影法師にアンコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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兄貴から徹夜で説教を受け、それじゃあ京都に帰ろうかとなった時。
「その必要はない」とボストンバッグを渡された私は、東京の我が家で一泊し、今都内のとある体育館の前に置き去りにされていた。
「どういうことなの?!ていうか普通妹になにも説明しないで知らない場所に置いてく?!」
思わずまゆゆに怒濤のメールを送れば一言「すぐに分かるだろ。あと今講義中だからうるさい」とばっさり切られてしまった。まゆゆ冷たい!そこに痺れる憧れるぅ!
くう、と携帯を握りしめていたら、駐車場に車が止まった。
「おう、来たな」
「あ!えっと、景虎さん!」
車から降りてきたのは、昨日お世話になった景虎さんだ。ジャバウォックの案内役をしているらしい景虎さんは、薄々やばいガキ共だと思っていたらしい。あれは本当にやり過ぎだった、巻き込んですまんと何故か謝られた。私としては悪いのは断然あいつらなので、本当に気にしないでほしいと伝えて、昨日は病院で別れたのだけど、今日はどうしたのだろうか。
あれ、ていうか今私のことを見て、来た、って言った?
「あの、もしかして兄貴が何か…」
「ああ、#name4#な。あいつには許可貰ってるし、洛山の方にも届けてあるから心配はいらねーからな」
「いやあの、え?つまりどういうことなんです?私、なんで体育館に置き去りにされたんです?」
「……あいつ、説明めんどくさがって逃げたな……」
はあ、と溜息を吐いてる景虎さんは、外は暑いからとりあえず中に入ろうと体育館の中に入れてくれた。どうやら鍵を持っているようだ。ということは、ここを借りているというわけで。
「はっ!!もしかして、昨日言ってたリベンジマッチの練習に?!」
「当たり。優姫にも今回参加してもらおうと思ってな。#name4#のやつ、俺の手で片をつけても良かったんだがな…とか言い出すから全力で止めておいた…」
「ありがとうございます…本当にありがとうございます…」
ちなみに景虎さんは、兄貴とは顔見知りなんだそうだ。一体兄貴の交友関係とは。
そういえば、と景虎さんが私にバスケットボールを放り投げて尋ねてきた。
「今回トレーナーとして参加してもらうつもりなんだが、洛山ではどう練習してるんだ?」
「あー、本当に普通ですよ?基本は男子に混ざって同じメニューこなして、スタメンのスキル強化の時には私が対戦相手になって」
「対戦相手になる?!つーことは、男子と同等にやれる、ってことか」
「いや、普通に試合だと負けるんですけどね!!いつか赤司にぎゃふんと言わせるのが目標です!!」
「そう簡単に負けるつもりはないよ」
「ふぎゃおう?!」
驚きすぎてボールを落としてしまった。転がるボールを拾ったのは、声の主の赤司だ。私同様ボストンバッグを持って、服は洛山のジャージ。京都にいるはずの赤司に再度驚きの悲鳴を上げれば、うるさいよと怒られる。
「リベンジマッチの話、オレにも連絡が来てね。水瓶のことは実渕達には伝えてあるから、向こうの練習は心配しなくても構わない」
「あ、ああー!そっか、あいつらに対抗するメンバーっていったら、キセキの世代!」
そう、あんな奴らでも技術は格段に上。強いとされるスターキーですら対抗できなかった。となれば、あとは彼らに託すしかない。
5人の天才、キセキの世代。彼らが一目置く幻の六番目。
そして、きっともう一人。去年のウィンターカップで赤司に負けを感じさせ、最後の最後まで私達を追い詰めた、キセキならざるキセキ。
そんなメンバーが集まるのだと考えたら、少し、いやかなりワクワクした。つい最近インターハイで戦ったばかりだが、思えばきちんとお話をしたことがあるのなんて青峰と黄瀬くん、かがみんくらいだ。これからここに集まるのか。すごいぞこれは!
……すごいけど、何故私がここに参加を?
