影法師にアンコール!(krk)※抜け番あり
DREAM
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「まるで、強敵に挑むことを心から楽しむ、火神君そっくりの顔をしています」
試合が再開して、シルバーに何度も向かっていく敦は、これまで見てきた試合の中で一番楽しそうな顔をしていた。全力で挑めることがきっとこれまでなくて、知らないうちに力をセーブしていたのではないか、と黄瀬くんが言う。だから、今初めて心置きなく全力を出せることの喜びがあるんじゃないか、と。
(天才と呼ばれた敦でも、そういう悩みがあったんだなあ)
敦だけじゃなくて、きっとみんなそうやって悩みを抱えている。倒さないといけない相手だけど、それでも敦に全力を出させてくれたことは少しだけ、ほんの少しだけ感謝してやってもいいかな!それに、敦が負けたりするわけない。私はそれを、信じている。
「いっけーっ!敦ーっ!!」
連続ブロックが決まり、流れは完全にうちにきている。敦が頑張っているからだ。
赤司からパスされたボールを、敦はどこか楽しそうにドリブルしてゴールへ向かって走っている。これが決まれば、また点差を縮めることができる。
敦がボールを掴んで、リングへたたき込んだ。やった、と喜んだのもつかの間、敦がコートに倒れ込んでいく姿が、やけにスローに感じられた。
「うそっ!むっくん?!」
さつきちゃんが悲鳴に似た声を上げた。同時に、審判のレフェリーストップの宣言が入る
倒れている敦を、日向さんと若松さんがベンチへと移動させ、相田さんが敦が押さえていた腕を丁寧に看ていく。
「……ダメだ、まず間違いなく折れてやがる」
その言葉に、かがみんがシルバーをにらみ付けた。あいつらに分かるように、英語で怒鳴りつける。
「ざけんなッ!!わざとやりやがったなッ!!」
敦がダンクを決めた後。ブロックに来たシルバーの勢いよく振るわれた腕が敦の顔に当たり、コートに叩きつけられるように転倒したのだ。身体を支えようとして地面に手をついたのだけど、支えきれなかった腕はきっとその時折れたのだろう。敦が痛みに歯を食いしばっている。
「事故だ、事故。これぐらいのクラッシュ、ゴール下じゃよくあるだろーが」
シルバーは笑っていた。たとえ事故だったとしても、相手にケガをさせて、笑っていたのだ。思わず握った拳が、怒りで震えていた。
分かっている。ここで怒鳴りつけたところで、事故としか処理されない。けど、悔しいじゃないか。だって敦が、頑張っていたのに。仲間のために、あいつらに勝つために、全力で頑張っていたのに。
「……はー、もー」
頭上で敦の大きな溜息が聞こえたと思ったら、私の頭をケガをしていない方の手でガシッと掴んできたではないか。え、何がどうなった。
「ってあたたたた!ストップ敦ステイ敦!!何故私にアイアンクロー?!あっわりと本気の力だこれ!!」
「んー、死んでも勝つって言ったのに、ヘマしちゃった自分に苛立ったっていうか」
「ヘマ?!んなわけないじゃん!!敦は何も悪くない!!悪いのは向こうなのに、なのに何で敦が責任感じるようなこと言うのさッ!!それなら、それならそもそも私が」
「えい」
「あたたたたた!!えっもっと本気の力になってる?!割れる割れちゃううううう!!」
「それじゃ、オレは下がるけど。みんなあいつらマジでぼこぼこにしてよね」
敦が私の頭を鷲掴みにしたまま、全員に振り返る。敦と交代でコートに入る黒子っちが、みんなを代表して頷いた。
「もちろんです。キレてるのは僕も一緒ですから。必ず勝ちます」
そもそも私が。
