影法師にアンコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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挨拶を終えた後はチームとして戦うために連携強化を中心とした練習が開始された。相田さんは景虎さんと一緒にメンバーの調子を見つつ、どの組み合わせが一番上手く繋がるかなど確認していて、さつきちゃんは全員のデータを分析してまとめている。その間、私のやることは、ずばり、ない。赤司からの指示が入るまで、私は隅でおとなしく座っていろとのことだ。
かといってぼんやり見ているのもできないし、手持ち無沙汰のまま練習に励んでいるみんなを見ていた。
うずうず、と身体が揺れてしまう。だって、キセキの世代に黒子っちにかがみん、そしてその相棒たる高尾に誠凛と桐皇の主将が揃っているのだ。私だって場違いだろうと手合わせくらいしたくなる。
赤司!指示!早く!
そう目線で訴え続けること数十分。紫原君がダンクして、その転がったボールを赤司が拾い溜息を吐く。
「景虎さん、今から水瓶を使った練習を始めても構いませんか?」
「ああ、いいぜ。#namw1#をどう使うかオレも気になってたしな」
「ありがとうございます。全員コートを一度出てくれ。水瓶、入れ」
「いよっしゃあああ!!」
飛び起きてコートの中に入ると、赤司がボールを投げてくるのでそれを受け取りうきうきしながらドリブルをする。やっと練習に参加できる。うへへ、とにやけていたら、コートの外から汗を拭いていた青峰がうげえと嫌そうな声を上げた。
「おい赤司ぃ。ほんとにこいつ入れんのかよ」
「ああ。洛山の練習メニューを全て見せるわけにはいかないが、今回は彼女を含めたメニューは出し惜しみしているわけにはいかないからね。よし水瓶、制限はスリーから交互にシュートタイプ変更、先攻は君から。五本先取、が条件だ」
「おっけい!んじゃ先手必勝!!」
赤司が位置についた瞬間に先手を取り、持っていたボールをスリーの位置から投げようとジャンプする。もちろん、すぐに反応されて赤司が手を伸ばしてきた。そして、私はまた持っていたボールを自分の身体の真下にドライブをかけて全力で叩きつけた。回転のかかったボールは前ではなく私の背後へバウンドする。赤司より早く足がついた私はそれをバックステップでボールの下をくぐり、再度跳び、ボールを掴んでそのまま高いスリーを投げる。ボールは気持ちいい音を立ててリングへ入った。
けど、喜んではいられない。次はスリーではないシュートタイプで打たなければならない。赤司の手に渡ったボールをスティールするため、私は駆けだした。
「うがあああ!!また!負けたんですけど!!赤司に勝ったことないんですけど!!」
「前回に比べればマシになっているようだね」
きーっ!と唸っても赤司は肩を竦めるだけだ。ちくしょう。赤司にぎゃふんと言わせる日は遠い。
ふと視線を感じてコートの外を見ると、なんだかみんながぽかんとしていた。
「な、なんスかそれーっ!優姫ちゃん、すごいじゃないっスか?!」
と、黄瀬君が叫んだ。お、キセキの世代にそう言ってもらえるなんて私もしかしてすごい?!
「んだよ、その程度かよ」
「ふん」
「赤ちんに勝てるわけないっしょー」
そんなわけもなく!!黄瀬君以外にはぼろかすですよ!!黄瀬君ほんといい男!!ファンクラブ入ろうかな!!
スマホで黄瀬涼太、ファンクラブ、と探し始める私に、いつの間にか背後にいた黒子っちが首を傾げた。
「そんなに出来るのに、水瓶さんはどうして男子バスケ部のトレーナーを?」
「ぐほうっ!そ、それには、深い理由があってね…聞かないで黒子っち…」
「オレの取り巻きだと思われて女子バスケ部の主将の反感を買ってね。一悶着あった後行き場所を無くしていた彼女をもう一人のオレがトレーナーとして勧誘したんだ」
「ぎゃああああなんでバラすのおおおお!!ていうか赤司がキセキの世代って聞いた時何のことかわかんなくてアイドルグループだと思ったんだからね?!赤司も有名なら有名だって自己紹介の時教えておいてくれる?!」
ムキーッと抗議するも、赤司は完全に私のことを無視してコートの外にいるみんなを振り返っていた。シカトよくない!
