影法師にアンコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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「やーっと来たっス!もうみんな始めてるっスよ!」
まゆゆと一緒に体育館に到着すると、黄瀬くんが手を振ってこっちだと教えてくれた。どうやら祝勝会は体育館の中の一角、自販機の前で行われているらしい。景虎さんはお酒を飲んでいるようで、真っ赤な顔で勝利を喜んでいた。
「はい優姫ちゃん!お菓子も沢山あるっスよー!」
「ありがと黄瀬くん!ほいまゆゆ!まゆゆおつかれー!」
「いやオレ何もしてねえし。まあもらえるもんはもらうけど。って痛ぇ」
いきなり声を上げたまゆゆに、黄瀬くんと二人驚いて目を見張る。見れば、葉山先輩がまゆゆの脇腹にチョップを入れたようだ。その隣にずらりと並ぶ洛山バスケ部の面々、そして今吉先輩達スターキー。
「黛サーン?オレらに言うことあるんじゃないのー?」
「ええ!もちろんあるわよね、黛サン?!」
「赤司がお膳立てしたんだ、ないわけねえよな?」
「おいやめろ、引きずるな。オレをどこに連れていく気だ。言う、言うから運ぶな根武谷」
「堪忍なあ、優姫ちゃん。ちょこっと黛借りるで」
「あ、はい。出来れば無傷で返してくださいね……あっでもまゆゆ総受け展開はウェルカムどんとこいなのでその場合は動画撮影よろしくお願いします!!」
「優姫お前覚えてろよ!」
と、まゆゆの捨て台詞が綺麗に決まり、そのまま根武谷先輩に運ばれていく。今吉さんがめちゃくちゃ楽しそうにしてたけど、本当に無傷で返してくださいね……。
残ったのは赤司と黄瀬くんだけで、少し楽しそうに見送っていた赤司が私に缶ジュースを向ける。
「何はともあれ、お疲れ様。一週間とはいえ、なかなか貴重な体験になったな」
「お疲れ様ー!ほんとそれ!ジャバウォックはほんと腹立ったけど、キセキの世代にかがみんと黒子っちが同じチームで戦うのってすっごく興奮した!今回が特別だったってのはわかるけどさ、もう一回くらいみんなで試合したいよねー!」
「ああ、そうだね。ところで優姫、黛さんとはきちんと話ができたかい?」
「ぐほう!!えっ、はい?!ななな何を急に?!」
突然まゆゆのことを聞いてくるものだから、漫画みたいにあわあわと狼狽えてしまった。私の反応が予想通りだったらしく、赤司は肩を揺らして笑っていた。
「なんとかなったようで良かったよ。それじゃあ、それも含めて祝おうか?」
「やーめーてー!まゆゆの方はいいから、はい!ヴォーパルソーズおめでとーっ!!おらおらー!飲め赤司ー!私のジュースが飲めんのかーっ!!」
「将来酒を飲むときは絶対オレを誘うなよ」
「あたたたた!関節技のキレが良い!!」
赤司に関節技を決められている私を見て、高尾がまた爆笑していてさらには青峰まで笑っていたので二人には跳び蹴りすると決めました。
「そういえば、さっき誠凛の奴らどっか行ったけど、なんだろーねー」
のそりと背後にやってきた敦は、そう言って私の頭に腕を乗せてポッキーを囓っている。そう言われると、たしかに誠凛の人達だけ姿を消していた。話を聞いていたみどっちが「黒子が来て外につれていったのだよ」と教えてくれた。
「黒子っちが?なんだろ?」
「ふむ、気になるし、みんなで覗きに行こうか」
「えっ赤司っちがそんなこと言うなんて!」
「驚いたのだよ…」
「どーせ優姫の悪影響でしょー?」
「ぜってーそれだわ」
「優姫ちゃんの影響で変わる赤司君は未知数すぎてデータ更新できないんだよね。うん、すごいよ優姫ちゃん!」
「貶されてるのか褒められてるのかどっちなの?!いやこれ貶されてるほうだな?!あと未だ爆笑してる高尾!前から思ってたけど高尾の笑いの沸点低すぎない?!」
外に出ると、すぐに誠凛のみんなの姿が見えた。けど、どこか神妙な空気を感じて、声をかけずに様子をうかがう。
「お前はそれでいいのかよ!黒子!」
「はい。火神君が望むなら、それを全力で応援すべきだと思います」
黒子っちの声が、少し震えていた。
「本当にすんません。でも、自分の夢やみんなのこと、考えて、朝まで考えて……それでもオレはアメリカに行ってみたい……!!」
かがみんが、アメリカに行く?