「ちょっと待って。うわ、自分の場違い感やばい。帰りたい。景虎さん私帰ってもいいですかね?!」
「いやいや、帰るな帰るな。オレは参加してくれるとすごく心強いと思ってるし、そもそも優姫のことを推薦したやつがいるんだぞ?」
「へ?誰ですか?赤司…なわけがない。むしろ今やばいくらい赤司が怒ってることに気がついてもう振り返ることができない」
「…そうだね。怒ってるよ、ものすごく」
「ひえっ」
赤司が怒っている。おそらく、昨日の私があいつらに啖呵を切った中継を見ていたからだ。赤司は冷や汗をかきながら背中をむける私に、昨日のまゆゆのように深い溜息を吐いた。
「怒っているのは、君が自身を大切に扱わないからだ。その正義感は素晴らしいものだが、もっと相手を見て行動してくれ。君よりも何倍も大きな相手に、真っ向から喧嘩を売りに行く奴があるか」
「うぐ…っ」
「今度からは、オレがいるときにしろ」
「……へ?」
意外な言葉に、おそるおそる振り返ろうとしたのだけど。
「まあ今度があると困るんだが、ね!!」
「ごはうっ!!タップタップ!!首、首ぃ!!」
その前に後ろから抱え込まれ、腕で首を締め付けられる。王様赤司の得意技、チョークスリーパーだ。なんでどっちの赤司もプロレス技しかけてくんの。ていうか首締まってますけどぐはああああ!!
「わーっ!赤司っち何やってるっスかー?!」
「何をしているのだよ赤司…」
「わー、赤ちん力こぶ出てる―。本気のやつじゃんー」
「相変わらず容赦ねえな…」
私が制裁を受けている間に、どうやら到着したらしい。黄瀬くん、みどっち、紫原くん、青峰が赤司と私のようにボストンバッグを背負って立っていた。黄瀬くんは赤司を止めに入ってくれて、そのまま私は体育館の床にお世話になる。そんな私には目もくれず、赤司は爽やかにキセキの世代のみんなを振り返る。
「やあ。こんな状況だが、オレ達がもう一度同じチームで戦うことになるなんて、少し楽しみだね」
「いや赤司っち。なんで普通に日常会話に戻れるんスか。優姫ちゃんうずくまって赤司っちに呪詛吐きだしたじゃないっスか」
「黄瀬、ここにボールがあるね?」
「え、あ、はい」
「これをこう…」
「待った待った!!赤司今何しようとした?!私の頭上にボール落とそうとしてなかった?!」
「………してないよ」
「間!!間がリアル!!」
「あー…とりあえず、お前らとは初めまして、だな?」
赤司が持っていたボールで何かしようとしてきたので飛び起きて抗議するも、景虎さんに声をかけられて全員そっちへ向かってしまった。どうやら着替える場所の案内を受けるようだ。ちょっと待って、私最初から練習着で来させられたんだけど。着替える場所とか私も教えてほしかったんだけど。
赤司に返されたボールを適当にドリブルしていたら、今度は華やかな声と足音が二人分、体育館に入ってきた。
「こんにちはー!お邪魔しまーす!」
「あら、貴女は…洛山のトレーナーね」
桐皇の制服を着ているさつきちゃんと、おそらく誠凛の制服を着ているの相田さん。どうやら今回二人も参加するようだ。いや、この二人なら納得だ。さつきちゃんはキセキの世代と一緒に中学を過ごしていたし、相田さんは誠凛バスケ部の監督を務めている。そういえば、景虎さんの娘さんなんだとか。すごい家系だ。
さつきちゃんとは親しくさせてもらっているが、相田さんとはほぼ初対面だ。挨拶はしっかりしないといけない。
「こんにちは!洛山バスケ部一年トレーナーの水瓶優姫です!えっと、超場違いなんですが、全力で頑張りますのでなにとぞ、なにとぞよろしくお願いいたします!!」
「いいわよ、そんなに堅苦しくなくても。今年のインハイでは戦えなかったけど、来年こそは勝たせてもらうわよ、洛山!」
「なんの!こっちこそ負けないです!それにしても、監督ってすごいですね!!美人監督に責められるかがみん…」
「びっ美人?!ていうか火神君のこと責めたことないわよ?!」
「ああ、これはですねー。優姫ちゃんの癖のようなものです。赤司くん達が集まったらもっとすごいですよ」
「もっとすごいの?!」
ていうか、高校生監督っていう響きがとても良い。誠凛は良いところだ…。桐皇もさつきちゃんという美人マネージャーがいるし。他校の内部事情もっとほしいです。最高です。
「あ、もしかして私のこと推薦してくれたのってさつきちゃん?!」
「え?ううん、私は何も…」
「あれ?!じゃあ本当に誰?!」
「ああ、それなら知ってるわよ」
と、意外なことに相田さんが知っているようだった。誰ですか?!と詰め寄れば、相田さんは体育館の時計を見て「もうすぐ来るわよ」と笑った。
その後、着替えを終えたキセキの世代の面々が戻ってきて、そしてまた体育館の扉が開かれる。
「チューッス」
「すみません、お待たせしました」
やってきたのは、誠凛のかがみんと黒子っち。
これで、メンバーが揃った。
「テツくーんっ!!」
「うぐっ」
「さつき、お前毎回それやんねーと気がすまねえのか」
「青峰もかがみんにやっていいんだよ…」
「やらねえよ!!背後から変なこと言ってくんな!!」
「ぎゃいん!」
ドゴォっと入ってきた黒子っちにさつきちゃんがタックルをした。周囲にはハートマークが。美人マネのタックルとか!うらやましい!
