影法師にアンコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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「やっばい、また新作スイーツ出てる!このロールケーキ買おっと」
「オレまいう棒~」
「何味?」
「もんじゃ焼き」
ありがとうございましたー、と店員の声を背に、私達は買い物を済ませコンビニを出た。紫原君はとても大量にお菓子を購入して満足げだ。お菓子が好きだと聞いてはいたが、まさかこの量を一人で食べきるのだろうか。でもこれだけ大きな身体をしているし、意外と問題なくお腹の中に入れてしまうのかもしれない。
練習用体育館の近くに借りている合宿所へ向かう帰り道。そういえば、どうして私を連れてきたのか聞いていなかったと思い出して紫原君を見上げたら、一瞥された。それから、少しだけ口をもごりとさせて、小さな声で「あのさ」と切り出される。
「赤ちんに、謝りたいんだよね」
「へ?赤司に何かしたの?」
「…した。中学の時、赤ちんに、酷いこと言った」
は、と、意味を理解した。詳しいやり取りは聞かなかったけど、去年赤司が話してくれた中学の頃の話のこと。
段々と強くなっていくみんなをまとめるのが難しくなってきた時、紫原君が赤司に反旗を翻し、赤司はそれを咎めるために一対一の勝負をすることになった。けど、すでに強くなりつつあった紫原君に追い詰められ、そこで出てきたのがもう一人の赤司。私が高校で出会った赤司の方だ。
「オレ、あの時他の奴なんかに負けねーってすげー自信あって。だから、峰ちんが練習出なくてもいいって言われたの聞いて、特別扱いされてる感じしてさ。オレだって強いのに何で、って思っちゃったんだよね」
「うん」
「だから、出なくていいならオレも出たくないって。赤ちんの言うこと聞いてたのは、赤ちんには敵わないって思ってたから、けど、今なら赤ちんに勝てるのに…って…。弱い人の言うこと聞きたくないって、赤ちんに言っちゃったんだ」
その時、赤司はどんな思いでそれを聞いたのだろう。急遽任された主将の立場、変わっていくメンバー、家での英才教育。そんな、私には到底想像もできない激務の中で、仲間に、友達にそう言われた時の赤司のことを考えると、私は少し胸が痛くなった。
「もう一人の赤ちんが出てきたのって、オレが酷いこと言ったから…」
「多分だけど、紫原君が言わなくたって、あの赤司は出てきたと思う」
叱られた子供のように俯いていた紫原君が、顔を上げる。といっても私を見下ろす高さだけれど。
「詳しい状況とか知らないけど、もう一人の赤司は今の赤司の中にいたと思うから、赤司のストレスがマッハになったら出てきてたと思うんだよねー。赤司家の教育厳しすぎるみたいだし、ストレスもやばいことになってただろうし」
「…でも」
「そう、でも!だからって赤司に酷いこと言うのはダメだよね!けどさ、多分もう赤司は怒ってないと思うけどさ、普通にあの時はごめんねって言えばいいと思うよ?」
あれ、なんか段々赤司がゲシュタルト崩壊してきた。赤司が赤司で、赤司である?