NBAを目指すために、アメリカの高校に行く、という話のようだった。
ふと思い出したのは、一週間の練習の合間に見た、かがみんのキセキの世代や黒子っちを見つめる視線。あれは、別れを思ってみんなを見ていたのか。寂しいと、思ってくれていたのだろうか。
「そういうことだったんスかー!」
黄瀬くんが声をかけながら、かがみんの所へ近づいていった。それに連なるように赤司達も出て行く。みんなの目は、寂しいと同時に、どこか熱い思いを秘めているように感じた。
「どーりでなんか様子が変だと思ったんスよねー」
「ふーん、火神、アメリカ行くのー」
「つーかなんでお前なんだよ!実力的にはオレだろうーが!」
「ちょっと待て青峰。いつからお前が一番になったのだよ」
わーわーと騒ぐみどっちと青峰を横目に、赤司は思わずといったように笑みを漏らし、かがみんの前へ立った。
「みんな色々思うところはあるだろうが、オレ達も応援している。頑張れよ、火神」
「!赤司……」
かがみんが驚いたように息をのむ。赤司は相変わらず笑みを浮かべたまま。
「少し寂しくもある。それだけお前は強敵で、お前との試合は思い出深いものだった。出会えて良かった。火神大我。お前はオレ達にとって最高のライバルで、最高の友だ」
赤司の声は、穏やかで嬉しそうだった。かがみんが視線を、キセキの世代へと向ける。黄瀬くん、青峰、みどっち、敦、それからさつきちゃんと、私。
かがみんと目が合って、私は初めて会った日のことを思い出した。
去年のWCで開会式に間に合わず、迷子になっていた時、かがみんとぶつかった。鳥の羽根がかがみんの背後を舞っていて、天使かと思った。
『私は洛山のトレーナーしてます、一年の水瓶優姫です!』
『オレは誠凛の一年、火神大我だ、です。洛山ってことは、キセキの世代がいるとこだよな?そいつにぶっ倒すって伝えといてくれよ!』
『はーーーバスケ馬鹿な天使とかもーーーーー!!え?ていうか火神くん打倒キセキの世代?つまり、レギュラー?』
『おう!当たってもぜってー負けねえからな!』
『こっちこそ!』
二人して、顔を合わせて笑ったのを覚えている。
そしてうちとの決勝戦。赤司を負かし、私達を追い詰めたあの試合は、これから先も忘れることはない。
かがみんと、これからの大会で戦えることはなくなるけど、それでも絆が消えるわけじゃない。バスケをしていれば、いつかどこかで出会える。
だから、寂しいけど、私も見送るよ。
「かがみん、私もめちゃくちゃ応援してるからね!!頑張れ!かがみん!!」
「…おう!ありがとな!」
「アメリカで襲われそうになったら『オレには青峰って彼氏がいる』ってちゃんと言うんだよっていたたたた青峰やめてポニテ引っ張らないでちーぎーれーるーっ!!」
「こんな時まで変なこと言ってんじゃねえよこの変態女!!」
「そうですよ水瓶さん。彼氏なら青峰君より僕の方がいいと思います」
「「テツ(黒子っち)?!」」
フフフと黒子っちが悪い顔で笑っている。おお、魔王がここにもいたなんて。っていたいいたい魔王の赤司よ、私の頭を鷲掴みにするのやめてください!!
