満月の子編
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水道魔導器の魔刻を無事に取り戻した私達はダングレストに戻って来た
「あ、騎士団も戻って来たよ」
同時に騎士団の方も反対側の入り口から戻って来た所だった
そして騎士団の中にラゴウの姿があった
どうやら無事にラゴウを拘束する事が出来たようだ
「私は無実です! これは評議会を潰さんとする騎士団の陰謀です!」
だがラゴウは自分は関係ないと騎士団や街の人達に訴えかけていた
「往生際の悪いじいさん」
「・・・フレンは・・・?」
「此処からじゃ見えないな」
「もうちょっと近くに行ってみよう」
私達はもう少し状況が把握出来る所まで移動した
30.justice
「騎士団を信じてはいけません! 彼等は貴方達を安心させた上でこの街を潰そうとしているのです!」
「我等は騎士団の名の下に、そのような不実な事をしないと誓います」
「貴方は・・・フレン・シーフォ!」
フレンは騎士団の間を抜けてラゴウの前まで来て止まった
「帝国とユニオンの間に友好協定が結ばれる事になりました」
「な! そんな、バカな・・・」
フレンの言葉を聞いてラゴウは驚いて目を丸くした
バルボスと手を組み上手く事を運んだつもりだったが、まさかそうなるとは思っていなかったのだろう
「今、ドン・ホワイトホースとヨーデル様の間で話し合いがもたれています。正式な調印も時間の問題でしょう」
「どうして・・・アレクセイめは今、別事で身動きが取れぬはず」
「確かに、騎士団長はこちらの方に顔を出された後、直ぐに帝都に戻られました」
「では・・・誰の指示で・・・。くっ・・・まさかこんな若造に我が計画を潰されるとは・・・」
ラゴウは悔しそうに顔を歪めフレンを見ていた
フレンは指示を出すと、ラゴウは騎士団に連れて行かれた
「これでカプワ・ノールの人々も圧政から解放されますね」
「次はまともな執政官が来りゃ良いんだがな」
「良い人が選ばれるように、お城に戻ったら掛け合ってみます」
「お城にって・・・エステル、帝都に帰っちゃうの?」
「・・・はい。ラゴウが捕まって、もうお城の中も安全でしょうから」
エステルはそう言うのもも何処か寂しそうな顔をしていた
「・・・ホントは帰りたくない」
「え?」
「って、顔してる」
「そんな事、ないです・・・」
「ま、好きにすりゃ良いさ。自分で決めたんだろ」
「・・・帰ります。これ以上、フレンや他の方々を心配させないように・・・」
エステルはそのまま俯いて黙ってしまった
「とりあえず、宿に行かない?」
「そうだな。落ち着いた事だしゆっくり休もうぜ」
私の提案にみんな賛成して宿に向かって歩き出した
「エステル、後で美味しい紅茶入れてあげるね」
「はい! リアの淹れる紅茶は凄く美味しいので嬉しいです」
そう言うと先程までの暗い表情とは違い、嬉しそうな顔になった
宿に着くと皆、仮眠を取った後、各々やる事をやっていた
私はエステルと紅茶を飲んだ後、兄さんと合流して仕事に向かった
*
夜、ユーリが部屋で寝ていると廊下をドタバタ走る音が聞こえ自分の部屋の扉がカロルの大きな声と共に大きな音を立てて開いた
「大変だよ! ユーリ!」
「ゆっくり寝かせろって・・・」
「ラゴウが、ラゴウが!」
「ラゴウがどうしたって?」
ユーリはゆっくりと身体を起こしカロルの方を見た
「評議会の立場を利用して、罪を軽くしたんだって! 少し地位が低くなるだけで済まされるみたい! 酷い事してたのに!」
「面白くねえ冗談だな」
「冗談じゃなくて、本当よ」
「リア・・・」
