影法師にアンコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
合宿二日目。
今日は早速メニューに組み込まれた空中装填式スリーポイントシュートの練習をすることになった。メンバーは私と赤司とみどっちと高尾の四人。ただ、私は抗議したい。
「景虎さん!私は技を思いついただけで実践はしてないんですよ!まゆゆと赤司と実渕先輩が完成させた技であって、私は練習もしてなくてですね?!」
「ああ、あの黒子みてーな奴とサラサラ髪の選手な。去年のウィンターカップはオレも観てた。あの技を考案しただけでもおもしれーが、何より完成度が高かった。それは、教え方が的確だったからだろう。赤司、その辺どうだ?」
「ええ、オレもそこについては信用しています。深夜アニメを観て思いついた技とは到底思えませんが」
「何でバラすの?!何でバラしちゃうの?!秘密のままならかっこよかったじゃん?!ああほら!みんなウソだろこいつみたいな呆れた目になっちゃったじゃんかああああ!!!」
どうせ高尾も爆笑して…、とみどっちの隣にいる高尾を見て、驚く。全く笑ってなかったし、何か考え込んでいる顔をしていた。思えば、この技はみどっちと高尾の必殺技でもある。それが、深夜アニメが元でできた技だなんて聞けば、腹も立つかもしれない。慌てて私は高尾に駆け寄って、神妙な顔を覗き込む。パチリ、と目が合う。
「うおっ?!ビビったー!なになに、どしたの」
「いやあの、ひ、ひどい思い付き方だったから、高尾怒ってんのかと…」
「へ?いやいや!怒ってねーし!」
「ほんと?」
「ほんと。ほら、練習しようぜ!」
そう言われてしまうと、こっちもあまり無理に追及できないので内心溜息を吐いて諦めることにした。思えば、高尾とは爆笑されていることに怒りに行くという流れくらいしかまともに会話をしたことがない。それにみどっちともほとんど会話という会話をしたことがないじゃないか。
この練習は、私にとっても良い機会かもしれない。合宿二日目のミッション。みどっちと高尾と仲良くなる!よしこれだ!
思わずにやけた口元を赤司に見られた私は、養豚場の豚を見る目を向けられたのだった。
で、結局私が参加することになったわけで。でも仕方が無いのだ。さっきの話の続きをしようにも景虎さんは大丈夫大丈夫と言うだけで私をメンバーから外す気はないし、隣にいる相田さんもさつきちゃんもデータ的には問題ないとかなんとか言うし。
そしてシュートを決めるのは私とみどっち。パス担当は赤司と高尾だ。私にパスをくれるのはまあ、赤司なのだけど、これについては交代制とのこと。
「赤司ぃ…」
「情けない声を出すな。いつも通りにシュートをすればいいだけだ」
「いやそもそも!キセキの世代相手に私がタイミング見計らって飛ぶとかできると思う?!しかもあっち青峰いるし、野生の獣相手とかもうなんなのさあああ!!」
「だから、いつも通りにすればいい。それとも、オレのパスは信用できないか?」
「いやそこは信用してるけど」
「………」
「え、なんで黙るの?!ホントだよ?!」
何故か顔を背けた赤司の周りをうろうろすると、向かいにいた青峰がぼそりと呟く。
「マジかよ赤司…」
「何がだよ?」
「バ火神にはわかんねーよ」
「誰が馬鹿だってぇ?!」
「てめーだバーカ」
え、やだ…青火がきゃっきゃしてる…最高かよ…。
ところで何がマジか、なの?と聞いても青峰は赤司の顔を見てから青ざめて、なんでもねーよと話を切り上げた。
練習が始まると、さっきまでのふざけた雰囲気など一切なく全員が闘志を燃やしていた。飲まれそうになる意識を集中させる。そう、これは連携の練習だ。私はみどっちの代替品であり、みどっちの性能を意識して動くことに徹底する。
先に空中装填式スリーポイントシュートを決めたのは、みどっちと高尾だった。攻略法を見切っている赤司と当たれば止められると分かっているから、それを避けつつ上手く連携してみせた。少し焦った私は見事に表情に出ていたらしく、黄瀬君にぽんと背中を叩かれる。
「大丈夫っスよ!優姫ちゃんなら出来るって!」
「黄瀬君…相変わらずイケメン…」
「いや今その返しする?!じゃなくて、優姫ちゃんは赤司っちを信じてるように、赤司っちも優姫ちゃんのこと信じてるんだから、もっと堂々とプレイするっスよ」
ね、と言われて、つい赤司を見る。話が聞こえていたのかいないのか、赤司は王子様スマイルで頷いてきた。超良い笑顔。でも、何かホッとした。そうだ、私だってあの厳しい洛山の練習メニューについていったんだ。一緒に練習してきた赤司もいる。大丈夫。それにまゆゆも言ってたっけ。お前少しは自信持てよ、って。