それを見た青峰が呆れたように言うので、本能のままに行ってもいいんだぜと囁いたら頭を叩かれた。黄瀬くんが「大丈夫っスか?!」と心配してくれる。優しい。このイケメンは爆発しなくていい。
そんな感じでわいわいしていたら、はいはい、と景虎さんが手を叩いて場を鎮めてくれた。
「二人は特別チームのアシスタントコーチとマネージャーだ。リコたんは試合までの練習メニュー作成とオレの補佐。桃井ちゃんはチームサポートと情報収集。それから優姫。彼女は洛山でのポジション同様トレーナーだ。リコたんと桃井ちゃんへの指示はオレがするが、優姫への指示は赤司に任せる」
「ちょっと!!やめてよその呼び方!!」
「相手チームのデータならもうまとめてあります!」
「わかりました。ところで、あと控えの選手は?」
様々なリアクションの中、赤司は頷いた後控え選手について尋ねる。そういえば、試合に参加するには控えの選手だって重要だ。キセキの世代を後ろから支える控えの選手は誰が選ばれたのだろう?
景虎さんがボードを見て名前を言おうとしたタイミングで、また体育館に人が入ってきた。
「遅れてすみませーん」
「ちわす」
「なっ日向先輩!」
「高尾!」
「若松!」
「おい青峰!先輩をつけろ!!」
さすが若松さん、相変わらず良いツッコミです。控えの選手は三人。桐皇の若松さん、誠凛の日向さん、秀徳の高尾だった。高尾は嬉しげに手を振りながら入ってくる。
「どーもー!ウチの真ちゃんがお世話になってますー!」
「だまれ高尾」
高緑ありがとうございます。思わず拝んでしまった。もうこの空間最高すぎかよ。
赤司は赤司で少し戸惑った様子の日向さんに紳士的な笑顔で声をかけている。また赤司に新しい男が…おっと誰か来たようだ。
「全員よく来てくれたな。改めて礼を言わせてもらう」
景虎さんがみんなを見渡して、フッと笑う。けれど、目にはあいつらへ向けての闘志が宿っている。
「事情はもうわかってると思うが、アイツらに対抗できるとしたら今ここにいるメンツっきゃねえ。このチームで一週間後のリベンジマッチに挑む。こんな機会はおそらく二度とねえだろう。今回限りのドリームチームだ。…派手に行こうぜ!!」
オオッ!!と全員が声を上げる。全員同じ気持ちだ。アイツらに日本のバスケを、私達のバスケをぶつける。お前達が馬鹿にしていいものじゃないんだって、わからせてやるんだ。
………あれ?何か忘れているような……。
「あっ!そうだ!私結局誰に推薦されたの?!」
「僕です」
「ファッ?!く、黒子っち?!」
「え、僕そんな黄瀬君みたいな呼ばれ方されてたんですか」
「嫌そうな顔しないでほしいっスー!」
近くにいた黄瀬君が涙目だ。なるほどここの人間関係はなかなか萌えそうだ。っと、今はそうじゃなくて。黒子っちに近寄って理由を尋ねてみる。
「なんで私を?」
「テレビ中継を見ました」
あ、もしかしてあの啖呵きったとこだろうか。うん、と話の続きを促すと、黒子っちははっきりと口にする。
「正直、なんて無謀なことをするんだろうと思いました」
「ぐほう!」
「自身よりも体格の良い男達に向かっていって、どう聞いても相手を怒らせるようなことを言って。ぶっちゃけ、馬鹿だと思いました」
「ぐうっ!」
けど、と言葉が続く。
「僕も同じことを言ったと思います。あの人達の言っていることが許せなかった。…昔の僕は、間違いを間違いだと言えなかった。言い続けることができませんでした。だからこそ、どれだけ危険でも僕は言いに行く。あなたたちにやめろと言われる筋合いはない、バスケをするのに資格なんていらないんだ、と」
そう言い切った黒子っちは、誰よりも力強く、覚悟を決めた瞳をしていた。黒子っちの言う昔とは、きっと中学の頃の話だろう。キセキの世代のみんなが変わっていくことを止められなかった、自分を悔やんでいたのだろう。
だから、もう間違えない。今度こそ思っていることをぶつける。言わないと、相手には伝わらないのだから。
「実はさ、前に赤司から中学の話聞いたんだ。その時、黒子っちの友達の試合のことも聞いた」