うーんと別方向に悩んでいたら、紫原君が私の頭をぐわしっと掴んできた。
「ぐおう?!」
「あんた、何か生意気だよねー」
「相談に乗ってあげたのに?!アイアンクローやめて?!もしやこれ赤司に教えてないよね?!」
「教えてねーし。……赤ちん、許してくれると思う?」
「ていうか、そもそも怒ってないって!去年大量のお菓子送ってたでしょ?!」
「あー…うん、貰った。今年はないの?」
「うーんアレ景品だしなー。そもそも今年の学祭はまだ何するか決めてないんだよねー。赤司と同じクラスだから、今年も赤司に王子様衣装を着せてやるぜ!」
「去年そんな格好してたんだ赤ちんー。あとで写真見せてよ、優姫」
「いいよー!……え、今私の名前」
私の頭から手を放して、紫原君はそっぽを向く。
「別に、優姫って呼んでもいいでしょ」
拗ねたようにそう言う紫原君に、私は一瞬大きなショタ…と呟きかけた。危ない危ない。これも紫原君が急に可愛いこと言うから。
少し距離が縮まった気がして、なんだか嬉しくなってくる。うへへ、と笑ったら、笑い方気持ち悪い、と嫌そうな顔で言われてしまった。解せぬ。
「じゃ、私も敦って呼ぶ!いいよね?答えは聞いてなーい!!」
「はー?良いって言ってないし!」
「あっはっはー!呼んだもの勝ちなのだよ!」
紫原君、もとい敦は逃げる私の後を追いかけてくる。足音が大きくて振り返ることすら出来ず全力で逃げていた私は、敦の安堵した笑顔を見ることはできなかったのだった。
「ってげえええ!!なんか全員玄関にいるし!!」
「げー。ほんとだー」
そして他愛のない会話をしながら合宿所まで戻ってくると、そこには全員が各々好きな体勢で待ち構えていた。しかも赤司のオーラが怖い。隣にいる黄瀬君が震えるレベルのオーラ出てますけど。あ、目が合ってしまった。
「水瓶」
「ぎゃーーー!!いや待って私が連れ出したわけじゃなくてむしろ私は連行されて、って聞いてくれないぎゃーーーー!!」
問答無用で赤司に羽交い締めにされ、そのまま流れるように腕を掴まれ関節技を受け悲鳴を上げる。それをみんなはどんまいと言わんばかりの眼差しで見ているだけだが、爆笑している高尾は後でハイキックしようと思う。
「赤ちん」
「なんだい紫原。もう少しで落とせるから少し待って」
「あの時、酷いこと言ってごめんね」
「!」
赤司の腕から力が抜け、その隙を狙って生還を果たす。赤司は、呆然と敦を見上げていた。
「ずっと、謝りたかったんだ」
「…そうか。いや、オレこそあの時、お前達に何もしてやれなかった」
「それは違うのだよ。オレ達はあの時、お前の重責を知らなかった。知ろうともしなかった。オレも、お前に全てを押しつけていた。すまなかった」
「え、いや、緑間」
「オレもっス!オレも酷いこと言って、酷いことして…ごめんなさい!」
「黄瀬まで」
「あー…なんだ、オレも、まあ、悪かった」
「僕もすみませんでした、赤司君」
「青峰、黒子」
「私も何もできなくて、ごめんなさい、赤司君っ!」
「桃井…」
さつきちゃんが赤司に頭を下げて謝ると、青峰がかしこまりすぎだろ、っとさつきちゃんの頭をぽんぽん叩いて顔を上げさせた。帝中バスケ部みんなで謝ると、赤司はきょとんと惚けた顔をして、それから困ったような笑みを浮かべた。そこに不快感とかはなくて、ただ、きちんと仲直りができたことを喜んでいるような、そんな笑顔。
その様子を遠巻きで見ていて、思わずうるっとしていたら隣にいた高尾がまた私を見て笑っていた。
「息子の成長見守るお母さんかよ!」
「いやだってさ!友達がみんなと仲直りしてるの見たら、泣いちゃうでしょ!うっうっ、敦も立派になって…」
「いやそっち?!赤司じゃねーのかよ!ていうか、え?紫原のこと、名前で呼んでんの?」
「そうー!さっきねー、好感度上げてねー!」
「好感度システム?!ブフォッ、優姫ちゃんおもれーっ!」
「ていうか度々私見て爆笑してるの許してないんだけど?!」
「(本当にあの先生の妹なのか…?似てない…いつ見ても似てない…)」
未だお腹を抱えて笑う高尾に威嚇していたら、隣にいた若松さんは遠い目をしていた。何か失礼なことを考えているような気がするのだけども?