練習再開後、パスが飛び交う中、赤司がボールを手にしたのを見てすぐに青峰と対峙した状態で空の手を構えて飛んだ。青峰が驚いたように目を見開いている。赤司のマークについていたかがみんも同じ顔だ。合図どころか、隙を見ることもしなかっただろう、と驚いたに違いない。けれど、野生を持つ青峰とかがみんを撒くためには、このタイミングしかないと思ったのだ。ふと、去年のことを思い出す。このシュートを練習していた時、休憩していた私に実渕先輩が言ったのだ。
『このシュートってね、お互いを信じてないとできない技だと思うの。だってね、相手がパスをくれることを信じてないと、空の手で構えて飛ぶなんてとてもじゃないけどできないわ』
空の手に、完璧なタイミングでボールが収まった。まあそもそも私の考えることなんて、赤司にはお見通しなんだろうな、なんて思いながら、シュートを放ってリングに落ちていくのを見ていた。
「やったあ!やったっスよ優姫ちゃん!青峰っちと火神っちを出し抜いたっス!」
「んだとこらあ!黄瀬ぇ!」
「もっかい!もっかいだ水瓶!」
わいわいと騒ぐ信号機トリオににやけつつも、私は赤司に駆け寄って手を上げる。私がやろうとしたことにまたも気付いた赤司は、溜息を吐きつつ手を上げてくれたので、思い切りハイタッチをすることができた。
「完璧!タイミングばっちり!すごい!私にもできた!!すごい!!」
「分かったから落ち着け。語彙力が著しく低下しているぞ」
「うおおお早くまゆゆに教えたいいいい!!あっそうだ赤司も一緒に報告しようよ!!今日は赤司と想いが通じ合った記念日って!」
「その報告をしたら黛さんが乗り込んでくるからやめろ」
「なんで?!…はっ、まゆあか…!!」
「違うから」
「ほぎゃあああ!!腕が曲がっちゃいけない方に曲がっちゃううううう!!」
「いつまではしゃいでんのよ水瓶さん!次始めるから位置につきなさい!」
「何で私だけ?!」
今日の練習が終わったのは、夜の七時だった。この時間以降は無理のない程度の自主練はしてもいいので、まあみんな休むわけもなく練習に励んでいた。私はどうしようか、と体育館の端っこで座ってスポドリを飲んでいたら、ふと影が差した。顔を上げると、そこにいたのはみどっち。
「おい、水瓶」
「うん?」
「お前はどうやってそのスリーを身につけた?」
「……練習……?」
「そうではない。練習メニューについて聞いているのだよ」
ああなるほど。練習メニューか。といっても、単純な話、ただひたすら遠くから投げ続けただけだ。それもこれも、兄に勝つため。あの兄を出し抜くには、ゴールから遠くないと無理だとただひたすらに遠くから投げ続けて、距離感を掴みながらボールの飛距離も上げていった。そうやって完成させたロングシュートなのだけど、そのまま伝えたらみどっちは怪訝な顔をするではないか。
「単純な練習かもだけどホントめちゃくちゃ頑張ったんだよ?!」
「いやそうじゃない。…女子バスケ部にいる自分を、想像したことはあるか」
「へ?」
「もし自分が何の問題もなく女子バスケ部に入部していたら、レギュラーになって試合に出たら、と、考えたことはないのか?」
あるかないかで言われたら、驚いたことに一度もなかった。だって、私は洛山男子バスケ部の部員なんだって、まゆゆ達が言ってくれたから。去年のウィンターカップの決勝戦、私をトレーナーとして呼ばせてくれて、あのコートに導いてくれた仲間がいたから。
だから私は、試合に出れなくても男子バスケ部の部員で良いのだ。
「全然!だって私は洛山男子バスケ部の水瓶優姫だから!」
「…そうか。お前は、その力に驕ることはなかったのだな。だからこそ、赤司も目が覚めたのか」
「なになに、何の話してんのー?」
みどっちがなにやら納得顔でぼそぼそ言うので聞き耳を立てようとしていたら、みどっちの後ろから高尾がひょこりと顔を出した。みどっちが驚いて一瞬びくっとなったのがとても萌えたので、今後高尾はどんどんみどっちを脅かしてやって欲しい。
「みどっちとスリーの練習について談義していたのだよ!」
「なるほどなのだよ!」
「水瓶!高尾!」
「みどっちが怒ったー!へい高尾パース!」
「へいへーい!そーら真ちゃん!こっからシュート決めれっかー?」
「ふん、馬鹿にするな」
高尾と二人で走り出し、高尾の持っていたボールを受け取り、みどっちにパスをする。みどっちは貰ったボールをドヤ顔でリングへと放った。しかしそれは、赤司が放ったスリーと見事重なり、リングの真上で二つのボールがぶつかり左右に飛んでいった。タンタン…とボールの転がる音が空しく響く。
「わあ、何かデジャブ」
思い起こされるのは、去年の夏合宿で赤司からの課題で青峰から逃げつつスリーを放ち、実渕先輩の投げたボールとぶつかってリングには入らなかった時のこと。こんな奇跡のタイミング二度とないと思っていた。これ、二度あることは三度あるっていうし、もう一回くらいありそうだな?