「さて、流れは見てもらえたね。彼女の特性は相手の苦手とする攻撃主体を本能的に選んでくることだ。無論、実力においてはオレ達が上。なので、彼女との練習で一点でも取られれば…」
「と、取られれば…?」
黄瀬君がごくり、と喉を鳴らす。その後に続く言葉がわかっている私はひええええ、とさつきちゃんにしがみついた。そして赤司はにこりと人の良さそうな笑みを浮かべる。
「泣いて喚いて許しを請うぐらいの罰則をつけようか」
その後、死にものぐるいで私のシュートを止めるみんながいた。
「ひどすぎる!!赤司はひどい!優姫覚えた!」
『んなの前から知ってただろ』
練習を終えて、初日のミーティングの前にみんなが服を着替えに行ったので私は自販機のへ向かった。ジュースを買って、喉を潤してからまゆゆに電話をかける。今日の練習の話をしたら、相変わらずだなとまゆゆは笑っていた。
「って、あれ?ねえまゆゆ、誰かいる?何か後ろで笑い声が…」
『…チッ』
「舌打ち?!」
『面白がって樋口達がオレんちに来てんだよ』
「えっ樋口先輩?!わー!いいなあああ楽しそうううう!!」
がさがさと袋の音がするから、多分お菓子か何かを買ってきているのだろう。いいなあまゆゆの家!楽しそうだなあ!合宿所をどうにか抜け出してまゆゆの家に行きたい!
『やあ優姫ちゃん。そっちどないやー?』
「今吉さん!これからミーティングです!あ、昨日は何か乱入したりして、その、ごめんなさい!」
『謝らなくていいぜ。むしろ、オレらが言い返せたら良かったんだが、思わず呆然としちまって、何もできなかった』
「宮地さん」
どうやらスピーカーにしているらしい。今吉さんに続いて、宮地さんが申し訳なさそうにそう言うから、私はいやいやっと思わず手を振る。
「宮地さん達は、どんなに相手に馬鹿にされてもバスケをしてました。かっこよかったです。もっと胸を張ってくださいよ!スターキーは、あの時一番かっこよかったんですから!」
『…こりゃ、黛が落ちるわけだ…』
『宮地』
『うおっ黛何をするやめ』
「ちょーっ?!まゆゆ宮地さんに何してるの?!誰か実況!実況お願いします!!もう服脱がしてます?!まゆみや?!」
『あー…服は脱がしてはないが、くさやを口に突っ込んではいる』
「あ、笠松さん!えっくさや?!まゆゆ…好物だからって常備してるんじゃ…」
とりあえず、宮地さんに合掌。まゆゆのどの逆鱗に触れたのかわからないが、くさやは人を選ぶ食べ物だからね、まゆゆ…。
遠い目をしていたら、電話の向こうで笠松さんが、何か言いよどんでいた。なんだろう、と耳を澄ませてみる。
「笠松さん?」
『その、昨日は悪かった。それから、ありがとな。ハンカチ、洗って返す』
「気にしないでくださいってば!それよりも、笠松さんは大丈夫ですか?苦しくないですか?」
『ねーよ。これでも黄瀬と一緒にバスケしてたんだ。実力差に今更どうのこうのもねーし、あのとき悔しかった気持ちは全部、お前が言ってくれた。…ありがとう、水瓶』
お礼を言われることなんて、何一つしていない。あの時、私は誰かのためではなくて、自分のために怒鳴っていた。自分が好きな洛山が馬鹿にされた気がして、怒ったんだ。だから、誰かにお礼を言われることはないのに、そうやって言われたら、涙が出てきそうだ。嗚咽を抑えながら頷いていたら、今吉さんがそんな私の様子に気がついたらしい。
『笠松、優姫ちゃん泣かせたんか?罪な男やなぁ』
『ええっ?!な、泣いてんのか水瓶?!わ、わわわりいっ!!』
『なんでじゃあああ!!なんでワシには女子とのフラグがたたんのじゃああああ』
『落ち着け岡村っ!おえええ…っ』
『おい宮地、うちで吐くなよ』
『誰のせいだと…おえええ…っ』