そういえば、かがみんが静かだ。隣にいるかがみんを見たら、わいわい騒いでいる赤司達をジッと見つめていた。どこか、さみしそうに。
「かがみん?」
「!な、何だよ」
「何か…みんなのこと見てる目がさみしそう…はっ!まさか!」
「っ!」
「あの中に入りたいんだね?!キセキ火ってこと?!それともあの中に本命が?!青峰?!青峰なの?!それとも黒子っち?!」
「はあああ?!なんだよ本命って?!」
「火神君を困らせているのは誰ですか」
「ひえっ?!背後から魔王オーラするんだけど、声が黒子っちなんだけど?!」
「また迷惑をかけているんだね、水瓶」
「ひいっ!本物の魔王の声もした!!助けてえええ敦助けてえええ」
「まいう棒うまー」
「裏切り者おおおお!!」
黒子っちも魔王の気質がある!←new!
「一日目、なんとか無事終わったわね」
「私は無事じゃないです!」
「優姫ちゃんはほら、そういうポジションだから…」
「お笑い担当もうやだー!」
ボフンっとベッドに飛び込む。フカフカした布団に疲れが一気に取れるようだ。
合宿所、といっても女子は美容に悪いから、と景虎さんが用意してくれた近くのホテルの一室を三人が使うことになった。まあ、おそらくは親バカの景虎さんが相田さんを合宿所で男と同じ屋根の下に泊めるのを許さなかったからだとは思うのだけど。
みんな順番にシャワーを浴びて、寝る前に明日の予定の確認をする。この辺は私は主に聞いているだけだった。
「そういえば、水瓶さんは洛山での練習はいつも参加してるの?」
「はいッス!一応トレーナーって役職なんですけど、まあ普通に部活参加してるだけっぽいです」
「そう…去年、決勝で洛山が見せた空中装填式スリーポイントシュート、あれって貴女が考えたんでしょう?」
「はいそうで…ちょっと待って、もしやその名前浸透してたりします?私はシュッとしてバシュッと3Pって呼んでるんですけど」
「となると、ジャバウォック戦でも使える可能性はあるってことね。赤司君と緑間君、高尾君、水瓶さんで空中装填式スリーポイントシュートの練習メニューも組みましょうか」
「ダメかー!この名前ダメかー!まゆゆにもダメだしされたしなー!」
「まゆゆ…そうだ!黛さんとはその後どうなの、優姫ちゃん!」
「ほわっ?!」
私の横のベッドに寝転んださつきちゃんは、わくわくと声を弾ませた。思わず驚くも、いや、変な意味はない、と思い直し「とくに何も」と言いかけたところで、相田さんがにやりと意地悪な顔をした。
「水瓶さんが倒れた時、彼すっごく必死だったわよ?」
「ほぎゃっ?!え、あ、ほ、ほんとですか」
「ええ、水瓶さんのこと抱えて、怪我した所を気にして、救護班が来た後ジャバウォックのことにらみ付けて…愛されてるわねー」
「ほわ、わわ…まゆゆ、すごく優しいから…うう…」
顔が熱くて、恥ずかしくて枕に顔を埋めたら相田さんとさつきちゃんはますます黄色い声を上げて笑っている。反撃するしかない、と私は顔を上げて、ふっふっふ、と当社比で悪い声を出す。
「そういうさつきちゃんは、黒子っちとどうなのさ!付き合ってるの?!」
「えええっ?!いやそのっ、テツくんとはまだそんなんじゃっ!!」
「それと相田さん!バスケ部の中に好きな人とかいないんですか?!」
「いいいいいないわよっ!!なに、二人して期待する目で見ないでよ?!いないったらいないの!!」
その後しばらく相田さんの思い人について問いただしながらわいわい騒いだ後、明日の練習のことを考えて寝ることにした。明日も頑張ろう。おやすみまゆゆ、とまゆゆに模したひよこの編みぐるみを枕元に置いて、私は夢の世界へと旅立つのだった。
「紫原、寝る前に少しいいかな」
合宿所では二人~三人で部屋に泊まることになって、オレは赤ちんとが良いって言って一緒にしてもらった。赤ちんも同じ学校の人が優姫しかいなかったし、中学の時仲良かったみどちんは同じ学校の奴と一緒だったから、ちょうどよかったみたいだ。ちなみに黒ちんは火神と主将の人、黄瀬ちんと峰ちんは若松って奴と三人部屋だ。
シャワーも浴びて、お菓子を食べていたオレも歯を磨いたから寝ようかと布団に潜っていたら、赤ちんが隣から声をかけてきた。いいよー、と返事をしたら、なんだか少し言いよどんでいるようだった。赤ちんらしくない。ということは、多分優姫絡みだ。
