影法師にアンコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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合宿も六日目となると、みんなの連携はほぼ完璧になっていた。今日の練習が終わると各々自主練を始める。私は相田さんとさつきちゃんと夕飯の準備にとりかかろうと調理室へ向かい、冷蔵庫を開けて硬直した。
「な、ない…!!材料ほぼゼロ?!」
「えっ?!あ、そっか!昨日スターキーの皆さんと黛さんにも振る舞ったから、今晩分がちょうどなくなっちゃったんだ…!」
「あちゃー…お昼作った時に気付けばよかったわね…」
さつきちゃんも相田さんも申し訳なさそうにしているけど、二人には材料を切ってもらうなど簡単なことしか分担していないので、完全に主犯は私だ。冷蔵庫見た時に少ないなーくらいしか思ってなかった私の落ち度である。
「私材料買ってきますね!超ダッシュで行ってきます!!」
「だ、ダメだよ優姫ちゃん!もう暗いし、せめて赤司君かむっくんを呼んで行かないと」
「大丈夫大丈夫!二人は練習中だろうし、邪魔しちゃ悪いしね!それにお店すぐそこだし、すぐ戻るから!財布もった!よし行ってきまーす!今晩はすき焼きだー!」
「ちょ、ちょっとこら!!あーもー!桃井さん、赤司君に報告行ってきて!!」
「は、はいーっ!」
頭を抱える相田さんとさつきちゃんがいたことなどつゆ知らず、ひゃほーっと夜の町へ繰り出すのだった。
すき焼きの材料を人数分用意すると、とんでもなく重たくなるとなぜ気付かなかったのか。
スーパーマーケットを出て、この重たい荷物をどうしようかと未だにショッピングカートに乗せたまま考えていた。いっそこのカートを借りようか。店員さんにすぐ返しにきますって言ったら貸してくれるかな。いや、こうなったら赤司を呼ぼう。多分怒られるけど、鋼の根性で乗り切ってみせる。
そう思って携帯を取り出すと、良いタイミングで着信があった。まゆゆだ。
「もしもし!」
『相変わらずはえーな…』
「いやー褒めるな褒めるな」
『褒めてねーわ。ここまでテンプレ』
「さすがだわまゆゆ…それでこそ同士よ…」
『このやり取りいるか?てか、そっちにラノベ忘れたから取りに向かってんだけど』
「マジで?!あ、そういえば相田さんが本の忘れ物あったみたいなこと言ってたかも」
多分それ、とまゆゆが溜息交じりに言うけど、今日もまゆゆに会えるのかと思うと私はついにやけてしまう。でもこのままここで立ち往生していたら、まゆゆと入れ違いになってしまう。あ、と閃く。
「ねーねーまゆゆ!今どこ?!」
『今?もうすぐ近くのスーパーマーケットだな』
「グッジョブ!!あのさ、買い出しに来たんだけど、荷物が重くなりすぎて持って帰れなくてさー!まゆゆ運ぶの手伝ってくれない?!」
『マジかよ。まあいいけど』
「やたー!それじゃ店の前で待ってるね!」
電話を終えて、先ほどとは違って嬉々としてカートにもたれかかる。まゆゆ早く来ないかな。うへへ。
そうだ、赤司にも一応連絡して、まゆゆの本のこと話しておこう。電話出るかな。練習中だと出ないかもしれないし、もし繋がらなかったらメールを送っておこう。
もう一度携帯を取り出して、赤司に電話をかけると、わりと早く繋がった。もしもし、と声が聞こえる。
「赤司?あのさ、まゆゆがラノベ忘れたから今から取りに来るって言っててね、ちょうど私も買い出ししてるから、これから合流して一緒に行くから」
『ラノベを?…ああ、今相田さんが見せてくれたよ。多分これだな。あと、相田さんから報告を受けたが、一人で買い出しに出たんだね?水瓶?』
「ひぃ!声色が魔王に!!いけると思ってました!!ごめんなさい!!」
わあ、すごく深い溜息が聞こえるぞう!帰ったら正座で説教のフルコース間違いなしだ!泣きそう!