それに続く言葉は、一体何だろうか。そもそも私が『啖呵を切ったのが悪い』。そもそも私が『あいつらに良いようにされればこんなことには』。何を入れても、腹立たしいことこの上ない。
それは敦も同じだったのだろう。本当はすぐにでも飛び出してシルバーを殴りに行きたかっただろう。けど、ケガをした自身の姿を見て、泣くのを我慢して拳を握り震えている友達を見て、自分のすべきことは暴力ではないのだと思い直したのだ。
(天帝の眼では、ナッシュは止められない)
ゾーンに入った大輝と火神が、幻のシックスマンとしてテツヤが、アウトサイドでは真太郎が戦っている。これまでに、涼太と敦が流れを変える戦いをした。それでも、あいつらを止めるにはあと一歩が足りない。
(だが、まだ勝機はある)
四点差にまで追い詰めた時、ナッシュの動きが変わった。ベンチにいたときに、優姫と相田さんが分析していた、バスケエリートの動き。
「変えたというには、あまりにも馴染んでいる。おそらくこれが本来の姿。全てが完全無欠のナッシュ・ゴールドJrの全力だろう」
「だからってビビってるヒマなんざねえだろ」
真太郎の言葉にかぶせる勢いで大輝が言葉を挟む。先ほどナッシュにゴールを許してしまったリングの下、転がるボールを拾い、大輝は言う。敦と、同じ言葉を。
「どれだけ強かろーが、んなもんあのカス共に負けていい理由になるかよ」
そうだ、負けて良いわけがない。相手が強いのなら、こちらも強くなればいい。今の僕には、それが出来る。
いや、きっと。
僕はこのために、今まで消えずにいたのだ。
「それしか、手はないのか」
意識の奥へと潜っていたもう一人の僕が、そう言った。どうやらこれから僕がどうするのか、わかっているようだ。それもそうか。僕も、オレも、どちらも同じ赤司なのだから。
「このままでは負ける。だが、天帝の眼をあるべき形へ戻せば、究極のパスを出すコート視野と融合すれば、必ずナッシュの悪魔の眼を超えられる。だから僕は、君に全てを返し、完全な一人に戻そう」
「君が、君だったから得られたものだってあったはずだ…!オレが受け取れるものじゃないだろう…!」
主人格の僕が絞り出すような声でそう言うものだから、兄のような存在に思えた彼もまだ子供なのだな、と思わず笑みが零れた。
「気にしすぎだ。彼らはそんな区別はしない。……だが、そうだな。優姫に会えなくなると思うと、少し胸が痛いな」
『勝敗が決まってる勝負なんてないですー!今日勝てたのはみんながこれまで練習頑張ったからでしょーが!』
『よっしゃーっ!!赤司から三ツ星いただきましたーっ!!』
『私の知ってる赤司はねー、私除く女子に紳士で、自分にも他人にも厳しくて、バスケ馬鹿で、んで、面倒見が良い赤司君です』
『赤司家の力で何する気?!赤司がそれ言うとマジっぽいからやめよ?!』
『赤司は、今楽しい?』
『あの時私をバスケ部に誘ってくれてありがとう。ずっと、言いたかったんだ』
『おはよう、赤司』
思い出がハラハラと、舞っている。きっとこの先、赤司征十郎の辿る人生において、彼女のような人物は二度と現れないだろう。今までもこれからも、彼女の存在は唯一であり、大切な……。
だからこそだ。
僕は、彼女を嬉し泣き以外で泣かせたくないんだ。
「優姫には笑っていてほしいと、ずっとそう思っていた」
僕の決意を聞いて、もう一人の僕がようやく顔を上げた。
「最後にみんなとプレイできて、良かった。大きすぎる餞別だ」
一つ息をのんで、赤司征十郎がまっすぐ前を向く。
合わせていた背中を、そっと離す。僕の前には、眩い光が見えている。
「ありがとう」