くっくっく、と樋口先輩の押し殺したような笑い声も聞こえて、なんだか向こうは大騒ぎだ。でも、楽しそう。そこにまゆゆがいて、みんなを呆れたように見ながら微笑んでいるのだろう。そう思ったら、ますます胸が痛い。私もそこに行きたい。まゆゆに会いたい。
「優姫ちゃーん!こんなとこにいた!ミーティングやるよー!」
「!わかったー!今行くー!」
廊下の向こうからさつきちゃんが声をかけてきて、私は我に返る。電話の向こうのみんなにも聞こえたらしく、今度はまゆゆが私の名前を呼んだ。
「ごめん、ミーティング始まるみたいだから、電話終わるね」
『ああ。しっかり聞いてこいよ』
「もちのろんよ!負けられないからね!それじゃあまた電話するね!あっ、みなさんもおやすみなさい!まゆゆも、おやすみ!」
『おやすみ、優姫』
電話を切って、買っていたジュースを熱い頬に当てる。
何度聞いても、耳元で囁かれたようなまゆゆのおやすみボイスには慣れなくて、顔が熱くなるのだ。
案の定、急いで向かった部屋でさつきちゃんに顔の赤さを指摘されるのだった。
ジェイソン・シルバー。ポジションはセンター。身長210センチ、体重115キロ。
シルバーの武器は凶悪なまでの身体能力。その肉体は速さ、力、しなやかさ。それら全てを怪物級に兼ね備え、「神に選ばれた躰」と呼ばれているらしい。
「だとしたら、選ぶ人間を間違えたと言わざるを得ませんが」
さつきちゃんは淡々と、収集してきた情報をみんなに伝えてくれた。さつきちゃんの言うとおり、神様がいたとしたら、選ぶ人間を間違えたとしか思えない。聞けば、練習嫌いで筋トレも一切やったことがないのだとか。性格は粗悪で、女好き。
努力をせずとも勝ってしまう、理不尽なまでの天才。
「天才という意味ではここにいるお前らもそう呼ばれているが、コイツのスケールはそれを超えている。平たく言えば、コイツは青峰以上の敏捷性と、火神以上の跳躍力、紫原以上の力を持っている」
三人分の力のさらに上の相手。少しだけ、冷や汗が流れた。同じらしく、黄瀬君も少しだけ声が震えていた。
「だってさ、青峰っち。どう思うっスか?」
「…最高じゃねーか。まさかこんな楽しめそうな奴とやれるなんてよ」
「ああ!ガゼン燃えてきたぜ!!」
「あのさー。マークすんのキホン俺なんだけど~。メンドクサすぎ…」
名前を出された三人は全く不安そうな顔もせず、闘志をむき出しにしている。紫原君はとてもめんどくさそうにしていたけど、負ける気だってなさそうだ。
「そして、ジャバウォックのリーダー。ナッシュ・ゴールド・Jr」
さつきちゃんがスクリーンに次の選手を映す。金髪の男。ナッシュだ。
ポジションはポイントガード、身長190センチ、体重82キロ。
基本タイプはオールラウンダーで、「魔術師」の異名通り変幻自在のトリックプレイを得意としている。
けど、とさつきちゃんは言葉を止める。
「謎も多い選手です。それだけでシルバーをはじめジャバウォックのメンバーを従えられるかと言われれば疑問だし、過去のどの試合を見ても明らかに底を見せていない」
スクリーンで映し出されているのは、スターキーとの試合の様子。身体能力は言わずもがなだが、何か底知れないものを感じる。それはこの場にいる全員がそう思っているようだ。
「彼のマークはまずオレになると思うが、彼の特性にオレの特性は相性が悪いかもしれない。かなり手を焼きそうだ」
「いいや!赤司なら大丈夫でしょ!だって赤司だし!!」
珍しく弱気なことを言う赤司に、思わず即答してしまった。相性の悪さがあろうがなかろうが、うちのエースは強いから負けない!と拳を握って力説したら、赤司が珍しくキョトンとして、それからやれやれと笑った。
前の席に座っていた青峰は私を見て「お前と同じ意見かよ」と嫌そうな顔をした。おいこら。