「…はい」
「それ聞いて、私言ったんだよ。黒子っちも赤司達が間違ってるって思ったなら、ぶん殴ってでも止めてやればよかったのに、って」
そう言ったら、黒子っちは目を瞬かせた。去年のウィンターカップ決勝前夜、昔話を聞いた後赤司に言ったときも同じ顔をしてたっけな。私は小さく首を振って、それからニッと笑って見せた。
「今度は、私と一緒にぶん殴ってでも間違ってるって言ってやろうね!」
キセキの世代にも、チームのみんなにも、そしてジャバウォックの奴らにも。もし間違えたら、間違ってると言ってやる。それで今盛大に間違えまくってるジャバウォックの奴らをコテンパンに負かせて、その考えは間違ってるって言ってやるんだ。
ぐっと親指を立てたら、黒子っちは少し泣きそうに目を歪めてから、頷いて笑った。
「…あ、ところで、さっきの話と私の推薦ってどこから繋がってるの?」
「ふふ。そうですね。もう今答えは出たようなものですから、これ以上は言いません」
「ええ?!ちょ、どこ?!ヒントどこ?!え、ぶん殴る意志の強さ…?無謀なこと…いやこれ馬鹿にされてるやつだ…え、どこに答えが…あ、赤司!赤司君!答えわかった?!」
「……」
「あれ、赤司なんか目元が…ふぎゃあああああ?!突然のアイアンクロー?!頭割れちゃうううううう!!」
ちょおおお!!なんでみんな笑ってんの?!誰か止めてえええええ!!
「赤司君、面白い話があるんです」
子供のようにぐずりながら桃井達と共に簡単なミーティングに向かった水瓶を見送り、アップを始めようとしていたら黒子に声をかけられた。アップの相手をしてくれるようだ。身体の柔軟を一緒にしていたら、ふと黒子がそう言った。面白い話?と尋ねると、黒子は優しい笑みを浮かべる。
「僕も、誠凛のみんなに中学の頃の話をしました。そしたら、火神君が言ったんです。『間違ってると思ったんなら、とにかくぶん殴ってやりゃよかったじゃねーか』って」
「ふふっ…そうか、火神らしいね」
「はい。そして、水瓶さんらしくもあります」
そうだね、黒子。お前は、火神に会って変われたのだろう。火神という光に出会って、お前のバスケを見つけられた。お前の、黒子のバスケという信念を。そして、オレは…僕も見つけたんだ。馬鹿で、正直頭を抱えることの方が多いけれど、腐敗した僕が見た光。
「本当に気まぐれだったと思う。彼女のプレイを見て、勝つために使える駒だと最初は思った。トレーナーという役職を与え、上手く使うつもりだった。…けど、彼女は見ての通りじゃじゃ馬だ。うちの黛さんを覚えてるか?」
「はい、僕と同じ技能を持った選手ですね」
「水瓶は彼を慕っていてね。毎度毎度騒ぐものだから、よく頭を抱えていたよ。それでも、黛さんにとっては光だった。そして、もう一人のオレにとっても」
黒子が声をあげることができなかった言葉を、黒子の友達が口にした言葉を、彼女はもう一人のオレに言った。その言葉がどれほど特別なものか理解もしないで、ただ間違ってる子供を叱るかのように言っただけの、なんでもない言葉で。それに、救われたんだよ。彼女にそれを言っても、首を傾げられたけど。
「なら、今の赤司君にとっては?」
「…聞くまでもないだろう?」
「そうですね。だから、僕は彼女を推薦しました」
赤司君を変えた彼女だから、いてくれたら心強いと思ったんです。
黒子がそう言ってまた優しい笑みを浮かべる後ろで、話を聞いていた青峰が「あいつそんなすげーか?ただの変態だぜ。兄貴超こえーし」と言いながら顔をしかめていたから、思わず笑ってしまった。
「その必要はない」とボストンバッグを渡された私は、東京の我が家で一泊し、今都内のとある体育館の前に置き去りにされていた。
「どういうことなの?!ていうか普通妹になにも説明しないで知らない場所に置いてく?!」
思わずまゆゆに怒濤のメールを送れば一言「すぐに分かるだろ。あと今講義中だからうるさい」とばっさり切られてしまった。まゆゆ冷たい!そこに痺れる憧れるぅ!