シンと静まりかえった体育館。最初に噴き出したのは、赤司だった。赤司がお腹を抱えて、俯いて笑いを一生懸命に堪えているのが見えた。
「…っ、…っ…くっ……!」
「赤司、笑いすぎだろ」
「いや、青峰、これは…っ…こんなこと二度もあるのかと思ったら、笑いが堪えきれない…っ…ふふっ…」
「レアなもの見たっス…赤司っちがこんなに笑ってるなんて…」
「僕も驚いてます…」
「赤ちんギャグとかお笑いとか全然笑わないもんねー」
その言葉に驚いた私はこそこそ、とみどっちの横に行く。
「赤司って、中学の時あんなに笑わなかったの?」
「ああ、オレもあそこまで笑う赤司は初めて見るのだよ。…そういえば、赤司がベンチで良くお腹を抱えて俯いているが、まさか…」
「えっと…多分それ爆笑してるとき…」
「…水瓶の悪影響、か…」
「みどっち酷いこと言ったね?!」
レアな赤司にみんなが夢中になっている中、ふと誰かが体育館を出て行くのが見えた。良く見れば、いつの間にか高尾の姿がなかった。
「高尾―?」
体育館を出た先にある階段で、高尾がボンヤリと空を見上げて座り込んでいた。後ろからその顔を覗き込むと、とくに驚いた様子もなく「んー」と気の抜けた返事をした。
「優姫ちゃんって、すげーなーって思ってただけ」
「私のこと?!いや、どの辺にすごさを感じてくれたのさ…あ、お笑い要素っていうのはもう間に合ってます…」
「ちげーって!あの赤司を変えるって、やっぱすげーって思うんだよ。オレも少し真ちゃんから中学の時の話聞いたけど、赤司が一番やべーって思ってた。けど、去年いざ対峙してみたら、聞いてた奴と違ってて…そんで、こうやって関わったらますますそう思ったんだよ」
高尾はそう言って、下を向いた。
「ああ、きっとオレにはできねーなー、って。真ちゃんが腹抱えて笑ったりするようには、ならねーだろうなって」
「…私は、高尾のこと羨ましいって思ってるよ」
「え?」
高尾と同じように空を見上げる。夜空に散らばる星々を眺めながら、思い浮かべるのは去年のウィンターカップの準決勝。
「さっきみどっちに女子バスケ部で試合に出る自分を想像したことはないかって聞かれてないって即答したけど、それが男子バスケ部だったら答えは変わってた。まゆゆ達と試合に出る想像なら、呆れるほどしたことがあるよ。でも無理だって分かってる。だから羨ましかった。自分達で考えた技を、コートの中でやれるのが、羨ましくて仕方なかった」
「……」
「だからさ、そんなに気にしなくてもいいと思うよ。あと赤司を変えたのは私だって言うけど、私だけじゃないと思う。まゆゆや実渕先輩、それに葉山先輩や根武谷先輩、樋口先輩や洛山のみんなが、赤司を安心させたんだと思うんだ。…あれ、これめちゃくちゃ洛山赤じゃん…赤司愛されじゃん…」
「ブフォッ!優姫ちゃん、最後ので台無し…っ!」
「しまった!!今良いこと言ってたのに!あ、それとさ、多分だけど」
しゃがみ込んで、高尾と目線を合わせて、内緒話をするように手で口元を隠しつつ小声で思ってたことを口にする。
「みどっち、多分高尾が面白いことしたらお腹抱えて笑うと思うよ」
