覚えのある声が後ろから聞こえた
「・・・レイヴン、それナンパみたいよ」
「みたいって・・・一応そうだったんだけどなぁ・・・ι」
私がくすりと笑って返すとレイヴンは少し項垂れて私の隣に座った
「で、リアちゃんはこんな所で何やってんの?」
「夜風に当たりながら報告書の作成」
「うわ、真面目だねぇ~」
露骨に嫌そうな顔をするレイヴンに私はまた笑ってしまう
「レイヴンだって報告書作るでしょ」
「作るけどあれめんどくさいのよね。適当に書くとドンがどつくからな・・・。リアちゃんみたいに直ぐには取り組めないわ。そういやリアちゃん達もフェローに会いに行くんだって?」
「兄さんから聞いたの?」
「そ。でもまだ青年には話してないって言ってたっけ」
「うん・・・まだ言ってない」
「俺様達はともかく、青年にはちゃんと話さなきゃダメよ?」
「・・・それ、さっきリタにも言われた」
「みんな思ってる事は同じみたいね」
「え?」
「エステル嬢ちゃんもだけどリアちゃんもみんなに心配されてるのよ。特に青年に」
「・・・ユーリに?」
「そ」
レイヴンはそう言って深々と頷いた
「ま、とにかくその事は早めに青年には話した方が良いって」
「・・・うん、そうする」
私の返事を聞くとレイヴンは満足そうな顔をして立ち上がった
「さーてと、じゃそろそろ帰りますか」
「うん、そうだね」
「長い事リアちゃんと一緒にいると後で青年に何言われるか分かんないし・・・」
「誰が何だって、おっさん?」
「どわっ!?」
突然ユーリの声が聞こえ前を見るとユーリがいた
レイヴンは驚いて、私から数歩離れた
「ユーリ、どうして此処に? エステルと話し終わったの?」
「ああ。で、帰ろうとしたらリアとおっさんが見えたから来てみたワケ」
「そうなんだ。じゃあみんなで帰ろ「リアちゃん」?」
みんなで帰ろうか、と言おうとしていると、突然レイヴンが私に手招きして私はレイヴンの所へ行った
「さっきの事話すなら今だと思うよ」
「え? うん・・・」
ちらりとユーリを見ると何処か不機嫌そうな顔をしてこちらを見ていた
「・・・ほれ、行ってきな。青年が待ってるわよ」
レイヴンに背中を押され、私はユーリの前へと行った
「えっと、じゃあ行こうユーリ」
「ああ」
私の言葉にユーリは返事を返し、宿へと向かって歩き出した
「はあ・・・。リアちゃん、鋭い所は鋭いのにホント自分の事に関しては鈍いんだから・・・ι」
みんながリアの事を心配しているのは確かだが、一番心配している事はユーリがリアを好きだとリア自身が気付いていない事だった
他の事や他人の事に関しては凄く気付くのが早いのだが、これだけは本人が気付くまでどうしようもない程の鈍さだったのだ
「ま、それが良い方に転ぶか悪い方に転がるかはリアちゃん次第、か。・・・色んな意味で、ね・・・」
レイヴンは何処か遠い目をして呟いた言葉は、波が波止場にぶつかる音に消えた
私達は海沿いの道を歩きながら宿へと戻っていた
「エステル、やっぱりまだ迷ってた?」
「ああ。けど、もう覚悟は決まったみたいだぜ」
「そっか」
ユーリの表情を見ると何処か晴れ晴れとしていた
きっと今頃エステルも同じように晴れ晴れしい表情になっているのだろうと思っているとユーリが私に声を掛けた
「で、リアはおっさんと何話してたんだ?」
「報告書作成とこれからの事」
「これからの事?」
ユーリは報告書の事より後者の方が気になったようだった
「・・・ねえ、ユーリ」
「ん?」
急に立ち止まった私をユーリは不思議そうに見て、その言葉の続きを待った