もう一度謝ろうとした所で、唐突に背後から肩をがしりと掴まれた。力の強さとか気にもせず、あ、まゆゆが来たんだ、と思って振り返ると同時に私の肩から手を離して携帯を掴まれる。高い位置にある顔を見て、名前を口にする。
「ナッシュ?」
プチ、と電話を切られて、ぽいっと投げ返された。落とさないようにそれを受け止めて、とにかく諸々文句を言わねばと顔を上げたら、今度は軽々と抱きかかえられたではないか。まるで俵を担ぐようにだ。
「おいこらーっ?!なにすんだこんちくしょーっ?!」
「何言ってるかわかんねー。英語で話せ」
「少しは日本語も覚えてくれます?!」
そう英語で返せば、ナッシュは歩きながらおかしそうに笑った。というか、なんでナッシュがこんな所にいるのか。景虎さんの話だとお店ではしゃいでいるはずでは。ていうかなんで私こんなホストみたいな格好に人に俵担ぎされてるんですかね?!顔も見えないからどんな表情しているのかわからないけど、絶対あくどい顔して笑ってるに違いない。
「お前、どこで言葉覚えた?」
「はい?どこって、親がロスにいるから、お祝い事とかでそっち行ったりしてたら自然と…」
「他の猿どもよりはマシな発音してんじゃねえか」
「あ、そう?ありがと…じゃなくてええええ?!こんな世間話するような仲じゃないんですけど私達!!」
私の中では絶賛誘拐され中なのだけど、会話が英語なためか、通り過ぎていく人達は「わあ英語だわ」みたいな顔でスルーしていく。解せぬ。兄妹かしら、なんて言っている人もいたが、こんな極悪顔の兄なんていませ……いやいましたすみません。けどパッキンの兄はいないです!!
「ちょっとナッシュこのやろーっ!!どこにつれてく気?!私買い出しの途中なんだけど!!」
「そんなのどうでもいい。こっちはお前らのせいで退屈でしかたねえんだよ」
「はあ?」
「勝ちの決まってる勝負なんか、くそつまんねえに決まってんだろ。わざわざ明日まで待ってやるのもオレらにとっちゃ苦痛で仕方ねえ」
ナッシュの言い分にカチンときた私は、どこかの店の扉を開けた瞬間に勢いよく腕からもがいて抜け出した。ゴロゴロと転がって、近くにあったテーブルに頭をぶつける。
「いったあ…」
「暴れんじゃねえよ小猿」
「誰が小猿じゃ!!ていうか、そっちこそ何言ってんの?!勝ちの決まってる勝負なんてないっての!!」
はあ?とナッシュが苛立ったように眉をひそめるが、ここで引いてはいられない。間違っていることには、間違っていると言ってやらないといけないのだ。そうやって、黒子っちとも約束をしたし、なにより赤司にも言ったことを嘘にはしない。
「そんな風に考えて、笠松さん達のことを貶してふんぞり返ってるお前達なんかに、うちのチームは負けたりしない!明日、リベンジマッチでそれをわからせてやる!!」
「あー、うるせえ小猿だぜ。おいてめえら、こいつひん剥いてやれ」
「こんな貧相なちびっ子をかよ?」
「ナッシュも好きものだねえ」
「ぎゃああああ?!こっちくんなああああ!!」
何を思ったのかシルバー達が私の服を引っぺがそうとするので、店の中を逃げ回る。ごめんなさい店員さん!ごめんなさい綺麗なお客様達!全部ジャバウォックが悪いです!ていうか、こんな高級そうなお店ではしゃいでんのジャバウォック?!景虎さんにも謝罪させよう、そうしよう!
「ってほぎゃあ?!」
いよいよ追い詰められた。奥の部屋のふかふかの椅子に放り投げられた私は、顔の両端をナッシュの腕に阻まれ逃げ場を失ってしまった。どうしてこんなことに。私はただすき焼きの材料を買いに出かけて、まゆゆのことを待っていただけなのに。それもこれも、全部目の前の男が悪いのだ。灰崎よりもタチが悪いぞこの野郎!