ブフォッ、とまた高尾が噴き出して、むしろ高尾が笑いすぎてみどっちは笑うタイミングを逃してるだけなのでは…と思ったが、真相はまだまだわかりそうにない。
高尾が体育館に戻っていくのを見届けていたら、ふとポケットに入れていた携帯が震えた。見ればまゆゆから着信だ。素早く通話を押して携帯を耳に当てる。
「はい!」
『ワンコールで出るとは思わなかった』
「ふっふーん。まゆゆからの電話はレアだからね!すぐさま出られるように特訓してるのだ!」
『無駄な練習してんじゃねーよ。夏休みの課題のことも忘れんなよ』
「ぐほう!!じゃ、ジャバウォックを倒してから!ちゃんとするし!!」
くっく、とまゆゆが笑っている。そういえば、まゆゆも笑い上戸になってると指摘した時、どっかの誰かのせいだと言っていたっけ。それってもしかしてなくても、私のことだったんだろうか。
「ねえまゆゆ。私さ、誰かに影響与えられる人間だと思う?」
『何だ急に。何かあったのか?』
「赤司が大爆笑したんだけどね」
『もうその一文だけでめちゃくちゃおもしれーわ』
「わかるけども!…私が赤司を変えたって言われたんだよね。でも、私にそんなことできないし、むしろ私がへっぽこなせいで赤司も私に合わせてくれてるんじゃないかって思って…私は、自分のことだって変えられないのに」
『優姫』
「ひゃい?!」
愚痴のようになってしまった言葉を、まゆゆが遮る。いつになく格好いい声だったので思わず声が裏返ってしまった。けれどまゆゆは気にした様子もなく、そのまま溜息交じりに言った。
『お前は赤司を変えたよ。赤司だけじゃない、実渕達もだ。それからオレも』
「…そんなこと」
『あったんだよ。お前がいなかったら、赤司はずっと一人でバスケをしていたし、実渕達は赤司の駒になって仲間意識なんてきっとなくなっていた。オレもただの駒だっただろうし、和気あいあい出来る関係になんざ絶対なってないな』
だから、と言葉が続く。
『お前がいたから、オレは最後の試合で飛べたんだ。その思いを、間違いだなんて言わないでくれ』
「…う゛ん…」
『まあ難しく考える必要はないってことだ。…泣くなよ、優姫』
「う…はい…まゆゆ…好き…」
思わずそう言ってしまって、後悔をした。好きだなあ、と、思ったから口から出てしまったのだけど、何度も口にしているはずの言葉に私は心臓がバクバクと鳴り出した。
恥ずかしい、と思ったのだ。まゆゆに好きと伝えたことが恥ずかしくて、その後にまゆゆから否定の言葉を聞くことになるのが怖くなった。そんなこと、今までなかった、はず。
顔が熱い。心臓がうるさい。
けどまゆゆは、もう慣れたもので含み笑いで『はいはい』と言うだけで、私の様子には気付いていないようだった。電話で良かったとこれほど思ったことはない。
「あ、えっと!そういえば電話かけてくれたってことは何かあったんじゃないの?!」
『ああ、そうだった。明後日今吉達がお前達の練習を見に行くんだが、暇だしオレも行くから』
「うええええ?!なんでそういう大事なことは最初に言わないの?!」
『お前が話し振ってきたから言いそびれたんだよ』
そうでした!!