「ま、オレも赤司にまかすわ。わかんねーこと考えてもしょーがねーし、相性だろーがなんだろーが、優姫の言った通り勝てんだろ、お前なら」
「…ああ、もちろんだ」
青峰の言葉に赤司も当然だと頷いていて、それがなんだか近しい人達のやり取りで。ああ、これが帝光中で培ったチームの絆か、と少しだけ悔しかった。私だって、洛山で赤司と絆値深めたもんね!今マックスくらいになってるよね?!と視線を投げたら、今度は邪なものだと感づかれたらしく笑っていない目が私を射貫いた。ふざけました、ごめんなさい。
「しっかし、その二人以外もマジレベルが違うぜ。お前らキセキの世代と遜色なし。ヤベーぜホント」
「フン。だが見ればわかる。どいつもこいつも人事を尽くしていない。どれだけ強かろうが気にくわんな。…オレのスリーで蹴散らしてやるのだよ」
「おー、期待してんぜ」
みどっちも高尾もやる気満々だ。そうだ、みどっちの言うとおり、相手は人事を尽くしていない。バスケをしていない相手に、負けるわけがない。
「どんな相手でも、絶対勝つっスよ!!オレ達は強いっスから!!」
「お前がしめんなや!!」
「いてえっ!青峰っち蹴らないでほしいっス!!」
黄瀬君の締めと青峰の蹴りで場の空気も和らいで、その様子を見て安心したように景虎さんは大きく息を吐いた。
「気合いは問題なさそうだな。じゃああとは頼むぜ。オレは…六本木行ってくる…あのクソ共ひきとめるためにオレの自腹で毎晩遊ばせなきゃなんねーんだからよ…勝ったら死んでも全額払わせてやる…」
もはや最後の方は呪詛のようになっていたが、どうやらジャバウォックの奴らは六本木で遊んでいるようだ。年齢同じくらいなのに、遊び方がセレブ!!俄然やる気でたわ!!絶対勝ってやる!!
ちなみに相田さんは「相田家の未来もかかってる!!」と嘆いていた。
それじゃあ、今日は解散。と相田さんが場を締めるや否、私の身体は宙を浮く。
「ほぎゃおう?!」
「それじゃオレ、コンビニでお菓子買ってから戻るからー。おやすみー」
「紫原っち?!優姫ちゃん抱えてるのはなんで?!」
「いやほんとなんでぎゃあああ紫原君雑に運ぶのやめて酔ううううう吐いちゃううううう!!」
―――――――…
「ほんま、ずるいことするなあ、黛」
電話が終わった後、耳に当てていた携帯を下ろすと今吉がそう言った。スピーカーは桐皇のマネージャーが声をかけてきたときにオフにしていた。
ジュースを飲んで、何が、と聞けば、今のだと言われる。
「甘い声やったで、おやすみって」
「しかも、耳元で囁くように言ってたよな。まあ、向こうは電話耳に当ててるんだから実際耳元で囁かれてるんだけど」
宮地にも言われて、なんだそんなことか、とオレはまた笑う。
「意識してもらえるように、必死なだけだ」
あいつの周りには沢山の人がいて、オレはその中の一人になりたくはない。遠くなった今、あいつが好きだと言うこの声だって大盤振る舞いで使ってやる。そうやって、少しずつでもオレを意識させて、離れないように必死に掴んでいるのだ。
「うっうっ…ええのう…ワシもせめて声が良かったら…」
「いや、お前の声多分あいつ結構好きだぞ」
「えっ?!」
「だがやらん」
「うおおおおおおっ!!女子にモテるにはどうしたらいいんじゃああああ!!」
まあまあ、と樋口が岡村を慰めているのを見ながら、思えばあいつ今いるメンバーの声全員好きそうだな、と今後一切こいつらを電話に出させないようにしようと決意した。
かといってぼんやり見ているのもできないし、手持ち無沙汰のまま練習に励んでいるみんなを見ていた。
うずうず、と身体が揺れてしまう。だって、キセキの世代に黒子っちにかがみん、そしてその相棒たる高尾に誠凛と桐皇の主将が揃っているのだ。私だって場違いだろうと手合わせくらいしたくなる。
赤司!指示!早く!