キッとにらみ付ければ、ナッシュは何が可笑しいのか喉を鳴らして笑った。
「ほんっと、色気も何もありゃしねえな」
「ほっとけ!!ていうか何すんのさ!!正々堂々バスケで勝負しろこのヤロー!!」
「だから何度も言ってんだろ。てめえらサルのバスケで人間様に勝とうっていうのが間違いなんだよ」
「だっかっら!!あーもう!いいからどいてっての!!これからすき焼きするんだから!!うぐっ!!」
「いい加減黙れ」
顎を掴まれた。痛い。なんで私がこんな目に。そう思ったけど、よくよく考えれば最初に啖呵切ったのは私だった。ナッシュの顔が近づいてくる。何をされるのかわからないけど、ふと頭をよぎったのはまゆゆだった。
途端に怖くなる。涙も滲んできた。私が悪かったよ、もうまゆゆや赤司の言うとおり、無茶なことはしないように頑張るから。だから。
助けて。
「…まゆゆ…っ」
ダンッ、と大きな音が響いた。
閉じていた目を開けると、開けた入り口に立つ、ずっと焦がれた姿が見えた。
まゆゆだ。
そう思うや否、私は音のした方を振り返っているナッシュの隙を抜いて駆けだした。一目散にまゆゆに飛び込めば、しっかりと受け止めてくれて私はまた泣きそうになる。
「何もされてないか」
一言そう問われ、首を何度も縦に振る。まゆゆがホッと胸をなで下ろしたような気がした。
「大丈夫っスか?!優姫ちゃん!!」
「テメーら…うちの仲間に何してくれてんだよ」
どうやらみんないるらしく、黄瀬君が声をかけてくれ、青峰が凄む声が聞こえた。
「ほー?お前らが明日の対戦相手ってわけか。ちょっとはマシなサルが出てきたじゃねえか」
楽しそうなシルバーの声。それに返事をしたのはかがみんだ。
「水瓶に何しやがった!!」
「何もしてねえよ。お前らに邪魔されたからな」
「このゲスどもめ」
「貴方達はどこまで最低なんですか」
みどっちが珍しく怒っている。その隣に立つ黒子っちも怒りを滲ませている。
それでも怯むことのないシルバー達はにやにやと笑っていた。
「いいからそいつ返せよ。てめえらとは明日やるんだろ?ならそいつくらい担保でよこせ」
「それ以上近づいたら、ひねり潰すよ」
敦が私達の前に立って、英語でそう返した。敦、英語できるんだ。初めて知った。私の手はまだ震えていた。
そっと、まゆゆにしがみつく手を撫でられる。少しだけ顔をずらして見ると、赤司が私を心配そうに覗き込んでいた。
「無事か?」
「…うん」
赤司はそうか、と微笑む。それからみんなに向き直ると、ナッシュ達の存在などないように振る舞った。
「ここで殴り合っても無意味なだけだ。行くぞ」
青峰とかがみんが舌打ちするも、赤司の言う通りだとわかっているようで素直に踵を返す。それにともなって、まゆゆも私の身体を支えながら歩かせてくれた。ぞろぞろと出て行こうとする私達の後ろでは、シルバーが下品な笑い声を上げた。
「間抜けな上に腰抜けかよ!!だからサルなんだっての!!明日はチビらねえようにせいぜい替えのオムツを沢山持ってくるんだな!!」
「その小猿を大事にしてやれよ。明日からはオレのものだからな」
「黙れゲスが」
足を止めて、そう冷徹に答えたのは赤司だった。本気で怒っているその声は、どこか前の赤司を彷彿とさせた。
「お前達こそ首を洗って待っていろ。明日は地べたを舐めさせてやる」
店を離れた後、赤司の提案で近くの公園で一度クールダウンすることになり、ベンチに座らされた。隣に座るまゆゆが、これでもかというくらいの溜息を吐く。
「お前ほんと…ほんとに勘弁してくれ…」
「……ごべんなざい……」
「ああっ泣かないでっス!はい、これで涙拭いて」
イケメン、もとい黄瀬君が差し出してくれたハンカチで涙を拭きつつ、こんな大事にしてしまったことに後悔して今度は胸が痛かった。明日は試合なのに、みんなを精神的にも身体的にも疲れさせてしまった。私は本当にバカだ。そう思ったらまた悲しくなって涙がにじみ出る。