ユーリが少し目を細めいつもより低い声でそう言うと、第三者の声が聞こえた
扉の方を見るとリアとセイが部屋に入って来ている所だった
「色々探ってみたが、上手い様に逃げやがったな」
「これが今の帝国のルールか。ったく、ホントに面白くねぇ」
「どうしよう、ユーリ」
「さて・・・な」
「ちゃんとした罰も受けないなんて、こんなの絶対可笑しいよ。そうだ! エステルに言えば何とかなるかもしれない!」
「おい、あんまお姫様に迷惑かけんじゃねえぞ」
言ってカロルは部屋から飛び出して行き、ユーリの言葉など聞こえていないようだった
「ったく、何やってんだよ、フレン」
「フレンなら駐屯地のテントにいるよ」
「行くの?」
「ああ。来るか?」
「俺はまだ調べたい事があるから残ってるわ」
「カロルの様子はボクが見ておくから」
「うん、じゃあ行ってくるね」
*
駐屯地のテントに着き、私達はフレンがいるだろうと思われるテントの前に来ると突然フレンの声が聞こえた
「ノックぐらいしたらどうだい?」
「来るの、解ってたろ」
「リアまで来るとは思ってなかったけどね」
ユーリノックをする振りをすると、フレンがテントから出て来た
「お前、その格好」
私とユーリはフレンを見て驚いた
フレンが身に着けている鎧は以前着ていたものと違い、真新しい全身を覆うタイプのもの
それを身に着ける事が出来るのは限られた者だけ
「本日付けで隊長に就任した」
「フレン隊の誕生か。また差付けられたな」
「そう思うなら、騎士団に戻って来れば良い。ユーリなら・・・」
「オレの話しは良いんだよ。隊長就任、おめでとさん」
「おめでとう、フレン」
「ありがとう」
私とユーリは微笑んで言うとフレンを微笑み返してくれた
だが、その雰囲気も直ぐに重たい空気に変わる
「僕を祝う為に来た訳じゃないだろう?」
「ああ」
「ラゴウの件だな」
ユーリはもう一度頷いてみせると、平静な表情を浮かべていたフレンが悔しそうな表情に変わった
「ノール港の私物化、バルボスと結託しての反逆行為。加えて街の人々からの掠奪、気に入らないと言う理由だけで部下にさえ、手を掛けた」
「・・・・・」
「殺した人々は魔物のエサか、商品にして、死体を欲しがる人々に売り飛ばして金にした」
「外道め・・・」
ユーリもギリッと歯を鳴らした
「これだけの事をしておいて、罪に問われないなんて・・・! 思っていた以上だった・・・評議会の権力は・・・!」
悔しそうに顔を歪め、肩を振るわせ握り拳を作っていた
フレンは抑えきれない程の激情に襲われていた
それはフレンだけでなくユーリも同じだった
「隊長に昇進して、少しは目的に近付いたつもりだった。だが、ラゴウ一人裁けないのが僕の現実だ」
フレンの肩が僅かに落ちた
私とユーリはその様子を黙ったまま見ていると先に口を開いたのはユーリだった
「・・・終わった訳じゃないだろう? それを変える為に、もっと上に行くんだろ」
「そうだ。だが、その間にも多くの人々が苦しめられる。理不尽に・・・それを思うと・・・」
フレンは腰に差した自分の剣の鞘に手を当てる
それを見てユーリは小さく息を吐いた
その途端、少しだけユーリの雰囲気が和らいだような少し張り詰めたような雰囲気になった
「短気起こしてラゴウを殴ったりすんなよ? 出世が水の泡だ」
「・・・・」
「お前はラゴウより上に行け。そして・・・」
「ああ、万人が等しく扱われる法秩序を築いてみせる。必ず」
「それで良い。オレも・・・オレのやり方でやるさ」
「「ユーリ?」」
ユーリはフレンの答えを聞くとふっと笑って背を向け歩き出し、少し離れた所で止まった
「法で裁けない悪党・・・お前ならどう裁く?」