「私も、一緒に行って良い?」
「・・・どうしたんだよ、改まって」
「ユーリやエステル、みんなの事も心配なんだけど・・・私もフェローに会いたいの」
「フェローに・・・?」
怪訝そうな顔をして私を見てくるユーリに私は頷いて答えた
「・・・良く解らないけど、言葉で説明は出来ないんだけど、なんだかフェローに会わなきゃいけない気がするの」
私がそう言うとユーリは私の頭の上にポンっと手を置いて優しく撫でてくれた
「リアが決めたんならオレは反対しないぜ。けど、無茶だけはすんなよ」
「それ、ユーリが言うんだ」
ユーリの言葉に思わず笑うと少しむっとし、その反応が可笑しくてまた笑ってしまった
「笑いすぎだっての」
「ふふ、ごめん」
笑ったお陰なのか、それともユーリにこの事を話したお陰なのかとても清々しい気分だった
「じゃあそろそろ帰ろう」
「そうだな」
ユーリは私の顔を見て満足そうに笑って歩き出し、私も隣に並んで再び宿へと向かって歩き出した
*
翌朝、各々旅支度を済ませ私達はロビーに集まったがリタだけはこの場にいなかった
昨日の様子からしてリタも一緒に来るのだろうと思っていたのだが
「じゃあ、行くか」
「リタは、どうするんです?」
「あの子にはあの子のやる事がある」
「そう言う事だな」
「で、港から船、だっけ?」
突然部屋の扉が開く音とリタの声が聞こえ私達はその方向を見ると、満面の笑顔で腰に手を当てご機嫌そうなリタがいつも通り少ない荷物を持って立っていた
「え、それって・・・」
「お前も着いてくんのか?」
「ええ」
「何か用事が遭ったんでないの?」
「エアルクレーネの調査ですよね」
「騎士団長から依頼されたケーブ・モックの方は既に調査、報告済み。他のエアルクレーネは、どのみち旅して調べるつもりだったから」
「つまり、調査の為に私達を利用するって事かしら」
「まあね、ヘリオードの時みたいに調査中、酷い目に遭わないとも限らない訳だし。一人よりもあんた達と一緒の方がとりあえず安心よね」
「・・・相変わらず良い性格してるぜ」
「また一緒に旅出来るんですね。わたし、嬉しいです」
「そ、そう・・・あたしは、別に」
エステルは満面の笑みを浮かべ、リタを見るがリタはあくまでもつっけんどんな態度をとってはいるのだが、頬が真っ赤だ
「そ、それより、港に行くんじゃなかったの?」
「まったく、若人は元気よのう~」
レイヴンがわざとらしく言うものだから、リタはエステルに対する態度とは真逆のものでレイヴンを睨み付けた
「ふざけてんの!?」
「ひー! どんな逆ギレよ~!」
15歳とは思えないドスの聴いた声に年の離れたレイヴンが多少狼狽え、その様子を私達は苦笑して見ていた
「んじゃ、港に行きますか」
ユーリも苦笑して荷物を持って歩き出し、私達もその後に続いた
続く
あとがき
ぐおぉ~~、この辺から段々と書くのが難しくなっていく・・・
何か思ってたよりレイヴンとの会話が書けてビックリですよ(笑)
ま、でも、一番年上にはやっぱり相談に乗って欲しいですからね
レイヴンなら普通に聞いてくれそうだしね
最後の言葉が気になる所でもあるけど・・・
ユーリとの会話は甘いのを期待してた人、期待を裏切ってごめんなさいι
此処も甘く書くのは難しいからね・・・ι
前回も言ったけど、やっぱリタっちとレイヴンのやりとりが好きだなvv
にしても、久々にぶっ続けで小説書いてるな
書ける時に書かないとね、いつスランプ入るか分かんないしι
次回は港へ向かいます
久々にあの人とあの人が出て来ます!
では、お楽しみに!