「オレ達からの餞別として、ひとつ提案があるんだが」
と、私の頭を離して、かがみん含め誠凛のみんなへ赤司が向き直る。
「オレ達は今日、火神にとって日本最後の試合をプレイできた。だが、誠凛としてはそれで終わるのは寂しいのではないかと思ってね。今からもう一試合しないか?誠凛対オレ達、キセキの世代で」
とても良い笑顔だった。うん、驚くよね誠凛の皆さん。でもこれが赤司です。慣れてください。
案の定全員が驚きの声を上げた。
「ああ、大丈夫。ユニフォームはもう用意してもらっているから」
「どんだけ未来視えてんの赤司?!」
誠凛の小金井さんのツッコミのキレが良い。
けど、みんなやる気満々の表情だ。ここは私も引っ込んでいる場合ではない。
「はいはい!!最後の試合なら、私も出たいです!!キセキ側で!!」
「もちろんっスよ!優姫ちゃんのスリーであっと言わせるっス!」
「黄瀬くん……!!ファンクラブ入るから申請するところ教えて……!!」
「誠凛の皆さんが良ければ、優姫も試合に出そうと思いますが良いですか?」
もちろん、と全員が頷いてくれた。
ワクワクしながら、用意して貰ったユニフォームを私も着る。かがみんや黒子っち、日向さんは何度か試合形式で一緒にバスケしたことがあるけど、他のメンバーとは初めてだから、とても楽しみだ。コートの外では、いつの間にか戻ってきた各学校のみんな、スターキーのみんなも、まゆゆ達も戻ってきていて、楽しそうに私達を見ていた。
そして始まったかがみんへの餞別試合、ラストゲームはすごく楽しくて、きっと何年経っても色あせない思い出になった。
――――…
季節は巡り、あっという間にかがみんの旅立ちの日がやってきた。
空港の入り口で、誠凛のみんなといるかがみんを見つけて声をかけると、かがみんがこちらへと走ってきてくれた。
誰がいうでもなく集まったキセキの世代、それから私とさつきちゃん。私達を見て、かがみんは嬉しそうに笑った。
「来てくれたのか!」
「もちろん。向こうでも頑張れよ、火神」
「ああ!お前らも、元気でな」
赤司を始め、各々不器用ながらも声をかけていく。黄瀬くんはいつもの調子で寂しくなるっスー!と飛びついて、何故か青峰に叩かれていた。私とさつきちゃんも、一緒に作ったお菓子を飛行機の中で食べてと手渡す。一瞬全員が固まったが、私味見したから!と力説したらどうにか落ち着いた。さつきちゃんの手料理の殺傷能力、キセキの世代のトラウマになってやしないか……。
かがみんはもう一度ありがとうと言って、手を振って行ってしまった。
見送りのできる空港の屋上へ行き、ベンチに座ってしばらく待っていると、飛行機が空を飛んでいく。きっと、あれにかがみんは乗っているのだろう。
「はー…本当に行っちゃったっスねー、火神っち」
黄瀬くんが空を見上げながら、さっぱりとした様子でそう言った。
お別れは沢山済ませたから、もう寂しい気持ちで一杯になることはないけど、それでもやっぱり少し寂しい。
「これであいつとはやることなくなっちゃったねー。別にいーけどー」
「そうでもないだろう」
「えー?ミドチン、何言ってんの?」
「それはこちらの台詞なのだよ。オレ達はこれからもずっと、バスケをやっていくのだろう?」
そう言って空を見上げているみどっちは、珍しく微笑んでいた。
「緑間の言う通りだ。火神はプレイするステージが変わっただけだ。オレ達がバスケを続けていれば、また戦えるさ」
みどっちと同じように空を見上げる赤司につられて、みんなも顔を上げる。青く澄んだ空。きっと、またどこかでかがみんと、みんながプレイする姿が見られるだろうと、そんな予感がしていた。
「オレは行くぜ、アメリカ」
「えっ?火神っちに会いにっスか?!」
「ちげーよバカ!オレもNBAでバスケするっつってんだよ!」
「えーっ?!いつっスか?!」
「まだわかんねーけど、近いうちぜってー行く!」
やだ、青峰がかがみん追いかけようとしてる…青火ありがとう…。
ていうかね。
「かがみんが通う学校、うちの両親が住んでる場所の近くだった件について」
「「はあ?!」」
「あー、そういえば優姫ちゃんのご両親、海外に住んでるんだったね」
「そういえば、水瓶は英語が達者だったな……」
「みどっち目に『意外だが』って感情が見えてるからね?!」
「さて、見送りも済んだことだ。オレ達も帰ろうか」
「あー、帰りにもっかいお土産屋さんに寄っていい?この空港限定お菓子超美味しい」
相変わらずみんな自由で楽しそうだ。でもこの風景はきっと、黒子っちとかがみんがいなかった見られなかったものだ。これから、誠凛のみんなは私達よりもずっと寂しい思いと戦いながらバスケをしていくのだろう。それでもきっと、前を向いて進んでいく。
そしていつか、またかがみんとバスケをするのだ。
「見送りは終わったのか」
空港の外に出て黄瀬くん達と別れると、近くで待っていたらしくまゆゆがラノベを片手に塀にもたれていた。それと樋口先輩も来てくれてる。これから赤司と私は京都へ戻らなければいけないけれど、少し時間があるからと集合しようと声をかけたのだ。
「終わったよー!青火最高ですな!!」
「優姫の変態発言はともかく、これからどうしますか?」
「……赤司」
「残念ですが、恋人同士の時間はまた今度でお願いしますね、黛さん」
にこり、と赤司が笑うので、私とまゆゆはいたたまれない。赤司一体どこまで知っているのか……ま、まゆゆが私にキスしたの知ってるのでは?!ひい友達に知られるの恥ずかしすぎて穴掘って潜りたくなる!!