「まだ僕には解らない・・・」
「そっか・・・」
フレンのその返事を聞くとユーリは静かに歩き出し、私の横を通り過ぎた
だが、通り過ぎ様に見たユーリの顔は何かを決心したような表情 だった
「・・・ユーリ?」
*
時刻は深夜
ダングレストの街は昼間の賑やかさとは違い、しんと寝静まっていた
そのダングレストの表通りを数名の男達が歩いていた
先頭を歩いているのはあのラゴウ、後ろには武装した男が二人、護衛として着いていた
「アレクセイがいないと思って羽目を外し過ぎましたか・・・。フレン・シーフォか・・・生意気な騎士の小僧め。この恨み、忘れませんよ。評議会の力で、必ず厳罰を下してやります」
ラゴウは忌々しそうな顔をした
その顔や口調には反省の色すら感じられない
一時的とはいえ自分に恥をかかせたのだ
それ相当の処罰を与えなくては気が済まないのだろう
「うわぁっ・・・!」
そう憎らしく思いながら街を流れる橋の上を通りかかっていると、突然男の悲鳴が聞こえた
「ぐおっ・・・!!」
その直後、後ろにいた護衛の男達は倒れそのまま橋から墜ちて川の中へと墜ちた
「何・・・!?」
ラゴウは何事かと思い正面を見ると、そこには闇夜に溶けるように立ちはだかっている男がいた
「あ、貴方は・・・」
ラゴウの前に立ちはだかっていたのは、ユーリだった
だが、彼の左手には剣が握られていて、全身には殺気を漂わせていた
ラゴウは恐怖と驚きで顔を引きつらせた
「私に手を出す気ですか!? 私は評議会の人間ですよ!」
ユーリは無言でラゴウに近付くと、ラゴウはじりじりと後ろに下がる
「貴方など簡単に潰せるのです。無事では、す、すみませんよ」
「法や評議会がお前を許してもオレはお前を許さねえ」
ようやく口を開いたが、その声はいつも以上に低い声だった
ユーリは剣を握り直して構えた
「ひぃ、く、来るな!」
瞬間、ユーリは地を蹴り身を翻し逃げようとしていたラゴウに一気に詰め寄り、斬り払った
月夜の光の下で真紅の血がしぶいた
「ぐっ・・・」
ラゴウの身体が蹌踉めいた
致命傷であったが、ラゴウはよろよろと橋の手摺りに近付いた
「後少しで、宙の戒典 をぉ・・・がふっ」
苦悶の声を発しラゴウは力尽き、そのまま手摺りを乗り越え、ザバンと音を立て川の中へ墜ちて行った
「・・・・・・」
ユーリは表情を変えず暫くじっとその川を橋の上から眺めていた
場所は変わって此処は宿屋の前、そこにはリアとラピードがいた
リアは座り足下で地面に顔を伏せて丸くなっているラピードを撫でてあげていた
「・・・・・」
空には綺麗な月が見える
雲一つなく、空には月だけが出ている
リアもラピードも言葉を発する事なくただじっとそこにいた
まるで、誰かの帰りを待っているかのように・・・
暫くすると遠くから足音が聞こえだした
その足音は徐々にこちらに向かって来ている
「・・・リア、ラピード」
足音が止まったかと思うとユーリの声が聞こえ、リアはゆっくりと顔を上げてユーリを見た
ユーリを見ると少し疲れたような複雑な顔をしていた
「・・・おかえり」
リアが優しく笑うとユーリは少し驚いた顔をしたが直ぐに返事を返してくれた
「・・・ただいま」
「「・・・・・」」
そう言うとお互いに黙ってしまった
そして今の状況を見てユーリは自分がやった事をリアはもう解っているのだと察する
ラピードに目を向けると何かを語りかけるようにユーリを見た後、そのまま宿の中へと戻って行った
後は、二人で話せ
そう言われたような気がした
「ユーリ」
どう切り出すか、そう思っているとリアが先に口を開き立ち上がってユーリを見た
「後悔、してる」