「水瓶さん、僕達は君に怒ってなんていませんよ」
私の前に立った黒子っちが、子供をあやすように優しく話しかけてくれる。顔を上げて黒子っちを見ると、優しい顔をしていた。
「怒ってるのではなく、心配したんです。赤司君との電話の最中に『ナッシュ』と告げて電話が切れたと聞きました。その後何度もかけ直したのに繋がらなくて本当に焦りましたよ」
「あ、そういえば、ナッシュに携帯取り上げられて電話切られた…」
ポケットに放り込まれた携帯を取り出して見ると、みんなから何度も電話がかかってきていた。その頃おそらく店内を逃げ回っていたから気付かなかったのだ。
「本当にごめん…」
「いいんです。水瓶さんが無事で本当に良かったです」
「黒子っち…いい男…」
「ありがとうございます。それじゃあ、これから赤司君の説教があるので正座してくださいね」
「正座?!クールダウンするために休憩してるんじゃなかったっけ?!」
「水瓶」
「あっもう説教する顔をしている!!」
黒子っちが無表情のまま赤司を前に出し、私の頭上で魔王オーラをまき散らしながらいかに一人で行動することが危険か無防備すぎるのが問題だ、などたっぷり一時間は聞かされ、赤司のクールダウンが終わったところで体育館へ戻ることになった。ちなみに材料は景虎さん達が持ち帰ってくれたらしい。お礼を言わないとな。あとで改めて赤司達にも言おう。
みんなが前を歩く中、まゆゆと並んで歩く。まゆゆにも、ちゃんと言わないと。
「まゆゆ、心配かけてごめん」
「本当にな」
「うぐ…あのね、その…来てくれて、ありがとう」
足を止めないまま、ポツリポツリとあの時思ったことを白状する。恥ずかしいけど、伝えたかった。
「ナッシュが迫ってきたとき、まゆゆが頭をよぎってね、助けてって、思ったんだ。そしたら本当にまゆゆが来てくれたから…私、夢でも見てるのかなって一瞬思ったけど…まゆゆは心配して来てくれたんだよね。まゆゆ、ほんとにありがとう」
「……優姫」
「うん?なに」
言葉が吸い込まれた。
名前を呼ばれて顔を上げると、まゆゆの顔があっという間に近づいて、重なった。
何が起きたかわからないまま、目をぱちりとさせる。顔を離したまゆゆは、いつもより男の顔をしているように見えた。心臓が、バクバクと鳴り始める。
「…明日、頑張れよ」
置き忘れていた本を受け取っていたらしいまゆゆは、ヒラヒラと手を振って私たちとは違う道へと去っていった。その後ろ姿を見つめながら、今何をされたのか必死に整理する。
そして、まゆゆにキスをされたのだと自覚した時にはこれでもかというくらい顔を真っ赤にしてその場に蹲ってしまい、また黄瀬君に心配されてしまったのだった。
「な、ない…!!材料ほぼゼロ?!」
「えっ?!あ、そっか!昨日スターキーの皆さんと黛さんにも振る舞ったから、今晩分がちょうどなくなっちゃったんだ…!」
「あちゃー…お昼作った時に気付けばよかったわね…」
さつきちゃんも相田さんも申し訳なさそうにしているけど、二人には材料を切ってもらうなど簡単なことしか分担していないので、完全に主犯は私だ。冷蔵庫見た時に少ないなーくらいしか思ってなかった私の落ち度である。
「私材料買ってきますね!超ダッシュで行ってきます!!」
「だ、ダメだよ優姫ちゃん!もう暗いし、せめて赤司君かむっくんを呼んで行かないと」
「大丈夫大丈夫!二人は練習中だろうし、邪魔しちゃ悪いしね!それにお店すぐそこだし、すぐ戻るから!財布もった!よし行ってきまーす!今晩はすき焼きだー!」
「ちょ、ちょっとこら!!あーもー!桃井さん、赤司君に報告行ってきて!!」
「は、はいーっ!」
頭を抱える相田さんとさつきちゃんがいたことなどつゆ知らず、ひゃほーっと夜の町へ繰り出すのだった。
すき焼きの材料を人数分用意すると、とんでもなく重たくなるとなぜ気付かなかったのか。