最後に見えた光の先には、きっと微笑む彼女がいた。
「ナッシュ」
ドリブルをするナッシュに、分かるように英語で話しかける。
「お前は敵味方全員の未来が視える。だが一つ欠点を挙げるなら、それしかやっていない」
「なんだと」
「オレならもっと眼を使いこなす。相手も未来が視えるならば、全体の動きから最善のパターンを察知して、さらに先の未来まで視る!!」
オレを抜こうとしたナッシュのボールを弾く。驚愕に目を見開くナッシュ達を尻目にスティールしたボールを持って走り出す。走るオレの前に、ニックがブロックに来るが、もう王手だ。
「なっ?!」
「バックパス!まさか!」
そのまさかだ。いつでもスリーが打てるようにしていた緑間に回したボールは、緑間の手からリングへと弧を描いて飛んでいく。スパンッと気持ちの良い音を立てて入ったゴールによって、点差は1点差。緑間が片腕を上げて喜びを表している。
「てめえ、まさかオレと同じ…!」
これ以上語ることはない。オレはナッシュの言葉を無視してコートを走る。そんなオレに、黒子が駆け寄ってきた。
「赤司君、もしかして、今の赤司君は」
「その話はあとだ。今は先にやらなければならないことがある」
「…そうですね」
キッと、黒子とオレは前を睨む。前方にいるナッシュ達を見て、オレは声を張り上げた。
「勝つぞ必ず!!最後の勝負だッ!!」
「おうッ!!」
当然だとチーム全員が頷いて駆け出す。残り十秒。点差は1点差。
だがボールはジャバウォックの中で回り続ける。このまま逃げ切るつもりのようだ。
残り7秒。ナッシュの手にボールが渡る。勝ち誇ったように笑っている。ナッシュに距離を詰めるも、大きく下がられた時、ほんの一瞬焦りを感じた。だが、頭をよぎる洛山のチームメイト達に叱咤された気がした。諦めるのかと。
残り5秒。オレは視た。ここしかない。ここなら、幻の一手が入れられる。その場にナッシュを止まらせた時、その手が視えた。
残り4秒。黒子がナッシュの背後からボールを弾いた。
「行け黒子ッ!!」
すでにゴールへ向かって駆け出す背中に叫んだ。オレの横を、青峰と火神が最後の力を振り絞って駆け抜けていく。
残り2秒。
「負けるもんかッ!!僕達は絶対に勝つ!!」
「てめえごときッ、一瞬で潰してやるッ!!」
「一人じゃねえよッ!!勘違いすんなッ!!」
残り1秒。
「勝つのはオレ達だッ!!」
「「くたばれジャバウォックッ!!」」
決めろと叫んだ声は、ナッシュのブロックの上からゴールリンクにたたき込んだ二人のダンクの音にかき消された。
タイマーがゼロを示すと同時に点数が変わる。
「試合終了!!ヴォーパルソーズの勝利―――ッ!!」
MCの勝利宣言が館内に響けば、客席から歓喜の声が上がった。紙吹雪が舞っている。
「いよっしゃあああああッ!!」
青峰と火神が拳を握り、空へと突き上げた。同じく黒子も拳を握って喜びを表している。緑間も眼鏡を上げて微笑み、ベンチからは笑顔で黄瀬と紫原が駆け寄ってくる。その後ろで、声を上げず涙を流しながらオレ達を見ていた。オレと目が合うと、くしゃくしゃに笑う。ああ、去年のWCを思い出す。去年も、コートに倒れ込む黛サンを見て立ち尽くしていたね。
勝ったんだよ、水瓶。オレ達が勝ったんだ。本当にバスケを好きな人達に勝てるわけがないという君の言葉が本当だと、示せたんだよ。
だからさっさと。
「オレ達の勝ちだ、優姫ッ!!」
「ッ!!うっ、うわああああんっ!!よかった、よかったああああっ!!」
我慢しないで泣いて喜べば良いんだよ。
全力で飛びついてきた優姫を抱き留めて、そのままコートに倒れ込んだ。