「・・・・・」
リアの表情は先程とは違い真剣な表情をしてじっとユーリを見ていた
ユーリは赤く染まった手を見つめた
罪だという事は分かってる、でもこのままラゴウを野放しにしておく方がいけないと思ったから、自分の正義を貫いた
許されない、っと知っていても
「・・・いや」
そう答えるとリアはゆっくりと歩いてユーリの前で止まった
「・・・それが、ユーリの信じる正義?」
「ああ」
その答えに迷いはなかった
「・・・・」
リアはそのまま黙ってしまい、ユーリは目を伏せた
後悔はない
そうは言うものの、別の後悔が押し寄せてくる
一番見られたくない人に、見られてしまった
一番大事に想っている人に、もう触れる事は出来ない
(オレの手はもう汚れてしまったから・・・)
そう思っていると、急に手に温かさを感じた
目を開けると、リアが両手でユーリの手を包み込むように握っていた
「・・・ユーリは何でも一人で抱え込み過ぎ。特に、こういう重たい事は・・・」
「・・・オレはもう手を汚したんだ。だからその手を「離さない」
ユーリの言葉を遮るようにリアが少し強めの口調で言った
「離したら、ユーリがそのまま遠くへ行っちゃいそうだもん」
「・・・・・」
それはあながち間違いではなかった
夜が明けたら直ぐにでも街を出て下町に戻るつもりだった
リアを置いて・・・
「・・・オレが、怖くないのか?」
ユーリはリアを見据えて先程よりも真剣な表情で聞いた
直ぐに答えが返ってこないだろうと思っていたがリアは表情を緩めて言った
「怖い訳ないじゃない」
ユーリは驚いてリアを見た
「ユーリはユーリ。私の知ってるユーリ・ローウェルは、守るべきモノの為なら必死で頑張るとても真っ直ぐな人。それで自分が傷つく事を厭わないで無茶ばっかりする人。それは今も昔も変わらない・・・目の前にいるユーリだよ」
リアはニコリとしてユーリを見た
ユーリは驚いてまた目を見開いているとリアは言葉を続けた
「・・・ユーリが信じて貫いた事なら、私は見届けるよ」
その言葉でユーリの胸の中にあった重たいモノがストンと落ちた
昔から変わらぬ優しさとその笑顔
何があっても相手の事を考えて理解してくれるその優しさと笑顔に今まで何人の人が救われた事か
勿論その中に自分もフレンもいる
(・・・やっぱ、リアには敵わねぇな・・・)
「リア」
ユーリは小さく笑ってリアの名前を呼ぶと、血が付いていない方の手でリアを引き寄せそのまま抱きしめた
「ありがとな」
「・・・うん」
リアは突然の事で一瞬驚いたが、ユーリの声を聞き自然と背中に手を回し抱きしめ返した
(・・・罪を背負ったオレを認めてくれたお前は、オレから離れないで居てくれた。
もう汚れた手で触れる事は出来ないと思っていたモノが、温もりが、今こうして腕の中にある。
お前が信じてくれる限り、オレはお前の傍にいる。
何が遭っても・・・)
続く
あとがき
新章突入~~~!!
此処のシーン大好きです!!
はい、此処でユーリにベタ惚れになりました!w
そしていつも以上に力を入れて書きました!
特に最後の方!!
此処かなり重要ですからね!
ゲーム本編じゃめっちゃ先の方の話しですが(やった人しか分かんないよι)、メインはリアちゃんだし夢小説だし、此処でこの話し入れとかないと後々色んな事が起こっちゃいますからね
本当はもっと書きたかったけど、長く書きすぎると後々の展開で使えなくなってくるので・・・ι
あ、でも、まだ両思いじゃないんですよ(苦笑)
それは・・・これからか?
まあお互い少し近づいた感じで!(笑)
では新章『満月の子編』、何話まで行くか分かんないけど(笑)これからお楽しみ下さい!