下書き:2008.12.11
完成:2009.07.05
35.再出発
「成る程な、ユニオンとしては帝国の姫様がぶらぶらしてるのを知りながらほっとけないって訳か」
「ドンはもうご存知なんですね。私が次の皇帝候補であるって事」
「そそ、なもんでドンにエステルを見ておけって言われたんさ」
「監視って事? あんま気分良くなくない?」
「そんなものです?」
「あれ・・・? ボクだけ?」
「エステルは立場上慣れてるんだろ」
「ま、ともかく、追っ駆けて来たらいきなり厄介事に首突っ込んでるし、おっさん着いてくの大変だったわよ」
「・・・でも、どうしてエステルを?」
「帝国とユニオンの関係を考えたら当然の事かもね」
「腹を探り合ってるとこだからなぁ。動きを追っておきたいのさ」
「んで、あんた等はフェローってのを追ってコゴール砂漠に行こうとしてると」
「はい」
素直に頷くエステルにリタは怪訝そうな顔をした
「砂漠がどういうとこか、解ってる?」
「暑くて、乾いてて、砂ばっかの所でしょ」
「簡単に言うわね。そう簡単じゃないわよ」
「とりあえず、近くまで皆さんと一緒に行こうと思って」
「それから?」
「色々回ってみて、フェローの行方を聞こうかと」
「・・・ツッコみたい事は沢山あるけど・・・ι お城に帰りたくなくなったって事じゃないんだよね?」
リタは整った顔をこれでもかというほど引き攣らせて、米神を押さえエステルを見た
「えと・・・それは」
「おっさんとしては城に戻ってくれた方が楽なんだけどなぁ」
「ごめんなさい。わたし、知りたいんです。フェローの言葉の真意を・・・」
「ま、デズエール大陸ってんなら好都合っちゃ好都合なんだけども」
「どうしてかしら?」
「ドンのお使いでノードポリカへ行かなきゃなんないのよ。ベリウスに手紙を持ってけって」
レイヴンは懐から白い封筒に入った手紙を見せながら言う
「うわっ、大物だね」
「ノードポリカを治める、闘技場の首領の方、でしたよね?」
「正確には
レイヴンは封筒をユーリに放って寄越し、ユーリはその手紙を受ける
「その手紙の内容、知ってるの?」
「ん、ダングレストを襲った魔物に関する事だな。お前さん達の追っているフェローってヤツ。ベリウスならあの魔物の事知ってるって事だ」
「こりゃオレ達もベリウスってのに会う価値が出て来たな」
ユーリは手紙を横流しに読むと手紙を封筒に戻して同じようにレイヴンに返した
「っつー訳で、おっさんも一緒に連れてってね」
「解ったよ。でも一緒にいる間はちゃんと凛々の明星の掟は守ってもらうよ」
「了解、了解~。んでも、そっちのギルドに入る訳じゃないからそこんとこもよろしくな」
「どうして凛々の明星に入らないのです?」
「同時に二つ以上のギルドに所属する事は禁止されてるんだ。レイヴンだって一応、天を射る矢の人間だしね」
「一応ってなんだよ」
「話しは終わり? じゃああたしそろそろ休むわ」
「はい」
リタはそう言って部屋から出た
「リタは・・・どうするんでしょう?」
「さぁ、な」
「とりあえず明日は港に行ってみよう」
後は朝まで自由行動になり、ジュディスと兄さんは部屋を出て行き、私とアスラとエステルも部屋を出た
隣にいるエステルを見ると、ああ言ったもののまだ何処か決意が固まっていないようで迷いがある顔をしていた
そんなエステルを見て私はエステルに声を掛けた
「エステル、少し散歩して来たら?」
「え?」
「少し外の風に当たったら気分がすっきりするかもよ?」
アスラも同じ事を思ったのか私の提案に乗り、微笑んでいるとエステルは小さく笑って答えた
「そう、ですね・・・。じゃあ少し散歩して来ますね」
エステルはそのまま踵を返して廊下を歩いて行った
「・・・言わなくて良かったの?」
エステルが立ち去った後にアスラが私を見て聞く
私はエステルが歩いて言った方を見てそれから歩き出した
エステルは今、色んな事を知ろうとしてる途中で迷いが多い
彼女の長所である他人を放って置けない性格は、時には目的に向かって歩かなければいけないもの
けど、それは逆に短所でもあり他人を振り回してしまう時もある
それが昼間行動として出てしまい、ジュディスに手厳しい言い方をされた
他人から見ればかなり手厳しいと思うかもしれないが、それは十分エステルの心に響いたと思う
その事も含め私や兄さんが言わなくても損な役回りをする彼が言うだろう