「どしたの?優姫の撃退方法でも編み出した?」
「いつから水瓶の名前を呼ぶようになったんだ?」
あ、そこかー。
赤ちんにとって、優姫は特別だ。いや、もう一人の赤ちんにとって、かもしれない。
去年まいう棒を送ってくれた赤ちんのことを思い出した。あの時怖かった赤ちんは、楽しそうに笑えるようになっていた。困ったように笑えるようになっていた。お腹を抱えて笑えるようになっていた。それは、優姫のおかげだと思った。
だから、赤ちんを変えた優姫なら、どうやって謝ったらいいか最善の方法を教えてくれると思って相談した。けど、帰ってきた言葉は、普通にごめんって言えばいいよという、普通の回答だった。
それで、良かったんだ。特別な装飾なんていらなくて、普通に、友達として接することができていたら、あの時オレは赤ちんに酷いことも言わなかったし、ずっと楽しかったのかもしれない。今更どうすることもできない、かもしれないという話。
「名前なんて、どうでもいいでしょー?ていうか、赤ちんも名前で呼んでなかった?」
「…それは、もう一人のオレが呼んでいたのであって、オレじゃない」
「それ、関係ある?」
「え?」
「赤ちんは赤ちんでしょ?今の赤ちんが名前で呼びたいなら、呼んでもいいんじゃない?」
そう言ったら、赤ちんは「そうかな」と困ったように笑ったから、オレも笑って「そうだよ」って言ってあげた。
「オレまいう棒~」
「何味?」
「もんじゃ焼き」
ありがとうございましたー、と店員の声を背に、私達は買い物を済ませコンビニを出た。紫原君はとても大量にお菓子を購入して満足げだ。お菓子が好きだと聞いてはいたが、まさかこの量を一人で食べきるのだろうか。でもこれだけ大きな身体をしているし、意外と問題なくお腹の中に入れてしまうのかもしれない。
練習用体育館の近くに借りている合宿所へ向かう帰り道。そういえば、どうして私を連れてきたのか聞いていなかったと思い出して紫原君を見上げたら、一瞥された。それから、少しだけ口をもごりとさせて、小さな声で「あのさ」と切り出される。
「赤ちんに、謝りたいんだよね」
「へ?赤司に何かしたの?」
「…した。中学の時、赤ちんに、酷いこと言った」
は、と、意味を理解した。詳しいやり取りは聞かなかったけど、去年赤司が話してくれた中学の頃の話のこと。
段々と強くなっていくみんなをまとめるのが難しくなってきた時、紫原君が赤司に反旗を翻し、赤司はそれを咎めるために一対一の勝負をすることになった。けど、すでに強くなりつつあった紫原君に追い詰められ、そこで出てきたのがもう一人の赤司。私が高校で出会った赤司の方だ。
「オレ、あの時他の奴なんかに負けねーってすげー自信あって。だから、峰ちんが練習出なくてもいいって言われたの聞いて、特別扱いされてる感じしてさ。オレだって強いのに何で、って思っちゃったんだよね」
「うん」
「だから、出なくていいならオレも出たくないって。赤ちんの言うこと聞いてたのは、赤ちんには敵わないって思ってたから、けど、今なら赤ちんに勝てるのに…って…。弱い人の言うこと聞きたくないって、赤ちんに言っちゃったんだ」
その時、赤司はどんな思いでそれを聞いたのだろう。急遽任された主将の立場、変わっていくメンバー、家での英才教育。そんな、私には到底想像もできない激務の中で、仲間に、友達にそう言われた時の赤司のことを考えると、私は少し胸が痛くなった。
「もう一人の赤ちんが出てきたのって、オレが酷いこと言ったから…」
「多分だけど、紫原君が言わなくたって、あの赤司は出てきたと思う」
叱られた子供のように俯いていた紫原君が、顔を上げる。といっても私を見下ろす高さだけれど。
「詳しい状況とか知らないけど、もう一人の赤司は今の赤司の中にいたと思うから、赤司のストレスがマッハになったら出てきてたと思うんだよねー。赤司家の教育厳しすぎるみたいだし、ストレスもやばいことになってただろうし」
「…でも」
「そう、でも!だからって赤司に酷いこと言うのはダメだよね!けどさ、多分もう赤司は怒ってないと思うけどさ、普通にあの時はごめんねって言えばいいと思うよ?」
あれ、なんか段々赤司がゲシュタルト崩壊してきた。赤司が赤司で、赤司である?