そう目線で訴え続けること数十分。紫原君がダンクして、その転がったボールを赤司が拾い溜息を吐く。
「景虎さん、今から水瓶を使った練習を始めても構いませんか?」
「ああ、いいぜ。#namw1#をどう使うかオレも気になってたしな」
「ありがとうございます。全員コートを一度出てくれ。水瓶、入れ」
「いよっしゃあああ!!」
飛び起きてコートの中に入ると、赤司がボールを投げてくるのでそれを受け取りうきうきしながらドリブルをする。やっと練習に参加できる。うへへ、とにやけていたら、コートの外から汗を拭いていた青峰がうげえと嫌そうな声を上げた。
「おい赤司ぃ。ほんとにこいつ入れんのかよ」
「ああ。洛山の練習メニューを全て見せるわけにはいかないが、今回は彼女を含めたメニューは出し惜しみしているわけにはいかないからね。よし水瓶、制限はスリーから交互にシュートタイプ変更、先攻は君から。五本先取、が条件だ」
「おっけい!んじゃ先手必勝!!」
赤司が位置についた瞬間に先手を取り、持っていたボールをスリーの位置から投げようとジャンプする。もちろん、すぐに反応されて赤司が手を伸ばしてきた。そして、私はまた持っていたボールを自分の身体の真下にドライブをかけて全力で叩きつけた。回転のかかったボールは前ではなく私の背後へバウンドする。赤司より早く足がついた私はそれをバックステップでボールの下をくぐり、再度跳び、ボールを掴んでそのまま高いスリーを投げる。ボールは気持ちいい音を立ててリングへ入った。
けど、喜んではいられない。次はスリーではないシュートタイプで打たなければならない。赤司の手に渡ったボールをスティールするため、私は駆けだした。
「うがあああ!!また!負けたんですけど!!赤司に勝ったことないんですけど!!」
「前回に比べればマシになっているようだね」
きーっ!と唸っても赤司は肩を竦めるだけだ。ちくしょう。赤司にぎゃふんと言わせる日は遠い。
ふと視線を感じてコートの外を見ると、なんだかみんながぽかんとしていた。
「な、なんスかそれーっ!優姫ちゃん、すごいじゃないっスか?!」
と、黄瀬君が叫んだ。お、キセキの世代にそう言ってもらえるなんて私もしかしてすごい?!
「んだよ、その程度かよ」
「ふん」
「赤ちんに勝てるわけないっしょー」
そんなわけもなく!!黄瀬君以外にはぼろかすですよ!!黄瀬君ほんといい男!!ファンクラブ入ろうかな!!
スマホで黄瀬涼太、ファンクラブ、と探し始める私に、いつの間にか背後にいた黒子っちが首を傾げた。
「そんなに出来るのに、水瓶さんはどうして男子バスケ部のトレーナーを?」
「ぐほうっ!そ、それには、深い理由があってね…聞かないで黒子っち…」
「オレの取り巻きだと思われて女子バスケ部の主将の反感を買ってね。一悶着あった後行き場所を無くしていた彼女をもう一人のオレがトレーナーとして勧誘したんだ」
「ぎゃああああなんでバラすのおおおお!!ていうか赤司がキセキの世代って聞いた時何のことかわかんなくてアイドルグループだと思ったんだからね?!赤司も有名なら有名だって自己紹介の時教えておいてくれる?!」
ムキーッと抗議するも、赤司は完全に私のことを無視してコートの外にいるみんなを振り返っていた。シカトよくない!