では!
ustice(正義)
下書き:2008.12.05
完成:2009.05.10
「あ、騎士団も戻って来たよ」
同時に騎士団の方も反対側の入り口から戻って来た所だった
そして騎士団の中にラゴウの姿があった
どうやら無事にラゴウを拘束する事が出来たようだ
「私は無実です! これは評議会を潰さんとする騎士団の陰謀です!」
だがラゴウは自分は関係ないと騎士団や街の人達に訴えかけていた
「往生際の悪いじいさん」
「・・・フレンは・・・?」
「此処からじゃ見えないな」
「もうちょっと近くに行ってみよう」
私達はもう少し状況が把握出来る所まで移動した
30.justice
「騎士団を信じてはいけません! 彼等は貴方達を安心させた上でこの街を潰そうとしているのです!」
「我等は騎士団の名の下に、そのような不実な事をしないと誓います」
「貴方は・・・フレン・シーフォ!」
フレンは騎士団の間を抜けてラゴウの前まで来て止まった
「帝国とユニオンの間に友好協定が結ばれる事になりました」
「な! そんな、バカな・・・」
フレンの言葉を聞いてラゴウは驚いて目を丸くした
バルボスと手を組み上手く事を運んだつもりだったが、まさかそうなるとは思っていなかったのだろう
「今、ドン・ホワイトホースとヨーデル様の間で話し合いがもたれています。正式な調印も時間の問題でしょう」
「どうして・・・アレクセイめは今、別事で身動きが取れぬはず」
「確かに、騎士団長はこちらの方に顔を出された後、直ぐに帝都に戻られました」
「では・・・誰の指示で・・・。くっ・・・まさかこんな若造に我が計画を潰されるとは・・・」
ラゴウは悔しそうに顔を歪めフレンを見ていた
フレンは指示を出すと、ラゴウは騎士団に連れて行かれた
「これでカプワ・ノールの人々も圧政から解放されますね」
「次はまともな執政官が来りゃ良いんだがな」
「良い人が選ばれるように、お城に戻ったら掛け合ってみます」
「お城にって・・・エステル、帝都に帰っちゃうの?」
「・・・はい。ラゴウが捕まって、もうお城の中も安全でしょうから」
エステルはそう言うのもも何処か寂しそうな顔をしていた
「・・・ホントは帰りたくない」
「え?」
「って、顔してる」
「そんな事、ないです・・・」
「ま、好きにすりゃ良いさ。自分で決めたんだろ」
「・・・帰ります。これ以上、フレンや他の方々を心配させないように・・・」
エステルはそのまま俯いて黙ってしまった
「とりあえず、宿に行かない?」
「そうだな。落ち着いた事だしゆっくり休もうぜ」
私の提案にみんな賛成して宿に向かって歩き出した
「エステル、後で美味しい紅茶入れてあげるね」
「はい! リアの淹れる紅茶は凄く美味しいので嬉しいです」
そう言うと先程までの暗い表情とは違い、嬉しそうな顔になった
宿に着くと皆、仮眠を取った後、各々やる事をやっていた
私はエステルと紅茶を飲んだ後、兄さんと合流して仕事に向かった
*
夜、ユーリが部屋で寝ていると廊下をドタバタ走る音が聞こえ自分の部屋の扉がカロルの大きな声と共に大きな音を立てて開いた
「大変だよ! ユーリ!」
「ゆっくり寝かせろって・・・」
「ラゴウが、ラゴウが!」
「ラゴウがどうしたって?」
ユーリはゆっくりと身体を起こしカロルの方を見た
「評議会の立場を利用して、罪を軽くしたんだって! 少し地位が低くなるだけで済まされるみたい! 酷い事してたのに!」
「面白くねえ冗談だな」
「冗談じゃなくて、本当よ」
「リア・・・」
ユーリが少し目を細めいつもより低い声でそう言うと、第三者の声が聞こえた