けど、まゆゆに会える。数日ぶりだけど、まゆゆに会える時間は貴重だから嬉しい。
「それじゃ、明後日は腕によりをかけてご飯作るから一緒に食べようね!!」
『お前また料理当番させられてんのか』
「そうなんだよー!いやでもね、むしろ私しかする人がいなかったというか…」
『女子二人いなかったか…いや待てよ、一人は赤司が遠い目をするほどのメシマズだったか。まさか誠凛の監督も…?』
「メシマズ×2ってキッチン爆破とか余裕だよね…」
『面白いから詳しく教えろ』
まゆゆにメシマズの破壊力について話をしていたら、体育館の中から高尾の爆笑と共に黄瀬君の「緑間っちが爆笑してるっスうううう?!」という悲鳴じみた叫び声が聞こえてきたのだった。
今日は早速メニューに組み込まれた空中装填式スリーポイントシュートの練習をすることになった。メンバーは私と赤司とみどっちと高尾の四人。ただ、私は抗議したい。
「景虎さん!私は技を思いついただけで実践はしてないんですよ!まゆゆと赤司と実渕先輩が完成させた技であって、私は練習もしてなくてですね?!」
「ああ、あの黒子みてーな奴とサラサラ髪の選手な。去年のウィンターカップはオレも観てた。あの技を考案しただけでもおもしれーが、何より完成度が高かった。それは、教え方が的確だったからだろう。赤司、その辺どうだ?」
「ええ、オレもそこについては信用しています。深夜アニメを観て思いついた技とは到底思えませんが」
「何でバラすの?!何でバラしちゃうの?!秘密のままならかっこよかったじゃん?!ああほら!みんなウソだろこいつみたいな呆れた目になっちゃったじゃんかああああ!!!」
どうせ高尾も爆笑して…、とみどっちの隣にいる高尾を見て、驚く。全く笑ってなかったし、何か考え込んでいる顔をしていた。思えば、この技はみどっちと高尾の必殺技でもある。それが、深夜アニメが元でできた技だなんて聞けば、腹も立つかもしれない。慌てて私は高尾に駆け寄って、神妙な顔を覗き込む。パチリ、と目が合う。
「うおっ?!ビビったー!なになに、どしたの」
「いやあの、ひ、ひどい思い付き方だったから、高尾怒ってんのかと…」
「へ?いやいや!怒ってねーし!」
「ほんと?」
「ほんと。ほら、練習しようぜ!」
そう言われてしまうと、こっちもあまり無理に追及できないので内心溜息を吐いて諦めることにした。思えば、高尾とは爆笑されていることに怒りに行くという流れくらいしかまともに会話をしたことがない。それにみどっちともほとんど会話という会話をしたことがないじゃないか。
この練習は、私にとっても良い機会かもしれない。合宿二日目のミッション。みどっちと高尾と仲良くなる!よしこれだ!
思わずにやけた口元を赤司に見られた私は、養豚場の豚を見る目を向けられたのだった。
で、結局私が参加することになったわけで。でも仕方が無いのだ。さっきの話の続きをしようにも景虎さんは大丈夫大丈夫と言うだけで私をメンバーから外す気はないし、隣にいる相田さんもさつきちゃんもデータ的には問題ないとかなんとか言うし。
そしてシュートを決めるのは私とみどっち。パス担当は赤司と高尾だ。私にパスをくれるのはまあ、赤司なのだけど、これについては交代制とのこと。
「赤司ぃ…」
「情けない声を出すな。いつも通りにシュートをすればいいだけだ」
「いやそもそも!キセキの世代相手に私がタイミング見計らって飛ぶとかできると思う?!しかもあっち青峰いるし、野生の獣相手とかもうなんなのさあああ!!」
「だから、いつも通りにすればいい。それとも、オレのパスは信用できないか?」
「いやそこは信用してるけど」
「………」
「え、なんで黙るの?!ホントだよ?!」
何故か顔を背けた赤司の周りをうろうろすると、向かいにいた青峰がぼそりと呟く。
「マジかよ赤司…」
「何がだよ?」
「バ火神にはわかんねーよ」
「誰が馬鹿だってぇ?!」
「てめーだバーカ」
え、やだ…青火がきゃっきゃしてる…最高かよ…。
ところで何がマジか、なの?と聞いても青峰は赤司の顔を見てから青ざめて、なんでもねーよと話を切り上げた。
練習が始まると、さっきまでのふざけた雰囲気など一切なく全員が闘志を燃やしていた。飲まれそうになる意識を集中させる。そう、これは連携の練習だ。私はみどっちの代替品であり、みどっちの性能を意識して動くことに徹底する。
先に空中装填式スリーポイントシュートを決めたのは、みどっちと高尾だった。攻略法を見切っている赤司と当たれば止められると分かっているから、それを避けつつ上手く連携してみせた。少し焦った私は見事に表情に出ていたらしく、黄瀬君にぽんと背中を叩かれる。
「大丈夫っスよ!優姫ちゃんなら出来るって!」
「黄瀬君…相変わらずイケメン…」
「いや今その返しする?!じゃなくて、優姫ちゃんは赤司っちを信じてるように、赤司っちも優姫ちゃんのこと信じてるんだから、もっと堂々とプレイするっスよ」
ね、と言われて、つい赤司を見る。話が聞こえていたのかいないのか、赤司は王子様スマイルで頷いてきた。超良い笑顔。でも、何かホッとした。そうだ、私だってあの厳しい洛山の練習メニューについていったんだ。一緒に練習してきた赤司もいる。大丈夫。それにまゆゆも言ってたっけ。お前少しは自信持てよ、って。