くう、と携帯を握りしめていたら、駐車場に車が止まった。
「おう、来たな」
「あ!えっと、景虎さん!」
車から降りてきたのは、昨日お世話になった景虎さんだ。ジャバウォックの案内役をしているらしい景虎さんは、薄々やばいガキ共だと思っていたらしい。あれは本当にやり過ぎだった、巻き込んですまんと何故か謝られた。私としては悪いのは断然あいつらなので、本当に気にしないでほしいと伝えて、昨日は病院で別れたのだけど、今日はどうしたのだろうか。
あれ、ていうか今私のことを見て、来た、って言った?
「あの、もしかして兄貴が何か…」
「ああ、#name4#な。あいつには許可貰ってるし、洛山の方にも届けてあるから心配はいらねーからな」
「いやあの、え?つまりどういうことなんです?私、なんで体育館に置き去りにされたんです?」
「……あいつ、説明めんどくさがって逃げたな……」
はあ、と溜息を吐いてる景虎さんは、外は暑いからとりあえず中に入ろうと体育館の中に入れてくれた。どうやら鍵を持っているようだ。ということは、ここを借りているというわけで。
「はっ!!もしかして、昨日言ってたリベンジマッチの練習に?!」
「当たり。優姫にも今回参加してもらおうと思ってな。#name4#のやつ、俺の手で片をつけても良かったんだがな…とか言い出すから全力で止めておいた…」
「ありがとうございます…本当にありがとうございます…」
ちなみに景虎さんは、兄貴とは顔見知りなんだそうだ。一体兄貴の交友関係とは。
そういえば、と景虎さんが私にバスケットボールを放り投げて尋ねてきた。
「今回トレーナーとして参加してもらうつもりなんだが、洛山ではどう練習してるんだ?」
「あー、本当に普通ですよ?基本は男子に混ざって同じメニューこなして、スタメンのスキル強化の時には私が対戦相手になって」
「対戦相手になる?!つーことは、男子と同等にやれる、ってことか」
「いや、普通に試合だと負けるんですけどね!!いつか赤司にぎゃふんと言わせるのが目標です!!」
「そう簡単に負けるつもりはないよ」
「ふぎゃおう?!」
驚きすぎてボールを落としてしまった。転がるボールを拾ったのは、声の主の赤司だ。私同様ボストンバッグを持って、服は洛山のジャージ。京都にいるはずの赤司に再度驚きの悲鳴を上げれば、うるさいよと怒られる。
「リベンジマッチの話、オレにも連絡が来てね。水瓶のことは実渕達には伝えてあるから、向こうの練習は心配しなくても構わない」
「あ、ああー!そっか、あいつらに対抗するメンバーっていったら、キセキの世代!」
そう、あんな奴らでも技術は格段に上。強いとされるスターキーですら対抗できなかった。となれば、あとは彼らに託すしかない。
5人の天才、キセキの世代。彼らが一目置く幻の六番目。
そして、きっともう一人。去年のウィンターカップで赤司に負けを感じさせ、最後の最後まで私達を追い詰めた、キセキならざるキセキ。
そんなメンバーが集まるのだと考えたら、少し、いやかなりワクワクした。つい最近インターハイで戦ったばかりだが、思えばきちんとお話をしたことがあるのなんて青峰と黄瀬くん、かがみんくらいだ。これからここに集まるのか。すごいぞこれは!
……すごいけど、何故私がここに参加を?