扉の方を見るとリアとセイが部屋に入って来ている所だった
「色々探ってみたが、上手い様に逃げやがったな」
「これが今の帝国のルールか。ったく、ホントに面白くねぇ」
「どうしよう、ユーリ」
「さて・・・な」
「ちゃんとした罰も受けないなんて、こんなの絶対可笑しいよ。そうだ! エステルに言えば何とかなるかもしれない!」
「おい、あんまお姫様に迷惑かけんじゃねえぞ」
言ってカロルは部屋から飛び出して行き、ユーリの言葉など聞こえていないようだった
「ったく、何やってんだよ、フレン」
「フレンなら駐屯地のテントにいるよ」
「行くの?」
「ああ。来るか?」
「俺はまだ調べたい事があるから残ってるわ」
「カロルの様子はボクが見ておくから」
「うん、じゃあ行ってくるね」
*
駐屯地のテントに着き、私達はフレンがいるだろうと思われるテントの前に来ると突然フレンの声が聞こえた
「ノックぐらいしたらどうだい?」
「来るの、解ってたろ」
「リアまで来るとは思ってなかったけどね」
ユーリノックをする振りをすると、フレンがテントから出て来た
「お前、その格好」
私とユーリはフレンを見て驚いた
フレンが身に着けている鎧は以前着ていたものと違い、真新しい全身を覆うタイプのもの
それを身に着ける事が出来るのは限られた者だけ
「本日付けで隊長に就任した」
「フレン隊の誕生か。また差付けられたな」
「そう思うなら、騎士団に戻って来れば良い。ユーリなら・・・」
「オレの話しは良いんだよ。隊長就任、おめでとさん」
「おめでとう、フレン」
「ありがとう」
私とユーリは微笑んで言うとフレンを微笑み返してくれた
だが、その雰囲気も直ぐに重たい空気に変わる
「僕を祝う為に来た訳じゃないだろう?」
「ああ」
「ラゴウの件だな」
ユーリはもう一度頷いてみせると、平静な表情を浮かべていたフレンが悔しそうな表情に変わった
「ノール港の私物化、バルボスと結託しての反逆行為。加えて街の人々からの掠奪、気に入らないと言う理由だけで部下にさえ、手を掛けた」
「・・・・・」
「殺した人々は魔物のエサか、商品にして、死体を欲しがる人々に売り飛ばして金にした」
「外道め・・・」
ユーリもギリッと歯を鳴らした
「これだけの事をしておいて、罪に問われないなんて・・・! 思っていた以上だった・・・評議会の権力は・・・!」
悔しそうに顔を歪め、肩を振るわせ握り拳を作っていた
フレンは抑えきれない程の激情に襲われていた
それはフレンだけでなくユーリも同じだった
「隊長に昇進して、少しは目的に近付いたつもりだった。だが、ラゴウ一人裁けないのが僕の現実だ」
フレンの肩が僅かに落ちた
私とユーリはその様子を黙ったまま見ていると先に口を開いたのはユーリだった
「・・・終わった訳じゃないだろう? それを変える為に、もっと上に行くんだろ」
「そうだ。だが、その間にも多くの人々が苦しめられる。理不尽に・・・それを思うと・・・」
フレンは腰に差した自分の剣の鞘に手を当てる
それを見てユーリは小さく息を吐いた
その途端、少しだけユーリの雰囲気が和らいだような少し張り詰めたような雰囲気になった
「短気起こしてラゴウを殴ったりすんなよ? 出世が水の泡だ」
「・・・・」
「お前はラゴウより上に行け。そして・・・」
「ああ、万人が等しく扱われる法秩序を築いてみせる。必ず」
「それで良い。オレも・・・オレのやり方でやるさ」
「「ユーリ?」」
ユーリはフレンの答えを聞くとふっと笑って背を向け歩き出し、少し離れた所で止まった
「法で裁けない悪党・・・お前ならどう裁く?」
「まだ僕には解らない・・・」
「そっか・・・」