スーパーマーケットを出て、この重たい荷物をどうしようかと未だにショッピングカートに乗せたまま考えていた。いっそこのカートを借りようか。店員さんにすぐ返しにきますって言ったら貸してくれるかな。いや、こうなったら赤司を呼ぼう。多分怒られるけど、鋼の根性で乗り切ってみせる。
そう思って携帯を取り出すと、良いタイミングで着信があった。まゆゆだ。
「もしもし!」
『相変わらずはえーな…』
「いやー褒めるな褒めるな」
『褒めてねーわ。ここまでテンプレ』
「さすがだわまゆゆ…それでこそ同士よ…」
『このやり取りいるか?てか、そっちにラノベ忘れたから取りに向かってんだけど』
「マジで?!あ、そういえば相田さんが本の忘れ物あったみたいなこと言ってたかも」
多分それ、とまゆゆが溜息交じりに言うけど、今日もまゆゆに会えるのかと思うと私はついにやけてしまう。でもこのままここで立ち往生していたら、まゆゆと入れ違いになってしまう。あ、と閃く。
「ねーねーまゆゆ!今どこ?!」
『今?もうすぐ近くのスーパーマーケットだな』
「グッジョブ!!あのさ、買い出しに来たんだけど、荷物が重くなりすぎて持って帰れなくてさー!まゆゆ運ぶの手伝ってくれない?!」
『マジかよ。まあいいけど』
「やたー!それじゃ店の前で待ってるね!」
電話を終えて、先ほどとは違って嬉々としてカートにもたれかかる。まゆゆ早く来ないかな。うへへ。
そうだ、赤司にも一応連絡して、まゆゆの本のこと話しておこう。電話出るかな。練習中だと出ないかもしれないし、もし繋がらなかったらメールを送っておこう。
もう一度携帯を取り出して、赤司に電話をかけると、わりと早く繋がった。もしもし、と声が聞こえる。
「赤司?あのさ、まゆゆがラノベ忘れたから今から取りに来るって言っててね、ちょうど私も買い出ししてるから、これから合流して一緒に行くから」
『ラノベを?…ああ、今相田さんが見せてくれたよ。多分これだな。あと、相田さんから報告を受けたが、一人で買い出しに出たんだね?水瓶?』
「ひぃ!声色が魔王に!!いけると思ってました!!ごめんなさい!!」
わあ、すごく深い溜息が聞こえるぞう!帰ったら正座で説教のフルコース間違いなしだ!泣きそう!
もう一度謝ろうとした所で、唐突に背後から肩をがしりと掴まれた。力の強さとか気にもせず、あ、まゆゆが来たんだ、と思って振り返ると同時に私の肩から手を離して携帯を掴まれる。高い位置にある顔を見て、名前を口にする。
「ナッシュ?」
プチ、と電話を切られて、ぽいっと投げ返された。落とさないようにそれを受け止めて、とにかく諸々文句を言わねばと顔を上げたら、今度は軽々と抱きかかえられたではないか。まるで俵を担ぐようにだ。
「おいこらーっ?!なにすんだこんちくしょーっ?!」
「何言ってるかわかんねー。英語で話せ」
「少しは日本語も覚えてくれます?!」
そう英語で返せば、ナッシュは歩きながらおかしそうに笑った。というか、なんでナッシュがこんな所にいるのか。景虎さんの話だとお店ではしゃいでいるはずでは。ていうかなんで私こんなホストみたいな格好に人に俵担ぎされてるんですかね?!顔も見えないからどんな表情しているのかわからないけど、絶対あくどい顔して笑ってるに違いない。
「お前、どこで言葉覚えた?」
「はい?どこって、親がロスにいるから、お祝い事とかでそっち行ったりしてたら自然と…」
「他の猿どもよりはマシな発音してんじゃねえか」
「あ、そう?ありがと…じゃなくてええええ?!こんな世間話するような仲じゃないんですけど私達!!」
私の中では絶賛誘拐され中なのだけど、会話が英語なためか、通り過ぎていく人達は「わあ英語だわ」みたいな顔でスルーしていく。解せぬ。兄妹かしら、なんて言っている人もいたが、こんな極悪顔の兄なんていませ……いやいましたすみません。けどパッキンの兄はいないです!!