「ちょっと待って。うわ、自分の場違い感やばい。帰りたい。景虎さん私帰ってもいいですかね?!」
「いやいや、帰るな帰るな。オレは参加してくれるとすごく心強いと思ってるし、そもそも優姫のことを推薦したやつがいるんだぞ?」
「へ?誰ですか?赤司…なわけがない。むしろ今やばいくらい赤司が怒ってることに気がついてもう振り返ることができない」
「…そうだね。怒ってるよ、ものすごく」
「ひえっ」
赤司が怒っている。おそらく、昨日の私があいつらに啖呵を切った中継を見ていたからだ。赤司は冷や汗をかきながら背中をむける私に、昨日のまゆゆのように深い溜息を吐いた。
「怒っているのは、君が自身を大切に扱わないからだ。その正義感は素晴らしいものだが、もっと相手を見て行動してくれ。君よりも何倍も大きな相手に、真っ向から喧嘩を売りに行く奴があるか」
「うぐ…っ」
「今度からは、オレがいるときにしろ」
「……へ?」
意外な言葉に、おそるおそる振り返ろうとしたのだけど。
「まあ今度があると困るんだが、ね!!」
「ごはうっ!!タップタップ!!首、首ぃ!!」
その前に後ろから抱え込まれ、腕で首を締め付けられる。王様赤司の得意技、チョークスリーパーだ。なんでどっちの赤司もプロレス技しかけてくんの。ていうか首締まってますけどぐはああああ!!
「わーっ!赤司っち何やってるっスかー?!」
「何をしているのだよ赤司…」
「わー、赤ちん力こぶ出てる―。本気のやつじゃんー」
「相変わらず容赦ねえな…」
私が制裁を受けている間に、どうやら到着したらしい。黄瀬くん、みどっち、紫原くん、青峰が赤司と私のようにボストンバッグを背負って立っていた。黄瀬くんは赤司を止めに入ってくれて、そのまま私は体育館の床にお世話になる。そんな私には目もくれず、赤司は爽やかにキセキの世代のみんなを振り返る。
「やあ。こんな状況だが、オレ達がもう一度同じチームで戦うことになるなんて、少し楽しみだね」
「いや赤司っち。なんで普通に日常会話に戻れるんスか。優姫ちゃんうずくまって赤司っちに呪詛吐きだしたじゃないっスか」
「黄瀬、ここにボールがあるね?」
「え、あ、はい」
「これをこう…」
「待った待った!!赤司今何しようとした?!私の頭上にボール落とそうとしてなかった?!」
「………してないよ」
「間!!間がリアル!!」
「あー…とりあえず、お前らとは初めまして、だな?」
赤司が持っていたボールで何かしようとしてきたので飛び起きて抗議するも、景虎さんに声をかけられて全員そっちへ向かってしまった。どうやら着替える場所の案内を受けるようだ。ちょっと待って、私最初から練習着で来させられたんだけど。着替える場所とか私も教えてほしかったんだけど。
赤司に返されたボールを適当にドリブルしていたら、今度は華やかな声と足音が二人分、体育館に入ってきた。
「こんにちはー!お邪魔しまーす!」
「あら、貴女は…洛山のトレーナーね」
桐皇の制服を着ているさつきちゃんと、おそらく誠凛の制服を着ているの相田さん。どうやら今回二人も参加するようだ。いや、この二人なら納得だ。さつきちゃんはキセキの世代と一緒に中学を過ごしていたし、相田さんは誠凛バスケ部の監督を務めている。そういえば、景虎さんの娘さんなんだとか。すごい家系だ。
さつきちゃんとは親しくさせてもらっているが、相田さんとはほぼ初対面だ。挨拶はしっかりしないといけない。
「こんにちは!洛山バスケ部一年トレーナーの水瓶優姫です!えっと、超場違いなんですが、全力で頑張りますのでなにとぞ、なにとぞよろしくお願いいたします!!」
「いいわよ、そんなに堅苦しくなくても。今年のインハイでは戦えなかったけど、来年こそは勝たせてもらうわよ、洛山!」
「なんの!こっちこそ負けないです!それにしても、監督ってすごいですね!!美人監督に責められるかがみん…」
「びっ美人?!ていうか火神君のこと責めたことないわよ?!」
「ああ、これはですねー。優姫ちゃんの癖のようなものです。赤司くん達が集まったらもっとすごいですよ」
「もっとすごいの?!」
ていうか、高校生監督っていう響きがとても良い。誠凛は良いところだ…。桐皇もさつきちゃんという美人マネージャーがいるし。他校の内部事情もっとほしいです。最高です。
「あ、もしかして私のこと推薦してくれたのってさつきちゃん?!」
「え?ううん、私は何も…」
「あれ?!じゃあ本当に誰?!」
「ああ、それなら知ってるわよ」
と、意外なことに相田さんが知っているようだった。誰ですか?!と詰め寄れば、相田さんは体育館の時計を見て「もうすぐ来るわよ」と笑った。
その後、着替えを終えたキセキの世代の面々が戻ってきて、そしてまた体育館の扉が開かれる。
「チューッス」
「すみません、お待たせしました」
やってきたのは、誠凛のかがみんと黒子っち。
これで、メンバーが揃った。
「テツくーんっ!!」
「うぐっ」
「さつき、お前毎回それやんねーと気がすまねえのか」
「青峰もかがみんにやっていいんだよ…」
「やらねえよ!!背後から変なこと言ってくんな!!」
「ぎゃいん!」
ドゴォっと入ってきた黒子っちにさつきちゃんがタックルをした。周囲にはハートマークが。美人マネのタックルとか!うらやましい!