樋口先輩も微笑まないでください!えっまさか樋口先輩にもあれやこれやバレてるの?!
わたわたしていたら、まゆゆに「行動がうるさい」といってチョップされた。
「それじゃ、どっかで飯でも食うか?」
「そうですね」
まゆゆの提案に、赤司も樋口先輩も頷く。それから樋口先輩が携帯で良さそうなお店を検索してくれて、赤司も地図を開いて私達を誘導してくれる。
それから、まゆゆが私に手を向けた。
(あの日私が差し出した手とは違って、私を引っ張ってくれようとしている、手だ)
「優姫」
名前を呼ばれて、私はその手を握り返した。少し恥ずかしいけど、まゆゆと手を繋いでるのが嬉しくて思わず笑みが零れる。そんな私を見て、呆れたような溜息を吐きながら、まゆゆも微笑んでいた。
「卒業したら、ルームシェアだからね!それから」
「クリスマスもバレンタインも初詣も、イベントは一緒に、だろ」
「うん!卒業するまでたくさん電話するし、たくさん会いに行くね!それから!」
それから、やりたいこと、話したいこと、とにかくたくさんあるけれど。たくさん時間はあるのだから、焦らず、これからゆっくりとしていけばいい。側には、まゆゆがいてくれるのだから。
そう考えたら嬉しくて、これからの楽しみに胸を弾ませながら、まゆゆの手を引っ張った。
「これからも一緒に、バスケしよーよ!」
まゆゆと一緒に体育館に到着すると、黄瀬くんが手を振ってこっちだと教えてくれた。どうやら祝勝会は体育館の中の一角、自販機の前で行われているらしい。景虎さんはお酒を飲んでいるようで、真っ赤な顔で勝利を喜んでいた。
「はい優姫ちゃん!お菓子も沢山あるっスよー!」
「ありがと黄瀬くん!ほいまゆゆ!まゆゆおつかれー!」
「いやオレ何もしてねえし。まあもらえるもんはもらうけど。って痛ぇ」
いきなり声を上げたまゆゆに、黄瀬くんと二人驚いて目を見張る。見れば、葉山先輩がまゆゆの脇腹にチョップを入れたようだ。その隣にずらりと並ぶ洛山バスケ部の面々、そして今吉先輩達スターキー。
「黛サーン?オレらに言うことあるんじゃないのー?」
「ええ!もちろんあるわよね、黛サン?!」
「赤司がお膳立てしたんだ、ないわけねえよな?」
「おいやめろ、引きずるな。オレをどこに連れていく気だ。言う、言うから運ぶな根武谷」
「堪忍なあ、優姫ちゃん。ちょこっと黛借りるで」
「あ、はい。出来れば無傷で返してくださいね……あっでもまゆゆ総受け展開はウェルカムどんとこいなのでその場合は動画撮影よろしくお願いします!!」
「優姫お前覚えてろよ!」
と、まゆゆの捨て台詞が綺麗に決まり、そのまま根武谷先輩に運ばれていく。今吉さんがめちゃくちゃ楽しそうにしてたけど、本当に無傷で返してくださいね……。
残ったのは赤司と黄瀬くんだけで、少し楽しそうに見送っていた赤司が私に缶ジュースを向ける。
「何はともあれ、お疲れ様。一週間とはいえ、なかなか貴重な体験になったな」
「お疲れ様ー!ほんとそれ!ジャバウォックはほんと腹立ったけど、キセキの世代にかがみんと黒子っちが同じチームで戦うのってすっごく興奮した!今回が特別だったってのはわかるけどさ、もう一回くらいみんなで試合したいよねー!」
「ああ、そうだね。ところで優姫、黛さんとはきちんと話ができたかい?」
「ぐほう!!えっ、はい?!ななな何を急に?!」
突然まゆゆのことを聞いてくるものだから、漫画みたいにあわあわと狼狽えてしまった。私の反応が予想通りだったらしく、赤司は肩を揺らして笑っていた。
「なんとかなったようで良かったよ。それじゃあ、それも含めて祝おうか?」
「やーめーてー!まゆゆの方はいいから、はい!ヴォーパルソーズおめでとーっ!!おらおらー!飲め赤司ー!私のジュースが飲めんのかーっ!!」
「将来酒を飲むときは絶対オレを誘うなよ」
「あたたたた!関節技のキレが良い!!」