フレンのその返事を聞くとユーリは静かに歩き出し、私の横を通り過ぎた
だが、通り過ぎ様に見たユーリの顔は何かを決心したような
「・・・ユーリ?」
*
時刻は深夜
ダングレストの街は昼間の賑やかさとは違い、しんと寝静まっていた
そのダングレストの表通りを数名の男達が歩いていた
先頭を歩いているのはあのラゴウ、後ろには武装した男が二人、護衛として着いていた
「アレクセイがいないと思って羽目を外し過ぎましたか・・・。フレン・シーフォか・・・生意気な騎士の小僧め。この恨み、忘れませんよ。評議会の力で、必ず厳罰を下してやります」
ラゴウは忌々しそうな顔をした
その顔や口調には反省の色すら感じられない
一時的とはいえ自分に恥をかかせたのだ
それ相当の処罰を与えなくては気が済まないのだろう
「うわぁっ・・・!」
そう憎らしく思いながら街を流れる橋の上を通りかかっていると、突然男の悲鳴が聞こえた
「ぐおっ・・・!!」
その直後、後ろにいた護衛の男達は倒れそのまま橋から墜ちて川の中へと墜ちた
「何・・・!?」
ラゴウは何事かと思い正面を見ると、そこには闇夜に溶けるように立ちはだかっている男がいた
「あ、貴方は・・・」
ラゴウの前に立ちはだかっていたのは、ユーリだった
だが、彼の左手には剣が握られていて、全身には殺気を漂わせていた
ラゴウは恐怖と驚きで顔を引きつらせた
「私に手を出す気ですか!? 私は評議会の人間ですよ!」
ユーリは無言でラゴウに近付くと、ラゴウはじりじりと後ろに下がる
「貴方など簡単に潰せるのです。無事では、す、すみませんよ」
「法や評議会がお前を許してもオレはお前を許さねえ」
ようやく口を開いたが、その声はいつも以上に低い声だった
ユーリは剣を握り直して構えた
「ひぃ、く、来るな!」
瞬間、ユーリは地を蹴り身を翻し逃げようとしていたラゴウに一気に詰め寄り、斬り払った
月夜の光の下で真紅の血がしぶいた
「ぐっ・・・」
ラゴウの身体が蹌踉めいた
致命傷であったが、ラゴウはよろよろと橋の手摺りに近付いた
「後少しで、
苦悶の声を発しラゴウは力尽き、そのまま手摺りを乗り越え、ザバンと音を立て川の中へ墜ちて行った
「・・・・・・」
ユーリは表情を変えず暫くじっとその川を橋の上から眺めていた
場所は変わって此処は宿屋の前、そこにはリアとラピードがいた
リアは座り足下で地面に顔を伏せて丸くなっているラピードを撫でてあげていた
「・・・・・」
空には綺麗な月が見える
雲一つなく、空には月だけが出ている
リアもラピードも言葉を発する事なくただじっとそこにいた
まるで、誰かの帰りを待っているかのように・・・
暫くすると遠くから足音が聞こえだした
その足音は徐々にこちらに向かって来ている
「・・・リア、ラピード」
足音が止まったかと思うとユーリの声が聞こえ、リアはゆっくりと顔を上げてユーリを見た
ユーリを見ると少し疲れたような複雑な顔をしていた
「・・・おかえり」
リアが優しく笑うとユーリは少し驚いた顔をしたが直ぐに返事を返してくれた
「・・・ただいま」
「「・・・・・」」
そう言うとお互いに黙ってしまった
そして今の状況を見てユーリは自分がやった事をリアはもう解っているのだと察する
ラピードに目を向けると何かを語りかけるようにユーリを見た後、そのまま宿の中へと戻って行った
後は、二人で話せ
そう言われたような気がした
「ユーリ」
どう切り出すか、そう思っているとリアが先に口を開き立ち上がってユーリを見た
「後悔、してる」
「・・・・・」
リアの表情は先程とは違い真剣な表情をしてじっとユーリを見ていた
ユーリは赤く染まった手を見つめた