「ちょっとナッシュこのやろーっ!!どこにつれてく気?!私買い出しの途中なんだけど!!」
「そんなのどうでもいい。こっちはお前らのせいで退屈でしかたねえんだよ」
「はあ?」
「勝ちの決まってる勝負なんか、くそつまんねえに決まってんだろ。わざわざ明日まで待ってやるのもオレらにとっちゃ苦痛で仕方ねえ」
ナッシュの言い分にカチンときた私は、どこかの店の扉を開けた瞬間に勢いよく腕からもがいて抜け出した。ゴロゴロと転がって、近くにあったテーブルに頭をぶつける。
「いったあ…」
「暴れんじゃねえよ小猿」
「誰が小猿じゃ!!ていうか、そっちこそ何言ってんの?!勝ちの決まってる勝負なんてないっての!!」
はあ?とナッシュが苛立ったように眉をひそめるが、ここで引いてはいられない。間違っていることには、間違っていると言ってやらないといけないのだ。そうやって、黒子っちとも約束をしたし、なにより赤司にも言ったことを嘘にはしない。
「そんな風に考えて、笠松さん達のことを貶してふんぞり返ってるお前達なんかに、うちのチームは負けたりしない!明日、リベンジマッチでそれをわからせてやる!!」
「あー、うるせえ小猿だぜ。おいてめえら、こいつひん剥いてやれ」
「こんな貧相なちびっ子をかよ?」
「ナッシュも好きものだねえ」
「ぎゃああああ?!こっちくんなああああ!!」
何を思ったのかシルバー達が私の服を引っぺがそうとするので、店の中を逃げ回る。ごめんなさい店員さん!ごめんなさい綺麗なお客様達!全部ジャバウォックが悪いです!ていうか、こんな高級そうなお店ではしゃいでんのジャバウォック?!景虎さんにも謝罪させよう、そうしよう!
「ってほぎゃあ?!」
いよいよ追い詰められた。奥の部屋のふかふかの椅子に放り投げられた私は、顔の両端をナッシュの腕に阻まれ逃げ場を失ってしまった。どうしてこんなことに。私はただすき焼きの材料を買いに出かけて、まゆゆのことを待っていただけなのに。それもこれも、全部目の前の男が悪いのだ。灰崎よりもタチが悪いぞこの野郎!
キッとにらみ付ければ、ナッシュは何が可笑しいのか喉を鳴らして笑った。
「ほんっと、色気も何もありゃしねえな」
「ほっとけ!!ていうか何すんのさ!!正々堂々バスケで勝負しろこのヤロー!!」
「だから何度も言ってんだろ。てめえらサルのバスケで人間様に勝とうっていうのが間違いなんだよ」
「だっかっら!!あーもう!いいからどいてっての!!これからすき焼きするんだから!!うぐっ!!」
「いい加減黙れ」
顎を掴まれた。痛い。なんで私がこんな目に。そう思ったけど、よくよく考えれば最初に啖呵切ったのは私だった。ナッシュの顔が近づいてくる。何をされるのかわからないけど、ふと頭をよぎったのはまゆゆだった。
途端に怖くなる。涙も滲んできた。私が悪かったよ、もうまゆゆや赤司の言うとおり、無茶なことはしないように頑張るから。だから。
助けて。
「…まゆゆ…っ」
ダンッ、と大きな音が響いた。
閉じていた目を開けると、開けた入り口に立つ、ずっと焦がれた姿が見えた。
まゆゆだ。
そう思うや否、私は音のした方を振り返っているナッシュの隙を抜いて駆けだした。一目散にまゆゆに飛び込めば、しっかりと受け止めてくれて私はまた泣きそうになる。
「何もされてないか」
一言そう問われ、首を何度も縦に振る。まゆゆがホッと胸をなで下ろしたような気がした。
「大丈夫っスか?!優姫ちゃん!!」
「テメーら…うちの仲間に何してくれてんだよ」
どうやらみんないるらしく、黄瀬君が声をかけてくれ、青峰が凄む声が聞こえた。
「ほー?お前らが明日の対戦相手ってわけか。ちょっとはマシなサルが出てきたじゃねえか」
楽しそうなシルバーの声。それに返事をしたのはかがみんだ。
「水瓶に何しやがった!!」
「何もしてねえよ。お前らに邪魔されたからな」
「このゲスどもめ」
「貴方達はどこまで最低なんですか」
みどっちが珍しく怒っている。その隣に立つ黒子っちも怒りを滲ませている。
それでも怯むことのないシルバー達はにやにやと笑っていた。
「いいからそいつ返せよ。てめえらとは明日やるんだろ?ならそいつくらい担保でよこせ」
「それ以上近づいたら、ひねり潰すよ」
敦が私達の前に立って、英語でそう返した。敦、英語できるんだ。初めて知った。私の手はまだ震えていた。