赤司に関節技を決められている私を見て、高尾がまた爆笑していてさらには青峰まで笑っていたので二人には跳び蹴りすると決めました。
「そういえば、さっき誠凛の奴らどっか行ったけど、なんだろーねー」
のそりと背後にやってきた敦は、そう言って私の頭に腕を乗せてポッキーを囓っている。そう言われると、たしかに誠凛の人達だけ姿を消していた。話を聞いていたみどっちが「黒子が来て外につれていったのだよ」と教えてくれた。
「黒子っちが?なんだろ?」
「ふむ、気になるし、みんなで覗きに行こうか」
「えっ赤司っちがそんなこと言うなんて!」
「驚いたのだよ…」
「どーせ優姫の悪影響でしょー?」
「ぜってーそれだわ」
「優姫ちゃんの影響で変わる赤司君は未知数すぎてデータ更新できないんだよね。うん、すごいよ優姫ちゃん!」
「貶されてるのか褒められてるのかどっちなの?!いやこれ貶されてるほうだな?!あと未だ爆笑してる高尾!前から思ってたけど高尾の笑いの沸点低すぎない?!」
外に出ると、すぐに誠凛のみんなの姿が見えた。けど、どこか神妙な空気を感じて、声をかけずに様子をうかがう。
「お前はそれでいいのかよ!黒子!」
「はい。火神君が望むなら、それを全力で応援すべきだと思います」
黒子っちの声が、少し震えていた。
「本当にすんません。でも、自分の夢やみんなのこと、考えて、朝まで考えて……それでもオレはアメリカに行ってみたい……!!」
かがみんが、アメリカに行く?
NBAを目指すために、アメリカの高校に行く、という話のようだった。
ふと思い出したのは、一週間の練習の合間に見た、かがみんのキセキの世代や黒子っちを見つめる視線。あれは、別れを思ってみんなを見ていたのか。寂しいと、思ってくれていたのだろうか。
「そういうことだったんスかー!」
黄瀬くんが声をかけながら、かがみんの所へ近づいていった。それに連なるように赤司達も出て行く。みんなの目は、寂しいと同時に、どこか熱い思いを秘めているように感じた。
「どーりでなんか様子が変だと思ったんスよねー」
「ふーん、火神、アメリカ行くのー」
「つーかなんでお前なんだよ!実力的にはオレだろうーが!」
「ちょっと待て青峰。いつからお前が一番になったのだよ」
わーわーと騒ぐみどっちと青峰を横目に、赤司は思わずといったように笑みを漏らし、かがみんの前へ立った。
「みんな色々思うところはあるだろうが、オレ達も応援している。頑張れよ、火神」
「!赤司……」
かがみんが驚いたように息をのむ。赤司は相変わらず笑みを浮かべたまま。
「少し寂しくもある。それだけお前は強敵で、お前との試合は思い出深いものだった。出会えて良かった。火神大我。お前はオレ達にとって最高のライバルで、最高の友だ」
赤司の声は、穏やかで嬉しそうだった。かがみんが視線を、キセキの世代へと向ける。黄瀬くん、青峰、みどっち、敦、それからさつきちゃんと、私。
かがみんと目が合って、私は初めて会った日のことを思い出した。
去年のWCで開会式に間に合わず、迷子になっていた時、かがみんとぶつかった。鳥の羽根がかがみんの背後を舞っていて、天使かと思った。
『私は洛山のトレーナーしてます、一年の水瓶優姫です!』
『オレは誠凛の一年、火神大我だ、です。洛山ってことは、キセキの世代がいるとこだよな?そいつにぶっ倒すって伝えといてくれよ!』
『はーーーバスケ馬鹿な天使とかもーーーーー!!え?ていうか火神くん打倒キセキの世代?つまり、レギュラー?』
『おう!当たってもぜってー負けねえからな!』
『こっちこそ!』
二人して、顔を合わせて笑ったのを覚えている。
そしてうちとの決勝戦。赤司を負かし、私達を追い詰めたあの試合は、これから先も忘れることはない。
かがみんと、これからの大会で戦えることはなくなるけど、それでも絆が消えるわけじゃない。バスケをしていれば、いつかどこかで出会える。