「さて、流れは見てもらえたね。彼女の特性は相手の苦手とする攻撃主体を本能的に選んでくることだ。無論、実力においてはオレ達が上。なので、彼女との練習で一点でも取られれば…」
「と、取られれば…?」
黄瀬君がごくり、と喉を鳴らす。その後に続く言葉がわかっている私はひええええ、とさつきちゃんにしがみついた。そして赤司はにこりと人の良さそうな笑みを浮かべる。
「泣いて喚いて許しを請うぐらいの罰則をつけようか」
その後、死にものぐるいで私のシュートを止めるみんながいた。
「ひどすぎる!!赤司はひどい!優姫覚えた!」
『んなの前から知ってただろ』
練習を終えて、初日のミーティングの前にみんなが服を着替えに行ったので私は自販機のへ向かった。ジュースを買って、喉を潤してからまゆゆに電話をかける。今日の練習の話をしたら、相変わらずだなとまゆゆは笑っていた。
「って、あれ?ねえまゆゆ、誰かいる?何か後ろで笑い声が…」
『…チッ』
「舌打ち?!」
『面白がって樋口達がオレんちに来てんだよ』
「えっ樋口先輩?!わー!いいなあああ楽しそうううう!!」
がさがさと袋の音がするから、多分お菓子か何かを買ってきているのだろう。いいなあまゆゆの家!楽しそうだなあ!合宿所をどうにか抜け出してまゆゆの家に行きたい!
『やあ優姫ちゃん。そっちどないやー?』
「今吉さん!これからミーティングです!あ、昨日は何か乱入したりして、その、ごめんなさい!」
『謝らなくていいぜ。むしろ、オレらが言い返せたら良かったんだが、思わず呆然としちまって、何もできなかった』
「宮地さん」
どうやらスピーカーにしているらしい。今吉さんに続いて、宮地さんが申し訳なさそうにそう言うから、私はいやいやっと思わず手を振る。
「宮地さん達は、どんなに相手に馬鹿にされてもバスケをしてました。かっこよかったです。もっと胸を張ってくださいよ!スターキーは、あの時一番かっこよかったんですから!」
『…こりゃ、黛が落ちるわけだ…』
『宮地』
『うおっ黛何をするやめ』
「ちょーっ?!まゆゆ宮地さんに何してるの?!誰か実況!実況お願いします!!もう服脱がしてます?!まゆみや?!」
『あー…服は脱がしてはないが、くさやを口に突っ込んではいる』
「あ、笠松さん!えっくさや?!まゆゆ…好物だからって常備してるんじゃ…」
とりあえず、宮地さんに合掌。まゆゆのどの逆鱗に触れたのかわからないが、くさやは人を選ぶ食べ物だからね、まゆゆ…。
遠い目をしていたら、電話の向こうで笠松さんが、何か言いよどんでいた。なんだろう、と耳を澄ませてみる。
「笠松さん?」
『その、昨日は悪かった。それから、ありがとな。ハンカチ、洗って返す』
「気にしないでくださいってば!それよりも、笠松さんは大丈夫ですか?苦しくないですか?」
『ねーよ。これでも黄瀬と一緒にバスケしてたんだ。実力差に今更どうのこうのもねーし、あのとき悔しかった気持ちは全部、お前が言ってくれた。…ありがとう、水瓶』
お礼を言われることなんて、何一つしていない。あの時、私は誰かのためではなくて、自分のために怒鳴っていた。自分が好きな洛山が馬鹿にされた気がして、怒ったんだ。だから、誰かにお礼を言われることはないのに、そうやって言われたら、涙が出てきそうだ。嗚咽を抑えながら頷いていたら、今吉さんがそんな私の様子に気がついたらしい。
『笠松、優姫ちゃん泣かせたんか?罪な男やなぁ』
『ええっ?!な、泣いてんのか水瓶?!わ、わわわりいっ!!』
『なんでじゃあああ!!なんでワシには女子とのフラグがたたんのじゃああああ』
『落ち着け岡村っ!おえええ…っ』
『おい宮地、うちで吐くなよ』