「私が言わなくてもユーリが言うでしょ」
「まあ、そっか・・・」
部屋に戻るとリタがベッドに腰掛け考え込んでいた
「ねぇ・・・あいつ等、本当にそのフェローとかいう奴にエステルを会わせるつもり?」
「そうみたいね」
「あの子、そいつに毒って言われたんだっけ?」
「そんな事言われて気にするなって方が無理でしょ?」
「だからって皇位継承のごたごたから目を背けてもあの子の為になんないでしょ」
「そうかもだけど、エステル自身が決めたならユーリも私もエステルの自由にさせるな。それに・・・」
「それに・・・?」
「・・・私もフェローに会ってみたいの」
「フェローに? 何で?」
『世界の毒』、フェローは確かにエステルにそう言った
ただ、その言葉を聞いて私の心臓がドクンと脈を打った
それが未だに何なのか解らないが、フェローならこの事を知っているような気がしたからだ
「・・・どうかした?」
不意に言葉を切った私をリタは怪訝そうな顔をして見ていた
「ううん、何でもない。ただ会わなきゃいけない気がしただけ・・・」
「ふーん。で、その事ユーリは知ってるの?」
「え? 知らないけど・・・」
そう言うとリタははあ・・・と大きな溜息を吐き米神に手を当てアスラも少し呆れていた
「エステルもだけど、あんた自身も心配されてるって気付きなさいよι」
「特にユーリに、ね・・・」
「?」
リタとアスラが小声で言った事は私には聞こえず、私は首を傾げていた
リタと話しを終えた後、私は港の近くで夜風に当たっていた
「そこのお嬢さん、良かったら俺様とお話ししない?」
ボーっと海を見ていると不意に聞き覚えのある声が後ろから聞こえた
「・・・レイヴン、それナンパみたいよ」
「みたいって・・・一応そうだったんだけどなぁ・・・ι」
私がくすりと笑って返すとレイヴンは少し項垂れて私の隣に座った
「で、リアちゃんはこんな所で何やってんの?」
「夜風に当たりながら報告書の作成」
「うわ、真面目だねぇ~」
露骨に嫌そうな顔をするレイヴンに私はまた笑ってしまう
「レイヴンだって報告書作るでしょ」
「作るけどあれめんどくさいのよね。適当に書くとドンがどつくからな・・・。リアちゃんみたいに直ぐには取り組めないわ。そういやリアちゃん達もフェローに会いに行くんだって?」
「兄さんから聞いたの?」
「そ。でもまだ青年には話してないって言ってたっけ」
「うん・・・まだ言ってない」
「俺様達はともかく、青年にはちゃんと話さなきゃダメよ?」
「・・・それ、さっきリタにも言われた」
「みんな思ってる事は同じみたいね」
「え?」
「エステル嬢ちゃんもだけどリアちゃんもみんなに心配されてるのよ。特に青年に」
「・・・ユーリに?」
「そ」
レイヴンはそう言って深々と頷いた
「ま、とにかくその事は早めに青年には話した方が良いって」
「・・・うん、そうする」
私の返事を聞くとレイヴンは満足そうな顔をして立ち上がった
「さーてと、じゃそろそろ帰りますか」
「うん、そうだね」
「長い事リアちゃんと一緒にいると後で青年に何言われるか分かんないし・・・」
「誰が何だって、おっさん?」
「どわっ!?」
突然ユーリの声が聞こえ前を見るとユーリがいた
レイヴンは驚いて、私から数歩離れた
「ユーリ、どうして此処に? エステルと話し終わったの?」
「ああ。で、帰ろうとしたらリアとおっさんが見えたから来てみたワケ」
「そうなんだ。じゃあみんなで帰ろ「リアちゃん」?」
みんなで帰ろうか、と言おうとしていると、突然レイヴンが私に手招きして私はレイヴンの所へ行った
「さっきの事話すなら今だと思うよ」
「え? うん・・・」
ちらりとユーリを見ると何処か不機嫌そうな顔をしてこちらを見ていた
「・・・ほれ、行ってきな。青年が待ってるわよ」
レイヴンに背中を押され、私はユーリの前へと行った
「えっと、じゃあ行こうユーリ」
「ああ」
私の言葉にユーリは返事を返し、宿へと向かって歩き出した
「はあ・・・。リアちゃん、鋭い所は鋭いのにホント自分の事に関しては鈍いんだから・・・ι」
みんながリアの事を心配しているのは確かだが、一番心配している事はユーリがリアを好きだとリア自身が気付いていない事だった
他の事や他人の事に関しては凄く気付くのが早いのだが、これだけは本人が気付くまでどうしようもない程の鈍さだったのだ
「ま、それが良い方に転ぶか悪い方に転がるかはリアちゃん次第、か。・・・色んな意味で、ね・・・」