それを見た青峰が呆れたように言うので、本能のままに行ってもいいんだぜと囁いたら頭を叩かれた。黄瀬くんが「大丈夫っスか?!」と心配してくれる。優しい。このイケメンは爆発しなくていい。
そんな感じでわいわいしていたら、はいはい、と景虎さんが手を叩いて場を鎮めてくれた。
「二人は特別チームのアシスタントコーチとマネージャーだ。リコたんは試合までの練習メニュー作成とオレの補佐。桃井ちゃんはチームサポートと情報収集。それから優姫。彼女は洛山でのポジション同様トレーナーだ。リコたんと桃井ちゃんへの指示はオレがするが、優姫への指示は赤司に任せる」
「ちょっと!!やめてよその呼び方!!」
「相手チームのデータならもうまとめてあります!」
「わかりました。ところで、あと控えの選手は?」
様々なリアクションの中、赤司は頷いた後控え選手について尋ねる。そういえば、試合に参加するには控えの選手だって重要だ。キセキの世代を後ろから支える控えの選手は誰が選ばれたのだろう?
景虎さんがボードを見て名前を言おうとしたタイミングで、また体育館に人が入ってきた。
「遅れてすみませーん」
「ちわす」
「なっ日向先輩!」
「高尾!」
「若松!」
「おい青峰!先輩をつけろ!!」
さすが若松さん、相変わらず良いツッコミです。控えの選手は三人。桐皇の若松さん、誠凛の日向さん、秀徳の高尾だった。高尾は嬉しげに手を振りながら入ってくる。
「どーもー!ウチの真ちゃんがお世話になってますー!」
「だまれ高尾」
高緑ありがとうございます。思わず拝んでしまった。もうこの空間最高すぎかよ。
赤司は赤司で少し戸惑った様子の日向さんに紳士的な笑顔で声をかけている。また赤司に新しい男が…おっと誰か来たようだ。
「全員よく来てくれたな。改めて礼を言わせてもらう」
景虎さんがみんなを見渡して、フッと笑う。けれど、目にはあいつらへ向けての闘志が宿っている。
「事情はもうわかってると思うが、アイツらに対抗できるとしたら今ここにいるメンツっきゃねえ。このチームで一週間後のリベンジマッチに挑む。こんな機会はおそらく二度とねえだろう。今回限りのドリームチームだ。…派手に行こうぜ!!」
オオッ!!と全員が声を上げる。全員同じ気持ちだ。アイツらに日本のバスケを、私達のバスケをぶつける。お前達が馬鹿にしていいものじゃないんだって、わからせてやるんだ。
………あれ?何か忘れているような……。
「あっ!そうだ!私結局誰に推薦されたの?!」
「僕です」
「ファッ?!く、黒子っち?!」
「え、僕そんな黄瀬君みたいな呼ばれ方されてたんですか」
「嫌そうな顔しないでほしいっスー!」
近くにいた黄瀬君が涙目だ。なるほどここの人間関係はなかなか萌えそうだ。っと、今はそうじゃなくて。黒子っちに近寄って理由を尋ねてみる。
「なんで私を?」
「テレビ中継を見ました」
あ、もしかしてあの啖呵きったとこだろうか。うん、と話の続きを促すと、黒子っちははっきりと口にする。
「正直、なんて無謀なことをするんだろうと思いました」
「ぐほう!」
「自身よりも体格の良い男達に向かっていって、どう聞いても相手を怒らせるようなことを言って。ぶっちゃけ、馬鹿だと思いました」
「ぐうっ!」
けど、と言葉が続く。
「僕も同じことを言ったと思います。あの人達の言っていることが許せなかった。…昔の僕は、間違いを間違いだと言えなかった。言い続けることができませんでした。だからこそ、どれだけ危険でも僕は言いに行く。あなたたちにやめろと言われる筋合いはない、バスケをするのに資格なんていらないんだ、と」
そう言い切った黒子っちは、誰よりも力強く、覚悟を決めた瞳をしていた。黒子っちの言う昔とは、きっと中学の頃の話だろう。キセキの世代のみんなが変わっていくことを止められなかった、自分を悔やんでいたのだろう。