練習再開後、パスが飛び交う中、赤司がボールを手にしたのを見てすぐに青峰と対峙した状態で空の手を構えて飛んだ。青峰が驚いたように目を見開いている。赤司のマークについていたかがみんも同じ顔だ。合図どころか、隙を見ることもしなかっただろう、と驚いたに違いない。けれど、野生を持つ青峰とかがみんを撒くためには、このタイミングしかないと思ったのだ。ふと、去年のことを思い出す。このシュートを練習していた時、休憩していた私に実渕先輩が言ったのだ。
『このシュートってね、お互いを信じてないとできない技だと思うの。だってね、相手がパスをくれることを信じてないと、空の手で構えて飛ぶなんてとてもじゃないけどできないわ』
空の手に、完璧なタイミングでボールが収まった。まあそもそも私の考えることなんて、赤司にはお見通しなんだろうな、なんて思いながら、シュートを放ってリングに落ちていくのを見ていた。
「やったあ!やったっスよ優姫ちゃん!青峰っちと火神っちを出し抜いたっス!」
「んだとこらあ!黄瀬ぇ!」
「もっかい!もっかいだ水瓶!」
わいわいと騒ぐ信号機トリオににやけつつも、私は赤司に駆け寄って手を上げる。私がやろうとしたことにまたも気付いた赤司は、溜息を吐きつつ手を上げてくれたので、思い切りハイタッチをすることができた。
「完璧!タイミングばっちり!すごい!私にもできた!!すごい!!」
「分かったから落ち着け。語彙力が著しく低下しているぞ」
「うおおお早くまゆゆに教えたいいいい!!あっそうだ赤司も一緒に報告しようよ!!今日は赤司と想いが通じ合った記念日って!」
「その報告をしたら黛さんが乗り込んでくるからやめろ」
「なんで?!…はっ、まゆあか…!!」
「違うから」
「ほぎゃあああ!!腕が曲がっちゃいけない方に曲がっちゃううううう!!」
「いつまではしゃいでんのよ水瓶さん!次始めるから位置につきなさい!」
「何で私だけ?!」
今日の練習が終わったのは、夜の七時だった。この時間以降は無理のない程度の自主練はしてもいいので、まあみんな休むわけもなく練習に励んでいた。私はどうしようか、と体育館の端っこで座ってスポドリを飲んでいたら、ふと影が差した。顔を上げると、そこにいたのはみどっち。
「おい、水瓶」
「うん?」
「お前はどうやってそのスリーを身につけた?」
「……練習……?」
「そうではない。練習メニューについて聞いているのだよ」
ああなるほど。練習メニューか。といっても、単純な話、ただひたすら遠くから投げ続けただけだ。それもこれも、兄に勝つため。あの兄を出し抜くには、ゴールから遠くないと無理だとただひたすらに遠くから投げ続けて、距離感を掴みながらボールの飛距離も上げていった。そうやって完成させたロングシュートなのだけど、そのまま伝えたらみどっちは怪訝な顔をするではないか。
「単純な練習かもだけどホントめちゃくちゃ頑張ったんだよ?!」
「いやそうじゃない。…女子バスケ部にいる自分を、想像したことはあるか」
「へ?」
「もし自分が何の問題もなく女子バスケ部に入部していたら、レギュラーになって試合に出たら、と、考えたことはないのか?」
あるかないかで言われたら、驚いたことに一度もなかった。だって、私は洛山男子バスケ部の部員なんだって、まゆゆ達が言ってくれたから。去年のウィンターカップの決勝戦、私をトレーナーとして呼ばせてくれて、あのコートに導いてくれた仲間がいたから。
だから私は、試合に出れなくても男子バスケ部の部員で良いのだ。
「全然!だって私は洛山男子バスケ部の水瓶優姫だから!」
「…そうか。お前は、その力に驕ることはなかったのだな。だからこそ、赤司も目が覚めたのか」
「なになに、何の話してんのー?」
みどっちがなにやら納得顔でぼそぼそ言うので聞き耳を立てようとしていたら、みどっちの後ろから高尾がひょこりと顔を出した。みどっちが驚いて一瞬びくっとなったのがとても萌えたので、今後高尾はどんどんみどっちを脅かしてやって欲しい。
「みどっちとスリーの練習について談義していたのだよ!」
「なるほどなのだよ!」
「水瓶!高尾!」
「みどっちが怒ったー!へい高尾パース!」
「へいへーい!そーら真ちゃん!こっからシュート決めれっかー?」
「ふん、馬鹿にするな」
高尾と二人で走り出し、高尾の持っていたボールを受け取り、みどっちにパスをする。みどっちは貰ったボールをドヤ顔でリングへと放った。しかしそれは、赤司が放ったスリーと見事重なり、リングの真上で二つのボールがぶつかり左右に飛んでいった。タンタン…とボールの転がる音が空しく響く。
「わあ、何かデジャブ」
思い起こされるのは、去年の夏合宿で赤司からの課題で青峰から逃げつつスリーを放ち、実渕先輩の投げたボールとぶつかってリングには入らなかった時のこと。こんな奇跡のタイミング二度とないと思っていた。これ、二度あることは三度あるっていうし、もう一回くらいありそうだな?