だから、寂しいけど、私も見送るよ。
「かがみん、私もめちゃくちゃ応援してるからね!!頑張れ!かがみん!!」
「…おう!ありがとな!」
「アメリカで襲われそうになったら『オレには青峰って彼氏がいる』ってちゃんと言うんだよっていたたたた青峰やめてポニテ引っ張らないでちーぎーれーるーっ!!」
「こんな時まで変なこと言ってんじゃねえよこの変態女!!」
「そうですよ水瓶さん。彼氏なら青峰君より僕の方がいいと思います」
「「テツ(黒子っち)?!」」
フフフと黒子っちが悪い顔で笑っている。おお、魔王がここにもいたなんて。っていたいいたい魔王の赤司よ、私の頭を鷲掴みにするのやめてください!!
「オレ達からの餞別として、ひとつ提案があるんだが」
と、私の頭を離して、かがみん含め誠凛のみんなへ赤司が向き直る。
「オレ達は今日、火神にとって日本最後の試合をプレイできた。だが、誠凛としてはそれで終わるのは寂しいのではないかと思ってね。今からもう一試合しないか?誠凛対オレ達、キセキの世代で」
とても良い笑顔だった。うん、驚くよね誠凛の皆さん。でもこれが赤司です。慣れてください。
案の定全員が驚きの声を上げた。
「ああ、大丈夫。ユニフォームはもう用意してもらっているから」
「どんだけ未来視えてんの赤司?!」
誠凛の小金井さんのツッコミのキレが良い。
けど、みんなやる気満々の表情だ。ここは私も引っ込んでいる場合ではない。
「はいはい!!最後の試合なら、私も出たいです!!キセキ側で!!」
「もちろんっスよ!優姫ちゃんのスリーであっと言わせるっス!」
「黄瀬くん……!!ファンクラブ入るから申請するところ教えて……!!」
「誠凛の皆さんが良ければ、優姫も試合に出そうと思いますが良いですか?」
もちろん、と全員が頷いてくれた。
ワクワクしながら、用意して貰ったユニフォームを私も着る。かがみんや黒子っち、日向さんは何度か試合形式で一緒にバスケしたことがあるけど、他のメンバーとは初めてだから、とても楽しみだ。コートの外では、いつの間にか戻ってきた各学校のみんな、スターキーのみんなも、まゆゆ達も戻ってきていて、楽しそうに私達を見ていた。
そして始まったかがみんへの餞別試合、ラストゲームはすごく楽しくて、きっと何年経っても色あせない思い出になった。
――――…
季節は巡り、あっという間にかがみんの旅立ちの日がやってきた。
空港の入り口で、誠凛のみんなといるかがみんを見つけて声をかけると、かがみんがこちらへと走ってきてくれた。
誰がいうでもなく集まったキセキの世代、それから私とさつきちゃん。私達を見て、かがみんは嬉しそうに笑った。
「来てくれたのか!」
「もちろん。向こうでも頑張れよ、火神」
「ああ!お前らも、元気でな」
赤司を始め、各々不器用ながらも声をかけていく。黄瀬くんはいつもの調子で寂しくなるっスー!と飛びついて、何故か青峰に叩かれていた。私とさつきちゃんも、一緒に作ったお菓子を飛行機の中で食べてと手渡す。一瞬全員が固まったが、私味見したから!と力説したらどうにか落ち着いた。さつきちゃんの手料理の殺傷能力、キセキの世代のトラウマになってやしないか……。
かがみんはもう一度ありがとうと言って、手を振って行ってしまった。
見送りのできる空港の屋上へ行き、ベンチに座ってしばらく待っていると、飛行機が空を飛んでいく。きっと、あれにかがみんは乗っているのだろう。
「はー…本当に行っちゃったっスねー、火神っち」
黄瀬くんが空を見上げながら、さっぱりとした様子でそう言った。
お別れは沢山済ませたから、もう寂しい気持ちで一杯になることはないけど、それでもやっぱり少し寂しい。
「これであいつとはやることなくなっちゃったねー。別にいーけどー」
「そうでもないだろう」
「えー?ミドチン、何言ってんの?」