そっと、まゆゆにしがみつく手を撫でられる。少しだけ顔をずらして見ると、赤司が私を心配そうに覗き込んでいた。
「無事か?」
「…うん」
赤司はそうか、と微笑む。それからみんなに向き直ると、ナッシュ達の存在などないように振る舞った。
「ここで殴り合っても無意味なだけだ。行くぞ」
青峰とかがみんが舌打ちするも、赤司の言う通りだとわかっているようで素直に踵を返す。それにともなって、まゆゆも私の身体を支えながら歩かせてくれた。ぞろぞろと出て行こうとする私達の後ろでは、シルバーが下品な笑い声を上げた。
「間抜けな上に腰抜けかよ!!だからサルなんだっての!!明日はチビらねえようにせいぜい替えのオムツを沢山持ってくるんだな!!」
「その小猿を大事にしてやれよ。明日からはオレのものだからな」
「黙れゲスが」
足を止めて、そう冷徹に答えたのは赤司だった。本気で怒っているその声は、どこか前の赤司を彷彿とさせた。
「お前達こそ首を洗って待っていろ。明日は地べたを舐めさせてやる」
店を離れた後、赤司の提案で近くの公園で一度クールダウンすることになり、ベンチに座らされた。隣に座るまゆゆが、これでもかというくらいの溜息を吐く。
「お前ほんと…ほんとに勘弁してくれ…」
「……ごべんなざい……」
「ああっ泣かないでっス!はい、これで涙拭いて」
イケメン、もとい黄瀬君が差し出してくれたハンカチで涙を拭きつつ、こんな大事にしてしまったことに後悔して今度は胸が痛かった。明日は試合なのに、みんなを精神的にも身体的にも疲れさせてしまった。私は本当にバカだ。そう思ったらまた悲しくなって涙がにじみ出る。
「水瓶さん、僕達は君に怒ってなんていませんよ」
私の前に立った黒子っちが、子供をあやすように優しく話しかけてくれる。顔を上げて黒子っちを見ると、優しい顔をしていた。
「怒ってるのではなく、心配したんです。赤司君との電話の最中に『ナッシュ』と告げて電話が切れたと聞きました。その後何度もかけ直したのに繋がらなくて本当に焦りましたよ」
「あ、そういえば、ナッシュに携帯取り上げられて電話切られた…」
ポケットに放り込まれた携帯を取り出して見ると、みんなから何度も電話がかかってきていた。その頃おそらく店内を逃げ回っていたから気付かなかったのだ。
「本当にごめん…」
「いいんです。水瓶さんが無事で本当に良かったです」
「黒子っち…いい男…」
「ありがとうございます。それじゃあ、これから赤司君の説教があるので正座してくださいね」
「正座?!クールダウンするために休憩してるんじゃなかったっけ?!」
「水瓶」
「あっもう説教する顔をしている!!」
黒子っちが無表情のまま赤司を前に出し、私の頭上で魔王オーラをまき散らしながらいかに一人で行動することが危険か無防備すぎるのが問題だ、などたっぷり一時間は聞かされ、赤司のクールダウンが終わったところで体育館へ戻ることになった。ちなみに材料は景虎さん達が持ち帰ってくれたらしい。お礼を言わないとな。あとで改めて赤司達にも言おう。
みんなが前を歩く中、まゆゆと並んで歩く。まゆゆにも、ちゃんと言わないと。
「まゆゆ、心配かけてごめん」
「本当にな」
「うぐ…あのね、その…来てくれて、ありがとう」
足を止めないまま、ポツリポツリとあの時思ったことを白状する。恥ずかしいけど、伝えたかった。
「ナッシュが迫ってきたとき、まゆゆが頭をよぎってね、助けてって、思ったんだ。そしたら本当にまゆゆが来てくれたから…私、夢でも見てるのかなって一瞬思ったけど…まゆゆは心配して来てくれたんだよね。まゆゆ、ほんとにありがとう」
「……優姫」
「うん?なに」
言葉が吸い込まれた。
名前を呼ばれて顔を上げると、まゆゆの顔があっという間に近づいて、重なった。
何が起きたかわからないまま、目をぱちりとさせる。顔を離したまゆゆは、いつもより男の顔をしているように見えた。心臓が、バクバクと鳴り始める。
「…明日、頑張れよ」
置き忘れていた本を受け取っていたらしいまゆゆは、ヒラヒラと手を振って私たちとは違う道へと去っていった。その後ろ姿を見つめながら、今何をされたのか必死に整理する。
そして、まゆゆにキスをされたのだと自覚した時にはこれでもかというくらい顔を真っ赤にしてその場に蹲ってしまい、また黄瀬君に心配されてしまったのだった。