『誰のせいだと…おえええ…っ』
くっくっく、と樋口先輩の押し殺したような笑い声も聞こえて、なんだか向こうは大騒ぎだ。でも、楽しそう。そこにまゆゆがいて、みんなを呆れたように見ながら微笑んでいるのだろう。そう思ったら、ますます胸が痛い。私もそこに行きたい。まゆゆに会いたい。
「優姫ちゃーん!こんなとこにいた!ミーティングやるよー!」
「!わかったー!今行くー!」
廊下の向こうからさつきちゃんが声をかけてきて、私は我に返る。電話の向こうのみんなにも聞こえたらしく、今度はまゆゆが私の名前を呼んだ。
「ごめん、ミーティング始まるみたいだから、電話終わるね」
『ああ。しっかり聞いてこいよ』
「もちのろんよ!負けられないからね!それじゃあまた電話するね!あっ、みなさんもおやすみなさい!まゆゆも、おやすみ!」
『おやすみ、優姫』
電話を切って、買っていたジュースを熱い頬に当てる。
何度聞いても、耳元で囁かれたようなまゆゆのおやすみボイスには慣れなくて、顔が熱くなるのだ。
案の定、急いで向かった部屋でさつきちゃんに顔の赤さを指摘されるのだった。
ジェイソン・シルバー。ポジションはセンター。身長210センチ、体重115キロ。
シルバーの武器は凶悪なまでの身体能力。その肉体は速さ、力、しなやかさ。それら全てを怪物級に兼ね備え、「神に選ばれた躰」と呼ばれているらしい。
「だとしたら、選ぶ人間を間違えたと言わざるを得ませんが」
さつきちゃんは淡々と、収集してきた情報をみんなに伝えてくれた。さつきちゃんの言うとおり、神様がいたとしたら、選ぶ人間を間違えたとしか思えない。聞けば、練習嫌いで筋トレも一切やったことがないのだとか。性格は粗悪で、女好き。
努力をせずとも勝ってしまう、理不尽なまでの天才。
「天才という意味ではここにいるお前らもそう呼ばれているが、コイツのスケールはそれを超えている。平たく言えば、コイツは青峰以上の敏捷性と、火神以上の跳躍力、紫原以上の力を持っている」
三人分の力のさらに上の相手。少しだけ、冷や汗が流れた。同じらしく、黄瀬君も少しだけ声が震えていた。
「だってさ、青峰っち。どう思うっスか?」
「…最高じゃねーか。まさかこんな楽しめそうな奴とやれるなんてよ」
「ああ!ガゼン燃えてきたぜ!!」
「あのさー。マークすんのキホン俺なんだけど~。メンドクサすぎ…」
名前を出された三人は全く不安そうな顔もせず、闘志をむき出しにしている。紫原君はとてもめんどくさそうにしていたけど、負ける気だってなさそうだ。
「そして、ジャバウォックのリーダー。ナッシュ・ゴールド・Jr」
さつきちゃんがスクリーンに次の選手を映す。金髪の男。ナッシュだ。
ポジションはポイントガード、身長190センチ、体重82キロ。
基本タイプはオールラウンダーで、「魔術師」の異名通り変幻自在のトリックプレイを得意としている。
けど、とさつきちゃんは言葉を止める。
「謎も多い選手です。それだけでシルバーをはじめジャバウォックのメンバーを従えられるかと言われれば疑問だし、過去のどの試合を見ても明らかに底を見せていない」
スクリーンで映し出されているのは、スターキーとの試合の様子。身体能力は言わずもがなだが、何か底知れないものを感じる。それはこの場にいる全員がそう思っているようだ。
「彼のマークはまずオレになると思うが、彼の特性にオレの特性は相性が悪いかもしれない。かなり手を焼きそうだ」
「いいや!赤司なら大丈夫でしょ!だって赤司だし!!」
珍しく弱気なことを言う赤司に、思わず即答してしまった。相性の悪さがあろうがなかろうが、うちのエースは強いから負けない!と拳を握って力説したら、赤司が珍しくキョトンとして、それからやれやれと笑った。