優姫とようやく名前で呼んだオレを見て、紫原が嬉しそうに笑っていたことに気付かないまま、オレ達は勝利を喜んで泣いて笑っていた。
試合が再開して、シルバーに何度も向かっていく敦は、これまで見てきた試合の中で一番楽しそうな顔をしていた。全力で挑めることがきっとこれまでなくて、知らないうちに力をセーブしていたのではないか、と黄瀬くんが言う。だから、今初めて心置きなく全力を出せることの喜びがあるんじゃないか、と。
(天才と呼ばれた敦でも、そういう悩みがあったんだなあ)
敦だけじゃなくて、きっとみんなそうやって悩みを抱えている。倒さないといけない相手だけど、それでも敦に全力を出させてくれたことは少しだけ、ほんの少しだけ感謝してやってもいいかな!それに、敦が負けたりするわけない。私はそれを、信じている。
「いっけーっ!敦ーっ!!」
連続ブロックが決まり、流れは完全にうちにきている。敦が頑張っているからだ。
赤司からパスされたボールを、敦はどこか楽しそうにドリブルしてゴールへ向かって走っている。これが決まれば、また点差を縮めることができる。
敦がボールを掴んで、リングへたたき込んだ。やった、と喜んだのもつかの間、敦がコートに倒れ込んでいく姿が、やけにスローに感じられた。
「うそっ!むっくん?!」
さつきちゃんが悲鳴に似た声を上げた。同時に、審判のレフェリーストップの宣言が入る
倒れている敦を、日向さんと若松さんがベンチへと移動させ、相田さんが敦が押さえていた腕を丁寧に看ていく。
「……ダメだ、まず間違いなく折れてやがる」
その言葉に、かがみんがシルバーをにらみ付けた。あいつらに分かるように、英語で怒鳴りつける。
「ざけんなッ!!わざとやりやがったなッ!!」
敦がダンクを決めた後。ブロックに来たシルバーの勢いよく振るわれた腕が敦の顔に当たり、コートに叩きつけられるように転倒したのだ。身体を支えようとして地面に手をついたのだけど、支えきれなかった腕はきっとその時折れたのだろう。敦が痛みに歯を食いしばっている。
「事故だ、事故。これぐらいのクラッシュ、ゴール下じゃよくあるだろーが」
シルバーは笑っていた。たとえ事故だったとしても、相手にケガをさせて、笑っていたのだ。思わず握った拳が、怒りで震えていた。
分かっている。ここで怒鳴りつけたところで、事故としか処理されない。けど、悔しいじゃないか。だって敦が、頑張っていたのに。仲間のために、あいつらに勝つために、全力で頑張っていたのに。
「……はー、もー」
頭上で敦の大きな溜息が聞こえたと思ったら、私の頭をケガをしていない方の手でガシッと掴んできたではないか。え、何がどうなった。
「ってあたたたた!ストップ敦ステイ敦!!何故私にアイアンクロー?!あっわりと本気の力だこれ!!」
「んー、死んでも勝つって言ったのに、ヘマしちゃった自分に苛立ったっていうか」
「ヘマ?!んなわけないじゃん!!敦は何も悪くない!!悪いのは向こうなのに、なのに何で敦が責任感じるようなこと言うのさッ!!それなら、それならそもそも私が」
「えい」
「あたたたたた!!えっもっと本気の力になってる?!割れる割れちゃううううう!!」
「それじゃ、オレは下がるけど。みんなあいつらマジでぼこぼこにしてよね」
敦が私の頭を鷲掴みにしたまま、全員に振り返る。敦と交代でコートに入る黒子っちが、みんなを代表して頷いた。
「もちろんです。キレてるのは僕も一緒ですから。必ず勝ちます」
そもそも私が。
それに続く言葉は、一体何だろうか。そもそも私が『啖呵を切ったのが悪い』。そもそも私が『あいつらに良いようにされればこんなことには』。何を入れても、腹立たしいことこの上ない。