シンと静まりかえった体育館。最初に噴き出したのは、赤司だった。赤司がお腹を抱えて、俯いて笑いを一生懸命に堪えているのが見えた。
「…っ、…っ…くっ……!」
「赤司、笑いすぎだろ」
「いや、青峰、これは…っ…こんなこと二度もあるのかと思ったら、笑いが堪えきれない…っ…ふふっ…」
「レアなもの見たっス…赤司っちがこんなに笑ってるなんて…」
「僕も驚いてます…」
「赤ちんギャグとかお笑いとか全然笑わないもんねー」
その言葉に驚いた私はこそこそ、とみどっちの横に行く。
「赤司って、中学の時あんなに笑わなかったの?」
「ああ、オレもあそこまで笑う赤司は初めて見るのだよ。…そういえば、赤司がベンチで良くお腹を抱えて俯いているが、まさか…」
「えっと…多分それ爆笑してるとき…」
「…水瓶の悪影響、か…」
「みどっち酷いこと言ったね?!」
レアな赤司にみんなが夢中になっている中、ふと誰かが体育館を出て行くのが見えた。良く見れば、いつの間にか高尾の姿がなかった。
「高尾―?」
体育館を出た先にある階段で、高尾がボンヤリと空を見上げて座り込んでいた。後ろからその顔を覗き込むと、とくに驚いた様子もなく「んー」と気の抜けた返事をした。
「優姫ちゃんって、すげーなーって思ってただけ」
「私のこと?!いや、どの辺にすごさを感じてくれたのさ…あ、お笑い要素っていうのはもう間に合ってます…」
「ちげーって!あの赤司を変えるって、やっぱすげーって思うんだよ。オレも少し真ちゃんから中学の時の話聞いたけど、赤司が一番やべーって思ってた。けど、去年いざ対峙してみたら、聞いてた奴と違ってて…そんで、こうやって関わったらますますそう思ったんだよ」
高尾はそう言って、下を向いた。
「ああ、きっとオレにはできねーなー、って。真ちゃんが腹抱えて笑ったりするようには、ならねーだろうなって」
「…私は、高尾のこと羨ましいって思ってるよ」
「え?」
高尾と同じように空を見上げる。夜空に散らばる星々を眺めながら、思い浮かべるのは去年のウィンターカップの準決勝。
「さっきみどっちに女子バスケ部で試合に出る自分を想像したことはないかって聞かれてないって即答したけど、それが男子バスケ部だったら答えは変わってた。まゆゆ達と試合に出る想像なら、呆れるほどしたことがあるよ。でも無理だって分かってる。だから羨ましかった。自分達で考えた技を、コートの中でやれるのが、羨ましくて仕方なかった」
「……」
「だからさ、そんなに気にしなくてもいいと思うよ。あと赤司を変えたのは私だって言うけど、私だけじゃないと思う。まゆゆや実渕先輩、それに葉山先輩や根武谷先輩、樋口先輩や洛山のみんなが、赤司を安心させたんだと思うんだ。…あれ、これめちゃくちゃ洛山赤じゃん…赤司愛されじゃん…」
「ブフォッ!優姫ちゃん、最後ので台無し…っ!」
「しまった!!今良いこと言ってたのに!あ、それとさ、多分だけど」
しゃがみ込んで、高尾と目線を合わせて、内緒話をするように手で口元を隠しつつ小声で思ってたことを口にする。
「みどっち、多分高尾が面白いことしたらお腹抱えて笑うと思うよ」
ブフォッ、とまた高尾が噴き出して、むしろ高尾が笑いすぎてみどっちは笑うタイミングを逃してるだけなのでは…と思ったが、真相はまだまだわかりそうにない。
高尾が体育館に戻っていくのを見届けていたら、ふとポケットに入れていた携帯が震えた。見ればまゆゆから着信だ。素早く通話を押して携帯を耳に当てる。
「はい!」