「それはこちらの台詞なのだよ。オレ達はこれからもずっと、バスケをやっていくのだろう?」
そう言って空を見上げているみどっちは、珍しく微笑んでいた。
「緑間の言う通りだ。火神はプレイするステージが変わっただけだ。オレ達がバスケを続けていれば、また戦えるさ」
みどっちと同じように空を見上げる赤司につられて、みんなも顔を上げる。青く澄んだ空。きっと、またどこかでかがみんと、みんながプレイする姿が見られるだろうと、そんな予感がしていた。
「オレは行くぜ、アメリカ」
「えっ?火神っちに会いにっスか?!」
「ちげーよバカ!オレもNBAでバスケするっつってんだよ!」
「えーっ?!いつっスか?!」
「まだわかんねーけど、近いうちぜってー行く!」
やだ、青峰がかがみん追いかけようとしてる…青火ありがとう…。
ていうかね。
「かがみんが通う学校、うちの両親が住んでる場所の近くだった件について」
「「はあ?!」」
「あー、そういえば優姫ちゃんのご両親、海外に住んでるんだったね」
「そういえば、水瓶は英語が達者だったな……」
「みどっち目に『意外だが』って感情が見えてるからね?!」
「さて、見送りも済んだことだ。オレ達も帰ろうか」
「あー、帰りにもっかいお土産屋さんに寄っていい?この空港限定お菓子超美味しい」
相変わらずみんな自由で楽しそうだ。でもこの風景はきっと、黒子っちとかがみんがいなかった見られなかったものだ。これから、誠凛のみんなは私達よりもずっと寂しい思いと戦いながらバスケをしていくのだろう。それでもきっと、前を向いて進んでいく。
そしていつか、またかがみんとバスケをするのだ。
「見送りは終わったのか」
空港の外に出て黄瀬くん達と別れると、近くで待っていたらしくまゆゆがラノベを片手に塀にもたれていた。それと樋口先輩も来てくれてる。これから赤司と私は京都へ戻らなければいけないけれど、少し時間があるからと集合しようと声をかけたのだ。
「終わったよー!青火最高ですな!!」
「優姫の変態発言はともかく、これからどうしますか?」
「……赤司」
「残念ですが、恋人同士の時間はまた今度でお願いしますね、黛さん」
にこり、と赤司が笑うので、私とまゆゆはいたたまれない。赤司一体どこまで知っているのか……ま、まゆゆが私にキスしたの知ってるのでは?!ひい友達に知られるの恥ずかしすぎて穴掘って潜りたくなる!!
樋口先輩も微笑まないでください!えっまさか樋口先輩にもあれやこれやバレてるの?!
わたわたしていたら、まゆゆに「行動がうるさい」といってチョップされた。
「それじゃ、どっかで飯でも食うか?」
「そうですね」
まゆゆの提案に、赤司も樋口先輩も頷く。それから樋口先輩が携帯で良さそうなお店を検索してくれて、赤司も地図を開いて私達を誘導してくれる。
それから、まゆゆが私に手を向けた。
(あの日私が差し出した手とは違って、私を引っ張ってくれようとしている、手だ)
「優姫」
名前を呼ばれて、私はその手を握り返した。少し恥ずかしいけど、まゆゆと手を繋いでるのが嬉しくて思わず笑みが零れる。そんな私を見て、呆れたような溜息を吐きながら、まゆゆも微笑んでいた。
「卒業したら、ルームシェアだからね!それから」
「クリスマスもバレンタインも初詣も、イベントは一緒に、だろ」
「うん!卒業するまでたくさん電話するし、たくさん会いに行くね!それから!」
それから、やりたいこと、話したいこと、とにかくたくさんあるけれど。たくさん時間はあるのだから、焦らず、これからゆっくりとしていけばいい。側には、まゆゆがいてくれるのだから。
そう考えたら嬉しくて、これからの楽しみに胸を弾ませながら、まゆゆの手を引っ張った。
「これからも一緒に、バスケしよーよ!」
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