うーんと別方向に悩んでいたら、紫原君が私の頭をぐわしっと掴んできた。
「ぐおう?!」
「あんた、何か生意気だよねー」
「相談に乗ってあげたのに?!アイアンクローやめて?!もしやこれ赤司に教えてないよね?!」
「教えてねーし。……赤ちん、許してくれると思う?」
「ていうか、そもそも怒ってないって!去年大量のお菓子送ってたでしょ?!」
「あー…うん、貰った。今年はないの?」
「うーんアレ景品だしなー。そもそも今年の学祭はまだ何するか決めてないんだよねー。赤司と同じクラスだから、今年も赤司に王子様衣装を着せてやるぜ!」
「去年そんな格好してたんだ赤ちんー。あとで写真見せてよ、優姫」
「いいよー!……え、今私の名前」
私の頭から手を放して、紫原君はそっぽを向く。
「別に、優姫って呼んでもいいでしょ」
拗ねたようにそう言う紫原君に、私は一瞬大きなショタ…と呟きかけた。危ない危ない。これも紫原君が急に可愛いこと言うから。
少し距離が縮まった気がして、なんだか嬉しくなってくる。うへへ、と笑ったら、笑い方気持ち悪い、と嫌そうな顔で言われてしまった。解せぬ。
「じゃ、私も敦って呼ぶ!いいよね?答えは聞いてなーい!!」
「はー?良いって言ってないし!」
「あっはっはー!呼んだもの勝ちなのだよ!」
紫原君、もとい敦は逃げる私の後を追いかけてくる。足音が大きくて振り返ることすら出来ず全力で逃げていた私は、敦の安堵した笑顔を見ることはできなかったのだった。
「ってげえええ!!なんか全員玄関にいるし!!」
「げー。ほんとだー」
そして他愛のない会話をしながら合宿所まで戻ってくると、そこには全員が各々好きな体勢で待ち構えていた。しかも赤司のオーラが怖い。隣にいる黄瀬君が震えるレベルのオーラ出てますけど。あ、目が合ってしまった。
「水瓶」
「ぎゃーーー!!いや待って私が連れ出したわけじゃなくてむしろ私は連行されて、って聞いてくれないぎゃーーーー!!」
問答無用で赤司に羽交い締めにされ、そのまま流れるように腕を掴まれ関節技を受け悲鳴を上げる。それをみんなはどんまいと言わんばかりの眼差しで見ているだけだが、爆笑している高尾は後でハイキックしようと思う。
「赤ちん」
「なんだい紫原。もう少しで落とせるから少し待って」
「あの時、酷いこと言ってごめんね」
「!」
赤司の腕から力が抜け、その隙を狙って生還を果たす。赤司は、呆然と敦を見上げていた。
「ずっと、謝りたかったんだ」
「…そうか。いや、オレこそあの時、お前達に何もしてやれなかった」
「それは違うのだよ。オレ達はあの時、お前の重責を知らなかった。知ろうともしなかった。オレも、お前に全てを押しつけていた。すまなかった」
「え、いや、緑間」
「オレもっス!オレも酷いこと言って、酷いことして…ごめんなさい!」
「黄瀬まで」
「あー…なんだ、オレも、まあ、悪かった」
「僕もすみませんでした、赤司君」
「青峰、黒子」
「私も何もできなくて、ごめんなさい、赤司君っ!」
「桃井…」
さつきちゃんが赤司に頭を下げて謝ると、青峰がかしこまりすぎだろ、っとさつきちゃんの頭をぽんぽん叩いて顔を上げさせた。帝中バスケ部みんなで謝ると、赤司はきょとんと惚けた顔をして、それから困ったような笑みを浮かべた。そこに不快感とかはなくて、ただ、きちんと仲直りができたことを喜んでいるような、そんな笑顔。