それは敦も同じだったのだろう。本当はすぐにでも飛び出してシルバーを殴りに行きたかっただろう。けど、ケガをした自身の姿を見て、泣くのを我慢して拳を握り震えている友達を見て、自分のすべきことは暴力ではないのだと思い直したのだ。
(天帝の眼では、ナッシュは止められない)
ゾーンに入った大輝と火神が、幻のシックスマンとしてテツヤが、アウトサイドでは真太郎が戦っている。これまでに、涼太と敦が流れを変える戦いをした。それでも、あいつらを止めるにはあと一歩が足りない。
(だが、まだ勝機はある)
四点差にまで追い詰めた時、ナッシュの動きが変わった。ベンチにいたときに、優姫と相田さんが分析していた、バスケエリートの動き。
「変えたというには、あまりにも馴染んでいる。おそらくこれが本来の姿。全てが完全無欠のナッシュ・ゴールドJrの全力だろう」
「だからってビビってるヒマなんざねえだろ」
真太郎の言葉にかぶせる勢いで大輝が言葉を挟む。先ほどナッシュにゴールを許してしまったリングの下、転がるボールを拾い、大輝は言う。敦と、同じ言葉を。
「どれだけ強かろーが、んなもんあのカス共に負けていい理由になるかよ」
そうだ、負けて良いわけがない。相手が強いのなら、こちらも強くなればいい。今の僕には、それが出来る。
いや、きっと。
僕はこのために、今まで消えずにいたのだ。
「それしか、手はないのか」
意識の奥へと潜っていたもう一人の僕が、そう言った。どうやらこれから僕がどうするのか、わかっているようだ。それもそうか。僕も、オレも、どちらも同じ赤司なのだから。
「このままでは負ける。だが、天帝の眼をあるべき形へ戻せば、究極のパスを出すコート視野と融合すれば、必ずナッシュの悪魔の眼を超えられる。だから僕は、君に全てを返し、完全な一人に戻そう」
「君が、君だったから得られたものだってあったはずだ…!オレが受け取れるものじゃないだろう…!」
主人格の僕が絞り出すような声でそう言うものだから、兄のような存在に思えた彼もまだ子供なのだな、と思わず笑みが零れた。
「気にしすぎだ。彼らはそんな区別はしない。……だが、そうだな。優姫に会えなくなると思うと、少し胸が痛いな」
『勝敗が決まってる勝負なんてないですー!今日勝てたのはみんながこれまで練習頑張ったからでしょーが!』
『よっしゃーっ!!赤司から三ツ星いただきましたーっ!!』
『私の知ってる赤司はねー、私除く女子に紳士で、自分にも他人にも厳しくて、バスケ馬鹿で、んで、面倒見が良い赤司君です』
『赤司家の力で何する気?!赤司がそれ言うとマジっぽいからやめよ?!』
『赤司は、今楽しい?』
『あの時私をバスケ部に誘ってくれてありがとう。ずっと、言いたかったんだ』
『おはよう、赤司』
思い出がハラハラと、舞っている。きっとこの先、赤司征十郎の辿る人生において、彼女のような人物は二度と現れないだろう。今までもこれからも、彼女の存在は唯一であり、大切な……。
だからこそだ。
僕は、彼女を嬉し泣き以外で泣かせたくないんだ。
「優姫には笑っていてほしいと、ずっとそう思っていた」
僕の決意を聞いて、もう一人の僕がようやく顔を上げた。
「最後にみんなとプレイできて、良かった。大きすぎる餞別だ」
一つ息をのんで、赤司征十郎がまっすぐ前を向く。
合わせていた背中を、そっと離す。僕の前には、眩い光が見えている。
「ありがとう」
最後に見えた光の先には、きっと微笑む彼女がいた。
「ナッシュ」
ドリブルをするナッシュに、分かるように英語で話しかける。