『ワンコールで出るとは思わなかった』
「ふっふーん。まゆゆからの電話はレアだからね!すぐさま出られるように特訓してるのだ!」
『無駄な練習してんじゃねーよ。夏休みの課題のことも忘れんなよ』
「ぐほう!!じゃ、ジャバウォックを倒してから!ちゃんとするし!!」
くっく、とまゆゆが笑っている。そういえば、まゆゆも笑い上戸になってると指摘した時、どっかの誰かのせいだと言っていたっけ。それってもしかしてなくても、私のことだったんだろうか。
「ねえまゆゆ。私さ、誰かに影響与えられる人間だと思う?」
『何だ急に。何かあったのか?』
「赤司が大爆笑したんだけどね」
『もうその一文だけでめちゃくちゃおもしれーわ』
「わかるけども!…私が赤司を変えたって言われたんだよね。でも、私にそんなことできないし、むしろ私がへっぽこなせいで赤司も私に合わせてくれてるんじゃないかって思って…私は、自分のことだって変えられないのに」
『優姫』
「ひゃい?!」
愚痴のようになってしまった言葉を、まゆゆが遮る。いつになく格好いい声だったので思わず声が裏返ってしまった。けれどまゆゆは気にした様子もなく、そのまま溜息交じりに言った。
『お前は赤司を変えたよ。赤司だけじゃない、実渕達もだ。それからオレも』
「…そんなこと」
『あったんだよ。お前がいなかったら、赤司はずっと一人でバスケをしていたし、実渕達は赤司の駒になって仲間意識なんてきっとなくなっていた。オレもただの駒だっただろうし、和気あいあい出来る関係になんざ絶対なってないな』
だから、と言葉が続く。
『お前がいたから、オレは最後の試合で飛べたんだ。その思いを、間違いだなんて言わないでくれ』
「…う゛ん…」
『まあ難しく考える必要はないってことだ。…泣くなよ、優姫』
「う…はい…まゆゆ…好き…」
思わずそう言ってしまって、後悔をした。好きだなあ、と、思ったから口から出てしまったのだけど、何度も口にしているはずの言葉に私は心臓がバクバクと鳴り出した。
恥ずかしい、と思ったのだ。まゆゆに好きと伝えたことが恥ずかしくて、その後にまゆゆから否定の言葉を聞くことになるのが怖くなった。そんなこと、今までなかった、はず。
顔が熱い。心臓がうるさい。
けどまゆゆは、もう慣れたもので含み笑いで『はいはい』と言うだけで、私の様子には気付いていないようだった。電話で良かったとこれほど思ったことはない。
「あ、えっと!そういえば電話かけてくれたってことは何かあったんじゃないの?!」
『ああ、そうだった。明後日今吉達がお前達の練習を見に行くんだが、暇だしオレも行くから』
「うええええ?!なんでそういう大事なことは最初に言わないの?!」
『お前が話し振ってきたから言いそびれたんだよ』
そうでした!!
けど、まゆゆに会える。数日ぶりだけど、まゆゆに会える時間は貴重だから嬉しい。
「それじゃ、明後日は腕によりをかけてご飯作るから一緒に食べようね!!」
『お前また料理当番させられてんのか』
「そうなんだよー!いやでもね、むしろ私しかする人がいなかったというか…」
『女子二人いなかったか…いや待てよ、一人は赤司が遠い目をするほどのメシマズだったか。まさか誠凛の監督も…?』
「メシマズ×2ってキッチン爆破とか余裕だよね…」
『面白いから詳しく教えろ』
まゆゆにメシマズの破壊力について話をしていたら、体育館の中から高尾の爆笑と共に黄瀬君の「緑間っちが爆笑してるっスうううう?!」という悲鳴じみた叫び声が聞こえてきたのだった。