罪だという事は分かってる、でもこのままラゴウを野放しにしておく方がいけないと思ったから、自分の正義を貫いた
許されない、っと知っていても
「・・・いや」
そう答えるとリアはゆっくりと歩いてユーリの前で止まった
「・・・それが、ユーリの信じる正義?」
「ああ」
その答えに迷いはなかった
「・・・・」
リアはそのまま黙ってしまい、ユーリは目を伏せた
後悔はない
そうは言うものの、別の後悔が押し寄せてくる
一番見られたくない人に、見られてしまった
一番大事に想っている人に、もう触れる事は出来ない
(オレの手はもう汚れてしまったから・・・)
そう思っていると、急に手に温かさを感じた
目を開けると、リアが両手でユーリの手を包み込むように握っていた
「・・・ユーリは何でも一人で抱え込み過ぎ。特に、こういう重たい事は・・・」
「・・・オレはもう手を汚したんだ。だからその手を「離さない」
ユーリの言葉を遮るようにリアが少し強めの口調で言った
「離したら、ユーリがそのまま遠くへ行っちゃいそうだもん」
「・・・・・」
それはあながち間違いではなかった
夜が明けたら直ぐにでも街を出て下町に戻るつもりだった
リアを置いて・・・
「・・・オレが、怖くないのか?」
ユーリはリアを見据えて先程よりも真剣な表情で聞いた
直ぐに答えが返ってこないだろうと思っていたがリアは表情を緩めて言った
「怖い訳ないじゃない」
ユーリは驚いてリアを見た
「ユーリはユーリ。私の知ってるユーリ・ローウェルは、守るべきモノの為なら必死で頑張るとても真っ直ぐな人。それで自分が傷つく事を厭わないで無茶ばっかりする人。それは今も昔も変わらない・・・目の前にいるユーリだよ」
リアはニコリとしてユーリを見た
ユーリは驚いてまた目を見開いているとリアは言葉を続けた
「・・・ユーリが信じて貫いた事なら、私は見届けるよ」
その言葉でユーリの胸の中にあった重たいモノがストンと落ちた
昔から変わらぬ優しさとその笑顔
何があっても相手の事を考えて理解してくれるその優しさと笑顔に今まで何人の人が救われた事か
勿論その中に自分もフレンもいる
(・・・やっぱ、リアには敵わねぇな・・・)
「リア」
ユーリは小さく笑ってリアの名前を呼ぶと、血が付いていない方の手でリアを引き寄せそのまま抱きしめた
「ありがとな」
「・・・うん」
リアは突然の事で一瞬驚いたが、ユーリの声を聞き自然と背中に手を回し抱きしめ返した
(・・・罪を背負ったオレを認めてくれたお前は、オレから離れないで居てくれた。
もう汚れた手で触れる事は出来ないと思っていたモノが、温もりが、今こうして腕の中にある。
お前が信じてくれる限り、オレはお前の傍にいる。
何が遭っても・・・)
続く
あとがき
新章突入~~~!!
此処のシーン大好きです!!
はい、此処でユーリにベタ惚れになりました!w
そしていつも以上に力を入れて書きました!
特に最後の方!!
此処かなり重要ですからね!
ゲーム本編じゃめっちゃ先の方の話しですが(やった人しか分かんないよι)、メインはリアちゃんだし夢小説だし、此処でこの話し入れとかないと後々色んな事が起こっちゃいますからね
本当はもっと書きたかったけど、長く書きすぎると後々の展開で使えなくなってくるので・・・ι
あ、でも、まだ両思いじゃないんですよ(苦笑)
それは・・・これからか?
まあお互い少し近づいた感じで!(笑)
では新章『満月の子編』、何話まで行くか分かんないけど(笑)これからお楽しみ下さい!
では!
ustice(正義)
下書き:2008.12.05
完成:2009.05.10