その様子を遠巻きで見ていて、思わずうるっとしていたら隣にいた高尾がまた私を見て笑っていた。
「息子の成長見守るお母さんかよ!」
「いやだってさ!友達がみんなと仲直りしてるの見たら、泣いちゃうでしょ!うっうっ、敦も立派になって…」
「いやそっち?!赤司じゃねーのかよ!ていうか、え?紫原のこと、名前で呼んでんの?」
「そうー!さっきねー、好感度上げてねー!」
「好感度システム?!ブフォッ、優姫ちゃんおもれーっ!」
「ていうか度々私見て爆笑してるの許してないんだけど?!」
「(本当にあの先生の妹なのか…?似てない…いつ見ても似てない…)」
未だお腹を抱えて笑う高尾に威嚇していたら、隣にいた若松さんは遠い目をしていた。何か失礼なことを考えているような気がするのだけども?
そういえば、かがみんが静かだ。隣にいるかがみんを見たら、わいわい騒いでいる赤司達をジッと見つめていた。どこか、さみしそうに。
「かがみん?」
「!な、何だよ」
「何か…みんなのこと見てる目がさみしそう…はっ!まさか!」
「っ!」
「あの中に入りたいんだね?!キセキ火ってこと?!それともあの中に本命が?!青峰?!青峰なの?!それとも黒子っち?!」
「はあああ?!なんだよ本命って?!」
「火神君を困らせているのは誰ですか」
「ひえっ?!背後から魔王オーラするんだけど、声が黒子っちなんだけど?!」
「また迷惑をかけているんだね、水瓶」
「ひいっ!本物の魔王の声もした!!助けてえええ敦助けてえええ」
「まいう棒うまー」
「裏切り者おおおお!!」
黒子っちも魔王の気質がある!←new!
「一日目、なんとか無事終わったわね」
「私は無事じゃないです!」
「優姫ちゃんはほら、そういうポジションだから…」
「お笑い担当もうやだー!」
ボフンっとベッドに飛び込む。フカフカした布団に疲れが一気に取れるようだ。
合宿所、といっても女子は美容に悪いから、と景虎さんが用意してくれた近くのホテルの一室を三人が使うことになった。まあ、おそらくは親バカの景虎さんが相田さんを合宿所で男と同じ屋根の下に泊めるのを許さなかったからだとは思うのだけど。
みんな順番にシャワーを浴びて、寝る前に明日の予定の確認をする。この辺は私は主に聞いているだけだった。
「そういえば、水瓶さんは洛山での練習はいつも参加してるの?」
「はいッス!一応トレーナーって役職なんですけど、まあ普通に部活参加してるだけっぽいです」
「そう…去年、決勝で洛山が見せた空中装填式スリーポイントシュート、あれって貴女が考えたんでしょう?」
「はいそうで…ちょっと待って、もしやその名前浸透してたりします?私はシュッとしてバシュッと3Pって呼んでるんですけど」
「となると、ジャバウォック戦でも使える可能性はあるってことね。赤司君と緑間君、高尾君、水瓶さんで空中装填式スリーポイントシュートの練習メニューも組みましょうか」
「ダメかー!この名前ダメかー!まゆゆにもダメだしされたしなー!」
「まゆゆ…そうだ!黛さんとはその後どうなの、優姫ちゃん!」
「ほわっ?!」
私の横のベッドに寝転んださつきちゃんは、わくわくと声を弾ませた。思わず驚くも、いや、変な意味はない、と思い直し「とくに何も」と言いかけたところで、相田さんがにやりと意地悪な顔をした。