前の席に座っていた青峰は私を見て「お前と同じ意見かよ」と嫌そうな顔をした。おいこら。
「ま、オレも赤司にまかすわ。わかんねーこと考えてもしょーがねーし、相性だろーがなんだろーが、優姫の言った通り勝てんだろ、お前なら」
「…ああ、もちろんだ」
青峰の言葉に赤司も当然だと頷いていて、それがなんだか近しい人達のやり取りで。ああ、これが帝光中で培ったチームの絆か、と少しだけ悔しかった。私だって、洛山で赤司と絆値深めたもんね!今マックスくらいになってるよね?!と視線を投げたら、今度は邪なものだと感づかれたらしく笑っていない目が私を射貫いた。ふざけました、ごめんなさい。
「しっかし、その二人以外もマジレベルが違うぜ。お前らキセキの世代と遜色なし。ヤベーぜホント」
「フン。だが見ればわかる。どいつもこいつも人事を尽くしていない。どれだけ強かろうが気にくわんな。…オレのスリーで蹴散らしてやるのだよ」
「おー、期待してんぜ」
みどっちも高尾もやる気満々だ。そうだ、みどっちの言うとおり、相手は人事を尽くしていない。バスケをしていない相手に、負けるわけがない。
「どんな相手でも、絶対勝つっスよ!!オレ達は強いっスから!!」
「お前がしめんなや!!」
「いてえっ!青峰っち蹴らないでほしいっス!!」
黄瀬君の締めと青峰の蹴りで場の空気も和らいで、その様子を見て安心したように景虎さんは大きく息を吐いた。
「気合いは問題なさそうだな。じゃああとは頼むぜ。オレは…六本木行ってくる…あのクソ共ひきとめるためにオレの自腹で毎晩遊ばせなきゃなんねーんだからよ…勝ったら死んでも全額払わせてやる…」
もはや最後の方は呪詛のようになっていたが、どうやらジャバウォックの奴らは六本木で遊んでいるようだ。年齢同じくらいなのに、遊び方がセレブ!!俄然やる気でたわ!!絶対勝ってやる!!
ちなみに相田さんは「相田家の未来もかかってる!!」と嘆いていた。
それじゃあ、今日は解散。と相田さんが場を締めるや否、私の身体は宙を浮く。
「ほぎゃおう?!」
「それじゃオレ、コンビニでお菓子買ってから戻るからー。おやすみー」
「紫原っち?!優姫ちゃん抱えてるのはなんで?!」
「いやほんとなんでぎゃあああ紫原君雑に運ぶのやめて酔ううううう吐いちゃううううう!!」
―――――――…
「ほんま、ずるいことするなあ、黛」
電話が終わった後、耳に当てていた携帯を下ろすと今吉がそう言った。スピーカーは桐皇のマネージャーが声をかけてきたときにオフにしていた。
ジュースを飲んで、何が、と聞けば、今のだと言われる。
「甘い声やったで、おやすみって」
「しかも、耳元で囁くように言ってたよな。まあ、向こうは電話耳に当ててるんだから実際耳元で囁かれてるんだけど」
宮地にも言われて、なんだそんなことか、とオレはまた笑う。
「意識してもらえるように、必死なだけだ」
あいつの周りには沢山の人がいて、オレはその中の一人になりたくはない。遠くなった今、あいつが好きだと言うこの声だって大盤振る舞いで使ってやる。そうやって、少しずつでもオレを意識させて、離れないように必死に掴んでいるのだ。
「うっうっ…ええのう…ワシもせめて声が良かったら…」
「いや、お前の声多分あいつ結構好きだぞ」
「えっ?!」
「だがやらん」
「うおおおおおおっ!!女子にモテるにはどうしたらいいんじゃああああ!!」
まあまあ、と樋口が岡村を慰めているのを見ながら、思えばあいつ今いるメンバーの声全員好きそうだな、と今後一切こいつらを電話に出させないようにしようと決意した。