レイヴンは何処か遠い目をして呟いた言葉は、波が波止場にぶつかる音に消えた
私達は海沿いの道を歩きながら宿へと戻っていた
「エステル、やっぱりまだ迷ってた?」
「ああ。けど、もう覚悟は決まったみたいだぜ」
「そっか」
ユーリの表情を見ると何処か晴れ晴れとしていた
きっと今頃エステルも同じように晴れ晴れしい表情になっているのだろうと思っているとユーリが私に声を掛けた
「で、リアはおっさんと何話してたんだ?」
「報告書作成とこれからの事」
「これからの事?」
ユーリは報告書の事より後者の方が気になったようだった
「・・・ねえ、ユーリ」
「ん?」
急に立ち止まった私をユーリは不思議そうに見て、その言葉の続きを待った
「私も、一緒に行って良い?」
「・・・どうしたんだよ、改まって」
「ユーリやエステル、みんなの事も心配なんだけど・・・私もフェローに会いたいの」
「フェローに・・・?」
怪訝そうな顔をして私を見てくるユーリに私は頷いて答えた
「・・・良く解らないけど、言葉で説明は出来ないんだけど、なんだかフェローに会わなきゃいけない気がするの」
私がそう言うとユーリは私の頭の上にポンっと手を置いて優しく撫でてくれた
「リアが決めたんならオレは反対しないぜ。けど、無茶だけはすんなよ」
「それ、ユーリが言うんだ」
ユーリの言葉に思わず笑うと少しむっとし、その反応が可笑しくてまた笑ってしまった
「笑いすぎだっての」
「ふふ、ごめん」
笑ったお陰なのか、それともユーリにこの事を話したお陰なのかとても清々しい気分だった
「じゃあそろそろ帰ろう」
「そうだな」
ユーリは私の顔を見て満足そうに笑って歩き出し、私も隣に並んで再び宿へと向かって歩き出した
*
翌朝、各々旅支度を済ませ私達はロビーに集まったがリタだけはこの場にいなかった
昨日の様子からしてリタも一緒に来るのだろうと思っていたのだが
「じゃあ、行くか」
「リタは、どうするんです?」
「あの子にはあの子のやる事がある」
「そう言う事だな」
「で、港から船、だっけ?」
突然部屋の扉が開く音とリタの声が聞こえ私達はその方向を見ると、満面の笑顔で腰に手を当てご機嫌そうなリタがいつも通り少ない荷物を持って立っていた
「え、それって・・・」
「お前も着いてくんのか?」
「ええ」
「何か用事が遭ったんでないの?」
「エアルクレーネの調査ですよね」
「騎士団長から依頼されたケーブ・モックの方は既に調査、報告済み。他のエアルクレーネは、どのみち旅して調べるつもりだったから」
「つまり、調査の為に私達を利用するって事かしら」
「まあね、ヘリオードの時みたいに調査中、酷い目に遭わないとも限らない訳だし。一人よりもあんた達と一緒の方がとりあえず安心よね」
「・・・相変わらず良い性格してるぜ」
「また一緒に旅出来るんですね。わたし、嬉しいです」
「そ、そう・・・あたしは、別に」
エステルは満面の笑みを浮かべ、リタを見るがリタはあくまでもつっけんどんな態度をとってはいるのだが、頬が真っ赤だ
「そ、それより、港に行くんじゃなかったの?」
「まったく、若人は元気よのう~」
レイヴンがわざとらしく言うものだから、リタはエステルに対する態度とは真逆のものでレイヴンを睨み付けた
「ふざけてんの!?」
「ひー! どんな逆ギレよ~!」
15歳とは思えないドスの聴いた声に年の離れたレイヴンが多少狼狽え、その様子を私達は苦笑して見ていた
「んじゃ、港に行きますか」
ユーリも苦笑して荷物を持って歩き出し、私達もその後に続いた
続く
あとがき
ぐおぉ~~、この辺から段々と書くのが難しくなっていく・・・
何か思ってたよりレイヴンとの会話が書けてビックリですよ(笑)
ま、でも、一番年上にはやっぱり相談に乗って欲しいですからね
レイヴンなら普通に聞いてくれそうだしね
最後の言葉が気になる所でもあるけど・・・
ユーリとの会話は甘いのを期待してた人、期待を裏切ってごめんなさいι
此処も甘く書くのは難しいからね・・・ι
前回も言ったけど、やっぱリタっちとレイヴンのやりとりが好きだなvv
にしても、久々にぶっ続けで小説書いてるな
書ける時に書かないとね、いつスランプ入るか分かんないしι
次回は港へ向かいます
久々にあの人とあの人が出て来ます!
では、お楽しみに!
下書き:2008.12.11
完成:2009.07.05