だから、もう間違えない。今度こそ思っていることをぶつける。言わないと、相手には伝わらないのだから。
「実はさ、前に赤司から中学の話聞いたんだ。その時、黒子っちの友達の試合のことも聞いた」
「…はい」
「それ聞いて、私言ったんだよ。黒子っちも赤司達が間違ってるって思ったなら、ぶん殴ってでも止めてやればよかったのに、って」
そう言ったら、黒子っちは目を瞬かせた。去年のウィンターカップ決勝前夜、昔話を聞いた後赤司に言ったときも同じ顔をしてたっけな。私は小さく首を振って、それからニッと笑って見せた。
「今度は、私と一緒にぶん殴ってでも間違ってるって言ってやろうね!」
キセキの世代にも、チームのみんなにも、そしてジャバウォックの奴らにも。もし間違えたら、間違ってると言ってやる。それで今盛大に間違えまくってるジャバウォックの奴らをコテンパンに負かせて、その考えは間違ってるって言ってやるんだ。
ぐっと親指を立てたら、黒子っちは少し泣きそうに目を歪めてから、頷いて笑った。
「…あ、ところで、さっきの話と私の推薦ってどこから繋がってるの?」
「ふふ。そうですね。もう今答えは出たようなものですから、これ以上は言いません」
「ええ?!ちょ、どこ?!ヒントどこ?!え、ぶん殴る意志の強さ…?無謀なこと…いやこれ馬鹿にされてるやつだ…え、どこに答えが…あ、赤司!赤司君!答えわかった?!」
「……」
「あれ、赤司なんか目元が…ふぎゃあああああ?!突然のアイアンクロー?!頭割れちゃうううううう!!」
ちょおおお!!なんでみんな笑ってんの?!誰か止めてえええええ!!
「赤司君、面白い話があるんです」
子供のようにぐずりながら桃井達と共に簡単なミーティングに向かった水瓶を見送り、アップを始めようとしていたら黒子に声をかけられた。アップの相手をしてくれるようだ。身体の柔軟を一緒にしていたら、ふと黒子がそう言った。面白い話?と尋ねると、黒子は優しい笑みを浮かべる。
「僕も、誠凛のみんなに中学の頃の話をしました。そしたら、火神君が言ったんです。『間違ってると思ったんなら、とにかくぶん殴ってやりゃよかったじゃねーか』って」
「ふふっ…そうか、火神らしいね」
「はい。そして、水瓶さんらしくもあります」
そうだね、黒子。お前は、火神に会って変われたのだろう。火神という光に出会って、お前のバスケを見つけられた。お前の、黒子のバスケという信念を。そして、オレは…僕も見つけたんだ。馬鹿で、正直頭を抱えることの方が多いけれど、腐敗した僕が見た光。
「本当に気まぐれだったと思う。彼女のプレイを見て、勝つために使える駒だと最初は思った。トレーナーという役職を与え、上手く使うつもりだった。…けど、彼女は見ての通りじゃじゃ馬だ。うちの黛さんを覚えてるか?」
「はい、僕と同じ技能を持った選手ですね」
「水瓶は彼を慕っていてね。毎度毎度騒ぐものだから、よく頭を抱えていたよ。それでも、黛さんにとっては光だった。そして、もう一人のオレにとっても」
黒子が声をあげることができなかった言葉を、黒子の友達が口にした言葉を、彼女はもう一人のオレに言った。その言葉がどれほど特別なものか理解もしないで、ただ間違ってる子供を叱るかのように言っただけの、なんでもない言葉で。それに、救われたんだよ。彼女にそれを言っても、首を傾げられたけど。
「なら、今の赤司君にとっては?」
「…聞くまでもないだろう?」
「そうですね。だから、僕は彼女を推薦しました」
赤司君を変えた彼女だから、いてくれたら心強いと思ったんです。
黒子がそう言ってまた優しい笑みを浮かべる後ろで、話を聞いていた青峰が「あいつそんなすげーか?ただの変態だぜ。兄貴超こえーし」と言いながら顔をしかめていたから、思わず笑ってしまった。