「水瓶さんが倒れた時、彼すっごく必死だったわよ?」
「ほぎゃっ?!え、あ、ほ、ほんとですか」
「ええ、水瓶さんのこと抱えて、怪我した所を気にして、救護班が来た後ジャバウォックのことにらみ付けて…愛されてるわねー」
「ほわ、わわ…まゆゆ、すごく優しいから…うう…」
顔が熱くて、恥ずかしくて枕に顔を埋めたら相田さんとさつきちゃんはますます黄色い声を上げて笑っている。反撃するしかない、と私は顔を上げて、ふっふっふ、と当社比で悪い声を出す。
「そういうさつきちゃんは、黒子っちとどうなのさ!付き合ってるの?!」
「えええっ?!いやそのっ、テツくんとはまだそんなんじゃっ!!」
「それと相田さん!バスケ部の中に好きな人とかいないんですか?!」
「いいいいいないわよっ!!なに、二人して期待する目で見ないでよ?!いないったらいないの!!」
その後しばらく相田さんの思い人について問いただしながらわいわい騒いだ後、明日の練習のことを考えて寝ることにした。明日も頑張ろう。おやすみまゆゆ、とまゆゆに模したひよこの編みぐるみを枕元に置いて、私は夢の世界へと旅立つのだった。
「紫原、寝る前に少しいいかな」
合宿所では二人~三人で部屋に泊まることになって、オレは赤ちんとが良いって言って一緒にしてもらった。赤ちんも同じ学校の人が優姫しかいなかったし、中学の時仲良かったみどちんは同じ学校の奴と一緒だったから、ちょうどよかったみたいだ。ちなみに黒ちんは火神と主将の人、黄瀬ちんと峰ちんは若松って奴と三人部屋だ。
シャワーも浴びて、お菓子を食べていたオレも歯を磨いたから寝ようかと布団に潜っていたら、赤ちんが隣から声をかけてきた。いいよー、と返事をしたら、なんだか少し言いよどんでいるようだった。赤ちんらしくない。ということは、多分優姫絡みだ。
「どしたの?優姫の撃退方法でも編み出した?」
「いつから水瓶の名前を呼ぶようになったんだ?」
あ、そこかー。
赤ちんにとって、優姫は特別だ。いや、もう一人の赤ちんにとって、かもしれない。
去年まいう棒を送ってくれた赤ちんのことを思い出した。あの時怖かった赤ちんは、楽しそうに笑えるようになっていた。困ったように笑えるようになっていた。お腹を抱えて笑えるようになっていた。それは、優姫のおかげだと思った。
だから、赤ちんを変えた優姫なら、どうやって謝ったらいいか最善の方法を教えてくれると思って相談した。けど、帰ってきた言葉は、普通にごめんって言えばいいよという、普通の回答だった。
それで、良かったんだ。特別な装飾なんていらなくて、普通に、友達として接することができていたら、あの時オレは赤ちんに酷いことも言わなかったし、ずっと楽しかったのかもしれない。今更どうすることもできない、かもしれないという話。
「名前なんて、どうでもいいでしょー?ていうか、赤ちんも名前で呼んでなかった?」
「…それは、もう一人のオレが呼んでいたのであって、オレじゃない」
「それ、関係ある?」
「え?」
「赤ちんは赤ちんでしょ?今の赤ちんが名前で呼びたいなら、呼んでもいいんじゃない?」
そう言ったら、赤ちんは「そうかな」と困ったように笑ったから、オレも笑って「そうだよ」って言ってあげた。