「お前は敵味方全員の未来が視える。だが一つ欠点を挙げるなら、それしかやっていない」
「なんだと」
「オレならもっと眼を使いこなす。相手も未来が視えるならば、全体の動きから最善のパターンを察知して、さらに先の未来まで視る!!」
オレを抜こうとしたナッシュのボールを弾く。驚愕に目を見開くナッシュ達を尻目にスティールしたボールを持って走り出す。走るオレの前に、ニックがブロックに来るが、もう王手だ。
「なっ?!」
「バックパス!まさか!」
そのまさかだ。いつでもスリーが打てるようにしていた緑間に回したボールは、緑間の手からリングへと弧を描いて飛んでいく。スパンッと気持ちの良い音を立てて入ったゴールによって、点差は1点差。緑間が片腕を上げて喜びを表している。
「てめえ、まさかオレと同じ…!」
これ以上語ることはない。オレはナッシュの言葉を無視してコートを走る。そんなオレに、黒子が駆け寄ってきた。
「赤司君、もしかして、今の赤司君は」
「その話はあとだ。今は先にやらなければならないことがある」
「…そうですね」
キッと、黒子とオレは前を睨む。前方にいるナッシュ達を見て、オレは声を張り上げた。
「勝つぞ必ず!!最後の勝負だッ!!」
「おうッ!!」
当然だとチーム全員が頷いて駆け出す。残り十秒。点差は1点差。
だがボールはジャバウォックの中で回り続ける。このまま逃げ切るつもりのようだ。
残り7秒。ナッシュの手にボールが渡る。勝ち誇ったように笑っている。ナッシュに距離を詰めるも、大きく下がられた時、ほんの一瞬焦りを感じた。だが、頭をよぎる洛山のチームメイト達に叱咤された気がした。諦めるのかと。
残り5秒。オレは視た。ここしかない。ここなら、幻の一手が入れられる。その場にナッシュを止まらせた時、その手が視えた。
残り4秒。黒子がナッシュの背後からボールを弾いた。
「行け黒子ッ!!」
すでにゴールへ向かって駆け出す背中に叫んだ。オレの横を、青峰と火神が最後の力を振り絞って駆け抜けていく。
残り2秒。
「負けるもんかッ!!僕達は絶対に勝つ!!」
「てめえごときッ、一瞬で潰してやるッ!!」
「一人じゃねえよッ!!勘違いすんなッ!!」
残り1秒。
「勝つのはオレ達だッ!!」
「「くたばれジャバウォックッ!!」」
決めろと叫んだ声は、ナッシュのブロックの上からゴールリンクにたたき込んだ二人のダンクの音にかき消された。
タイマーがゼロを示すと同時に点数が変わる。
「試合終了!!ヴォーパルソーズの勝利―――ッ!!」
MCの勝利宣言が館内に響けば、客席から歓喜の声が上がった。紙吹雪が舞っている。
「いよっしゃあああああッ!!」
青峰と火神が拳を握り、空へと突き上げた。同じく黒子も拳を握って喜びを表している。緑間も眼鏡を上げて微笑み、ベンチからは笑顔で黄瀬と紫原が駆け寄ってくる。その後ろで、声を上げず涙を流しながらオレ達を見ていた。オレと目が合うと、くしゃくしゃに笑う。ああ、去年のWCを思い出す。去年も、コートに倒れ込む黛サンを見て立ち尽くしていたね。
勝ったんだよ、水瓶。オレ達が勝ったんだ。本当にバスケを好きな人達に勝てるわけがないという君の言葉が本当だと、示せたんだよ。
だからさっさと。
「オレ達の勝ちだ、優姫ッ!!」
「ッ!!うっ、うわああああんっ!!よかった、よかったああああっ!!」
我慢しないで泣いて喜べば良いんだよ。
全力で飛びついてきた優姫を抱き留めて、そのままコートに倒れ込んだ。
優姫とようやく名前で呼んだオレを見て、紫原が嬉しそうに笑っていたことに気付かないまま、オレ達は勝利を喜んで泣いて笑っていた。